No.230792

……私とあの娘とぬいぐるみっ!

ほとんど徹夜せざるを得なくなり、その空き時間を利用して書いた1作。
アニメ本編との接点がますます遠くなる1作。


あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。

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2011-07-25 12:16:37 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:3571   閲覧ユーザー数:3203

……私とあの娘とぬいぐるみっ!

 

 

 

「霧島翔子さん。坂本雄二くんのことでお話があります」

「……雄二のことで?」

 私は今、窮地に陥っていた。

「……ところで、あなたは誰?」

 私の目の前に立つ女子生徒。

 D組の生徒だということは知っている。

 でも、それ以上は何も知らない。名前も知らない娘。

「わ、私はF組の須川くんにナンパされた、でもアニメでは名前を消されてしまった“にっ”でも出番がなさそうな2年D組玉野美紀と言います」

「……その玉野が何の用?」

 嫌な、予感がした。

 私は昔から人気がない。友達も少ない。

 口下手だし、共通の話題を持てないし、融通も利かない。

 相手を怒らせたり、不快にさせたりしてしまうことはしょっちゅう。

 だから私が知らない間に玉野を怒らせてしまっている可能性は十二分にあった。

 でも、雄二のことで話って?

「坂本くんの恋人のことで霧島さんにお話があります」

「……雄二の恋人?」

 心臓がドクンと大きな音を立てて跳ね上がる。

 まさか……

 

『坂本くんの正式な彼女は私なんです。だからもう、坂本くんにちょっかい出さないで下さいませんか?』

 

 とか

 

『坂本くんと私は子供を40人生む約束をしました。だからもう坂本くんとは会わないでくれますか?』

 

 なんていう話なんじゃ?

 雄二はいつも私の求愛をはぐらかす。

 それはもしかして私が知らないだけで他に付き合っている女の子がいるからなんじゃ?

 それがこの玉野なんじゃ?

「私、思うんです。坂本くんの彼女に相応しいのは霧島さんではなくて……」

「……や、やめて。それ以上、聞きたくない」

 気が付くと私は走り出していた。

 玉野の言葉をこれ以上聞くのが怖かった。

「坂本くんの…………彼女は…………アキちゃんが……一番相応しいと……思うんです。……男の子同士以外……あり得ません」

「……やだ。聞きたくない!」

 玉野の言葉が聞こえない様に懸命に両手で耳を塞ぎながら必死に走った。

 

 

「……相談、したい」

 雄二のことを誰かに相談したかった。

 私の悩みを、誰かに聞いてもらいたかった。

「……でも、誰に相談すれば?」

 私は友達が少ない。

 小学生から今までずっと。

 幼い時から悩みを打ち明けられる人なんて雄二以外にいなかった。

 でも、今はその雄二のことで悩んでいるから本人には話せない。

 じゃあ、他に相談できそうな人と言えば……。

「……女性FFF団のみんな」

 思い浮かんだのは3人の友達の顔。

 でも……

「……聞いてくれる、かな?」

 今、女性FFF団のみんなはおかしくなってしまっている。

 自分のポジションについて葛藤している。

 ちょっと前までは和気藹々としたほのぼの集団だった。なのに今は自分のことだけしか考えられなくなっている。

 だから、私の話を聞いてくれるかどうかちょっと不安。

 でも、恋の悩みを聞いてくれそうな友達は女性FFF団のみんなだけ。

 私はF組に向かって歩き始めた。

 

 

