No.341367 僕は友達が少ない 夜空のバカがあたしの高尚な趣味にイチャモンを付けてきた2011-11-30 00:29:56 投稿 / 全4ページ 総閲覧数:3354 閲覧ユーザー数:2528 |
夜空のバカがあたしの高尚な趣味にイチャモンを付けてきた
最近のあたしは幸せというものを覚えた。
あたしはその幸せを余すことなく貪る為に内なる世界の中へと没頭していく。刺激の少ない隣人部の部室は素敵桃色空間の前にその存在が掻き消されてしまう。
「ああ~♪ 学業優秀、スポーツ万能、スタイル最高で超美少女でオシャレで美少女ゲーム好きなんて……高坂桐乃はあたしそっくりで何て素敵な女の子なのかしら~♪」
あたしは今、実妹である高坂桐乃に夢中。そして桐乃もあたし(高坂京介)に夢中なの。
だから実の兄と妹だなんて些細な障害は乗り越えて2人はさっさと結ばれるべきなのよ。
うん。決まり♪
『どんだけシスコンなら気が済むのよ……キモッ』
だけど桐乃は世間体とモラルを気にしてなかなかあたしに本心を晒してくれない。あたしを愛していると言ってくれない。あたしに身も心も捧げてはくれない。
上手くいかない恋模様に息が詰まりそうになる。
「でも、それが良いのよね~♪」
相思相愛に辿り着けないこのもどかしさこそが最高の幸せをあたしに提供してくれる。
桐乃を落とす為に悪戦苦闘する今のあたしは本当に幸せ♪
「肉よ。お前は部室で毎日毎日ギャルゲーやエロゲーばかりして恥ずかしくないのか? 私はお前の存在が恥ずかしいぞ。どうだろう? 今すぐ死んではくれまいか?」
……夜空のバカがあたしの高尚な趣味にイチャモンを付けてきた。
「何を言っているの? これは来るべきリア充時代に備えたシミュレーションなのよ」
軽く息を吐いて無知蒙昧でおバカな夜空に学年トップの成績を誇るあたしが優しくレクチャーをしてあげる。
「これはねえ、友達が100人出来た際に会話に困らないように話し方を学んでいるのよ」
そう。あたしはただ遊んでいるのではない。同世代の女の子との話し方を学んでいる。いわばこのゲームはhow to talk本なのだ。
遊びながらも学びを忘れない向上心。さすがはあたし。できる人間は一味違うわ♪
「何が話し方を学んでいるだ。この発情期に入った淫乱メス豚どもが一方的に話し掛けて来ているだけではないか」
夜空が不愉快そうに細めた瞳であたしが用意した大型テレビを覗き込む。
そこにはあたし(高坂京介)に馬乗りになっている桐乃の姿があった。
『人生相談が……あるの』
桐乃はツレない態度を取りながら心の奥底では兄であるあたしを頼りにしている。
ううん。ただ頼りにしているんじゃない。1人の男として桐乃はあたし(京介)を見ている。それが良くわかるグっと来るシーンの一つ。
でも確かに会話は桐乃のペースで進んでいて、あたし(京介)は何も積極的に言葉を交わしていない。一方的な提案を受諾しているだけ。
「つまり貴様は、女に一方的に話し掛けられて下僕になるトレーニングを積んでいるわけだな。肉な上に下僕とはやはり肉奴隷がお前の上級ジョブなのだな」
夜空が軽蔑の視線をあたしに向ける。
「そんな訳がないでしょうがぁっ!」
あたしは大声で反論した。
「い~い! あたしはちゃんと自分から話し掛ける方法も学んでいるんだからねっ!」
ゲームの他のデータをロードする。
「ほらっ! あたしはちゃんと自分から話し掛ける方法も学んでいるんだから!」
あたしは黒髪の美少女モデル新垣あやせシナリオの一シーンを夜空に見せる。
『あやせ……大事な話があるんだ』
あたしはあやせに真剣な口調で語り掛ける。
『何でしょうか?』
あやせが緊張した面持ちで言葉を返す。
あやせは才色兼備の清純派大和撫子。でもシナリオを進めると実はツンデレのヤンデレで、選択肢を一つ間違えると即デッドエンドが待っている危険人物。
でも、そんなあやせもあたし(京介)の話術に掛かれば……
『結婚してくれ!』
『警察に通報しました』
あれっ?
