No.368193

そらのわすれもの  外伝 そらのわすれものZero

水曜定期更新

そらのわすれもの外伝。 そらのわすれもので最も熱いあのヒーローのほのぼの風味の1日です。
ていうかpixiv彼岸花小説コンテスト戦線に戦力を傾けているのでこっちがまともに書けませんです。
とりあえず大賞取りたいけどなあ。1万字以内で外様用の物語作れって結構難しい注文なんですよね。

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2012-01-25 19:09:56 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1949   閲覧ユーザー数:1716

そらのわすれもの  外伝 そらのわすれものZero

 

 

 ××県冬木市。

 かの地では7人の魔術師が万能の願望器“聖杯”を巡り、己が召喚したサーヴァントを駆使して激しい殺し合いが行われていた。

 第4次聖杯戦争。魔術師たちの殺し合いはそう呼ばれていた。

 その聖杯戦争に1人の年若い天才魔術師が参加していた。

「フッフッフッフッフ。ハッハッハッハッハ」

 その男の名はケイネス・エルメロイ・アーチボルトと言った。

 魔術の名門アーチボルト家の⑨代目当主で、魔術の最高峰時計塔で講師を務める天才魔術師である。

 ケイネスは聖杯戦争に必勝を期すべく、今日も研究に余念がなかった。

「なんと危機意識の欠如した国なのだ。このようなゆるい考え方しか持たぬ国家がこの地球上に存在しようとはな。同じ島国でも我が祖国グレート・ブリテンとは大違いだ」

 ケイネスはホテルに備え付けられている大型テレビを見ながら嘲笑の声を発した。

 

『あっかり~~ん』

『は~~い! ゆるゆり♪ はっじまるよ~♪』

 

 テレビの中では女子中学生によるまったり日常系のゆるいアニメが映し出されていた。

「実にぬるい。なんとぬるい国なのだ、この極東の島国はっ!」

 画面には基本的に女子中学生しか出て来ない。男に至ってはこの世界に存在しているのかも怪しい。しかも女子生徒同士でちょっと意識し合っちゃたりもする。そんなアニメが延々と流れている。

 

『あかり……』

『私たちを助ける為に』

『あかりちゃんはいつまでも私たちの心のなかにいます。いつまでもいるんですっ!』

『そうだ。私たちはあかりのことを一生忘れない』

 

『アッカリ~ン』 キラ~ん☆☆

 

 完

 

 影の薄過ぎる主人公の少女が爆発オチに巻き込まれて朝日に散るという感動的なラストで物語は幕を閉じた。

「実に下らない作品だった。だが、この極東の島国の住民たちの特性を知る為にはより細部への研究を怠れない」

 ケイネスはBDを入れ替えて再生スイッチを押そうとした。

「ねえ、ケイネス」

 ケイネスは背後から声を掛けられた。

 振り返れば20代中盤ほどのショートカットの美しい女性が立っていた。

 とても美人だが、一方で気の強そうな顔をしている。

「なんだ、ソラウ?」

 ケイネスは女性の名を呼んで尋ねた。

 このソラウという美女はケイネスの婚約者であった。

 ソラウもまた名門魔術師一家の令嬢であり、彼女自身も一流の魔術師である。

 実際に彼女は今回の聖杯戦争において、ランサーの魔力の補給を担当している。彼女の存在があってこそ、ケイネスは自身の魔力をサーヴァントに振り分けることなく、全てを自身の戦闘の為に費やせるのだった。

 だが、この婚約は単なる両魔術家の政略結婚を意味するものではない。

 ケイネスはソラウを愛していた。

 一目惚れだった。

 いまだソラウには指1本触れる許可を貰っていないが(ソラウ曰く、脳内会議で結論を出すのに最低でも5年程掛かる。尚、本件が可決される可能性は30%に満たない)、ケイネスは並々ならぬ愛情を注いでいた。

