No.225328

そらのおとしものショートストーリー2nd 戦って勝ち取れ

定期更新です。
今回は義経と智樹。
ネタの枯渇が見える作品でもあります。
次回は
そらのおとしものOO劇場版 前編

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2011-06-29 00:14:25 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2897   閲覧ユーザー数:2560

 そらのおとしものショートストーリー2nd

 戦って勝ち取れ

 

 

「この世で最も美しい女性イカロスさんっ、僕のこの溢れんばかりの愛を受け取ってくださいっ!」

 今日もまたバカが花持ってやって来た。

 鳳凰院のヤツは今日もまた空美学園まで乗り込んで来てイカロスに花束を渡そうとしてやがる。

 だが、そんな行動は無駄なこと。

「おい、イカロス」

「……何でしょう、マスター?」

 何故ならイカロスの優先順位は絶対的に俺の方が上だから。

 鳳凰院の野郎が何をしようがイカロスの心が傾くことはない。

「何故受け取ってくれないのですか、イカロスさ~んっ!?」

 大声で大げさに嘆いてみせる鳳凰院のバカ。

 コイツが嘆いている様を見るのは実に気分が良い。

 今日も寝るまで幸せに過ごせそうだ。

「……あの、マスター。ご用件というのは、何でしょうか?」

「ああ、鳳凰院のヤツを無視し続けろ」

「……でも」

 イカロスは鳳凰院に全く気がない。けれど、根が優しいのであんなバカで哀れな生き物にもつい情を注いでしまう面がある。

 だから、俺がマスターとしてやるべきことは──

「命令だ、イカロス。鳳凰院を無視しろ」

「……はいっ、マスター」

 イカロスの些細な悩みを取り除いてやることだった。

 

「何故、何故僕を無視するんだ、イカロスさんっ!」

 背後から鳳凰院のすすり泣く声が聞こえる。

 今日も寝るまで幸せな気分になれそうな音。

「戦って勝ち取れ~ってことじゃないかしら~?」

 と、そこでまた背後から今度は俺に不幸を運び込みそうな声が聞こえて来た。

 悪い予感に駆られて振り返るとそこには──

「ゲッ! 会長……」

 そこには俺を弄ることを至上の喜びとする性悪生徒会長の姿があった。

「イカロスちゃんだって女の子~。好きな男の子には戦って勝ち取って欲しいのよ~」

 鳳凰院に向かって悪魔の囁きを続ける会長。

 わかりきっていることだが、会長は鳳凰院のことを考えてそう提言しているんじゃない。

 そもそも会長は鳳凰院が大嫌いなのだから。

 なのに助言しているということは……つまり、そうするのが面白いからだ。

 騒動が起きることを会長は大いに望んでいる。

 そして騒動が起きると大概俺が死ぬような目に遭う。

 要するに会長が何かを企むと俺が不幸になる。

 そういう構図が世の中には存在している。

「うふふふふ~。さあ、イカロスちゃんを戦って奪い取るのよ~」

「なるほど。イカロスさんのような慎ましい女性は男に強引に導かれるのを待っているというわけだね。一理あるな」

 会長の口車に乗せられたバカが俺を睨んでくる。

「というわけで勝負だ、Mr.桜井っ! 脱衣(トランザム)ッ!!」

 と思ったら俺の了承も得ずにいきなり襲い掛かってきた。

 勿論いつも通りに全裸になって。

 普段なら俺も脱衣(トランザム)して戦いに応じる所。

 だが、それでは会長の思う壺になってしまう。

 だから俺は普段とは違う対応を取ることにした。

「イカロス、鳳凰院の野郎を撃退しろ」

「……ですが」

 イカロスはなかなかイエスと言わない。

 俺と鳳凰院のバトルはいつものことなのでイカロスは干渉しないのが暗黙の了解となっている。

「命令だ、イカロス。俺を傷つけようとする敵を排除しろ」

「……………………はい」

 イカロスが返事するまでには間があった。

 けれど、最終的には俺の命令に従った。

 