「ほぉ~。これは見事な会話能力だな。捕まる為の会話術とは恐れ入ったぞ」
「えっ? えっ? ロードするデータを間違えたかしら? でも、きっともう少し進めれば、きっと通常の会話に戻る筈よっ!」
ボタンを連打して会話を進める。
『貴方のような人にプロポーズされたなんて世間様に知られたら新垣家の名折れです。だから……この場で今すぐ死んでくださいっ!』
『何でだぁああああああああああああぁっ!?』
画面が一枚絵のCGに切り替わる。
そこに現れたのはやたら筋肉ムキムキの迷彩服姿の軍人たち。そしてその後ろには戦車。
それはまさに戦場の風景。
『さようなら……最初に会った時は優しそうでちょっとだけ良いなあって思った人……』
『嫌ぁあああああああああぁっ!?』
響き渡る銃声。バチバチっと迸るスタンガン。
機械で合成されたっぽい悲鳴。
そして画面は暗転し、赤い文字で 『Dead End』 の表示が出た……。
……つい、間違ったデータをロードしてしまった。
恐る恐る夜空の顔を見る。
夜空はこれまで見たこともない程に優しい表情であたしを見ている。
「まさか、自ら殺される為の会話術を学んでいたとはな。私の……負けだ」
夜空は深々と頭を下げた。
「その謝罪はあたしに対する嫌がらせなの?」
「勿論そうだが?」
頭を上げ直した夜空は何を当たり前のことを訊いているのかと頭を捻った。
「まさか、今の一連の流れで賞賛に値する箇所が一欠片でもあったと思うのか?」
「うっさいわね。ちょっとロードする場所を間違えちゃっただけじゃないのよ」
得意のトークであたしが女の子たちをメロメロにしている場面を見せられればこんなことにならなかったのに。
「フッ。二次元廃人は精々CG相手に会話術を学んでいる気になっていれば良い。その間に私はリア充の街道をひたすら駆け登らせてもらうさ」
夜空は髪を掻き揚げた。まさに自信満々って感じ。
でもあたしはその様がどうにも腑に落ちなかった。
「あたし……夜空が学校で隣人部の部員以外と喋っている姿を見たことがないんだけど?」
あたしの記憶にある校内の夜空はいつも独り。部室に居る時だけ部員のみんなに囲まれている。
でもリア充の道を駆け登るということは、あたしの知らない所で密かに誰かと会っている?
「なぁっ!?」
夜空が仰け反った。
「あたしは鬱陶しくてどうでも良い男共から本当にどうでも良い話を振られて適当に返すのがこの学校での会話のほとんどなんだけど。夜空はどうなの?」
あたしは才色兼備の完璧超美少女だから群がって来る男なんて幾らでもいる。鬱陶しいくらいにチヤホヤして話し掛けて来るので、会話の相手には少しも困らない。
問題なのは、明らかに下心が透けて見える会話ばかりが展開されて欠片も面白くないということ。
だからあたしが欲しいのは同性の友達。下心も気取る必要もない会話をあたしは心から楽しみたい。
「何だその、上から目線の質問はっ!?」
夜空が更に大きく仰け反った。
大きくもない胸が強調される。勿論そんなものを見せられてもあたしは嬉しくない。どうせ見るんならラブリー小鳩ちゃんのペッタンコな胸か、意外と逞しい小鷹の胸が良い。
……って、今のなし! あたしは小鷹の胸に興味なんてないっての!
