No.463613

美琴「ていうか、一山超えたら水着回とか安くない?」

レールガンというか上条さん。
夏ということでサービス満点。

とある科学の超電磁砲
エージェント佐天さん とある少女の恋煩い連続黒コゲ事件

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2012-08-01 23:59:22 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:3008   閲覧ユーザー数:2895

美琴「ていうか、一山超えたら水着回とか安くない?」

 

 

1.不幸だ……っ

 

 

 6月初めの火曜日の昼休み、俺は今日も今日とて生と死の狭間を行く人生を過ごしていた。

「不幸だ……っ」

 大きな溜め息が漏れ出た。

 でも、溜め息を吐き出さずにはいられない。

 だってお昼時間にも関わらず俺にはパン1つ買うお金がないのだから。

 空腹を紛らわす為に訳もなく校内をうろつく。歩いている方がカロリーを消費するのは分かっているのだが、座って机に寝ていると惨めさが一層キツくなる。

 こうやって愚痴りながら歩いている方がまだマシだ。

 今月も我が家のホワイト・ビッグ・イーター様は食いに食いに食いまくってくれた。

『この世全ての食? とうまっ、わたしを満足させたければその3倍は持って来るんだよっ! ……ゲソ』

 空になった茶碗を差し出すアイツは本当に誇らしげな態度をしていた。

 おかげで俺の財布はあっという間にすっからかん。

 バイトでも見つけないと今月を乗り切れそうにない。というかスフィンクスの餌代さえ確保出来ない状況。ペットの餌も満足にやれないなんてそんな飼い主は許されない。

『俺は貧乏だからペットの餌代も準備できない自分が可哀想だと? まずは俺のそのフザけた幻想をぶち殺すっ!!』

 そんな訳で自分をそげぶした結果、次の奨学金支給までの約10日間を食費0円で切り抜けないといけないことになった。

『わたしはこれからこの世全ての食を探しに旅に出て来るんだよ。10日後には帰ってくるからご馳走よろしくなんだよ……ゲソ』

 お金がないことを告げたらビッグ・イーターは小萌先生の家へと旅立っていった。アイツめ、次の収入が入ったらまたすぐに食い尽くすつもりじゃあるまいな?

「何で人間は水だけで生きられないんだ? 俺は植物になりたい……水だけ吸って生きていける生活を送りたい」

 昨日は水だけだった。正確には水に塩を混ぜておいた。今朝の朝食は塩水と砂糖1口だった。これでも最大限に栄養に気を付けているのだ。圧倒的にカロリーが不足しているが。

 そして残念ながら俺は植物ではないのでこの生活が続けば危険なことは分かっている。でも、今の俺にはこれしか食べるものがなかった。

「何で俺の元にはアンパンマンがやって来ないんだ? アンタ、ヒーローの先輩だろ? 後輩が飢えて困ってるんだ。俺の元にも顔を食べさせに来てくれよっ!」

 世の中は残酷だ。愛と勇気だけが友達のヒーローの先輩は俺を助けてはくれない。世界を救う方が俺を空腹から救う方が簡単であることを認めざるを得ない。

「って、あれ? また教室?」

 腹に手を当てて校内をグルグル歩き回っている内に教室に戻っていた。こういうのを帰巣本能というのだろうか?

 これ以上歩き回るカロリーロスは避けたいと思い、教室の中へと戻る。

 

 自分の机に突っ伏す。

 こうしていると自分の不幸な境遇ぶりに泣けて来るので正直嫌だ。だが、カロリー消費抑制の為には仕方がない。

「パトラッシュ……俺はもう疲れたよ」

 放課後までこのまま寝て過ごそう。そう思いながら目を瞑る。

「背中が……煤けてる」

 背中を突かれながら声を掛けられた。小さな少女の声。よく聞き覚えのある声だった。

「姫神……?」

 顔を上げるとクラスメイトの姫神秋沙が俺を見ていた。

 髪が長くて表情の変化に乏しいクラスメイトは手に弁当箱を持っている。

 お昼時間なのだから当然といえば当然なのかも知れない。でも、俺にはその手に持っている弁当箱が眩し過ぎた。

「何で…突然泣いているの?」

「姫神は将来きっと良いお嫁さん、そしてお母さんになるだろうと思ってな」

 姫神は毎日自分で弁当をこしらえている。

 今の空腹状態の俺だから分かる。食事をちゃんと作れる人が世界で一番立派なんだって。

 だって人間、食べないと死んじゃうのだから。俺にはそれがよく分かりすぎた。

「良いお嫁さんって……なっ。何を突然言ってるの?」

姫神の頬が急に真っ赤に染まった。

一体どうしたのだろうか? 欠片も理由が分からない。どんな難解な方程式なんだ?