 F組に到着する。

「ただ今より異端審問会を執り行う」

「被告、坂本雄二はA組の霧島翔子と昨日会話を交わしていた。よって判決死刑」

「ちょっと待て! 何で翔子と話したぐらいで死刑判決を受けねばならんのだ!? しかも話し掛けて来たのは翔子の方だぞ!」

「女子の方から話し掛けられる。罪は2倍で死刑2回執行」

「ふっざけんなっ! そんな無茶苦茶な理由で殺されてたまるかよ!」

 ドアを開けたら、死刑判決を受けた雄二が勢いよく逃げ出していった。

 そして黒尽くめで鎌を持った男たちが雄二を追い掛けていく。

 いつも通りの光景。

 だから気にせずに中へと入る。

 目的の人物は……いた。

 姫路瑞希は窓の外を眺めながら1人黄昏ていた。

 早速声を掛けようと思った。

 でも、出来なかった。

 瑞希のまとう重い空気が声を掛けることを躊躇わせた。

「私はバカテスのメインヒロインなんです」

 そう口に出して呟く瑞希。

 それは自分に深く言い聞かせているようだった。

「明久くんとイチャイチャして、ライバルの女の子たちにも塩を送る度量の広さを見せるのがメインヒロインの役割なんです。だから、私は何も間違ってないはずなんです……」

 間違ってないと語る瑞希の表情は沈んでいる。

 瑞希は私に似てとても頑固な所がある。

 意志はとても強いのだけどその分融通が利かない。

 私と同じで生き方がとても不器用な娘なのだと思う。

「葉月ちゃんを応援し、明久くんの背中を影からそっと支える私はメインヒロインとして正しい姿勢の筈なんです」

 “正しい”を強調する瑞希。

 だけどその表情はますます暗く落ち込んでいく。

「なのに、何故なんでしょうか? メインヒロインとして頑張ろうとすればするほど心の中に虚しさが広がっていくんです……」

 小さく溜め息を吐く瑞希。

「優子ちゃんや美波ちゃん、翔子ちゃんと女性FFF団の集会をして盛り上がっていた時はあんなに楽しかったのに。どうして今はこんなに悲しいのでしょうか? やっと、メインヒロインに復帰したというのに……」

 瑞希は再び大きな溜め息を吐いた。

 そしてそれきり唇を強く噛み締めながら黙り込んでしまった。

 とても声を掛けられる雰囲気じゃなかった。

 私は瑞希に声を掛けないままF組の教室をそっと後にした。

 

 

 

「……優子と島田はどこにいるの?」

 A組を探してみたけれど優子の姿はなかった。

 島田もF組にいなかった。

 2人はどこに行ってしまったのだろう?

「やっ、やめろっ! 俺を処刑にした所で世のリア充どもが滅びるわけでは決してないぞ」

「千里の道も一歩から。坂本雄二、まずは貴様を処刑して世のリア充どもに己の罪深さを思い知らせる契機としてやるのだ!」

 雄二がFFF団に取り囲まれて今まさに処刑されようとしていた。

 いつも通りの光景。

 だから気にせずに2人を探す。

 すると、D組の扉に張り付いているリボン付きポニーテール頭をみつけた。

 島田に違いなかった。

 早速声を掛けようとする。

 でも、熱心に中を覗き込んでいたので声を掛け辛かった。

 何をそんなに一生懸命見ているのか気になって島田の後ろから教室の中を覗く。

 すると教室の中に、優子と久保と清水が固まってお喋り中なのが見えた。

「もう今回の放送で、吉井くんの本命がアタシだって全国のお茶の間に知れ渡っちゃったわよね~♪」

 優子はすっごくご機嫌に喋っている。

「吉井くん、アタシのことをベタ誉めだったし。これはもう、今年の夏の祭りでは明久×優子の薄い本が会場を席巻するに違いないわ。吉井くんにあれやこれやされて淫靡かつ淫らに無茶苦茶にされてしまうアタシ。きゃ~恥ずかしい~♪」

 優子は絶好調。

「美春としてはお姉さまとあの豚野郎が離れてくれるなら木下さんの恋を応援しますわ」

「確かに今週は吉井くんが木下さんを高評価していたのが明らかになった話でもあったね」

 清水と久保は優子の話に普通に合わせている。

 それは友達としては多分正しい反応。

 でも、そんな2人を見ながら島田は激しく苛立っていた。

「違うでしょうがっ! そこはもっと大げさに驚くか、大げさに反発するかして話を引っ張らないとダメでしょうがっ!」

 島田は全身を震わせている。

「美春も久保も驚き役の崇高なる使命ってものが全然わかってない。あれじゃあ話が広がらない。この後、事件を誘発できないじゃないのよ!」

 島田は拳を強く握り締めて苛立っている。

「こうなったらウチが乗り込んで2人に指導を……ううん、ウチが驚いてみせればその方が断然早いわよ」

 教室の中に入っていこうとする島田。

 でも、その手は教室の扉に掛けたまま動かないでいた。

「って、何をしようとしているのよ、ウチは? ウチはバカテスのメインヒロインなのよ。ウチが絡んでイベントを起こすのはアキだけにしないと……」

 島田もまたメインヒロインという言葉に囚われて悩んでいた。

「“にっ”はバカコメじゃなくてラブコメ。しかも、お風呂覗きを掛けたあのイベントが起きるということはウチとアキは……。つまり、今回のシリーズの真のメインヒロインは瑞希じゃなくてウチなのよっ!」

