No.217325

そらのおとしものショートストーリー2nd 四角関係

今回よりショートストーリー第2シリーズとなります。
毎週高新分を確保しつつ、連載に向けての時間稼ぎですね。


俺の妹がこんなに可愛いわけがない

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2011-05-18 00:34:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3185   閲覧ユーザー数:2875

そらのおとしものショートストーリー2nd 四角関係

 

 

 ある日曜日の昼頃、守形が食料調達の釣りに勤しんでいると、1発の矢文が届けられた。

 矢文の中身を改めてみる。

差出人は美香子で、内容はすぐに空美学園の校庭に来て欲しいというものだった。

 何か胡散臭さを感じたものの、守形は釣りをやめて空美学園へと向かった。

 

 守形が校庭に到着すると、美香子、智子、カオスの3名の少女が腕を組んで立っていた。

 カオスはキョトンとした表情で他の2人の真似をして腕を組んでいるようだった。

しかし残りの2人はピリピリした雰囲気を漂わせていた。

 守形は軽く息を吐きながら、いつも通りの無表情で3名の元へと近寄って行く。

「どうしたんだ、お前ら?」

 守形の問いに対して美香子はキッとキツイ目を向けて答えた。

「誰が英くんの一番なのか、今日こそはっきりと答えて頂戴」

 美香子の喋り方にいつもの間延びした余裕は見られなかった。

「その問いは抽象的過ぎて答えられないな」

 守形は首を捻った。

「仮に身長の高さのことを言っているのであれば、美香子が1番で智子が2番、カオスが3番になるが?」

「そういうことを尋ねているのではありません」

 美香子の代わりに否定したのは智子だった。

「では、髪の長さのことか?」

「それも違います」

 守形と智子のやり取りを聞きながら美香子は溜め息を吐いた。

「英くんは桜井くん並に鈍感だと思っていたけれど、ここまでだったなんて……」

 美香子は改めて守形を見た。

「こうなったら直接的に尋ねるわ。英くんにとって1番気になる女の子は誰なの?」

 美香子は生徒会長としては普段決して見せることのない鋭い瞳を守形に向けていた。

 

「フム。俺が1番気になる少女、か……」

 守形はメガネを鈍く光らせながら考える。

 しかし、深く考えるまでもなく答えは出ていた。

「1番カオス、2番智子、3番美香子だな」

 自明となっていた順序を口に出してみる。

「わ~い。カオスが1番~♪」

 カオスは無邪気にはしゃいでいる。

 しかし、守形に1番を指名されなかった2人の少女は黙っていられる筈がなかった。

「英くんはいつからそんなロリペドになったの!?」

「そうですよ、先輩。若い子が好きなら私の方がカオスよりも更に若いですよ」

 守形は2人の少女に囲まれて両側からサラウンドに捲くし立てられていた。

 しかし何故少女たちが騒いでいるのかよくわかっていない。

「どうしてカオスちゃんが1番なの? そんなに私の早熟し過ぎた体じゃ嫌なの?」

 美香子が恨みがましい瞳で守形を見てくる。

 それで守形は美香子が体型の話をしているのだと思った。

 しかしそれは守形が口にしたランキングとは異なる基準だった。

「何か勘違いしているようだな、美香子は」

 幼馴染の少女の間違いを指摘する。

「俺がカオスを1番気にする訳は、カオスが新大陸に最も近い存在だからだ。そして智子が2番目なのは、智子は新大陸の科学力で偶然に生まれた存在だからな」

「あっ、そうなのね……」

 守形の答えを聞いて美香子はようやく安堵の息を吐いた。

「じゃあ、英くんが1番好きな女の子は誰なのかしら?」

 そしてもう1歩踏み込んだ質問を発する。

 守形はジッと目を瞑って考えた。

 やはり特に考えるまでもなかった。

「1番カオス、2番智子、3番美香子だな」

 浮かんで来た答えを再びそのまま口に出してみる。

「わ~い。カオスが1番~♪」

 カオスは再び無邪気にはしゃいでいる。

「どうしてなのよぉっ!?」

 一方、黙っていられなかったのは美香子だった。

 その顔は、自分が当然1番に選ばれると思っていたのに裏切られた。

 守形とは生まれた時からの知り合いと言っても過言ではない間柄なのに。

 大きなショックが美香子を襲う。

「どうしてと言われてもだな。カオスは新大陸に最も近い存在だからな。大好きに決まっている」

「わ~い♪ 大好き大好き♪」

 守形英四郎。新大陸=シナプス以外の判断基準を持たない男。

 桜井智樹並に鈍感な男だった。

 

