No.362030

間桐雁夜は友達が少ない

水曜定期更新
フラレテル・ビーイングクリスマス第二話


2012お正月特集

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2012-01-11 20:59:00 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2949   閲覧ユーザー数:2650

1 間桐雁夜はリア充度が少ない

 

 士郎と知り合いになってから1週間。雁夜のストレスは最高潮に溜まっていた。

「士郎くんは、わたしと遊ぶの!」

「そこを退きなさい、ペチャパイ娘。士郎は私の指導の下、素敵な男の子に育てるのです!」

「否っ! 断じて否! 士郎は藤村家で預かって一流の男にしてから食らうの!」

「アッサシ~ン」

 士郎を巡る争いに桜、セイバー、新バーサーカー、そしていつの間にかアサシン(女)まで加わっていた。

「同年代の少女から、年上UMA、サーヴァントまで惚れさせるなんて……士郎の奴は本当に末恐ろしいハーレム王だな」

 遠巻きに眺める雁夜は呆れ顔を装いながら苛立っていた。桜が士郎に夢中だったから。

 

『だから言ったじゃないか? 士郎は危険だって』

 

 ぬいぐるみのキュゥべえが雁夜に話し掛けて来た。

「うるせえなあ」

 幻聴と会話することに慣れてしまった雁夜はいささかも躊躇を感じない。

 最近、公園で桜に相手にされていない為に雁夜はキュゥべえとの幻聴会話が主な日課になっていた。

「だが、その意見には残念ながら全面的に同意する」

 こめかみがピクピクと震えているのが自分でもわかる。

 

『士郎に深入りしたら桜はハーレム要員の一員にしかなれない。散々期待だけさせておいて弄ばれて捨てられるのがオチだね』

 

「そんなこと、俺が絶対にさせないっ!」

 雁夜はぬいぐるみに向かって吼えていた。傍から見たら危ない人物以外の何者でもない。が、雁夜はもう気にしていない。開き直った人間は始末におえないが強い。

 

『けれど士郎は雁夜と違って本物のヒーローの資質を持っている。天からの補正を受けられる選ばれし者だけが持つ資質をね。その証拠のハーレム王能力の無自覚な発動だよ』

 

「俺は所詮道化で、アイツが本物のヒーローだってことぐらい俺にだってわかってる。けどな、それでも桜ちゃんは譲れないんだよ」

 雁夜は桜の顔を眺めた。険しい表情で。

 

『まあ、僕は雁夜と桜の恋を応援しているけどね。何たってボクを引き取ってくれたのは雁夜なんだし。それがどんなに不利な勝負であろうと応援するのが人の情、なんだろ?』

 

「俺がロリコンという前提で話をするなって何度言ったらわかるんだ、お前は」

 ぬいぐるみとの幻聴会話を止めて再び士郎を巡る女の争いへと目を向ける。

 

「実は先日、キリツグに士郎のことを話した所、『そんなハーレム王が近くにいたんじゃ、世界で一番可愛い僕のイリヤが妊娠させられてしまう』と言い残して1人でドイツに帰ってしまいました。そういう訳で今私にはマスターが事実上いない状態です。士郎が新しいマスターになってくれませんか? このアヴァロンもプレゼントします。どうです?」

 セイバーは自身の刀の鞘を士郎に手渡そうとしていた。

 ハーレム王士郎はその魅力で聖杯戦争の参加者を1組脱落させていた。

「アッサシ~ン」

 アサシン(女)は士郎に向かってマーボーを差し出した。器の端には血がこびり付いている。本来このマーボーを食べる筈であった神父がどうなったのか心配だ。

 無自覚ハーレム王士郎の猛威は止むことがない。

 だが、雁夜にとってみれば、不特定多数の女よりも桜の目が士郎に向いていることが重要だった。苛立ちを感じた雁夜は現状を打破すべく行動に出た。

「行け、ワカメっ!」

 学校から帰宅中だったワカメを蟲で連れ去り士郎の元へと運んで来た。

「フッ。あの年代のガキなら女の子よりも男と遊んだ方が楽しい筈。どうする、士郎よ?」

 雁夜はニヤりと悪の微笑みを浮かべた。だが格好付けている割にやっていることは大人げなかった。

「まあまあ、みんな、落ち着いて。仲良く遊ぼうよ、ねっ」

 しかもワカメは綺麗になっても士郎の気を惹けなかった。見向きもされなかった。

「邪魔です。退きなさい、ワカメ」

「\アッサシーン/」

「タイガーって言ってないけど言うな~~っ!」

 女性陣は一斉にワカメをフルボッコにした。桜だけは明後日の方向を黙って見ていた。

「チッ! 戻れ」

 ワカメの出現は士郎には変化をもたらさず、桜には不愉快な思いをさせてしまった。

 雁夜はワカメを蟲蔵へと乱暴に送り返した。役立たずワカメには蟲蔵がお似合いだった。

 だが、ワカメを送り返した所で、士郎の脅威を止める手段を雁夜は持たなかった。ただ無力に目の前の光景を見つめているだけだった。

 

 

「桜ちゃん。今日の公園は楽しかった?」

 帰宅後、いつものように浴室で今日の感想を尋ねる雁夜。桜と一緒の入浴時と公園でぬいぐるみと話している時だけ彼は最も饒舌になる。

「うん。とっても」

 桜は満面の笑みを浮かべた。

「えっと、どの辺が?」

 雁夜の目には、士郎を巡って女同士の恐い修羅場が展開されていたようにしか見えない。

「今日は、セイバーのお姉ちゃんと、藤村のお姉ちゃんと、アサシンのお姉ちゃんと、仲良くなれて、とっても楽しかったよ」

「へ、へぇ。そうなんだ」

 笑みを零しながら修羅場を楽しんで語る桜。彼女は雁夜が思うよりも大物に違いない。

「おじさんは、わたしが、士郎くんと仲良くするの、イヤ?」

 桜が上目遣いで不安そうに覗き込んで来る。

「そんなことはないよ。おじさんは桜ちゃんに沢山お友達が出来るほど嬉しいんだよ」

 雁夜は視線を桜から逸らしながら半分本当、半分嘘を述べた。

「……妬いて、くれないんだ」

 桜の小さな呟きは雁夜の耳に入らなかった。そして、その表情が沈んだことも伝わらなかった。

 

