No.420408

Fate/Zero 遠坂時臣とこどもの日 愛娘の為に

視点の固定を崩すための実験作。

Fate/Zero
http://www.tinami.com/view/317912  イスカンダル先生とウェイバーくん
http://www.tinami.com/view/331833 あの日見た僕(サーヴァント)の名前を俺達はまだ知らない。

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2012-05-09 00:11:12 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1929   閲覧ユーザー数:1848

Fate/Zero 遠坂時臣とこどもの日 愛娘の為に

 

 

 私の名前は遠坂時臣。

 私自身のことを単語一言で語るならば優雅だ。二言で語るならばティロ優雅だ。三言で語るならば超ティロ優雅だ。四言で語るならば超ハイパーティロ優雅だ。五言で語るならば……超ハイパーウルトラティロ優雅だ。六言で……もう面倒くさいから勘弁してください。フッ。

 そんなティロ優雅な私には愛する妻と娘がいる。

 妻の葵は夫である私が言うのも何だが…とても美人だ。Notティロ優雅な男の代表格である間桐うんこ雁夜が人妻になっても熱を上げているぐらいだ。

 勿論貞淑にして慎み深い妻は二児の母となった今も私のことを深く愛してくれている。

「ゴールデンウィークにどこにも出掛けないから暇よねぇ。お隣の鈴木さんだって普段は旦那さんの文句言いながら今は海外旅行中なのに。はぁ~」

 貞淑な妻は今も1人優雅にダーツをして時を過ごしている。ダーツの代わりに投げているのがアゾット剣だったり、的になっているのが私の顔写真だったりするがそれは仕方ない。

 何故なら遠坂家にはダーツの専門道具がないのだから仕方ない。妻は代用品で余暇を優雅に過ごしているのだ。その努力を褒め称えるべきだろう。

 だから投擲されたアゾット剣の2本の内の1本が的に対して右90度に位置する私に向かって飛んできても怒るような真似はしない。

 女性の力であの剣を自由に扱って投げることは難しいのは当然だからだ。私のように優雅で理解ある夫は妻の何ら故意性が感じられない過失を責めたりはしない。

 葵の手から放たれたアゾット剣が時臣の額に向かって時速160kmで飛んでいく。時臣はその飛来物をワイングラスをグルグルと回しながら目を瞑ったまま優雅に避けた。

 何で死んでくれないのかしら? どうして避けられるの?

 私は確実に時臣を即死させられる部位をピンポイントで狙っている筈なのに……。

 おかしいわね。腕がなまったかしら?

 ううん。そんなことはない筈。毎夜深夜100m先の目標物を目隠しした状態で正確に貫通できるように鍛えているのだから。

 やっぱりアレかしらね。魔術師(セイント)に同じ技は二度通じないっていうお約束かしらね。

 3日前に仕留めきれなかったことが心底悔やまれる。まさか心臓部位のポケットの内側におっちゃんイカを隠し持っていたとは思わなかった。

 如何に強力な術式を仕込んだアゾット剣とはいえ、おっちゃんイカの弾力に敵わないのは道理だものね。おっちゃんイカの歯ごたえは最高だもの。

 何にせよ、時臣を仕留め損なったのは私にとって痛手だった。時臣を誅すれば雁夜くんの元に何の憂いもなく堂々とお嫁入り出来ると言うのに。

 このままじゃ、あのソラウとかいう火遊び好き女に雁夜くんを盗られかねない。それに、もし雁夜くんがロに目覚めてしまったら、凛や桜にも盗られる可能性が出る。

 やはり……私には時間がない。

 やっぱり、今殺ろう。そう決めたわ。

 両手の指の隙間に1本ずつのアゾット剣、合計8本の剣を構えて必殺の体勢を取る。

 大きく息を吸い込んで最高のスマイル。

 さようなら、時臣。私……幸せになるから。

 葵は黒い笑みを浮かべると時臣に対して8本の凶器を一斉に放った。

「そう言えば今日は……」

 ふと思い出して壁に掛けられている手作りの優雅カレンダーに向けて体を動かしていく。

「あっ!」

 妻が驚きの声を上げた。見れば大量のダーツが壁に垂直に突き刺さっている。どうやらうっかり失投してしまったらしい。

 まあ、可愛らしいお茶目だ。それに失敗を指摘されるのは誰だって恥ずかしい。だから、優しい夫である私は見なかったことにしてカレンダーを注視する。

「やはり今日は5月5日。子供の日か……」

 私が格好よいと思う今日の一言『Dandy in the Norisuke with Hanazawa-san』と書かれた日めくりカレンダーの日付けは5月5日。

 私は一流の優雅でもあるが、家庭においては優しき父でもある。親として子の記念日を祝わない訳にはいかない。

「葵。凛をここに連れて来てはくれないかね?」

 私は愛妻に愛娘を連れてくるように伝えた。

 

