No.510498

お兄ちゃんがシスコン過ぎて困っちゃう妹達オフ会

11月23日がいい兄さんの日らしいので、時代を先取りした一作。
4人の妹と兄が……

中二病でも恋がしたい!
http://www.tinami.com/view/502348   中二病患者だった過去を消し去る13の方法

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2012-11-20 23:47:03 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:4183   閲覧ユーザー数:3933

お兄ちゃんがシスコン過ぎて困っちゃう妹達オフ会

 

 

 

きりりん@兄貴が妹に欲情し過ぎて困る:それじゃあ、いい兄さんの日、11月23日の午後2時に秋葉原のメイド喫茶萌え萌え超キュンで集合ね

AKIKO@お兄ちゃんは世界公認のシスコン:分かりました。当日はお兄ちゃんを連れて秋葉原に馳せ参じますから

レイシス@うちはあんちゃんのもん:クックック。久しぶりにあんちゃんと東京に行くたい。我が闇の半身を見て驚くがよかよ

カンフルリーフ@お兄ちゃんは困った中二病さん:わたしも参加させて頂きますね。今週末はお父さんが外国から帰ってきて東京で過ごす予定なので丁度良かったです

きりりん@兄貴が妹に欲情し過ぎて困る:じゃあ全員23日は参加ということでよろしく

AKIKO@お兄ちゃんは世界公認のシスコン:こちらこそ金曜日はよろしくお願いしますね

レイシス@うちはあんちゃんのもん:クックック。サバトを楽しみに待っているぞ

カンフルリーフ@お兄ちゃんは困った中二病さん:はい。よろしくお願いします

 

 

「兄貴っ! これからオフ会に出陣するわよ。アタシに付いて来なさいっ!」

 11月23日金曜日、晴れ。

 受験を直前に控えた休日。俺、高坂京介(こうさか きょうすけ)はベッドに寝転がりながら少しばかり身体を休めていた。

 日曜日は模擬試験があるので体調を万全にして臨もうとしていたのだ。

 その為に黒猫とあやせと沙織と麻奈実と加奈子の誘いを断ったぐらいのマジモードだった。

 そんな時だった。妹である高坂桐乃(こうさか きりの)が踏ん反り返りながら俺の部屋へと入って来たのは。

「オタクっ娘集まれのオフ会なら、お前1人で行けば良いだろうが」

 ベッドに寝たままお断りを宣言する。

 沙織や黒猫との集まりなら別に俺が足を運ぶ必要もあるまい。女の子同士で仲良く遊んでいれば良い。

「オタクっ娘集まれのオフ会じゃないっての!」

「グホォオオオオオオオォっ!?」

 妹に思い切り肘内を食らった。腹に。

「いきなり何をしやがるっ!?」

「アンタは、妹が初めての集まりになるオフ会に出るのが心配じゃないの?」

 桐乃は暴力を振ったのにも関わらず俺を険しい瞳で睨んでいる。

「どうせ女の子だけのコミュニティなんだろ? そんな心配しなくても……」

「男も来んの」

 妹は唇を尖らせて拗ねた態度を見せた。

「…………分かったよ」

 頭を掻きながら応じる。

 この妹は傲慢不遜な割りに重度の人見知りであったりもする。

 直接会うのが初めてで、しかも男までいるとなれば多分何も話せなくなるのは簡単に予測できる。

 内弁慶なお姫様の快適な社会進出をサポートするのも兄の務めだろう。

「一緒に行ってやるよ」

「本当っ!?」

 桐乃がパッと顔を輝かせた。

「そんなにもアンタがアタシに付いて来たいって言うのなら連れて行ってあげるわよ♪」

「へいへい。お願いするさ」

 妹の機嫌を取るのも兄の務め。

 そう思いながら腹立たしさを奥へと引っ込める。

 

「で、結局何のオフ会なんだ? また、オタク絡みか?」

「さあ?」

 桐乃はすっ呆けてみせた。

「さあってなあ……」

 とても嫌な予感がした。

「もうそろそろ出発しないと集合時間に間に合わなくなるわ。10分で支度なさい」

「幾らなんでも出発まで時間がなさ過ぎだろ!」

 桐乃の奴、俺が断りを入れられないようにギリギリまで情報を隠していやがったな。

「ダサい格好して出たらグーで殴るから」

「出かける想定なんかしてなかったのに無茶言うなぁ~~っ!!」

 結局大慌てで準備させられる羽目になった俺だった。

 つうか今日は一体何の会合なんだ?

 

 

 

「お兄ちゃん。早く早く。こっちだよ~」

 慣れない東京の街だと言うのに妹の富樫樟葉(とがし くずは)は俺の前を小走りに進んでいく。

 全く来たことがない地でもナビゲーションを頼りにポンポン進めてしまうとは……スマホの威力は恐ろしい。

「あんまり急ぐなよ。まだ時間は余裕があるんだから」

「うん。そうなんだけどね」

 いつもは物静かな妹がこんなにもはしゃいでいるのは珍しいことだった。

 何故妹と2人で秋葉原の街を歩くことになったのかその背景を思い出してみる。

 

 

『今度の週末、パパがジャカルタから日本に帰ってくることになったの』

 母さんから父さんの帰国の知らせを聞いたのが今週のはじめ。

『だけど東京の本社に用があるらしくて、こっちには来られないらしいのよ』

『そっか』

 せっかく久しぶりに国内に帰って来るというのに会えないのは少し寂しかった。

『それで、どうせだから私達の方が東京に行こうと思うの。金、土、日と3連休だし、丁度良いでしょ?』

 母さんは顔を輝かせた。

 この仲良し夫婦のことだから、会いたいという気持ちはよく分かった。

『まあ、確かに連休を東京で過ごすのも悪くないな』

 俺が頷く横で妹が控えめに手を挙げた。

『じゃあさ、木曜日の夜に出発するってできないかな? 実は、わたしが参加している女の子同士のコミュニティーで金曜日の昼にオフ会をやるんだけど、参加してみたくて』

『でもお母さん、木曜日に夜勤が入っているからな~。いくらしっかりしててても樟葉ちゃんを1人で先に東京に送るのは心配だしぃ~』

 母さんは意味ありげな瞳で俺を見た。何を期待しているのか丸分かりだった。

『分かったよ。樟葉には俺が一緒に付いて行くよ』

『本当? お兄ちゃん?』

『ああっ』

 いつも世話になっている妹のちょっとした我が侭ぐらい聞いてやるのが兄としての勤めだろう。

 こうして俺は樟葉と2人で東京を先に訪れ、ちょっと心配でもあるのでオフ会にそのまま付いていくことにしたのだった。

 

 