 就寝の時を迎える。

 桜は入浴時からあまり元気がなかった。

 けれども、ここに来た当初と比べれば雲泥の差を見せている。たまに気落ちするのも情緒を形成する上ではむしろ良いのかもしれないと思い雁夜は深く追求しなかった。

 電灯を消して布団に入る。と、いつものように桜が雁夜の布団に潜り込んできた。

「ねえ、おじさん」

「何?」

 桜が消灯後に話し掛けてくるのは初めてのことだった。

「お母さ……遠坂葵さんは綺麗? 可愛い?」

 母を母とさえ素直に呼べない桜の現状。その逆境は雁夜の胸を痛く締め付けた。

 だから雁夜は殊更に明るく答えてみた。

「ああ。葵さんは世界で一番の美人で間違いないな。超美人だよ、君のお母さんは」

 雁夜は笑ってみせた。

「じゃあ、お姉ちゃ……遠坂凛さんは綺麗? 可愛い?」

 雁夜は姉さえ姉と呼べないことを桜に代わって苦痛を感じた。そして小さく息を吐いてから答えた。

「凛ちゃんは世界で一番可愛い美少女だな。きっとクラスでも男にモテモテだろうねえ」

 そしてまた明るく笑ってみせた。

「じゃあ、わたしは? 綺麗? 可愛い? 可愛くない?」

 闇の中、桜の真剣な瞳が自分に向いているのがわかった。

「桜ちゃんは世界で一番可愛い女の子だよ」

 雁夜は桜の頭を優しく撫でた。

「世界で一番可愛い美少女は、遠坂凛さんじゃないの?」

 痛い指摘を受けた。

「え~と、アレだ。凛ちゃんも桜ちゃんも2人とも世界一可愛いよ。アハハハハ」

 雁夜は桜の頭を必死に撫でて誤魔化した。

「うん。わかった」

 心から納得した訳ではないようだったが、桜は取り敢えず回答を受け入れてくれた。

 雁夜は安心して目を瞑った。

「……お母さんは美人で、わたしは可愛い、なんだ」

 桜がとても小さな声で呟いたが雁夜にはよく聞こえなかった。

 

 

 桜の寝息を聞きながら雁夜は今後のことを考えていた。

 桜は思った以上に元気になってくれた。それは雁夜にとって想定外の喜びだった。

 そして、桜が心を寄せられる友の絆も徐々に形成され始めている。士郎、セイバー、新バーサーカーが側にいてくれれば、桜の心はもう絶望に陥ることはないかもしれない。

 それにセイバー、新バーサーカー、アサシンが桜を守ってくれるのならば臟硯も桜に手を出せないかもしれない。

 と、そこまで考えた所で頭を横に振る。セイバーたちでは臟硯には敵わないと。甘い夢を見過ぎだと自分を戒める。

 臟硯の戦闘能力はセイバーの100分の1にも満たないに違いない。狂戦士化した新バーサーカーにも遠く及ばない筈。所詮間桐魔術は蟲を操る以外に能がないのだから。

 けれど、心理戦を本領とする臟硯にとっては力の差など問題ではない。まして、直情径行なセイバーや新バーサーカーでは臟硯に容易く手玉に取られるのがオチだった。

「やっぱり、臓硯は俺が始末しないとダメそうだな」

 雁夜は改めて間桐臓硯打倒を胸に誓った。

 そしてその誓いと共に再び怒りが燃え盛ってくる。

 雁夜が怒りを感じた対象、それは──

「そもそも貴様が桜ちゃんを間桐家に養女に出さなきゃ、こんな悲劇は起きなかったんだ。それをわかってるのかっ、時臣ぃ~~っ!」

 桜の父、遠坂時臣だった。

 

「桜ちゃんだって時臣のことは許せない、よな?」

 雁夜は桜の寝顔に問いを投げ掛けてみる。

 勿論、答えなど期待している訳ではなかった。だが、返答は意外な形でもたらされた。

「お父、さま……」

 桜は寝言で小さく、そう呟いた。涙を流しながら。

「桜、ちゃん………………っ」

 桜のその寝言を聞いた瞬間、雁夜は自分のしていることが酷く無意味に感じた。

 元々道化であるとは自覚していた。そのつもりではあった。

 けれど、桜の一言は雁夜のやろうとしていることがそれ以下のものでしかない。それが、突きつけられてしまった感じのする一言だった。

「そうだよな。時臣は桜ちゃんにとって大切なお父さま、なんだもんな……」

 雁夜の体中から力が抜けていく。

「何をやっているんだろうな、俺は?」

 ほとんど動かなくなってしまった左腕をボンヤリと眺める。

 重く、苦痛を生むだけのそれは今の自分の存在を象徴しているように思えた。

「なるほど。この役立たずの邪魔者が俺自身の本質だったって訳、か」

 桜が時臣の言葉を受け入れているのであれば、自分がやっていることは一体何なのか?

 桜が父親を慕っているのならば、時臣を殺そうとしている自分は一体何者なのか?

 考えれば考えるほどに自分の存在が無価値に思えて仕方がない。

 自分は復讐を捨てるべきなのか?

 だが、まだ性が何なのかも知らない幼い桜が身も心も陵辱され尽くすという最悪な事態を招いた原因は他ならぬ時臣だ。

 時臣は間桐の魔術がどんなものであるのかよく理解していた。時臣は桜を臓硯の生贄に捧げた。良き魔術師として。

 なら、時臣の親として、人間としての罪は誰が裁く?

 時臣が聖杯戦争でくたばるのを待つ? 

 冗談じゃない。人知れず時臣がくたばった所で桜に対する罪が贖われる訳じゃない。桜が悲しみから解放される訳じゃない。

 死ねば赦されるなんて冗談じゃない。

 奴には裁きこそが必要なんだ!

 桜にしでかしたことを悔やみながら絶望しながら懺悔しながら、桜が受けた仕打ちよりもより酷い罰を受ける必要が。

 

「そうだっ! 時臣には滅びの裁きがいるんだっ!」 

 だが、と、寝ている桜の顔を見る。

 夜目にもくっきりと涙の跡が見て取れた。

 桜は父親の愛情に飢えている。桜は時臣に認めてもらいたいのだ。自分は要らない子などではないと。

 時臣に贖罪と厳罰を求める雁夜、時臣からの愛情と認定を求める桜。雁夜と桜では明らかに求めるモノの方向性が異なっていた。

 異なるだけでなく、対立するかもしれない。

 もし、雁夜が時臣を誅そうとすれば、桜は敵に回るかもしれない。

 そうなれば、本当に何の為に桜を臓硯の元から連れ出したのかわからなくなってしまう。

 雁夜の心が揺らぐ。揺れる。折れそうになる。

「やっぱり俺なんかが……魔術師になろうとしたのが間違いだったのか?」

 動かない自分の半身を見る。

 と、不快感と苦痛が胸の奥から我慢出来ないほどに猛烈に込み上げて来た。

「ウッ!?」

 雁夜は慌ててトイレへと駆け込んだ。そして便器へと顔を突っ込んでそれを吐いた。

 雁夜の口から大量の血と蟲が吐き出される。

 大量の血と蟲を吐き出したのは新居に移ってからは初めてのことだった。

 