 

「何の御用でしょうか、お父様」

 私の目の前に愛娘の凛が立っている。

 礼儀正しく親を敬う心を失わない実によく出来た娘だ。親ばかと思われるかも知れないが私は凛を大層誇りに思っている。

「今日はこどもの日なのを思い出してね」

「えっ?」

 凛は驚いた表情を見せた。見れば葵も驚いた表情を見せている。一体何故だろう?

 2人して私がそんな父親らしい気遣いをするなんてこんなの絶対おかしいよ的な表情をしているのは?

「まあ、そういう訳なので、今日は凛のお願いを聞き入れようと思うのだよ」

「あっ。そうですか」

 凛は戸惑った表情を浮かべ続けている。願い事が急には決まらないらしい。

 凛はよく出来た娘なので私に対して要求することもほとんどない。それはそれで美徳であるのだが、凛もまだ小学2年生。

 たまには子供らしい面を見せてくれた方が安心もするし、子供の為に働ける方が親としても幸せというものだ。

「あの、お願いというのは何でも良いのですか?」

 愛娘が上目遣いに尋ねてきた。

「勿論だとも。何か欲しいプレゼントがあれば言いなさい。値段のことは考えなくて良い」

 凛は次期遠坂家の頭首とはいえ今はまだ小学校に通う幼い少女。他の少女たちのように欲しいものもいっぱいあるだろう。人形であるとかぬいぐるみであるとか。

「それじゃあ私……」

 凛は息を飲み込んだ。

 そして愛娘は私に向かってお願いを話したのだった。

「お父様が働いている姿を1度で良いから見てみたいですっ!」

「へっ?」

 凛の願望を聞いて時臣は固まった。

 