 と、その時俺のお腹は大きな大きな悲鳴を上げてくれた。姫神が顔を赤くした理由を推理する余裕さえも俺には残っていないらしい。

「お腹……減ってるの?」

 姫神が僅かに目を逸らしながら尋ねた。

「ああ。でも、金欠でな。昼食を買うどころか昨日から36時間何も食べてない状態なんだ……」

言葉に出すと自分の状態があまりにも切な過ぎて涙が出そうになった。

「そう……っ」

 姫神は天上を見上げ、次いで自分の弁当を見た。

 

「良かったら……私のお弁当を…半分食べる?」

 姫神は俺に弁当箱を差し出して見せた。その顔は先程以上に全体が真っ赤に染まっている。

「姫神は『ただで分けるおかずはない。やるならトレード』じゃなかったか?」

「うん。だから……」

 姫神は僅かに俯き小さな声で呟いた。

「今度の週末……私の買い物に付き合って欲しい」

 姫神の顔が更に赤く赤く染まり上がっていく。

「買い物? 荷物持ちが必要なのか? それぐらいならお安い御用だ。女の子は買い物の量が多いもんだからな」

 姫神に頷いて返す。女の子の買い物には荷物持ち要員が必要なのも納得だ。

「何で…そんな解釈になるの? せっかく……勇気出したのに」

 姫神はちょっとムッとしている。何故荷物持ちを引き受けると言っているのに怒っているのだろう? 欠片も理由が分からない。女心ってやつは全く謎ばかりだ。

「でも。一緒に出掛けられるのなら構わない。必ず……落とすから」

 姫神はギュッと右手を握り締めた。

「心配しなくても、姫神の荷物を落としたりなんかしないさ」

「鈍感。…………でも。負けない」

 何か姫神が燃えている。クールなアイツにしては珍しいことだった。

「まずはお弁当を一緒に食べることから始める。レッツ餌付け」

 姫神が椅子を引っ張り出して俺の机に弁当箱を乗せる。そして包みを開いた。

「ほぉ。姫神のお弁当は今日も手が込んでいるな」

 豪華という感じはしないが、手抜きは見えない匠の一品が俺の視界に晒される。

「私は……家庭的な女だから。もう……結婚も出来る」

 姫神はチラチラと俺と弁当を交互に見ている。

 と、ここで重要なことを思い出した。

 

「そういや俺、箸も持ってないや」

「いい。……私が食べさせてあげるから」

 姫神は鼻息荒く語った。

「いや、それはさすがにちょっと恥ずかしいかなと上条さんは思ってみちゃったり」

「私……良いお嫁さんになれるから。ううん。なってみせるから」

「へっ?」

 姫神が目を大きく見開きながら俺に向かってタコさんウィンナーを箸で摘んで差し出して来た。

「ア~ン」

「えっと……?」

 これはどういう罰ゲームなんだ? 

生徒が多い教室の中でア~ンってどんな羞恥プレイなんだ?

 姫神は誰かに操られているとでも言うのか? 

 アウレオルスのような奴がまだ他にいると?

 だが……真相が何であれ、今の俺にはタコさんウィンナーによるカロリー摂取の方が重要だった。

「ア~ン……」

 恥ずかしいのを我慢しながら口を開ける。姫神の箸が段々と俺に近付いて来る。

「上条……私のこと……幸せにしてね」

 そして姫神のタコさんウィンナーが遂に俺の口へ……っ!

「おおっとぉっ! 胸が重いせいで体のバランスを崩してしまったわぁっ!!」

 タコさんウィンナーが俺の口の中に入るその瞬間のことだった。

 俺は後頭部を重く大きくそしてとても柔らかい何かに強打された。

「ぐぉおおおおおぉっ!?」

 その突然の衝撃に耐え切れず額を机を強打した。

 タコさんウィンナーが俺の口に入って来ることはなかった。その代わりにぶつけた後頭部とデコ、両方痛くて泣きそうになった。

「ふっ、ふっ、不幸だぁああああああああああぁっ!!」

 俺の心の底からの嘆きが教室に木霊した。

 

 

 

2.俺の貴重なカロリーを返せぇ!

