No.502348

中二病患者だった過去を消し去る13の方法

中二病でも恋がしたい!の試し書きなのデ~ス!
凸守のうざさが書いていて可愛いと思います。
布教用なので別に原作は知らなくて良いのデ~ス。

とある科学の超電磁砲

続きを表示

2012-10-31 00:24:42 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2326   閲覧ユーザー数:2236

中二病患者だった過去を消し去る13の方法

 

「「爆ぜろリアルっ! 弾けろシナプスっ! ヴァニッシュメント・ディス・ワールドッ!!」」

 小柄な少女2人の声が揃うと共に室内の電灯が消える。

「いよいよ決着をつける時が来たようデスね~。凸守と勝負なのデ~ス、邪王真眼っ!」

「サーヴァントの分際で大きく出たな。だが、面白い。相手になってやろう」

 今日も今日とて小鳥遊六花(たかなし りっか)と凸守早苗(でこもり さなえ)は『極東魔術昼寝結社の夏』部室で飽きずに中二バトルを繰り返している。

 中二バトルというのはアレだ。

 小学校の3、4年生ぐらいまでなら許されそうな正義のヒーローと悪の怪人の戦いごっこ遊びのようなモノのこと。

 だけどここで注意するべきはようなモノであって、ごっこ遊びと中二バトルは大きく異なるものだという点だ。

「我がサーヴァントの癖に邪王真眼の秘めたる真の力の強大さにまだ気付いていなかったとは……本当に愚かな奴だな。お前はどの平行世界の凸守よりも劣った存在だ」

「ゲフフフフ。なのデ~ス。この凸守が何の秘策も準備せずに戦いを挑むと思うのデスか~? マスターこそ凸守の秘められた真の力を過小評価し過ぎなのデ~ス」

「何だと!?」

 まず異なるのは中二バトルを繰り広げるのは小学生よりも年齢が上のお兄さん、お姉さんだということ。

 例えば今バトルを開始しようとしている六花は高1で凸守は中3だ。

彼女達は幼き日のピュアな心を失っていない。そう言えば確かに聞こえが良いかも知れない。けれど、社会不適合少女と呼んだ方が残念ながら実態を的確に表している。

「凸守の真の力、固有結界を発動させてやるのデス」

「あの忌まわしき呪われた禁呪をたかがサーヴァントでしかない貴様が使えるものか!」

「フッ。使えるかどうかはその眼帯の下に隠された黄金の瞳で確かめてみれば良いデ~ス」

 凸守が余裕の笑みで宣言すると同時に真下の魔法陣が光り始める。カーペットに電飾を仕込んで光るように細工した魔法陣が。

「そ、そんな馬鹿な……。凸守の力で固有結界を発動できるあるわけが……」

「確かに凸守1人の力では無理デ~ス。ですが、平行世界の凸守達の力も合わせればこうして固有結界を発生することも可能なのデ~ス」

「まさか凸守は不可視境界線を越えて平行世界と通信する手段を既に確立したと言うのか!?」

 驚愕する六花と不敵な笑みを浮かべている凸守。

 2つ目の特徴として、中二バトルの参加者は年齢が高いだけあって小学生よりも遥かに複雑な自分設定を持っている点が挙げられる。

 演劇部の寸劇でもないことを考慮すると、その設定の緻密さと真剣な演技は見ている一般人には痛さと意味不明さへと繋がる。

 ちなみに2人のバトルを同じ部員ということで見せられている俺、富樫勇太(とがし ゆうた)と丹生谷森夏(にぶたに しんか)も胸が痛くて死にそうだ。

 学校にはこれを新たな暴力、いじめと認定してもらいたいぐらいだ。

「今日こそマスター、モリサマー、そしてダークフレイムマスターに代わりこの凸守が闇の世界の支配者として君臨するのデ~ス」

「ダークフレイムマスター言うなぁっ!!」

「モリサマーを思い出させないでぇ~~っ!!」

 そして元重度の中二病患者だった者は中二バトルを見せ付けられると昔の消し去りたい自分を見ているようで死にたくなるのだ。

 中学時代、ダークフレイムマスターを名乗り、近付いたら火傷するぜ系のキャラを気取っていた俺。同じく中学時代、精霊が囁いているとか言ってこの世界最後の魔術師を自称していた丹生谷。

 俺達にとって目の前の六花達のバトル光景は抹消したい過去の自分と重なってしまう。言い方を換えれば古傷を抉られトラウマが延々と再生させられるようなものだった。

 中二を卒業して一般人として生きたい俺達にとってはこれ以下がない辛い拷問だった。

 

