No.205926

バカとテストと召喚獣 僕と木下姉弟とベストフレンド決定戦 その7



本作品の設定の一部はnao様の作品の設定をお借りしています。
http://www.tinami.com/view/178913 (バカと優等生と最初の一歩 第一問)
本作品はバカコメが主体ですので重点が変わった優子さんになっていますが。

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2011-03-10 05:00:00 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:8327   閲覧ユーザー数:7819

総文字数約21500字 原稿用紙表記75枚

 

 

バカテスト 体育

 

【第七問】

 

問 以下の質問に答えなさい

『あなたの護身術に対する心がけを自由に述べてください』

 

 

姫路瑞希の答え

『危険そうな場所には近づかないこと』

 

教師のコメント

 多勢に無勢、相手が武器を持っている場合も考えられます。如何に優れた護身術を駆使できても不測の事態は起こり得ますので自分から危険な場所には行かないべきでしょうね。

 

 

島田美波の答え

『関節のない敵にはむやみに近寄らないこと』

 

教師のコメント

 島田さんはクラゲか宇宙人とでも戦っているのでしょうか?

 

 

吉井明久の答え

『倒した刺客が美少女だったら優しく介抱して僕の虜にさせること』

 

教師のコメント

 吉井くんの体育の点数を0点にします

 

 

木下優子の答え

『サーチアンドデストロイ』

 

教師のコメント

 護身の域を超えています。

 

木下秀吉の答え

『姉上を呼ぶ』

 

教師のコメント

 それも護身の域を超えています。

 

 

坂本雄二の答え

『中学時代、最強の悪と恐れられていた俺も関節の女帝木下優子との決戦は避けていた』

 

教師のコメント

 先生の木下さんに対する印象がだいぶ変わりました。

 

 

 

バカとテストと召喚獣 二次創作

僕と木下姉弟とベストフレンド決定戦 その7

 

 

『木下くん、ちょっといいかな?』

『何じゃ、久保? ワシらはこれから準決勝の試験に臨まねばならんのじゃぞ』

『重要な話なんだ』

『仕方ないのう』

『すまない』

『で、何の話かの? 雄二が言っていた秘策の話か?』

『いや、その話ではないよ。坂本くんの秘策とやらは試験が終わればその全貌が見えるだろうから今敢えて知る必要はない。あまり知りたくもないしね』

『……お主、何か勘付いておるな? まあ良い。で、話とは?』

『吉井くんのことだよ』

『明久の?』

『そうだ。木下くん、君は吉井くんのことをどう思っているんだい?』

「なっ、何を突然おかしなことを訊いて来るのじゃ?」

『おかしなことじゃない。僕は真剣に尋ねているのだよ』

『……明久はワシの友達じゃ』

『そうじゃない……そうじゃないんだよ、木下くんっ!』

『な、何が違うのじゃ?』

『吉井くんを恋愛対象として好きかという話だよ!』

『なっ、何を言っておるのかお主は!? ワシも明久も男なのじゃぞ。恋愛対象などと……』

『僕はそんな一般論が聞きたいんじゃない。君の本当の気持ちが知りたいんだ!』

『久保……』

『答えてくれ、木下くんっ!』

『やれやれ仕方ないのう。………………明久は誰にも渡さん。それがワシの答えじゃ』

『……それは、つまり』

『ワシは姫路や島田、姉上やお主に負けないぐらい明久を好いておる。いや、ワシの明久への想いは誰にも負けん。そういうことじゃ』

『……なるほど』

『演ずることを至上の喜びとするワシが本心を打ち明けたのはお主が初めてじゃ』

『それは光栄だね』

『そして打ち明けついでたから言うておく。ワシはこの決定戦、お主にも雄二にも姉上にも負けるつもりはない』

『僕だって負けるつもりはないよ』

『実力的に見て肩を貸してもらうのはワシの方じゃからな。久保、全力でお主を倒させてもらうぞ』

『僕だって全力で君と戦わせてもらうよ』

『それはありがたいの。お主との真剣勝負、楽しみにしておるぞ』

『吉井くんへの想い、どちらが強いか勝負だよ、木下くん』

 

 

 

 

「秀吉……もぉ……ゴールしてもいいよね……? ゴ~~~~~~~~ルッ!」

 僕は自分の大声で目を覚ましていた。

「知らない天井だ……」

 気が付くと僕はベッドに寝かされていた。

 白い布団、白い天井、クリーム色の仕切り。

 どうやらここは保健室で間違いないようだった。

「何で僕は保健室で寝かされているのだろう?」

 自分で保健室に来て寝た覚えはない。

 となると、誰かに運んでもらったことになる。

 一体誰が?

 いや、それ以前に何で僕は保健室に運ばれないといけなくなったのか?

「確か僕は……ベストフレンド決定戦の商品という名のおもちゃにされて……」

 急に全身が震え出した。これ以上思い出すなと本能が警告を告げて来る。

 だけど僕の脳は、僕の意思に関係なく今日起きた出来事を思い出していく。

「確か、クイズ大会という名の辱めを受けて……」

 歯がガチガチと音を立てる。震えが止まらない。

「それからお弁当対決とかいうことで……姉さんのお弁当を食べさせられて……」

 僕の記憶はそこで途切れていた。

 そうだ。僕は姉さんの料理を食べてあちら側の世界へと旅立ったんだ。

「それからずっと寝っ放しだったのかな、僕は?」

 姉さんに料理を食べさせられてからの記憶がどうにも曖昧だ。

 断片的な記憶は残っているのだけど、それが夢なのか現実なのかよくわからない。

「雄二が僕にア~ンしているのは夢に違いないよね。現実だったら気持ち悪いし」

 この映像は姉さんの料理が見せた悪夢に違いない。あれが現実なら僕は躊躇なく死を選んでしまう。

「秀吉と2人きりでイチャイチャしていたのはきっと現実だよね」

 断片的過ぎて上手く繋がらないのだけど、死んだじっちゃんの所に秀吉と2人で結婚の許可を貰いに行ったり、2人で一緒に住み始めたのは現実に違いない。

 だって、その方が僕は嬉しいから。それに──

「秀吉には愛の告白だってされちゃったしね」

 クイズ大会の時に秀吉に公衆の面前で愛を語られてしまったのははっきり覚えている。

 だから秀吉との蜜月の日々は真実に違いない。

「それにしてもまさか2年F組の中で僕が一番先にお嫁さんをもらうことになるとはねぇ」

 雄二が霧島さんに押し切られてゴールインするのが一番早いと思ったのに、僕になるなんて自分でも意外だ。

「秀吉みたいな可愛い子をお嫁さんにもらえるなんて僕は幸せだなあ。……うん?」

 お嫁さんという所で引っ掛かりを覚える。何故か姫路さんと美波、それからお姉さんの顔が突然思い浮かんだ。あっ、葉月ちゃんも姉さんも自分から割り込んで入って来た。みんな悲しそうな顔をしている。

「起きよう……」

 何故かはわからないけれど急に幸せな気持ちが褪めてしまった。のんびり寝ている気分じゃなかった。

 ベッドから起き上がって保健医の先生に一言断ってから保健室を出る。

 外を見ると日差しが強い。時計を教室に置いてきてしまい正確な時間はわからないけれど、2時ぐらいだろうか?