「ここが……聖地秋葉原か」

 秋葉原の街並みを見ているととても複雑な思いに駆られる。

 邪気眼系中二病患者だった時期の俺なら間違いなくこの街を聖地、いや、魔都として崇めただろう。

 路地の1つ1つに魔の気配を感じ取って愉悦していたに違いない。

 しかし、一般人になってからこの街に来てしまうと何とも微妙な気分だ。

 中二病を卒業したのでもうこの街を魔の住民の巣窟と認識することはない。

 むしろ、かつての俺のような残念な存在を大量に生み出すダークマター生産工場な役割を果たしている困った街に見えてしまう。

 けれど、実際にこの街に来てしまうと、もう捨て去った筈の中二病魂を刺激されてしまって困る。

 置かれている商品の数々も、街を行き交う人々も、何ていうか中二病を許容している。そんな安堵感を与えてくれる。

 だが、これが罠であることは重々承知している。地元に戻ればこんな空気は存在しないのだから。

 秋葉原は元重度の中二病患者が出歩くには何とも二律背反的な想いを抱かせる街だった。

 

「お兄ちゃ~ん。ここが集合場所だよ~」

 妹が手を振りながら俺を招いている。

「ああ、今行くって」

 小走りに走って妹に追いつく。

 大通りから中へ入って、様々なパソコンショップが並ぶ通りに面してそのメイド喫茶は存在していた。

「だけどメイド喫茶でオフ会って大丈夫なのか?」

「えっ? 秋葉原って言ったらメイド喫茶なんじゃないの?」

 驚いた表情を見せる樟葉。

 一般人である妹の秋葉原に対する認識というのは俺のそれと随分違うらしい。

「まあ、いいけどな……」

 この街に関しては何が常識で何が非常識なのかよく分からない。

「でも、お兄ちゃんこそ、わたしと一緒にいて良かったの?」

「へっ? 何で?」

 妹の言葉に首を傾げる。

「六花さんや凸守さんにデートに誘われていたんじゃないの?」

「六花や凸守とデート? そんなことがあるわけないだろ」

 首と手を横に振りながら樟葉の言葉を否定しながらちょっと昨日の昼休みのことを思い出してみる。

 

 

『ゆ、ゆゆっ、勇太(ゆうた)ぁっ!』

 昼休み、やたら緊張した表情で小鳥遊六花(たかなし りっか)は俺の元へとやって来た。

『どうしたんだ?』

『あ、ああ、あの、その、勇太、明日からの週末の予定は……?』

 六花は顔を真っ赤にしながらやたらと噛みながら喋りかけてくる。

『ああ、明日からは……』

『よ、よよ、よよよ、良かったら、わ、わわ、わわわ、私とデー……』

『とにかく落ち着いて話してくれ』

 六花の頭を撫でながら落ち着かせる。

『あうぅううううぅ』

 小動物な声を上げる六花。

 落ち着いたら話がようやく聞けるだろう。

 そう考えていた時だった。

 

『とぉ~~~~~~っ!!』

 特撮ヒーローのような声を掛けながら俺の元へと飛んできた1匹のデコ。もとい、1人の背の低いツインテール少女。

『小鳥遊六花の第一のサーヴァント、ミョルニルハンマーの使い手凸守早苗。ここに参上なのデ~スっ!』

 凸守は邪気眼系中二病患者らしく変な名乗りを上げた。

 中二病を卒業した俺としては当然他人のフリをしたい。しかし、このクラスには凸守が俺の関係者であることが広く知られ渡ってしまっている。

 そしてその凸守が俺に向かって話しかけている以上、無視もできなかった。

『で、凸守は何の用だ?』

『ゲッフッフッフ。富樫勇太。お前の今度の連休の予定を教えやがれなのデ~ス』

 やたら偉そうな凸守。

『まさか、凸守っ!』

 一方でそんな凸守を驚きの表情で見る六花。目がすごく怖い。

『女に縁がなく、腐れ一般人で無趣味なお前のことデス。どうせ予定はないに決まっているのデス。だったら、ありがたくもこの凸守がお前とデー……』

『ああ、俺。今日の夜から連休の間はずっと東京に行くから。父さんが久しぶりに東京に帰って来るんでな』

 連休の予定を告げる。

『『えぇえええええええええぇっ!?!?』』

 驚きの声を上げる六花と凸守。

 そんなに東京行きが羨ましいのだろうか?

 まあ、2人共重度の中二病患者だからな。

 秋葉原に賭ける意気込みは分からなくもない。

『そ、そんなぁ……勇太とのデー……がぁ』

『予想外の展開に凸守の頭は真っ白になってしまったのです。で、デー……がぁっ』

 こうして俺は部活仲間の少女2人に週末の予定を伝えたのだった。

『あ~あ。せっかくこの週末は富樫くんの顔を踏み付けて有意義に過ごそうと思ったのにぃ』

『勇太くんの腕枕とっても気持ち良いのに週末会えなくて残念だよ~』

 俺を便利な道具に使おうと考えていた丹生谷とくみん先輩の被害を免れることができてホッとした。

 父さんが日本に帰ってくることに本当に感謝しなくちゃな。

 

 

「うん。思い返してみても六花達が俺をデートに誘うなんて展開は微塵もなかったな」

「そう断言できる所がお兄ちゃんのすごい所だよね」

 樟葉は満面の笑みを浮かべた。

「…………クスッ。わたしのものに手を出そうなんて100年早いよ」

 妹は小声で何かを呟くと満面過ぎる笑みを浮かべた。

 樟葉は重度の邪気眼系中二病患者だった俺に似ず、良い子として中学生活を送っているようで何よりだ。

 

「わっ、見て、お兄ちゃん。すごく綺麗な女の人だよっ!」

 樟葉が驚きの声を出した。

 見れば俺達の目の前を、モデルかと思わせるような超の付く美少女が通過して店内へと入っていく。俺と同世代ぐらいのその子は長い髪に茶が入っており、指にはネールアートが施されている。都会の女の子って感じがすごくした。

「やっぱり東京は違うねぇ~」

 感嘆の声を上げる樟葉。

「確かにあの子は超が付く美人だよ」

 樟葉の頭に手を乗せる。

「でも、俺にとっては樟葉の方が可愛いよ」

 乗せた手を前後に動かして妹の頭を撫でる。

「ほんと、お兄ちゃんって……重度のシスコンだよね♪」

 樟葉は照れ臭そうに笑った。

「ほっとけ」

 照れ臭くてそっぽを向きながら答える。

 

「でも、さっきの綺麗な人、背の高い男の人と一緒にお店の中に入っていったけど……彼氏さんかな?」

 樟葉に言われて美少女の隣にいた、俺より2、3歳年上風の男のことを思い出す。

 背は高いけど……何ていうか地味な顔の男だった。

 超美少女と地味男。この組み合わせは……。

「あの人、あの女の子のお兄さんなんじゃないかな?」

 何となく、そう思った。とても変な回答を言っているとは自分でも思った。

 でも、俺の中ではそれにすごく確信を抱いていた。あの人は妹の保護者だと。

「……なるほど。じゃあ、もしかするとあの人がきりりんさんなのかも知れないなあ」

 樟葉は空を見上げながら呟いた。

「まあ、入ってみれば分かるもんね。お兄ちゃん、そろそろ時間だしお店の中に入るよ」

 樟葉が俺の手を引っ張りながら歩き始める。

「ああ。そうだな」

 妹に合わせて歩き始める。

「ところで今日は何のオフ会なんだ?」

 妹にまだ今日の会合の主旨を聞いていなかった。

「妹達の集まり、だよ」

 俺を振り返りながら樟葉は楽しそうに答えたのだった。

 