「凸守のメガネで……デコデコデコリ~ンっ!!」

 凸守の全身が激しく光る。六花がライトで横から凸守を照らしていた。こういう演出の為の相互協力も中二バトルの特徴だ。

「ゲッフッフッフ。固有結界、アンリミッテッド・ミョルニル・ワークスの発動なのです」

 ライトの光が止み、いつの間にかグルグルメガネを掛けている凸守が怪しく余裕たっぷりに微笑む。

 いや、変わっているのはメガネだけじゃない。凸守の身長よりも長いんじゃないかと思う髪。そのツインテール房が更に細い幾つもの房に分けられている。

「この凸守早苗のメデューサバージョンに敵う者などこの世に存在しないのデ~ス。Death Death Death」

「クッ! あの髪の束の1つ1つが意志を持って私を襲って来ると言うのだな」

 悔しそうに歯噛みする六花。

 きっとアイツの脳内では凸守の髪が逆立って一斉に自分を襲おうとしている光景に補正されているのだろう。

 俺も2年前だったら見えていた筈だ。重度の中二病とはそういう類の病いなのだ。

「だが、必殺のミョルニルハンマーを失ってしまい私を倒しきることが出来るのか?」

 今度は立花が余裕の笑みを浮かべて見せた。

 ちなみにミョルニルハンマーとは凸守のツインテールの先に重しを付け、ハンマー投げの要領で体を回転させながら髪を振り回す攻撃手段のこと。

 メデューサバージョンとなって左右それぞれ10ぐらいの細かい髪の束になった為に振り回しても一撃の威力は確かに落ちる。

 果たして凸守はどう反論するのか?

 って、俺は一体何を気にしているんだ。俺はもう一般人になったと言うのに。

「フッ。それがどうしたというのデスか? 完全勝利とは隙のない攻撃で相手を圧倒するものと闇の始まりの刻から決まっているのデ~ス」

「愚かな。小手先の技術ではなく全てを圧倒する力こそが我らの追い求める唯一にして絶対のものだというのに。受けてみよ、邪王真眼の真なる力をっ!」

 六花が邪王真眼を解き放つ。より正確に言えば、中二病の為だけに着けている眼帯を外しその黄金の瞳を晒す。もっと正確に言えば、カラーコンタクトを嵌めて金色のように見える瞳を晒した。

 目が悪くないのに常に眼帯を着けている六花の行動は中学時代の俺を鮮烈に思い出させる。

 俺も中学時代は怪我もしていないのに腕に包帯を常に巻いていたものだった。色々設定はあったが、結局はその方が格好良いからという理由で。

「デスデスデ~ス! モリサマーに必殺の策を授けられている凸守に死角など存在しないのデ~ス!」

 邪王真眼を全開にした六花を正面から待ち受ける凸守。

「過去が、過去が私を追い掛けて来ていつまでも私を苦しめるの……」

 そしてそんな2人を見ながら頭を抱えて蹲ってしまう丹生谷。

 真人間に更生し、クラスで一番の人気者になっている彼女としては中二病だった過去を見せられるのは何より辛いだろう。

 俺だって窓の外に勢い良く飛び出したい衝動に駆られているのだから。

「ねえ、富樫くん」

 丹生谷が泣きそうな表情で縋るような声を出しながら俺を見る。

 彼女が俺に全く気はないことはわかっている。丹生谷がこのおかしな同好会に入ったのは凸守が持っているモリサマーという名の忘れたい過去の発言記録を回収する為。

なのにクラス内美少女コンテストでぶっちぎりの優勝を果たした美少女に頼られるとすごくドキドキしてしまう。

「えっと、何?」

 出来るだけ自然を装いながら尋ね返す。

「どうしたら……自分の忌まわしい中二病という過去が消せるかな?」

 丹生谷の悩みは俺にとってもあまりにも切実すぎるものだった。

 

 

 

「どうしたら……自分の忌まわしい中二病という過去が消せるかな?」

 丹生谷の悩みはとても苦しそうにそう悩みを訴えた。

 そして彼女の悩みとは俺も全く同じ種類の悩みを抱えるものだった。

 俺は高校で一般人デビューして中二の過去を捨て去る筈だったんだ。

 でも、実際には入学初日から六花に目を付けられて中二の世界に再び引き込まれた。

 

 

『そう。悠久の過去、貴方と私は出会っている。その因果をこの邪王真眼は教えてくれた。だから接触のチャンスを窺っていた』

 六花は目薬を手のひらに垂らして舐めてみせた。

『この苦さ……やはり闇の組織が』

 六花は大きく仰け反ってみせて目薬のキャップを閉じた。

『という訳で……封印』

 単に目薬が嫌いに違いない六花が瓶を棚へと置き直す。

『邪王真眼は聖なる心によって闇の力を御しているもの。従って闇に侵された者は元より浄化された聖水も危険なものとして受け付けない』

 キリッとした良い顔で語る六花。完全に自分の世界に入っている。

『間違いない……中二病だ』

 会いたくなかった過去と新生活の初っ端から再会してしまった。

『危うく敵の罠に嵌まる所だった。これからは注意して……ダーク・フレイム・マスター』

 そして彼女には俺のかつての姿を見られてしまっていた。

 そう。過去の姿を知られているというのは俺にとって最大の弱点となるものだった。

 

 