「肉は一体、1日の内に何人のこの学校の生徒と会話をしていると言うのだ?」
夜空の顔は引き攣っている。何故かはよくわからないけれど。
「そうねえ……」
試しに今日、何人の男たちに話し掛けられたか指を折りながらカウントしてみる。
あたしの優れた頭脳は、名前もよく知らない男たちがいつどんなタイミングで話し掛けて来たのかちゃんと覚えている。
小鷹が話し掛けて来たんじゃないかって期待してガッカリした回数を。……じゃなくて、小鳩ちゃんから話し掛けて来たんじゃないかって期待してガッカリした回数を。
両手の指を追って開いてまた折り始めた所でカウントが止まる。
「隣人部のみんなを除くと、今日は22人って所かしら?」
多分昨日も同じぐらいの人数だったと思う。
「貴様ぁっ! ぼっち詐称詐欺師だなっ!」
夜空が目を剥いて怒る。けど、それはあたしに言わせれば身に覚えのない非難だった。
「話し掛けられてもちっとも嬉しくないし、あたしはアイツらの名前も知らないんだもの。友達なんてあの男共の中に1人もいないわよ!」
改めて考えてみると、あの男たちの中でフルネームを知っている人間は1人もいない。
それどころか苗字か名前かを聞いたことがあるのも片手で数えられるぐらいしかいない。
しかもその場合も、お互いに罵り合う時に佐藤だの田中だの言い合っていたのを聞いたに過ぎない。
あたしはあの群がって来る男たちの誰にも自己紹介を受けた覚えがない。そんな奴らを友達なんて言えない。思いたくない。
結局アイツらにとってあたしは崇拝の対象であり、きっと裏では下卑た欲望の対象なのだと思う。
ただそれだけ。
アイツらはあたしという人間の内側を見ようとしない。そんな薄っぺらいのは……嫌。
「それで夜空の方はどうなのよ? 今日は何人と話したのよ?」
夜空はあたしに見えない所で密かに作っているのかしら?
だとしたら、ずるい。そして羨ましい。
何としてもこの性悪女から友達を作る秘術を盗み出さなくちゃ。
「フッ。隣人部を除けば……1人、だな」
やたら少ない人数の割に自信満々に答える夜空。
これはつまり、その1人とはとっても親密な会話を交わしたということなのかしら?
「誰なのよ? アンタと会話を交わすなんていう殊勝な心がけの人物は?」
「トモちゃんというとても可愛いくて話し上手な女の子さ」
再び夜空は髪を掻き揚げた。トモちゃん自慢のポーズ。
でもあたしは、その名前に聞き覚えがなかった。
「トモなんて名前の子、この学年にいたっけ?」
超優秀な頭脳を持つあたしは、この学年の女子のフルネームを全員覚えている。
いつ、友達になっても困らないように。
とはいえ、顔と名前が一致する子はほとんどいないのだけど。
「フン。友だちと言えば同じ学校の同学年しか考えないとは、視野狭窄に陥った肉め」
「つまり、同じ学年には在籍してないってことね」
さすがのあたしも3年生や1年生の名前はチェックしていない。やっぱり3年生は先輩、1年生は後輩で友達とはちょっと違う感じがするし。
でも、夜空の話しぶりはトモちゃんという女の子がこの学校の生徒ではない可能性を示唆している。
中学や小学生の時のクラスメイトとか。ううん、同じ趣味を通じて知り合った友達なら、年齢とか相当離れていても場合も考えられる。夜空は読書好きだし、そうなると広範囲の層が網羅される。
つまりトモちゃんは小学生から社会人、もしかするとお婆ちゃんなんて可能性もある。そうなるとあたしにトモちゃんの正体を掴むことは不可能に等しくなる。
「やるわね。可能性という迷宮にあたしを放り込むなんて」
額から汗が流れる。
夜空が小学生やお婆ちゃんと楽しそうに会話している風景なんか想像できない。でも、想像できないが故にあたしはその真実を見落としてきたのかもしれない。
あたしは超努力家で自分の過ちを認めて修正もする超柔軟性に富んだ完璧超美少女。夜空に対する認識をちょっぴり改める。
夜空は小鷹だけじゃなくて、幼女からお婆ちゃんまでストライクゾーンの変態と。