 そして、その愛情を注いでいる相手は自分の婚約者。愛情を独占して良い相手。

 ケイネスは自身を世界で一番愛に恵まれている男だと考えている。

 キング・オブ・リア充の称号を自称するべきか真剣に悩んでいる。

 とにかく、ケイネスは女性関係において幸せの絶頂にあった。

 まだ、1度も手を握らせてもらったことはないけれど。

 交換日記をしていたら、この間ソラウの担当分の回をランサーが代筆しているのを見てしまったけれど。

 ケイネスのパンツが同じ洗濯籠に入っているのを見つけて、中にあったソラウの洗濯物を全て豪快に燃やしている場面を目撃してしまったけれど。

 ニコニコに手の込んだケイネスいじめでランキング入りした動画をアップしている瞬間を目撃してしまったけれど。

 だがしかし、そんなリア充王・ケイネスに対して、生涯の伴侶になる予定のソラウは冷めた視線を送っていた。

「ケイネス……何故あなたは女子中学生ばかり出て来るアニメをそんなに何度も繰り返して見ているの? もう、5周目じゃない」

 ソラウは溜め息を吐いた。

「これはアニメを見ているのではない。この島国の住民たちと、この国出身のマスターの特性を知る為にだな……」

「遠坂も間桐も、アインツベルンの雇われ魔術師も、キャスター陣営の所もみんなマスターは男じゃない。女子中学生の生態を理解して何の役に立つの?」

 ソラウが氷柱のように冷たく鋭い視線を突き刺してくる。

 この冷たい視線を受けて、ケイネスはゆるいゆり系アニメの6周目の再生を諦める。

 ケイネスは愛妻家であるので、ソラウのことをとても大事にしていた。決して鬼のような形相のソラウが怖いからなどではない。天才魔術師は寛大なのだ。

「では仕方がない。スポコンアニメと呼ばれるジャンルの低俗作品を見て、男の生態についても余すことなく分析することにしよう」

 ケイネスは1枚のBDを取り出す。そのディスクのジャケットには、ピンク色の髪をした幼い少女がバスケットボールを横に置いて座っていた。

 

『おかえりなさいませご主人様』

『おかえりなさいお兄ちゃん』

『もっと、もっと昴さんに色々なこと、教わりたい。わたしっ、何でもしますから!』

『さてはモッカン。女の子の大切なものをあげるつもりだなぁ!』

 

 その作品の内容はごく普通の熱血バスケットボールアニメだった。ただほんのちょっと、毎回不自然なまでに女子小学生のお風呂シーンや水着シーンが挿入されたり、女子高生がパンチラやブラモロ、全裸を披露しているのがサイドディッシュにあるが、そんなものは副次物。純然たるスポコンアニメに間違いなかった。

