No.256260

そらのおとしものショートストーリー2nd 北風と太陽

水曜更新。
サイトリニューアルやら私生活が忙しすぎてしばらく入れませんでした。
今回のは以前の作品をごく一部変えただけのコピペ作品です。

あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。

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2011-08-03 00:04:21 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3094   閲覧ユーザー数:2803

北風と太陽

 

 

「う~、やっぱり数学の授業も好きになれないよぉ~」

 6時間目の数学の連立方程式でで散々凹まされた見月そはらにようやく解放の時が訪れていた。

 放課後を迎え、安堵の息を吐いて背筋を伸ばしながら極度の緊張状態から自分の身を解き放つ。

「何かもう今日は凄く疲れちゃったし、寄り道しないで帰ろうよ。ねっ、イカロスさん、ニンフさん、アストレアさん」

 そはらは親友でクラスメイトであるイカロスとニンフ、そして窓の外で意味もなくドヤ顔しながら宙を飛んでいるアストレアに声を掛けた。

「あれ? そう言えば、智ちゃんは?」

 そして3人のエンジェロイドの中心にいるはずの少年が教室のどこにも見当たらないことに気づいた。

「……マスターなら、授業が終わった直後に、大慌てで、教室から出て行きました」

 心配そうな表情で語るイカロス。忠義に厚いエンジェロイドはマスターのちょっとした行動の変化にも大きな不安を示している。

「どうせまた、変なことでも企んでいるんでしょ」

 一方でげんなりした表情で言葉を続けたのはニンフ。善意に解釈したがるイカロスと違い、智樹が引き起こす騒動の害をよく理解している。

「きっとエッチなことなんだろうな……」

 そはらもニンフと同じ見解だった。

 

 空美学園を代表する美少女が4人揃って歩いていく様はすごく壮観。

 多くの男子生徒たちばかりでなく女子生徒までもがそはらたちを振り返る。

 しかしそはらたちは生徒たちの目を一切気にしない。

 彼女たちはただ共通の想い人であり、この学園一の困った人物でもある桜井智樹のことを考えながら歩いているので他のことは眼中にない。

 そんな渦中の人物、桜井智樹がそはらの視界に入ってきた。

「智ちゃん? 何をしているのかな?」

 智樹は校門脇の塀に寄り掛かり、憂いを帯びた表情で空を見上げていた。

「……マスター、どうされたのですか?」

「智樹ったら、先に帰ったと思ったらこんな所で何してんのよ?」

「さては、美味しい食べ物が振って来ないか待ってるんでしょう?」

 そはらが近づこうとした時、既に3人のエンジェロイドたちは智樹に接近し話し掛けていた。

「やっぱり私、まだ積極性が足りてないよね」

 自戒しながらそはらもまた智樹の元へと駆けていく。

 

「俺はな、北風が吹くのを待っているんだ」

 そはらが智樹の元へと駆け寄り始めた時、少年は既に自分の行動について説明し始めていた。そはらは自分を待ってくれないことに憤りを感じつつも足を速める。

「今週から夏服が解禁になっただろ? スカートの生地も薄くなった。けど、まだ一度も悪戯な北風が吹いてないんだ……」

 悔しさを顔に滲ませながら目を硬く瞑る智樹。

 一方でそはらは智樹の話が変な方向に行っていることを感じざるを得なかった。

「俺はなっ、北風で捲くれ上がったスカートの中が見たいんだっ! 風のせいで露になるカラフルなパンティーが見たいんだよっ!」

 そはらは右手をジッと見ながら手刀の形に構える。

「そして俺は、今年初めて悪戯な北風でスカートが捲くれ上がってパンツが見えた子に告白を……いや、プロポーズしようと思うんだっ!」

 智樹は目を大きく見開いて自分の信念を打ち明けた。

 冗談としか思えない人生プラン。

 でも、それを聞かされた4人の乙女たちは雷に打たれたような大きな衝撃を受けた。

「……そ、それは、ほ、本気なのですか、ま、マスター?」

 いつもは沈着冷静なイカロスの声が震えていた。

「ああ、本気だ。俺は北風でパンツが見えたその娘にプロポーズして一生を添い遂げる」

「はいは~い。約束破ったりしない?」

 手を上げてアストレアが質問する。その瞳は爛々と燃えている。

「ああ、俺はその子と絶対に結婚するっ!」

 智樹は鉄の意志を持ってアストレアに返答する。

「その言葉っ、忘れるんじゃないわよっ!」

 ニンフは大声で智樹に念を押すと共にシナプスのコンピュータのような機械を取り出して何やら計算を始めた。

 

