No.402471

そらのおとしものショートストーリー4th エイプリルフール

水曜定期更新

エイプリルフール。
刺されて死にます。以上です。

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2012-04-04 00:27:11 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2114   閲覧ユーザー数:1984

そらのおとしものショートストーリー4th エイプリルフール

 

 

 春休み。

 昼近くになって起きた桜井智樹は日めくりカレンダーの日付を見た。

「今日は4月1日。エイプリルフールだな」

 智樹は顎に手を当てながら布団の上で考える。

「せっかく政府公認で嘘を付くことが許された日。どでかい嘘を付かないとな」

 エイプリルフールを最大限に利用しようと普段は使わない頭をフル回転させる。

 そして、思い付いた。

「そうだよ。普段は考えもしないビッグマウスををポンポン叩いていけば最高のエイプリルフールが送れるじゃねえか」

 智樹は立ち上がる。そして大声で唱えた。

「脱衣(トランザム)っ!」

 智樹の全身が光り、着ていた衣服が一瞬にして体から離れていく。

 紳士スタイル(全裸)になった俺。

 普段ならこれで出掛けるのが正装だ。

 だが、今日は更にもう一捻り加えてみせる。

「チェンジっ! ナンバーワンホストのトモキッ!」

 智樹の体が再び光に包まれ、光が止んだ際に今度は白いスーツを身に纏っていた。

 シャツは紫色でラメが入っている。胸にはバラの花が飾られている。

 ナンバーワンホストへと智樹がなりきっていく。

「よしっ、これで今日は女どもに嘘を付きまくってやるぜぇっ!」

 智樹は再びカレンダーを見ながらニヤリと笑った。

 その智樹は気付いていなかった。

 足元に落ちているカレンダーの日時が書かれている紙の3月30日と3月31日がくっ付いていたことに。

 自分が死への船出に漕ぎ出していたことに。

 

 

「よぉ、イカロス」

 1階へと下りていった智樹は階段付近でイカロスを発見。早速声を掛けた。

「……おはようございます、マスター」

 智樹が起きて来るのが遅過ぎるのにも文句を言わずにイカロスが丁寧に頭を下げる。

 そんな従順な態度を取るエンジェロイド少女の姿を見ながら智樹の心にムクムクといたずら心が湧き上がって来た。

 そしてそんな欲望に智樹は素直に従うことにした。

「なあ、イカロス」

「……なんでしょうか?」

 疑うことを知らずに自分を見る目。そんな少女を堂々と騙して良いエイプリルフールという日の存在に智樹は興奮していた。

「イカロス、俺と結婚してくれ」

 普段なら絶対口にしないことを喋ってみた。

 超高度セクハラ三昧。それこそが智樹の思い描く最高のエイプリルフールだった。

「ふっふっふ。俺に突然プロポーズされればみんな大慌てするだろうな」

 イカロスの当惑する顔を思い描いて悦に浸る智樹。

 だが、イカロスは智樹の予想とは違う反応を見せた。

「……私にプロポーズですか、マスター?」

 淡々とした口調で質問を返してきたのだった。

 何か予想と違うなあと思いながらも続きに進むことにする。

「ああ、そうだ。俺のプロポーズを受けたらイカロスは俺と結婚しなくちゃダメなんだぞ」

 悩め悩めと念を発しながら話し掛ける。

「……少し、考えさせて下さい。お風呂に入って来ます」

 ところが今回もイカロスは淡々と返答してしまった。いつも通りの無表情。

 そして智樹が望むようなリアクションを見せないまま浴室に向かって歩き去ってしまった。

 

「イカロスにリアクション大王な行動を求めたのが間違いだったな」

 智樹はイカロスに嘘が不発だった原因をそう総括した。

「なら、もっと動作がいつもオーバーな奴を騙さなければ」

 智樹は居間へと入っていく。

 

『アキ、どういうこと? 何でウチだけじゃなくて瑞希にもプロポーズしているのよ? ウチのこと世界で一番愛してくれているんじゃなかったの?』

『明久くん。これは一体どういうことですか? 何で、私だけじゃなくて美波ちゃんにもプロポーズしているんですか? 私、明久くんにプロポーズされて本当に嬉しかったのに』

『えっと、あの、その2人とも。落ち着いて。ねっ、まずは落ち着こうよ』

 

