No.295968

アタシの心をかき乱しやがる美樹さやか 前編

pixivより転載。
杏子さんが頑張るお話です。
上条恭介くんに頼ったネタ構成ですね。


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2011-09-08 21:43:25 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:9347   閲覧ユーザー数:1838

【9/30まで!】彼女たちのイラスト、描いてみませんか? イベントイラストコンペ投稿サイトOLFAシークレットラボ

アタシの心をかき乱しやがる美樹さやか

 

 

1 アタシの心をかき乱しやがる美樹さやか

 

「この見滝原という街に来てからどうにも面白くねえ。いや、気分が落ち着かねえ」

 それがアタシ、佐倉杏子の昨今の状態に対する総評。

 何故面白くないのか。その原因はアタシにもわかってはいる。

「アイツがアタシの心をかき乱しやがる」

 それはこの見滝原に美樹さやかの存在があるからだった。

 

 アタシはこれまで多くの街で色々なタイプの魔法少女を見てきた。

 その中には良いヤツもいた。それ以上に悪いヤツもたくさんいた。

 強いヤツもいた。それ以上に弱くて使い物にならないヤツが大部分だった。

 じゃあ、美樹さやかはどう分類できるのか。

「アイツは……美樹さやかは、むかつくヤツだ」

 そう区分できる。

 昔のバカだったアタシを見ているようでイライラしてくる。

 

 さやかはバカだ。

 たった一つしか叶えられない大切な願い事を他人の為に使っちまいやがった。

 しかも惚れた男の手の怪我を治したいなんていうつまらない使い方を。

 そんなつまらない願いの為にアイツは死ぬまで魔女と戦わなくちゃいけない羽目になっちまった。

 それがキュゥべえと契約して魔法少女になるということ、

「せめて好きな男と一生結ばれたいぐらいのことを言ってみろっての」

 ホント、さやかはバカすぎる。自分の命とその価値を無碍にし過ぎている、ぜ。

 そしてアイツのバカは魔法少女になった後も続いている。

「アイツは死ぬ為に戦ってやがる」

 アタシにはそうとしか思えないほど無茶な戦い方ばかりをさやかは繰り返している。

 一言で述べればさやかには魔法少女としての才能がない。はっきり言えばアイツはかなり弱い方の部類に入っている。

 でも、だったら引っ込んでいれば良い。幸いにしてこの街にはアタシがいる。暁美ほむほむと巴マミという強い魔法少女もいる。

 だからさやかが魔女と戦う必要はない。自室で布団かぶって震えててくれりゃあいい。魔女なんか知らないフリをして日常生活を送ってくれりゃあいい。

 いや、むしろそうしてくれれば、アタシたちの仕事が邪魔されることはねえ。さやかだって長生きすることができるからまさに一石二鳥。

 なのにアイツは戦場に現れる。

 そして『他人の為だけに魔法を使う』なんていう今のアタシとは相容れない信念の下、真正面から敵に斬り掛かるなんていう無謀極まりない戦い方をずっとしやがる。

 高い治癒魔法を背景にしたそれはあまりにも魔力の消耗が激しすぎる。

 ソウルジェムなんてすぐに濁っちまう。

 にも関わらずアイツは、勝利して得たグリーフシードを使いもせずに捨てちまう。

 おかげでさやかのソウルジェムは穢れを含む一方。けれどさやかはそれでも意地になって魔法を自分の為に使うつもりがないらしい。

 そう。さやかは意地になってやがる。ここまで来ると信念の問題じゃなくてただの意固地だ。

 

 さやかは一切の見返りを求めずに惚れた男の為に自分の人生と引き換えの大事な願い事を使った。

 アイツは自分ではそう考えていた。

 けど、そんな高尚な理念に反して人間はそんな簡単に聖人君子になれるもんじゃない。

 心の奥底ではアイツも見返りを求めていた。

 さやかはそれに気付かなかっただけ。気付こうとしなかっただけ。

「願いは徹頭徹尾自分の為に使わねえと、結局誰も幸せになんかならねえんだよ」

惚れた男とはさやかが奇跡を願った後もまるで進展がないらしい。

 でも少し考えてみればそりゃあそうだ。

 男にしてみれば手が動くようになったのはただの奇跡。その奇跡のどこにもさやかは関連して来ない。さやかを愛しく思う理由も恩人とありがたがる必然性もどこにもない。

 むしろ諦めていた以前の生活が送れるようになるのだから、さやかに対する想いの比重が下がってしまうことだって十分にあり得たんだ。

 けれど、現実はアイツを二重に傷つけた。

 1つは、さやかが心の奥底で願っていた惚れた男からの愛情が得られなかったこと。それは恋する乙女にとっては何より耐え難い苦痛。

 そしてもう1つは、自分の願いに利己的な面が含まれていたことに気付いてしまったこと。自分自身が大嫌いな利己的な魔法少女であることを思い知らされてしまったこと。

 その2つの要素がさやかを意固地に追いやっているのは間違いなかった。

「自業自得の人生とはいえ、あんまりつまらねえ生き方選んでんじゃねえぞ……」

 舌打ちが漏れ出る。

 他人の為に生きようとして自分が他人によって潰れるなんてホントつまんねえ人生。

 昔のアタシそのもののようなつまんねえ人生。

 