「そうだね。過去を消すって言うのは難しい。全てをなかったことにして再スタートしたつもりだったのに、その為に万全の準備もしたのに……駄目だった」

 小鳥遊六花の存在によって中二の過去を消し去るという俺の高校デビューは失敗に終わった。その為にわざわざ知り合いが1人もいない高校を選んだと言うのにだ。

 今のこの国の状況を考えれば、重度の中二病患者は五万といる。そしてこれからも増え続けるだろう。

 大人になっても六花のような存在に出会ってしまう可能性は否定できない。

「あの忌まわしい過去の思い出は……一生付いて回るのかも知れない」

 この国が中二病患者を生み出す文化を持ち続けるのなら……俺達は一生中二病を、過去の自分を見せ付けられる生活を送ることになるのかも知れない。

「一生……そっ、そんなっ!」

 丹生谷が大きく目を見開いてうろたえた。

「それじゃあ私は……一生この苦しみから逃れられないっていうわけ?」

「その可能性は否定できないっていう推測の話で、絶対にそうなるって話じゃないよ」

 曖昧に回答する。

 今後の人生で六花のような人物と出会うかどうかは誰にも分からないのだから。

「ソウルジェムが魔女を生むなら…じゃなくて、こんな苦しみが一生続くなら……死ぬしかないじゃないっ!」

 丹生谷が鋭く叫んだ。

 

 中二病患者だった過去を消し去る方法その1  死んでみる

 

 丹生谷の目が部室の外を向いていた。その瞳が意味するものはあまりにも明白だった。

「止めるんだ、丹生谷っ!」

 走り出そうとする丹生谷を後ろから羽交い絞めにして封じ込める。

 あっ、髪が良い匂い♪

 じゃなくて!

「離して富樫くんっ! 暗黒の未来を迎えない為にはもう死ぬしかないの!」

「いや、この部室2階だから! 飛び降りても痛い思いするだけで死ねないから!」

「頭から落ちるから大丈夫よ~っ!」

「何が大丈夫か知らないけれど、死ぬのは絶対にダメぇ~っ!」

 死にたがる丹生谷と俺の必死の攻防戦。

 必死度で言えば目の前でまだ続いている六花と凸守の中二バトルよりもよっぽど切実。

「死ぬのはいつでも出来るから。そして取り返しが利かない手段だからっ!」

「だから即断即決即実行を実践しようとしているんじゃないの!」

「きっと良い手段がある筈だからっ! だから死ぬのは最後の手段に取っておこう。ねっ」

 丹生谷の抵抗が弱まる。

「確かに私はまっとうな生を送りたいから忌まわしい過去を捨てようとしている。なのにその過去の為に人生を捨てちゃうのは本末転倒よね」

「そうそうそう。死ぬって選択肢は一回捨てよう」

 丹生谷の抵抗が止んだ。

 丹生谷の気持ちはよく分かる。俺だってたまに死にたくなる。でも、死ぬのは良くない。

 みんなに希望の光を与えてくれる丹生谷のような子は絶対にだ。俺の願望的に。丹生谷の顔と胸を見ていると俺は何度でも立ち上がれるのだから。

 それにしても……いい匂いだ♪

 

「じゃあ、富樫くんはどうしたら中二だった過去から逃れられると思うの?」

 羽交い絞めを解いた丹生谷が俺の瞳を熱心に覗き込む。

 こんな状況でなければ最高にドキドキ出来るシチュエーションなのに。

「ジャッジメント・ルシファーっ!!」

「エクステッド・ミョルニル・トルネードーっ!!」

 重度の中二病患者を目の前で見せ付けられて苦しんでいるという状況でなければ。

 畜生っ!!

「とにかく、俺達があの2人と同類に思われることだけは絶対に避けよう」

 現状から見て最低限すべきことを改めて確認する。

「俺達は今後一生涯中二な振る舞いは避けなくちゃいけない。みんなに疑念を抱かせないこと。それが中二病だった過去を消す為に最低限必要なことだよ」

 

 中二病患者だった過去を消し去る方法その2  過去を永遠に隠し続ける

 

「確かに私が中二病患者だったと疑われるのは嫌よ。でも……」

 丹生谷はバトル中の2人を見る。2人は畳の床に寝転がりながらチャンバラ劇を繰り広げている。

「闇の炎に抱かれて消えろっ!」

「モリサマーの言葉は絶対なのDeath Death Death!!」

 ……ちなみに六花の言葉は、中二だった俺が決めゼリフとしてよく使っていたもの。今ではあの言葉を吐いていた頃の俺を燃やしてやりたいと切に思う。

「私達は自分が中二扱いされることだけが嫌なんじゃない。中二病な光景を見せ付けられる度に自分が自分に責められるのよ。そっちの方がもっと辛いわよ」

 丹生谷はとても悲しそうな表情をしている。きっと俺も同じように悲しそうにしているに違いなかった。

「俺達の存在はもう六花と凸守に知られてしまった。そして2人に目を付けられている以上、この光景は何度でも繰り返す、よね」

 一般人として振る舞いを続けることは生涯可能かも知れない。その結果、他人の目を誤魔化し続けることは出来るかも知れない。

 でも、中二病患者だったことを知っている自分だけは誤魔化せない。

 その責めからは逃れられないのだ。

 