 せんべいを齧りながら昼ドラを見ているニンフの姿を発見。

 智樹はニヤリと笑いながら密かに小柄なエンジェロイド少女へと近付いていく。

 そして、背後から突然大きな声で話し掛けた。

「よっ、ニンフっ」

「いきなり背後から大きな声を出さないでよ、智樹のバカぁ~~~っ!」

 驚いた飛び跳ねたニンフのアクションを見て智樹はいたずらが成功したと思った。

 それと共に嬉しくなって更なる嘘を付いてみたくなった。

「実はニンフに大事な話があるんだ」

「な、何よ。私今、昼ドラ見るのに忙しいんだけど」

 テレビ画面では、主人公の少年が手を出した複数の少女に刺されるという悲劇的結末を迎えていた。

 智樹はこんなドラマのどこが面白いのだろうと思いつつ、とりあえず番組が終わるのを待った。

 そして、対イカロスでは失敗したあのやり取りを今度こそ成功させようと思った。

「さて、改めて重要な話をするぞ」

「一体何の話なのよ?」

 ニンフは疑わしげな瞳を自分に向けている。

 だが、それこそが好都合だった。

「ニンフ、俺と結婚して欲しいんだ」

 さあ、大いに驚け。

 最高のリアクションを俺に見せてみろっ!

 智樹は心の中で強くそう念じた。

「少し、考えさせて頂戴。ちょっと散歩に出て来るわ」

 ところがニンフはイカロスのような淡々とした口調で返事を保留すると、振り返りもせずに居間を出て行ってしまった。

「何でプロポーズに対してそんなにも無反応なんだよ?」

 智樹は首を捻る。

 これで2回連続で期待したリアクションを得ることが出来なかった。

 それは智樹にとって大いなる欲求不満を生じさせた。

「こうなったら、激しい驚きのリアクションを得られるまで何度でもプロポーズを試してやるぜぇっ!」

 智樹は本日の目標を打ち立てた。激しい熱血の炎に燃えていた。

 

『お兄さん? わたし以外の女にもプロポーズしていたってどういうことですか? お兄さんはわたし1人じゃ満足できないということですか? わたしはこんなにもお兄さんを愛していると言うのに?』

『や、やめるんだ、あやせ。その刃物を下ろすんだ。落ち着いて話し合おう。そうすれば誤解も解ける筈……や、やめろ。そんなものを振り上げるんじゃ……ぎゃぁあああぁっ!』

 

 テレビでは、次のドラマでも主人公の男が悲劇的な最期を迎えていた。

 

 

 

 桜井家を後にした智樹は隣家へとやって来た。

「お~い。そはら~」

 庭で花に水をやっていた幼馴染の少女に手を振りながら声を掛ける。

「どうしたの、智ちゃん?」

 そはらは中学生とは思えない成熟した体を揺らしながら智樹の元へとやって来た。

「……そはらは俺の言動に対して伝家の宝刀殺人チョップを生み出したぐらいのツッコミ大王だからな。俺のプロポーズ攻撃に激しく反応するに違いない。うっしっしっし」

 智樹はこれから起こるであろう事態を想定して笑った。

「急に笑い始めてどうしたの?」

「何でもない。それより大事な話なんだ」

 智樹は大きく息を吸い込み、気合を入れてから作戦を実行に移した。

「そはら、俺と結婚してくれ」

 さあ、見るも滑稽に取り乱すか。それともいきなり殺人チョップが来るか。

 自分の嘘が通じて急変するそはらを期待する智樹。

 だが……。

「う~ん。今後の暮らしのこととか、子供の人数とか考えたいことが沢山あるから、しばらく返事は保留させてね」

 そはらはイカロスやニンフと同じように淡々とした表情と言葉を返しただけだった。そして、智樹をろくに見ないまま自宅へと入って扉を閉めてしまった。

「どうして誰も俺の望むアクションを起こしてくれないんだぁ~~っ!」

 智樹は悲しくなって駆け出した。

 どこかに自分の望むリアクションを見せてくれる女の子がいる筈だと信じながら。

 

 

 智樹は空美町を全力疾走で駆け抜けた。

 そして気が付けば小さな山の中腹に立っていた。

「ここは確かアストレアがサバイバル生活を送っている地点の筈」

 智樹は無意識に自分が次のターゲットにアストレアを選んでいたことを悟る。

 バカで単純なアストレアならきっと最高の結果を出せると。

「あれっ? 智樹じゃない。こんな山奥まで一体どうしたの?」

 カラフルなキノコを両手に沢山抱えたアストレアが智樹に声を掛けて来た。

「ああ。ちょっとお前に大事な話があってな。って、それよりもその両手に持っているのはどう見ても毒キノコだぞ」

「えっ? うそっ? こんなカラフルだから栄養価も高そうなキノコだと思ったのに」

 騙すまでもなく大自然に騙されているバカな少女を見て智樹は自分の作戦が成功することを確信した。

「で、大事な話なんだが……」

「何?」

「アストレア、俺と結婚してくれっ」

 今度こそっ!