 昔のアタシはもの凄くバカだった。

 『みんなが親父の話を真面目に聞いてくれますように』なんて願いに自分の人生を売っちまった。

 せめて親父を億万長者にしろとか、教団のトップに据えろとかにしとけばアタシだって家族だって幸せになれたはずだった。

 もっともっと自分の欲を前面に押し出していればその後の不幸は起きないで済んだ。

 けれどアタシは魔法少女になった当初、親父の為に願い事を使った自分を心の中で誇らしく思っていたし、他人の為に戦う自分を格好良いと考えていた。

 でも結果として大きな善意と小さな利己心がとてつもなく大きな不幸を呼び込んだ。

 ホント、バカだった。

 

 親父は教団の教義に含まれない筋肉の話をして本部や信徒に見捨てられた。

 そしてアタシの祈りにより今度は筋肉の話で教会を再興させた。多くの信徒が親父の筋肉話を聞きに教会に集まって来た。

 多くの寄付金が集まり、食う物にも事欠いていたアタシの家はたちまち裕福になった。

 そこまでは良かった。

 けれど、そこから先は悪夢の連続だった。

 ある日、アタシが魔法少女であることが親父にばれた。

 魔法少女ルック(昔のアタシはフリフリドレスで魔法のステッキを振って戦っていた)のアタシを見て親父は激しく罵倒した。

『お前のような存在がいるから、今の若者はアニメばっかり見て筋肉を鍛えなくなったんだっ! このおジャ魔女めっ! 2人でなくてもプリキュアめっ! 時空管理局の白い悪魔めぇえええええぇっ!』

 親父は魔法少女を腹の底から嫌悪していた。筋肉の妨げと考えていた。

 その割にはやたら詳しいのが気になったんだが。

『魔法少女より筋肉が素晴らしいことを私が世に知らしめてやる。萌えより燃えなんだ!』

 そして親父は狂ったように体を鍛え始めた。明けても暮れても筋トレばかり繰り返す日々。そして親父は……違法な筋肉増強剤に手を出して警察に捕まった。

 親父を警察に通報したのは母さんだった。母さんは筋肉が嫌いで華奢が大好きだった。

 そして母さんは妹を連れてアタシの同級生と駆け落ちした。アタシがちょっと気になっていたアイツと手を取り合って逃げた……。

 そんなこんなでアタシは学校にも街にもいられなくなり放浪の旅に出ることになった。

 近所のおばさんたちが、クラスメイトがアタシを見ながらヒソヒソ話をしているのに耐えられなかった。

 親父の為の祈りのはずが、一家離散の結果を引き起こした。

 

 そんな経緯があってアタシは『魔法は自分の為だけに使う』と決めた。

 だからアタシはさやかみたいに他人の為にと言っているヤツを見ているとイライラする。

 否定した過去のアタシを見ているみたいで腹が立って仕方がない。

 けれど、さやかがこのまま潰れてしまうのはもっと嫌だ。

 過去のアタシの全てを否定してしまうようで嫌だ。

 アタシは過去の自分を否定している。

 けれど100%の全否定をしきれているワケでもない。

 自分の人生全てを否定したいヤツなんてそう多くないだろう。

 そんな例に漏れずどこかで過去の自分を肯定したいと思っているアタシがいる。

 さやかを見ていると肯定したいアタシが大きくなっていく。

 矛盾したアタシがどんどん育っている。

 だから、面白くねえし落ち着かねえ。

 さやかをバカだと思う反面、応援したいとも考え始めちまっているアタシがいる。

 さやかをアタシのように賢くずるく生きさせたい反面、愚直だけど綺麗な過去の自分に戻りたいとさえ思い始めているアタシがいる。

 ホント、ワケわかんねえ自分が存在している。

「何でアタシはこんなにもさやかのことを気にしてんだよ……?」

 一時滞在する予定しかない街でたまたま知り合いになっちまったバカ正直な魔法少女。

 無視することだってできるはずなのに。

 

『私はね、ただ魔女と戦うだけじゃなくて、大切な人を守る為にこの力を望んだの』

 

 アタシとの決戦を前にしたさやかの凛々しい顔が思い浮かんだ。

「なっ!?」

 ちょっ、ちょっと待て!?

 今、アイツのイメージのバックに花が咲き乱れていなかったか?

 しかもよりによって百合かよっ!?

 そして何でアタシの頬はすげえ熱を持ってるんだよ!?

 顔なんか真っ赤になってんじゃねえか?

 でも、だって、そんなのは絶対におかしいだろ?

「アタシは女なんだぞ?」

 何で女のアタシが、女のさやかを思い浮かべて顔を真っ赤にして取り乱してんだよ?

 だって、そんなのはまるで……。

「アタシはノーマルだぁあああああああぁっ!」

 一瞬思い浮かんだその単語を大声で叫びながら打ち消す。

 いや、だってあり得ないだろ?