「…………私達がこうして苦しんでいるのはみんな小鳥遊さんとあの中坊のせいなのよね」

 丹生谷はちょっと狂気入っている瞳で六花達を見る。

「あの2人さえいなければ、中二を思い出すこともない。そうなんだわ……」

 丹生谷の瞳孔が細まってヤバい。

「ねえ、富樫くん?」

「なっ、何でしょうか?」

 直立不動の体勢で返事する。今の丹生谷に逆らったら殺される。ダークフレイムマスター改め小市民の直感がそう告げていた。

 でも、本当に危険なのは俺の命じゃなかった。

「小鳥遊さんとあの中坊を闇の炎で焼き尽くして永遠に消してしまうのはどうかな?」

 丹生谷はトロンとした瞳でフフフと笑ってみせた。

 

 中二病患者だった過去を消し去る方法その3  中二病患者を汚物消毒する

 

「焼き尽くして永遠に消すって、それって殺すってことですよね!?」

 丹生谷の思い詰めた発言に震え上がる。

「結果的にはそうなるかも知れないわね」

「そうとしか言わないからっ!」

 大声でツッコミを入れる。

「殺人絶対ダメっ! 美少女が殺人なんて絶対に認められないっ!!」

 六花達に向かって歩きだそうとする丹生谷を再び後ろから羽交い絞めにする。

 六花達が殺されるのも、丹生谷が人を殺すのも絶対に止めないといけない。

「離して、富樫くんっ!」

「離せるわけがないでしょうがっ!!」

 再び始まる攻防戦。

 その戦いは5分ほど続いた所で丹生谷が力を緩めた。

「分かった。小鳥遊さん達を汚物消毒するのは諦める」

「良かったぁ~」

 丹生谷を拘束する力を緩めながらホッと一息吐く。

 だけどそれが間違いだった。

「でも、だったら……やっぱり私達が死ぬしかないじゃないっ! もう、そうするしか私達が楽になれる方法はないのよぉ~~っ!!」

 丹生谷が体の向きを変えながら俺の制服のシャツの襟首を握り締めてきた。

 

 中二病患者だった過去を消し去る方法その4  やっぱり死んでみる

 

「丹生谷っ! 絞まってる、絞まってるっ! 俺の首が絞まっているからぁ~~っ!!」

「首絞めているんだから当然でしょっ! 富樫くんを殺して私も死ぬの~~っ!!」

 自棄になった丹生谷は顔がくっ付きそうな近距離から俺の首を本気で絞めに掛かる。

女の子としては背が高く、チア部で体力もある丹生谷の攻撃はかなり厳しい。下手をしたら本気で死ぬ。

「ぐっ、ぐるしい……」

 助けを求めるべく俺は六花と凸守を見た。

「ゲッフッフッフ。愚かな一般人同士が愚か過ぎる戦いを繰り広げているのデ~ス」

 凸守は死に瀕した俺を見てニタニタ愉悦に浸っている。

「勇太……顔近い……フン」

 一方で六花は丹生谷に殺されそうな俺を見ながら何故かとても不機嫌な表情を浮かべて顔を逸らしてしまった。一体何故だ?

「とにかく……すぐに死ぬ系に走るのは禁止~~~~っ!!」

 丹生谷の両肩を掴みながら最大限の力を篭めて彼女の体を引き剥がす。その過程でシャツのボタンが幾つか飛んだがこの際仕方がない。命の方が大事なのだから。

「でも、でも、小鳥遊さん達も富樫くんも殺しちゃいけないんじゃ……」

「俺を殺す必要は元からないよね?」

「とにかく、殺しが駄目だと言うのなら……誰もいない土地で新生活を始めるしかないじゃない」

 俺を殺す不必要性を認めることなく丹生谷は再び嘆いてみせた。

 

 中二病患者だった過去を消し去る方法その5  誰もいない地に旅立つ

 

「だけど、この学校を選んだ理由って誰も知り合いがいない学校をわざわざ選んだんじゃなかったっけ? 俺もだけど」

「そうだった。なのに私は小鳥遊さんとあの中坊にこの学校で出会ってしまったのよ……うっうっうっ」

 丹生谷は床に崩れ落ちて嗚咽を漏らし始めた。

「その、元気出して……」

 orzな姿勢で崩れている丹生谷の肩に手を乗せる。

「私以上にさぶかった人に同情されたくないっ!」

 乗せた手を振り払われる。

 丹生谷とのフラグが立つことは残念ながらなさそうだった。

「勇太……ムムム」

 そして凸守との戦いを中断した六花は何故かとても不機嫌な顔を続けていた。

 

 

 

 

