No.496987

とある科学の超電磁砲 本気or冗談?

美琴さんと上条さんの恋模様

とある科学の超電磁砲
エージェント佐天さん とある少女の恋煩い連続黒コゲ事件
http://www.tinami.com/view/433258  その1

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2012-10-16 23:00:00 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:2480   閲覧ユーザー数:2387

本気or冗談?

 

 

「アイツは本気。いつもみたいな冗談。本気。冗談。本気。冗談。本気。冗談。本気……なのかな?」

 これで今日13本目のたんぽぽの花を裸にむしり取ってしまった。

 約束の時間は午後2時。現在の時刻は1時58分31秒。

 待ち人はいまだ現れず。

 そして今、14本目の地球自然資源が私の手により地面から無残に引き抜かれ、哀れな生贄と化そうとしている。

「ていうか遅いっ! 5分前集合は現代人のマナーでしょうがっ!」

 また不幸に巻き込まれているのか。それとも無自覚に引っ掛けた可愛い女の子に絡まれているのか。

 両者は非常に重なっている部分が大きい。アイツは命を懸けて助けた可愛い女の子に次々に惚れられる。そして、両者は私をイライラさせるという点では完全に一致している。

「これ以上……私を不安にさせるなっての」

 ちぎったたんぽぽの花弁に息を吹き掛けて大空へと飛ばす。

 要約してしてしまえば何ていうことはない。

 要はアイツ、上条当麻が待ち合わせ場所に来てくれないから不安になっているのだ。それも私が望んだ通りの要件でここに来ようとしているのかも分からないから。

 結局今の私の存在は上条当麻の気まぐれな行動に弄ばれているのだ。

 

 

 

 世の中には夢オチというものがある。

またはドッキリという仕掛けも存在する。

 私が今いる状況は夢オチかドッキリのどちらかに違いない。

 

『御坂。今度の土曜日ってもう予定入っているか?』

『えっ? あの、午後だったら空いているけれど……』

『じゃあさ、その、俺と付き合ってくれないか?』

『つ、つつ、付き合うって一体どういう意味よっ!?』

『そんなの言葉通りの意味に決まってるだろ。で、俺と付き合ってくれるのか?』

『……………………………分かったわよ。付き合って……やるわよ』

『それじゃあ、土曜日の午後2時にいつもの公園のベンチの所でな~』

『ちょっとっ! 用件だけ告げたらいきなり走り去るっておかしいでしょ!? ねえっ!』

 

 だって、アイツが私をデートに誘う訳がない。あの鈍感朴念仁に女の子をデートにお誘いする甲斐性なんてあるわけがない。

 よしんばお誘いが現実のことだとしてもデートというのは私の勘違いに違いない。

 いつものオチみたいにどうせスーパーの特売に付き合って欲しいとかそんな展開が待っている。その可能性は過去の経験を踏まえると実に99%以上。実際に私はそうやって何度も何度もアイツにヌカ喜びさせられて来た。

 だから今回も何かの間違いである可能性は極めて高い。

 でも、でもだ。もし今回のお誘いが残りの1%以下の場合だったら?

 本当にデートの誘いだったら?

 正真正銘のデートなのに普段と変わらない色気のない格好をして行ってしまったら? 

デートに対する意気込みが欠けているのを見抜かれてしまったら?

 アイツは普段と何も変わらないアタシを見て凄くガッカリするだろう。私には脈がないと1人で勝手に判断してしまいかねない。

 下手をすればデートを中断して帰ると言い出さないとも限らない。そうなったら最悪だ。

そう。最悪が訪れるかも知れない。

 人間は常に最悪を想定し、それに備えている必要がある。生き延びる為に。

 私は自分の恋の寿命を手折ってしまわない様に残り1%に備えることにした。

 で、その段になって気付いた。

 私は仮にデートと呼ばれる行動を行うに際して最適な服装を持ち合わせていないことに。

 

『黒子……は私と状況だし持っていたとしてもエロ過ぎる。何よりデート用の服を貸してなんて言ったら怒り狂うのは目に見えている。初春さん……は服装の趣味が乙女チック過ぎて私には似合わない。やっぱり服を借りるなら佐天さんよね』

 

 常盤台の制服も候補には考えた。常盤台は外出時の制服着用が義務なのでデートであっても制服で行くのが常盤台生徒としては正しい。

 でも、それは私にとっては納得のいかない選択だった。

 もし仮に、仮にだ。人生初のデートが制服に短パン姿だったら、私の乙女としてのアイデンティティは凄く虚しさを覚えるに違いない。

 違う言い方をすれば女子力の低さを見せ付けてしまう結果に繋がってしまうと。それは嫌だった。負けず嫌いの私的には認められない。

 私は制服を武器に男を釣りたいわけじゃない。援助交際とかそういうんじゃないんだし、私の魅力を見てもらいたいのだ。

 だけど残念ながら私服の類は室内着の延長のシャツや短パンぐらいしか持ってない。

 加えて私のセンスは子供っぽいとすぐ馬鹿にされる。洋服の趣味にしてもそう。私が目星を付けて見繕えば、当麻に馬鹿にされるか奇異な瞳で見られることは必然。

 だから女子中学生の女子力を全開に発揮している佐天さんの力を借りることにした。

 

『えっ? 洋服を貸して欲しい。ですか? ……ああ、なるほど。そういうことですね。なら、この私に任せて下さい』

 

 私にはない豊かな胸を叩いて自信満々に答える佐天さん。ちなみに私は服を貸して欲しいと言っただけ。デートのことは一言も述べていない。でも勝手に納得されてしまった。

ちなみに彼女が用意してくれたのは薄い水色のスカートの丈が短めのワンピースに白いキャミソールだった。そして追加装備に渡してくれたのが白い帽子とハンドバックだった。

 

『御坂さんはお嬢様っぽさで攻めるべきなんです』

 

 コーディネートに際して佐天さんはそうポイントを評した。

 

『世の男性が抱いている常盤台のお嬢様というイメージを上手く誘導すれば勝利は確実です』

 

 Vサインを見せた佐天さん。私としてはむしろ常盤台から離れた自分を見せたかった。だけど佐天さんに言わせると「それを捨てるなんてとんでもない」ということだった。

 そんなラブ師匠佐天さんの教えに従って本日はお嬢さまっぽく攻めるという方針が打ち出されたのだった。

 

『相手がどんな方なのか知りませんが結婚式にはちゃんと呼んでくださいよ』

『けっ、結婚式って、私とアイツは別に全然そんなんじゃっ!?!?』

『分かってないですねえ、御坂さんは。この世知辛い少子高齢化社会を生き抜く為に発デートの時に2人目の子供の名前まで話し合って決めておくのが今時の女の子のたしなみですよ。お嬢さま中学出身だからってあんまり感覚まで浮世離れしちゃダメですよ』