 

 

「痛てぇじゃねえかっ! 一体何をしやがる! そして俺の貴重なカロリーを返せぇ!」

 大声で抗議しながら後ろを振り返る。

 するとそこには背が高くスタイルの良い、もっと言えば胸がとてもとても大きゅうございますワンダフル女子高生吹寄制理が腕を組んで立っていた。

「吹寄っ、お前かっ! 俺の貴重なカロリー摂取を邪魔したのはっ!」

 36時間ぶりのカロリー摂取を邪魔するなんてぇ……酷すぎる。

「胸が滑っただけ。悪気などない」

「胸が滑ったってどんな日本語だよっ!」

「上条……私はなあ……不幸という屁理屈で人生に手を抜く輩は大嫌いなんだっ!」

「何で食事の邪魔をされて無茶苦茶な理由で俺が怒られないとならないんだっ!?」

 吹寄はまるで悪びれる様子を見せない。それどころか俺の顔さえも全く見ていない。

「お前、人と話している時はちゃんと顔を見てだな……うん?」

 吹寄のムッとしている視線の先を追っていく。するとそこには同じようにムッとした表情をして吹寄を睨んでいる姫神の姿があった。

「あの、お二人さん? その険悪そうな雰囲気は一体?」

 2人とも凍てつく波動なオーラを放ちながら睨み合っている。アイツら、普段はとても仲が良いのに今日は一体どうしたんだ? 欠片も分からない。誰か教えてくれ!

「邪魔……するの?」

「ええ」

 何でコイツら、こんな俺より強い奴に会いに行くみたいなメンチ切り合ってんだ?

 一体、2人は何が原因でこんな仲違いを始めてしまったんだ? 

 

「でも……残念」

 姫神は立ち上がると俺の元へと歩み寄って腕を組んで来た。へっ?

 何? いきなりどうしちゃったんですか、姫神さん!?

「私は……今度の土曜日に上条と……買い物に出掛けるの」

 表情の変化の少ない姫神が笑った。しかも吹寄を挑発するような不敵な笑みで。

 えっと……これって何? 一体どういう状況なの? 誰か教えてよ!?

「クッ!?」

 吹寄が首を仰け反らしながら眉を顰めた。その際に吹寄の高校生とは思えない立派な胸がバインバインと揺れる。流石は超乳力者。その力は半端ねえ。知り合いの無乳力者のビリビリ中学生とは破壊力が違い過ぎる。

「けど、まだ甘いっ!」

 吹寄が姿勢を建て直した。 

そしてまた揺れるビッグバン。まるで俺に胸の揺れを見せつけているかのようなわざとらしいリアクションだ。まあそんなことある訳がないけどな。

「なら私は、今度の土曜日に上条の買い物に付き合おう」

 吹寄はドヤ顔をして見せた。

「なっ!?」

 姫神は驚いて目を大きく見開いた。

「どうだ、上条? 3人で買い物に行かないか?」

「なっ!? なっ!? なあっ!?」

「フム……」

 吹寄の提案を頭の中で吟味する。

 姫神が服や装飾品を選ぶつもりなら……男でかつファッションに疎い俺よりも吹寄が一緒の方が良いものが見つかるだろう。

 それに2人は今何故かは知らないけれど険悪な関係に陥ってしまっている。一緒に遊びに行けばきっと仲良しに戻るに違いない。

 うん。吹寄が来てくれれば良いことだらけじゃないか。

「ああ、分かった。3人で買い物に行こうぜ」

 吹寄の提案を承諾する。

 これで万事解決だな。

「……何で? どうして? どうしてデートするのに他の女を……呼ぶの?」

 と思ったら、姫神は何かをブツブツと呟いたと思ったら床に膝から崩れ落ちてしまった。

 一体、何故なんだ? 女って謎過ぎる……。

「……胸……なの? 上条はあれに騙されているの? 私だって意外と……上条が直接確かめてさえくれれば……もうこうなったら……最近巷で出回っているバストアッパーに手を出して…(伏線)」

「フッ。甘かったわね。買い物なんて曖昧な表現を使わずに堂々とデートに誘っていれば私に付け入られる隙など与えなかったのに」

 姫神の肩に手を置いて何かを囁く吹寄はやたらとドヤ顔を見せている。一体、2人の間に何が起きていると言うんだ?