「私は……お父様が働いている姿がどうしても見たいんですっ!」

 私はお父様に向かってここ最近ずっと心に秘めていた願望を口にしてみました。

「そっ、それはどういうことかね?」

 いつも優雅を謳っているお父様が微かに全身を震わせています。

「ゴールデンウィーク前に家族について発表する作文があったんです。それで私……お父様の日常について文を書いて読んだのです」

「そ、そうか……」

 お父様の手の中にあるワイングラスの中身が手首を回してもいないのに激しく揺れています。

 でも、そんな不思議な現象よりも私にとってはあの日の教室の反応の方が大きなショックでした。

「そうしたら……先生やコトネをはじめ……クラス全員に大泣きされました。マジ泣きでした」

 あの日の教室で私は自分が普通の人とは違うのだと改めて認識しました。

 今までもうちは魔術師(ドリーマー)の家系だから……それで他の子とは違うんだと知ってはいるつもりでした。

 でも……

『うちのお父様はいつも家にいて書斎で24時間手に持ったワイングラスをグルグル回しています。もしくはヒゲを摩っています。そして時折鏡を見ながらモナムゥと呟きます』

 そう読み上げた時の皆の反応はとても辛いものでした。

 今まで学年を超えて優等生で通っていた私が全員から同情されました。

 私の地位は一瞬にして優等生からダメな父親を持つ可哀想な子に変わってしまいました。

 でも私はこんな結果になることを望んでいた訳ではないのです。

 私だって普通の子と何も変わらない。それを読み上げる筈だった論文が全く違う結果を導いてしまいました。

 そして、私は他の子の作文内容から知ったのです。

 お父様の生活が魔術師(自称自宅警備員)ということを差し引いても普通ではないことを。

「私、お父様が働いている姿を見てみたいです」

 再びクラスの皆にお父様のことを自慢できるように、お父様の格好良い姿が見たいと心から思いました。

 凛は子供らしいとてもキラキラした瞳で時臣を見ていた。

「り、凛。落ち着いてよく聞いて欲しいんだ」

 愛娘に動揺を悟られないように丁寧に訴えかける。

 子供の純粋で当惑するなど優雅な親としてあってはならない。

「私は家内で頭脳労働に従事しているから働いていない訳ではないのだよ」

「そうなのですか?」

 愛娘が首を捻る。

「そうなのだよ。私は新たなる魔術を考案してその特許料で生計を立てている。だから、決して単なる自宅警備員ではないのだよ」

 私の特許は年間で数千万円の収入となっている。私は一角の実業家なのだ。

「ああ、その特許だったら……貴方の考案した魔術じゃゴミにしかならないから、私がいつも書き換えて申請しているわ。特許名義も全部私のだし。貴方の名義にすると誰も使ってくれないから」

「そう言えばこの間私もお母様と一緒にお父様の魔術をほとんど一から組み直しました」

「グハっ!?」

 心の中で吐血する。

「自宅警備員って言うけれど……庭にさえ滅多に出て来ない貴方は一体何を守っているの?」

「私も世のお父さんというのは皆24時間自室に引き篭っているのだとばかり思っていました。毎朝早くに家を出て働きに行くなんて思いもしませんでした。お父様……いつも昼過ぎまで寝てますもんね」

「ブホエッ!?」

 心の中で血の涙を流す。

「よしっ。今日は凛のお願いを聞いて特別にプレゼントを贈ろう」

「いえ。プレゼントは要りませんから働いてください」

「そうね。外で働いてくれれば日中雁夜くんを連れ込み放題だから私も賛成するわ」

「では、これより早速街まで買いに行くとするよ」

「いえ、だから贈り物なら働いている姿を……」

「子供さえ出来てしまえばこちらのものよね」

 愛娘のきっての頼みとあっては断ることなど出来ない。

 私は愛用のシルクハットを頭に乗せると右手に魔術用ステッキを手に持つ。左手には優雅な大人の唯一の飲み物ワイン。

 ポケットの奥には非常用食料のおっちゃんイカも入っている。

 これで準備は全て整った。

「それでは愛娘の願いを聞き届ける為にこれより逝って来る」

「あの。だから働いて……」

「ついでに貴方が入れるサイズの生ゴミ用の袋も買ってきてね」

「では……逝ってくる」

 愛妻と愛娘に優しく見守られながら私は久方振りに外に出ることにした。

 優雅を極めた歩き方ムーンウォークを駆使しながら。

 

 

 

 プレゼントが欲しいという娘の願いを聞き入れるべく冬木の繁華街に向かって歩く。

「見て……遠坂さんの所の旦那さんよ」

「はぐれメタル並のレアモノよ。明日は雪が降るんじゃないかしら?」

 近所の奥方達が私を見ながらヒソヒソと噂話をする。

 魔術師とは人目を避けてひっそりと生活をするもの。だが、私のように優雅を極めてしまうと注目を集めることは避けられない。それが優雅たる者の宿命。

「遠坂さんの奥さんは3日前に旦那さんを仕留め損なったことを心の奥底から後悔しているらしいですわね。ジャギを殺さなかったケンシロウが自身の甘さを後悔したクラスに」

「桜ちゃんは公的機関が介入して他所の家に引き取られていったらしいですし、凛ちゃんもあの旦那さんの元に育ったらいずれ悪魔と呼ばれるようになるんじゃないか心配だわ」

 そして私は素性を隠しながら生きているので隣人たちに決して理解されない存在なのだ。

 魔術師とは実に悲しい存在だと思いながらムーンウォークのまま奥方たちの前を通り過ぎていく。

「何で警察はあんな真っ赤なスーツを着て後ろ向きに歩いていく変態を捕まえないのかしら?」

「何でも冬木の裏社会には色々通じているみたいで、強力なコネがあるらしいわよ」

「まあ。引き篭りでしかも黒い存在なのね」

 魔術師とは真理を探求するもの。故に俗世と関わる必要はない。それが魔術師。

 私は娘の笑顔だけを思い浮かべながら繁華街を目指した。

 

 15分ほど歩き続ける。

「フム。ほんの少しばかり疲れたな」

 自宅工房で黙々と魔術の鍛錬に勤しみ普段歩くことのない私にとっては過酷な進軍となってきた。 しかもムーンウォークは優雅だが、歩行距離がNot優雅な普通の歩行に比べると速度に劣りおまけに疲れる。