 

「だけど、北風って言われても……」

 そはらは空を見上げてみる。

 雲ひとつない晴天。

 昨日も、一昨日も、その前の日も晴天。

 おまけに全くの無風。何時間待てば風が吹くのか見当もつかない。

「え~、北風が今日空美町に吹く確率は0.00001%しかないわけぇ? そんなの低すぎるわよぉ」

 機械のキーボードを叩いていたニンフが不満そうな声を上げた。よくはわからないが、良い結果は出なかったらしい。

「ニンフ先輩はデジタルに頼りすぎなんですよ。その点、私には秘策があります!」

ドヤ顔で偉そうに語り始めたのはアストレア。

秘策って何だろうと思いながらそはらがアストレアを見ていると

「桜井智樹は結局女の子のパンツが見たいだけに違いないんだからっ!」

 そう言って、自らスカートの裾を捲くってみせた。

 アストレアの純白の下着が智樹の前に露になる。

「なっ! アストレアさんっ!?」

 アストレアの奇行を止めようと手を伸ばす。しかし、既に智樹の視界にアストレアの下着が映っているのは明白だった。

 もしかして、これでお嫁さんが決まってしまうのかと絶望にも似た気持ちを抱えながら智樹の反応を待つ。そして智樹が出した答えは──

「自分でスカートを捲るような痴女のパンツになんか用はねえよ。恥じらいもない、ロマンもない」

 ダメ出しだった。

「そっ、そんなぁ……」

 勇気を振り絞ったはずなのに可哀想と思いつつ、一方でアストレアが智樹の妻に選ばれなくてホッとするそはらだった。

 

「つまり、風で捲れれば良い訳よね?」

 そう言ってニンフは普段は迷彩を施して見えないようにしている羽を出現させた。

 そして羽をはばたかせて風を起こし、自らのスカートを翻らせた。

「これなら完璧よね♪」

 してやったりのニンフのスカートからは青と白のストライプの下着が垣間見えていた。

 そはらは今度こそ負けたと思った。

「そんな養殖モノの風パンチラで俺が満足すると思っているのか?」

 しかし智樹はまたダメ出しをした。

「そっ、そんなぁ……」

 勇気を振り絞ったはずなのに可哀想と思いつつ、一方でニンフが智樹の妻に選ばれなくてホッとするそはらだった。

 

 エンジェロイドたちの行動は実を結んではいない。

 しかしその積極的な行動はそはらを十分に焦らせていた。

「私も、何かしないとイカロスさんたちに負けちゃう……」

 そはらにエンジェロイドたちのような特殊能力はない。

 しかし特殊能力がないからといって手をこまねている訳にはいかなかった。

 何故ならそはらは自分の不利をよく自覚していたのだから。

「イカロスさんたちあんなに可愛いんだもの。悪戯な風でパンチラしちゃうキャッチーな女の子になったら絶対に智ちゃんとられちゃうよ……」

 それは予感の域を超えて確信。

 だからそはらは必死になって考えた。

「智ちゃんは、風でスカートが捲れるのを望んでいる。……だったらっ!」

 そはらは校庭の中央に立って右手の人差し指を口に含んで唾で塗らす。

 そして全神経を集中させながら空気の流れを感じ取る。

 指の右側部分だけがほんの少しだけ涼しくなった。

「風は、ここに吹くっ!」

 そはらは風が吹いて来ると思われる方向に正面を向いて立つ。後は向かい風が彼女のスカートを捲くれ上げてくれると固く信じて待つ。

 そして、風は来た。

「きゃっ♪ 悪戯な風さんね♪」

 慌ててスカートの裾を押さえるものの、智樹の視界にはそはらの犬さんパンツがばっちりと入っていたに違いなかった。

 

 勝った。

 