『今の普通の女の子ってそうなんだ。知らなかった……』

 

 デートに関しても色々とレクチャーを教わった。さすがは共学に通い毎日同年代の男子と会話しているだけあって男女の機微に関しては私より遥かに詳しかった。

 

『それで、佐天さんはデートの時は普段どこでどんなことをしているの? 明日の参考にしたいの』

『…………御坂さんが私と同じ段階に達したら教えますよ。まずは答えを手探りで探っていくこともまた恋愛の醍醐味の1つですから』

『なるほど。自分の道は自分で切り開けってわけね』

 

 佐天さんは太陽を眩しそうに見上げていた。私とは一切目を合わせてくれなかった。私のラブ師匠はスパルタ式だった。

 こうして佐天さんから服とデートの際の戦略を伝授された私はアイツの訪れを今や遅しと首を長くして待っている。

 そしてとうとう時刻は遂に午後2時を指した。

 ここから先は遅刻タイムになる。

 さて、後どれぐらい待てばアイツはやって来るだろうか?

 以前、アイツと賭けをして負けたアイツを呼び出した時は1時間待たされた。

 今回は1時間の遅刻で済むだろうか? 

 いや、それ以前に私との約束を守る気があるのだろうか?

 考えれば考えるほど気分が憂鬱になってしまう。

 

「お~い、御坂~っ! 遅れてスマ~~ン」

 

 公園の入口の方から大きな声が聞こえて来た。私の名を呼ぶそのよく聞き知った声はアイツのもので間違いなかった。

 

「嘘。アンタが私との約束時間に3分も遅刻しないで来るなんて……っ」

 

 時計を確認すれば2時1分。私の腕時計にも多少の誤差があると考えれば2時ぴったりに到着したとも言える。

 上条当麻が遅刻なしの到着。

 いつもとは違うその行動にアイツの本気を感じ取る。もしかして本当にデートなんじゃないかと期待で胸が高鳴りドキドキしながら振り返る。

 そこに見えたアイツは──

 

「やっぱり……私をからかおうって魂胆なのねっ!」

 

 何故か執事服を着ていた。

 

 

 

「何でアンタは執事の格好でやって来るのよっ!?」

 

 当麻の服装が謎過ぎて脱力してしまう。

 私に今日付き合って欲しいとお願いした男、上条当麻は何故か執事服で現れた。

 漫画でよく見る白いシャツに黒いモーニングコートのアレだ。

 この服装で現れた時点でコイツの用事がまともなものではないことが明白に判明した。

 即ち今日の呼び出しは私をデートに誘おうとかそんな類のものでは決してないと。

 それが分かると体中から力が抜けていくと共に代わりに怒りが体内を駆け巡っていく。

 こっちは恥を忍んで佐天さんに服まで借りて気合入れて準備して来たってのに。

 これは文句を一言いわないと収まりがつかない。

 いつものように思い切り憎まれ口を叩いてやるんだからっ!

 

「その……今日のその服装、似合ってるぞ」

「へっ?」

 

 文句を言おうとした瞬間、あり得る筈のない言葉が私の耳に届いた。

 憎まれ口と共に発動しようと思っていた回し蹴りが立ち上がり体を捻った所で停止する。

 今、コイツ。何て言った?

 私の服装を褒めなかった?

 気が利かないオブ・ザ・イヤー受賞確実と言われるコイツが私の服装を似合っていると言わなかったか?

 いや、そんな筈はない。

 きっと今のは苦労して服を選んだ分の労力は報われたいと願う私が生み出した幻聴に決まっている。そうに違いない。なのに、顔が緩んでしまうのは何故?

 

「えっと、アンタ。今何て…言ったの?」

「だから、お前の今日のそのワンピース姿は可愛いなって言ったんだよ」

 

 コイツ…当麻は照れているのを隠すようにちょっと怒った口調で述べた。

 私のワンピース姿が可愛い?

 コイツは一体何を言っているのだろう?

 いや、このワンピースとキャミ、そして帽子の組み合わせが可愛いのは分かっている。

 佐天さんにコーディネートしてもらったのだから可愛いに決まっている。

 だけどそれをコイツが口にするのは明らかにおかしい。

 コイツは今まで私が制服を夏服から冬服に変えようが、髪留めを変えようが前髪をちょっと弄ろうがそれを褒めてくれたことは一度もなかった。

 乙女的に失礼極まるデリカシー0のコイツが何故今になって服装を褒めたりする?

 そしてありきたりなお世辞を言われたぐらいで何故に体中を真っ赤にして熱を上げているのだ、私よっ!?

 一言褒められたぐらいで顔から火を噴き出すって幾ら何でも初心すぎでしょうがっ!

 私は小学生かっての!

 とにかく、今はコイツの謎言動の秘密を解き明かさなくちゃっ! 

 でなきゃ、私は恥ずかしさで死んでしまう。

 

「あの、アンタ誰?」

 

 私の口から出たのは失礼にして核心を突いた質問だった。

 

「アンタ誰って、俺は見ての通りの上条当麻さんですよ? 御坂もよくご存知の爽やかそげぶお兄さんですよ」

 

 目の前の男は顔を引き攣らせながら必死に弁面を始めた。その様が私の疑惑に一層の炎を燃え上がらせる。

 

「ここは学園都市。他人に入れ替わって成り済ます能力者なんて幾らでもいるわ」

 

 以前私をしつこく追い回した常盤台理事長の息子の場合は中身が別人だった。今回もまた誰かが当麻に成り済ましている可能性は否定できない。

 気が利く当麻なんてパチモンにしてもレベルが低すぎる。

 

「それに学園都市1位を倒した上条当麻のクローンが密かに大量に生産されていて、アンタはその内の1人って可能性もあり得るじゃないの」

「御坂みたいな美少女で街を埋め尽くされるのならともかく……男の俺がいっぱいなのは絵的に嫌だな」

 

 もし、上条当麻のクローンが2万人ほど量産されているのだとしたら……。

 

「1人ぐらいは私が貰っても構わないわよね。上条弟とか言って私に凄く好意的なのを隣にはべらせたり、打ち止めの称号を持つショタ当麻と同じ部屋に住んで私好みに育てたり」

 

 当麻に囲まれた生活。だけど最後は弟達に気を許している私に嫉妬したオリジナル当麻が強引に私をさらっていくの。そして全ての弟達の前で私のことを俺の女宣言する、と。

うん。悪くない。

 