 

 

 

「何て言うのか……オフ会ってこんな感じのものなのか?」

 俺、羽瀬川小鷹(はせがわ こだか)は生まれて初めて参加したオフ会の雰囲気に戸惑っていた。

 友達の少ない俺にとっては、隣人部のメンバー以外でこんな風にテーブルを囲むことはほとんどない。

 すごく、緊張していた。

 いや、緊張していたのは俺だけじゃなかった。

 俺と妹の小鳩も合わせて参加者は男が4名、女も4名。

「「「「………………っ」」」」

その内の男4名は全員がぎこちない表情を浮かべている。

「うっひゃぁ~~。小鳩(こばと)ちゃんも樟葉ちゃんもチョー可愛い~♪ お持ち帰ってペロペロしてい~い?」

「特別に許可します。私はお兄ちゃんが絡まない限り恋愛には寛大ですから」

「や~~っ! ううっ、アレを思い出すのじゃぁ」

「わたしも遠慮しておきますね」

 少女4名が短時間ですごく打ち解けているのとは対照的にだ。

 ていうか、テーブルが2つあって、その内の1つのテーブルには女の子が4人集まってワイワイ喋りあっている。もう1つのテーブルには全く見知らぬ男同士が4人ほとんど黙って座っている。この構図はどうかと思う。

 これが妹が参加しているオフ会で、俺は保護者でしかないことを考慮してもだ。

 何故、こんなことになったのか思い出してみる。

 

 

 

 あれは今週始めのことだった。

 その日俺はいつものように隣人部の部室で何となく宿題をしていた。

『ねえねえ。小鷹は今度の連休はどう過ごすつもりなの?』

 部室に入って来た金髪で超巨乳のグラマーにして性格が残念な少女、柏崎星奈(かしわざき せな)が俺に週末の予定を尋ねて来た。

『ああ。週末はな……』

『良かったらさ。また、うちに泊まりに来ない? 小鳩ちゃん連れてさ』

 星奈がニヤッとしながら尋ねてきた。

『お前またそうやって小鳩に対して自制が効かない欲望を抱くから嫌われるんだぞ』

 星奈が小鳩と一緒にお風呂に入って寝たがっていることは明白だった。前科があるのだし。

『確かに小鳩ちゃんはペロペロしたくなるぐらい超天使……だけど』

 星奈は頬を赤くした。

『あたしは、小鷹だけ泊まりに来てくれても良いと思ってるわよ』

『へっ?』

『だっ、だからぁっ! 小鷹が望むなら……あたしの部屋に泊まっていっても良いって言ってるのよぉ~~っ!』

 星奈は天井を向きながら大声で叫んだ。

 

『痴れ者肉めっ! 散り失せろっ!』

 読書をしていた黒いショートカットの少女がハエ叩きをスイングして星奈の顔面を思いっきりぶった。

『きゃぁあああああああぁっ!?』

 星奈は黒髪の少女三日月夜空(みかづき よぞら)の攻撃に耐え切れず大きく吹き飛んだ。

『まったく。この淫乱肉はエロゲーばかりプレイしているせいで脳の中までピンクに染まったか。淫乱な体つきに留まらずゲーム脳とは救い難いな』

 夜空は気絶した星奈の大きな胸を忌々しい表情で睨んでいた。

 まあ、この2人の争いはいつものことなので今更介入しない。

『それよりもだ、小鷹』

 夜空がこちらを向いた。

『何だ?』

『我々もリア充の真似をして、この秋の景色を楽しむ為に温泉旅行に出るのはどうだろうか? 人間嫌いの小鷹の為に2人きりで行くのも構わないぞ』

 盛んに首を縦に振りながら夜空が温泉旅行を勧めてきた。何故か頬は真っ赤だ。

『夜空先輩っ。それじゃあ星奈先輩と何も変わりがありませんよ』

『あにき。入浴中は刺客に狙われやすく危険です。入浴中はお供してお守りいたします』

 後輩の志熊理科(しぐま りか)と楠幸村(くすのき ゆきむら)が夜空の前に立ちはだかる。

『ほぉ~。私の覇道を阻むと?』

『先輩にだけ良い思いはさせませんから』

『夜空のあねご。ここは譲れません』

 激しく視線の火花を散らす3人の少女。

 そんな彼女達に対して俺が今週末の予定を告げようとした時だった。

 

『あんちゃんは今度の連休、ウチと一緒に東京へ行くんよ!』

 小鳩が扉を強く開きながら部室内へと入って来た。

『だから週末はウチがあんちゃんと過ごすんじゃ~~っ!』

 小鳩は3人に対して威嚇するように叫んだ。兄離れできない妹はこうして俺に近付く女子に対して威嚇をかけたりすることがある。可愛いけれど、困ったもんだ。

『小鷹、それは本当なのか? お前はあの、リア充の都に妹を連れて行くと』

 夜空が驚愕の表情を向けながら尋ねてきた。何故こんなにも驚いているのだろうか?

『いや、リア充の都って言うよりも日本の首都だろ』

『で、どうなのだ? 行くのか行かないのか?』

『ああ。行くぞ。何でも小鳩がどうしても参加したいイベントがあるらしくてな。父さんも今東京の大学の方に出向しているらしいし丁度良いと思ってな』

 父さんは小鳩にすごく甘い。東京に行きたいと打診した所すぐに電車から宿泊まで手配してくれた。

『こ、小鷹は女子高生とのお泊りイベントよりも妹のおもりを優先すると言うのだな。このシスコンロリ野郎めがぁ~~っ!』

 夜空は泣きながら部室を出て行った。

『先輩っ、本命は小鳩さんで構いませんが、愛人には理科をよろしくですぅ~~っ!』

『あにき、夜伽にもう1人必要になった際にはぜひお呼びください。妹君とお幸せに~~っ!』

 理科と幸村も走り去ってしまった。

『何なんだ、いったい?』

『クックック。勝ったのじゃ。第三部完!』

 部室には俺と小鳩、そして気絶した星奈だけが残されていた。

 

 

「思い出してみても、よく分からん」

 この1週間、夜空たちはとても不機嫌で俺と口を聞いてくれなかったという結果だけが残っている。

 まあ、隣人部は残念の集まりだからコミュ力不足は仕方ないのだけど。

「それで結局今日は一体何のオフ会なんだ?」

 高坂京介さんが首を捻りながら疑問を呈した。

 京介さんは高校3年生。俺より1歳年上。

 美少女揃いの今回の参加者の中でも一際目を引く、実際にモデル活動をしているという桐乃さんを妹に持つ兄だ。

「妹が集まるオフ会としか聞いていないですね」

 物腰柔らかに答えたのは姫小路秋人くん。俺と同じ高校2年生。

 今回の女の子の参加者の中では最年長となる高2の双子の妹、秋子さんがいる兄だ。

「俺も妹達のオフ会ということ以外は何も聞いてないです」

 メイドさんが前を通る度にドキッと敏感に反応を示しているのが富樫勇太くん。俺より1つ年下の高校1年生。

 今回の最年少参加者である中1の樟葉さんを妹に持つ兄だ。

 もっとも、年齢こそ小鳩が1つ上だけど、外見と物腰で言えば小学生にしか見えないうちの妹の方がどう見ても幼く見える。

「つまり、今日が何の集まりか知っている者はこっちのテーブルには1人もいないと」

 俺が4人を代表して結論を述べてみる。

 俺も小鳩から詳しい話は何も聞かされていなかった。

 

「「「「…………っ」」」」

 4人で苦笑いを浮かべながら見つめ合う。

 この状況をどうすれば良いってんだ?