 “真のメインヒロイン”という言葉を強調する島田。

 でも、その大役とは裏腹に島田の表情は暗い。

「ウチはメインヒロイン。メインヒロインは主人公としかイベントを起こさない。だから、ウチは木下さんたちに構っている場合じゃないのよ……」

 再び島田の体が小刻みに揺れ始める。

「でも、何で、何で、ウチは幸せに向かって歩いている筈なのにこんなに辛いの? 大げさに驚いたりツッコミを入れたりできないことが何でこんなにも苦しいの……?」

 よく見れば島田の瞼にはうっすらと光るものが。

「ウチは、ウチは……」

 私は島田に声を掛けることができなかった。

 何も言わずにA組へと引き返した。

 

 

 重い気分のままA組に戻る。

 すると、歓談用のソファーに愛子とF組の土屋康太が座っているのが見えた。

 愛子は優雅に紅茶を飲んでいるけれど、土屋は落ち着かないようで挙動不審に瞳を動かしている。

「もぉ、ムッツリーニくんたらっ、そんなに緊張しないでよ」

「…………しかしここはA組。俺にとっては完全アウェイ」

「隠しカメラはよく仕掛けに来るのに?」

「…………あれはビジネス。ここは俺の場所じゃない」

 2人はデート中?

 デートなら邪魔しちゃ悪い。

 それくらいのことは一般常識に疎い私でも知っている。

「アウェイだなんて冷たいなあ。ボクがせっかくムッツリーニくんをお茶に招いているのだから、もっとこの場の雰囲気を楽しんで欲しいのに」

「…………工藤にお茶を誘われる意味がわからない」

 2人はデート中じゃないの?

「…………一体、何を企んでいる?」

「企むなんて酷いなぁ。女の子にお茶を誘われたんだからもっと素直に喜ぶべきでしょ、普通は」

 警戒し続ける土屋にちょっと不服そうな愛子。

 もしかすると、これは愛子が土屋にアプローチを仕掛けている場面?

「…………FFF団の血の盟約は恐ろしい」

「そういえばさっき、坂本くんが派手に処刑されていたもんね」

 雄二の姿が見えないと思ったら、既に処刑されていたのね。

 納得。

 まあ、それもいつものことだから気にしない。

「ムッツリーニくんもボクの為に処刑されてみない?」

 愛子がちょっと大人の色気を発しながら土屋に顔を近づける。

 普段と同じイタズラのような雰囲気を纏わせながら、でも瞳は本気。

 愛子、本気。

「…………断る。俺は明久や雄二と違って死に慣れていない」

 けれど土屋はパッと飛び退いて愛子から距離を取ってしまった。

「もぉ。ムッツリーニくんの意気地なし」

 愛子は頬をプクッと膨らませている。

「…………工藤は俺を処刑にさせてからかって遊ぶつもりだろう。が、そうはいかん」

 必死に首を横に振る土屋。

 愛子の気持ちが少しも届いていない。

 愛子、あんなにも一途なのに。

 土屋は吉井以上に恋愛ごとの機微がわからない鈍感なのかもしれない。

「…………ところで工藤優子」

「なあに?」

 土屋は愛子の下半身をジッと見た。

「…………さっきからお前、スカートが捲れてるぞ」

 恥ずかしそうに目を逸らす土屋。

 見れば確かに愛子のスカートは半分捲れ上がってしまっていた。

 もう少しで下着が見えてしまいそう。

「ああ、これは大丈夫だよ」

「…………何が大丈夫なんだ?」

 そういえば先日、愛子のスカートもあんな風に捲れていた。

「これ、テレビ東京仕様だから。どんなに短いスカートを穿こうが、どんなに捲れ上がろうがパンツが見えないようになってるんだよ」

 斬新過ぎる答えだった。

 ノーパン優子を凌駕する斜め上の回答だった。

「だからこんな風にスカートを思い切り捲くっても大丈夫なんだよ。ホラホラホラ」

 愛子は立ち上がり自分でスカートを何度も捲り上げてみせた。

「…………工藤愛子。お前はテレビ東京仕様の意味を間違えている。ブハッ!?」

 吐血する土屋。

 私の位置からだと土屋の頭が障害物になって愛子の下着は見えない。

 けれど、土屋からは愛子の下着が丸見えに違いなかった。

 テレビ東京仕様というのはそういうこと。

「…………これ以上、こんな所にいたら俺は失血死してしまう。……さらばだ」

 土屋は血が噴出す鼻と口を押さえながら教室の外へと逃げ出してしまった。

「もぉ。もうちょっとボクとのロマンティックなひと時を楽しんで欲しいのに……」

 愛子は大きな溜め息を吐いた。

 土屋は鈍感。

 でも、だからこそ愛子はもうちょっと攻め方を考えるべき。

 そう思う。

 

