No.317912

Fate/Zero イスカンダル先生とウェイバーくん

Fate/Zero二次創作。
別の物を書こうとしてライダー組のセリフをタイピングしてついでにできた(多分)不定期連載作品。
ゼロのメインヒロインウェイバーくんの物語。セリフに地の文つけただけが約9割を占めてます。
性格も声も似ているじんタンと融合してもらっただけで特にない秩父の冬を描いた作品。

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2011-10-14 00:18:08 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:4673   閲覧ユーザー数:3733

 

Fate/Zero イスカンダル先生とウェイバーくん

 

登場人物紹介

 

イスカンダル先生(CV:大塚明夫):征服王。性格は豪快にして優しい。現代の悩める若者たちに喝と愛を与える人生の先生。

 

ウェイバー・じんタン(CV:浪川大輔ときどき入野自由):現代を生きる悩める若者。実力はそれなりにあるがプライドが高すぎて学校に馴染めずに不登校。世の中を愚痴ってばかりいる。背が低い。

 

 

 

 

 冬の僕(サーヴァント)は相当に獰猛だ。

 

「バカァっ! シャッター蹴破って出て来るなんて何考えてるんだっ!」

 ライダーの奴、図書館からこっそり本を拝借して来るだけなのに扉を壊すなんて何考えてんだっ!

 せっかく大騒ぎにならないように僕が細心の注意を払ったって言うのに。

「何で入った時みたいに霊体化しないんだよっ!」

「霊体のままではこれを持って歩けんではないか」

 ライダーが図書館より持って来た本を僕に見せる。

 侵入することだけを考えて帰って来ることを考えてなかったのは僕の失態だった。

 今の音で誰かに気付かれたんじゃないだろうか?

 厄介ごとは避けたいのに。

「そううろたえるでない」

 落ち着かない僕をライダーが嗜める。

 2mを越していそうな大柄な男に話し掛けられるのはそれだけで大迫力。背の小さな僕はどうしてもそれだけで緊張してしまう。

「まるで盗人か何かのようではないか」

 ライダーの言葉に呆れ、同時に腹が立つ。

「盗人じゃなくて何なんだよっ! お前っ!」

 コイツ、学校でそんな簡単なことも習ってないのか?

 いや、ライダーの生きていた時代にまともな教育制度なんてある訳がないんだけど。

 それ以前に世界史の教科書にも出て来る有名な征服王にそもそも常識が通じるのかも怪しい。

「大いに違う」

 そしてコイツは僕の意見を堂々と否定しやがった。

「闇に紛れて逃げ去るのなら匹夫の夜盗。凱歌と共に立ち去るのなら、それは征服王の略奪だっ」

 ライダーは得意げで嬉しそうな表情を見せながら僕に持って来た地図を渡した。

「チッ! これで良いだろうっ!」

 コイツのこういう傲慢不遜な態度、すげぇ気に食わない。

 ほんと、何様のつもりなんだ?

「さあ消えろっ! 今消えろっ! すぐ消えろ~っ!」

 ライダーは僕のサーヴァントの分際で態度がでか過ぎる。

 ムカつくんだよ、本当にっ!

「おうっ。では荷運びは任せた。くれぐれも落とすなよ」

 そしてライダーは僕の怒りなどどこ吹く風で平然とした表情を見せながら姿を消した。霊体化したのだ。

「ああ~もぉ~っ! どうしてこうなるんだよっ!」

 僕は自分の優秀さを示したくて聖杯戦争に参加した筈なのに。

どうしてサーヴァントにまで下に見られなきゃいけないんだよっ!

「ムカつく~~っ!」

 僕の叫び声は幸いにして誰かを呼ぶことはなかった。

 

 

 

 そもそも僕、ウェイバー・じんタンが魔術師になったのは高校受験に失敗したからだった。

 王大付属高校を目指した僕だったが、色々あって試験当日にベストを尽くすことができずに見事不合格。

 代わりに最底辺の、動物園かと勘違いするような低脳な連中ばかりが集まると噂の緑ヶ丘高校、通称ミド高に入学することになっちまった。

 そして実際に入学してみれば、評判に違わぬ屑どもばかりが通う学校だった。

 入学してすぐに僕は嫌気がさした。

 学校通うのをすぐにやめようと思った。

 けど、やめなかった。

 それはこの学校が持つ最底辺の動物園という以外のもう1つの特色の為だった。

 