「……マスターの命により、貴方を排除します。痛い目に遭いたくなければ大人しく退いてください」

 表情を引き締めたイカロスが義経の前へと立ちはだかる。

「フッ。イカロスさんこそ退いてください。僕はMr.桜井を倒して貴方と添い遂げるという大事な使命があるのです」

 いつの間にか鳳凰院の目的がイカロスと添い遂げることにグレードアップしている。

 けれどな、イカロスは俺んだ。

 誰がお前なんかにやるもんか。

 そして、鳳凰院はイカロスがどれほどの戦闘力を持っているのかまだよくわかっていない。それを、思い知らせてやる。

「イカロスさん。貴方のその可憐な唇を私が塞いで黙らせてあげましょう。ジュテームっ!」

 義経が脱衣(トランザム)状態でイカロスに向かって突っ込んできた。

 唇をタコのように突き出して涎を垂らしながらのダイビングヘッドアタック。

「……アルテミス、発射」

 イカロスは義経に対して無人追尾型ミサイルを放った。

 表情に変化は一切見られないが、今の義経はイカロスも生理的に嫌らしい。

「はっはっは~。イカロスさんは本当に照れ屋さんだなあ~」

 そして鳳凰院は星になった。

「……マスター、敵の排除に成功しました」

「よくやったぞ、イカロス」

 浮かない顔のイカロスの頭を撫でて労をねぎらう。

「鳳凰院のヴァカめぇ。イカロスに正面から襲い掛かるとは愚かなり」

 脱衣(トランザム)によって得られる力は強大。

 使い方次第ではエンジェロイドに勝つことだって可能。

 けれどそれは戦い方を工夫すればの話。

 真正面から突っ込んでいって重火器を装備したイカロスに勝てるはずがない。

「フッ、会長。貴方の思い通りの面白い展開にはさせませんよ」

「それはどうかしらね~?」

 しかし、俺への災難が降りかからなかったのにも関わらず会長は笑っていた。

 俺はまだ、そしてイカロスも会長が何を考えているのかまだわかっていなかった。

 

 

「イカロスさん、今日こそ僕の愛を受け取ってくださ~い♪」

「……ごめんなさい」

 今日もまた鳳凰院の野郎はイカロスにアタックを仕掛け、撃墜された。

 これで何回目だ?

 鳳凰院が初めてイカロスに唇攻撃を始めたのが1週間ほど前で……既に10回は吹き飛んでいるんじゃないかと思う。

 だが、鳳凰院は懲りない。

 いや、それどころか──

「ハァハァハァ。イカロスさん、もっと僕を痛め付けてくださ~い♪」

 何かに目覚めやがった。

「……マスター。私は今、恐怖、というものを味わっているのだと思います」

「安心しろ。俺も、感じている」

 目を爛々と輝かせながら悦に浸る鳳凰院には人間の無限すぎる可能性を感じさせる。

 俺はイカロスに叩かれても悦に浸るなんてできない。

 いや、だが待てよ?

 

『……マスターは、豚です。ブヒブヒ鳴いてください』

 イカロスに罵倒されながら全裸の俺の尻が踏みつけられたらどうだろう?

『……マスターのキモさは世界一です。そんな貧弱な体で全裸になるなんて……プッ』

 その体勢のまま俺の自慢のボディーを笑われたら……?

 

「いいっ! すごくいいぞぉっ!」

 イカロスに冷たい視線でゴミ以下の存在に扱われる俺。すごくっ、いいっ!