「あの主人公の高校生男子の行動パターンと心理を分析すれば、聖杯戦争における私の勝利はより揺ぎ無いものになる。後6周も見続ければ完璧だ。はっはっはっはっは」

 己の勝利を確信し、天才魔術師は高笑いを奏でる。

 だが、そんなケイネスに対してソラウはより一層冷たい眼差しを向けていた。

「どうして女子小学生がやたらエッチな格好をしているアニメを3周も続けて見倒すの?」

「何を言っているんだい、ソラウ? 私はこの作品を通じてこの島国の男たちの特性を理解しようとだな」

「だったら、何で女子小学生たちの入浴シーンでは必ず一時停止して、10分以上画面を眺めるの?」

 一瞬の沈黙が室内を包み込む。

 だが、天才魔術師はこの程度の修羅場でうろたえたりはしない。全ては想定内の質問。

「それはBDの画像とやらが、DVD版に比べてどれほど改善しているのか一つ一つチェックしているからだよ」

 天才魔術師は両手を広げて自らの勤勉ぶりをアピールした。

「DVD版も持っているの?」

「真のファンなら両方持っていて当然っ!……………………おっと、私はただ、学術的な好奇心に惹かれただけでアニメという低俗な作品には欠片も興味がないがな」

 ケイネスは約1分が経った後、後半部分を付け足した。

「BDの出来を確かめるとか言っている割には、主人公の男子高校生のモノローグとか16倍速で聞いていなかったわよね?」

「高速送りでも正確に再生されているかBDレコーダーの性能を確かめていただけだよ」

 ケイネスは目で外の夜景を楽しみながら答えた。

「ケイネスは確かさっき主人公の男子高校生の特性を分析すると言っていたわよね?」

「あ、ああ」

 ケイネスはこのホテルの空調が壊れているのではないかと思った。やたらと額から汗が出て来る。

「じゃあさ、このアニメの主人公の台詞をとりあえず10ぐらい言ってみてよ」

「………………まったく、小学生は最高だぜっ! この台詞に全てが集約されている。故に他の台詞を出す必要などない」

 ケイネスはオールバックに決めた髪を撫でた。

「それがこの国の男性の生態だと言うの? それでこの聖杯戦争に勝てると?」

 ソラウはケイネスの分析結果に怒っているようだった。

 だが、天才魔術師は己の分析に間違いを認める訳にはいかない。何故なら、天才ゆえに間違いがない筈なのだから。

「ああ、そうだ」

 ケイネスはとりあえず力強く頷きながら断言してみた。

「あの魔術の名門の出である遠坂時臣やアインツベルンに雇われた傭兵衛宮切嗣が自分の娘が世界で一番可愛いとネットで書き込むぐらい親バカしていると本気で思っているの?」

「ああ、そうだ。私の分析結果を元にすればそういう結論しか出てこない。奴らは自分の娘の方が世界で一番可愛いと不毛な論争をネット上で繰り広げているに違いない」

 ソラウは眉を上げて苛立ちを表した。

「それじゃあケイネスは、間桐のマスター間桐雁夜が姪に当たる間桐桜と一緒にお風呂に入ったり寝たりしてハァハァしている変態だと言いたいの?」

「間桐雁夜。私が見る限り奴は本物だ。最初は葛藤していても今では喜んで幼女と一緒に入浴し、睡眠を取るだろう。むしろ幼女なしでは生きられない筈。真性の雁夜なら幼女を苦しめる奴らを倒す為だけに戦うに違いない」

 ケイネスは断言した。

「ケイネス、あなたねぇ……っ。これは聖杯戦争なのよ。世界的にも有名な魔術の名門出身のマスターたちが小学生の少女のことばかり考えている訳がないでしょう」

「アインツベルンら名門ばかりでなく、キャスターのマスターに至っては、小学生ばかり誘拐していると聞く。もう否定する余地などどこにもない。この国の男の生態はみんな、“まったく小学生は最高だぜっ!”だっ!!」

 ケイネスは自分の考えに自信を深めた。

「キャスターのマスターは単なる猟奇殺人快楽殺人狂で、他のマスターについてはケイネスの勝手な思い込みでしょうが。聖杯戦争が小学生の少女を中心に回っている訳がないでしょうが」

 ソラウは大きな溜め息を吐いた。

「だが、アインツベルンが召喚したセイバー、あの熟女とまともに交戦しているのは我々だけだ。これは、他のマスターが小学生女子にしか興味を抱いていない明白な証と言えよう。そして私のみが健全なのだっ!」