「へへっ。桜ちゃんに血も蟲も見せずに済んだのは幸いだったな」

 便器の中でビチビチと蠢く蟲たちを水で流しながら雁夜は笑った。

「危ねえ危ねえ。俺にはもうウダウダ考える暇なんてないってことを忘れる所だったぜ」

 口元の血を拭いながら立ち上がる。

 吐き出された血と蟲の量がもはや彼の体が末期状態であることを物語っていた。

 後1ヶ月、そうとばかり考えてきたが、実際の時間は数日しか残されていないのかもしれない。

 思えば桜との同居生活も2週間が経とうとしていた。臓硯に余命宣告されてから雁夜にとってみれば相当な月日が流れていた。

「俺は臓硯と時臣への個人的な復讐に燃えるチンケな道化蟲使い。それで十分じゃねえか」

 雁夜は右手で左手を押さえる。

「俺を必要以上に弄んでこんな体にしてくれやがったのは臓硯の野郎だ。そして、葵さんのことをはじめ、時臣の野郎には許せねえことが幾つもあるじゃねえか」

 雁夜は拳を握り締める。

「そうだ。これは俺の復讐劇だ。桜ちゃんは関係ないんだ」

 雁夜は葛藤の果てに正義の味方ではなく復讐鬼としての己を再確立させる。

「そうだよ。俺のやっていることなんてその程度の意味しか持っていないんだ……」

 乾いた笑いが止まらない。

「俺は何をまだ、人間のフリをしながら生活しているんだ? 俺にはゴミ捨て場の方がよっぽどお似合いだってのに」

 ゴミ捨て場や民家にこっそり侵入して庭の片隅で寝泊りしている自分を想像してみる。

 その惨めさこそが自分にはお似合いであると思った。

 雁夜は心が曇ると同時に視界が開けたのを感じながらトイレから出てくる。

「おじ、さん……?」

 すると暗闇の中、桜が心配そうな表情で自分を見ているのがわかった。

 その表情を見て雁夜の胸が痛む。

 だがもはや、雁夜に立ち止まっている余裕はなかった。

「おじさんはちょっと、出掛けて来なきゃいけない所があるんだ」

 雁夜は体調の変化を気取られないように離れたまま、笑顔を作って喋り掛けた。

「すぐ戻って来るから、桜ちゃんは心配しないで眠っていてね」

 玄関の扉を開けてゆっくりと外に出て行く雁夜。

「おじ……さん」

 桜の声が聞こえる。

 けれど、雁夜は振り返らない。振り返れば決心が鈍ってしまいそうだから。臓硯と時臣に復讐を果たすことなく過ごしてしまいそうだったから。

「じゃあ、行って来るよ」

 そう言い残して雁夜は扉を閉めた。

「おじさん……桜を……ひとりにしないで…………」

 呟くように小さな、だが、少女の心からの叫びは雁夜の耳に入らなかった。

 

 

 

2 間桐雁夜はこの世全ての悪が少ない

 

 雁夜は、桜の為という大義を捨てて復讐の鬼へと身をやつした。

「待っていろよ、臓硯っ! 時臣っ!」

 悪と化した雁夜はその復讐の刃を、戸籍上の父である間桐臓硯へとまず向けた。

 

 雁夜は足を引き摺りながら間桐の邸宅へとやって来た。

 間桐は今回の聖杯戦争において雁夜がマスターとして参戦しているものの、表向きは無関係を決め込んでいる。

 その為、その邸宅の魔術的な防御は無防備と呼んで構わないほどに薄い。

 もっとも、入ればどんな蟲に汚染されるかもしれないこの屋敷に好き好んで入る物好きな魔術師など最初から存在しなかったが。

 雁夜は邸内へ易々と侵入を果たした。

「臓硯めっ、一泡吹かせてやるぜ!」

 臓硯は狡猾。だが、普段の大半はボケている。そして、己がボケていることを認めようとしない。そこに臓硯に付け入る隙がある。

 命を取ることは出来なくても、苦痛を味あわせることならば出来る。

 雁夜は臓硯の不在を確かめた後、彼がよく入るトイレへと足を運んだ。

 そして準備を整えて出て来た。

「数百年の時を蠢く蟲め。檻の中で絶望するが良いさっ!」

 雁夜は身を隠して臓硯の帰りを待つ。

 

「ゆるゆりライヴ。最高じゃったのぉ~。ワシが後もう5歳若ければ京子ちゃんにプロポーズできるんじゃが」

 臓硯が戻ってきた。

「ゆっりゆっら ら ら ら ゆるゆり ゆっりゆら ら ら ら ゆるゆり ゆっりゆららららゆるゆり 大事件~ じゃあ」

 臓硯は上機嫌で奇怪な言葉を口ずさんでいる。新手の魔術の詠唱の可能性が高かった。雁夜は気を引き締めながら状況の推移を見守る。

「おお~。やはり年を取るとトイレが近うようになって敵わんな。ワシが後5歳若ければこんな苦労はせんかったのに」

 臓硯はゆっくりと雁夜が細工を施したトイレに向かって歩いていく。

 ちなみに臓硯は既に数百年の時を生きる人間ならざる存在であり、ボケ具合、体の衰え具合から言えば5年前と差はほとんど存在しない。

 5年前はかくしゃくとしていたと言うのは臓硯の単なる思い込み、願望に過ぎない。

「間桐臓硯、一世一代の頑張り物語の開演なのじゃ」

 臓硯はトイレに入る際のいつもの台詞を吐いてから小さな個室の中へと消えていった。

「まずは、第一関門クリアだな」

 雁夜は憎しみの篭った瞳で臓硯が入ったトイレの扉を睨んでいた。

 

 臓硯がトイレに篭ってから数十分の時が過ぎた。

「ゆっりゆっら ら ら ら ゆるゆり ゆっりゆら ら ら ら ゆるゆり ゆっりゆららららゆるゆり 大事件~」

 雁夜はいつの間にか覚えてしまった臓硯の呪文を口ずさみながら静かにその時を待っていた。

 臓硯のトイレは長い。その所要時間は時に数時間に及ぶ。雁夜に残された時間から考えるとそれは途方もなく長い時を浪費する可能性を含んでいる。

 だが、雁夜は己が仕掛けたトラップが発動するのか、見定めない訳にはいかなかった。

 そして、その時は遂に訪れた。

「うぉおおおおおおぉっ!? ウォール街大暴落じゃぁああああああああぁっ!」

 臓硯から悲痛な叫び声が上がった。

「紙じゃっ! 紙じゃっ! 紙を持てぇええええええええぇっ!」

 臓硯は狂ったように紙と叫び続けた。

「トラップ発動に成功したようだな」

 雁夜は悪党を彷彿とさせる黒い笑みを浮かべた。

「その小さな監獄が貴様の死に場所には相応しい。醜く朽ち果てるが良いさっ!」

 雁夜は大量のトイレットペーパーを抱えながら誇らしげに述べた。

 雁夜はトイレの中の紙を全て運び去るという悪事を働いていた。雁夜の心は悪に染まっていた。

 もっとも雁夜とてこの卑劣極まるトラップのみで臓硯を倒せるとは思っていない。

臓硯はボケている。数時間もすればトイレに入っていることさえも忘れてしまう。そうなると拭かずに出て来てしまうに違いなかった。

 従って雁夜の悪に染まった攻撃でも臓硯を死に至らしめるまでには及ばない。そのことは雁夜自身重々承知していた。

 

 雁夜は臓硯に更なるダメージを加えるべく間桐邸内を移動する。

 懸命に駆けて蟲蔵へと到着する。蟲蔵の中では見るもおぞましい蟲たちが蠢いていた。

 この蟲たちこそが桜を陵辱し尽くし、自分の生命を根こそぎ奪い取り、そして臓硯の体の再生を担当する元凶。1匹1匹に確たる意志はなくとも、集団にして害をなす存在。

 その蟲蔵の中心には綺麗なワカメが浮かんでいた。より正確には綺麗なワカメに蟲たちが群がって彼の体が海の中にいるように浮かんでいた。ワカメは微笑んでいた。

 まあ、それはどうでも良かった。雁夜はワカメの生き方には関心を示さない。

「この蟲たちさえ焼き払ってしまえば臓硯にとっては相当な痛手になる筈」

 蟲さえいなくなれば臓硯は体の再生が出来なくなる。ただの腐った肉に戻れば、桜でさえ臓硯に勝つことは難しくない。だが──

「下手にここに火を放って蟲どもを焼けば、臓硯は残りの蟲たちを活性化させる可能性が高いな」

 臓硯の飼っている蟲はこの蟲蔵に存在するだけが全てではない。例えば雁夜や桜の体内にも蟲は数多く存在する。

 もし仮にここで雁夜が蟲蔵の蟲を全滅させればどうなるか?