 丹生谷との攻防戦は六花と凸守の中二バトルを中断させた。

 そして眠れる部室の美女を呼び起こしたのだった。

「ふわぁ~。よく寝た~」

 この同好会唯一の2年生部員である五月七日(つゆり)くみん先輩が目覚めたのだ。

「後2時間ぐらい寝ればよく寝たって言えるよね~」

「もうよく寝たから起きたんじゃないんですか!」

 くみん先輩に早速ツッコミを入れる。

 先輩といい六花といい凸守といいボケばかりが集まるのがこの部の掟なのか。

「勇太くんはツッコミばっかりだよね~」

「デスデスデ~ス。ダークフレイムマスターはツッコミの輪廻に囚われているのデ~ス」

「しかも勇太のツッコミはとても痛い。暴力で女を従わせるのがダークフレイムマスターのやり方」

「確かに富樫くんって一々うるさいわよね。小物臭が漂っているって言うか」

「み、みんなして酷い……」

 床に崩れ去って先程の丹生谷と同じくorzな姿勢を取る。

 みんな結構俺のこと酷く評価してたんだな。

 女4人で男は俺だけって環境に密かにハーレムのようなものを感じていたのだけど……。

「少年はこうして現実を知って大人になっていくのでしたマルっと」

 涙が、涙が毀れてしまいそうだ。

「勇太くん、あんまり落ち込まないで」

 落ち込んだ俺の肩にくみん先輩が優しく手を置く。

 今そんな優しくされたら……俺は先輩に惚れてしまいますよ。

「あっ……う~」

 手を伸ばそうとした六花がその小さな手を引っ込めてとても不機嫌な表情になっている。why?

「こんな時こそ昼寝、だよ♪」

 そして先輩はいつでも昼寝の勧誘に忙しかった。

「昼寝、面白いよ♪」

 朗らかな笑みを浮かべながら枕を差し出してくる先輩。

 いつもだったら昼寝の誘いはやんわりと断っている。

 でも、今日は何故だかとても魅力的な提案に思えた。

「そうか。一日中寝てる生活なら誰にも会わずに済む。中二病患者を見せられる危険も中二病だった自分を露見することもない。最高じゃないか!」

 

 中二病患者だった過去を消し去る方法その6  引き篭もって夢の世界の住民になる

 

「中二病に怯える心配をなくす為には自分の部屋に引き篭もってずっと寝てれば良いんだ。なんだ、簡単なことじゃないか♪」

 心が一気に晴れ渡った。

 遂に俺は正解に辿り着いた。

「1日中寝ている生活って素敵だよね~♪」

「そうですよね~。本寝、二度寝、昼寝、夕寝、本寝って繰り返す人生は最高ですよね~」

 くみん先輩の賛同も得た。

 よし、これで全ては解決……。

「その解決法はちょっと嫌だな」

 否定の声を出したのは丹生谷だった。

「だってそれじゃあ一般人の生活を送れないもの。ただの引き篭もりじゃないの」

 クラスコミュニティーの中心にいる丹生谷は俺の案を明確に否定してみせた。

「ゲッフッフッフ。偽一般人の上に引き篭もりなんてこの世最低の存在なのデ~ス」

 お腹を抱えて大笑いする凸守。コイツに笑われると中二病と引き篭もりはどちらが良いか分からなくなる。

「私も……反対だ」

 ムスッとした表情のまま六花が続いた。

「勇太が引き篭もってしまったら……会えなくなってしまう」

 一瞬六花の頬が赤く染まった気がする。まあ気のせいだろう。

 しかし、昼寝大好きの先輩以外からこれだけ不評だと引き篭もり作戦は諦めないとならないだろう。

 引き篭もりに対するイメージは相当に悪いようだ。

 イメージ……うん? 

 あっ、そうかっ!

 

「そうだ! 別のイメージを俺に植え付けてしまえば恐れることは何もないんだ」

 俺は自分を思い出す時、そして中学時代の俺を知る奴から見れば『中二病』というレッテルを貼ることで俺のほぼ全てが説明が出来てしまう。

 でも高校生の俺が別のレッテルを得ることが出来れば……。

「一般人じゃない。もっと凄いレッテルが俺には必要なんだっ!」

 

 中二病患者だった過去を消し去る方法その7  別のレッテルを貼ってみる

 

「俺の新しいレッテルにイケメン、とかどうだろう?」

 自信満々に提案してみる。だが……。

「あはははは~。富樫くんはボケも上手なんだね~」

「デスデスデ~ス。寝言は寝てから言うものなのデ~ス」

「さぶっ」

 女性陣の評価は散々だった。

「……私は……良いと……思う」

 六花も何か言っているが声が小さくてよく聞き取れない。

 まあどうせろくな内容じゃないだろう。

「じゃあ、どんなレッテルなら俺に似合うと?」

 女性陣は声を揃えて

「「「「ツッコミ大王(だよ~)(デ~ス)」」」」

「そのレッテルは嫌ぁああああああああああぁっ!!」

 俺を再び悲しみの絶望の淵へと突き落とした。

 そして絶望の果てに俺は暗黒に染まった。

「ソウルジェムが魔女を産むなら……みんな死ぬしかないじゃないか~~っ!!」

 

 中二病患者だった過去を消し去る方法その8  だからやっぱり死んでみる

 

「死んだらお昼寝出来なくなっちゃうよ~」

 くみん先輩は暴れ始めた俺の頭に枕を押し付けた。癒し系イオンの発生で俺の中の憎悪と悲しみが薄らいでいく。

「デスデスデスっ。ダークフレイムマスターともあろう者が安易に死を口にするなど愚か極まるのデ~ス」

 凸守が笑いながらツインテールで俺の体を締め上げて来る。自殺は物理的に不可能になった。

「さぶっ」

 そして丹生谷の言葉が死にたがる俺の暗い心の炎を冷気で吹き飛ばす。

「勇太は……ずっと私と一緒にいるの。だから、死んじゃダメ」

 六花はきっと闇の契約か何かのことを言っているのだろう。

 こんな時でも初期設定を忠実に守る奴だな。

 何か、もう気力が根こそぎ刈り取られた。死ぬ気も失せた。

 