 俺達は親睦を深め合うべきなのか? 

 それとも保護者に徹するべきなのか?

 友達に恵まれていない俺にはまるで分からない。

「えっと、ここは最年長者ってことで、京介さんが真相を聞いては?」

 勇太くんが控え目に手を挙げる。

 敢えて攻めに出るのは正しい選択だろう。でなければ、一番年下ということで、厄介な役割を押し付けられるに決まっているのだから。

「まっ、仕方ねえか」

 京介さんは溜め息をはきながら頷いた。こうなる展開を予想していたらしい。

 意外と面倒見の良い人らしい。

 

「で、だ」

 京介さんは1度咳払いをした。

「うちの妹は下手な質問をすると無茶苦茶機嫌が悪くなる。蹴りやビンタはデフォだ。できることなら無害な子に訊いておきたい」

 一番年長者の癖に堂々とヘタレなことを言い出した。

 だがその気持ち、分からないでもない。

 妹の機嫌を損ねると大変なのは世界中の兄の共通点だろうから。

「うちの小鳩はすごい人見知りが激しいんで、質問は止めるのが無難だとは思います」

 知らない男に質問されたら何も言えなくなって震える様が容易に想像できた。

 兄としては小鳩にもっと大人の対応ができるようになって欲しい。けれど、今すぐそれを実践しろというのは無理だろう。

「秋子は知らない人と会話するのに障害はないんですが……」

 秋人くんは目を瞑った。

「僕絡みの話だと途端に饒舌になってしかも感情を爆発させながら話し始める場合があります」

「つまり、却下だな」

 京介さんは勇太くんを見た。

「君の所の樟葉ちゃんは?」

「うちの樟葉は無害ですよ」

 勇太くんは自信をもって答えた。

「よしっ」

 京介さんは樟葉ちゃんへと顔を向けた。

 

「あの、君にちょっと尋ねたいんだけど?」

「はい。何でしょうか?」

 樟葉さんはごく自然に応対した。

 そして、たった一言話しかけただけなのに桐乃さんはとても不機嫌な表情を見せている。どうやら桐乃という少女は京介さんの言う通りに難しい子なのかも知れない。

「今日集まっている子達のコミュニティーの名前って何なの?」

 京介さんは核心を突いた。

「お兄ちゃんがシスコン過ぎて困っちゃう妹達ですけど?」

 樟葉さんはごく自然な声で答えながら首を捻った。

「「「「えっ?」」」」

 男達4人が一瞬にして硬直した。

 

 

 

 

 11月23日。

 姫小路秋人(ひめのこうじ あきと)は朝から小説の執筆に勤しんでいた。

 秋人は両親の死後6年ぶりに東京で一緒に暮らせることになった妹秋子との生活費を稼ぐ為に『新藤光一郎』というペンネームを使ってプロ作家として活動している。

 実の兄と妹の恋愛を描いた作品が人気を博している新鋭作家だった。

 もっとも、秋人は自身の創作活動を妹にさえひた隠しにしている。その為に彼が新藤光一郎であることを知っている者は学生寮の中にも存在しなかった。

 

『よし、この3連休で原稿用紙100枚分進めれば締め切りに余裕で間に合うな』

 ノートパソコンを操る手を快調に動かしながら頭の中で締め切りまでの日数を確認する。

 邪魔さえ入らなければ1日で原稿用紙40枚程度進めるのは難しいことではない。プロットに関しては既に編集部にオーケーをもらっている。なら、後はひたすら筆を進めるだけだった。

 そうやって午前中に作業を進めて食堂で昼食を採り、小休止している時だった。

『姫小路秋人』

 ボソボソとした少女の声が秋人の耳に入って来る。

『どうしたの、那須原さん?』

 振り返ってみると立っていたのは那須原(なすはら)・C・アナスタシア・美沙希(みさき)だった。

 

 アナは金髪ツインテールでスタイルの良い美少女という出来すぎたアニメのキャラクターを連想させる風貌の持ち主。更に世界的大企業である那須原重工の令嬢というハイソな地位まで持っていた。

 そんなアナが築70年になるオンボロ学生寮に住んでいるのには色々と訳がある。しかし、とにかく彼女は秋人の前に立っていた。

 

『フッ。私を泊りがけの旅行に連れ出して1日中陵辱し尽そうだなんていいご身分ね』

『真実が1%も含まれていない話だよね、それ』

 アナは秋人に片想いしていた。

 ストレートに「彼女にして下さい」「好き」と伝えたこともある。

 けれど秋人にのらりくらりとかわされて今日まで来てしまっていた。

 おまけに秋人との会話の90%以上においてツンデレというか天邪鬼な話に終始してしまっている。

 だから時間が経過してもなかなか秋人との距離は縮まらないでいた。そんな状況に彼女は危機感を抱いていた。

 

『それで、何かな?』

『だから秋人が私を今日から温泉旅行に連れて行って1日中陵辱するという話』

『うん。那須原さんは秋が深まってもブレないね』

 秋人は首を正面へと直した。

『さて、仕事を再開するかな』

『待って』

 先程よりも鋭い声でアナが秋人を呼び止める。

『まだ何か?』

『温泉旅行に連れて行かなくて良い。ただ1日中私を陵辱すればそれで良い』

『そっちが先に否定されるべき部分だよね』

 秋人は立ち上がる。

『女をアナ呼ばわりしてはばからない貴方ならきっと妄想の中で毎日私を犯しているはず。夢は現実にすべき』

『じゃあ僕、仕事に戻るから』

 秋人は自室に向かって歩き始める。

『せめて、今日は2人で……』

 秋人はそれ以上話は聞かない。代わりにこれからの執筆計画について頭を回している。

 その為にアナがとても寂しそうな瞳で自分を見ていることに気付かなかった。

 

『よおっ、姫小路秋人ぉ~』

 廊下に出たら今度は生徒会長の二階堂嵐(にかいどうあらし)に声を掛けられた。

 

 嵐は秋人が通う聖リリアナ学園の生徒会長を務める3年生。背が高くスタイルも抜群の美少女で、成績優秀で有能。だが、男女構わず手を付けるバイ・セクシャルな性癖の持ち主で性欲も盛ん。秋人も愛人になるようによく誘われている。