 だって、アタシがさやかを……だなんて。

「チッ。アタシの頭がおかしくなり掛けているのも、さやかがいつまでも意中の男とくっ付かねえからイライラが溜まっているに違いねえ」

 そう言えば昔のアタシはメロドラマとかラブストーリーとかが大好きな恋に憧れる乙女だった。

 その影響がいまだに残っていて、惚れたはれたの物語を渇望しているに違いねえ。それでアタシにおかしな概念を植えつけてやがるんだ。

「よし、アタシはアタシの為にさやかとその惚れた男の仲を取り持ってやろうじゃねえか」

 アタシは自分の為にしか動く気はない。

 だから、壊れ掛けちまっている自分の頭を治す為にさやかを炊き付けることにした。

 

 

2 りんご齧ると歯茎から血が出ねえか?

 

 で、さやかが下校時に通る見滝原中学校付近の遊歩道まで来てみたわけだが……。

「何て言って声を掛けりゃいいんだ?」

 アタシはさやかに声を掛けることができないでいた。

 いや、だって考えてみればよ、『アタシがさやかと意中の男の仲を取り持ってやるぜ』なんて言って近付くのはおかしいだろ?

 どう考えてもアタシのキャラじゃねえし。

 じゃあ、他の口上を述べながら近寄ってみるか?

『りんご齧ると歯茎から血が出ねえか?』

 おっ、これならアタシっぽくね?

 造花のバイトを一生懸命頑張って稼いだ金で買った手元のりんごをじっと見る。

 これをさやかにポイッと投げてやりながら『歯茎齧ると血が出ねえか?』といやらしい含み笑いを浮かべて興味を惹き付ける。

 これならクールでニヒルなアタシっぽくていいんじゃね?

 よしっ、それでいこう。

 

「ねえねえ、あんこ」

「アタシを美味しそうな名前で呼ぶな。今忙しいんだよ」

 まったく、誰だか知らないけれどうるせえな。

 思わず生唾飲んじまったじゃねえか。

「じゃあ、あんずっち」

「だから食べ物の名で呼ぶな。涎が出ちゃうじゃねえか」

 昔貧乏だった頃、縁日のあんず飴が欲しくて仕方がなかったことを思い出しちまった。

 泣いてなんか……ないさ。

「そんなこと言ってわたしに食べて欲しいんだろ、杏子は? フフフ」

「なっ!? なっ、何を言ってやがるんだ、さやかはよっ!?」

 って、横にいるのはさやか!?

 いつの間にアタシの元へ!?

 もしやコイツ忍者なのか!? 忍者なんだな?

 忍法習いてえ。ニンニンだってよって言いながら消えたり分身したりしてぇ。

 いや、それよりもアタシがさやかに食べて欲しいって……。

 ちょっ、まさかそれって!

 さやかもアタシのことをってかっ!?

 もしかしてアタシたちは既に両想──

「りんごを」

「……お前になんかぜってぇ食べさせてやんねえからなっ!」

 美樹さやかはアタシのストレスの種だって思い出した。

 

「で、わたしを探していたようだけど、何の用?」

 いきなり話の主導権を取られちまった。

 まあ仕方ねえか。

 早速だが本題に入ることにする。

「さやかは、あの坊ちゃんの手の怪我を治す為にキュゥべえと契約したんだよな?」

 そう言えばさやかが熱を上げている男の名前を知らねえな。

「うん。そうさ。わたしは恭介の怪我を治す為に魔法少女になった。またそれをバカにするつもりなの?」

 さやかが怪訝な瞳でアタシを見ている。まあ、それも無理はない。

アタシはさやかと初めて会った時、その選択と考え方をいきなり全否定しちまったのだから。

「そんなんじゃねえよ」

「じゃあ、何だって言うのさ?」

 おっ。さやかが食いついてきやがった。ラッキー。

 よし、この機を逃さずに一気に本題に入るか。

「アタシがさやかとその男をくっ付けてやろうってのよ」

 ニッヒッヒと意地悪く笑いながらさやかの様子を見る。

 さて、さやかはどう反応するか?

 

「わっ、わっ、わたしが恭介のことを好きなわけがないじゃないのさぁあああぁっ!?」

 すげえ。予想以上のテンパリっぷりだ。

「へぇ。さやかの好きな男は恭介って名前なんだ」

「わっ、わっ、わたしは上条恭介14歳。身長168cm、体重52kg、スリーサイズは上から××、××、××。信条は学校のトイレでは右から2番目にしか入らないこと。好きな紅茶はリトルグレイのことなんか全然好きじゃないってばぁっ!」

「男のスリーサイズを知っているのはかなりキモいぞ」

 犯罪の臭いがしやがる。そしてツッコミどころは他にも満載だがここは敢えて無視する。

「だって、好きな子にはクロロホルムをかがせて寝かせてから服を脱がせてスリーサイズを測るのが乙女の正しいあり方だって転校生が言っていたから……」

「……やっぱり好きなんじゃねえか」

 言いたいことは色々ある。が、今は最も重要な部分だけを切り取って答える。

 

「ああ~っ! わたしが恭介のことを好きなのがポッキー女にばれちゃったよぉ~っ!」

「何が何でもアタシを食べ物に結び付けようとするなぁっ!」

 涎まみれのアタシの絶叫が人工河川の水面を揺らす。

 それにしてもさやかのヤツ、やっぱり恭介のことが好きなのかよ。

 チッ、何か面白くねえな。

 何で面白くねえのかは、考えるとよりイライラしそうなので考えない。

 とにかく、今はこの苛立ちをどうにかしねえと。

「おいっ、りんご食え」

「はぁっ? アンタ突然何を言ってんの? さっきくれないって」

「いいから食え。気が変わったんだよ」

 さやかに無理やりりんごを押し付けて、アタシもガブッと齧り付いてみる。

「グッ……血が出たじゃねえかぁ」

 歯茎から血が出た。

 ついでに歯も少し欠けた。

 りんごやべぇ。りんご強えよ。魔女よりりんごの方が遥かに強ぇ。口の痛みでアタシはもう少しで円環の理に導かれそうになったぜ。

 