「魔術師、か」

 ミド高の特色、それはこの学校に通って鍛錬を積めば魔術師になれるというものだ。

 ミド高は入学者数の減少に歯止めを掛ける為に魔術師養成という教育プログラムの目玉を打ち立てたのだ。

 何でも、文月学園とかいう学校の試験召喚獣戦争とかいう制度を真似して学校の人気回復を図ろうとしたらしい。

 けれど、その試験召喚獣制度は設備投資に莫大な金額が掛かるとかで頓挫。

 けれどオカルト的な要素だけが残って魔術師養成学校への転身になったらしい。

 よくは知らないけれど、校長がタウンページを眺めていたら偶然魔術協会の電話番号をみつけ、連絡した所あっさり講師を派遣してくれることになったらしい。

 魔術協会も不況の荒波には勝てず、正規雇用で雇うなら魔術師を世界中に派遣するということで両者の利害が一致したそうだ。

 こうしてミド高は本物の魔術師を講師に迎えて、魔術師の育成に本格的に乗り出した。

 そして僕もまた絶望しか感じないミド高生活の中に魔術師になるという希望を見出したのだった。

 見出した。見出したのだけど……派遣されて来た講師というのが最悪な奴過ぎた。

 

『魔術の世界では、出自によってその優劣が概ね決定されてしまう。何故なら魔術の秘法は一代でなせるものではなく、親は生涯を通じた鍛錬の成果を子へと引き継がせる為である。代を重ねた魔道の家紋ほど権威を持つのはその為だ」

 講師の若い男は名前をケイネス・エルメロイ・アーチボルトと言った。

 魔術の名門の出だか何だか知らないけれど、その出自を鼻に掛けるすっげぇ~ムカ付く奴だ。

 そしてケイネスの奴は、血筋に関係なく方法さえ工夫すれば誰でも一流の魔術師になれると説いた僕の論文を頭から否定した。

『ハッキリ言おう。ここに書かれていることは全て妄想に過ぎん』

 その上ケイネスは僕の論文を教卓の上に叩き付けやがった。

『ウェイバー・じんタンくん。私の学生の中にこのような妄想を抱く者がいたとは……実に嘆かわしい』

 そしてアイツは僕のことを生徒たちの前でバカにしやがった。

『先生。僕は旧態依然とした魔術協会への問題提起として……』

『ウェイバーくん。いいかね。魔術協会の歴史から見れば君はまだ生まれたばかりの赤ん坊にも等しい。親に意見する前にまず言葉を覚えるのが先じゃないかなあ?』

 沸き起こる失笑。

『バカにしやがって! バカにしやがって! バカにしやがってぇ~っ! あれが講師のやることかぁっ!』

 ケイネスにバカにされたこと。

 動物園のサル並みの知能しかないクラスメイトたちにバカにされたこと。

 僕の才能を認めないバカどもを見返してやること。

 それが、僕が聖杯戦争に参加することを決意した直接的な動機となった。

 

 その日から僕は学校を休んで聖杯戦争の準備を始めたのだった。

 

 

 

 

 僕はライダーが持って来た本を両手に抱えながら人気のない橋の下へと走って移動した。

「はぁ~はぁ~はぁ~。召喚に成功したってのに、何で僕がこんな目に……」

 最近は部屋に閉じ篭ってばかりだったので走るのは苦手だ。

 しかも本来は召使いというべきサーヴァントにこき使われているのだから気分も滅入る。

「大体何なんだよ、この本は?」

 ライダーが持って来た本の題名を確かめる。

 『埼玉県地図』『楽しいムーミン一家』『ブラックジャック』

 ライダーが何をしたいのかまるでわからない。

 悩んでいると、実体化したライダーが急に後ろから僕が運んできた本を取り上げた。

「戦の準備をすると言っただろう。戦に地図は必要不可欠だからな」

 ライダーが座りながら埼玉県の地図を開き始める。

 っていうか、楽しいムーミン一家とブラックジャックは何故持って来た?

 

「おい坊主、マケドニアとペルシャはどこだ?」

 ライダーが血迷ったことを質問して来た。

 埼玉県の地図に外国が載っている筈がない。

 コイツ、本当はアホなんじゃないか?

 ライダーはそんな訝しがる僕を無視してペラペラと地図をめくっていく。

「何だその態度は? 僕はお前のマスター……」

 最後まで文句を付けることができなかった。

 ライダーが凄い眼光で僕を睨んで来たのだ。

「うっうっ……」

 野生の獣。ううん、それよりももっと怖い鬼に睨まれたような感じになって僕は尻餅をついてしまった。

「貴様が余のマスターだということぐらいちゃんとわかっておるわ。ちゃんと契約も交わしたではないか」

 何でコイツはサーヴァントなのにこんなに偉そうなんだ?