「肉が何を妄想しているのかは知らん。だが、わたしにトモちゃんという親友がいることは確かだ」
夜空の姿勢が準備体操でもしているのかと思うほどに背筋を逸らす。
「悔しかったら肉も親友と呼べるほど親しい同性の知り合いを作ることだな。はっはっはっはっは」
夜空は誇らしげに部室を出ていった。
「……何よ。トモちゃんとか言う女の存在がそんなに誇らしいっての?」
小声で愚痴る。
でも、あたしの心は夜空に対する敗北を認めない訳にはいかなかった。
大勢の取り巻きがいるだけで親友はおろか友達の1人もいないあたし。
たった1人でも親友が存在する夜空。
「一騎当千、かぁ」
数十人の有象無象の雑兵じゃ一騎当千の侍には敵わない。
「けど……親友なんて……」
親友と楽しくお喋りしている自分がイメージできない。
そんな存在があたしの一生の内に出来るなんて、どんなに想像力を張り巡らせても浮かび上がらない。
だってあたし、完璧過ぎるんだもの。
親友になってくれるかもしれない子がいても、あたしの完璧ぶりに気後れしてしまうに違いない。
そうなってはせっかく築け掛けた友情がダメになってしまうに違いない。
「やっぱりあたしに親友なんて無理なのよっ!」
全ての分野において頂点に君臨するあたしに対等な相手なんて有り得ない。
だから親友なんて無理。
「でも……楽しくお喋りできる同性の知り合いが欲しいよぉ……」
あたしだって女子高生。
ガールズトークってのを楽しんでみたいの。
でも、現状じゃ……あたしが完璧超美少女である限りそれは不可能なの。
「気分直しに……ゲームでも再開しよっ」
ヘッドホンを頭にのせて再び大画面へと向き合う。
『”先輩”と”兄さん”。どちらの呼び方が……好き?』
画面の中で新学年を迎えて桐乃の友達からあたし(京介)の学校の後輩になった邪気眼系美少女黒猫が尋ねてきた。
1.”先輩”の方が好き。
2.”兄さん”の方が好き。
画面を見ながらジッと考える。
何かこの選択肢があたしの今後の人生にすっごいヒントを与えてくれている気がする。
この問いはあたしに何をもたらしていると言うの?
わからない。でも、この問いから逃げちゃダメ。
しっかり考えるのよ、星奈!
「って、手が滑ったぁあああぁっ!」
力み過ぎてコントローラーがずるっと滑り、あたしの指は勝手にボタンを押してしまう。
2.”兄さん”の方が好き。
あたしの手は2番の選択肢を選んでいた。
「”兄さん”でいいよ。”先輩”なんて、今更他人行儀な感じだし、おかしいだろ、やっぱさ」
あたし(京介)は黒猫にそう理由を述べた。
『……そう。そう言えば”兄さん”は超が付くほどのシスコンだものね。妹の為に何でもしちゃう』
『ああ。妹ってのは俺にとっては最高の女の称号だからな』
黒猫とあたし(京介)のやり取りにハッとする。
「妹……っ!!」
”妹”という単語を呟いたら急に心が熱くなった。
『でも、逆に言えば私はいつまでも”兄さん”の妹止まりなのね。フフ』
『おいおい。俺は最高に可愛い女なら妹だって躊躇なく襲っちゃうワイルド極まる男なんだぜ』
『あらっ? じゃあ、今の私はとっても危機なのかしら?』
『今頃気付いたのか? でも、ここは俺のベッドの上。もう逃げ場はどこにもないぜ』
「きゃぁ~~~~っ♪」
画面が切り替わり18禁モードへと移り変わる。黒猫が恥ずかしがりながら生まれたままの姿をあたし(京介)に晒している。
けれど、その先の展開はあたしの気を惹かなかった。
何故なら──
「そうよ! 答えは”妹”にあったのよ!」
あたしは夜空の親友に対抗する唯一の道を見つけてしまったのだから。
「姉妹なら……どんな能力差があったって問題にはならない筈。姉より優れた妹なんて存在しねえって格言もあるわけだしっ!」
友達だったら超完璧過ぎるあたしは相手にとって負担になる。
でも、姉妹だったらあたしのステータスの高さは妹にとって自慢の種になる。利点に変わる!