 

 釈然としない思いを抱えながら廊下を歩いていく。

 すると、やたらと体格の良い背広姿の男の背中が視界に入った。

「鉄人っ!?」

 反射的に隠れてしまった。別に悪いことは何もしていないのに。

 うん? 鉄人の他にもう1人いるな。

 あれは……変態コンビの片割れのソフトモヒカン先輩じゃないか! 

 2人は一体何を?

「……まったく……こんな所に衣装を脱ぎ捨てておくなんて……困ったもんだ」

 よくは聞こえないけれど、鉄人が赤い服を持ちながら呟いていることはわかった。

 えっ、あれって……マスク・ド・プリンセスロードさんが着ていたチアリーダー服!?

 何で鉄人が持っているのさっ!?

「……吉井のために授業を潰すとは……何を考えているのでしょうね……この学園は」

 そして、ソフトモヒカン先輩が持っている服は……ビューティフル・ヴィーアブ仮面さんが着ていたチャイナドレス!?

 何で変態先輩が持っているのさっ!?

 まっ、まさか……っ!!

 僕はとある1つの可能性に思いが至ってしまい驚愕した。

「2人の謎の仮面美少女戦士の正体って……鉄人と変態先輩なんじゃ……?」

 絶対に肯定したくないこの仮説。だけど──

「鉄人はプリンセスロードさんの服を持っているし、あの大きな胸も実は鉄人の逞しすぎる胸板だったと考えれば全てが説明できてしまうっ!」

 鉄人=プリンセスロードさん疑惑は考えれば考えるほど否定しづらくなっていく。

 仮面をつけていたプリンセスロードさんの正体は謎のまま。だけどあの大きな胸だけは覚えている。胸だけは。胸しか覚えていないけど!

 でもあの大きな胸だと思っていたものが実は鉄人の胸板だったなんて……男子高校生的には厳しすぎる衝撃だ。

「そしてビューティフル・ヴィーアブ仮面さんの胸が小さかったのは正体がソフトモヒカン先輩だったから」

 あの大平原も正体が男だったのなら納得の一言。

「もしかすると宝くじで1等当たるぐらいの確率で2人の正体は姫路さんと美波かもしれないと思っていたのに……ドリーマーな僕のバカぁああああああぁっ!」

 泣きながら鉄人たちとは反対の方向に向かって駆け出す。

 もしかすると2人は僕のことを想って内緒でこの大会に参加してくれたんじゃないかとちょっとだけ考えたりもした。

 姫路さんと美波は僕のことを意識してくれているのかもなんてちょっと浮かれていた自分が情けない。

「やっぱり最初からフラグなんてなかったんだぁああああああぁっ!」

 ハーレム物のギャルゲーの主人公になったかのように錯覚していた自分のバカさ加減、それに心に大きな穴でも開いてしまったかのような空虚さが僕の体を突き動かす。

 

 溢れ出るこの苦しみから解放されるまで走り続けていたい気分だった。

「……捕獲対象、吉井明久を発見した。これより捕獲する」

「「「了解っ!」」」

「へっ? うわぁあああぁっ!?」

 廊下を走っていたらいきなり視界が真っ暗になった。

「捕獲完了。2年A組に移送する」

「「「了解っ!」」」

 須川くんとF組の男子数名の声がしてようやく何が起きたのか気付いた。僕はFFF団に拉致されたのだ。暗幕に包まれてしまっている。だけど一体何故!?

「異端審問会は僕を一体どうするつもりなの!?」

「知れたこと。貴様をベストフレンド決定戦の会場である体育館まで早急に運ぶまで」

 ということはまだ大会は続いていたのか?

「でも、どうしてFFF団が決定戦の手伝いをしているんだよ!?」

「知れたこと。高橋女史の命令は絶対っ!」

 なるほど。高橋先生のデキる女教師属性はFFF団を無条件で従わせるものらしい。

「だけど、決定戦の会場に連れて行かれたら僕はまた酷い目に遭わされる。降ろしてくれぇえええぇっ!」

「「「「不許可」」」」

 僕の魂の叫びを一刀両断にするFFF団の面々。

「吉井明久、良いことを教えてやろう」

「何を?」

「「「「我々はお前の不幸が大好きなんだ」」」」

「F組ってこんな奴らばっかりだよぉおおぉっ!」

 ドナドナが脳内BGMで流される中、僕は再び地獄という名の戦場に連れて行かれることになった。

 それにしても……2人の美少女戦士の正体が鉄人と変態先輩だったなんて。

 さよなら。姫路さん、美波……

 

 

 

 

「それでは解答をやめてください」

 高橋先生の声が教室内に響き渡りシャープペンを置く。

 天井を見上げながら息を吐く。

「優子ちゃん、お疲れ様」

 BL道の友であり恩師でもある玉野さんが試験用紙を回収していくのをジッと見る。

 感触ではかなりいったのではないかと思う。試験の後に全身の血が沸き立って来るのは充実した解答を終えた証拠。これまでのアタシの化学の最高得点である368点をも上回ったような気がする。

 今日は以前の試験なら避けていた難しい問題にも積極的に取り組みんで解答できた。坂本くんに絶対に負けたくないという強い想いが能力を引き上げたのかもしれない。

「それではベストフレンド決定戦準決勝参加選手は全員先生の前に集まってください」

 指示に従い席を立つ。

 先生に向かってゆっくり歩いていくと他の選手の姿が見えてきた。

 久保くんも秀吉もとても難しい顔をしていた。ううん、真剣な表情をしていた。全ての闘志を眼力に変えたような鋭い表情。

 いつも笑みを絶やさぬように演じている秀吉までが久保くんと同じ目をしている。あの2人にとってもこの準決勝はよほど負けられないものであるらしい。

 一方で坂本くんは軽薄な笑みを浮かべながらアタシを見ている。バカにしているのかと怒りたくなる。けれど、相手は策士。何を企んでいるのかその腹の底は見えない。

 3人はいずれも無言のままで、特に秀吉と久保くんは気軽に話し掛けられるような雰囲気じゃない。重い雰囲気が教室を包み込む。

 

「全員が揃ったようですね。それでは採点が終わり次第体育館にて第1試合、第2試合の対戦を続けて行いたいと思います。何か質問は?」

 坂本くんがスッと手を上げる。

「坂本くん、どうぞ」

「この戦いは明久のベストフレンドを決める戦いである筈だ。なのに、ただの召喚獣バトルでは芸がない。いや、この大会の趣旨に反しているのではないか?」

 やはり策士は動いてきた。だけど、一体何を言う気なの?

「坂本くんの言うことは一理あるかもしれません。ではどうしたら良いと思いますか?」

「明久を召喚獣バトルの中に組み込めば良い」

「組み込めば良いと言いますと?」

「単純に相手の召喚獣を倒すのではなく、自らの手で自分の大切なものを守るという要素を付け加えてみてはどうかということだ」

 自信満々に、しかし即座には理解しがたい言葉を述べる坂本くん。策が発動され始めたと考えて間違いない。

「大切なものを守るという発想は大変すばらしいものだと先生も思います。しかしもう少し具体的に話して頂けますか?」

「明久とその召喚獣をそれぞれ守るべき大切なものと定め、自分の大切なものを守る為に相手の大切なものを自らの手で破壊するというのはどうだ?」

 えーとぉ、それって、例えばアタシが吉井くんを守る為に吉井くんの召喚獣を素手で殴り倒すってこと?