「お~い、ビリビリ~。そろそろこっちの世界に帰って来て欲しいんだが」

「誰がビリビリだってのよっ!」

 

 上半身を捻りながら電撃属性を追加した裏拳をお見舞いする。けれどその電撃は当麻の突き出した右腕によって弾かれて霧散してしまう。右手の力が発動していた。

 

「何だ。アンタ、本当に本物なのね」

「最初からそう言っているだろうが」

 

 クローンは姿かたちは似せられても能力まではコピー出来ない。それが学園都市の現界。

 コイツの打ち消す力がどんな能力なのかはよく知らない。けれど、このとんでもない力をコピーすることは不可能だろう。よってコイツは本物であるのは間違いない。

 でも、そうするとだ……。

 

「何で今日に限って服装を褒めたりするのよ……か、可愛いなんて」

 

 急にまた恥ずかしさが込み上げて来た。コイツの顔がまともに見られない。

 

「思った通りのことを口に出してみただけだよ」

「えっ? 嘘っ? 本当なの?」

 

 当麻は首を縦に振って頷いてみせた。……当麻が私のことを可愛いって言ってくれている。

 何ここ? 

 知らない間に私、ヘヴンに到着しちゃっていたわけ!?

 う、嬉し過ぎるじゃないのよ、もうっ!

 

「女の子がいつもと違う服装をしているのに気付いたら可愛いと口に出すのが男のマナーだって青髪と土御門が言っていたからな」

「………………あっそ」

 

 コイツは間違いなく上条当麻だ。もう間違いようがない。

 女の子に期待を持たせてここまで落胆させる術を心得ているのはこの男しかない。

 私のドキドキを返しやがれ、このツンツン馬鹿。

 

「…………だから俺は御坂の…を本気で…可愛…と思ってだな」

 

 デリカシー0はまだブツブツと続けているけれど無視。どうせろくな内容じゃないのは分かっている。

 となると、次に聞くべきことは。

 

「何でそんな珍妙な服装しているのよ? 執事喫茶でバイトでも始めたの?」

 

 何故コイツが執事服なのかその理由を確かめること。

 

「どっか変か?」

「そうね。ここがヨーロッパの由緒正しいお屋敷の中だったらよく似合ってそうな服よ」

「確かに上条さんはイタリアにもイギリスにもロシアにも足を運んだ西洋通だからなあ。狭い日本には閉じ込めておけないブリリアントなオーラでも放たれているんだろうなあ、きっと」

 

 嫌味が通じない。

 単にTPOを弁えろと非難しただけなのに、西洋通とか素で返されてしまった。本気でダメだ、コイツ。

 

「その珍妙な服はどこで入手したのよ?」

「ああ。女の子と出掛ける際の服装はどんなのが良いか聞いたら、土御門の奴は裸にサラシを巻いてアロハシャツを着ていくべきだって言うし、青髪の奴は西洋甲冑か執事服か好きな方を選べってこれを貸してくれたんだ。上条さんは体力と日焼けにあまり自信がないのでこれになった」

「アンタ……友達はもうちょっと選びなさいよ」

 

 友達の少なさだったら私も負けてはいないけれど。

 

「吹寄や姫神に聞いたらパンツ1枚で行けとか全裸で疾走しろとか言われてな。何か不機嫌でアドバイスにならなかった」

「…………あっそ」

 

 当麻が女の子にも意見を求めていたのを知って何か不愉快な気分になる。コイツも共学に通っているだけあって普段から同世代の、しかも可愛い女の子と会話している訳だ。

 私なんて前に男子と会話したのはコイツに一方的に付き合えと言われたあの時以来だと言うのにだ。何か不公平だ。別に知らない男と喋りたい訳じゃないけれど。

 

「だけど、俺が執事で御坂がお嬢さまならバランス的には丁度良いよな」

「私が……お嬢さま!? フェっ!? ええっ!?」

 

 当麻の突然の笑顔の奇襲に私の頭は再び爆発する。目の前の失礼男にお嬢さまと言われて私の頭は再びパニクッてしまっている。

 佐天さん、お嬢さま攻撃は当麻じゃなくて私の方に攻撃力大だよ~!?

 

「執事の俺が隣にいれば、御坂の可愛いお嬢さまっぷりも引き立つってもんだ」

「ふっ、ひゅにゃぁ~~っ!!?!?」

 

そんな優しそうで嬉しそうな笑みを見せられたら誰だって撃沈させられちゃうっての。どうせ今日のお付き合いとやらが私の勘違いに過ぎないと重々分かっていたとしてもだ。

 そして当麻はパニックの最中にいる私に更にドギツイ攻撃を仕掛けて来た。

 何と、私の手を取って耳元で優しく囁いて来たのだ。

 

「さあ、出掛けようぜ。……俺だけの、お嬢さま」

 

 その声はとても甘い響きだった。男の人にこんな風に囁かれたのは初めてだし、しかも囁いた相手は当麻。私の思考が完璧に麻痺したことは説明不要だろう。

 

「ひゃい。ひょろしくおねひゃいします」

 

 私に出来たのは噛みながら頷くことだけだった。

 

 

 

 もし今日地球が滅亡すると突然言われても私はそれを頭から否定はしないだろう。

 巨大隕石が落下して地球壊滅とか十二分に考えられる。

 それぐらいに今の私はあり得ない状況にあった。

 

「結構な人込みだからはぐれないようにしてくれよ」

「うっ、うん」

 

 だって当麻と手を繋いで2人で街の中を歩いているだなんて信じられるわけがない。

 こんな夢みたいなシチュエーションが現実に起こるわけがないのだから。

 これはあれか? あれなのか?

 漫画でよくある、しつこい女に付きまとわれて迷惑しているから彼女のフリをしてくれという例のシチュエーションか。私が以前当麻にお願いしたことの逆バージョンか?

 そうだ。そうに違いない。

 色んな女の子を助けてはフラグを立てる無自覚ハーレム王のコイツのことだ。勘違いしたヤンデレ女に付け回されている可能性は十分にある。ガンや剣を向けられながら夜中まで追い回されているのかも知れない。

 もう、そういうことにしてしまおう。でないと私の精神がもたない。

 

「それで一体どんな女に付きまとわれているの? ヤンデレ? 凄いヤンデレ? 超ヤンデレ?」

「御坂が何を言っているのか俺にはさっぱりなのだが? ていうか、ヤンデレオンリー?」

「それじゃあ……ヤンデレな男に付きまとわれているって言うの? つまりは一方通行…一方通行がアンタのお尻を狙っているわけね。謎は全て解けたわ!」

「何でそうなるんだっ!?」

 

 私だって現代っ子だからインターネットにはよく接続する。

 同世代の女子に人気の色々なサイトを見て回れば男同士の恋愛というのはごく一般的なもので、多くの少女達から好意的に受け入れられているものであることも分かる。つまりは日本の文化。

 一方通行が当麻のお尻を狙っているとしても何もおかしくはない。

 

「この間打ち止め(ラストオーダー)から、亭主がいつまで待っても手を出してくれないって愚痴の電話がきたけれど…そういうことだったのね」

「そういうことってどういうことですか!? あのチビッコに手を出すような犯罪者だったら上条さんもそげぶだけじゃ済ませられませんよ!」

 

 当麻はやたら慌てている。一方通行に付きまとわれている訳でもないらしい。

 では、今の状況は一体?