 また、中二病的な自己設定に基づいて常時右目に眼帯を巻いている。左目には赤いカラーコンタクトを入れる徹底ぶりである種残念な少女でもあった。

 

『どうしたんですか?』

 良くない予感を抱きながら尋ねる。

『なあ、3連休でお前も暇だろ?』

『暇じゃありませんよ』

『そういうわけで、あたしの愛人になって退廃的で甘美なひと時を過ごさねえか?』

『暇じゃないのでお断りしますね』

 秋人はそれ以上話を聞かないで歩き始めた。

『おめえさん、その反応はちょっと冷たいんじゃねえか?』

『僕には生活費を稼ぐという重要な使命がありますので』

『あっ。おい、待て! あたしは暇なんだぁ~~』

 長話するとアナまで加わってきてまたややこしくなりそうだった。だから速攻で逃げるしかなかった。

 

『うん? 秋人。そんなに急ぐように歩いて一体どうしたの?』

 自室前まで戻ってきたら、今度は銀髪のショートボブカットの小柄なジャージ少女に声を掛けられた。

『ああ、銀。仕事をしなくちゃいけないのに、なかなかそれが難しくてね』

 秋人は少し表情を緩めて銀と呼んだ少女に答えた。

 

 小柄な銀髪少女の名前は猿渡銀兵衛春臣(さるわたりぎんべえはるおみ)。男のような名前であるが、れっきとした少女。家のしきたりで男として育てられた。

 けれど、料理やその他家事が得意でこの学生寮の誰よりも女性らしい技能を有している。また性格に関しても人を気遣う優しさを持ち合わせている。総じて言うならそのいかめしい名前に反して最も女性らしさに溢れる少女だった。

 秋人を追い掛けて単身京都から東京までやって来て現在はリリアナ学園に在籍中。秋人のことを憎からず思っているが、秋人にはなかなか届かず親友という地位に留まっている。

 

『確かに生活費を稼ぐための仕事は重要だ。だけど』

 銀はジッと秋人の顔を覗き込んだ。

『君は最近全く運動をしていないだろう? 仕事は一時中断して散歩してきたらどうだい?』

『確かに最近運動はしてないなあ』

 学校が終わると執筆に集中しているので最近体育以外で身体を動かした覚えがない。

『よっ良かったらボクと一緒に公園にでも……』

『でも、今はいいさ。とりあえず仕事に一区切りつけたい』

『そっ、そうかい……』

 銀は力なく首を落とした。

 けれど、そんな少女の変化に秋人は気付かなかった。

『じゃあ、僕は仕事に戻るとするよ』

『うん。頑張って……』

 銀の消沈した応援の声を聞きながら秋人は自室内へと入っていった。

 

『さあ、お兄ちゃん。これからオフ会に出発しますよ~~っ!』

 自室に入ると、この学生寮で最もうるさい、実妹の姫小路秋子がハイテンションで待っていた。

 

 秋子は秋人の双子の妹。両親が亡くなってからは別々の家に引き取られて生活していたが、6年ぶりに一緒に生活することになった。

 成績優秀で長い黒髪は誰もが振り返り、その微笑には誰もが心奪われる容姿端麗。けれど兄を異性として愛する危険なブラコンに成長してしまっていた。

そしてそんな自分に対して「ブラコンは個性だと思うんです」と言い切るほどに遠い世界に旅立ってしまっている。

 

『オフ会って何のこと?』

 秋人は全く聞いていない話だった。

『今日、全国の妹達が集まるオフ会が秋葉原であるんです』

『行ってくれば良いじゃない。1人で』

 秋人は休止状態にさせていたノーパを立ち上げようと畳に座る。

 と、そこに後ろから手を掛けられた。

『お兄ちゃんは心配じゃないんですか?』

『何が?』

 面倒臭そうに振り返る。

 秋子は怒った表情を向けていた。

『妹達の集会に見せかけて、飢えたケダモノの目で女の子を物色する男達の会合だったするかもって考えないんですか! 私、襲われるかも知れないんですよ!』

『じゃあ、行くの止めたら?』

 秋人のサラッとした一言に秋子はますます怒った。

『一度行くと言ったオフ会に参加しなかったら、コミュニティー内における私の立場はどうなるんですかぁっ? ハブ決定ですよ!』

『じゃあ、行けば良いんじゃ』

『お兄ちゃんは、私がお兄ちゃん以外の男性の子供を妊娠する事態になっても良いって言うんですか!』

 ウザい。素直にそう思った。

『で……』

『私のナイト役として秋葉原まで一緒について来てください』

 秋子は瞳を輝かせた。

『嫌だと言ったら?』

『イエスと言ってくれるまでこの部屋で騒ぎ続けます。徹底抗戦です! グヌヌヌヌ』

 大声を上げながら秋人を威嚇する秋子。

 日頃の言動からそれが事実であろうことは簡単に予測できた。

 これでは執筆に集中できそうもなかった。

 

『仕方ない。今日は秋葉原取材に切り替えるか』

 溜め息を吐きながら方針を転換する。

『お兄ちゃん、今何て?』

『秋子に付き合って秋葉原に行くよって言ったんだよ』

 秋人は笑顔で妹に答えた。

『ヴィクトリ~~~~~~っ!!』

 全身で喜びを表す秋子の横で秋人は何を取材するか頭の中でプランを練っていた。

 

 

「お兄ちゃんがシスコン過ぎて困っちゃう妹達ですけど?」

「「「「えっ?」」」」

 最年少参加者の一言にオフ会参加の男性陣、というか保護者一同は顔を引き攣らせた。

「えっと、君達ってシスコンなの?」

 高坂京介が冷や汗を垂らしながら秋人達に尋ねる。

「「「違います」」」

 秋人達は一斉に首を横に振って否定した。

 

「そういう、京介さんこそもしかしてシスコンなんですか?」

 羽瀬川小鷹が同じく冷や汗を掻きながら尋ねる。

「それ、無理だから。絶対無理だから」

 京介は思い切り首を横に振った。

「にゃっはっは。それでさあ。うちの兄貴ったら超シスコンでキモいってのよぉ~♪」

 上機嫌で語り始めている高坂桐乃。

 兄は必死になって首を横に振り続けている。

「何たって、アタシのことが気になるからって、付き合ってた彼女と別れちゃったのよ。信じられるぅ~?」

「ええ~っ!? 桐乃ちゃんのお兄さん、彼女さんと別れてまで妹を選んだんですか? お兄ちゃんの鑑ですね。他の女性とお付き合いしたこと自体は減点ですけど」

 秋子がキラキラと瞳を輝かせている。

 一方で京介は奥歯をガタガタと鳴らしながら目の前に置かれているフォークを凝視している。そのフォークを何に使うつもりなのか秋人にはとても気になった。

「まぁ~去年のクリスマスには相手してくれる女の子がいなくて、アタシをデートに誘って、ラブホテルに連れ込んだようなヤツだしねえ。にゃっはっはっは♪」

 桐乃は再び高笑いを奏でた。

「実の兄と妹でホテルっ! これは私も負けてられません。グヌヌヌヌ」

「おっ、大人じゃ~。大人なんじゃ~」

「やっぱり、東京の人は進んでいるんですねぇ」

 3人の少女が驚きの瞳で桐乃を見る。

「クリスマスに俺を無理やりあちこち取材に付き回したのも、強引にホテルに連れ込んだのも、桐乃の方じゃねえかっ! それに俺は妹に手を出す変態じゃねえっ!」

 京介は立ち上がって反論した。

「でも、桐乃さんの為に彼女さんと別れたのは事実なんですよね?」

 そんな勢い込む京介に対して樟葉の一言。

「頼む……自殺させてくれぇ~~っ! 俺はもう、生きていく自信がないんだぁ~~っ!」

「死んじゃダメですって! 彼女がいたことがあるリア充ぶりを誇らないとっ!」

「邪気眼系中二病患者だった俺の過去より遥かにマシですからっ!」

 フォークを自分の喉に突き刺そうという京介の試みは小鷹と勇太の必死の制御によって食い止められた。

 