 そう思いながらウエディングドレス姿の自分が智樹の横に立つ様を想像する。

 エンジェロイドたちが出し抜かれたという羨望と嫉妬を込めた瞳で見ているのがわかった。

 そはらは競争が好きではない。けれど、どうしても負けられないこのレースで自分が結果を残したことは彼女にとっても光栄なことだった。

 誇らしい気持ちで智樹の采配を待つ。

 そして智樹が出した答えは──

「今の、北風じゃなくて南風だからダメだな」

 あまりにも非情すぎる宣告だった。

「そ、そんなぁ……」

 そはらはガックリと膝をついて崩れ落ちた。

 

 

 残るはイカロスのみ。

 イカロスは慎重に己がマスターの求めるものを熟慮していた。

「……マスターは何故北風にこだわるの? それは、北風にヒントがあるはず。北風、といえば、北風と太陽。北風と太陽と言えば、無理やり服を脱がそうとすると失敗するお話。勝者は太陽。暑くて脱ぐのが正解。つまり、マスターは暑さに耐えかねて脱ぐのを待っているはず」

 イカロスは何かをぶつぶつと呟いていたかと思うと、急にハンカチを取り出して顔を拭き始めた。

「……ああ、暑い。暑くて敵いません」

 いつも以上に棒読み口調のイカロスは智樹の方をチラチラと見ながら暑さをアピールしている。

「……もう、服を着ていられません」

 そう言ってイカロスはおもむろに着ている制服を脱いだ。

 シャツだけでなくスカートも脱ぎ去り、30秒後には上下ピンクの下着姿のイカロスがそこに立っていた。

 智樹が求めていたのはそういう答えだったのかと内心で悔しがるそはら。

 そして智樹が出した答えは──

「それは捻り過ぎだぞ、イカロス」

 アウトの判定だった。

 

 