「それで、あたしと恭介をくっ付けるって具体的にはどうするのさ?」

「何でそんな期待に満ち満ちた瞳でアタシを見てんだよ?」

 さやかの瞳が輝いている。

 そういや、具体的にどうやってさやかと恭介って男をくっ付けるか考えてなかったな。

 いや、それよりも。

「お前、他人の為に戦って生きるって決めたんじゃないのか?」

「確かにわたしは自分の為に魔法を使う気はない。けれど、他人がわたしの為に魔法を使う分には全然問題なしっ!」

 白い歯を零しながら親指を立てて見せるさやか。

「意外といい性格してんな、お前」

 溜め息が漏れる。

「でっ、具体的にはどうするの? わたしは別に恭介と添い遂げるなんてどうでも良いんだけど、杏子がそこまで言うんなら仕方ないなあ。あっはっはっは」

 やっぱり人間は自分の為だけに動くもんじゃねえか?

 改めてそんなことを思う。

 でもまあ、今アタシがするべきことは……。

「とりあえずその恭介ってヤツを見に行こうぜ。アタシはそいつのことを全然知らないから現状じゃコーディネートのしようがねえ」

 魔女との戦いと同じでまずは情報収集から始めることにした。

 

 

 

3 上条きょーすけってこんなヤツだったのかよ?

 

 さやかの話によると、上条恭介は見滝原で一番大きな病院に入院しているらしい。

 さやかもどうせなら恭介の手だけを治すのじゃなくて、体を全快にすることを願えば良かったものをホントに不器用なヤツだ。

「で、恭介はどこに入院してんだ?」

「あの部屋」

 さやかの指先はかなり高い階を指していた。

「しゃあねえ。木に登って覗くか」

 恭介という人物を見極めるのに正面から尋ねるわけにもいかない。

 私たちは手近な木に登って恭介の病室を外から覗くことにした。

 

「あれが恭介か。……随分線の細いお坊ちゃまって感じの男だな」

 窓枠に肘をついて黄昏ているさやかの想い人を見てのアタシの第一印象がそれだった。

「さやかは如何にも体育会系って感じだから好きな男もてっきり……」

 アタシのオヤジみたいなマッスルボディーかと思っていた。筋肉が服着て、いやパンツだけ穿いて歩いているのだとばっかり。

「人は自分にないものに憧れるのっ!」

「大声出すな。恭介にアタシたちの存在がばれる」

 怒り出したさやかの口を慌てて塞ぐ。

 幸いにして恭介はアタシたちに気付いていないようだった。

 その恭介は空を見上げたまま歌い出した。

「ある晴れた~昼下がり~ いちばへ続く道~ 荷馬車がゴトゴト 子牛を乗せてゆく~ かわいい子牛~ 売られて行くよ」

「なあアイツ、暗い顔して暗い声でドナドナ歌い始めたぞ?」

「恭介は音楽家だから歌が好きなの!」

 いや、問題は歌っていることじゃなくて選曲だろ。何でそんな欝になりそうな曲を病室で歌ってやがるんだ?

「お父さ~ん お父さ~ん 魔王に連れて行かれるよ~ 魔王が僕を引っ張っていくよ~」

「なあ、今度はシューベルトの魔王を鬼気迫った表情で歌い始めたぞ?」

「恭介は天才バイオリニストだからクラシックの教養が抱負なのっ!」

「いや、だから教養の問題じゃなくて選曲の問題がだな……」

 何で恭介はあんな暗い曲ばかり選んで歌ってんだ?

 

 まだ観察し始めたばかりだが、アタシには恭介のどこが良いのかまるでわからねえ。

 そんなアタシの雰囲気を察したのかさやかの方が恭介の説明を始めた。

「恭介はね、凄いんだよ」

「何が凄いんだよ? アタシにはただのイジけたお坊ちゃんにしか見えねえが」

 まあ、顔は悪くねえかもしれねえけど。

「上条さんはね、他人の夢想を重い言葉と態度と涙でブチ殺してくれるイマジンブレーカー(幻想殺し)の持ち主として小学生の時から有名なんだからっ!」

「ただイジけてんじゃなくて、凄えイジけてんだな」

 熱く語るさやかの横でアタシは冷や汗が止まらない。

「そのせいで恭介は昔から友達が全然いないの!」

「そんな男のどこが良いのかアタシにはさっぱりわからねえんだけど?」

 多分そう思うのはアタシだけじゃないはず。

「何を言ってるの? 恭介は独りぼっち。だからこそあたしが必要なのよ! 恭介にはあたしが付いていてあげなきゃいけないのよっ!」

 さやかは力強く胸を叩いた。

「さやか……それは落ちていく女の典型的な思考方法だぞ」

 さやかが他人の為に大事な願い事を使ってしまった理由が少しだけわかった気がした。

 コイツ、破滅型の願望を元から抱えてやがる。

「それにね、恭介は凄く妹想いなんだから!」

「そうか……上条には妹がいるのか……」

 妹と聞くとどうしてもセンチになってしまうアタシがいる。

 母さんに連れられて出て行ってしまった妹は元気にしているだろうか?