「こうなったら、カオスちゃんと智子ちゃんを亡き者にして私が1番になるしかないわね」

 五月田根家の家訓は“ころしてでもうばいとる”。

 自棄になった美香子は400kgの握力を誇る両手を大きく広げながらカオスへと突撃を敢行していく。

 しかし──

「お相撲さんごっこ? わ~い♪」

 カオスの体に触ろうとした所、美香子の視界が上下反転した。

「へっ? きゃぁああああああぁっ!?」

 相手は幼女の容姿をしているとはいえ、シナプス最強の第二世代型エンジェロイド。

 如何に人間離れした怪力と卓越した戦闘センスを誇っていたとしても、普通の人間の敵う相手ではなかった。

 

 

「お前は一体何をしているんだ? 人間がエンジェロイドに力で勝てる訳がなかろうが」

 守形は美香子の元へと駆け寄って行く。

「英くん。今のこの惨めな私を見ないで……」

 守形は洋服が泥だらけになっている美香子を抱き起こして具合を確かめる。

 怪我はどこにもなさそうだった。

 しかし、精神的に弱っているのは間違いなさそうだった。

 美香子の様子は普段の自信に満ち溢れた様子からは程遠かった。

 けれど、守形はそんな美香子の姿を見ても特に驚きはしなかった。

「お前は昔からそうだからな。考えもなしに無茶なことを始めては俺の前でいじけている。幼稚園の頃から何も変わらないな」

 今のこの姿も守形にとっては見慣れた光景だった。

「英くんは、こんな私を見て失望したりしないの?」

「いつもの姿のお前に何故失望しなければならない?」

「本、当?」

 守形から見た美香子は、他の人間から見えるような完璧超人では決してなかった。

 美香子は見栄っ張りで、意外と涙脆く、それでいて寂しがり屋で意地っ張り。

 意外と子供っぽいというのが守形の美香子に対する総評だった。

 しかし守形はそんな美香子を人間らしくて好ましいと考えていた。

 喜怒哀楽が著しく欠如している自分よりもよほど人間として完成度が高いと見ていた。

「英くんは私のことを嫌いになったりしないの?」

「俺がこんなことで美香子を嫌うワケなどない」

「本当なのね? 嬉しい……」

 聞きようによっては甘い雰囲気が2人の間に流れていた。

 智子はハンカチを口で引き千切りながら悔しがっていた。

 守形は特に甘い雰囲気など意識していないのが真相ではあったが。

 

 だが、美香子が感じていた甘い時間は唐突に終わりを告げた。

「あっ、そろそろシナプスに遊びに行く時間だ」

 カオスが太陽の位置を見ながら背中に漆黒の時計の針のような羽を生やす。

「何? 俺も一緒に行くぞ」

 守形は腕の中で抱きかかえていた美香子を地面にあっさりと寝かし直した。

 そしてさくさくと歩いていくとカオスの腰にしがみ付いた。

「あっ、智子も行きますぅ~♪」

 智子は守形の腰にしがみ付いた。

「じゃあ、シナプスに向けて出発~♪」

 そしてカオスは守形と智子を引き連れてシナプスへと旅立っていった。

 守形は1度も美香子を振り返ることはなかった。

 1人呆然とその様を見送る美香子。

「明日こそは、カオスちゃんに勝って英くんに気持ちを伝えてみせるわ!」

 こうして美香子のエンドレス・ジェラスの日々は続くのだった。

 

 

 

 


 
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