 臓硯は己の体の劣化を防ぐ為に残った蟲を活性化させて肉を集めさせるに違いなかった。

それは即ち、雁夜と桜の体内で蟲が活性化することを意味する。それは2人にとって死を意味するに等しい。

 蟲を焼き払ってしまう行為は雁夜と桜にとって自殺行為に繋がりかねない。

 雁夜はライターを握る手の力を弱めた。

「それに、悪いのは臓硯であって、蟲どもに当たっても仕方ねえしな。敵を間違えちゃいけねえよな」

 雁夜は行動中止に自分でそう理由を付け加えた。そして何もせずに蟲蔵から出て行った。

 そんな雁夜を綺麗なワカメは慈愛に満ちた優しい表情で優しく見守っていた。

 

 結局雁夜は蟲蔵を出た後、臓硯愛用の養毛剤を消菌作用の強い歯磨き粉と取り替えておくという悪事を働いておいた。翌朝の臓硯の驚愕ぶりが目に浮かぶようだった。

「フッ。これほどの悪事を働いたのは15の夏に借りた三輪車で峠を走り回って以来だぜ」

 雁夜は己が悪事に賞賛の溜め息を吐く。

 だが、このような精神的攻撃を繰り返した所で臓硯を倒すことはできない。それは雁夜が一番良く知っていた。

「臓硯の弱点は時臣の方がよく知っているかもしれないな」

 約200年前、遠坂の先祖はこの冬木の地に臓硯を迎え入れたと雁夜は聞いている。

 根源の渦に至るという両者の思惑の一致があったからであるが、遠坂にも葛藤はあった筈。

 強大な能力を持つ魔術の名門が同じ地に2つ存在すれば、それは災いの元になるからだ。

それでも遠坂が臓硯にこの地を提供したのには、名門としての矜持の他に計算があったからに違いない。即ち、臓硯と全面抗争になっても負けないだけの秘策が。

 雁夜は時臣が臓硯への対抗策を知っているのではないかと読んだ。

「アイツを罰しながら臓硯の弱点を聞き出すのも悪くないな」

 雁夜は悪事を働く次なる目標を時臣へと定めた。

 

 

「へっ。相変わらず要塞みたいな堅い守りをしているな、ここは」

 雁夜は遠坂邸近くの電信柱の物陰からその壮麗な屋敷を見上げた。

 遠坂邸は一見ヨーロッパの貴族の屋敷と呼んでも通用しそうな気品に満ちた壮麗な佇まいの洋館である。時臣にその気があれば観光名所となっていてもおかしくない。

 だが、魔術師の瞳を通してみたそれは、観光名所などでは決してあり得ない。それはまさに軍事要塞だった。

 魔術による監視が24時間隙なく行われおり、無断で侵入を試みようものなら生きて帰ることは不可能に近い。

 無数の使い魔に加えて、規格外の力を持つと言われる最強のサーヴァント、そして当代世界最高峰の魔術師がこの要塞には控えていた。現にアサシンのサーヴァントは屋敷内部にさえ潜入を果たせなかった。

 だが、その強大な守りを前にしても雁夜は動じなかった。

「一見完璧な守り……だが、所詮屋敷を管理しているのはお前1人に過ぎないんだぜ」

 雁夜はワカメが今日公園で落としていった携帯電話を懐から取り出す。

「時臣……お前が気取っている優雅を俺が突き崩してやるぜっ!」

 雁夜は携帯電話を操作しながらインターネットに接続する。

 ワカメはワカメの癖に生意気にもスマートフォンなんか持っていたので、雁夜は苦労せずに目的のページに辿り着くことができた。

「時臣の野郎が啓蒙と称してネット上で熱心に書き込みしてるのは調べが付いてるんだよ」

 冬木市の公式コミュニティーサイト“冬木ちゃんねる”の掲示板を開く。

 時臣が暇人しか見ないし書き込まないと言われているこの掲示板の常連であることを雁夜は蟲からの情報を通じて知っていた。

 早速、時臣の書き込みを確かめてみる。それらしいものはすぐにみつかった。

 

 

  3:冬木の管理者 さん

    うんこ間桐雁夜は全然優雅じゃない。優雅なのはこの私。イッツ・ダンディ~

 

 

「何でなんの脈絡もなく俺を貶めてんだぁ。時臣の奴めぇ~っ!」

 雁夜は携帯の画面に向かって怒りを爆発させた。だが、おかげで時臣の書き込みがどれなのか容易に判断できるようになった。

「だが、優雅ぶっても貴様は所詮豆腐メンタル。書き込みから弱点も自ずと露呈するはず」

 雁夜は続けて時臣の書き込みを調べることにした。

 

 

  4:冬木の管理者 さん

    ワインレッドカラーのスーツは優雅の証。これ、世界の常識

 

  5:冬木の管理者 さん

    あご髭は優雅の証。これ、宇宙の常識

 

  8:冬木の管理者 さん

    ムーンウォークは優雅の証。これ、天元突破大宇宙の常識

 

  9:冬木の管理者 さん

    間桐雁夜はうんこ。ゴミ捨て場がお似合い。これ、この世全ての常識。

 

 

「時臣の啓蒙は自画自賛か俺を貶めるものしかねえのかよ……」

 こめかみをピクピク震わせながら書き込みを見ていく。時臣の精神を揺さぶることができる弱点を露呈させている書き込みを。それはすぐにみつかることになった。

 

 

 27:冬木の管理者 さん

    優雅とフランス語は相思相愛の仲。故に私は叫ばずにいられない。モナムゥ~

 

 28:冬木の管理者 さん

    優雅とワインは相思相愛の仲。故に私は叫ばずにいられない。ルネッサ~ンス

 

 29:冬木の管理者 さん

    ワインの友はおっちゃんイカのみ。他のスナーキを私は断じて認めない。こだわりは正義。異論は認めない

 

 30:冬木の管理者 さん

    おっちゃんイカ無くしてワインを飲むことなど許されず、ワイン無くして食事を採ることなど許されない。それが優雅たる者の宿命。バームク~ヘン

 

 

「なるほど。時臣が固執しているものはワインと“おっちゃんイカ”か」

 冬木市のコミュニティーサイトは基本的に匿名性が守られている。だが、誰が書き込んでいるのか特定されてしまっている場合には、個人情報の流出以外の何物でもない。

 時臣は自覚なく雁夜に己の情報を提供していた。

「時臣を攻撃する方針はこれで立てられた。後はどうやってあのナルシス似非優雅の豆腐メンタルをぶっ潰すかだが……」

 そして、時臣の最新の書き込みを見て雁夜は目の色が変わった。

 

 

50::冬木の管理者 さん

    うちの娘が世界で一番可愛い

 

 

「娘ってのは、誰のことだよぉっ!?」

 雁夜は携帯を握り潰しそうになっていた。

 怒りが全身を駆け巡っていた。

「時臣めぇっ。お前は自分が世界の真理に辿り着いたつもりなのだろうが、まずはそのフザケた幻想をぶち殺してやるっ!」

 怒りに打ち震える雁夜はサイバーテロによる報復を実行した。

 

 

 52:俺の寿命後1ヶ月 さん

    >50 桜ちゃんマジ天使ww 時臣は死ね!