「まっ、そんな訳でアタシの兄貴が一番妹のことが好きなド変態ってことで決まりよね♪」

 何故か踏ん反り返っている桐乃。

 だが、そんな桐乃に対して羽瀬川小鳩が怪しく瞳を光らせた。

「クックックック。この悠久の時を生きるレイシス・ヴィ・フェリシティ・煌の前で大きな口を叩いたものだな」

「やっぱりあの子……中二病だったのか」

 勇太が黒ゴスロリ姿の小鳩を見ながら冷や汗を流している。

「我が半身が我をどれほど愛しているのか、凡俗とは次元が異なる」

「具体的には?」

 秋子が尋ねる。

 質問に対して、小鳩はドヤ顔をして小学生体型なその上半身を大きく逸らした。

「ウチは時々、あんちゃんと一緒にお風呂に入っているんじゃ~~っ!」

 小鳩の大声が店内に響く。

 京介を制止している小鷹の動きが止まった。

「小鳩さんって……確か中学2年生ですよね?」

「そうじゃ。セカンドチルドレンやサードチルドレンと同い年なんじゃ」

 小鷹を無言で非難するみんなの瞳が強まった。

「グヌヌヌヌ。お兄ちゃんとお風呂だなんて羨ましいです。私も一緒に入りたいです。ていうか、今日から一緒に入ってくださいっ!」

 1人やたらと小鳩にライバル意識を燃やしている少女がいたが。

「やっぱり友達がいない俺がオフ会に参加するなんて無理があったんだぁ~~っ! 頼む、死なせてくれぇ~~っ!!」

「止めるんだ、小鷹くんっ! 美少女な妹と一緒にお風呂なんて羨ましい限りじゃないか。まずはその幸福を噛み締めるんだぁっ!」

「金髪美少女の妹が慕ってくれているんだから、ぼっちだって良いじゃないですかぁ~~っ!! それに中学の時のぼっち具合だったら俺の方がきっと上ですから~~っ!」

 今度は小鷹が自殺しようとするのを京介と勇太が必死になって止めに掛かる。

「次はきっと僕の番なんだろうな……」

 秋人は自分の前に置かれているフォークを見ながら感慨にふけった。

 

「確かに桐乃ちゃんのお兄ちゃんも、小鳩ちゃんのお兄ちゃんも重度のシスコンのようですね」

「「違……っ」」

 違うと言いかけて京介と小鷹が口をつぐむ。つぐむしかなかった。代わりに血の涙を流していた。

「ですが、私のお兄ちゃんはもっとすごい筋金入りの超シスコンなんですよぉ~っ!」

 偉そうに語る秋子。

 秋人は遂に来たと思いながら身構える。

「何しろお兄ちゃんは、私と一緒に暮らしたいがゆえに、京都から東京に引っ越してきて、私を養父母の元から引き離したんですからぁ~~っ!」

 大声を上げる秋子。

 しかし──

「ちょっと重いけど、いい話よね」

「兄と妹は一緒に暮らすのが一番なんじゃあ」

「秋人さんは頑張ったんですね」

 秋子が望むような反応は得られなかった。

 普通に良い兄として認識されていた。

 それで、秋人は安心していた。

 それが、間違いだった。

 

「ならば、マル秘エピソードを怒涛の公開するまでです!」

 秋人は空気が変わったのを感じた。

 止めなければならないと思った。

 けれど、秋人は秋子から最も遠い位置に座っていた。

 口を塞ごうとしてもできなかった。

 秋人はこの瞬間、とても無力だった。

「お兄ちゃんが私と一緒に住もうと言ってくれたその真意は……私の体を貪り尽くすことにあったんですぅ~~~~っ!!」

 店内の客たちが一斉に秋子へと振り返る。

「うん。事実無根も甚だしいね」

 秋人は努めて冷静に否定する。

 しかし──

「なるほど。確かに兄と言えば……妹に性欲のはけ口を求めるのがごく普通だものね。妹でDT捨てるのがごく普通だし」

 桐乃が目を瞑りながら重々しく頷いた。

「「あれ?」」

 秋人と京介の声が揃う。

「我が半身も、ウチがあんちゃんの前で着替えしてっとよう喜ぶんよ」

 小鳩が云々と頷いた。

「「ほへっ?」」

 秋人と小鷹の声が揃う。

「ぼっち指数の高いお兄ちゃんが妹のことを1人の女として見てしまうのは、仕方ないですよね」

 樟葉が辛そうに顔を背けた。

「「ぺぴょっ?」」

 秋人と勇太の声が揃う。

 

「お兄ちゃんが私を呼び寄せたのは全て私をモノにしたいが為。学生寮に移って来た初日、私の入浴中に堂々とお風呂場に侵入してきたお兄ちゃんは、そのまま力尽くで私の初めてを……うっうっうっ」

 秋子は渾身の泣き真似をしてみせた。

「いや、全部事実無根だからね……」

 秋人は爽やかに否定してみせる。しかし、秋人の話を聞いてくれる者はいない。先程の波状攻撃が効いていた。

「お兄ちゃんはお風呂場で私を奪っただけでは飽き足らず、その後部屋に戻って何度も何度も。うっうっうっうっう」

「秋子は何か僕に恨みでもあるのかな?」

 精一杯物腰柔らかく返す。

 けれど、オフ会参加者だけでなく、周辺の客たちの秋人を見る目は冷淡。秋子の話は受け入れられてしまっていた。

 秋人にはテーブルに置かれているフォークがとても魅力的な一品に見えてきた。

 