「しかし、今のダークフレイムマスターの醜態は偽モリサマーの先程の醜態と全く同じだったのデ~ス。腐れ一般人同士お似合いだったのデス」

 俺を拘束したまま凸守がとても素敵なことを言ってくれた。

「俺と丹生谷が同じ。お似合い……」

 素敵ワードが2つも並んでいる。

「そうか。俺と丹生谷は同じ境遇にいる。同じ悲しみを抱えた者同士が傷を舐め合いながら愛に溺れる関係になる可能性だってある筈だっ!」

 全てを忘れて互いを求め合う刹那的で魅惑的な生。最高じゃないかっ!

 

 

『ねえ富樫くん……私を滅茶苦茶にして。全てを忘れさせて欲しいの』

 制服を脱ぎ捨てて下着姿となった丹生谷が泣きそうな瞳で俺に縋って来る。彼女の心はもう壊れてしまう寸前だった。

 このままでは自暴自棄になって何を始めるのか分からない。

 そしてそれは俺も同じだった。

『俺に全てを任せて。俺だけを見ていればそれで良いから……』

 俺は丹生谷を抱き締めてそのままベッドに押し倒した。俺は衝動のままに彼女を求めた。

 

 それからどのぐらいの時間が過ぎ去っただろう?

 俺と丹生谷……森夏はずっとベッドの上で時を過ごしていた。片時も離れることなく。

『ねえ、勇太。今日は学校行かなくて良いの?』

 俺の隣で手を繋ぎながら寝ている森夏が尋ねた。その森夏は先程までの行為で息が上がり顔が火照っている。凄く色っぽい表情を浮かべていた。

『みんなが俺達のことを忘れるぐらいまではこうして2人で過ごしていよう』

『うん。そうだね。私もそれが良いと思ってた』

 キスを交わして互いの意思を確認する。

 森夏と中二病患者だった傷を舐め合い愛し合う生活。

 この生活に未来がないことは分かっている。

 でも、それでも俺達はこの瞬間を永遠に続いて欲しいものと願っていた。

 それが俺達にとって唯一の安らぎなのだから。

 

 

 中二病患者だった過去を消し去る方法その9  似た者同士傷を舐め合って愛に溺れてみる

 

「あり得ないから」

 丹生谷はごく自然なイントネーションで冷酷過ぎる見解を示してくれた。

 何の躊躇もない完璧なフラグ折りだった。

「ですよね~……」

 とても泣きたくなった。

「フンッ」

「痛いっ!? 何をするんだ、六花っ!」

 六花にはバトルで使われていたモップを投げ付けられた。一体何だってんだ?

 女って本当によく分からない。

 

 

 

 一つの恋が終わった。

 丹生谷は俺の手には届かない遠過ぎる存在だった。

 そう。俺と丹生谷の間に縁なんか……。

『お前はその程度の困難で諦めてしまうようなつまらない男だったのか? 一度狙った女を諦めるなどダークフレイムマスターのすることか?』

 今、誰かが俺の心の中で訴え掛けてきた気がした。

 もっと具体的には中二病な過去の俺が訴え掛けて来た気がした。

 中二な俺の囁きなど普段であれば最初に無視する所のモノ。

 だけど丹生谷を諦めるなというアドバイス内容は今年最大のヒットだった。アカデミー賞をあげても良いぐらいに。

「うん。何であれ、諦めたらそこで試合終了だよね」

 

 中二病患者だった過去を消し去る方法その10  諦めたらそこで試合終了

 

 という訳で復活を遂げる。

 一般人にも通じる奥の深いアドバイスだった。

 俺と丹生谷はまだ知り合って1ヶ月ばかり。フラグならこれから幾らでも立つ筈だ。

「ムッ」

 そんな俺をさっきから六花は不機嫌な表情で見っ放し。何を怒っているのかまるで分からない。中二病少女の心の内は本当に難しい。

「デスデスデ~ス。それにしても凸守にはダークフレイムマスターと偽モリサマーが何をしようとしているのかまるで分からないのデ~ス」

 そしてうざい喋り方にそろそろ慣れたい凸守が口を開く。

「何が分からないんだ?」

「お前がダークフレイムマスターという真実の自分を隠そうとしている理由がデ~ス」

 凸守は心底不思議そうに大きく首を捻った。

「何でって、そんなの俺も丹生谷ももう中二病が治ったからに決まってるだろ」

 中学時代は今となっては忌まわしき過去でしかない。

「何を言っているのデスか? 凸守にはお前の本性がダークフレイムマスターから何も変わっていないことが丸分かりなのデ~ス」

「馬鹿なことを言うなっ!」

 俺があの忌まわしき中二病患者時代と何も変わっていないだと?

 そんなことがあって堪るものかっ!!