 

 

「フ。フフフフ。フハハハハハ。ざまあみろ。時臣の野郎。これが真理だ。これが正義の鉄槌だぁっ!」

 雁夜は自分の書き込みに満足していた。だが、時臣は屈していなかった。

 

 

 56:冬木の管理者 さん

    >51~55 私の愛娘の可愛さを認めない奴らはみんな死ねば良い。死ぬか、啓蒙か。好きな方を選べば良い

 

 57:王の中の王 さん

    >56 ほぉ~。我の言うことに逆らうというのか、雑種よ? 我の可愛さを認めぬとは良い度胸だ! 肉片一つ残さずにこのネット世界から駆逐してくれようぞ

 

 58:冬木の管理者 さん

    >57 崇高なる真理の前には如何なる脅しも無意味だ。私の愛娘の可愛さの前には全て遠い理想郷に過ぎないのだよ

 

 59:魔術師殺し さん

    >58 その言葉、僕の世界一可愛いイリヤに対する宣戦布告と受け取った。

 

 

「なるほど。時臣も本気って訳だな。だがな」

 時臣と一般冬木市民との壮絶な書き込みバトルは続いている。雁夜も時臣を凹ませるべく再度の参戦を考えた。だが、すぐに考えを改めた。

「この屋敷は事実上時臣1人が管理している。しかし、その時臣がネットの書き込みで熱くなっている。となれば……」

 雁夜はニヤリと悪い笑みを浮かべた。

「よし。行け」

 雁夜は時臣の監視の隙を付いて遠坂邸内に向けて蟲を放つ。

 蟲たちの目的地は地下の食物保管庫。魔術師になる前に、何度も足を運び入れたことがあるこの屋敷の構造を雁夜はよく知っていた。

「おっちゃんイカを切らして飢え死ぬが良いさ。この、引き篭もりの外道がぁっ!」

 雁夜は蟲たちがおっちゃんイカが詰められたダンボール箱に蟲が群がっていくのを確認しながらほくそ笑んだ。

 

 雁夜には悪の才能が決定的に欠けていた。

 

 

3 間桐雁夜は友達が少ない

 

「桜ちゃ~ん。機嫌を直してくれないかなあ?」

「………………っ」

 雁夜が臓硯と時臣に対する復讐鬼と化して帰って来てから桜は口を利いてくれない。

 ぬいぐるみのキュゥべえを抱きしめたままずっとそっぽを向き続けて雁夜を見もしない。

「ほらっ。今日は桜ちゃんの好きなハンバーグ。ケチャップで花丸も書いたよ」

 雁夜は必死に桜を宥めようとする。

「………………っ」

 けれど、桜は雁夜を無視し続けた。

 雁夜にも桜がどれほど怒っているのかはよく理解できた。

 明け方に復讐から帰って来た時に桜は寝ないで雁夜を待っていた。ぬいぐるみを抱きしめて今と同じ姿勢で待っていた。

 だが、桜は戻ってきた雁夜を一度だけ無言のままジッと見ると、すぐに雁夜から視線を逸らして以降何も反応を示さなかった。

 朝食、そして昼食を準備しても全く食べようとしない。

 桜の怒りは相当なものだった。

「桜ちゃんを置いて夜中に出て行ったことは謝るよ。もうしない。だから、ね。許してよ」

 雁夜は必死に両手を合わせて謝罪する。

 桜の体が瞬間的にビクッと震える。だが、機嫌を直すまでには至らない。それどころかより強く拒絶を示すように更に雁夜から顔を遠ざける。

 桜の強い拒絶の表情を見て雁夜は復讐に走った自分を反省しない訳にはいかなかった。

 桜を悲しませての復讐はやはり意味がない。自分が人間としての生を放棄した理由を別の形で突きつけられているようだった。

 とはいえ、桜にいつまでも拗ねられている訳にもいかなかった。

「桜ちゃん。ご飯食べたら一緒に公園行こうよ。ねっ?」

 雁夜は縋るような視線で桜を見る。だが桜は雁夜と視線を合わさない。

 仕方なく雁夜は使いたくなかった奥の手を発動することにした。

「ご飯を食べて公園に行かないと士郎くんに会えないよ」

 士郎の名を出すのは雁夜にとって不快だった。けれど、桜に対する最善の手であることも理解していた。

「……今日は行かない」

 だが、それでも桜はそっぽを向いてしまった。

 自宅に戻って以来初めて声を聞けたのは士郎効果であることは間違いなかったが。

 