 それって大切なものを守るって言えるの? 

「なるほど。愛とは互いを大切に想いながらも傷つけ合うものですからね。先生は『雄二×明久』本で予習していますからよく知っています」

 先生の愛に関する知識はアタシよりも偏っているらしい。むしろ先生はリアル男性と付き合ったことがないのだろうか?

「ですが、素手で攻撃するのでは召喚獣バトルの試験の要素が反映されないのですが?」

「テストの点数を召喚獣の攻撃力にではなく、明久と明久の召喚獣の防御力に変換すれば良い。点数が高いほど強固な鎧を身に纏ったり、防護壁を張れるとかな」

 坂本くんの狙いは何となくわかった。でもそれに乗ってやる必要はない。

「面白そうな提案とは思うけれど、か弱い女のアタシと屈強な大男である坂本くんじゃ攻撃力に違いがありすぎるんじゃないかしら?」

 坂本くんはアタシとの点数差を体格差と戦闘スキルの差で埋めるつもりに違いない。

「かつて関節の女帝と近隣中学から恐れられた木下優子とは思えない台詞だな」

「アタシはただこの街の風紀を守っていただけよ。それに打撃系は得意じゃないのよ」

 関節技なら弟を木人形(デク)にして日々技に磨きを掛けている。だけどアタシは去年の夏のあの日以来秀吉に手を上げたことはない。あの日以来、アタシは弟を叩けなくなった。拳は封印した。だからアタシは打撃が得意じゃない。

「だったらお前は関節技を仕掛け易いように明久本体を攻撃すれば良い。それなら攻撃力の差も気にならないだろ?」

「それはそうかもしれないけど……」

 坂本くんがやけにあっさり妥協して来たのが気になる。けれど、その理由がわからないのでこれ以上の反論が出てこない。

「坂本くんと木下さんが納得したのなら第1試合は坂本くんの提案した方法を採用したいと思います」

 アタシが躊躇している間に勝負方法が決まってしまった。

「ですが、試験点数の吉井くんの防御力変換には少し時間が掛かるかもしれません。召喚獣の方はコスチューム仕様を少し弄ることですぐに解決すると思いますが、生身の吉井くんの防御力をどう上昇させるかは少し難しいですね」

「それなら心配はない」

 坂本くんが大きな声で高橋先生の懸念を打ち消す。

「それは何故でしょうか?」

「俺の答案を見ればわかる」

 それだけ言うと坂本くんは教室を出て体育館に向かって歩き出し始めた。

「ちょっと、1人で先に行くんじゃないわよ!」

 アタシも坂本くんを追い掛けて教室を出て行く。

 坂本くんの余裕綽々な態度がアタシを焦らせる。

「坂本くんの言いたいことは……なるほど、そういうことでしたか」

 背後から聞こえた先生の呟きがアタシの焦燥感を一層掻き立てた。

 

 

 

 ベストフレンド決定戦もいよいよ準決勝を迎えた。対峙する雄二とお姉さんは何とも男らしい熱いオーラを放っている。そして縛られている僕と僕の召喚獣。

 絶対これやばいって。絶対にまた僕が大変な目に遭うって、これっ!

「それではこれより準決勝第1試合を始めますが、今回の召喚獣バトル特別ルールの説明については先生の方から説明いたします」

 何故だろう? 

 高橋先生が加わったことで僕の死の確率が劇的に高まった気がする。

「今回の召喚獣バトルでは自分の大切なものを守りつつ、相手の大切なものを自らの体を使って破壊します。具体的には坂本くんには吉井くんの召喚獣を、木下さんには吉井くん本人を粉砕してもらいます」

「ルールに異存はない」

「アタシも異存はないわ」

「えぇええええぇっ!? どっちにしても攻撃されるのは僕なのぉっ!?」

 つまりこの勝負、僕にとっては痛いだけでしかない。いや、死しかないような気がする。

「愛とは痛いものですから問題ありません」

「問題ありますってば!」

 やはりこの先生はどこかが激しくずれている。

「……愛とは痛いもの。激しく同意」

 霧島さんが舞台に上がって来て雄二に飛び付く。

 しかし雄二はお姉さんを向いたまま何の反応も示さない。いつもなら頬を赤く染めながら恥ずかしがる癖に。どうなってるのっ?

「……勝負の邪魔をしてごめんなさい」

 霧島さんは雄二に謝りながら離れて舞台を降りてしまった。いつもなら雄二が素っ気無い態度を取るほどべったりするのに。本当に一体何がどうなっているの?

「それでは木下優子さんの点数を吉井くんの召喚獣の防御力に変換したいと思います」

 高橋先生の言葉と共に僕の召喚獣が眩い光に包まれる。

 そして、一瞬の後に蟹の形を模したような黄金の鎧を纏い、格好良くなった僕の召喚獣が出現した。

 

 木下優子 2年A組

   化学 352点

 

 流石はA組でもトップクラスの成績を誇るお姉さん。化学で350点越えなんて成績、姫路さんと霧島さんぐらいしか見たことがない。

「………………自己ベストに届かなかったなんて……」

 だけどお姉さんは険しい表情で自分の点数を見ている。お姉さんとしては納得がいかないらしい。

「続いて、坂本雄二くんの点数を吉井くんの防御力に変換したいと思います」

「あっ、僕の番か」

 高橋先生の言葉と共に僕にスポットライトが激しく当てられ光の中に包まれる。

 そして……

「嫌ぁあああああああああああぁっ!」

 光が収まると僕はトランクス1枚、後はスッポンポンにされていた。

「はっはっは。それはバカには見えない鎧のつもりか、明久?」

 雄二は僕の格好を見ながら笑っている。僕がこんな恥ずかしい格好になったのは雄二のせいだというのに。

「やはり鎧はインテリのものね、坂本くん」

 お姉さんが僕を見ながらうすら笑っている。鼻から大量の血を流しながら。

「それにしても……」

 お姉さんは表情を一転。真剣な瞳で僕の体の付近に浮かび上がっている点数を見る。

 

 坂本雄二 2年F組

   化学   0点

 

 雄二の点数は酷い、というか不可解な疑問を感じさせる点数だった。

「この点数は一体何なのよ!」

 点数を見てさっそくお姉さんが雄二に食って掛かる。

 でもお姉さんの気持ちもよくわかる。勉強を避け、試験をサボろうと躍起になっていた以前の雄二ならこの点数も納得できる。だけど本気でA組に勝とうとしている今の雄二が0点なんてあり得ない。この点数には何か裏がある。