 ていうか妹よ。母さんに連れられていく前にアタシにも一声掛けろよな。

「京介はね、妹の為にエロゲー所持の冤罪をかぶったり、喧嘩の仲裁の為に妹の親友に嫌われたり、アニメ製作会社まで乗り込んで土下座したり、深夜の秋葉原にエロゲー買いに行ったり、アメリカまで妹を連れ戻しに行ったり凄いんだから!」

「なあ、さっきから別人の話をしているように聞こえるのは気のせいか?」

 なんかさっきから“上条”“きょーすけ”違いな気がしてならない。

 

「とにかくあたしはね、あらゆる負の部分に目を瞑って恭介のことが大好きなのっ!」

 さやかの瞳はとてもキラキラしていた。

 いわゆる恋する乙女の瞳ってやつだな、こりゃ。

 一般に恋する乙女はこの国で最も綺麗な存在とされている。良いものとされている。

 けれど、アタシにはさやかが面白くねえ。すっげぇ面白くねえ。

「アタシにはあらゆる負の部分に目を瞑ったら恭介の存在全てがかき消されてしまいそうなんだが?」

 口を尖らせて不満を漏らす。

 あんな男のどこが良いんだか?

 アタシの方がよっぽど……いや、何でもねえ。

「で、あたしはどうすれば良いの?」

 だからそんな瞳を輝かしながらアタシに聞くなっての。

 でも、まあこんなにわかり易く惚れているなら話は簡単だ。

「アイツはどう聞いても女心に敏感じゃなさそうだ。だったらまっ正面から告白するしかねえだろ」

 鹿目まどかから聞いた話だと、さやかはあの恭介に毎日のように見舞いに出向き、CDなんかもよく貢いでいるらしい。

 しかしそれでも進展がないのだから全く脈がないのかよほどの鈍感ということになる。

 アタシとしては前者のような気がしてならない。が、それだと恋愛コネクターにならない。だからとりあえず後者に沿った作戦、というか玉砕戦法を提示してみた。

 

「あっ、あっ、あたしが恭介に告白するのぉおおおぉっ!?」

「恭介から告白されるのを待っていたら婆さんになっちまうぞ」

 さやかは体を震わせてビビッている。魔女との無謀な戦い方をしている時が嘘のよう。

「だって、女の子の方から告白なんてっ! それって絶対おかしいよぉっ!」

「女は度胸だろ」

「真っ白いウエディングドレスを着て、ブーケと婚姻届持って『上条さやかにしてください』なんて上目遣いで言えるわけがないよぉおおおぉっ!」

「それがお前の考える愛の告白なのかよっ!?」

 普通の男女交際も、結婚を前提とした男女交際も吹っ飛ばしていきなり結婚を迫るのがコイツの告白なのか?

「だったら、2人目の子供の名前は女の子ならさ恭か、男の子だったらや介がいいって上目遣いで尋ねれば良いの?」

「告白する前にもう1人目が生まれてんのかよ!? っていうか、ネーミングセンスがなさすぎるぞっ!」

 さやかのネーミングセンスに任せたら将来絶対に子供がグレる。

「じゃあ、どう言えば良いのさ? あたしにはもう他に告白の言葉なんてこれ以上思いつかないよ」

「普通に『好きです。付き合ってください』と言えば良いだろうが」

「なるほど」

 さやかは姿勢を正してアタシを正面から見た。そして、上半身を屈ませて上目遣いで両手の指を組みながら言った。

「好きです。付き合ってください」

「………………なぁっ!?」

 さやかの告白を聞いてアタシの時が止まる。

「これで、いいのかな?」

 さやかは首を捻った。

「さやか、オランダに移民しよう。アタシたちの戦いの舞台にこの日本は狭すぎる!」

 10秒後、ようやく時が動き出したアタシはさやかの手を握りながらそう言い返すのがやっとだった。

「何でオランダ?」

「オランダじゃなければ、ベルギーでもスペインでも、ノルウェーでもスウェーデンでもカナダでもマサチューセッツ州でも良いさ」

 移民先に特に深い意味はない。

 けれど、アタシならさやかを一生養っていく程度の稼ぎ能力はあるはず。

 アタシの造花製造能力は世界一だ。

「だけどこんな言葉、恭介に向かって絶対に言えるわけがないよ……」

「言わなくて良いさ」

「へっ?」

 キョトンとした表情を浮かべるさやか。

 とにかく、恭介の野郎がさやかに相応しい男なのかもっと見極めねえとな。アタシが認めない限りさやかはやれねえ。

 恭介め、さやかが欲しければアタシを倒してから言えっての。いつでも殺すつもりで相手になってやるぜ。

 

 

 

4 恋敵ワカメと用心棒魔法少女

 