 

「えっと……これから最終決戦を迎えるに当たって最期に学園都市をもう1度見て回ろうと私というガイド付きで案内されている最中とか?」

「上条さんはこれから一体何と戦うというのですか!? っていうか、最期ってもう死ぬの決定ですか?」

「あり得ないシチュエーションの中にいるんだし、死ぬんじゃないの? 番組的に」

「番組的にって何ですか!? バトルアニメで脇キャラに焦点が当たる時は死ぬ時っていう例のアレですか!? 自分で言うのも何ですが、上条さんは主役体質だと思いますよ」

「そう? アンタって私が主人公の女の子いっぱいの男子禁制物語でゲスト出演しかしない脇役体質っぽいと思うのだけど?」

「…………とにかく上条さんは大きな戦いに赴く予定も死ぬ予定もありませんってのよ」

 

 ゲームとテレビで仕入れた知識も外れらしい。

 となると何で私が当麻と手を繋いで歩いているのかもう見当がつかない。

 

「アンタさ、何で私を呼び出したりしたの?」

「だから付き合って欲しいと何度も……」

「どこのスーパーの特売に付き合わせるつもりなの? タイムセールは何時から?」

 

 当麻は目を瞑ってガックリと肩を落とした。

 

「俺が付き合って欲しいのはスーパーじゃねえよ」

「じゃあ、どこだって言うの?」

「え~と……」

 

 当麻は答えに詰まって、それから内ポケットから小さなノートを取り出してパラパラってめくっている。

 

「その無計画性。やっぱりスーパー以外考えてなかった証拠ね」

「大事なことはメモを取って確かめる性分なんだよ」

 

 今までメモを開いた場面を1度も見たことがない男が何か言ってる。

 

「えっと……あった。手始めはボーリングか水族館だな」

「ボーリング? 水族館?」

 

 何を突然言い出すのだろう、この謎男は?

 

「御坂はボーリングやったことあるのか?」

「馬鹿にしないでよ。私だって友達とボーリング場に行ったことぐらいあるっての!」

 

 この間佐天さんと初春さんに連れて行ってもらったことがある。

 スコアの平均は110。同世代の女の子にしては結構高い方らしい。

 

「そういうアンタこそ、ボーリングしたことあるの?」

「…………ルールぐらいは知ってるさ」

「行ったことないのね」

 

 やったことないスポーツに女を誘うなっての。自分の無様さを見せ付けてどうする。

 言い換えれば、ボーリングに行けば私は当麻に完勝することが出来る。それは私にとってとても気分が良いことに違いない。でも、でもだ……。

 

『いいですか? 御坂さんは負けず嫌いの面がとても強いのでデートの時は男性を立てるように心掛けないとドン引きされかねませんよ』

 

 佐天さんには当麻との勝負熱を自制するように釘を刺されている。ボーリング勝負で熱くなって当麻にドン引きされれば佐天さんに合わせる顔がなくなる。

 よって、今日は勝負事になるようなことをするのは控えよう。

 

「水族館、にしましょう」

 

 水族館ならどっちが勝ったとか負けたとかない。私の勝負師魂に火が点くような展開にもならないだろう。

 

「水族館か……。誘ったのは俺だから、入場料は俺が持つぜ」

 

 当麻はまたノートを見ながらそんなことを言った。

 

「アンタの奢り? 雨でも降らないと良いわよねえ」

 

 空を見上げる。雲ひとつない青空。太陽の近くに小さな黒いものが1点だけ映っているのは雨雲か飛行機だろうか。とにかく、雨は降りそうになかった。

 

「でさ、水族館って一体どこにあるんだ? 寿司屋の隣か?」

「アンタは水族館にすら行ったことないんかい!」

 

 ほんと、当麻は一体何がしたいのだろう?

 

 

 

 水族館の場所は幸いにしてすぐに目星が付いた。

 海洋生物の研究も盛んに行われているこの学園都市には水族館も存在する。

 正確には大学の付属施設らしいけど、学園都市の先端技術がふんだんに使われているとかで人気は高いのだとか。

 という情報を私が検索して探り当てて当麻を連れて来たのだった。

 

「あのねえ、アンタが誘ったんだから下調べぐらいしておけっての」

「悪ぃ。動物園に行こうと思ってたんだが青髪にダメ出しされて女の子とのデートなら水族館で決まりやって言われてな」

「やっぱり吹き込まれてたのね。まあ水族館って選択肢も漫画やアニメの影響っぽい気がするけどね。うん?」

 

 今当麻はとてもおかしなことを言わなかっただろうか?

 『女の子とのデートなら』とか言っていなかっただろうか?

 つまり、当麻は私とデートするつもりで誘ったっ!?

 いや。いやいや。騙されてはいけない。

 青髪という人が私と当麻の仲を勝手に勘違いしてデートだと思い込んでいる可能性は凄く高い。

 普通の間性の持ち主なら、男子高校生と女子中学生が2人でお出掛けとなればデートだと思うだろうから。

 そう。青髪という人が私達の仲を恋仲だと誤解しても、それがトウヘンボク当麻に当てはまるとは限らない。

 当麻が私を誘った理由は不明と見るべきだろう。

 デートに誘ってもらったと有頂天に浮かれて後でデートでも何でもありませんでしたみたいな展開になったらさすがに立ち直れない。

 恥ずかしさと悔しさから私はきっとこの男を殺す。ソレしか道はない。

 

「何で突然お前は俺を親の仇の如く険しい眼光で睨んでるんだ? 俺を殺す気なのか!?」

「…………場合によってはね」

「いや、ここは否定しろよ!?」

 

 とにかく当麻は油断がならない。私の予想とは全く違うことをしてくれるのだから。

 

 第七学区から近いこともあり、水族館にはすぐに到着した。

土曜日の午後ということだけあって多くの学生達が集まっていた。その中には男女のカップルも多く見受けられる。私と当麻もそう見られているのだろうか? 

私達もラブラブカップルと思われちゃったりしているのだろうか?