「どうしたも何も試験に名前を書き忘れたというごく単純なケアレスミスの結果だ」

 雄二は何でもないという風に鼻から息を吐く。

 だけど、名前の書き忘れは僕もやったことがあるけどダメージが非常に大きい。自分が一生懸命解いて来た試験が一瞬にして0点になってしまうのだから。

 なのに、雄二に少しも堪えている様子が見えないのは絶対おかしい。

 それに雄二の態度は自分が0点になるのを予め知っていた様に見える。名前の書き忘れなんてミスは答案を返されるまで気付かないのが普通なのにだ。

 つまり……

「坂本くん、アンタわざと答案用紙に名前を書かなかったでしょ!」

 お姉さんの苛立ちながらの指摘は僕の考えと一致する。そう、雄二はわざと0点を取ったんだ。

「何でわざと0点なんか取ったのよ!」

 お姉さんが怒りに満ちた視線を雄二に向ける。

「何を怒っている? 俺の点数が低い方がお前にとって有利になる筈だが?」

「こんなことして喜ぶとでも思ってるの? アタシを愚弄しないでよっ!」

 お姉さんが雄二に詰め寄る。流石は美波と同じファイタータイプのお姉さん。ハンデを良しとしない侍魂を持っている。

「別にお前を愚弄した訳ではないぞ。いや、強敵だと認めている」

 雄二もお姉さんの瞳をジッと見据えたまま譲らない。

「……どうせ翔子から聞いて知っているのだろう? 俺が決定戦に参加した真の目的を。俺が0点を取ることは目的を果たす為に欠かせないプロセスの1つだ」

「0点を取るのがどうして目的を果たすプロセスになるのよ?」

「それは準決勝が終わるまでにわかるさ」

 2人は僕にはよくわからない話を交わしている。

 それにしても……2人の距離が近いなあ。お姉さんが後少し背伸びすればキスしてしまえそうな距離。

 もしかするとお姉さんは雄二のことが好きだったりするのだろうか?

 決定戦に参加したのも僕の友達になって雄二に接近するためなんじゃ?

 そう考えると全ての辻褄が合ってしまう。

 姫路さんといいお姉さんといい、あんな男のどこが良いって言うんだぁっ!

 あれっ? でも、お姉さんが雄二を好きだとすると……

「……雄二と優子の邪魔はできない。でも、2人は近づきすぎ」

 霧島さんが血の涙を流しながら2人を見ているぅっ!

 雄二の奴、これは確実に死んだな。

 大会の終わりがお前の命日だよ。はっはっはっは。

 これであの世への良い道連れができたよ。はっはっはっは…………。

 

 

 

 何なのよ、何なのよ、何なのよっ!

 坂本くんのあの行動と態度はっ!

 アタシとの真剣勝負よりもA組を倒す為の布石を張る方が大事だって訳?

 バカにしてくれてぇっ!

 それに、化学の試験で自己ベストを更新できなかったのにも腹が立つ。難問も解けていつも以上の手応えだったというのに。本当に腹が立つ。

 この準決勝、試験が終わってからイライラすることばっかりだわ。

 

「それではベストフレンド決定戦、第1試合を始めるよぉ」

 愛子の能天気な声が苛立ちを加速させる中、アタシの準決勝が始まる。

「吉井くんファイト、レディぃイイイィっ、ゴ~~~~っ!」

 合図の声と共に吉井くんに向かって一気に駆け抜けていく。

 防御なんて考えない。

 先制攻撃して一気に打ち砕くのみ。

 あんまりにも頭に来たから今回の試合では関節技は使わない。拳の力だけで勝利を掴んでやるっ!

 今アタシは、1年ぶりに拳の封印を解くッ!

「喰らいなさいっ! 愛と怒りと悲しみの必殺ダークネス……っ!」

 そして怒りに駆られながら拳を振り上げた所で気が付いた。

「お、お姉さん……ひぃいいいいいいいぃっ!」

 殴ろうとしている対象が吉井くん本人であることに。

 アタシの拳は吉井くんの顔寸前で止まっていた。

「どうした、木下優子? 早く明久をボコって行動不能にしなければお前に勝利はないぞ」

 坂本くんは吉井くんの召喚獣にデコぴんを何度も食らわせて反応を楽しんでいる。

「うるさいわねっ!」

 坂本くんとの勝負にばかり心を奪われすぎて肝心なことを忘れていた。アタシが攻撃しようとしている対象が何であるのかを。

 相手は片想いの男の子。叩いたりすればそれでアタシの恋は終わりかねない。

 今になって気付く。アタシはあまりにもバカな勝負を受けてしまったのだと。

 

「どうした木下優子? この大会で俺を倒して優勝すると言ったお前の覚悟はその程度のものなのか?」

「クッ!」

 アタシが吉井くんに手を出せないのを良いことに好き放題言ってくれる。

「お前の明久に対する想いはその程度のものなのか?」

 坂本くんは吉井くんの召喚獣の頬をつねっては引っ張っている。

「痛いっ、地味に痛いって!」

 痛みがフィードバックされる吉井くんは頬を押さえながら痛がっている。

「それにお姉さんがせっかく攻撃しないでくれているのに煽るような真似はしないでよ!」

 当たり前のことだけど、吉井くんはアタシに叩かれることを望んでいない。

「ほぉ~? 木下優子がお前を攻撃しなければ俺はいつまでもお前をいたぶり続けるぞ。俺にこの固いクロスを破る方法はないから地味に痛い攻撃を続けるしかないしな」

「雄二の鬼ぃ~っ!」

 坂本くんの言葉はアタシをますます窮地へと追い詰めていく。

 攻撃すればアタシは吉井くんに嫌われかねない。攻撃しなくても坂本くんから吉井くんへの執拗な攻撃が続く。

「八方塞じゃないのよ、もう!」

 地面に膝をついて手で思い切り叩く。

 アタシは選んでも選ばなくても吉井くんを傷付けてしまう。

 一体アタシは、どうすれば良いってのよ……。

 

「姉上にその程度の覚悟しかないのならば、ここで棄権してはどうじゃ?」

 今まで口を閉ざしていた秀吉がキツい瞳で睨む。ここ1年ぐらい全く見たことがなかった険しく冷ややかな瞳で。

「確かに木下くんの言う通りだね。半端な覚悟ではどうせこの先優勝することはできない。だったらここで棄権した方が木下さんにとっても吉井くんにとっても良い筈だよ」

「……秀吉。久保くんまで……」

 弟と久保くんまでがアタシに棄権を勧める。

 確かにアタシが棄権してしまえば坂本くんの吉井くんの召喚獣への攻撃も止む。アタシも吉井くんを傷付けなくて済む。

 それは理想的な選択肢に見える。

 だけど……けれど……アタシは……

 アタシの意思は……

 アタシの吉井くんへの想いはっ!