「う、うん」

 でも、とてもおっかなくて僕には反論できない。

「それより、かつての余の領土はどこかと訊いておるのだ」

 ライダーは座り直しながら再び僕に尋ねる。

 僕をビビらせてくれたお礼に嘘を教えてあげようと思う。

 フッ。僕の口車に欺かれるが良い。征服王・イスカンダルっ!

 

「この辺かな?」

 埼玉県の東南部に位置する川口市の辺りを指差してみる。

 ライダーは僕が指差した地点をジッと見ていた。

 そして──

「ぐわっはっはっはっはっははぁ」

 楽しげに笑い始めたのだ。

 それは僕にとってはあまりにも予想外の行動だった。

「小さいっ! あれだけ駆け回った大地がこの程度か。だが良い。胸が高鳴るっ!」

 ライダーは地図を掲げて見ながら実に楽しそうだった。

 大地の果てまで征服したと称えられた帝国の領土を自分で小さいと言って豪快に笑い飛ばす。コイツ、本当におかしな奴だ。

 僕だったら自分の帝国の領域がどれほど広大で偉大だったのか熱弁している筈なのに。

 まあ、そもそもライダーが見ている地図はヨーロッパからインドに至る地図じゃなくて埼玉県のなんだけど。

「では坊主。今我々がいるのはこの地図のどこなのだ?」

「ここだよ」

 秩父市を指差す。

「ほほぉ。楕円の大地の反対側か。うん。これまた痛快。これで戦の指針も固まったな」

 顎に指を当ててドヤ顔を見せるライダー。

「指針って?」

 僕にはコイツの考えていることがどうしてもわからない。

 そしてライダーは僕の疑問を置いたまま左手を高く掲げてみせた。

「まずは世界を半周する。東へ、ひたすら東へ。通り掛かった国は全て落としていく」

 ライダーは拳を膝に下ろし、ついで腕を組んだ。

「そうやってマケドニアに凱旋し、故国のみなに余の復活を祝賀させる。フフフフフッ。心躍るであろう」

 ドヤ顔のライダーが僕を横目に見る。

 その自信満々にして意味不明なプランに僕は呆れ、そして怒った。

「お前、何しに来たんだよっ? 聖杯戦争だろ。聖杯っ!」

 コイツ、自分が何の為に召喚されたのかわかってんのか?

 大体、川口市はマケドニアじゃないのだから、辿り着いた所で誰も祝福しないっての。

 だけどライダーは僕の抗議は受け流してマイペースに右の拳で左の手のひらを叩いた。

 

「そうだ。聖杯と言えば最初に問うておくべきだったな」

 ライダーが僕を見た。

「坊主。貴様はどう聖杯を使う?」

「な、何だよ。改まって。そんなこと訊いてどうする?」

 それはとても困る質問だった。

 何しろ、深く考えたことのない問題だったから。

「もし、貴様もまた世界を獲る気なら……即ち、余の仇敵ではないか。覇王は2人といらんからな」

 コイツ、遠まわしにいずれ僕の敵になると言っているのか?

 けど……

「世界征服なんて……僕が望むのはなあ……」

 僕は世界征服なんて野蛮なことは望んじゃいない。

 じゃあ、何を欲しているのか。

 俯きながら考える。ピンと閃く回答。

「ひとえに正当な評価だけだ」

 答えは一つしか浮かばなかった。

「ついぞ僕の才能を認めなかったミド高の連中に考えを改めさせることだっ!」

 そう、僕は、僕を認めない低脳な奴らに自分の力を示して崇め立てさせてやりたいんだっ!

 アーチボルトの野郎を、クラスメイトのバカどもを笑い飛ばしてやりたい。

 それこそが、僕が聖杯戦争に参加する理由だっ!

 