 智樹は祈る思いでアストレアの出方を伺った。

「そっか。でも、私バカだからゆっくりと考えてから返事をするね。じゃあ私、改めて食べられるキノコを探しに行って来るから」

 アストレアは翼を広げて飛んでいってしまった。

「どうしてアストレアまで俺を裏切るんだぁ~~っ!」

 智樹は泣きながら麓に向かって駆け出した。

 

 

 またまた気が付くと智樹は商店街の中にいた。

 時刻を確かめるべく、電気屋のディスプレイに飾ってある大型テレビを見る。

 

『話をまとめると小鷹は私にプロポーズしておきながらこの肉にもプロポーズしていたと。つまり、私へのプロポーズは単に私の体だけが目当てだったという訳だな。子供が出来ても結婚どころか認知さえするつもりはない。そう言いたい訳だな?』

『そうよ。小鷹が性悪なアンタなんかに本気になる訳がないでしょ。アンタはただの遊び。小鷹が結婚相手に選ぶのはこのあたしなんだからっ!』

『おっ、おい。星奈っ! あんまり夜空を挑発するような言動をするな。みんな、誤解なんだって。だって今日はエイプリル……待て、夜空っ! その刃物を俺に向けるんじゃない。やっ、やめるんだ、夜ぞ……うぎゃぁああああああぁっ!』

 

 家を出てから丁度1時間が過ぎていた。

 次のドラマが丁度悲劇的な幕切れを迎えている所だった。

「ああ~っ、後、俺の嘘に引っ掛かってくれそうな奴と言えば……う~ん」

 智樹が首を捻っていると、窓ガラス越しにオレガノが歩いているのが見えた。

 着物姿のエンジェロイド少女はいつものように静かに歩いていた。

「この際だ。真面目な子を狙うのはちょっと心苦しいが、彼女に俺のトークの犠牲になってもらおう」

 智樹はいまだオレガノに騙されたままだった。

 少年は振り返ると医療用量産型エンジェロイドの少女に声を掛けた。

「よぉ。お使いの途中か?」

「これはこれは智樹様。お声を掛けて下さってありがとうございます」

 オレガノは丁寧に頭を下げた。

「私は美香子お嬢様の使いの最中です」

「そうかそうか。オレガノは偉いなあ~」

 智樹はオレガノの頭をなでた。

 会話に一区切りついた所でいよいよ本題に入る。

「それでオレガノに重要な話があるんだ」

「何でしょうか?」

 首を捻る少女に智樹は告げた。

「オレガノ、俺と結婚して欲しいんだ」

 5度目の正直。

 もう藁にも縋る思いだった。

「美香子お嬢様の承諾を得ない限り私が結婚することは叶いません。お嬢様にお伺いを立ててから返答させて頂きたいと思います」

 オレガノはイカロスと全く同じ無表情で智樹のプロポーズに返してみせた。

「それでは使いの途中ですのでこれで失礼致します」

 オレガノは最後まで大きな反応を見せずに立ち去ってしまった。

「俺には嘘をつく才能がないのかぁ~~~~っ!」

 智樹は再び泣きながら去った。

 

『おじさん……桜だけじゃなくて凛お姉ちゃんや葵お母さんにもプロポーズしたの?』

『ちっ、違うんだ、桜ちゃんっ! 今日は普段お世話になっている女の人にプロポーズして回らないといけない日なんだって時臣の野郎に聞かされて』

『おじさん……下手な言い訳は死を早めるだけだよ。クスクス笑ってゴーゴー……』

『たっ、助けて桜ちゃんっ!? 巨大な闇が、黒い穴が俺を飲み込んで……アーッ!!』

 

 テレビドラマだけが時の経過を確かに示していた。

 

 

「俺は、思いっきり嘘をついてみたいだけなんだ……それだけなんだ」

 智樹は公園のブランコに腰掛けながら落ち込んでいた。

 智樹の嘘はまるで効果を生み出していない。

 智樹は自分の才能のなさに心が折れてしまいそうだった。

「どうしたの、お兄ちゃん?」

 公園に遊びに来ていたカオスが声を掛けて来た。

「よお、ちみっ子」

 智樹はカオスを見ながら考えた。

 もう、騙されてくれるならこの際誰でも良いと。

 智樹はもう無我夢中で叫んだ。

「カオスっ! 俺と結婚してくれぇ~~っ!」

 子供の顔すならきっと引っ掛かってくれる。それだけを熱心に考えた。

「わ~い。お兄ちゃんと結婚。結婚。嬉しいな~」

 カオスは無邪気にはしゃいでいた。

 カオスは確かに智樹に騙されていた。

 でも、それは智樹の望む反応とはまるで違っていた。

「あっ、そろそろ守形のお兄ちゃんの所に行かなきゃ。じゃあね、お兄ちゃん」

 カオスはプロポーズを特に気をした風でもなく飛び去ってしまった。

「俺には……ホストが務まらないって言うのか……?」

 智樹は焦燥感にかられながらフラフラと歩く。

 もう、何もかもが嫌だっ!