 アタシたちが窓の外で騒いでいると恭介の病室に見舞い客がやって来た。

「こんにちは。お体の具合は如何ですか、上条くん?」

 入って来たのは、如何にもお嬢様っぽい柔らかい物腰をした、ワカメみたいな長い緑色の髪をした少女だった。さやかと同じ見滝原中学校の制服を着ておりかなりの美人だ。

「一体アイツは誰なんだ?」

 さやかの袖を引っ張りながら訊いてみる。

「何で、仁美が? 今まであたしが誘ってもほとんど一緒に来たことがなかったのに……」

 さやかは仁美と呼んだ少女を見ながら酷く動揺していた。アタシたちの乗っている枝がさやかの震えで大きく揺れている。

「仁美ってのは何者なんだよ?」

「志筑仁美はあたしの親友でクラスメイトで、お金持ちのお嬢様で、学校で男子から一番人気があって、性格が良くて、恋のライバルになられたら絶対に敵いっこない存在……」

「つまり、さやかにとって最悪な魔女になりうる存在なわけだな」

 聞いてみれば、さやかの動揺がアタシにもよくわかった。

 入院中の男子クラスメイトを1人で見舞いに来る女子は普通いない。いるとすれば、それは2人が何らか特別な関係にあると見るべきだ。

「ひっ、ひっ、ひっ、仁美。何しに来たんだろ?」

 さやかもそれがわかっているから声が震えている。

 

「愛と~勇気だけが~友達さ~」

 恭介は仁美が入って来てもまるで関心を示さない。その様子を見るにどうやら2人は恋人ではないらしい。

「上条くん。私を見てください」

 仁美は窓の外を向いて歌い続ける恭介の顔を自分の方へと向け直させた。

 札束で恭介の頬を叩いて首の位置を変えながら。

「おいっ! アイツ今、漫画の中でしか見られないすげぇ行為をリアルにしやがったぞ!」

「仁美は上流階級なんだから札束で叩くぐらい日常の振る舞いなの」

 さやかは冷めた瞳でアタシを見ている。そんな一般常識も知らない大バカなんだねって目で。

「おかしいのはアタシの方なのかよ……畜生っ、貧乏が憎いぜ……」

 見滝原はブルジョワが多くてやっぱり嫌いだ。マルクスは、マルクスはどこにいるんだよ……。

「ああっ、志筑さんか。何の用?」

 恭介は頬が腫れ上がるほど札束で叩かれてようやく仁美の存在に気付いた。

 にしても、恭介のヤツ。わざわざ女の子が見舞いに来てくれたんだからもっと嬉しそうにしても良いのに冷淡なヤツだな。

 さやかも仁美もこんなヤツのどこが良いのだか?

 

「上条くんは、上条仁美って名前をどう思います? もしくは志筑恭介という名前は?」

「って、この街の女の告白はみんなそうなのかっ!?」

 いきなり結婚から迫るのが見滝原の常識なのか?

頭が逝かれているとしか思えねえ。

「両方とも運勢最悪そうな酷い名前だね。で、それがどうかしたの?」

「……いえ、別に」

 仁美は俯いて黙った。

「仁美、そこはもっと怒っていいはずだ。いや、むしろ今こそ札束で叩け。そして、さすがはイマジンブレーカーの持ち主。乙女の幻想を簡単にブチ殺しやがる」

 最低だ、上条。

「やっ、やっぱり、仁美は恭介のことを好きなんだ……」

「まっ、待てっ! まだそうと決まったワケじゃねえだろ」

 どう考えてもその通りだが、さやかを刺激しすぎると何をするかわからねえ。

「えっと、じゃあ、上条くん、3人目の子供の名前は介美でよろしいでしょうか?」

「だから付き合ってもねえのに既に2人目まで生まれてんのかよ! こんなのぜってえおかしいぞぉっ!」

 わからねえ。見滝原の女がわからねえ。

「やっぱり仁美はあたしの恋のライバルなんだぁっ! お、おっ、オクタヴィ~ア~っ!」

「待てっ! 何だかわからないけれど、とりあえず落ち着け。そしてオクタヴィアはやめとけ!」

 さやかの後ろに一瞬、歪な人魚姫の姿が見えたような気がした。

新手のスタンドかよ?

「大丈夫っ! さやかは仁美に負けないさ」

 肩を掴みながらさやかを励ましてみる。

「本当?」

「ああ………………………多分」

 さやかから目を逸らすしかねえ。

 あのお嬢はかなりの強敵だ。

 