 ……いや、分かってる。執事とお嬢さま役の痛いコスプレイヤーとして好意的でない視線をぶつけられていることは。

 鈍感当麻はみんなの視線に気付いていないようだし、私もここは敢えて無視しよう。今大事なのはあくまでも私と当麻の関係だ。

 

「水族館って言うと、やっぱりマグロの解体ショーが見られたりするのか? ラッコと生のイカをどっちが先に食べきれるか競争できたりするのかな?」

「発想を寿司屋から切り離しなさいっての」

 

 水族館って、確か漫画だとロマンチックな雰囲気になる為にデートで訪れる場所だけど……。

 コイツといると欠片もそんな雰囲気にならない気がする。

 

「じゃあ水族館って何を楽しむんだ?」

「アシカやイルカのショーとか楽しいんじゃない?」

「アシカやイルカって食えるのか?」

「……円形状の水槽でダイナミックに泳ぎまわるマグロを見てその力強さに驚くとか」

「やっぱり水族館って生簀のことなんじゃねえか」

「…………体が発光する深海魚を見て海のロマンを感じるとか」

「発光する生物ならビリビリ御坂で十分間に合ってる」

 

 当麻の頭を思い切りゲンコツで殴ってやった。

 

「アンタ、自分で誘っておきながら何でそんなビジョンがないのよ?」

「そのビジョンを探す為に行ってみるってのはどうだ?」

「無計画をドヤ顔で誇るなっての」

 

 当麻のエスコート能力の低さに驚愕さえ覚える。

 自分から誘っておいて、下調べを一切してないってどうなのよ?

 こんな男を彼氏に持ったら絶対に苦労することになる。凄い苦労を背負い込むことになる。絶対にだ。

 

「分かったわよ。今日はこの美琴さまが乙女心についてレクチャーしてあげるわよ」

 

 自信満々に宣言する。

 これはあれだ。好きな男の為なら苦労ぐらい何でもないなんていう乙女心の発露なんかじゃ決してない。

 ダメ男に嵌ってしまう女性の心理を分析して、ダメ男から女性を救済する手段確立の一環としてダメ男に尽くしちゃう女性と同じ行動を取る参与観察なのよ。

 そう、私は世の女性を救う為に敢えてダメ男と歩を合わせるのよ。それだけなんだから。

 

「え~と、水族館の入場料は……っと。水族館500円、期間限定爬虫類両生類大展示館500円。御坂はどっちに入りたいんだ?」

 

 当麻は料金表を覗き込みながら尋ねて来た。

 

「アンタねえ。女の子と一緒に入るんだから両生類や爬虫類はないでしょうが。女の子が蛇やトカゲ見て喜ぶと本気で思ってんの?」

 

 軽く息を吐き出して当麻の質問のナンセンスぶりを指摘する。

 

「でもこれ、その蛇やトカゲの展示館に入ると限定ゲコタストラップが入場者全員にプレゼントって出てるぞ。お前、あのカエルのキャラグッズを好きじゃなかったっけ?」

「だっ、誰があんな両生類のゆるキャラを好きだってのよ!」

 

 当麻の疑問を大声で否定する。

 確かにゲコタグッズは超欲しい。

 でも、ゲコタグッズ目当てに蛇やトカゲまみれの空間に入りたいとも思わない。

 だってそんな行動、年頃の乙女として変だもの。ストラップ目当てなんて子供の行動。

私は乙女心をレクチャーするって当麻に誓ったばかりなんだから。

 

「じゃあ結局、入るのは水族館の方で良いんだな?」

 

 当麻が確認を取って来た。

 ゲコタグッズは欲しい。

でも、ゲコタ目当てなんて思われたら私が子供のように思われてしまう。

一体、私はどうしたら?

 

『御坂さんは大人びてクールです。デートする相手がそれに釣り合う大人だったら何も問題ありませんが、同世代や子供っぽい人だったりする場合は少し気を付けて下さいね。大人過ぎると思われると距離置かれちゃいますから』

 

 佐天さんのアドバイスを思い出しながら当麻を見る。

確かにコイツは私より2歳年上で高校生だけど……大人って感じはまるでしない。精神年齢なら私の方が高い自信がある。

つまり、当麻は佐天さんの言う所の子供っぽい人に該当する。よって私があまり大人っぽく見せ過ぎないように配慮すべき対象なのだ。

何だ、答えは簡単だったじゃないの。

ここで私が当麻と同じ目線であることをアピールできる答えは……。

 

「よしっ! ここは男の子大好きなトカゲや亀を見るのを大人である私が付き合ってあげるわよ。感謝しなさい」

 

 当麻と合わせるのには両生類爬虫類しかない。答えは得たっ!

 

「ああ、やっぱり子供趣味の御坂はゲコタを選んだか。納得の選択だな」

 

 満面の笑みを浮かべてほざく当麻。

 

「ふっざけんなぁ~~~~~~っ!!」

 

 特大の電撃を至近距離からお見舞いする。

 何でこんなダメ男に子ども扱いされなきゃいけないのよぉっ!

 

「うぎゃぁああああああああああああああぁっ!!」

 

 体全体に注がれる電撃に右手だけで対処出来る訳もなく……当麻は地面に沈んだ。

 

「やっぱり……深海魚の発光よりもお前の方がよっぽど派手じゃねえか……ロマンはどこにもねえがな……ガクッ」

 

 その台詞を最後に当麻は意識を手放した。

 

 

 

「お前、俺を電撃に沈めておいて結局ゲコタもらって喜んでいるんじゃねえかっ!」

「私はアンタの女の子をガッカリさせる能力の高さに怒っただけ。ゲコタには罪はないわ」

 

 私の分と当麻の分の2つの色違いストラップを手にしてご機嫌に施設内を歩く。

 イライラする出来事もあったけれど、この愛らしい顔を見ていると全てを許せちゃいそうな気がする。当麻の鈍感以外は。

 

 私の左右に並んでいる水槽というかケージの中にはこの施設名にあるように爬虫類と両生類がたくさん並んでいる。

 やたらカラフルな蛇だのトカゲだのが舌をペロペロ出しながら暇そうにしていた。

 

「ていうか御坂さん」

「何?」

 

 ゲコタを見るのを一時中止して当麻を見る。

 

「アンタの顔に一番似ているのだったらあのオオイグアナなんてそっくりだと思うわ。そのまま指名手配の写真に使ってもアンタを捕縛出来るんじゃないかしら?」

 

 緑色したツンツン頭っぽく見える大きなトカゲを指差しながら述べる。

 