「ふざけないでよっ! このアタシ、木下優子さまを舐めないでよねっ!」

 雄たけびと共に立ち上がる。

 大声と共にアタシを縛り付けていた何かが引きちぎれていく。

「アタシは優勝も吉井くんも両方もらっていくんだからっ!」

 自分の決意と願望を大声で口にする。

 自分でも無茶苦茶言っているのはわかってる。でも出遅れて吉井くん争奪戦に参戦したアタシが勝つにはなりふりなんか構っていられない。

「吉井くんだって、アタシに優勝して欲しいって言ってくれたんだし」

 

『うん。僕は君に優勝して欲しいんだ、お姉さんっ!』

 

 吉井くんのこの一言がアタシの力の源。アタシが掲げる錦の御旗。

 アタシは吉井くんの為にもこの大会、絶対に負けられない。たとえ吉井くんが障害として立ちはだかったとしても。

 

「えっ? ちょっ……お姉さん?」

 顔を伏せながら立つアタシを吉井くんが引きつった顔で見ている。そんな彼にできることは一つ。

「ごめんね、吉井くん」

 アタシにできることは謝罪することだけ。涙を流しながら謝罪することだけ。

「何で泣きながら謝るのぉおおおおおぉっ!?」

「ごめんね、ごめんね、吉井くん。後で吉井くんの望むこと、何でも1つだけ叶えてあげるから……」

 自分の言葉に恥ずかしくなって頬が熱を持つ。

 望みを何でも叶えてあげるなんて年頃の女の子が男の子に言うべき言葉ではない。どんなエッチな要求をされるかわからない。

 でも、それがわかっていてもアタシは敢えて自分の覚悟を押し通す。

 だから、だから、今はアタシのやるべきことをやり通す。

「後で望みなんて叶えてくれなくて良いから、僕を行動不能になるまで殴るという選択を止めていただく訳には……」

 首を横に振る。

「じゃあ、その何でも叶えてくれるという望みで僕を攻撃するのを止めて頂く訳には……」

「望みを叶えるのは、後での話だから」

 首を横に振る。

「アタシ、メイド服でご奉仕する覚悟も、裸エプロンで料理する覚悟も、スク水で背中を流す覚悟も、その吉井くんが望むなら…………する覚悟もできているから」

「そんな覚悟は要らないから、僕を痛くしないでぇええええええぇっ!」

 涙は流れるままに任せながら再び拳を振り上げる。大好きな人の一番になる為に大好きな人を傷付けるべく。

「ごめんね、吉井くん……」

 再び拳を振り上げる。

「……でもダメ。やっぱりアタシにはできない」

 だけどアタシはやっぱりそれでも彼にその拳を振り下ろすことができない。

 覚悟を決めるだけじゃアタシにはもう1歩が踏み出せない。

 吉井くんが賛同してくれないから。

 吉井くんを叩く理由がアタシにはないから。

 

「……お姉さん、僕を思い切り殴って良いよ」

「えっ?」

 それはまるで吉井くんがアタシの気持ちを察してくれたかのような一言。

「……僕のようなあちこちの女の子たちに勘違いさせてフラグばかりを立てて弄ぶハーレム王なんかこの世から消えた方が良いんだ…………じゃ」

「吉井くん、そんな風に自分のことを卑下しなくたって……」

「お姉さんっ!? 僕、何も言っていないからね!?」

 吉井くんは、吉井くんは……

「脚を踏ん張り、腰を入れなよ。そんなことでは悪党の僕1人倒せないよ…………じゃ」

「吉井くんにそこまで気を使わせてごめんね。そして背中を押してくれてありがとう……」

「だから僕は何も言ってないから! 僕の声色を真似して誰かが妙なことを口走っているだけだからぁっ!」

 吉井くんに言われた通りに脚を踏ん張り、腰に力を溜める。

「そうだ、木下優子。ひとつ良いことを教えてやろう」

「何よ?」

「明久はこの大会が終わった週末に遊園地に行くらしいぞ。島田の妹と2人きりで」

「バカなお兄ちゃんの恋人である葉月はバカなお兄ちゃんに大人のデートを教えてもらうのです。葉月は最強のライバルに出会ってしまった以上、うかうかしていられないのです」

 審査員席の方から少女の可愛らしい声が聞こえた。

「へぇー。素敵な情報を提供してくれてどうもありがとう」

 吉井くんが押してくれた背中、今なら空母のカタパルト噴出の勢いで飛び出せる。

「僕はただ葉月ちゃんが遊園地に行きたいって言うから連れて行ってあげるだけだよ。美波が週末忙しいらしいから2人で出掛けることになっているだけで、僕にやましい気持ちはこれっぽっちも!」

「吉井くん……そんな言い訳を今更しても…………」

 スゥッと息を吸い込み

「無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄っ無駄アァーッ!」

 長い間封印して来た必殺の拳を叩き込む。

「う~ぉ う~ぉ う~ぉ う~ぉ う~ぉ う~ぉ……」

 吉井くんは昔流行った格闘ゲームみたいな悲鳴を上げながら沈黙する。そんな吉井くんにアタシは指を突き付ける。

「吉井くん、あなたの敗因はたった一つのシンプルな理由よ…………あなたはアタシを怒らせた!」

 さようなら、アタシの最愛の人……。

 

 吉井明久 再起不能(リタイア)

 

 To Be Continued

 

 

 

「吉井くんの再起不能により、準決勝第1試合は木下優子さんの勝利とします」

 とても疲れた準決勝がようやく終わった。

 試合には勝った筈なのに勝利の実感がまるでない。

「まったく姉上は勝つ気がまるでない雄二に勝利するのにどれだけ時間を掛けているのじゃ」

 秀吉はあからさまに冷たい視線をアタシに向けてくる。準決勝になってから秀吉は人が変わったかのようにアタシに厳しい。何があったのだろう?

「勝つ気がまるでないって……」

「試験の点数は0点、本気で攻撃する気配なしでは雄二にこの戦いに勝とうとする意思があったとは到底思えん」

「それはそうかもしれないけれど。でも、アタシに降伏を勧める作戦だったとか?」

「あんなもの、単純な姉上をからかって遊ぶ為の余興に過ぎんじゃろ」

「言ってくれるじゃない」

 でも、悔しいけれど秀吉の言う通りなのだと思う。

「次はワシと久保の真剣勝負じゃ。姉上は邪魔にならんように離れておれ」

「何よそれ……」

 秀吉の物言いに唇を尖らせながら舞台を降りる。今の秀吉にはどうも逆らい難い。

 そして舞台を降りた先には坂本くんが立っていた。

 

「見事な拳だったぞ」

「そりゃどうも」

 試合に負けたのに坂本くんには少しの悲壮感も見られない。

「……どうしてわざと負けたのよ?」

「成績急上昇中の俺がお前を倒してもF組のバカどもに強いインパクトは与えられない。それに大将である俺が強いことを示してしまうと、それに安心して勉強しなくなる」

「随分な自信じゃない。実力を発揮すればアタシに勝てたとでも言うの?」

「さ~な?」

 坂本くんの口ぶりは本気でやればアタシに勝てたと物語っている。腹立つ。

「俺にとって重要なのは自分の試合じゃない。秀吉が久保を倒せるかどうかだ」

「あのねえ。秀吉は姉のアタシが言うのも何だけど、バカよ。学年次席の久保くんに勝てる訳がないじゃない」

「実力で秀吉が久保に遠く及ばないのはわかっている。だが、それでも試召戦争では負けないという俺から見れば面白さ、言い換えればシステムの根本的な欠陥があるんだよ」

「だから何なのよ、それは?」

「秀吉の点数を見ればわかる」

 坂本くんはもったいぶるばかりでいつも肝心なことを教えてくれない。

 