「あっ、代表、いたんだ」

 愛子が私に気が付いた。

「暗い顔してどうしたの? また、坂本くんに想いが上手く伝わらなかったとか? それとも、坂本くんが浮気したとか?」

 愛子の言葉を聞いてハッと思い出す。

 玉野の存在を。

 やっぱり、雄二はあの玉野という娘と付き合っているのだろうか?

 私じゃない娘と……。

「えっ? まさか、図星? あの、その、話なら聞くよ。恋愛相談以外なら……」

 愛子が大きく肩を落とす。

 先ほどの土屋との一件を思い出しているに違いなかった。

「……別に。何でもないから」

「えっ? あっ、そうなの?」

 愛子も自分のことで手一杯のはず。

「ちょっと、図書館に行ってくる」

 愛子にそう告げて私はA組を出た。

 

 

「……生きるって難しい……」

 廊下を歩きながら溜め息を吐く。

 瑞希も島田も愛子も息苦しさに耐えながら生きている。

 私も、今の状況が辛くて堪らない。

「……雄二、会いたい」

 窓の外を見る。

 すると、校庭の中央にもっこりと半球状の膨らみができているのが見えた。

 明らかに不自然な膨らみ。

 そしてその膨らみの中央には木で出来た十字架が刺さっていた。

 雄二の墓に間違いなかった。

「……雄二」

 気付くと私は駆け出していた。

 雄二のお墓に向かって懸命に駆け出していた。

 

 廊下で転んでしまったり途中でもたつきながらようやく雄二の墓の前に到着する。

 そして、そこで私が見たものは……

「助かったぜ、明久」

「親友を助けるのは当然のことじゃないか、雄二」

 雄二を墓の中から引っ張り上げる吉井の姿だった。

 吉井は雄二の手を握って土の中から雄二を引っ張り上げていた。

 私が行うべき役割を、吉井が果たしていた……。

「それで明久」

「何だい、雄二?」

 爽やかに微笑みあう2人。

 それも本当なら私と雄二がする筈のもの。

 なのに、私はそれを外から見ている。

「てめぇ、よくも俺をFFF団に売り飛ばしてくれたな。しかも率先して死刑判決まで出してくれて」

「はっはっは。他人の幸せを許さないのがFFF団の血の盟約じゃないか。雄二1人だけ幸せになるなんて許されるはずがないんだよ♪」

「お前のせいで俺はあっち側の世界に2度も足を踏み入れたんだぞっ! 1度戻ってきたと思ったら、時間差で姫路のケーキ発動とはっ! 何て残虐な処刑を実行しやがる」

 雄二は吉井の首に抱きついた。

 それは熱い抱擁に間違いなかった。

 私には絶対にしてくれないような熱い抱擁……。

 目の前の光景を見ていると胸が痛くて痛くて堪らない。

「雄二が1人だけ幸せ者をやっているのが悪いんじゃないか!」

 吉井が負けじと雄二の首を抱きかかえ返す。

「俺のどこが幸せ者だってんだ!」

「幸せ者はみんなそう言うんだ! 持つ者の暴力だよ!」

 2人は激しく抱擁し合っている。

 2人だけの世界が形成されている。

 私を必要としない、2人だけの世界が……。

 

「見ていますよね、霧島さん。これが、真実なんです」

「……玉野」

 振り返ると玉野が立っていた。

 玉野は熱烈に抱き合う雄二と吉井を見ながら鼻の穴を広げていた。

「坂本くんが愛しているのは吉井くん、なんです!」

 その一言は言葉のナイフとなって私の胸を抉る。

「……そ、そんな」

 反論したいのに強い言葉が出て来ない。

「坂本くんにも世間体があるでしょうから霧島さんと結婚するかもしれません。子供も38人ぐらいできるかもしれません。でも、坂本くんの心を占めているのはいつだって吉井くんなんです」