「よしっ。アタシたちも病室に乗り込んで仁美の恭介独占を止めるしかねえな」

 このまま話を聞いているとさやかはますます落ち込んでしまいそうだった。

 下手をすれば人間やめて別の何かに変貌するか、『この世に守る価値なんてあるのかな?』とか呟きながらウザいホストとか刺し殺してしまいそうだ。

「えっ、でも、今日は様子見だけのはずだったんじゃ?」

「柔軟な発想と臨機応変な行動は魔法少女として最も必要な素養だ。仁美に恭介を取られたくなかったら、さっさと行くぞ」

 アタシがさやかの手を引っ張ったその時だった。

「……ザ・ワールド」

「ティロ・フィナーレ♪」

 声が聞こえたと思ったら、アタシとさやかの顔の間に突如猛烈な空気の渦が吹き荒れた。

「きゃっ!?」

「な、何だよこれは!?」

 何が起きたのかアタシたちには理解できない。

 吹き荒れる空気の振動で枝から落ちないようにバランスを取るのが精一杯だった。

 だが、アタシたちを襲う悪意はそれだけに留まらなかった。

 空気の振動のそのすぐ後にアタシたちの後方で爆発が起き、爆風が襲って来た。

「きゃぁあああああぁっ!」

「さやかっ、アタシの手に捕まれぇええぇっ!」

 左手で幹を掴みながら右手でさやかを掴む。

 寸での所で墜落死なんて間が抜けた最期を迎えるのを回避した。

「一体、何が起きたっていうの?」

「アタシにもわからねえ。けど、こんなトリッキーな攻撃をしそうなヤツと言えば……」

 病室の中を睨みつける。すると、いた。

「やっぱり暁美ほむほむと巴マミの仕業だな」

 サングラスを掛けて正体を隠しているつもりらしい2人の魔法少女の姿が。

 

 

 巴マミと暁美ほむほむはこの街を縄張りとする恐ろしく強く、そして変態な魔法少女だ。

 マミは長年この街に君臨し続けて来た魔法少女。直接会ったことはなかったけどその名前は色々な街で耳にして来た。

 曰く、中3のくせに既にFカップの持ち主だとか、詩人としての才能が卓越し過ぎているとか。アタシも本物を初めて目にした時は驚いたもんだった。あの胸は敵だ。そしてあの厨二的センスに溢れた言動は今すぐにでもラノベ界の巨頭になれそうなほど。

 そして魔法少女としての実力もアタシ以上ときている。

 マミは銃器やリボンを魔力召喚して武器として扱い、ティロ・フィナーレとティロ・フィナーレ(物理)という2つの必殺技を有している。

 特にティロ・フィナーレ(物理)は危険だ。

 以前、シャルロッテという魔女がマミを追い詰めたことがあった。その危機に現れたのがテンガロンハットの紳士、通称マミさんが好きすぎる人だった。小麦色のほぼ全裸の紳士はティロ・フィナーレ(物理)で一撃の元にシャルロッテとキュゥべえを葬り去った。

 それ以来、巴マミは相手にするなというのが魔法少女と魔女の間で共通の合言葉になっている。

 

 だが、アタシに言わせればその巴マミ以上に危険なのが暁美ほむほむだ。

 まどかの話に拠れば、ほむほむは3週間前に見滝原中学に転入して来た転校生。表向きは学業・スポーツ共に県内トップクラスの実力を誇る実力者となっている。

 しかし、ほむほむは自分の情報を厳重に秘匿している。故にそのパーソナルデータはほとんどわかっていない。

 唯一わかっているデータは、昔通っていた学校が『ごきげんようお姉さま』と挨拶する東京武蔵野のミッション系スクールだということ。具体的な学校名までは知らねえが。

 そして、鹿目まどかに異常なまでに性的な欲望を抱いていること。アタシもほむほむがまどかのパンツをかぶってほむほむしながら「なじむぅ~なじむぅ~」と呟いている姿を何度も目にした。

 そして暁美ほむほむの魔法少女としての実力は謎に包まれている。

 おそらくアタシよりもマミよりも遥かに強い。

 けれど、その強さの正体がわからない。暁美ほむほむの戦い方は謎に満ちているからだ。

 アイツと対戦した魔女は突如として爆発したり急所を撃ち抜かれたりして何が起きたのか理解する間もなく絶命している。

 どんなチートを使っているのだか知らねえが、敵やアタシたちに何が起きたのか悟らせない内に攻撃を完了させている。

 今の空気の渦も爆風も間違いねえ。

 ほむほむがチート攻撃を仕掛けて来た結果だ。

 

「窓の外が騒がしいようですが何かありましたの、暁美さん?」

「蝿が騒いでいたから追い払おうとしただけよ」

 ほむほむはしれっとした表情でつまらなそうに答えた。

 ほぉ。アタシたちが蝿だって言うのか?

 面白ぇじゃないか。その喧嘩、買ってやるぜ。

 アタシが木の枝から病室に向かって飛び移ろうとした時だった。

「飲み込みが悪いのね。見逃してあげるって言ってるの」

 マミは紅茶を片手に優雅に口に含みながらそう言った。

 その仕草は実に優雅。

 けれど、召喚された無数のマスケット銃が宙に浮きながらアタシとさやかに銃口を向けていた。

 アタシが跳躍しようとすれば問答無用で蜂の巣にされるのは間違いなかった。

 

「まあ、気になるほど大きな蝿がいるなんて嫌ですわね。病院の衛生的にも良くありませんわ。特別ボーナスを差し上げますので、きちんと追い払ってください」

 仁美は制服のポケットから写真を取り出して2人に手渡した。

「こ、これは……っ!」

「まどかさん小学4年生時の体育授業風景の一コマです。今では伝説の存在となった赤ブルマを穿いてはみパンを指で直そうとしている国宝級の価値を誇る写真ですの」

 小学生のガキの体育風景を撮った写真の何が国宝級なんだ?

 アタシにはさっぱり理解できねえ。

 でも、ほむほむとマミの反応は違った。

「ハァハァ。ありがとう、マイ・マスター。ハァハァ。早速外に群がっている蚊トンボを排除するわ。ハァハァ。まどかはそんなに私を犯罪者にしたいのね。ハァハァハァハァ」

 息を荒く乱しながらほむほむが機械仕掛けの砂時計から取り出したのは……手榴弾かよっ!?