「そっか。秋子さんは鬼畜なお兄さんの為に辛い道のりを歩んできたのね」

 桐乃がシミジミとした声で秋子を慰める。

「確かにお兄ちゃんは鬼畜です。もしかするともう私のお腹にはお兄ちゃんのベイビーがいるかも知れません。いえ、きっといるに違いありません!」

 秋子が涙ながらに語る。

「あのねえ……」

 秋人は反論したいものの、どうせ聞いてくれないのだろうと半分諦めの境地。

「でも、お兄ちゃんを責めないでください」

「どうして?」

 首を捻る桐乃に対して秋子は目を輝かせながら訴えた。

「私が妹だから。私が姫小路秋人の実の妹だから。お兄ちゃんが私を愛してしまうことはどうしようもないんですっ!」

「はぁ~」

 秋人はフォークを握り締め、一気に──

「何故、止めるんですか?」

 突き刺そうとした所で3本のフォークに防がれた。

「君の妹さんの話がどこまで本当なのかは知らない。だが、死んでは駄目だ」

「全て嘘ですから」

「秋人くんが例え妹さんに対して取り返しのつかない過ちを犯してしまったとしても、死んじゃいけない。妹さんが悲しむ」

「だから全て秋子の嘘ですから」

「秋人さんが死んじゃったら、妹さんのお腹の子供はいったい誰が面倒見るんですか?」

「だから全部妹の嘘八百ですよ……」

 秋人は久しぶりに孤独を噛み締めていた。

 

「それで、樟葉ちゃんはお兄ちゃんがシスコン過ぎて困っちゃうっていう事例はないの?」

 桐乃が樟葉へと話を振った。

 ビクッと全身を震わせたのは勇太の方だった。

「わたしは別にそういうのは……」

 樟葉が困ったように言葉を濁す。

 そんな妹の様子を見て勇太は安堵していた。

 けれど、世の中そんなに甘くなかった。

「強いて言うなら、わたしとお兄ちゃんが並んで台所に立っていると、ママによく新婚さんみたいってからかわれますね」

 樟葉はサラッと述べた。

「くぅううううううぅっ! 親を結婚式に呼べる公認の関係っ! 妹婚(シスコン)に一番近いのは樟葉ちゃんかぁ。羨ましいぃいいいいいいぃっ!!」

 興奮する桐乃。

「あんちゃんとの結婚。ウチもするんじゃぁあああああぁっ!」

 小鳩の魂にも火が付いた。

「フッ。お兄ちゃんと私が結婚するのは生まれた時から既に決まっているんです。だって、同時に生まれて来たんだからぁあああああぁっ!」

 秋子も爆発した。

「「「「ふぅ~」」」」

 秋人たちは一斉にフォークを取ろうとした。

 けれど、できなかった。

 店員が既に秋人たちのテーブルから金属類を全て回収していた。

 

 

 

 

 俺はオフ会というものについて大変な思い違いをしていた。

 このオフ会をオタクっ娘集まれの会合の様のものと思い込んでいた。

 けれど、それは間違いだった。

 これは妹同士が親睦を深める会合の場じゃない。

 兄が社会的に吊るし上げられる為の処刑の場だ。

 俺達4人の兄は……ブラコンな妹の被害者なんだっ!

 そうだ。俺達はみんな仲間なんだっ!

 小鷹くん、秋人くん、勇太くんと目が合う。

 そうだ。俺達はみんな妹に虐げられている同志なんだっ!

 ビバっ。同志っ!

 

「おお~姫小路秋人。ここにいたのか~。探したぞ」

「まったく。女にこれだけ探させておいて自分は他の女に囲まれているなんて良いご身分ね。また穴要員を増やすつもり?」

「外に出るように勧めたのはボクだけど、合コン参加とは感心できないなあ」

「秋人にいさま。婚約者のありさを差し置いて他の女性と密会するとはどうかと思います」

 眼帯を付けたナイスバディー、金髪ツインテールのナイスバディー、銀髪ショートカットのボクっ娘、髪の長いロリっ娘が現れて秋人くんに冷たい視線を向けた。

 なんだ。

 秋人くんはハーレム王だったわけか。

 それじゃあ、妹が1人恋愛対象に増えたぐらいでどうということはないわけだ。

 謎は全て解けた。

 このっ、モテない男の敵めっ!

 

「あの、みんな……一体、何を言ってるのかな?」

「浮気の現場を抑えちまった以上、お仕置きしないってわけにはいかないよなぁ~」

「浮気って、僕は誰とも付き合っていないんだし……」

「SATSUGAIとSATSURIKUのどっちが好み?」

「分かりたくないけれど、他の選択肢が恋しいかな?」

「大丈夫。秋人はいつまでもボク達の心の中に生きているから」

「心の中以外で僕は生きられないのかなあ?」

「ありさは昨夜秋人にいさまから授かった子供を立派に育ててみせますから安心して逝ってください」

「いや、僕は『まったく小学生は最高だぜ!』なんて展開はしてないからね!」

「「「「問答無用っ!」」」」

「僕が一体何をしたって言うんだぁああああああああぁっ!!」

 秋人くんは4人の少女に拘束され担ぎ上げられて店の外へと連れ出されていった。

「お兄ちゃ~~~~~~んっ!!」

 秋子さんが秋人くんを追おうとする。

 だが、その肩を掴んで静止したのは桐乃だった。

 桐乃は目を固く瞑りながら首を横に振った。

 俺にも分かった。

 もう、秋人くんと生きて会うことはないだろうと。

 心の中でシスコンにしてハーレム王という許しがたい属性を持つ秋人くんに黙祷を捧げた。

 

 秋人くんの退場によって、この会合もお開きになる。

 誰もが予想したその時だった。

「勇太……来ちゃった」

「この凸守がわざわざ東京までお前に会いに来てやったのデス。感謝しやがれなのデス」

「まったく、富樫くんを1日1回踏まないと気がすまないからわざわざ東京まで来ちゃったわよ」

「東京なら安眠用の素敵な枕もいっぱい売っているよね~。でも、勇太くんの腕枕が一番だよ~」

 眼帯を付けた小柄な少女、身長の長さほどもあるツインテールを装備したオデコが目立つ少女、背が高くてちょっと桐乃に似ているイマドキな感じの少女、癒やし系オーラ全開の短髪の少女が勇太くんの前に現れた。

「何でお前らが東京に……」

 もしかして、この展開は……。

 

「勇太はお父さんに会いに東京に来たんじゃないの? 何でこんなに沢山の女の子に囲まれてヘラヘラしているの? 東京に来たのは、浮気が目的なの?」

「あのな、六花。少なくても俺はヘラヘラしてないぞ。この苦痛に満ちた顔を見ろ! そして浮気って何だ?」

「凸守という、前世から結ばれることが決まっている婚約者を差し置いて、お前は一体何をしているのデスか? 浮気、許せないのデ~ス」

「頼む。今日はもう電波な話は聞き飽きたんだ」

「富樫くんが誰とイチャつこうと構わないけれど、何だかむかっ腹が立ったから残酷に殺すわね♪」

「ストレートすぎるだろ、それは!」

「もう明日から富樫くんの腕枕を体験できなくなっちゃうんだね~。残念だよ~」

「それは俺が今から死ぬことへの追認ですか?」

 4人の少女はとても怒っている。

 なんだ。

 勇太くんはハーレム王だったわけか。

 それじゃあ、妹が1人恋愛対象に増えたぐらいでどうということはないわけだ。

 謎は全て解けた。

 このっ、モテない男の敵めっ!