 ケイネスは完璧な理論立てにより己の健全性を証明してみせた。

「どんなに贔屓目に頑張ってもせいぜい高校生ぐらいの年齢にしか見えない、しかも胸ぺったんこのセイバーを熟女と言い切る時点であなたは健全ではないから安心して」

 ソラウは遠い瞳でケイネスを見た。

「それに、他のマスターがセイバーと交戦しないのは彼女が最強の能力を持っているからでしょう? 自分から危険な橋を渡ろうとしないだけでしょう」

「熟女ババアなど恐れるに足りない。だが、そもそも熟女に興味がないのだ。他のロリコンマスターどもは」

 ケイネスはサラッと反論してみせた。

「ねえ、ケイネスは本当に私のことが好きなの? 私、20歳越えているわよ?」

 ソラウはどうでも良さそうに、視界の隅に鏡を見詰めたまま数日前から動かないイケメン・サーヴァントを見ながら尋ねた。

「ああ、私は君を愛しているよ。……………………君の内側に眠っている本当の君をね」

 ケイネスは後半部分をごく小さな声で付け足した。

「本当の私って?」

 だが、ソラウは聞き取っていた。

「…………マクロスFのクラン・クラン大尉」

 ケイネスは序盤の内は慎重にと心の中で唱えながら答えた。

「あの子、マイクローン化している時は小学生体型だけど、本当はボインボインにグラマラスな大学生よ」

「ブベホヘッ!?」

 ケイネスは激しく吐血した。

 まるでアインツベルンの魔術師に銃で撃たれたような激しい痛みと衝撃だった。

「だが、大丈夫。私は何があろうと君を…………あiしているよ」

 ケイネスは霞む瞳で遠くに自分の婚約者を見た。

 何か大切なものが砕け散ってしまった。

 どう見ても小学生にしか見えないクラン大尉の正体がムチムチボインな大学生。

 ソラウに酷く裏切られたと感じた。

 けれども、ケイネスはソラウと婚約を破棄しようとは思わなかった。

 天才魔術師は婚約者に対して自分だけはどこまでも誠実でありたいと思った。

 天才魔術師は倫理観に溢れていた。

 そして、繰り返すが彼は彼女を愛している。     多分。

「まあ、どうでも良いわ。ケイネスが私をどう思っているかなんて」

 ソラウはイケメン・サーヴァントを視界の中央に捉えながら答える。

「どうやら俺はチャームの魔法に掛かってしまったらしい。鏡の前からまるで動けぬ。イッケメ~ン。フッ」

 イケメン・サーヴァントは数日前から1秒たりとも鏡の前を動かず、彼の主とその婚約者の諍いにまるで気付いていなかった。

 

 

 

 

「ケイネスが自分の性癖を正当化する為に他のマスターをロリコン扱いしたがっていることはよく理解したわ」

 ソラウは大きな、とても大きな溜め息を吐いた

「それは誤解だ。アインツベルンも遠坂も間桐もキャスターのマスターも小学生にしか興味のない変態だ。だが、私は違うっ! その証拠に見るんだこれを!」

 ケイネスは先ほど見ていたBDを掲げた。

「この主人公の影がやたらと薄くてシン・アスカ並の物語は登場人物の大半が中学生だ。小学生しか愛せない狭量で矮小で歪んだ性根の持ち主の輩と一緒にされては困るっ!」

 ケイネスは熱く成年の主張を語った。

「あなたは自分の主張が自分の評価を下げているだけだともう少し自覚したらどうなの?アニメの美少女キャラクターの年齢が小学生か中学生でロリコンの境界線を引こうとしていること自体がドン引きなのよ」

 ソラウはケイネスを虫けら以下のものを見るような瞳で見た。

「これだから三次元のババアは相手にする価値が欠片も見出せない……いや、何でもない。今のはタラちゃんの台詞を何となく引用してみたまでのことで何ら意味はない」

「あなたの知っているタラちゃんは随分と難しい単語を使うのね」

 ソラウはケイネスと知り合ってから感情が豊かになって来たと考えている。

 かつては兄が魔術師を継げなかった場合の代替品として、そして政略結婚の道具として見も知らぬ男の元へ嫁がされる自分に対して何の感情も沸かなかった。

 でも、今は違う。

 この目の前の男に対してだけは、拳が砕けてしまうまで殴ってやりたいと思う強い感情が働いている。

 即ち怒り。

 ソラウはケイネスと知り合ってから初めて喜怒哀楽を身に付けた。

「俺に掛けられたチャームの魔法は一体いつになったら解けるのだ? 一向に解ける気配を見出せない。イッケメ~ン。フッ」

 そして視線を鏡を見詰めたまま動かないイケメン・サーヴァントへと移す。

 ソラウはイケメン・サーヴァントが召喚され、彼を一目見て恋愛感情とは何なのか生まれて初めて知った。

 ソラウ、生まれて初めての恋だった。

 ランサーの為に清い体と心でいようと思った。

 それで手始めにケイネスには指1本触れないようにした。

 元から触れるつもりはなかったが、ランサーが現れてからはその想いをより強くした。

 ソラウは恋する乙女となっていた。

 イケメン・サーヴァントに聖杯戦争の勝利を奉げたい。

 そして、イケメンに褒めて欲しい。見つめて欲しい。愛して欲しい。

 それがソラウの望みだった。

 だから、ソラウはケイネスとは別の理由から聖杯戦争の勝利を望んでいた。

 そんな彼女もまた、聖杯戦争勝利に向けての最善を尽くしている。

「とにかく、今回の聖杯戦争のマスターは全員が男なのよ。男の心理を研究するのが筋ってものでしょうが」

 ソラウは1つのBDを取り出した。

「TIGER&BUNNY。この作品以上に聖杯戦争に勝利する為に研究を重ねるのに相応しい作品はないわっ!」

 ソラウは声を張り上げた。

「TIGER&BUNNY? しかしあの作品はドラゴンキッドと虎徹の娘の楓ちゃんしか見所がなかろう。確かにあの2人は逸材であることは認めるが」

「何を言っているの?」

 ソラウはゴミ以下のものを見るような視線でケイネスを睨む。

「では、ブルーローズのことを言っているのか? だが、あれは駄目だ。世間的にはドSの女王様。その実態は恋心さえ伝えられない内気な少女というギャップ萌えの設定は良い。だが、年齢が高過ぎる。最終話でバツイチ子持ちを落とす方法の本を読んでいるが、本人がそうなのではないかと疑いたくな……ブホベホォベオエッ!?」