 

「お~今日も盛大にやってるんだにゃ~。吹寄と姫神の修羅場」

「僕はいつか上やんが刺されるんやないかと不安なんやけどなあ。だってそんな現場に出くわしたら、しばらく肉食べられなくなりますやん」

 何か自分勝手な訳の分からんことを述べながら金髪と青髪が近付いて来た。

「土御門と青髪はこの2人の間に何が起きているのか理解しているのか?」

 コイツらは俺と同じ馬鹿だから理解など出来ないだろう。が、とりあえず訊いてみる。三人寄らば文珠ってこともある。

「おいおい、カミやんの鈍感と一緒にしないで欲しいんだにゃー」

「このクラスで2人の争いの原因を理解してないのは上やんだけやで」

「それじゃあまるで俺がすっげー馬鹿みたいじゃねえか」

 俺がこの2人よりも遥かに劣る馬鹿だというのか? そんなこと、あってはならねえ!

 そのフザけた幻想をぶち殺してやらなければっ!!

「土曜日は……負けない。上条は……譲らない」

「超乳力者が何故女子力レベル5と言われているのか見せてあげる」

 再び激しく火花を散らし合う2人。

 もう上条さんには何が何だか少しも分かりません。

 

「どうしてカミやんみたいな鈍感系男がこんなに女子から人気があるんだかにゃ~」

「母性本能くすぐられつつも男らしさに惹かれて2度美味しいってやっちゃなあ。鈍感な所も女の子側が上やんのことを一生懸命考えるようになるチャームポイントってことになるんやろうなあ」

 そして俺の友を名乗るこの頭の色の怪しい2人組は意味不明なことを好き勝手に言ってくれやがります。

「お前ら、訳の分からないことを言って納得してないで2人を止めろよっ!」

 2人に抗議をかます。喧嘩の原因が分かっているのなら止めろっての!

「そないこと言われてもなあ」

「カミやんがどっちかを選ぶか他の子を選ぶか血の惨劇を迎えるまではこの争いは終わらないんだにゃー」

 2人は達観した表情でまた俺を突き放した。

 まあ良い。見るからにモテそうにないコイツらに女の子同士の喧嘩を止める術など持つ筈がない。

 俺が土曜日に2人の仲裁を直接するしかあるまい(死亡フラグ)。

 俺がコイツらに尋ねるべきは他のことだった。

「姫神と吹寄の件は俺が何とかする。それよりもお前ら、今すぐ始められてパッと現金がもらえるバイトって何か知らないか?」

 土御門と青髪はジッと顔を見合わせてそれから言った。

「カミやん。とっておきのバイトがあるんだにゃ~」

「今日の放課後、実働4時間、日払いで8千円。夕飯も出るでぇ」

「8千円? 飯付き? そいつはいいなあ」

 飯が付くならカロリーが補えるし、8千円あれば残り10日ぐらいなら食い凌げる。

 俺をサバイバルさせるのにピッタリなバイトだった。

「で、バイトって何やるんだ? 引越しか?」

 頭脳系だとちょっと困るなと思いながら尋ねる。だが返って来た答えは俺の予想を遥か斜め上を行くものだった。

「水着のモデルなんだな、これが」

「へっ?」

 俺の目が点になった。

 

 

 

 

3.どうして生きるってこんなに難しいんだ?