「小さいわっ!!」

 僕のそんな切実な願望に対するライダーのリアクションは強烈な張り手だった。

「うわぁあああああぁっ!?」

 僕は大きく吹き飛ばされた。大げさじゃなくて5mは飛ばされたんじゃないかと思う。

「小さいっ! 狭いっ! アホらしいっ!」

 そして僕を引っ叩いた張本人は喝を入れながら怒っていた。

 僕の心意気はライダーに全否定されたのだ。

「戦いに賭ける大望が己の沽券を示すことのみだと? 貴様それでも余のマスターかっ! まったくもって嘆かわしいっ!」

 ライダーに引っ叩かれた頬が痛い。

 でも、この痛みは引っ叩かれたからだけじゃなさそうだった。

 胸の奥の方からズキズキする。

「そうまでして他人に威権されたいと言うのなら……」

 ライダーが僕の首根っこを掴んで、ひょいっと持ち上げる。

 まるで猫みたいな扱いよう。

 コイツ、本当に僕のことを何だと思ってやがるんだ。

「貴様はまず、聖杯の力で後30cmほど背丈を伸ばしてもらえ」

 それはとても屈辱的な言葉だった。

 でも、僕はすぐには言い返せなかった。

 ライダーから滲み出る威圧感は僕に口を開かせるのを拒絶した。

 そんな僕を無視してライダーは座り直して地図を見始めた。

 僕のことなんかまるでまるで最初から眼中にないかのように。

 その様を見ていたら再び腹が立ってきた。

 

 このぉ~っ! たかがサーヴァントの分際でぇっ! 思い知らせてやるぅっ!

 

 右手をジッと見る。

 僕の右手の甲には赤い幾何学模様が浮かんでいる。

 これこそが僕がマスターである証。

 僕がライダーよりも上の存在である証。

 

 令呪に告げる。聖杯の規律に従いこの者、征服王イスカンダルに……

 

 呪文の詠唱を途中でやめる。

 つい、カッとなって大事な令呪をつまらないことで使ってしまう所だった。

 この令呪というのは、サーヴァントにどんなことでも命令できる便利コマンドである代わりに大きな制約も存在する。

 

 落ち着け、ウェイバー。マスターが与えられた令呪。サーヴァントを強制的に操れるのはたったの3回。令呪を全て失ったら、僕はコイツを制御できなくなる。

 

 即ち、令呪を3回使い切ってしまえば、僕とコイツはマスターとサーヴァントの関係ではなくなる。

 それはつまり令呪がなくなった瞬間にライダーが僕を殺す可能性だってあるということ。

 僕とライダーは惹かれ合って主従関係を結んだのではない。召喚されたのがライダーで召喚したのが僕だったという偶然の産物の絆に過ぎない。

 僕はまだライダーを信頼してもいないし、ライダーも僕を信頼していない。そういう関係なのだ、僕たちは。

 だからこそ激情に駆られて令呪を使ってはいけない。

 そしてコイツとの関係に常に気を配らなくてはならない。

 

「聖杯さえ手に入るなら、それで文句はない」

 歩み寄りの印にライダーの隣に座る。

「その後でお前が何をしようと知らない」

「ああ~。もう。聖杯はちゃんと余が手に入れてやる」

 けれど、せっかく僕が歩み寄ろうとしたのにコイツは鬱陶しそうな表情を見せる。

 本当にマイペースなヤツ過ぎる。

「随分自信があるみたいだけど。お前、何か勝算はあるのか?」

 ライダーは僕の顔をキツイ視線で見た。

 その瞳は腹を立てているようであり、待っていましたとばかりに期待に満ちた目のようにも見えた。

「つまり貴様は、余の力が見たいと?」

 ライダーが怖い表情のまま顔を近づけて来た。

 僕はその顔が怖くて不覚にも顔を引いてしまった。

 そしてすぐにサーヴァントに恐れをなした自分が腹立たしくなった。

「当然だろ! お前を信用していいのかどうか証明してもらわないとな」

 わざと大声で怒鳴った。

 自分でもこういうのを負け犬の遠吠えと言うのだとは知っていた。でも怒鳴らずにはいられなかった。

 僕のプライドが怒鳴ることを要求したのだ。

 

「フンッ」

 ライダーは剣を鞘から抜いて虚空を見る。

「征服王イスカンダルが、この一斬にて覇権を問うっ! ハァアアアアアアァっ!」

 そして自らの剣を大きく振りぬいた。

 大きなつむじ風が起き、周囲の照明が消える。

 更には付近の建物も一斉に停電状態となった。

 そして変化が生じたのは地上だけではなかった。

 晴れ間が見えていた筈の夜空に突如雲が渦巻き始め、雷雲までもが発生した。煌く閃光。

「おわぁっ!?」

 雷は僕たちのすぐ近くへと落ちた。

 

 その雷はただの自然現象なんかじゃなかった。

 ライダーの魔力が発動したものに違いなかった。

 その証拠に僕の目の前には大きな角を持った2頭立ての黒い牛の戦車が出現した。

 しかもこれはただの大きな牛じゃない。霊気が地上に存在する牛とはまるで異なる。この透き通った気配。地上、ううん、この現代世界の生き物なんかじゃ決してない。

 神話の世界に登場する神様や化け物の乗り物、神獣に違いなかった。

「オンデュアス王がゼウス神に捧げた供物でな。余がライダーの座に据えられたのも、きっとコイツの評判のせいであろう」

 ライダーは実に誇らしげだった。

 でも、その気分、僕にも理解できた。

 コイツはすげぇ!