「そんなことは聞いてねえよ! 誰がオオイグアナに似てるってんだ! っていうか、指名手配写真って上条さんは犯罪者か何かですかっ!?」

「アンタが通り過ぎた後は自販機が壊れてたり、木々が黒コゲになってたり、猫が逃げ出したりするじゃない。立派な刑事罰容疑者じゃない」

「それは全部お前の蹴りや電撃による被害じゃねえか! 俺に責任擦り付けるなっ!」

 

 風の噂によると当麻は自宅に猫を飼っているらしい。

 体から無意識に発する電気のせいで私は猫に触ることも出来ないというのに羨ましい。むしろ妬ましい。

 

「で、何の話よ? さっさと話してよね」

「脱走させたのは御坂お嬢様なのに凄い素敵な言い分ですこと」

 

 当麻は呆れたように大きく息を吐き出した。

 

「いやな、こう右を向いても左を向いても蛇だのトカゲだのばっかりに囲まれているのに御坂は平気そうだなあってな。女の子って蛇とか嫌いなのが普通じゃん」

「ああ。そのことね」

 

 当麻の質問に頷いてみせる。

 

「確かにこの施設に入った時はもっと怖くなったり気分悪くなったりするかと思ったんだけど意外と平気っていうのが確かな所ね。多分その理由は……」

 

 目を瞑って息を吐き出す。

 

「常盤台に通うお嬢様たちは……蛇よりネチネチとしつこかったり怖い目で見たり毒を吐いたりするからじゃないかしらね。蛇やトカゲの方が可愛く見えるわよ」

「お嬢様ってのも結構大変なんだな」

 

 世間からは優雅で上品で争いのないお嬢様の園とされている常盤台学園。

でもその裏側は……人の嫌な部分を露骨に増幅させてしまっている閉鎖空間でもあったりする。

 他人を見下す術ばかり身に付けたり、派閥争いで多数派工作と対立構造ばかり学んでいる子も多い。

 そして常盤台のそんな醜い争いが嫌で如何なる派閥からも集団からも距離を置いている私はお高く止まっているとあらゆる勢力から良く思われていなかったりする。

 その結果嫌でも聞こえて来る陰口や見えてしまう白い視線。

 それに比べれば蛇やトカゲなんて外見がちょっと女の子受けしないだけで可愛いもんだ。

 

「黒子が私のお風呂を覗こうとしたり私のベッドに潜り込もうとする動きなんて全身を器用にウニョウニョして蛇そのものだしね。もう慣れたわ」

「俺が御坂と一緒にいるのを見ると髪の毛を蛇みたいに動かしながら襲って来るしな。って、まさかいないよな!?」

 

 急に辺りを警戒し始める当麻。

 

「大丈夫よ。今日はあの子インドから来日しているダルシ何とかってお坊さんの所でテレポートの研修中。学園都市の外に出てるから突然現れたりはしないわ」

「週末まで研修に費やすとは白井は意外と真面目なんだなあ」

「そうね。あの子は凄く真面目なのよ。私に変質的に絡まない時以外は」

「俺が白井に会う時は大概お前絡みだから変態な面ばっかり見せられてるけどな」

 

 当麻はちょっと楽しそうに笑った。

 

「まあ確かにこうして週末にアンタと2人で歩いているのを見られたら……アンタ殺されるかも知れないわよ」

「俺と御坂がデートしていると思うだろうからな。うん。死は免れねえな」

「デート……か」

 

 当麻の顔をジッと眺める。

 

「これが本当にデートだったら……の場合だけどね」

 

 今日の当麻の行動が謎過ぎる。

 これはデートなのだろうか? それとも何か大掛かりな仕掛けの一部なのだろうか?

 デートにしても策謀の一部にしても計画立案が当麻である時点で破綻しているのだけど。

 

 黙って歩きながら考える。

 だいぶ奥まで来たからか周りに他のお客の姿はない。

 尋ねてしまうには丁度良い機会だった。

 当麻の服の袖を引っ張って足を止めさせながら向き合う。

 

「あのさあ……」

「何だ?」

「どうして私を誘ったの?」

 

 一瞬の沈黙。

 

「俺が、その、御坂を誘いたいと思ったから」

 

 当麻の瞳を更に深く深く覗き込む。

 

「フーン」

 

 当麻の目は特に嘘を言っているようには見えない。この単純馬鹿が嘘を隠し通せるわけがないのだから。

 じゃあ、それじゃあ……。

 

「じゃあ今日のこれはさ……アンタとの初デートだと思って良いわけ?」

 

 期待と疑惑と怒りを三等分した瞳を当麻に向ける。

 

「えぇええええぇっ!?」

 

 当麻は素っ頓狂な声を上げた。

 

「こっ、これが果たしてデートなのかどうかは非常に繊細で敏感な問題を含んでおりまして、単純に一概に断定することは難しいと申しましょうか……」

「あっそ」

 

 当麻の返答は何とも歯切れの悪いものだった。気分がどうにも盛り上がらない。というか悲しくなって来た。

 

「アンタさ……私のこと、好きなの?」

 

 半ば投げやりに訊いてみる。もっとロマンチックに尋ねたかったけれどもうどうでも良くなった。

 

「そ、そ、そ、そそそ、それは、だな……」

 

 “そ”を繰り返しながら口篭る当麻。周囲にいる蛇達が奇妙な声を発する当麻を舌を出しながら見ている。

 我ながら最悪な環境下で恋話をしている。

 そのことにどうしようもなく腹が立った。

 

「もう良いわよ」

「俺はな………………御坂のことが好………………へっ?」

「覚悟の決まってない答えなんて聞きたくない」

 

 好きと言ってもらえるにしろ振られるにしろハッキリした態度で示して欲しいと思うのは私のエゴだろうか?

 例えエゴでも……それでも当麻には毅然とした態度を取って欲しい。だってコイツは、上条当麻は私にとって正真正銘のヒーローなのだから。唯一のヒーローなのだから。

 

「さあ、カラフルな蛇でももうちょっと眺めてここを出ましょうか」

「あっ、ああ」

 

 もし当麻が真剣に私のことを好きだと言ってくれるなら私の返事なんか最初から決まっているのに……。

 そんなあり得ない夢想に浸りながら黄色い蛇が入ったケージをジッと眺める。とぐろを巻いて首だけ突っ立てて私を見ながら口を開けて威嚇している。

 どうやら私は猫だけでなく蛇にも嫌われているらしい。いや、もしかすると今の私の発する雰囲気はこの女の子受けしない生物よりよほど怖いのかも知れない。

 

「何をやってんのかしらね、私は?」

 

 もっと可愛らしく振舞えば当麻も好きだって言ってくれるかも知れないのに。

 乙女心のレクチャーが必要なのは私も同じ様だった。

 