 喉の乾きを潤そう。そう思った時だった。

 近くから私の鼻腔をくすぐる芳しき香りが漂ってきた。

「これは……淑女の優雅な飲み物、紅茶の香りか?」

 それは確かに紅茶の香り。しかもフルーツ的な香り。

「レディグレイの香りか?」

 その昔、リトル・グレイが考案したブレンドティーの銘柄アールグレイを更に爽やかに風味だたせた一品。それがレディグレイ。

 だがここは、近所に喫茶店もないただの住宅街。いや、仮に店があったとしてもこれほどの風味を出すことは不可能だろう。

 この風味……私クラスのゴールド・ユウガーでなければ扱えるものではない。

「今日はティロ晴天で散歩するのにティロ気持ち良いわね」

 そして香りを発していた主はすぐに判明した。

 チョココロネを連想させる見事な縦巻き毛を頭の両脇から下げた少女が私にいる方角に向かって優雅な澄まし顔で歩いてきた。その右手には大きな白磁のティーポット、左手には同じく高級感溢れる白磁のティーカップ。

 芳ばしい香りはそのティーカップに注がれた紅み掛かった液体から発せられていた。

「あらっ、優雅な遠坂時臣さん。ティロごきげんよう」

 少女は私を見るなり優雅に一礼してくれた。瞬間的に手に持っていたティーセットがなくなり、彼女が通う中学校の制服のスカートの端をつまんで優雅に広げながら上半身を恭しく下げた。

「ティロごきげんよう。優雅な巴マミくん」

 私は挨拶をしてくれた少女に挨拶を返した。

 彼女の名は巴マミ。見滝原という街に住む中学3年生の少女で私と同じゴールド・ユウガーだ。そして彼女は私とは異なる体系を持つ魔術を操る魔法少女でもある。

「優雅な遠坂時臣さんはお散歩ですか?」

「いや、今日はこどもの日なので娘に何かプレゼントを贈ろうと思ってね」

「まあ、それはティロ素敵ですわね」

 立ち止まってしばしマミくんと歓談する。

 私とマミくんの出会いは必然だった。

 優雅同士が惹かれ合うのは世の必定。そして、優雅を極めし者が集まる社交場『I Can友達作り実践講座』で私達は必然の出会いを果たした。

 優雅を極めればNot優雅な一般人とは価値観の違いから軋轢が生じるのが必然。故に我々のようなゴールド・ユウガーは優雅のみが集まるサロンを必要とするのだ。

 そして私とマミくんは古くからサロンに在籍し続ける古老格で互いをよく知る仲である。

「それで娘さん……確か凛ちゃんには一体どのような贈り物を?」

「うむ。実はそれで難儀していてね。男親というのはどうにも少女の欲しがるものが分からなくてね」

 時臣は小さく息を吐き出してみせた。そんな時臣をマミは少しだけ切なげに、けれど優しい表情で見ている。

「仮にマミくんであればどんなものが欲しいかな?」

 急な質問にマミは体の動きを止めて少しだけ驚いた。

「私の欲しいものですか? でも、確か凛ちゃんは小学校の低学年でしたよね? 中学3年生の私ではあまり参考にならないかと」

「それでもおじさんである私よりはマミくんの方が娘の感性に遥かに近い筈だよ」

 時臣が笑ってみせる。マミはその表情を見て少しだけ困り同時に少しだけ嬉しくなった。

「じゃあ、考えてみますね」

 マミは空を見上げると風を感じながら目を閉じた。

 マミくんの仕草はその一つ一つが実に洗練されている。凛も将来はマミくんのような優雅な子に育って欲しい。

 もし私に何かが起きた際には彼女に凛の後見人になってもらおうかと思う。彼女は遠坂魔術の継承者ではないが、私に匹敵するゴールド・ユウガー。凛の教育係としてこれ以上相応しい人物は他にいない。

 マーボー神父? 優雅に情熱を燃やせない男など私にとっては何の価値がない。魔術とか割とどうでも良いから優雅を継承することが大事なのだ。

 と、色々と考え事をしている間に時間が経ってしまった。

「そうですね」

 マミくんは目を開けながら優雅に私へとその綺麗な瞳を向けた。

「私が最も欲しいものは昔からただ一つだけです」

「その一つとは?」

 緊張の一瞬。そして──

「……………………友達、です」

 時臣とマミの間に長く重い沈黙が降りた。

 