「お前ら全然わかってないのな。俺が求めているのは北風のロマンなんだよ。ただのパンチラなんかじゃないんだ!」

 智樹は首を激しく横に振りながらそはらたちの行為を否定した。

「そんなこと言われても……北風なんか急に台風が発生でもしない限り起きないよぉ」

 そはらが空を再び見上げる。

 先ほどと同じ雲ひとつ見えない快晴。

 と思っていたら、急に巨大な黒雲が発生し、見る間に近付いて来た。

「何で突然に暴風雨が!?」

 そはらには訳がわからない。

 けれど、その暴風雨をニンフは悔しそうな表情で見ていた。

「そう言えば、カオスがいたのを忘れていたわ。迂闊だったわね」

「カオス、さん?」

 そはらには第二世代型幼女エンジェロイドと暴風雨の因果関係がわからない。

 そんなそはらの疑問を解説したのはイカロスだった。

「……カオスは、登場の際に、暴風雨を、引き連れて来られるんです。演出的に……」

「演出、なんだ」

 そはらにはエンジェロイドのお約束はよくわからなかったが、とにかくカオスが暴風雨を発生させられることだけはわかった。

 そはらの目にも上空に浮かぶ黒い修道服姿のカオスの姿が見えて来た。カオスの周辺には激しい風雨が渦巻いていた。

 カオスの体には四方八方から風が当たっている。

 北からの風も当たっているということは……

「それじゃあ、智ちゃんのお嫁さんにはカオスさんがっ!?」

 相手は幼女エンジェロイド。幼女は智樹の趣味じゃない。けれど、カオスは大人バージョンに変身することができる。

 セクシーな大人バージョンのカオスには智樹の野獣が反応しないわけがなかった。

 考えれば考えるほどにそはらの頭を絶望の2文字が満たしていく。

「……大丈夫、です」

 そんなそはらに力強く励ましの声を掛けたのはイカロスだった。

「どうして、大丈夫だと言えるの?」

 イカロスはカオスを指差した。

「……修道服はパンチラしません。それに、カオスは今日パンツを穿いていませんから」

 イカロスの指摘には力が篭っていた。

 イカロスに言われて智樹を見る。

「カレーにウナギってのはそんなにヤバいものなのだろうか? 美味ければ関係ないような気がするんだがなあ」

 智樹は少しもカオスの存在に気を払っていなかった。

「お兄ちゃ~ん♪」

 カオスが急降下して智樹の首にしがみ付く。

「ああ、カオスか。元気そうだな」

 智樹は抱きつかれて初めてカオスの存在に気づいた。幼女は完全スルーらしい。

 そして──

「すっ、凄い雨と風っ!? きゃぁああああぁっ!」

 暴風雨がそはらたちに降り注ぐ。

 滝に打たれてでもいるような大量の水滴が風を伴い横殴りにそはらたちの体を包んだ。

 それは普段であればどうしようもないほどの不幸。けれど、今のそはらたちにとっては天佑だった。

「これで、智ちゃんの望む条件は整ったはずっ!」

 北風に捲れ上がるスカート。覗き見えるパンツ。

「智ちゃん、私を見てっ!」

「「「私をっ!」」」

 4人の少女たちは自分のウエディングドレス姿を胸に思い浮かべながら智樹の元へと再度駆け寄って行く。

 そして智樹が出した答えは──

「お前ら北風が吹く前からパンツ見せているじゃねえか。そんなののどこにロマンがあるってんだよ。ヤレヤレ、男心ってヤツをお前らまるでわかっちゃいねえな」

 あまりにも非情すぎるNo宣告だった。

 両手を広げて首を左右に振りながら嘲笑の溜め息を吐き出す智樹。

 その乙女の純情をバカにしきった態度を見て、そはらたちはもう黙っていられなかった。

「智ちゃんのバカぁああああああああぁっ!」

 そはらのチョップが、イカロスのアルテミスが、ニンフのパラダイス・ソングが、アストレアのクリュサオルが智樹に炸裂する。

 智樹に抱きついていたカオスが攻撃に巻き込まれ、再び海底へと吹き飛ばされていった。しかしそれに誰も気にしないほど智樹への攻撃に集中していた。

 

 

「あの、みなさんはいったい何をそんなにお怒りで?」

 虫の息になった智樹はそれでも尚も何故にそはらたちが怒っているのか理解していなかった。そんな鈍感王に運命の出会いの瞬間が訪れた。

「智樹よ、お前はこんな所で寝転んで一体何をしているんだ?」

 守形栄四郎がそはらたちの前に現れた。

 守形は何故か女子の制服を着ていた。カオスによる影響か、激しい風はまだ続いており、守形のスカートは大きく翻り、縞々のトランクスが垣間見えていた。

「守形は男のくせに何で女子の制服なんか着ているのよ?」

 ニンフの蔑んだ視線が守形へと突き刺さる。しかし、守形は鉄面皮な態度を崩さない。

「この間の台風で着るものを流されてしまったな。それで、美香子に着るものを貸してくれるように頼んだのだが、何故か不機嫌でな。この女物の制服しか貸してくれなかったという訳だ」

 美香子が何を考えているのか全くわからないという風に頭を掻いてみせる守形。

 そはらには、美香子があれだけ求愛しているのに守形が少しも靡かないからだという理由がすぐに想像できた。

 そんな守形の朴念仁ぶりはどうでも良かったが、そはらにはどうしても指摘したいことがあった。

「智ちゃん。先輩が、今年初めて北風でパンチラした子。だよね?」

「えぇええええぇっ!?」

 驚きの声を上げる智樹の首根っこを引っ掴む。

「智ちゃん、先輩にプロポーズするんだよね?」

「ちょっと待てっ! 先輩は男じゃねえか!」

「プロポーズ、するんだよね?」

 智樹を拘束したまま守形へと近付ける。

「良かったわね、智樹。素敵なお嫁さんがみつかって」

「ぷすす~。桜井智樹にお似合いのお嫁さんよねぇ」

 ニンフもアストレアも智樹を助けるつもりはなかった。

 智樹は縋るように最後の希望の砦であるイカロスを見る。

 イカロスは智樹をジッと見て、それから義経へと振り返った。

「……マスターと、結婚してくれたら、他の洋服を、貸してさしあげます」

「うむ。わかった。等価交換は取引の基本中の基本だからな」

「何でそうなるんだぁああああああああぁっ!?」

 こうして智樹は宣言通りに北風でパンツが見えた子と結婚することになった。

 

 めでたしめでたし

 

 

 

 


 
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