 

「そのバイトは本当に怪しくないんだろうな?」

 放課後、俺は土御門と青髪に連れられるままに水着の撮影会場に向かっていた。

「何を言うておりまんの? 僕がいつも愛用にさせてもらっている水着屋さんの企画やでぇ。怪しいわけがおまへんわ」

 青髪はとても爽やかな笑顔で自身ありげに語った。

「お前の愛用している水着屋さんって、女子中学生や高校生の使用済み水着を売っている所だよな?」

 正直、如何わしい臭いしかしないアウト極まりない店だ。

「やだなあ、上やんは誤解しておるで」

「何をだよ?」

「あの店の主力商品は女子小学生の使用済み水着や…パ………やでぇっ!」

「いかがわしさが増しただけろうがっ!」

 大声でツッコミを入れる。

 1つはっきりと分かったのはこれが決してまともな水着撮影ではないということ。

 まあ、そうでなきゃこんなイケメンでもない高校生をモデルに使うことなんかある訳ないのだが。

「まあそんな心配することはないんだにゃ~。犯罪にはならないセーフな企画だからにゃ~」

 事情を知っているらしい土御門がニヤッと笑って俺を安心させようとしている。

「そうなのか?」

「ああっ。ただの“ドキッ! 男だらけの水泳大会。ポロリもあるよ♪”大会に一出演者として参加するだけなんだにゃ~」

「その情報の何に安心しろと言うんだ?」

 男のポロリを誰が喜ぶというんだ?

 青髪のご愛用の水着屋はもう色々な意味で駄目すぎる。

「まあ、やりたくないんならカミやんは抜けてもいいんだにゃ~」

「その代わり、当然バイト料はなしやけどな」

「クッ……生きる為に……俺は大切な何かを捨てないといけないのか」

 自分が酷く汚れていくのを感じる。けれど、今日のバイト代が入らないと俺は次の収入を手にする前に死んでしまうことだろう。

「まあまあ、そんなん落ち込まんと」

「そうそう。俺達が立派なモデルであることは違いないんだにゃ~」

 俺の左右の肩をポンと叩く土御門と青髪。

 母さん、父さん。貴方の息子は悪い友人に捕まって悪い道を歩もうとしています。

 でも、空くお腹には勝てないのでお許し下さい。息子が餓死するよりはマシだよね?

「ただまっすぐにヒーローをやっていれば良かった昔が懐かしいぜ」

 ちょっとだけ涙を零しながら空を見上げた。

 

 それから俺達は間もなく、撮影会場だという野外プールへとやって来た。6月に入ったばかりの平日の午後とあって当然利用客はいない。というか、開園してもいなかった。

「本当にここで合ってるのか? 営業してもいないだろ、まだ」

「営業してもいない時期だから借り放題の撮り放題なんやで」

「屋外での撮影だからちょ~とばかしまだ肌寒いけどな」

 2人は慣れた足取りで関係者用の通用門を潜り抜けて中へと入っていく。

「どうして生きるってこんなに難しいんだ?」

 今更帰る訳にもいかないので2人の後に続いて中へと入っていった。

 

建物に入り、更衣室に入ると俺達以外にも男が2人立っていた。

 思いっきりよく知る男達だった。

「ステイル、一方通行。お前らもバイトなのか?」

 ステイルはダルそうに頷いてみせた。

「最近ヨーロッパの不況の煽りを受けて活動費が削られる一方でね。活動資金は現地調達が基本方針になってたんだ。本当、面倒臭い世の中だよ」

 ステイルは魔術サイドの人間で、この街の正規の滞在者じゃない。当然IDなど存在しないので、こういう裏のバイトをすることになると。まあ、納得だ。

 今度は一方通行の方を振り返る。

「で、お前はどうしてだ? レベル5って確かすげぇ額の補助金を支給されているんじゃなかったのか?」

 今のコイツがどうなのかは知らないが、かつては下手すりゃ一生遊んで暮らせる額の収入があった筈。今だって相当残っているに違いない。

 何でこんな所でこんな怪しいバイトをしようとしているんだ?

「………………っ」

 一方通行は何も喋らずに1冊のカタログを取り出した。

 そこには──

『お子様に大人気の魔法少女変身セット 今日から貴方も鏑木楓』

 と書かれていた。

「鏑木楓はNEXTだ。魔法少女じゃねえよ……」

 ヒーローに煩い上条さん的にはこの間違いはかなり腹立たしい。もっとしっかり調べとけよ、製作会社って怒鳴りたくもなる。

「とにかくお前は、その服を買ってラストオーダーにプレゼントしたい。そのお金を自分でバイトして稼ぎたい。そういうことなんだな?」

「………………っ」

 一方通行は鼻息を荒く吐き出した。どうやらそういうことらしい。

 まあ考えてみれば、学園都市第1位にして、ヤバい馬鹿どもにいつも散々狙われているコイツがまともなバイト先を見つけられる訳がない。

 コイツもまた裏のバイトしか見つけられないのだろう。

「まあ今日は俺達みんな仲間だ。よろしく頼むぜ」

 4人に対して爽やかに笑ってみせる。

 こうして俺達5人が水着モデルをすることになった。

 