 

「なるほど。友達、か」

 時臣は重い息を吐き下ろした。

「私はかつて7つ集めればどんな願いも叶えてくれるという星が刻印されたオレンジ色の球を集めてみたことがあってね」

 時臣は再び重く息を吐き出した。

「それで大きなトカゲを呼び出して願い事を述べてみたことがある。私は友を所望するとな。だが……」

 時臣は右手を固く握り締めた。

「神の力を超える願いは不可能だとトカゲに断られた」

 時臣はガックリと首を落として項垂れた。

「私も似たような経験があります」

 マミの声はとても寂しげなものだった。

「魔法少女になる際に、何でも好きなことを1つ叶えてくれるとなっていたので友達が欲しいと頼んだのです」

 癒やし系少女の顔に暗い影が指す。

「ですが、そんなの不可能に決まっているじゃないかと一言の元に切って捨てられました。宇宙を根本から作り替えない限り無理だって……」

 マミもまたガックリと首を落として項垂れた。

「確かに、友を得るとは我々ユウガーにとっては最も過酷な試練」

 時臣は年長者として優雅ではあるがまだ多感な年頃の少女であるマミに向かって優しく語り掛け始める。

「だが、それでも方法がないわけではない」

「本当ですか?」

 マミくんが希望に瞳を輝かせながら顔を上げた。

「私が真理の根源を追い求めているのもその為だ。聖杯さえ手に入れれば……そこに友達を作る極意も隠されている筈だ」

「まあ、それは素敵ですわね」

 マミくんの顔がパッと華やいだ。

「そう言えば私も……キュゥべえ……クライアントから魔獣を1万体倒してそのソウルジャムを全て1度に食らえば宇宙を書き換える力を身に付けられると言われました。だから私、最近は素手で魔獣を倒せるように頑張っているのです」

 恥じらいながら右手を握り締めて笑うマミくん。やはり凛にはマミくんのように優雅な女性になって欲しい。

「しかし困ったな。私の現在の力では凛に友達を作ってやることは残念ながら出来そうにない」

 それに凛にはコトネちゃんというクラスメイトの友人がいる。

 遠坂家の血を引きながら友人を得る。凛は私とは全く異なるタイプの人間なのかも知れない。

内気で引っ込み思案な桜の方が私と同じ道を歩むには適していたかも知れん。いや、桜の話をするのはよそう。私がして良い話ではない。私にそんな資格はない。

 

「あの、優雅な遠坂時臣さん?」

「ああ。ぼぉ~としてしまったよ。スマない」

淑女と話中だというのにとんだ失態を演じてしまった。淑女に心配を掛けるなどダンディーとしてあってはならないことだ。

「友達以外だと何を贈れば娘は喜ぶだろうか?」

「そうですわね」

 マミくんは右手の人差し指を唇に当てながらしばし考えた。

「優雅な遠坂時臣さんが心を篭めて選んだものならきっと何でも嬉しいと思いますよ」

 そう答えを述べたマミくんはとても優しい表情をしていた。

「両親が在命中の頃、私がそうでしたから」

 可憐に微笑む少女には深い悲しみの影が垣間見えていた。それでも彼女は笑っていた。

「そう言えば君は…………申し訳ない質問をしてしまったね」

「いえ。私も久しぶりに両親のことをじっくり思い出せましたから」

 マミくんは空を見上げた。雲ひとつない空が冬木の地を包んでいる。

「今日はこどもの日。大人が子供を思う日。でも、逆から見れば子供が親のことを考える日でもありますよね」

「子が親を……か」

 先程の凛との会話を思い出す。

「そうだな。せめて贈り物ぐらいは私が誠意をティロ篭めて選ぶことにしよう」

 方針が定まる。娘に必要なのは私の真心の筈だ。

「ティロ頑張って下さいね、お父さん」

「ああ。素敵なアドバイスをティロありがとう」

 私は笑ってマミくんと別れた。

 マミくんとの会話でヒントを得た私の心は軽くなっていた。

「アーチボルト家⑨代目頭首ロード・エルメロイが仕る。そこのやたら無駄脂肪に塗れたふっくら系の娘よ。ちと、道を尋ねたい」

「ティロ・フィナーレ♪」

 5月の鉄分の香りと赤色を含んだ爽やかな風が私を後押ししてくれているようだった。

 