「第2試合は吉井くんが再起不能に陥った為に通常の模擬試験召喚バトルとなります。それでは出場選手の2人は召喚獣を呼び出してください」

 高橋先生の号令の下、いよいよ準決勝第2試合が始まる。

「それじゃあ僕から行くよ。試験召喚獣サモンッ!」

 久保くんがメガネの縁に手を当てながら召喚獣を呼び出す。

 

 久保利光 2年A組

   数学 325点

 

「凄い……。久保くんは文系なのに理系のトップクラスの成績じゃないの」

 理系のアタシだって数学のテストでは300点を切ることがしょっちゅうなのに、久保くんは300点を余裕で越えてきた。

 こんな成績を見せられたんじゃ、秀吉が敵う筈ないじゃないの……。

「流石は久保。学年次席は伊達じゃないのぉ。じゃが、ワシはこの1戦お主に負けるつもりはない。試験召喚獣サモンッ!」

 弟の大声と共に召喚獣が出現する。

 

 木下秀吉 2年F組

   数学 323点

 

「秀吉が300点越えっ!? 嘘っ!?」

 それはにわかには信じられない点数だった。

 いつも試験で赤点、補習ばかり繰り返して来た弟とは思えない高得点。

 会場のみんなも唖然としている。

「やはり、上限なしの加点式試験の穴に坂本くんは気付いていたようだね」

「できることならお主の点数を上回りたかったのだが、そこまで上手くはいかんかったの」

 一方、対峙する2人は秀吉の点数について全く疑問を抱いていないようだった。

「それでは準決勝第2試合、始めてくださいっ!」

 アタシと会場を唖然とさせたまま第2試合が始まった。

 

 

 

「木下くん、君の点数は上がった。でも、僕は負けない。勝負だっ!」

 久保くんの召喚獣が先制攻撃を仕掛ける。武器である2つの大鎌が秀吉の召喚獣の首を斬り落としに掛かる。

「ワシも負けるつもりはないと言っておろう。久保よっ!」

 秀吉の召喚獣は大鎌を避けながら大鉈の柄で久保くんの脇腹をつつく。

 

 久保利光 2年A組

   数学 314点

 

 大して効いている訳じゃないけれど久保くんの点数が減った。

 その後もつばぜり合いが続き、双方の点数が消耗していく。しかし──

 

 久保利光 2年A組

   数学 256点

 

 木下秀吉 2年F組

   数学 300点

 

 明らかに久保くんの消耗の方が激しかった。

「元の点数は同じぐらいだったのに、どうしてこんなに差が付くのよ?」

「召喚獣の操作に関して言えば秀吉は多分明久の次に上手いからだろうな」

 アタシの疑問に答えてくれたのは坂本くんだった。

「秀吉は姫路やムッツリーニのように突出した点数を持つ訳じゃない。だからアイツには試験召喚戦争の際にいつも前線で敵の進攻を防ぐ部隊長の役割を担ってもらっている。この学年の中で最もバトル経験が多いのは秀吉で間違いないだろうよ」

 確かに試召戦争では姫路さんや土屋くん、吉井くんや坂本くんばかりがよく目立ち、弟は影が薄い。でも、秀吉は前線で戦い続けているので戦闘経験は最も豊富であり召喚獣の操作にも慣れている。なるほど。

「そして秀吉は常に劣勢の中で戦い、それでも生き延びてきた。召喚獣操作がずば抜けて上手いのは当然のことだ」

「不利な状況でも生き残って来たのだから、対等な条件なら負けないと言いたいのね」

 秀吉も結構やるじゃないのよ……。

 

「木下くん、君は本当に凄いよ。僕のライバルと呼ぶに申し分ない。だからこそ……僕は負けないッ!」

 久保くんの召喚獣が鎌を地面に突き立ててその反動を利用して大きく跳ぶ。そして背中に隠し持っていた小刀を抜いて秀吉の召喚獣の胸を切り裂く。

「クッ!」

 

 木下秀吉 2年F組

   数学 201点

 

 秀吉の点数が一気に100点近く減る。

「確かに君は召喚獣の操り方が上手い。でも、強敵とのバトルを経験した数なら僕だって負けないさ」

 久保くんのメガネが怪しく光っている。

「久保はそんなに召喚バトルの経験が多いのか?」

 今度は坂本くんが尋ねてきた。

「A組の中ではダントツに多いわね。久保くんは攻撃部隊のリーダーとして、B組根本くん、C組小山さん、D組平賀くん、E組中林さんと各クラスの代表をみんな討ち取っているのだもの」

「敵の陣中に深く飛び込んで戦い続けてきたということか。なるほど、だからトリッキーな攻撃も行えるわけだ。秀吉が対峙して来なかったタイプだな」

 坂本くんは目を瞑り何かを考えている。

 その間にも両者の激しい消耗戦は続いている。

 

 久保利光 2年A組

   数学 135点

 

 木下秀吉 2年F組

   数学 130点

 

 一進一退の攻防が続く。

「僕は、この勝負に負けるわけには絶対にいかないんだっ!」

「それはワシだって同じじゃっ!」

 弟も久保くんも普段は物静かなタイプ。だからこんな風に感情をむき出しにして争うことは本当に珍しい。それだけ2人とも本気であるという証拠。

「……ねえ、そろそろ弟の点数の秘密をそろそろ教えてよ」

 でもアタシには秀吉が久保くんと本気バトルで争える理由が気になって仕方がない。

「今いい所なんだが、そんなに知りたいのなら種明かししてやるさ」

 坂本くんは2人を見た。2人は睨み合いをしたまま動かない。均衡状態に陥っているようだった。

「久保。お前は試験用紙を何枚使った?」

「ちょっと。試合中の人に何を聞いているのよ!」

「大事な質問なんだよ」

 坂本くんが何を考えているのかアタシにはわからない。

「……4枚だよ」

 久保くんは召喚獣の武器を下ろしながら短く息を吐いて答えた。

 久保くんの点数は300点台なのだし、わかりきった質問だと思う。

「じゃあ、秀吉は?」

 秀吉もまた久保くんの様に武器を下ろす。

「……12枚じゃ」

「12枚っ!?」

 思わず大声を上げてしまう。

 だって、今まで試験用紙を12枚も使って解答した生徒なんて聞いたことがない。

「やっぱりそういうことだったんだね」

 だけど久保くんには驚いている様子がない。

「でもどうして12枚の試験用紙を使うと秀吉の点数が300点を越えるのよ? 普段の弟の点数なんて30点前後しかないのに」

 アタシには訳がわからない。

「フッ。まだ、わからないとはな。つまりだな……」

「試験時間をいっぱいに使って、沢山の解答用紙の中から簡単に解ける問題だけを選んで解いていけば誰だって高得点が取れる仕組みなんだよ。この加点式試験はね」

 坂本くんの言葉を久保くんが繋ぐ。

「えっ?」

 2人の解説を聞いて突然心臓がギュッと締め付けられる想いがした。

 

「例えば数学の場合、大問が5つあれば、1番2番は比較的簡単で短時間で解ける。配点もその分高くはないが。一方で4番5番は難解で時間が掛かる。点数も1題1題高いがな」

「一般的な試験では難しい4番、5番を解かないと高得点は望めない」

「じゃが、文月学園の加点式試験の場合、簡単な問題を沢山解くのも、難しい問題を少数解くのも得点の上では同じなのじゃ」

 今度は心臓を槍で貫かれた様な鋭い痛みが体を駆け巡る。

「そ、そんなことって……」

「実際にワシは雄二の指示通り、多くの解答用紙を用いてその中で簡単に解ける問題しか解いておらん。難しそうな問題は見た瞬間に放棄した。その結果がこれじゃ」

 秀吉の点数は323点。

 普段の点数の10倍。外部模試で3倍の点数差が付いていた久保くんと同等の点数。

 でも普段の点数は最初の5分間だけ問題を解いて、残りの55分は問題を見ながら唸っているだけの結果だったとしたら?