 

 

 

 どこをどうやって歩いているのか智樹にはもうわからない。

 ただ夢遊病の如く無意識に徘徊を続けていた。

 だが、そんな歩き方を許すほど現代社会は優しい環境にはなっていない。

「危ないっ! 桜井く~ん」

 智樹は突然手を引っ張られ、道路の端へと移動させられた。

 智樹のすぐ横を大型ダンプカーが通り過ぎていった。

 大型車が通り過ぎる際の音で智樹の意識は覚醒した。

「あれっ? 風音」

「良かった、桜井くん。意識がはっきりしたのね」

 目の前に農作業着姿の風音日和がいた。

「そっか。風音が助けてくれたのか。ありがとうな」

 握られている手を見ながら智樹は今しがた何が起きたのかようやく理解した。

「ううん。桜井くんが無事なら私はそれで良いよ」

 日和は握った手を見て頬を染めた。

 日和のその初心な反応を見て、智樹の中に再びムクムクとリベンジの心が浮かび上がってきた。ラストチャンス。智樹の本能はそれを強く訴えていた。

「……いや、そんな冗談を言って良いのか? 風音は空美町一純情な女の子なんだぞ。そんな騙すような真似をして」

 日和にだけは嘘をついてはいけない気がしていた。

 だが、世の中は無情だった。

「その素敵な服、一体どうしたのですか?」

 日和が智樹のホスト服について言及してしまったのだ。

 言及された以上、ナンバーワンホストに徹するのがプロの役目なのだと智樹は思った。

 心を鬼にして、当初の目標を遂行することにする。

「実は風音に重要な話があるんだ」

「何でしょうか?」

 真っ直ぐな瞳が智樹を捉える。

 その瞳に心苦しさを覚えながら智樹は今日の最後のチャンスに賭けた。

「風音、俺と、結婚して欲しいんだっ!」

 智樹は言った。言ってしまった。

 そして、運命の瞬間を待つ。

「えぇええええええええええええぇっ!?」

 日和は大声を上げながら後ずさった。

「けっ、結婚って。私たちまだ、学生ですよ。それに、私と桜井くんは男女のお付き合いをしている訳でもないのに……結婚なんて。まだ、早い……いえ、嫌じゃないんですけど」

 日和の顔は真っ赤に茹で上がっていた。

 それこそは智樹が求めていた反応だった。

 遂に智樹は7人目にして、プロポーズされて本気で混乱する女の子にめぐり合えたのだった。

「神様……ありがとうございます。諦めなければ、いつか夢は叶うんですね」

 智樹は感動しながら空を見上げた。

 すると、そんな智樹の心に呼応するかのように天使達が舞い降りて来るのが見えた。

「……マスター。私にプロポーズしたのに、どうして日和さんにもプロポーズしているのですか?」

「智樹っ! やっと心の整理がついて智樹のプロポーズを受け入れようと思ったら、どうして日和にもプロポーズしているのよ?」

「私にプロポーズした癖に日和さんにもプロポーズしていたなんてっ! 智樹のヴァーカっ!」

「お兄ちゃん。浮気は死ぬしかないって、この間テレビで言っていたんだよ」

 空を見上げるのが辛くなって視線を地上へと移す。

「私、今後の人生計画を練りあげてようやく智ちゃんのプロポーズを受ける決意を固めたのに……何で日和ちゃんにプロポーズしているのかな?」

「美香子お嬢様が結婚については許可してくださいました。しかし同時に智樹様が浮気した場合には即刻処刑せよと仰いました」

 智樹は視線を日和へと戻した。

「桜井くん、もしかしてみんなにプロポーズして回っていたの?」

 日和は泣きそうな顔で智樹を見ていた。

 そして、握った手を離してくれなかった。

 智樹は逃げることが出来なかった。

「いや、あの、これはだな。エイプリルフールの冗談で……」

 智樹には言い訳をする余裕さえなかった。そんな時間、彼には存在しなかった。

 

 

 3月31日。

 福岡県の空美町で1人の少年が銀河鉄道に乗って別の世界へと飛び立っていった。

 桜井智樹は星となって今も空美町を優しく照らしているのだった。

 

 

 了

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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