 ソラウはケイネスを思い切り殴った。

 魂込めてフルパワーで殴った。

 ケイネスは風に舞う木の葉のようにクルクルと回りながら空を浮遊した。

「まさか、俺の真の宝具がこのチャームの魔法にあったとは思わなかった。フッ」

 イケメン・サーヴァントは己が主の危機を感知しない。真なる宝具を発見してしまった自分に驚愕していた。

 

「どうしてTIGER&BUNNYで少女キャラしか追わないのよ? そんな歪んだ見方、あってはならないのよ」

 ソラウは床に叩き付けられたケイネスの首元をシャツを掴んで締め上げながら低い声を発した。

「では、何を見ろと?」

「バニーちゃんを見るに決まっているでしょうがっ!」

 ソラウはケイネスの頬を引っ叩いた。

「だが、あのような顔だけの優男。己が才能を鼻に掛けるだけで他人を信用することも出来ず被害妄想の塊で、よくよく考えれば最初に登場した時から最終話まであまり成長してないではないか」

「そうね。才能に依存して他人を認められず苦悩を続ける様子なんかはケイネスそっくりかもしれないわね。でも、そこが可愛いんじゃないのっ!」

「フッ。つまり、君はそんな私に惚れている……ビョギョエっ!?」

 ケイネスの左側の頬も真っ赤に腫れ上がった。

「二次元と三次元を一緒にしないっ!」

 ソラウは吼えた。

「バニーちゃんは天才イケメンだけど、その才能を活かしきれない心が子供な所がとても、とても可愛いのよぉ。泣いてしまいそうになるぐらい、可愛いのよぉ」

「やはりソラウは私に惚れてい……ビヒャァエゲゲェ!?」

「だから二次元と三次元の趣味を一緒にしない。私はちゃんとリアルでも好きな人がいるのよっ!」

 ケイネスは両頬が腫れ上がり過ぎていて目がまともに開けず、ソラウが誰を向いたのか見ることが出来なかった。

「イッケメ~ン」

 ただ、相変わらず鏡を見続けているランサーの声だけが聞こえて来た。

 

「バニーちゃんは可愛いの。でもね、おじさんは、おじさんも素敵なの」

 ソラウの瞳には涙が溜まっていく。

「おじさんは年齢もおじさんだし、外見もそんな格好良い訳じゃない。でもね、奥さんに先立たれ楓ちゃんとも離れて暮らさなきゃいけないおじさんの背中が放つ哀愁と、それでも正義の為に命を賭けてヒーローを続けるその熱血ぶりが私の胸を焦がすの。バニーちゃんには出せない大人の色気を感じさせて止まないの。ごめんね、バニーちゃん。私、浮気性な女であなた1人に決められないの」

 ソラウは悔恨の涙を流している。心に決めた1人の男にだけ一途に誠実に生きたい。なのに現実では他の男にもときめいてしまっている自分のふしだらさが憎い。

 何故、二次元ではバニー1人に決められないのか。何故、子持ちの虎徹おじさんにも心惹かれてしまうのか。

「ああ、でも。おじさんに心惹かれているからといっても、折紙くんを無視している訳じゃないのよ。どこかずれた美少年も大好きなのよ。あの間違った日本観が堪らないわ。ずれたと言えばキング・オブ・ヒーローだった天然スカイ・ハイも大好きよ。爽やか金髪好青年なんてもう私のストライクゾーンのど真ん中よぉ!」

「金髪の好青年ならここに……ボアてぃおひおしおあひおはちおっ!?」

 ケイネスは沈んだ。

 その意識は深く夢の世界へと潜って行く。

 

 

 