「参ったなぁ」

 雁夜はお手上げとばかりに天井を見上げる。

 桜が食事を抜き続けて病気にでもなれば一大事になる。桜には何か食べてもらわなくてはならない。けれど、その為の手段を雁夜は持ち合わせていなかった。

「こんなことならお菓子もきちんと準備しておくんだったなあ」

 雁夜は新生間桐家にお菓子の備蓄を準備していなかったことを悔やんだ。

「うん? あれ? そう言えば……」

 雁夜はポケットのパーカーを漁った。

 すると、遠坂邸から持ち帰った戦利品が入っていることに気が付いた。

 雁夜はビニールで密封されたその小さな菓子を取り出して桜に見せる。

「えっと“おっちゃんイカ”なんだけど……良かったら、食べる?」

 それは苦し紛れに言った一言だった。桜に変化が起きることを期待したのではなかった。

 けれど、その小さな菓子を見て桜に大きな変化が生じた。

「おっちゃんイカ……」

 桜はその小さな菓子を見て全身を震わせ始めた。

「お父……さまぁ~~~~っ!!」

 そして大声を上げながら泣き出してしまった。

「さ、桜ちゃんっ!」

 雁夜は慌てて桜の元へと駆け寄る。桜は雁夜のズボンを掴みながら泣き叫ぶ。

「捨てないでぇ~~っ! おじさんっ、桜のことを捨てないでぇ~~~~っ!!」

 桜がこんなにも激しく泣くのを見たのは初めてだった。

 そして、泣いている理由を聞いて胸が詰まった。

「お父さま、お母さま、お姉ちゃん……。おじさんにまで、桜、見捨てたら……わたし、わたしは~~~~っ!!」

「大丈夫っ! 大丈夫だからっ、桜ちゃんっ!」

 雁夜は必死に桜を抱きしめた。

「おじさんはずっと桜ちゃんの側にいるからっ! 離れないからっ!」

 桜の悲しみを打ち消すように大声で叫ぶ。

「それにね。近い内にお父さんもお母さんも凛ちゃんも桜ちゃんと一緒に暮らせるようになるから!」

「本っ当?」

 桜が驚きながらも泣き止む。

「ああ。すぐにそうなるから」

 雁夜は笑ってみせた。

「お父さまたちと、また会えるようになるの?」

 桜が期待を込めた瞳で雁夜を見上げる。

「ああ。おじさんは今からちょっと桜ちゃんのお父さんに会ってその話をしてくるよ」

 桜を抱きしめる手に力が篭る。

「だから桜ちゃんは、ちょっと家でしばらく待っていてくれないかな?」

「うん。わかった」

 穏やかな顔で頷いてみせる桜。ようやく彼女は安堵の表情を見せた。そして間もなく雁夜の手の中で寝息を立て始めた。

「夜中からずっと起きてたんだもんな。疲れてるに決まってるよな」

 桜を布団に寝かせ直しながら雁夜は小さく息を吐いた。

「わかってんのか、時臣。てめぇ、桜ちゃんを泣かせてんだぞ」

 靴を履きながら音を立てないようにゆっくりと扉を開ける。

「いや。桜ちゃんを泣かせているのは俺も同じ、か」

 雁夜は俯いた。

「何で俺の命は後数日しか残ってないんだよ……」

 雁夜は自分の余命がもう幾ばくもないことを激しく悔やんだ。桜の側にずっといると誓ったのにも関わらずそれを守ることができない自分を。

 

 

「とにかく時臣の野郎には一言怒鳴ってやらねえと気が済まねえな」

 雁夜は再び遠坂邸に向かって歩いていた。

 雁夜にはもはや時間の余裕がない。

 その残された短い時間で桜を救う手立てを考えると、時臣を自分側に引き込むしかない。その可能性を考えるようになった。

 だが、その考えは雁夜自身が容易に受け入れられるものではなかった。

「桜ちゃんを悲劇のどん底に叩き落としたのは他ならぬ時臣なんだぞ?」

 桜から人としての幸せを奪ったのは娘を蟲の生贄に差し出した時臣自身。その時臣を許すことも、ましてや仲間に引き入れるなんて雁夜の感情は許さない。

だが、雁夜の理性は別の方向からの計算も立てていた。

「俺がこのままくたばって臓硯の元に桜ちゃんが送り返されたらどうなるんだ……?」

 それは考えるまでもなく最悪な結末だった。桜は今日以上に泣くに違いない。そして、今度こそこの世全てに絶望してしまうかもしれない。

「なら、せめて桜ちゃんを臓硯の元に送り返さなくて良い方法を確保しねえとな」

 間桐以外で桜が帰れる場所。それはやはり遠坂家しか考えられなかった。

「その為にはやっぱり、時臣のバカ野郎を抑えておかない訳にはいかないよな」

 桜の母である葵は今すぐにも彼女を引き取りたいに違いなかった。けれど、葵は魔術師の妻として遠坂家当主の決定に逆らうことができない。

 即ち、時臣が翻意しない限り葵から桜を引き取り直すという話は絶対に出て来ない。

 ならば、桜の幸せの為に雁夜は節を曲げてでも時臣を説得しなければならない。その可能性を考える。だが、それはやはり雁夜にとって受け入れ難い話だった。

「時臣と臓硯が相打ちになって共にくたばってくれれば問題は簡単に解決できるんだがなあ……」

 桜を不幸にした二大元凶である臓硯と時臣。その2人さえいなくなれば、凛が成人するまで遠坂家の当主代理に就任することになる葵が後は何とかしてくれる。親子3人できっと仲良く暮らせるようになる筈。

それは雁夜が想像する中でもかなり良い類の結末と言えた。

 だが、そうなる確率は限りなく0であることも雁夜には十分わかっていた。

 時臣と臓硯には直接的な敵対関係はない。実態がどうであれ、遠坂と間桐は養子縁組を成立させている盟友関係にある。その縁組を成立させた当事者同士である時臣と臓硯が表立って争う筈がなかった。

 だからこそ、その時臣を翻意させて桜を再び引き取らせるには相当なことが起きなければ不可能に違いなかった。

 その相当なこととは何なのか。雁夜にはわからない。

「俺の命、程度じゃあの性根の腐った2人は動かんわな」

 放っておいてもすぐに死ぬ人間が死んでみせた所で臓硯も時臣も動くとは思えない。

 何より雁夜は2人が嫌いだった。2人の為に命を投げ出すなど冗談ではなかった。

「さて、どうしたもんかな? タクっ。考えるのは苦手なんだがなあ」

 雁夜は深く考えるのは性に合わないことを自覚している。けれど、桜の涙を見てしまった以上、性がどうとか言っている場合ではなかった。

 桜の為に最善の答えをみつけることが雁夜には必要だった。

 

 

「どこ行きやがったんだ、時臣の野郎?」

 蟲に探らせてみたが、時臣は邸内にいなかった。

 と、ふと昨夜の自分の行動を思い出す。時臣の生命線を蟲に絶たせたことを。

「まさかあの引き篭もり、おっちゃんイカを買いにわざわざ出掛けたのか?」

 時臣は万全を期すタイプであり、その行動は極めて慎重。時臣が動くとはそれ即ち、勝利の確信を得た時を意味する。

 マスターとサーヴァントに加え漁夫の利を狙う連中もおり、誰がどう襲撃して来るか予測が付きにくい聖杯戦争。その戦争の最中に果たして菓子を買う為だけに時臣が街中に出掛けたりするのか?

 考えれば考えるほどその可能性はなさそうな気がした。

むしろ時臣は“おっちゃんイカ”強奪事件の犯人に気付いていて、自分を誘き寄せる罠を仕掛けているのではないか。雁夜の顔に緊張が走る。

 

「見ました、奥さん。遠坂さんの旦那さんが後ろ向きに奇怪な動作で歩いていく様を。あんなのが父親じゃあ、最近見ない桜ちゃんも本当に可哀想に」

「ええ、本当に。桜ちゃんは児童相談所に引き取られて遠い所に行ってしまったらしいのですけど。あんな良い子がお母さんと離れ離れだなんて可哀想に」

 

 近所の主婦たちの会話が聞こえてきた。

「……どうやら時臣は本当に出掛けたらしいな」

 時臣の執着ぶりに呆れながら雁夜は光の差し込まない路地裏から空を見上げた。

「桜ちゃんのこと……覚えてくれている人たちもまだいるんだな」

 陽の当たらない筈のこの場所に陽が当たったような、そんな気がした。

 

「でも、最近桜ちゃんに似た女の子を見たって話があるんですのよ」

「ええ。私も聞きましたわ。何でもどう見ても犯罪者にしか見えない白髪の男に連れられて公園にいるって。桜ちゃんじゃないにしても、警察は何をしているのかしらね?」

 

「……時臣の奴を早くみつけなくちゃな」

 雁夜は路地から路地へと移動した。その瞳に涙を浮かべながら。

 

 