 1時間の試験時間を、丸々問題を解くのに費やしたとしたら!?

 1枚の試験用紙では30点しか取れない秀吉でも、10枚以上の試験用紙を集めれば300点を超えられるっていうの!?

 赤点しか採れないバカにA組の最精鋭が点数で並ばれると言うの!?

「絶望ついでにもう一言加えてやろうか、木下優子。お前は先ほどの試験で自己ベストを更新できなくて悔しがっていただろう?」

「そ、そうよ……何か文句でもあるの?」

 難問もあれだけ解いたというのに腹立たしい。

「お前が自己ベストを更新できなかった理由、それはおそらくお前が気合を入れすぎたからだ」

「ハァ?」

「大方、お前のことだからムキになって解くのに時間が掛かる難しい問題にも積極的に手を出したのだろう? そんなことせずに簡単な問題をサクサク解いていた方が点数伸びただろうにな」

「……あっ!」

 それはされたくなかった指摘。一生懸命解いたのに、解かない方が良かったなんて学生だったら凹むに決まっている。

「文月学園の試験で高得点を取る為に本当に求められているのは頭の良さ、実力じゃない。労せずに解ける問題をいち早く選別する判断力の早さと手を動かす速度だ」

「何なのよ、それ……」

 文月学園の試験に対する信頼が根本から崩れ落ちていく。そんな想いがした……。

 

 

 

「上限なしの加点式試験形式には簡単に点数を稼げるという抜け穴が存在する。そして生徒たちがその抜け穴に気付いてしまえば楽して点が取れるので学習意欲の衰退に繋がる。だから文月学園みたいな試験形式は他校では採用されてないんだよ」

 坂本くんは高橋先生を見ながらニヤッと意地の悪い笑みを浮かべた。

「だけど、そんな抜け道があるのならA組の生徒が同じことをすればもっと凄い点数が取れるってことじゃないのよ!」

 A組生徒ならF組生徒よりも1問1問を解く時間も速い。解ける問題の幅も広い。やり方さえ工夫すればみんな400点を余裕で超えて来る筈。

「確かにそうだろうな。だが……」

「難関大学の受験を念頭に置いているA組の生徒たちにとって、それは魅力に欠ける選択肢だろうね」

「えっ?」

 反論は意外な所、久保くんから来た。

「僕たちにとって重要なのは受験戦争に勝つこと。試召戦争に勝利することじゃない」

「点数を簡単に水増ししていたんじゃ自分の本当の実力がわからなくなる。自分の実力が外部模試でしかわからなくてどうする?」

「それは、そうかもしれないけれど」

「それに、難しい問題が出たらすぐ回避するような姿勢の奴が受験本番で合格すると思うのか? だから真面目に受験を考えている成績の良い奴はこの方法には乗って来ねえさ」

 久保くんと坂本くんの言葉が苦しい。

「だが、F組は違う。受験なんて到底無理なバカの集まりだ。だがその分水増しでも点数が上がれば人並みになったと錯覚して大喜びする。それに、その水増した点数を基にして試召戦争で勝って教室の施設が良くなるのなら万々歳だ」

「何よそれ……F組の生徒には得があるのに、アタシたちには得がないって言うの?」

 久保くんが準決勝の始まる前に試験召喚戦争の欠陥を暴くことはアタシたちにとっては役に立たないと言っていた理由がようやくわかってきた。

 

「だけど、文月学園の試験形式にこんな大きな欠点があるのに、どうして誰も今まで指摘して来なかったのよ?」

 F組生徒とA組生徒が実力差にも関わらず同等の点数を取ってしまうような欠陥システムなら既に話題に上っていても良い筈。

「んにゃ。久保が気付いていた様に、先輩方の中にもこの試験の欠陥に気付いていた奴は何人もいるだろうよ。だが、口外されては来なかった」

「……A組の先輩方にとっては、この試験の欠陥を暴くことには何の利益もないからね」

「あっ、そっか!」

 久保くん並に頭の良い人はこのカラクリに気付くかもしれない。でも、その人はAクラス在籍である可能性が高い。

 そしてAクラスの人にとっては、欠点の指摘して点数の水増し合戦に参加することも、水増しを行わずに他クラスの宣戦布告に神経を費やすことも得にはならない。

 だから秘密に気付いている人はいたのだろうけど口外されることはなかった訳だ。

「そしてA組は試召戦争に勝利した所で得られる物が何もない。A組の試召戦争に対するモチベーションを下げることがカラクリ保持の要となっていた訳だ。あのババアの考えそうなことだな」

 言われてから気付く。

 アタシは以前、学校の秩序を守るためとF組に宣戦布告をしたことがある。でも、その結果として得られたものはF組に勝利したという体面だけ。

 他組がA組に攻めることには意味があるけれど、A組が他組に攻めることには利益がない。言われてみればその通りだった。利益がないこと自体が学校側にとっては重要だったなんて考えもしなかった。

 

「だけど、坂本くんはどうやってこのカラクリに気付いたの?」

 久保くんが気付いたのは何となくわかる。A組の生徒という当事者だから。でも、坂本くんが何故この仕掛けに気付いたの?

「ヒントは2つあった。1つは文月学園主催のオリエンテーリング大会での俺の問題の解き方。もう1つは林間学校での女風呂覗きの際に高橋女史が見せた点数の異常な高さだ」

「もうちょっとわかり易く喋ってよ」

 坂本くんは息を大きく吐いた。

「オリエンテーリング大会では山ほどある問題用紙の中から1枚を選び、そこに書かれている3題の問題を全て解くとお宝のありかがわかるようになっていた。だから俺は、俺でも解ける問題だけが書かれた用紙を選び出して問題を解いた」

 なるほど。解ける問題だけを選んで解いていけばお宝=成果に至るという発想を得たということね。

「そして決定的なヒントになったのは高橋女史の点数だ。高橋女史が見せた8000点近い点数。あれは幾ら何でも高すぎた」

「高すぎるとどうしておかしいのよ? 先生は頭が良いのだから当然じゃない」

 坂本くんはいつもアタシを煙に巻く言い方をする。

「俺が知る限りこの学年、いや、この学校で一番の天才は翔子だ。何せ一度聞いたことをみんな覚えてしまうのだからな」

「……雄二に誉められると照れる」

 代表が顔を赤くして照れている。

「だが、その天才翔子の総合科目の点数は4500点前後。高橋女史とは倍近い開きがある。これは何故だ?」

「……あっ! そうか。代表が解いた問題数が高橋先生に比べて少ないからなのね」

「そうだ。翔子はバカ正直で人間が不器用だから問題を丁寧に一字一句読んでから解答する。そして難題に当たっても解けるまで熱心に考え込んでしまう。だから翔子は解いている問題数が高橋女史より遥かに少ないんだ。それが2人の点数の差に繋がっている」