「貴様のような戯言しか垂れ流さない下級使い魔如きこの世に存在する価値さえない。闇の炎に抱かれて死ねっ!!」

「戦略的後退なのデ~ス」

 凸守は俺を拘束していた髪の毛を解きながら大きく後ろに向かってジャンプした。

「へっ? 俺は今何と言った?」

 凸守の動作もあれだが、俺にとっては自分の言動の方が理解出来なかった。

「何でまた中二病な俺が!?」

 それはあまりにもショックな出来事だった。

 全否定したい自分が怒りに任せて再び出てしまったのだから。

「勇太……格好良い」

 六花が瞳を潤ませて俺を見ている。

 それはダークフレイムマスターを心酔している目に間違いなかった。

 いかん。このままではまたダークフレイムマスターとして高校3年間を過ごす流れに向かってしまいかねない。

何としてでもそれは阻止しなければ!

「俺はダークフレイムマスターを捨てたんだ!」

「否っ! なのデ~ス。ダークフレイムマスターはダークフレイムマスターを捨てられるわけがないのデ~ス」

「万一ダークフレイムマスターが俺の心から完全に消え去らないにしても、俺は一般人として生きたいんだっ!」

 俺と凸守の舌戦。だが、凸守は俺の心理を見透かしたように新たな攻撃を放ってきた。

「腐れ一般人として生きるとお前に何か良いことがあるのデスか~?」

「そりゃあ、一般人として生きれば友達も出来るし」

「友達なら部活仲間が既にここに4人もいるのデ~ス」

「一般人になれば可愛い女の子ともお近づきになれるしさ」

「美少女ならここに4人も集まっているのデ~ス」

 凸守に言われて気付く。

 確かにこの部室には美少女が4人も集まっている。こんな幸運、俺の人生で今までなかったものだ。

「お前の周りに美少女が集まっているのも、お前がダークフレイムマスターなればこそなのデ~ス。お前がツッコミしか能のない腐れ一般人なら誰1人として寄って来ないのデス」

「そ、それは……」

 悔しいけれど凸守の言う通りだった。

 六花が俺に興味を示して付き纏って来るようになったのは俺がダークフレイムマスターだったから。

 そしてその六花と行動を共にすることでくみん先輩、凸守と知り合った。

 丹生谷がこの部室に顔を出すようになったのも凸守絡みだ。

 そうやってみると、中二病を媒介に俺達が繋がっているのは間違いなかった。

 

「だけど俺は一般人として生きて友達を作って、女の子と恋する普通の高校生活を送ってみたいんだ」

 結局俺が浮かべる一般人の生活とはそういうものを意味する。特に恋愛には惹かれるものがある。

「……勇太、恋がしたいのなら私が……」

「つまりダークフレイムマスターは、この同好会一の美少女である凸守ルートに入りたい。そういうことなのデスね?」

「いや、お前はないから」

 首を横に大きく振って答える。

 入るなら丹生谷ルート。またはくみん先輩ルートだろう。即ちnot中二病ルートだ。

「失礼な奴なのデ~スっ! アンリミッテッド・ミョルニルハンマーっ!!」

 髪を振り回して来る凸守。

「地味に痛いから、その攻撃っ!」

 メデューサバージョンは幾つもの髪の房が体の色々な所に当たって微妙な痛さを提供してくれる。

「凸守……ライバル。ムムム」

 六花は今度凸守の方を睨んでいる。凸守の攻撃に何か新しい中二要素を見出したのだろうか?

「とにかくお前は、ダークフレイムマスターとして生きた方が女の子との縁を築けるのデス。その程度のことは自覚しやがれなのデス、この偽腐れ一般人がっ!」

「ダークフレイムマスターとして生きた方が女の子にモテる……か」

 普通だったら笑い飛ばす所。だけど、こうして現にこの部室に美少女が4人も集まっている以上、一蹴には出来ないものを含んでいるのも事実だった。

 

 中二病患者だった過去を消し去る方法その11  いっそ開き直って中二病患者として生きる

 

「中二病患者に戻ったら、私は一生富樫くんのことを軽蔑しながら生きるから」

「ですよね~」

 中二病患者としてのスクールライフはあまりにもリスクの高い生き方だった。

「富樫くんは今のままで良いと思うよ~。無理して変わる必要ないって~」

「ですよね~」

 くみん先輩にもやんわりと否定される。

 先輩も六花と凸守のやり取りに対して深く賛同しているわけではなさそうだった。

 やはりそれが一般人クオリティーか。

「ゲッフッフッフ。ダークフレイムマスターがダークフレイムマスターとして覚醒しダークフレイムマスターとして生きるのは至極当然の定めなのデス」

 重度の中二病患者は不敵に笑いながら俺に同様の生き方をすることを勧めてくる。

「私も……勇太はダークフレイムマスターとして再覚醒して欲しい。そうしたら私と…」

 六花が恥ずかしそうに瞳を伏せながら小さい声で意見を述べた。

 中二病陣営はあくまでも俺にダークフレイムマスターとして生きて欲しいらしい。

 票数で言えば2対2。

 けれど、部室の外に出れば多数対2。

 今の状況が女の子いっぱいで俺にとって思いのほか幸せなのは確かだろう。

 けれど、それを全て中二病のおかげとして考えるのはあまりにも危険すぎることだった。

「やっぱダークフレイムマスターとしてハーレムを築こうとするのはなしだな」

 中二病とどう接するかで悩んでいる今のポジションがこの部室の状況を作り出したのは間違いない。

 それに女の子にモテたいから中二病になるのは何か違う気がする。ダークフレイムマスターはそういう存在じゃない。

 そういう存在として消費しようとするのは間違っている気がする。

 