 そして何の躊躇もなくピンを引き抜くと、それをアタシたちに向かって思い切り振りかぶって投げて来た。

「体が軽い。こんな幸せな気持ちで虫を蹴散らすなんて初めて。ティロ・フィナ~レ♪」

 その場でバレリーナのようにクルクルと回り出した巴マミはやっぱり躊躇なくマスケット銃の砲門を開いてきやがった。

「一旦退くぞ、さやかっ!」

「えっ? ちょっと、まだ、恭介に何もっ!」

「ここでくたばっちまったら、死人に口なしにしかならねえよっ!」

 アタシがさやかを抱えて木から飛び降りるのとほむほむとマミが一斉に攻撃してきたのはほぼ同時だった。

 

 

 

5 アタシはぜってぇ負けてやらねえからな

 

「アイツら、本気でアタシたちを殺す気だったぞ」

 ほむほむとマミの猛攻を掻い潜って何とか遊歩道までアタシたちは撤退して来た。

 アタシたちが魔法少女でなければ死んでいたのはまず間違いない。魔力の加護があるからこそ高い木の枝から飛び降りても死ななかった。

 そして地面に落ちた先でも2人は追撃してきやがった。動物的勘を頼りに爆弾と銃火を潜り抜けて何とかアタシたちは生き延びることができた。

 とにかく2人の攻撃にアタシたちの命に対する配慮はどこにもなかった。

「恭介に全然話し掛けられなかったよぉ~。仁美は恭介のことが好きだしわたしはもうダメなんだぁ~」

 そしてさやかは泣き言を言い出す始末。

 確かに敵は思った以上に強いことを認めざるを得ない。

「まどか写真の為ならアタシら同業者を殺すことに何の躊躇もない最狂魔法少女暁美ほむほむ&巴マミ。美人でお嬢様でオマケに素敵サイコな志筑仁美。イマジンブレーカーの使い手上条きょーすけ。どいつもコイツも面白ぇ強敵揃いじゃねえか」

 だけどアタシは敵が強ければ強いほど燃えて来るタイプだ。

 強敵を前にしてワクワクしてきた。

「こんなに障害が多いんじゃ、わたしと恭介が付き合うなんて土台無理なんだよ……」

 一方でさやかは意気消沈している。

 コイツの場合、普段は明るく元気なのに困難に直面すると悪い風にナーバスに陥ってしまう。逆になってくれれば良いものを。

 アタシが戦わなくてはいけない敵にはさやかの弱気の虫も含まれていると考えないとダメそうだな。

「クソッ。アタシも今いちやる気が起きねえ」

 そして恭介に恋するさやかを快く思っていないアタシが存在する。さやかと恭介が結ばれるのを邪魔したいアタシ。このアタシもまた目的遂行の上で厄介な存在に違いなかった。

「なるほど。確かに障害だらけだ」

 主戦力であるはずのアタシまでが妨害要員になっている。これじゃこの戦、勝ち目なんか見えはしねえ。

「勝ち戦に結び付けられるように考え方を変えねえとな」

 アタシは魔法少女歴が長いので経験してきたバトルの数も多い。

 それはそのまま経験してきた危機の数にも比例している。

 劣勢を切り抜けて来たのは、眠っていた力が突如開花してという少年漫画お決まりのパターンによるもんじゃねえ。そんな力に目覚めたことは1度もねえ。

 それは機転を利かせ、状況をアタシ有利のフィールドに変えてきたからだった。

 アタシが最大限に力を出し切り、反対に相手は最小限の力しか出せない空間を形成すること。それがアタシが生き延び来られてきた秘訣。

 今回の場合、まず大事なのはアタシが100%の実力を発揮できる環境を整えることだ。

 言い換えればアタシの気が滅入ってしまう要因を取り除くこと。

 そしてアタシの気が滅入る原因はさやかで間違いない。

 そうだ。さやかと恭介をくっ付けようと考えるからアタシの気が滅入るんだ。

 だったら、ここで考え方を変えるしかねえ。

 つまり、これからアタシがしようとしていることはさやかをあのイジケお坊ちゃんにくれてやる作業じゃねえ。

 仁美やほむほむたちを出し抜いてアタシとさやかが勝利を得る。

 そうだよ。そういう戦いなんだよ。

 これならアタシの胸は痛まねえ。

「よっしゃ、さやか。アタシに任せておきな!」

「えっ? あんこ?」

「だからアタシを食べ物の名前で呼ぶんじゃねえ!」

 右手で涎を拭いながらさやかを怒鳴る。

「仁美もほむほむもマミも、仁美に敵わないっていうさやかのふざけた幻想も全部まとめてアタシがブチ殺してやるっ!」

 アタシの脳裏に真っ黒いシルエットで口だけを大きくて開けて笑う仁美とほむほむとマミと恭介の姿が思い浮かんだ。

「よっしゃっ! アタシとさやかの初めての共同作業だぜぇっ!」

「いや、それ、違うからっ!」

 アタシとさやかの仲を引き裂こうというヤツらは容赦しない。

 こうして、アタシの人生史上最大にして最難関の戦いが始まりを告げた。

 

 中編に続く

 

 

 


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