 

 

 何となく白けた気分で施設の外に出る。

 言い様がなく胸が苦しくなっているので気分転換の為に空を見上げる。

 すると…………超巨大隕石がこの学園都市に向かって落下して来ているのが見えた。

 

「って、何で突然隕石なのよっ!?」

 

 確かに私は今日の当麻の様子のおかしさから地球に隕石が落ちて来るかもと思った。

 空に見えた黒い点を変だなとも思った。

 でもまさか本当に隕石が落ちて来るとは思わなかった。

 

「畜生っ! 本当に隕石がこの学園都市に落ちてくるとはな。土御門の言った通りだったぜ」

 

 当麻は大きく舌打ちを奏でた。

 

「えっ? アンタ、あの隕石が今日落ちてくることを知っていたの?」

「ああ。学園都市の理事長って奴が昔から親交がある恐怖の大王って奴からお中元を贈られたそうなんだ。そうしたら13年以上遅れて今日現れたのがアイツってわけだ」

「じゃあ、何? あの巨大隕石は恐怖の大王のお中元なのっ!?」

 

 当麻が首を縦に振った。

 

「ちなみにあの隕石包装の中には引き換え有効期限が2000年までのビール券が入っているらしい」

「今更もらっても意味ないじゃないっ!」

 

 どうでも良いことにツッコミを入れてしまう。

 

「恐怖の大王ってのは宇宙のかなり遠い所にいるらしいんだ。10年とか誤差の内にも入らないぐらいの」

「だったら有効期限の短いビール券なんか贈って来んな~~っ!」

 

 あまりのしょうもない展開に大声で叫んでしまう。

 

「ちなみにあのお中元が地上に落ちると学園都市は木っ端微塵に吹き飛ぶらしい」

「230万人の尊い人命がそんなアホな事態に巻き込まれて失われることになるなんて~っ!!」

 

 頭を抱えながら地面に膝をつく。落下する巨大隕石が相手では私のレールガンでも一方通行の能力でも粉砕することは不可能。

 即ち、私の人生は今日で終わりを告げるのだ。

 

「まあだからこそ俺がお前とスタンバイしている訳なんだが」

「えっ?」

 

 目を大きく開いて当麻を見る。

 

「あの巨大隕石は恐怖の大王が作っただけあって魔術的な物質らしいんだ。だったら……俺のこの右腕で粉砕することが可能だ」

 

 当麻は右腕を力強く握ってみせた。

 

「でも、アンタの右腕が発動する前に隕石から発する風やら熱やらでこの学園都市は壊滅しちゃうわよ」

 

 当麻の身長は私とさほど変わらない。そんな当麻が腕を伸ばした所で精々2メートル。

 隕石が地上2メートルまで接近した祭に発生する被害はやはりこの都市を壊滅させるだろう。

 

「だから……御坂のレールガンの力がどうしても必要なんだよ」

「私のレールガンが?」

 

 首を捻った。

 

「ああ。レールガンを応用して俺を空に向かって打ち上げて欲しい。そうすれば空中高くであのでかいのを迎撃できる」

「確かに紐か何かでアンタと結び付けた状態でその辺の銅像でもぶっ放せば千メートル以上は打ち上げられるとは思うけれど……」

 

 懸念が頭を過ぎる。いや、懸念というよりも恐ろし過ぎる確信が。

 

「それで仮に隕石を破壊できたとしてさ。アンタは一体どうやって地上に戻ってくるつもりなのよ?」

 

 私にはこの質問に対する返答に確信があった。当麻ならきっとこう答えるに違いないという確信が。

 

「俺の着地のことは……まあ何とかするさ」

「…………やっぱり」

 

 当麻は着地の方法なんて全然考えていない。仮に運良く隕石を消滅させられたとしても待っているのは高度千メートルからのスカイダイビング。

 幾ら当麻が今まで数々の修羅場を潜り抜けてきたといっても今回は……。

 他人の命は気にするくせに自分の命には無頓着な所に腹が立つ。

 それに、だ。

 

「今日当麻がさ、私のことをデートに誘ってくれたのはあの隕石を破壊する為なの?」

 

 どうしても訊いておかなければならないことだった。

 

「…………確かにそれがきっかけだったのは確かだ」

「…………やっぱりね」

 

 肯定する当麻の呟きに私の心は悔しさでいっぱいになる。

 浮かれていた自分に。

 思わせぶりな態度を取った当麻に。

 

「でもな、違うんだ」

「何が違うって言うのよっ!」

 

 当麻をキツイ瞳で睨む。私の目に映る当麻の姿が歪んでいる。

 泣いているのだって分かった。

 でも、泣いているとかいないとか今はどうでも良かった。

 今日という日をとても大切に思っていたのに、その想いが壊れてしまったのだから。

 

「俺は途中から御坂と出掛けることを楽しみにしてたんだよ。俺は今日お前と2人で過ごしたかったんだっ!」

 

 当麻は大声で、それこそ金切り声で叫んでいた。

コイツの切羽詰った本気が伝わって来る声。でも……。

 

「何で私と2人で過ごしたいと思ったの? どうしてっ!?」

 

 当麻はまだ本当に大事なことを話してくれてない。

 それを聞かないと……私の覚悟は定まらない。

 

「それは俺が御坂のことを……」

「私のことを、何?」

 

 当麻を睨み付ける。

 またもロマンチックな雰囲気なんか欠片もない。

 でも、今はどうしても当麻の本当の気持ちが知りたかった。

 じゃないと一生悔いが残る。

 

 そして当麻は……精一杯勇気を振り絞ってくれた。

 

「……………………好き…………だから」

 

「声が小さいっ!!」

 

 けれど気が付くと私は大声で怒鳴っていた。

 

「声が小さくて聞こえなかったわよ! もっと堂々と言いなさいっての!」

「聞こえなかったって……お前、顔が真っ赤になってるじゃないか」

 

 確かに私の顔は当麻の言う通りに真っ赤になっているのかも知れない。茹で上がっているように熱くなっているのが自分で分かるから。

 でも、だけど、聞いていないことにしたかった。

 

「1度口にするのも2度するのも同じでしょっ! ちゃんともう一度言ってみろっての!」

 

 どうしても、ちゃんと言って欲しかったから。

 きちんと聞かせて欲しかったから。

 

「じゃあ、改めて言うぞ。御坂……」

 

 当麻が私の両肩を抱いて来た。

心臓が飛び出しそうになるぐらい緊張している。

でもそんな様子は出来るだけコイツには見せないように冷静を心掛ける。

そして冷静である証拠にダメ出しをしてみせる。

 

「…………美琴」

「じゃあ、三度目の正直だ。美琴」

 

 朴念仁でも指摘の意図ぐらいは理解してくれたようなので黙ったまま続きを促す。

 

「俺はお前のことが……」

「…………うん」

 

 当麻は大きく息を吸い込んだ。

 

「俺は美琴のことが大好きなんだっ!」

 

 当麻に好きだと言ってもらった瞬間、私の心に広がったこの感情は何だろう?