「富樫くんがハーレムを築くというのは悪い冗談だとして」

 さらっと酷いことを言う丹生谷。照れ隠し要素がどこにも見えないところが涙を誘う。

「中二病だった過去は消せない。中二病として再度生きることも選べないんじゃ結局現状維持のままじゃない」

 丹生谷の顔にはいっぱいの悔しさが浮かんでいる。

 確かに今日あれだけ白熱した改善プログラムを考えていたことを思うとその進展のなさはあまりにも寂しい。

 うん? あれ?

 何かこの展開、やっぱり危険なような気がするぞ。

 凄く…死の予感がするっ!

「やっぱり……みんな死ぬしかないじゃないのよぉ~~っ!!」

 丹生谷が再度死にたい病の発作を起こした。

「やっぱりそう来たか~~っ!!」

 

 中二病患者だった過去を消し去る方法その12  だからやっぱり死んでみる

 

 再び暴れ出す丹生谷。

 俺は慌てて羽交い絞めに掛かる。

「私の昔の顔を知る奴らをみんな殺して、綺麗な世界なするの~~っ!!」

「殺人ダメっ! 非暴力の世界を実現するんだ!」

 必死になって押さえつける。丹生谷も今日1日の鬱憤が溜まったからか、抵抗がさっき以上に激しい。

「わ~。勇太くんと守夏ちゃんは仲が良いね~。むにゃむにゃ」

「どう見ても大変な状況ですから! って、寝ないで下さ~いっ!!」

 活動限界を迎えたのかくみん先輩は枕に顔を突っ込んで眠り始めてしまった。

「そこの中二病患者ズ。ボケっと見てないで、丹生谷を止めるのを手伝えっ!」

 大声で叫ぶ。

「何故この凸守が腐れ一般人の醜態に関わらないといけないのデスか?」

 丹生谷のリーチ内に入らないように距離を取りながら凸守は面倒くさそうな表情を浮かべている。

 中二バトルの実践者はマジバトルには向いていなかった。

「勇太は……こうやって暴れたら私の場合も羽交い絞めにして止めてくれる?」

 何故か丹生谷を羨ましそうに見ている六花からわけの分からない質問が飛んで来る。

「六花の場合は脳天をチョップして止めてやる。だからさっさと丹生谷を抑えるのを手伝え」

「…………フンッ」

 六花はそっぽを向いてしまった。

「みんなを殺して私は生きるの~~~~っ!!」

「殺しはダメ~~~~っ!!」

 結局俺は完全下校時刻になるまで1人で丹生谷を抑えつける羽目に陥った。

 

 

「はぁはぁ。時間と体力を無駄に消費した気がするわ……」

「はぁはぁ。俺も、だよ……」

 夕暮れに染まる部室。

 2人の高校生男女が体力をすり減らして肩で息をしながら畳の上に寝転がっていた。

 だけど少しも色っぽくないのがこの光景の特徴だ。

「あ~よく寝た~。晩御飯だからみんなそろそろ帰ろうよ~」

 俺達の騒ぎにも関わらず昼寝を続けていたくみん先輩がようやく目を覚ました。

 きっとお腹が空いたからに違いない。

 ともあれ先輩の一言で今日の部活はお開きとなった。

「結局、中二の過去を消す良い案は出なかったわね」

「まあ、1日考えたぐらいじゃ上手くいかない場合もあるって。ネバーギブアップの精神で探すしかないって」

 

 中二病患者だった過去を消し去る方法その13  ネバーギブアップ

 

 今日は無理だった。

 でも、明日こそ中二病患者だった過去を消し去る良い方法がみつかるに違いない。

 そう信じて生きていこう。

「勇太……一緒に帰ろう」

 六花が俺の背中から制服の袖を引っ張りながら提案して来る。

「そうだな。帰るか」

 俺が前、六花が後ろにひっつきながら帰り始める。

 俺と六花は同じマンションの下の部屋と真上の部屋に住んでいる。

 従って帰る方向どころか同じ場所に帰ると言っても過言ではなかった。

 そんな事情があって俺と六花は部活動がある日は一緒に帰るのが普通だった。

「あ~あ。どうすれば思い出したくない過去を消せるんだろうな~」

「……消さなくて良い」

 俺の独り言に対して背後の六花は小さく何かを呟いた。そして俺の腰に両手を回すと顔を埋めてきた。

「……勇太がダークフレイムマスターでいてくれたから私は貴方に出会えた。だから、消さなくて良い」

 背中にしがみついたまま六花は更に小さな声で何かを言っている。

 どうせまた中二病な何かだろう。

 でも……。

「もうしばらく、こんな日常でもいっか」

 六花と一緒に歩くと夕日がいつもよりちょっとだけ綺麗に見えた。

 

 

 了

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
1
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択