 雁夜は近所のスーパーや食料品を扱っている店を探ってみた。しかし、時臣の姿はどこにもなかった。

「時臣の奴、どこで道草食ってやがる?」

 時臣がいつ出発したのかは知らない。けれど、後から出発した、しかも体が不自由な雁夜の方が先に到着しているのは変な話だった。

「あのバカ、まさか襲撃を受けておっ死んだんじゃないだろうな?」

 時臣は憎むべき敵。殺したいとさえ思う。しかし……

「タクっ! あの嫌味野郎は世界最高峰の魔術師なんじゃねえのかよ!」

 雁夜は来た道を引き返し始めた。もう桜の泣き顔を見たくなかった。

 

 そして雁夜は遠坂邸とスーパーの中間地点の小さな道の中で時臣を発見した。

「時臣の野郎……マジで人外と戦ってやがる」

 雁夜は目の前に広がる光景に驚きを隠せないでいた。

 時臣は白いワンピースを着た中学生ほどの年齢の長い青髪の少女と対峙していた。頭に三角巾のような白い帽子を乗せた少女は長い髪をウネウネと揺らしている。

「私は海からの使者。地上を侵略しに来たイカ娘でゲソ! 今日はアレックスの散歩の途中で人生という道に迷ってここに来たでゲソ。人間め、私にひれ伏すが良いじゃなイカ!」

 少女は自らをイカ娘と名乗った。そして彼女は自らの正体を時臣に堂々と名乗った。

「つまり、君の正体は?」

「見ての通りのイカでゲソっ!」

 何故時臣が人間形態となったイカ少女と争っているのか雁夜にはよくわからない。聖杯戦争とどんな関連があるのかもまるで不明。

 だが、時臣がイカ娘の力を低く見積もって油断しているのは間違いないように見えた。

 時臣は慎重に敵戦力を見定める。だが、一度戦力を断定してしまうと容易にはその評価から動かない。その結果、敵に足元を掬われることが昔からある。

 長い付き合いがある雁夜は時臣のその特性をよく知っていた。

「隙ありだゲソっ!」

 例えば、今のように。

「クッ!」

 時臣は体をイカ娘の長い髪に拘束されて空中高くへと吊り上げられた。時臣の油断が招いた危機だった。

 

「何をやってやがるんだ、時臣のバカはっ!」

 雁夜は物陰から思わず大声を出してしまう。

 時臣は咄嗟に魔術を発動させ、逆さまになってもワインが毀れない様に重力制御するのが精一杯のようだった。

「何でこんな時にワインの重力制御なんかこだわってんだ? 命の危機だろうが!」

 雁夜には命の危機にも関わらず優雅を貫こうとする時臣の精神構造が理解できない。

「ゲッソッソッソッソ~っ! 冬木の管理者を倒してしまえばこの街は私のものになるも同然じゃなイカ」

 敵がこれでは危機感が沸き難いことには同意するが。

「君は一体、冬木を征服して何を望む?」

 時臣は話し掛けながら逆転のチャンスを狙っていた。だが、何が原因かは不明だが、時臣は魔術が発動できない状態にあった。拘束されて身動きが取れない。

 そしてイカ娘は時臣の問いに答えて己の野望の真髄を吐いた。

「この街の人間全てにゴミとタバコのポイ捨てを止めさせるに決まっているじゃなイカ。後、お腹一杯海老が食べたいでゲソ」

 時臣のことは無視して帰ろうかなという気になって来た。

「それから、困っているお年寄りや子供がいたらみんなで助け合える街に変えようじゃなイカ。後、お腹一杯海老が食べたいでゲソ」

 イカ娘の言葉が雁夜の胸に響き渡る。

「桜ちゃんのことをみんなで助けてくれる街、か……」

 もしそんな街が実現するのなら、自分がいなくても桜は安心してやっていける。誰かが常に支えてくれるなら。しかし──

「残念ながら今の世の中はそんなに優しくは出来てねえよなあ」

 ほとんど動かない左腕を押さえながら雁夜は呟いた。

 そしてイカ娘は野望の続きを口にした。

「そして我が同胞を弔う為に、この街にある全てのイカ食品、特に“おっちゃんイカ”を回収し尽くして地中深く埋葬しようじゃなイカ。後、お腹一杯海老が食べたいでゲソ」

「なっ、何だとっ!?」

 それは最もどうでも良さそうな野望。だが、“おっちゃんイカ”埋葬に時臣は激しく反応した。全身を激しく震わせながらイカ娘の言葉に恐怖していた。

「それでは君は、この冬木から全ての“おっちゃんイカ”を一掃するつもりなのか?」

「当たり前じゃなイカ! 私の同胞が長方形に切り裂かれて袋詰めにされている現状なんて堪えられないでゲソ!」

 イカ娘は“おっちゃんイカ”に怒り心頭だった。

 それに加えて時臣の体にも異変が起こっていた。

「バカな……この私が、空腹のせいで力が出ない、だと?」

 先ほどから時臣の動きにキレがないとは思っていた。

 それが、空腹のせいだと判明した。

「あのバカっ! 本気でおっちゃんイカ抜きだと飯も食わないのかよ!?」

 前々から優雅を気取る時臣のことを内心でバカだと思っていた。だが、これほどまで意固地になって様式美を貫こうとしているとは思わなかった。

 ここまで来ると優雅でも何でもなくてただの大バカだ。それが雁夜の素直な感想だった。

「もはや、私に待つのは死、のみということなのか?」

 様式美を重視する時臣は優雅さが崩れるよりも死を意識していた。

「マジなのかよ。あのバカっ」

 時臣が死を覚悟している。

 自分では絶対に届かないほどの強大な力を有した魔術師であり、葵を奪い去り、自分から人間としての生を奪い去る原因を間接的に作った時臣が。

 憎らしくて腹立たしくて、そして目標でもあった大人物遠坂時臣が。

 しかも決して強敵とは言えないようなイカ娘を相手に後れをとって。

 雁夜はどうしようもないほどに苛立っていた。

「何でだよ? お前、桜ちゃんをあの臓硯に差し出すほどの大悪事を働いたじゃねえか? なのに何でこんな所でつまらない死に方をしようとしているんだよ?」

 雁夜の脳裏に先ほどの光景が眼に浮かぶ。

捨てないでと叫んだ桜の泣き顔が。

 昨夜『お父さま』と呟きながら涙を流していた桜の寝顔が。

 そして、家族と一緒に暮らせると聞いて安堵した桜の顔が。

 雁夜の脳裏は桜の顔で埋め尽くされていき、その光景は解析不能の感情の放流を生み出していく。

「畜生~~~~~っ!!」

 脳の回路が全て焼き焦げてしまうのではないかと思うほど激しい感情のうねりが全身を駆け巡っていく。

 桜に加えて葵の顔が雁夜の脳裏に猛烈に焼き付いていく。

 雁夜の全身の体温が急激に沸騰していくのを感じる。

 そして、葵と桜の手を握って微笑んでいる時臣の顔が思い浮かんだ。

 その光景をただ無力に遠くから見ているしかなかった自分を思い出す。

 時臣とは、自分が手に入れられなかったものを全て持っている人間なのだと。

 自分は、時臣になりたかったのだと。

 それを、思い出してしまった。

 