 

「俺は樟葉のオフ会についてきただけで、やましいことは何もっ!」

「「「「問答無用っ!」」」」

「俺が一体何をしたって言うんだぁああああああああぁっ!!」

 勇太くんは4人の少女に拘束され担ぎ上げられて店の外へと連れ出されていった。

「お兄ちゃ~~~~~~んっ!!」

 樟葉ちゃんが勇太くんを追おうとする。

 だが、その肩を掴んで静止したのは小鳩ちゃんだった。

 小鳩ちゃんは目を固く瞑りながら首を横に振った。

 俺にも分かった。

 もう、勇太くんと生きて会うことはないだろうと。

 心の中でシスコンにしてハーレム王という許しがたい属性を持つ勇太くんに黙祷を捧げた。

 

「2人になっちまったな」

「ええ。でも、俺は彼女どころか友達もいない人間ですから。大丈夫ですよ」

 小鷹くんが自信満々に頷いたその時だった。

「小鷹。そこにいたのだな。随分探したぞ」

「ふっふ~ん。心優しいあたしがみんなを連れて秋葉原に買い物に来てあげたのよ~。やっぱり秋葉原は美少女ゲームの充実ぶりが違うわねぇ~」

「理科は、理科はもう、この腐空間に目眩を起こしてユニバースしてしまいそうです」

「あにきはついにこの扶桑の首都を制圧しに掛かったのですね」

 ショートカットでクールな雰囲気を漂わせる少女、金髪ロングですごくスタイルが良い明るい感じの少女、メガネに白衣という漫画の科学者まんまなポニーテール少女、ある意味メイド喫茶に一番似合うメイド服姿の少女が小鷹くんの前に現れた。

「お前たちも東京に来たのかよ!?」

 うん。まあ、なんだ。

 3回目ともなると驚くこともなくなる。

 

「それで小鷹? お前の妹以外の3人の女の誰が本命なのだ? その女とはどこまで進んでいるというのだ? 怒るから正直に白状しろ」

「何でそんな浮気現場を抑えた妻みたいな怒りの表情を見せてんだよ?」

「小鷹は泳ぎが得意なのよね? 深夜に手足縛って東京に沈めてあげるから自力で脱出してね」

「東京湾の底に沈められないといけないようなことを俺が何かしたかっ!?」

「先輩のあそこの部分だけはちょんぎって理科が永久保存しますから大丈夫です。先輩が生きた証は残ります」

「そんな生きた証は要らないっての!」

「あにきのお父上には、あにきが敵の大軍相手に最後まで立派に戦い抜いたと伝えておきますゆえご安心を」

「その敵の大軍ってのは、幸村たちのことだよな!?」

 4人の少女はとても怒っている。

 なんだ。

 小鷹くんはハーレム王だったわけか。

 それじゃあ、妹が1人恋愛対象に増えたぐらいでどうということはないわけだ。

 謎は全て解けた。

 このっ、モテない男の敵めっ!

 

「俺は小鳩に付き合ってここにいるだけだっての!」

「「「「問答無用っ!」」」」

「俺が一体何をしたって言うんだぁああああああああぁっ!!」

 小鷹くんは4人の少女に拘束されて担ぎ上げられて店の外へと連れ出されていった。

「あんちゃ~~~~~~んっ!!」

 小鳩ちゃんが小鷹くんを追おうとする。

 だが、その肩を掴んで静止したのは樟葉ちゃんだった。

 樟葉ちゃんは目を固く瞑りながら首を横に振った。

 俺にも分かった。

 もう、小鷹くんと生きて会うことはないだろうと。

 心の中でシスコンにしてハーレム王という許しがたい属性を持つ小鷹くんに黙祷を捧げた。

 

「とうとう俺1人になっちまったか」

 4人いた男メンバーの中で残るは俺1人。

 だが、俺は最後までこのオフ会に参加し続けてみせる。

 何故なら俺は特にモテない地味男だからっ!

「あらっ? 先輩じゃないの。こんな所にどうしたの?」

 俺の元彼女、黒猫が店内へと入って来た。

「いやいやいや。京介殿も同じ店を利用とは、運命を感じますなあ」

 黒猫に続いて沙織が入って来た。

「あっ、お兄さん。こんにちは。今日は秋葉原で加奈子が出演するメルルイベントがあったんですよ」

「おっ。京介じゃねえか。チース」

 あやせと加奈子までやって来た。

 しまった。秋葉原と縁のある奴が俺の周りには多すぎたか。

 

「ところで先輩? あの女どもは一体何かしら? あの金髪ゴスロリは私の代わりだとでも言うの?」

「確かに小鳩ちゃんと黒猫は共通点だらけで声もそっくりだが、違う存在に決まっているだろ。ていうか、何故そんな鬼の形相で俺を睨むんだ!?」

「ヤレヤレ。どうやら京介殿は槙島グループの力がどれ程のものかまだ分かっていないようですなあ。人一人最初からいなかったことにするぐらいわけないと言うのに」

「俺を消して完全犯罪にしないでくれ!」

「お兄さん。浮気は許しません。今すぐ死んでもらいます。刺し殺されてください」

「あやせたんはヤンデレ似合い過ぎだっての!」

「まあ、なんだ。人生諦めも大切だと思うぜ」

「諦められねえよ! 掛かってるのは命だっての!」

 くそおっ!

 これじゃあ星になった3人のハーレム王と俺が同格みたいじゃないか。

 俺は紳士の中の紳士だと言うのにっ!

 

「俺は桐乃に付き合ってここにいるだけだっての!」

「「「「問答無用っ!」」」」

「俺が一体何をしたって言うんだぁああああああああぁっ!!」

 縄で縛り上げられてあっという間に担がれてしまう。

「兄貴ぃ~~~~~~っ!!」

 桐乃が大きく目を見開きながら俺を追おうとしてくれた。

 けれど、その肩を掴んで制止したのは秋子さんだった。

 秋子さんは目を固く瞑りながら首を横に振った。

 桐乃はガックリとうな垂れながら着席し直した。

 

 諦めるんかい、妹よ。

 

「それじゃあ、次回の逝っちゃったお兄ちゃんがシスコン過ぎて困っちゃう妹達オフ会は大晦日の夜ってことで。昼間はみんなで冬コミに出陣よ!」

 立ち直り早過ぎないか、桐乃よ?

 まだお兄ちゃん死んでないぞ。助けれるかもしれないんだぞ。

「クックックック。ついにウチも本物のコミケデビューじゃ~♪」

「兄と妹のイケない本を買いまくって妄想しまくりですよ。ぐへへへへ」

「そうすると、お父さんが年末にも東京に帰れるようにインドネシア事情を操作しなきゃ」

 そして、兄がいなくなっても妹達は逞しかった。

「頑張れよ……妹達」

 妹達の未来を祝福しながら兄は静かに退場する。

 

「しかし、他の3人はともかく、何で俺までハーレム王のような扱いになっているんだろうなあ?」

 11月の澄み切った青空を見上げながら俺は首を捻ったのだった。

 

 

 了

 

 

 


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