「こんな部室でグズグズしていられないわ。早く家に帰って姉妹に関する情報を集めなくちゃっ!」
桐乃、あやせ、黒猫はあたしに大切なことを教えてくれた。
彼女たちはあたし(京介)を慕う可愛い妹達だった。
そう。あたしは最初から答えに辿り着いていたのだ。でも、あたしが友達なんて言葉にこだわり過ぎてしまっていた為に、彼女たちの想いを受け止めきれなかった。
だから今からあたしは世界で一番素敵な姉を目指すっ!
あたしはゲームをそのまま放り置いて一目散に家へと駆け帰った。
「ごきげんよう。夜空さん」
翌日、あたしはパパに頼んでカスタマイズを許可してもらった長い丈の濃緑のセーラー服に身を包んで学校に登校した。
「何を考えているのだ、肉?」
夜空が引き攣った表情を浮かべている。
けれど気にしない。何故なら今のあたしはマリア様のお庭に集う乙女なのだから。
聖クロニカ学園がキリスト教系の学校であったことを入学式の日以来久しぶりに思い出した。
「夜空さん。淑女たる者、挨拶はきちんとしないといけませんわよ」
スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻らせないように、ゆっくりと歩きながら夜空にアドバイスする。
「まずその血迷った制服は何だか答えてくれ。その丈の長さ……1970年代のレディースのつもりか?」
夜空はあたしの高尚な変身を少しも理解していない。まあこの娘はバカだから仕方がないのだけど。
「夜空さん。ここは私立クロニカ学園。明治三十四年創立のこの学園は、もとは華族の令嬢のためにつくられたという、伝統あるカトリック系お嬢さま学校ですよ。あたしが淑女なのは当然ですわ」
「この学校は肉のオヤジさんが一般庶民の為に建てたもので30年の伝統もなかろうが」
夜空が呆れたように大きく溜め息を吐く。
「そんな些細な誤差、淑女たるあたしが気にする必要もありませんわ」
「気にしろよ。自分の父親が経営する学校だろうが」
夜空は再び大きな溜め息を吐いた。
「で、何で突然キャラチェンジを思い立った。まあ、もう予想は付くがな」
夜空が白い目であたしを見る。
夜空は読書好きなのであたしの変身の理由をもう掴んでいるに違いない。
なら、もう隠す必要はない。
「勿論これの為よ」
胸の谷間に収納しておいた銀のロザリオを夜空に示してみせる。
「このロザリオはねえ、聖クロニカ学園に100年伝わる聖なる銀のロザリオなの」
「鎖の所に値札が付いたままだぞ」
「嘘っ!?」
慌ててロザリオを首から外して確かめる。
けれど、夜空の言うような値札はどこにも付いていなかった。
「すぐバレるような嘘を付くんじゃない」
「うっさいわね! こういうのは年季モノの方がありがたいって相場が決まっているんだから!」
「おい。淑女の仮面が剥がれ落ちてるぞ」
口をギュッと締めて不満の言葉を飲み込む。
今のあたしはマリア様の庭に集う淑女。そして、大いなる夢を実現せんとするヴァルキリーでもある。
気を取り直して話を進める。
「あたしはこのロザリオを小鳩ちゃんに渡して、彼女とスール(姉妹)の契りを交わすの」
あたしはラブリー小鳩ちゃんのお姉さまになる。
「そして……小鳩ちゃんに”お姉さま”って甘えてもらうのよ~~♪」
そう。これこそが昨日一晩情報収集に当たり考え抜いた末に得た結論。
あたしは、小鳩ちゃんのお姉さまになるっ!
「何だ。結局はいつも通りの発情ではないか。この淫乱メス豚め」
夜空は呆れた瞳を投げ掛けてくる。
けれど、今日のあたしは昨日までのあたしとは全然違う!