『私のような優秀な魔術師になると、神さえも私の味方になってしまう』

 ケイネスは天才的な頭の冴えを見せてライダーの戦車を奪った。

『こ奴が天才魔術師ケイネス・エルメロイ・アーチボルトか。ダレイオス王以来の手強い相手になりそうだ』

 言いながらライダーは背中を見せて逃げ出していった。

『魔術の優劣は血統の違いで決まる。これは覆すことができない事実である』

 そして、サーヴァントに逃げられた愚かな教え子ウェイバーのお尻をペンペンしながらケイネスは己が勝利を宣言した。

 

『結界24層、魔力炉3基、猟犬代わりの悪霊、魍魎数十躰、無数のトラップに、廊下の一部は異界化させている空間もある。フハハッハハハハ。お互い存分の秘術を尽くしての競い合いが出来ようというものだ』

 ケイネスは自身が作成した最高の魔術工房にキャスター組を招きいれた。

『おぉ~神よっ! 私如きの未熟な魔術ではかの偉大な天才魔術師ロード・エルメロイには及びませぬ。もう、降伏するしか手がない~~~~っ!』

『やれやれ。降参するしかないね、これは』

 両手を挙げて降参の意を表すキャスターと雨生。

『魔術の優劣は血統の違いで決まる。これは覆すことができない事実である』

 ケイネスは己の勝利を宣言した。

 

『アッサシ~ンよ。お前なんかよりアッカリ~ンの方が100倍可愛い』

『グハッ!』

 アサシンは倒れた。

『そこな人の苦痛にしか喜びを見出せない歪んだ男よ。貴様に愉悦を教えてやろう。これがマーボーだ』

『馬鹿なっ!? この私が食に悦を覚えただと? もう、マーボーなしでは生きられない』

 神父はマーボー神父へとジョブチェンジした。伝説の始まりだった。

『魔術の優劣は血統の違いで決まる。これは覆すことができない事実である』

 ケイネスは己の勝利を宣言した。

 

『間桐のマスターよ。貴様、そんなにその間桐桜が大事か?』

 ケイネスは間桐のマスターとその姪をジッと眺めた。

『当たり前だっ!』

『だがその娘、後10年もすればクスクス笑ってゴーゴーとか、英雄王を食べてもまだ足りないとか言い出して大量虐殺始めるぞ』

『そんなことは俺がさせない! 俺が桜ちゃんを守り抜く』

 間桐のマスターが幼女を抱きしめながら熱く反論した。

『だがその娘、いずれは士郎に奪われるぞ』

『えっ? 士郎くんにわたしが……きゃっ♪』

『ブハァアアアアァっ!?』

 間桐のマスターは倒れた。

『魔術の優劣は血統の違いで決まる。これは覆すことができない事実である』

 ケイネスは己の勝利を宣言した。

 

『ワインは乾くまで転が~す転が~す。イッツ・ダンディ~~』

 遠坂時臣は優雅にワイングラスを転がしている。だが、そんな優雅ぶりを見せ付けられてもケイネスは少しもたじろがない。

『英国貴族……この世界で唯一絶対の優雅さを誇る真の紳士がどれほどトレビアンであるか貴様に見せてやろうっ!』

 ケイネスは己が必殺技を発動させる。

『これが、優雅を極めし者だけが使うことが出来る最強の必殺技……チュー罰だっ!』

『な、何だとぉおおおおぉっ!?』

 時臣のワイングラスが砕け散り、中のワインが飛び散った。

『魔術の優劣は血統の違いで決まる。これは覆すことができない事実である』

 ケイネスは己の勝利を宣言した。

 

『ようやく追い詰めたぞ、アインツベルンの魔術師よ。やはり貴様には誅罰が相応しいようだな』

 ケイネスは最後の敵、セイバーのマスターである衛宮切嗣を追い詰めていた。

 熟女セイバーはケイネスにより既にボコボコにされて正座で反省中であり、切嗣にはもう後がない。だが、それにも関わらず切嗣はまだやせ我慢を続けていた。

 そんな切嗣に対して最後通告を突きつける。

『もはや楽には殺さぬ。肺と心臓だけを治癒で再生しながら、爪先からじっくり切り刻んで やる。悔やみながら、苦しみながら、絶望しながら死んでいけ』

『参りました』

 切嗣は遂に武器を捨て降参の意を表した。

『魔術の優劣は血統の違いで決まる。これは覆すことができない事実である』

 ケイネスは己の勝利を宣言した。

 こうしてケイネスは全てのマスターを倒し聖杯を手に入れたのだった。

 