「……私は今、初めてマスターに対して、恐怖を感じました。近寄らないでください」

 俺は今、人生の新境地に辿り着いて喜びに打ち震えているのにイカロスは何故かどん引きだ。

 まあ、今はイカロスがどん引きな理由を探るよりも、だ。

「イカロスっ、俺を思い切り豚と罵ってくれ。足で踏みつけて、唾を吐いて人間の尊厳を踏み躙ってくれっ!」

「…………っ」

 イカロスはそっぽを向いた。聞こえないふりをしている。

「イカロスっ、命令だっ! 俺を、罵りなじり痛め付けるんだっ!」

 イカロスは命令となれば断ることができないはず。何しろ忌々しくもあるが、エンジェロイドはマスターの命令に絶対忠実だからな。

 さあ、イカロス。

 俺を新たなる快楽の世界に導くが良いわ。はっはっはっは。

 

「……嫌、です」

 だが、イカロスの出した答えは俺の命令に対する拒絶だった。

「な、何故だ、イカロス?」

 イカロスが命令を拒絶するなんて……。俺にはとても信じられないことだった。

「……幾ら、マスターの命令でも、マスターにそんな酷い真似は、できません」

 イカロスの表情は泣きそうだった。

「ええ~いっ! 俺がやれと言っているんだ。やれぇ~っ、イカロスゥっ!!」

「……できません」

 イカロスは両手で目を塞いでイヤイヤと首を横に振った。

 イカロスは本気で俺の命令を拒絶していた。

「こうなったら、やるぞっ、鳳凰院っ!」

「任せておきたまえ、Mr.桜井っ!」

 鳳凰院と2人で空中に向かって大きく跳躍する。

 そして──

「ツイン・脱衣(トランザム)っ!」

 空中で全裸になってイカロスに向かって飛び掛る。

 勿論、攻撃する為でなく攻撃される為だ。

「さあ、イカロスっ。額に『肉』と書かれたくないのなら、大人しく俺たちをその手と足と体全体を使ってぶちのめせっ!」

「イカロスさん、ハァハァ。イカロスさん、ハァハァ。イカロスさん、ハァハァハァっ!」

 2人で頭からイカロスに向かって飛び込んでいく。

 俺たちのパラダイスはすぐ目の前に迫っていた。

 だが──

「……嫌ぁあああああぁああああああぁっ!」

 俺たちの野望は天空から注ぎし光の矢──ウラヌス・システムの砲撃によってイカロスに到達する前に防がれてしまった。

「よく自分で決断したわね。イカロスちゃんは自分の生き方を戦って勝ち取ったのよ♪」

 そして俺たちの前にはイカロスの頭を撫でて慰める会長の姿があった。

「……でも、私は……」

「桜井くんたちはそれを教えたくてわざと襲い掛かったのよ。イカロスちゃんが負い目に感じる必要はどこにもないわ」

「……そう、なのでしょうか?」

「ええ、そうよ♪」

 会長は実に極上の笑みを浮かべていた。

 しまった。

 会長が狙っていたのはこれだったのか。

 会長は長期的な策謀を持って俺たちをおもちゃにするつもりだったのか。

 まんまと嵌められてしまったぜ。

 

 

『Hey! Mr.桜井』

『何だ鳳凰院?』

『先ほどのイカロスさんからの一撃。ハァハァできたかい?』

『微妙だな。やはり、飛び道具、しかも本人とは離れた所から発射された一撃ではあまり魂は揺さぶられない。身軽にはなったけどな』

 ちなみに俺たちはイカロスの攻撃により粒子に生まれ変わった。

 驚異的なダイエット成功と言える。

 どんな女性も俺たちをうらやむ筈だ。何しろ体重計が反応しないのだから。

 代わりに何1つ掴むことができず、風に揺られてしか動くこともできなくなってしまったが。

『Mr.桜井。過去の些細なことは忘れて、一緒にイカロスさんに踏まれにいかないかい?』

『そうだな。イカロスも粒子と化した俺たちを踏むのに躊躇はないだろう』

 正確には俺たちの存在を把握できないから躊躇がないということになるのだろうが。

 何はともかくこうして俺と鳳凰院は粒子としての第二の人生をエンジョイすることにした。

 

 これもまた勝ち取った人生ってやつだぜ。

 

 めでたしめでたし

 

 

 


 
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