 経験したことがないので何とも表現しようがない。

温かくそして優しい。そんなことしか分からない。

 

「まったく……何ヶ月待たせるのよ。ばか当麻」

 

 ただ一つ分かること。

 それは私が体中に広がったこの温かい感情に従って当麻を抱き締めていたということだけ。

 もう一つ追加で分かったこと。

 それは当麻を抱き締めているとこの感情が更に体中にくまなく広がっていくということ。

 

 私は当麻を抱き締めながらしばらくの間この温かい想いに身を任せていた。

 

 

 

「さて、そろそろあのデッカイのをやっつけに行かないとな」

 

 当麻が私から体を離す。

 もうちょっと抱き合っていたかったのが正直な所。

 でも、私の決心もようやく固まった。

 

「当麻ってば、私のことを好きだと一方的に述べるだけ述べて返事も聞かずに戦場に赴くつもりなの? それなんて死亡フラグなのよ?」

 

 当麻の行動に文句を付ける。

 

「返事も聞かずにって……美琴からのあの抱擁が告白の返事なんじゃ?」

「私はアンタの告白の返事を言葉にした覚えはないわ」

「えぇえええええええぇっ!?」

 

 驚きの声を上げる当麻。

 

「返事が聞きたかったらちゃんと生きて帰って来なさい」

 

 当麻を今日もっとも厳しい剣幕で睨む。

 

「そりゃあ勿論上条さんは死ぬつもりはありませんよ。けれど、生きて帰って来られるかはその場の状況次第ということで……」

 

 当麻は目を逸らした。当麻にも分かっているのだ。1人であの隕石に挑めばどうあっても死んでしまうことを。

 なら、私のやることは決まっていた。

 

「なら私も一緒に行く。それなら当麻を必ず生きて帰って来させられるもの」

 

 力強く頷いてみせる。

 

「えぇええええええぇっ!? いや、だけど、危ないんだぞ。本当に死ぬかも知れないんだぞ。そんな所に美琴を連れて行けるわけがないだろ」

「分かってないのはアンタの方よ」

 

 私の同行を拒絶する当麻に首を横に振ってみせる。

 

「まず私と当麻を背中合わせに紐か何かで結び付ける。そうしたら私がロケットの役割を果たしながらレールガンで上空まで方向を調整しながら飛ぶ。アンタが隕石を破壊したら再びレールガンを発射して風の力を利用して地上まで降りる。当麻が1人で空に飛ぶより破壊も着陸も安全でしょ?」

「確かに美琴の計算能力をもってすればそれも可能かも知れない。でもな……」

 

 当麻はまだ渋っていた。

 

「そんなに当麻は1人で死にたいわけ?」

 

 当麻の顔を睨み付ける。

 

「1人で死んで、私に一生消えない負い目を負わせて結婚もせず恋人も作らず孤独に人生を過ごさせたいっての?」

「誰もそんなこと望んでねえよ」

「じゃあ……これからの私の人生をずっと涙で暮れて欲しくないなら私も一緒に行かせてってのっ!」

 

 当麻はしばらくの間呆然と私を見ていた。

 

「美琴」

 

 驚いたように私の名を呟く。

 そして次の瞬間、とても優しい笑顔を見せてくれたのだった。

 

「俺はほんと、すげぇ格好良い女の子を好きになっちまったんだな。お姫様の位置に留まってくれやしねえ」

「私の格好良さに今になって気付くなんて……当麻ってば本当に鈍感なんだから」

 

 こうして私は当麻と2人で出撃することになった。

 私が女の子に異常なまでに優しい不器用な王子様から信頼を勝ち得た瞬間だった。

 

 

 

 隕石が地上に近付いていることもあり、私達の出発は慌しかった。

 

「じゃあこれから大空に向かってジェット飛行ってことになる訳だが……美琴は怖くないか?」

 

 背中を向けた当麻から最後の確認が来た。

 

「そうね。怖いか怖くないかで言えば……怖いわね」

「だったら、俺が1人で行っても……」

「当麻は大きな勘違いをしてるわ」

 

 当麻の言葉を途中で遮る。

 

「私はね、大空に向かって飛び出すことも隕石に向かってぶつかって行くことも地上に着陸することも全然怖くない。当麻と2人なら必ず成功するって確信しているから」

「じゃあ、何が怖いんだ?」

 

 当麻の左手を右手でギュッと握る。

 当麻は一瞬体をビクッと震わせたけど、そのまま手を強く握り返してくれた。

 

「だってさ。隕石を破壊して無事に地上に降りたら私、当麻に告白の返事をしなくちゃいけないじゃない?」

「それの何が怖いんだ?」

「そうしたらさ、きっと私も当麻も黒子の逆鱗に触れると思うのよね。それこそ生きてられないぐらいに」

「確かにそうだな。美琴の告白の返事が俺の期待した通りのものなら……空から降って来る恐怖の大王より地上にますます恐怖の大王の方がよっぽどおっかないな」

「期待以上の返事をしたりしたら尚更ね」

 

 2人同時に笑いが巻き起こった。

 

「それじゃあ真のラスボスと対峙出来るようにまずは雑魚っぽくなった中ボス退治に出向くとしようぜ」

「そうね。私と当麻の最強夫婦ペアの力を見せ付けてやるわよっ!」

「…………うわ。フライングで期待以上の返事が既に返ってきちゃったよ」

「何を突然立ちくらみ起こしているのよ?」

「しかも気付いてねえし」

「何に?」

「中ボスを倒したら教えてやるよ」

 

 当麻との掛け合いは出発直前まで続いた。

 いつもと同じ様な会話の応酬。

 でも、私達の関係が変わったからかちょっとだけいつもと違う。

 遠慮なく言い合っているのはいつもと同じ。

 でもいつもよりも温かい。とても温かい気持ちになれる。

 預けている背中が尚更それを感じさせるのかも知れなかった。

 

 結局当麻が私をデートに誘ってくれたのはその目的を考慮すれば冗談であり本気でもあった。

 だけど私はその冗談を通して本気以上の結果を得るに至った。

 

「こういうのも嘘から出たまことって言うのかしらね?」

 

 そんなことを考えながらレールガンを地面に向かってぶっ放して私達は上空へと飛翔していったのだった。

 

 了

 

 


 
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