 

 

 マミと別れてから約1時間後、時臣は少女たちに人気だというファンシーショップの前へとやって来た。

「ここが少女たちに人気だという愛らしいキャラクター商品が多数置かれている店か…」

 デフォルメされた動物のキャラクターが描かれた看板。その少女を客層に狙ったファンシーな看板を見て時臣は威圧感を受けていた。

「ここに私が入るのか?」

 敵対陣営の魔術工房よりもやりにくさを感じる。ファンシーと優雅は敵対するものではないが相容れるものでもなかった。

「だが、私が入らないでどうする? 私は父なのだぞ」

 時臣の額から汗が流れ出る。呼吸が荒くなっていく。

 それと共に周囲の通行人の時臣を見る視線が厳しいものに変わっていく。

「圧倒的にアウェイだな。ここは……」

 大きく息を吸い込んで歩み出そうと右足に力を込める。

 だが石化の魔術でも掛けられてしまったかのように足は動かない。

 私は、この店を恐れているとでも言うのか?

「往来の真ん中で突っ立って交通を妨げ何をしている、遠坂時臣っ?」

 よく知った、特に聞きたくもない声が背後から響いた。

 仕方なく振り返る。

 すると、予想通りのNot優雅な男が私の前に立っていた。

 

「間桐うんこ雁夜ではないか」

「誰がうんこだっ!」

「往来のど真ん中で大声でうんこなどと相変わらず下品だな、君は」

「お前が先に言ったんじゃないかっ!」

 この下品で優雅の欠片もない男の名前は間桐うんこ雁夜。

 元は魔術の名門間桐の次男の生まれ。しかし魔術を嫌い家を飛び出し現在はフリーのジャーナリストとして世界中を飛び回っている。そう言えば聞こえは良いが、要はこの冬木の地から逃げようと必死なただの負け犬だ。

「で、下品な君こそこんな所で一体何をしている?」

 鼻を鳴らしながらNot優雅な男に尋ねる。

「今日はこどもの日だからな。桜ちゃんへのプレゼントを買う為に決まっているだろうが」

 Not優雅は私を馬鹿じゃないのコイツという目で見た。

 現在の桜は間桐の一員であり、Not優雅の姪というポジションになっている。

 その言葉を聞いて私はアゾット剣を背中から突き立てられたかのような激しい衝撃を受けた。

「ちなみに綺麗なワカメに買うプレゼントはない。そんな経済的な余裕は俺にない」

「そんな情報は別に要らない」

 綺麗なワカメとは現在の間桐の形式的な頭首の長男であり桜の兄に当たるワカメのこと。桜の代わりに間桐魔術の集大成である蟲蔵に放り込まれて魔術師として覚醒した。

 ワカメが次期間桐の跡取りとなってしまった為に桜は一切の魔術に触れさせてもらえないでいるという。これでは何の為に桜を養女に出したのか分からない。だが……。

「フッ。君はそのNot優雅な出で立ちであの若草もゆる少女だらけの園に足を踏み入れようというのか?」

窓を通して見える店内へと目を向ける。

そこには連休中ということもあってか小中学生の少女で溢れていた。

「時臣よ。どうやらお前はこの店に入るのが怖いようだな」

 Not優雅が私を見ながら嗤う。

「何を馬鹿なことを」

 優雅たる私は勿論そんなことを認める筈がない。

「そういう君こそあの少女だらけのキャピキャピした空間が怖いのではないかね?」

 子供連れで入るならともかく、成人男性が1人で入るにはきつ過ぎる空間だ。

「何を言っているんだ、時臣? 俺はジャーナリストだぞ」

 Not優雅は大きくふんぞり返った。

「場違いだと思っても躊躇わずに突撃を敢行する。それがジャーナリスト魂ってもんだろうがっ!」

 雁夜は時臣に向かって白い歯を光らせながらドヤ顔を見せた。

 