「全然違うわよ」
「何がだ?」
「昨日までの小鳩ちゃんはペロペロしたい対象。でも、今日の小鳩ちゃんは愛でるべき対象なのよ」
「同じにしか聞こえないのだが?」
夜空が首を捻る。
「あたしは小鳩ちゃんを教え導くのよ。あたしのようなスーパー・パーフェクト・レディーに成長できるように」
「肉のような人間がもう1人現れたら、それは人類にとって不幸でしかないぞ」
「そして姉妹で仲良く愛を語らうの。お風呂の中でもベッドの中でも24時間一緒に楽しく」
「だから小鳩を下劣な欲望で汚したいという普段と同じ話にしか聞こえないのだが?」
夜空はあたしの変化を理解してくれない。
きっと眩し過ぎて理解したくないのだろう。まあ、今のあたしは輝き過ぎているから仕方ないのだけど。
「あたしは小鳩ちゃんとスールになって、アンタとトモちゃんとかいう女の子の親密さを越えてみせるわ」
「私にはお前が自分から負けに行っているようにしか聞こえないのだが?」
「結果を見ればどちらの言葉が正しかったのかわかるわよ」
負け惜しみを続ける夜空との会話を切り上げて隣人部の部室へと向かって歩き出す。
「今日小鳩ちゃんが置き忘れたぬいぐるみを取りに隣人部部室を朝の内に訪れるのは調べが付いているんだから」
「さすがは肉。ストーカーの鑑だな」
夜空を無視して部室に向かう。
そして部室であたしが目にしたのは──
「あんちゃ~ん。テレビに大きく裸の女が映っとるば~い。破廉恥ば。え~~ん!!」
小鷹の胸に頭を押し付けて泣いている小鳩ちゃんの姿だった。
「あっ!」
その時になってあたしはようやく、昨日テレビの電源を切らないまま部室を後にしたことを思い出した。
「部室でエロゲー。しかもエロ画面放置とは大した淑女ぶりだなあ、肉よ」
夜空が隣でニヤニヤと笑っているのが腹立つ。
「あのなあ星奈。エロゲーする時はちゃんと気を付けろよな。この部室には小鳩やマリアっていう子供が出入りするんだから」
小鷹の批難の視線が突き刺さる。
えっ? あれっ? これ、もしかして好感度下がっちゃった? フラグ消失の危機?
って、今は小鷹を攻略している時じゃない。小鳩ちゃんを早くどうにかしなくちゃ。
「あのね。小鳩ちゃん」
「嫌ぁああああぁ。エロ女が話し掛けてきちょる。助けてあんちゃ~ん!」
小鳩ちゃんは近付いたあたしから避けるように小鷹の背後へと回り込む。
「ハァ~。小鳩の機嫌は俺が何とか直すようにする。だからその間、とりあえず2、3日は妹に近付かないようにしてくれ」
「こんなエロ女、一生近付きたくないきん!」
小鳩ちゃんはあたしに向かってあっかんべーをすると、小鷹と一緒に部室を出ていってしまった。
「あたしはただ……小鳩ちゃんとスールになってもっと仲良くしたかっただけなのにぃ」
夜空の親友トモちゃんに対抗するには、妹小鳩ちゃんしか考えられなかった。
でも、その夢は崩れてしまった。ガックリと床に膝と手をつく。
「あまりにも肉らしい無様な展開だったな」
夜空がポンッとあたしの肩を左手で叩く。上から目線の笑みが注がれて来る。
人間は、他人を見下している時は結構優しくなれるのだ。今の夜空がまさにそう。
そして夜空は右手でコントローラーを動かしながらゲームのデータをロードした。
『どんだけシスコンなら気が済むのよ……キモッ』
桐乃の言葉がとてもとても痛かった。
了
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はがないで少し地盤固めを。
話考えるのが面倒なのでアイディアとかないですかねえ。
まあ夜空と星奈に会話させていればとりあえず話にはなるのですが。
僕は友達が少ない
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