「水着はここにある中から好きに選んでくれればええよ」

 青髪はそう言って更衣室の一角を指さした。

 そこには多種多様の水着が揃っていた。いや、多種多様ではあるんだが……。

「何でどれもこれも女物の水着ばっかりなんだよっ!?」

 掛かっているのはどれもこれも女物の水着だった。しかもご丁寧に男が着られるように女物よりサイズがでかい。

「そりゃあ今回の撮影のコンセプトが女物の水着を着て水辺で戯れる男子高校生の日常やからやろうなあ」

「全然日常じゃねえよっ! そんな男子高校生の日常があってたまるかっ!」

 もしそんな奴らがいるのなら俺は間違いなくそげぶして回る。そいつが泣くまでそげぶを止めない。

「まあまあカミやんも怒ってないでちゃんと水着選ばないと……餓死、だにゃ~」

「畜生っ!!」

 涙を堪えながら何とか着るに値する水着がないか必死に探して回る。

 女の子用の水着の中にもトランクスタイプのものはある。それを探し当てれば何とか自害せずに済む筈だっ!

「って、何で俺の俺の周りはフリフリの水着ばっかりなんだ~~っ!」

 手に取ったのはフリルが過剰に装飾されていて、白い素地に赤だの青だの黄色だの水玉が沢山ついているセパレートタイプの水着。下はスカート状になっておりピンクのリボンがあしらわれており、ヒラヒラが大量に施されている。

 幼稚園児か小学校の低学年ぐらいの子に似合いそうなデザイン。

「あれっ? でもこれどっかで……昔ビリビリがこれを着てはしゃぎ回っていたような記憶が……」

 詳しくは思い出せないのだが、何かそんな光景を大画面で見た記憶がある。

「おっ、カミやん。フリフリの水玉セパレートを選ぶとはなかなか渋い趣味をしているんだにゃ~」

「俺の趣味じゃないからなっ! 断じて違うっ!」

 こんなものを着てみたいと思うのなら俺は何度でもそのフザけた幻想をぶち殺してやる。

「って、土御門っ!? おまっ、何て格好をしているんだぁ~~~~っ!?」

 話し掛けてきた土御門の姿を見て大声を上げてしまう。

 土御門の変態野郎は赤いビキニだった。正確には女物のビキニパンツのみだった。そしてその水着の端をグっと引き上げて両肩に通していた。結果、水着は縦に引っ張られてパッツンパッツンになっていた(読者サービス)。

「俺、知ってるぞっ! それ、変態仮面のコスチュームじゃねえかあっ!」

 変態を指さしながら罵る。俺と同じ正義のヒーローでも奴は異端だ。どうしても認められない。

「はっはっはっは。やだなあ、カミやん。変態仮面は女物のパンツを頭にかぶるから変態仮面なのであって、俺はただの土御門元春なんだにゃ~」

「今重要なのはそこじゃねえってのっ!」

 土御門を全世界の敵と断定しそげぶパンチを放った。

「甘いで、カミやん」

 だが土御門は俺の最大限の怒りを込めたそげぶをいとも簡単に避けてしまった。

「人間は服を脱ぐことで身軽になる。服を脱いだ俺が超神速の動きを手に入れたのは当然のことなんだにゃ~」

「てめぇは普段から裸晒しているじゃねえかっ!」

 肌に直接アロハシャツを着る男の分際で何をほざいているのか。

 俺は裸に向けて連続してそげぶパンチを放つ。しかし何故か本当に動きが俊敏になっている土御門には一向に当たらない。

「カミやんの動きは遅すぎてあくびが出るんだにゃ~」

「待ちやがれっ! ていうか、死にやがれっ!!」

 俺と土御門の鬼ごっこは続く。そして続いている間に新たな不幸がやって来てしまった。

 さすがはイマジンブレーカー。幸運を消し去り不幸を吸い寄せる力は伊達じゃない。

 

 