 時臣のスマシ野郎は俺の言葉を聞いて顔を引き攣らせた。この透かし野郎は優雅なんて気取ってはいるものの、実際には凄く打たれ弱い。典型的な軟弱エリート様だ。

「時臣よ。お前は自分のその高過ぎるプライドが邪魔をして娘にプレゼント一つ買うことが出来ないのだろうよ」

「何だとっ!?」

 そして時臣は想定外の事態が起きると容易く余裕がなくなってしまう。コイツの優雅の弱点はとても明白だった。

「桜ちゃんを臓硯に売る様な貴様のことだ。凛ちゃんに対する愛情だってどんなものだか?」

「貴様っ! 私を愚弄するというのかっ!」

 優雅の仮面をかなぐり捨てて時臣が激高する。

 だが、そんな風に醜態を晒す時臣を見ていると俺は気分がスカッとする。

 俺は時臣のことが嫌いだ。葵さんのこともある。会う度に優雅でないと馬鹿にされて来た積年の恨みもある。だが、何よりかにより自分の娘を臓硯に売ったことが絶対に許せないっ!

 綺麗なワカメが代わりに蟲蔵に放り込まれていなかったら桜ちゃんはどうなっていたと思ってやがるんだ、コイツは?

 俺が機転を利かせてワカメを蟲蔵に問答無用で放り込まなかったらどうなっていたと!

「貴様には愚弄されるだけの理由が十分にあるだろうが」

「何だとっ!」

「だが、今の俺は桜ちゃんのプレゼントを選ぶのに忙しいので、店の中に入れもしない貴様に付き合っている暇はない」

 雁夜は勇ましくファンシーショップの中へと歩を進めていく。時臣はそんな雁夜を見ながら体を震わせている。

「遠坂時臣を見くびるなっ! 間桐雁夜よっ!」

 時臣は1歩1歩大地を踏みしめながらファンシーショップへ向かって歩いていく。ムーンウォークではなくごく普通の前進で。

 時臣は雁夜のすぐ後に続いて店の中へと入っていった。

 

 

 

「フッ。久しぶりの激戦だった」

 時臣は汗だくになりながらファンシーショップから出て来た。

「何でお前はプレゼント選ぶだけでそんなに困憊しているんだ?」

 隣にいる雁夜が呆れた表情で時臣を見ている。その両手には大きなクマのぬいぐるみがラッピングされて抱えられていた。

「優雅とファンシーは互いに神経を使いあわないといけない微妙な間柄なのだよ」

 時臣は息を切らしながら返答した。

「で、時臣は結局何を買ったんだ?」

 雁夜は時臣が右手に持っている赤い包みでラッピングされた直方体状の箱を見ながら尋ねた。

「ティーカップだ。娘には紅茶が良く似合うティロ立派な淑女に育って欲しいと思うのでな」

 時臣は何かを確信するように空を見上げた。

「ああ。それと一つ言い忘れていたことがある」

 時臣は左手に持っている青い包みでラッピングされた同じ大きさの箱を雁夜が抱えているぬいぐるみの頭の上に置いた。

「何の真似だ?」

 意図が分からずに雁夜が首を捻る。

「プレゼントを1つ余計に買い過ぎてしまったのでな。君に処分を任せよう」

「要らねえよ」

「君に処分を任せたのだから、君の手から更に第三者の手に譲渡されても一向に構わない」

 雁夜は時臣の顔をジッと見た。

「お前、相変わらず捻くれてるな」

「何のことだかさっぱり分からないのだが?」

 雁夜は非難の視線を時臣に送る。が、時臣はまるで動じない。

 雁夜は追及を諦めた。

「来年は自分で渡せ」

「それが許されるのであればな」

 時臣は小さく息を吐き出した。

「なら許されるように限界超えて必死こいて努力しろ。馬鹿が」

 雁夜はそれだけ述べると時臣に背を向けて歩き出してしまった。

「限界超えて必死こいて……まったく、相変わらず言うことに優雅さが欠片も感じられないな」

 手元にある赤い包みの箱をジッと眺める。

「だが、たまにはそういう姿を見せるのも娘たちには重要かも知れんな」

 時臣は箱を再び見てそれから前方を見た。

 商店街ではこどもの日の催しの一環なのか幾つかの店の前で鯉のぼりが飾られているのが見えた。

「父親と優雅とはなかなかに難しい関係にあるな」

 時臣は自宅に向けてゆっくりと前に足を踏み出しながら歩き始めたのだった。

 

 

 了

 

 


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