「……私じゃ、雄二の一番になれないと言うの?」

 頭がクラクラしてきた。

 視界が霞んで見える。

「坂本くんが心から愛するのは吉井くんだけなんです。それでも霧島さんは坂本くんのことを愛せるのですか?」

 その一言は私の体内で爆弾が爆発したような身を切り裂く衝撃を与えた。

「……わ、私は……」

 私という人間を支えてきた根幹が揺れ動くのを感じていた。

 『雄二の一番は私』という信念がこれまでの私の人生を支えてきた大黒柱だった。

 でも、吉井と親密に過ごす雄二の姿を見ているとその信念がボキリと折れてしまいそうになる。

「霧島さんは、坂本くんの二番目でずっと満足して人生を送っていけるのですか?」

「……だから、それは……」

 わからない。わからない。

 私はどうしたら良いのかわからない。

 女性FFF団のみんなに相談したかった。

 でも、相談できそうになかった。

 私独りで答えを出さないといけない。

 でも、私にはどうしたら良いのかわからない。

 誰か、助けて。

 

 

「雄二の一番が明久じゃと? ふざけるななのじゃっ!」

 その時、背後から救いの声が聞こえた。

「……木下」

 振り返ると立っていたのは、昔は優子の双子の弟という設定だった現淫キュベーダー木下秀吉だった。

「木下くん、私はふざけてなんかいないよ。私は、坂本くんにお似合いなのは吉井くんしかいないという世の真実の理を述べているだけだよ」

 玉野の瞳は澄み切っていた。

「それが大きな間違いじゃというのじゃ! 明久の丸みを帯びた可愛らしい尻も、雄二のよく引き締まった男らしい尻もみんなみんなワシのものなのじゃ! だからあの2人がくっ付くなぞワシは絶対に認めないのじゃ! 2人の尻はワシのもんじゃっ!」

 木下の瞳も澄み切っていた。

「どうやら私と木下くんは相容れない存在みたいですね。男同士の恋愛において、カップリングの違いは絶対に相容れないイデオロギー以上の差ですから」

「雄二×明久などというありふれた構図はワシが絶対に崩してやるのじゃ」

 2人の言っていることはよくわからない。

 でも、木下の言うことは私の胸にとても心地良かった。

「さあ、霧島。ワシと手を組んで雄二と明久のカップリング化を粉砕するのじゃ」

 木下が私に向かって手を伸ばして来た。

「……でも」

 2人の仲を無理に弄ろうとすれば雄二に本気で嫌われてしまう。

 そんな考えが頭をよぎる。

「霧島とていつまでも雄二の二番目に甘んじていることはできんじゃろ。力尽くでも雄二の一番に上り詰めねばならん。それが恋愛というものじゃ」

「……だけど」

 木下はニッコリと邪気のない笑みを浮かべている。

 けれど、それは悪魔が魂と引き換えに契約を促しているような、そんな邪悪な笑みに見えた。

 即ち淫キュベーダー。

「つまり霧島は、雄二の仮面恋人、仮面夫婦役で構わないというわけじゃな?」

「……そんなわけ、ないっ!」

 首を横に振って否定する。

 やっぱり私は、雄二の一番になりたい。

「だったらワシと手を組んで、2人の仲を引き裂くしかあるまい」

「……そ、それは」

 心臓がドクンドクンと大きな音を立てて跳ね上がる。煩い。煩い。煩い。

「本来ならワシと契約して魔法少女になってくれればどんな願いでも一つ叶えてやれる。じゃが、今は契約しろとは言わん。利害が一致する者同士、手を組んで目的を果たそうぞ」

 淫キュベーダーが私の顔を覗き込んで来る。

「……だけど、私は……」

「一体、何を迷うことがある? ワシにはワケがわからないのじゃ」

 淫キュベーダーが顔を更に近づけて来る。

 その大きな瞳を見ていると思考力が奪われていく……。

「霧島は、雄二のことを愛しておらんのか? 一番になりたくないのか?」

 思考力が……

「……私は、雄二のことを愛している。一番になりたいに決まってる!」

 気が付くと私は口走っていた。

 大きな声で宣言していた。

「よし。ならばワシと霧島の同盟成立じゃな♪」

 そして私は淫キュベーダーの誘いに乗ってしまった。

 木下に手を握られた瞬間、私はもう、それまでの私ではなくなってしまったことを実感した……。

 私は悪魔と、ううん悪魔以上に恐ろしい淫キュベーダーと手を結んでしまった。

 

 

 

 

 ますます分裂の様相をみせていく女性FFF団。

 果たして私たちは関係を修復することができるのだろうか?

 白熱の次回に、続く……。

 

 

 

 


 
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