 めでたしめでたし

 

 

 

「私のバニーちゃんへの愛が本物かどうか視聴して確かめないと」

 ケイネスと知り合ってから喜怒哀楽を知ったソラウはこの極東の島国に来てから知った正座をしてテレビ画面と対峙する。

「バニーちゃんっ! 騙されないでっ! ソイツはあなたの両親を殺した悪人なのよっ! あなたを育ててくれた恩人なんかじゃないわっ!」

 テレビに向かって己の想いを熱く叫ぶ。

「ブルーローズ。テメェ、私のおじさんに色目使ってんじゃねえよ! 女子高生の小娘の分際でぇっ!」

 己の愛がどこまで本物なのか、真剣に問い質しながら。

「ドラゴンキッドっ! まだオムツ取れたばっかりのガキの分際でおじさんを意識してんじゃないわよ! おじさんもバニーちゃんも私のものだっての!」

 ソラウ的な解釈によりこの番組最大の敵である2人の少女に対して熱過ぎるまでに己の愛と正義をぶつける。全身で床に音色を奏でながら。

 と、足が硬いものにぶつかった。

 見ればソラウの足がケイネスの頭を踏んづけていた。

「嫌ぁああああああぁ。ケイネスに足の裏をキスされたぁああああああぁっ!!」

 乙女な悲鳴を上げるソラウ。

「ランサーっ! これは決して浮気ではないのよ。嫌がる私がケイネスに無理矢理キスされてしまっただけのことで。信じて頂戴っ!」

 両手を組んで涙ながらに訴えるソラウ。

 その視線の先では──

「俺の不幸はグリーン・リバー・ライトな声を持ってしまったこと。二枚目美形クールキャラ以外に自分を動かすことができない。フッ。哀れなものだな。イッケメ~ン」

 イケメン・サーヴァントが相変わらずチャームの魔法に掛かりっ放しで鏡ばかりを見つめていた。

「スカルプっ!」

 ソラウはケイネスに習った魔術を使用してみせた。

 水銀で出来たボール状の物体がソラウの元にやって来た。これこそがケイネスが編み出した絶対の防壁魔術。

 高高度からの落下にも、鉄砲や大砲の弾でさえ弾き返す最強の盾、スカルプだった。

「この邪魔な男を廊下に捨ててきて」

 水銀は形を器用に変えてカートのような形になると、音もなくケイネスを上に乗せて扉の外へと出て行った。

結界24層、魔力炉3基、猟犬代わりの悪霊、魍魎数十躰、無数のトラップに、廊下の一部は異界化させている空間もある部屋の外へと。

「ニンフ先~輩っ!! 何か変な所に入り込んじゃいましたぁ。お、お、お化けが近寄ってきて……いや、やめて! 来ないで……うわらばぁあああああぁっ!!」

 魑魅魍魎たちのうごめく声が聞こえてくる。

それからしばらくして部屋の音から爆発音が聞こえた。

「爆発オチなんて最低ぇ~~~~っ!!」

 続いて間髪入れずに幼女の非難の声が聞こえて来た。

 だが、そんなものはソラウの耳には入らなかった。

 

『ハーイ! タイガー&バニーの同じ眼鏡を5つ持ってるほう、バーナビーです!』

 

「バニーちゃん……やっぱり可愛い♪」

 

『ど~も! タイガー&バニーの新聞は広告から目を通すほう、虎徹です!』

 

「おじさん……ワイルドで素敵♪」

 恋する乙女で複数の男への想いへ揺れ動いていたのだから。

 ケイネスなんて眼中に入る訳がない。

「フッ。どうやらこの世界で俺が最も恐れているのはギャグキャラとして扱われ、この美貌が崩れて世界中の女性たちがその顔を涙に塗らしてしまうことらしい。フッ。イッケメ~ン」

 イケメン・サーヴァントは全世界の女性たちの安寧を守る為に必死に戦っていた。

 ケイネスなんて眼中に入る訳がない。

 

 今日もケイネス先生陣営は平和だった。

 

 了

 

 


 
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