「聖杯が欲しいなら、さっさと英霊の1人や2人、場所を突き止めてみせんかいっ!」

 ライダーが僕に喝を入れる。

「それまでは地図でも眺めて無量の慰めとするが。まあ、文句はあるまい」

 ニヤッと笑ってみせる神獣使い。

 僕はライダーの持つ強大な力にただただ呆然としていた。

 

 ライダーの強力な宝具の存在を見て、時間の経過と共に僕は自分が興奮して来るのに気付いた。

「すげぇっ! これなら本当に勝てるっ! 勝てるぞっ! 聖杯は僕のもんだぁっ!」

 聖杯戦争の勝利が急に現実味を帯びて来た。

「さっきからそう言っておるだろう。余の力をもってすれば、聖杯を得ることなぞ造作もないと」

 さっきまでは生意気にしか思えなかったライダーの言葉が急に頼もしく聞こえる。

「ライダーあんた最高だよ。あんたさえいればこの戦争の勝者は僕たちで決まりだっ!」

「そうだろうそうだろう。坊主もようやく余の偉大さが理解できたようだな。ハッハッハッハッハ」

 ライダーの高笑いが鳴り響く。

 その喧しい笑いも今の僕には気にならない。

 何故なら──

「これで、僕が聖杯戦争に勝利すればケイネスの野郎もミド高のサルどもも見返してやることができるんだぁっ!」

 僕の宿願が達成できる日も近いのだから。

 

「だからそれが小さいと言っておるだろうがぁっ!」

「ぶっはぁあああああああぁっ!?」

 再び引っ叩かれて大きく吹き飛ばされる僕。

「聖杯を手に入れることなど造作もない。だからこそ余には成すべきことがある」

「へっ?」

 いつの間にか僕は首根っこを捕まれて宙に吊るされていた。

 僕の目の前にライダーの暑苦しい顔がドアップで映る。

「余の成すべきこと。それは」

「それは?」

「貴様の様な軟弱な坊主を一人前のマスターに育て上げることだぁっ!」

 視線だけで僕を殺してしまいそうな鋭い眼光。

「ひぃいいいいいいぃいいいいぃっ!?」

 いや、本気でちびってしまうのではないかと思うぐらいに怖かった。

「いいか、小僧っ! 貴様がどこに出しても恥ずかしくない男になるように余が鍛えてやる! 余のことはこれからイスカンダル先生と呼ぶようにしろっ!」

「サー・イエッサーっ! イスカンダル先生っ!!」

 聖杯戦争に余裕で勝ててしまいそうな力を持つサーヴァントに本気で凄まれては断る術など僕には存在しなかった。

 

「では小僧、何か質問はあるかっ?」

 ライダーが更に顔を近付けて僕を凄む。

 先生というよりもヤクザみたいにしか思えない態度。

 けれど、だからこそ今の問いには慎重に答えなければならない。

 質問はありませんとか下ろしてくださいと素直に心情を吐露すればまたビンタが待っているに違いない。

 考えろ、考えるんだ僕。

 どこかにこの質問に対する答えは既に出ているはずなんだ。

 答え……ツッコミを入れて良さそうなものと言えば……

 確か、地図と一緒に謎の本をライダーは持ってきたはず。

 答えは、これだっ!

「イスカンダル先生っ! 楽しいムーミン一家の本なんか持って来てどうするつもりなんですかっ?」

 これこそが、この場を和ませる唯一絶対の答えのはずっ!

「バァカ者がぁああああああああぁっ!!」

「ぐはぁあああああああああああああああああああぁっ!?!?」

 先ほどを遥かに大きく上回り吹き飛ばされる僕。

 間違っていたのか、僕の答えが?

「貴様にはムーミンパパの偉大さがわからんと言うのかっ! 妖精ムーミン族でありながら人間界でも世界的に知られた有名小説家。即ち、文化による異世界征服っ! ムーミンパパは人間界の征服しか考えつかなかった余よりも遥かに壮大なスケールを持つ真の征服者であるぞっ!」

「知らねーよ、そんなこと……」

 

 パパンママン

 

 僕はライダーが他のサーヴァントを倒しきる前に自分の方が殺されるんじゃないかと思います。

 

 北斗七星とその横の青い星がとても綺麗に輝いて見えたのでした。

 

 

 続く

 

 


 
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