 確かに1分間で1題解く人と3題解く人では点数が大きく異なってくる。加点式試験の文月学園の場合、ゆっくり確実に解くよりも次々に解いていった方が点数が良くなる。

 

「高橋女史に尋ねたい」

「何でしょう?」

 視線を交錯させる2人。

「高橋女史は学園長ババアから教師中でも最高得点を取るように言われていなかったか?」

「確かに私は学園長から学年主任として相応しい点数を取ることを求められています」

「では、試験時に出題された全ての問題を解いているのか?」

「……解答に時間ばかりが掛かる引っ掛け問題を回避するのは受験のテクニックの一つですよ」

 高橋先生が坂本くんの言うことを認めた。

「どうやら先生は頑張りすぎて、坂本くんに余計なヒントを与えてしまったようですね」

 先生が溜め息を吐く。

「ついでだからもう1つ聞いておく。あの化学の試験、もし俺の答案に名前が書いてあったら何点だった?」

「……455点です」

 先生が大きな溜め息を吐く。

「アタシの点数より100点も高いの!?」

 先生以上に驚いたのがアタシ。だってもし本気で坂本くんが勝負を挑んできたらアタシは勝てなかったということだから。

 アタシは、文字通り勝利をプレゼントされていた訳だ。

 屈辱に似た感情がアタシを締め付ける。

「……私よりも点数が高い」

 そしてアタシと同じように呆然としているのが代表。

「そういうこった。今の水増しした俺なら翔子とサシで互角に渡り合える。Fクラスのバカどもも、1科目ぐらいずつなら点取りのスペシャリストに変身させることも可能だろう。つまり、F組は特に策を弄せずともA組と互角に戦えるってことだ」

「そんなの、ずるじゃないのっ!」

 坂本くんの発言を聞いていてとても腹が立った。

 だって、一生懸命勉強して実力が上がって戦いを挑んで来るならともかく、点数の伸ばし方だけ 学んだ連中に大きな顔をされるのは納得できない。

 そんな努力の価値を無視するような戦法を駆使しようだなんて……。

「……試験形式に関しては再考する余地がありそうですね」

 高橋先生が僅かだけど肩をすくめた。落ち着いた口ぶりだけどその表情は硬い。

「加点式試験で生徒のやる気を引き出すのが売りの文月学園で加点式をやめて良いのか?」

「加点式はあくまでも生徒の学習意欲を引き出す為の方法の1つです。却って学習意欲の妨げになりかねないのなら再考もやむなしです」

 高橋先生はジッと下を見ている。

「まあ俺にとってみれば、試験制度が変わらないのならA組に攻め込むまで。試験制度が早急に変わるのなら学園と2年A組は戦わずして逃げたと大笑いしてやるだけさ」

 坂本くんがさも楽しそうに笑う。

 それを聞いて、とてもカチンと来た。

「F組なんか、アタシ1人の力でも倒してやるんだからっ!」

 それはもう勢いだけで出た言葉。でも、不思議と言って後悔はなかった。

「高橋先生の8000点が何だって言うのよ! だったらアタシは1万点を目指してやるわよ! そしたらF組50人全部、アタシが倒してやるんだから!」

 言えば言うほどに気分が高揚してくる。

「木下優子、お前は受験を捨てるのか?」

「冗談じゃないわ。受験だって、試験召喚戦争だって勝ってやるに決まっているじゃない!このアタシ、木下優子様を舐めないでよね!」

 そうよ。やられっ放しなんてアタシの性に合わない。

 相手が小細工を弄してくるのなら、アタシはそれを打ち破る本当の力というものを見せてやるだけ。受験にだって絶対に落ちてなんかやらないわ。

「A組攻略戦で最大の敵となるのは翔子だと思っていたが……どうやら再考しなければならないのは俺も同じようだな」

 それだけ言うと坂本くんはゆっくりと体育館から出て行った。

「坂本くん……」

坂本くんの顔はアタシの気のせいかとても楽しそうなものに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……雄二、優子とくっ付いて喋りすぎ。浮気は許さない!」

「ぎゃぁああああああああああぁっ!?」

 

 坂本雄二 再起不能(リタイア)

 

 To Be Continued

 

 

 

 

 実力伯仲。

 いつまでも見ていたいような名勝負。

 そんな戦いを繰り広げていた2人にも遂に決着をつける時が訪れていた。

「中間で水を差されてしまった形になったけど、そろそろ決着を付けようか?」

 大きく肩で息をしている久保くん。その額にはビッシリと汗が滲んでいる。

 召喚獣の操作は体は動かしていなくても精神力を大きく消耗する。

「そうじゃの。次の一撃でケリを付けるとするかの」

 同じく肩で息をする秀吉。

 でも2人の目に宿る闘志はいささかの衰えも見えない。

 

 久保利光 2年A組

   数学  70点

 

 木下秀吉 2年F組

   数学  67点

 

 そして気が付けば互いに後一撃ずつで勝利を収められる所にまで来ていた。

「こんなに感情をむき出しにしたのは久しぶりだよ。楽しかった」

「ワシも同じじゃよ」

 久保くんは鎌を居合い切りの体勢で構え、弟は大鉈を久保くんの顔に突き付ける様に構える。

 2人とも言葉通り、次の一撃で勝負を決めるつもりに違いない。

「僕はこの一撃に全てを賭けるよ」

「ワシもじゃ」

 少年漫画のクライマックスのように対峙する2人。

 万感の想いが篭った眼差しが交錯しあう瞬間。

 見ているこちらが奮い立ってくる戦い。

 アタシも坂本くんとこんな勝負がしたかった。

 

「いざっ、尋常にッ!」

「勝負ッ!」

 交錯する2人。

 そして……

 宣言通りに勝負は一瞬にして着いた。

 

 

「のぉ、久保よ?」

 点数が急激に下がりながら秀吉が尋ねる。

「何だい?」

「何故お主は試験形式の穴に気付いておったのにその弱点を突かなかったのじゃ? お主ほどの実力なら500点は軽く超えたじゃろう」

 秀吉は苦しそうな、切なそうな表情をしている。

「言っただろ? 僕の目的は受験戦争に打ち勝つことだって。僕はT大法学部に入学し、政界に進み、法を改正するつもりだ。その大きな夢の為には小手先の点数を上げている場合ではないんだよ」

 久保くんは笑った。自嘲しているような、でもどこか心の底から楽しそうな笑み。

「先を見据えて、か……やはり凄いのう、お主は」

「……全てを賭けるなんて言ったのに……先のことなんか考えていたから…………僕が負けたんだね」

 久保くんが地面に膝を着く。

 それと同時に消失する久保くんの召喚獣。

 

 久保利光 2年A組

   数学   0点

 

 木下秀吉 2年F組

   数学   5点

 

「準決勝第2試合、勝者、木下秀吉くんっ!」

 この瞬間、ベストフレンド決定戦決勝戦の相手が秀吉に決まった。

 

 

 

 最終話に続く

 

 

 


 
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