「屈辱を受けてから自害するぐらいならば、いっそ先んじて自ら……」

 時臣は今にも自害しようとしていた。

 そのことがどうしても雁夜には許せなかった。

「俺の理想が軽々しく自害しようとしてるんじゃねえ! この腐れ外道がぁ~~~~っ!」

 雁夜はポケットに手を突っ込み、ここへ向かう途中で齧っていた菓子の一切れをポケットから取り出した。

「時臣……新しい“おっちゃんイカ”だぁ~~っ!」

 雁夜は夢中になって“おっちゃんイカ”の一切れを時臣の口に向かって放り投げていた。

 “おっちゃんイカ”は時臣の口の中へと向かって吸い込まれていく。

 雁夜はその結果を確かめずに次の行動に移った。

「行けっ! 蟲たちよっ! あのイカ少女にまとわりつけぇ~っ!」

 雁夜は蟲を一斉にイカ娘に向かって放った。

「わ~、大量の蟲が襲って来たでゲソ~っ!? 地上の蟲は苦手でゲソ~~っ!!」

 イカ娘は雁夜の放った蟲に生理的嫌悪感を抱いていた。髪の毛を武器にして必死に蟲を追い払おうとするがいかんせん数が多過ぎた。

 そしてイカ娘は蟲に気を取られていた時臣に対する拘束の力が緩んでいた。その隙を見逃す時臣ではなかった。

 時臣はその好機を逃さずに右手を動かしてワイングラスを口の元へと持っていき、その赤い液体を口の中へと注いだ。

「ルネッサ~ンスっ!!」

 意味不明な掛け声と共に時臣の両目が大きく見開かれる。

「復活っ! モースト・エクセレント遠坂時臣っ!」

 ワインを摂取したことにより時臣は体力と魔力を回復させたようだった。

 そして、雁夜は目にすることになった。

 遠坂魔術の最大秘奥義を。

 

「遠坂魔術究極秘奥義、“カッコいいポーズ”っ!!」

 

 時臣は転送した真っ赤なバラを口に咥えてダンディーに微笑んだ。その瞬間、現代科学でも魔術でも解析不明な眩い光が時臣の全身を包み込むんだ。

「何なんだ、あの光は?」

 雁夜はその眩い光に目を奪われた。

 そして、異変に気が付いた。

「俺の放った蟲たちが……消えている?」

 イカ娘に向かって放った100匹以上の蟲がいつの間にかいなくなっていた。いや、かき消されてしまったようだった。

 そして雁夜に起きた異変はそれだけではなかった。

「体の疼きが、収まっている?」

 雁夜が蟲を使役すると、体内の蟲の動きも活性化する。

 だが、時臣の謎の光を浴びた瞬間からその体の疼きを感じなくなっていた。

 まるで体内で蠢いていた蟲たちが消え去ってしまったかのように。

「これが、遠坂魔術の最大奥義の力?」

 雁夜はふと昨夜考えた仮説を思い出す。

 遠坂には臓硯と全面抗争になっても負けない秘策があるのではないかという仮説が。

「なるほど。これが対臓硯用の切り札って訳か」

 雁夜は自分の体を改めて観察してみる。

「体の中の蟲が全部消えた訳じゃないが、なるほど。あの光は蟲たちにとっては天敵ということだな」

 先ほどより数段体が軽くなっている。それは雁夜の中の蟲が多く消滅したからに他ならない。

「遠坂秘術最大奥義“カッコいいポーズ”。上手く使えば臓硯を滅ぼすことも可能か?」

 それは今までの夢物語と異なり、数段現実味を持った臓硯打倒の策だった。

「だが、時臣が桜ちゃんを生贄に出したということは……“カッコいいポーズ”でも臓硯消滅にはまだ足りないということなのか?」

 時臣は臓硯に勝つにはまだ何かが足りないと踏んでいたので、臓硯の要請を断れなかったのではないか。

 あの狡猾な蟲なら奥の手の1つや2つ持っていてもおかしくはない。

「それに、やっぱり桜ちゃんを不幸な目に遭わせた時臣の手を借りて臓硯を討つなんて、俺が納得できねえっての!」

 何より雁夜自身が時臣に手を借りることを納得できなかった。

 遠坂魔術の秘奥義を魅力的だと思う反面、その術者にどうしようもないほどの強い反感を覚える。

 雁夜の心は混乱していた。

「捕まっているのにバラを咥えて微笑んで光るなんて……コイツやっぱり、真性の変態でゲソ~~~っ!!」

 そして、雁夜が混乱している間にイカ娘は時臣を放して一目散に逃げていった。

「フッ。覚えておくが良い、お嬢ちゃん。真の優雅の前には全てが無力。そして、遠坂家の家訓は“常に余裕をもって優雅たれ”だ」

 時臣は逃げ去っていくイカ娘の背中を見ながら暢気に勝利のキメ台詞を述べていた。

 

「時臣の野郎……何、余裕こいてるんだよ!」

 自分の心を激しくかき乱す時臣に嫌悪感を激しく抱く。

 と、時臣の視線が自分を向いているのがわかった。

 今更隠れても仕方がない。いや、隠れる必要などどこにもなかった。

 雁夜は路地裏を出て時臣の前へと姿を晒した。

「間桐、雁夜……っ」

 時臣は変貌した自分の容貌を見て驚いていた。間桐魔術に関して知識ではよく知っていても、実際にそれが意味するものを目にしたのは初めてのようだった。

 驚いたか。だがなあ、桜ちゃんはもっと辛い目に遭ったんだ。

 雁夜は俯いてそう心の中で呟いた。

「勘違いするなよ、時臣」

 顔を再び上げて時臣を見る。

「桜ちゃんが寝言で“お父さま”と寂しそうに呟いていたからな。だから俺が代わりに貴様のバカ面を拝みに来たまでだ」

 時臣に言いたいことは幾らでもあった。けれど本人を前にして言葉が上手く出て来ない。

 そして時臣もまた伏し目がちに黙っていた。

「桜ちゃんに“君のお父さんはイカに敗北して死んだ”と報告する訳にもいかないだろう」

 そう報告できるならばどんなに簡単なことか。

 時臣は殺したいほどに憎い。だが、桜の為に必要な人間だった。

 時臣のことで頭を悩ませなければならない自分に腹が立って仕方がない。

 その怒りを神妙な顔をして俯いている本人にぶつける。

「だが、忘れるな。貴様を殺すのは……この俺だっ!」

 殺す、という言葉を聞いて時臣は何故か安堵した表情を見せた。そして、ほどなくいつもの済まし顔をしてみせた。

「君程度の急造魔術師に、私が殺せるとはとても思えないのだが?」

 時臣はワインをグラスに優雅に注ぎ、優雅にグラスを回しながら雁夜を鼻で笑った。

 その態度を見て、雁夜はカチンと来た。

「覚えておけ。次に会った時が貴様の最期だっ!」

 雁夜は路地裏の奥へと姿を消した。

 これ以上時臣の顔を見ているのは腹が立って無理だった。

 路地の奥へ奥へと足を運びふと空を見上げる。

「桜ちゃん……俺は一体、どうすれば良いんだ?」

 見上げる空は何も答えてくれなかった。

 

 

 

 続く

 

 

 

 

 

 


 
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