「おっ、土御門はエライ気合入ってんな」

 青髪がカーテンを開けて更衣ルームから出てきた。

「って、また変態が1人増えたぁあああああああぁっ!?」

 青髪はごくごく面積の少ない紫のマイクロビキニの水着を着て出てきた。

「う~ん。大人しめのデザインしかなくてイマイチなんやけど……まっ、既製品の水着屋と精々こんなもんやろうなあ」

 青髪は下の方も三角の食い込みがキツい面積の少ない水着。

 それは元々女性用に設計水着である。つまり、男が着ると色々大変なことになってしまう。そして青髪の野郎は実際にとんでもないことになっていた(読者サービス)。詳しくは描写したくもないが。

「それを大人しめのデザインって言うのならなあ……まずはそのお前のフザけた幻想をぶち殺すっ! そげぶパ~~ンチッ!!」

 青髪の鼻っ面を狙って自身最強のパンチを繰り出す。

 だが──

「服を着ている上やんが……裸の僕のスピードに敵う訳がおまへんがな」

 青髪は一瞬にして俺の目の前から姿を消した。と、一瞬後には土御門の隣に和やかに笑いながら立っていた。

「まったく、カミやんは服を着たまま俺らと勝負しようとは本当に馬鹿なんだにゃ~」

「三馬鹿っちゅうても、上やんの馬鹿さは群を抜いているっちゅうことやな」

 変態2人は俺を馬鹿にする蔑みの視線で見ていた。

「てめえらだけに馬鹿とは呼ばれたくないんだよぉおおおおおおおぉっ!!」

 殴り掛かる俺。超神速の移動術を駆使して逃げ回る変態2人。

 こうして俺と変態2匹の第2ラウンドが始まり、また時間を無駄に消耗してしまった。

 そしてその時間の浪費が俺に更なる不幸を呼び込んだのだった。

 

 

 俺達の不毛を極めた追い駆けっこは唐突に終わりを告げた。

 しばらく姿を見せなかったステイルの一言が俺の運命を変えることになった。

「君達は着替えるだけで一体何をそんなにはしゃいでいるんだい? 雇い主は急げと言っているよ」

 ステイルが呆れ顔で俺達を見ていた。普通の男物の赤いトランクス姿で。

「………………っ」

 その後ろでは一方通行も呆れた瞳で俺達を見ている。白と黒の斜めチェックのトランクスで。

「何でお前ら普通の水着穿いてんだよっ!?」

 ここにそんなもんなかっただろうが?

「何でって、今日は水着の撮影だと聞いていたからね。水着ぐらい持参するのが普通じゃないのかい?」

 ステイルの意見に一方通行も頷いた。

「じゃあ、カミやんとも十分に遊んだし、そろそろお色直しと行くんだにゃ~」

「そうやね」

 土御門と青髪は顔を見合わせて頷きあった。そして次の瞬間、俺の前から姿を消した。と思ったらまた次の瞬間に俺の目の前に現れた。

 土御門は黄色の、青髪は青色のトランクスタイプの水着を穿いた姿で。

「青髪、お前さっき今回の撮影のコンセプトは女物の水着を着て水辺で戯れる男子高校生の日常って言っていなかったか?」

「ああ。言ったでぇ」

「なら、何でお前たちは普通の水着に履き替えてるんだよっ!?」

 指を差しながら背信行為を非難する。俺だって普通の水着が良いに決まっているだろうが。持って来てないけれど。

「確かにコンセプトは女物の水着を着て水辺で戯れる男子高校生の日常や。けどな……」

「全員をそのコンセプトで撮るとは青髪は言ってないんだにゃ~」

 2人はニンマリと悪い笑みを浮かべた。

「それってまさか…………」

 ごくっと唾を飲み込む。額から汗が流れ出る。それは確かな予感。いや、悪寒。

 そして驚異的な的中率を誇る不幸予知レーダーは今回もまたその精度の素晴らしさを示してしまったのだった。

「何で僕らが上やんを誘ったと思ってんでっか?」

「俺らは生贄を欲していた。女物の水着姿で撮影に応じてくれる男子高校生という生贄を」

「そうしたら上やん。金ない言うとったさかい。その状況をほんのちょっとばっかり僕らに有利に活用させてもろったんすよ」

 全身がガクガクに震える。コイツら、最初から俺を嵌める気だったんだなっ!

「雇い主が撮影を始めたいそうだから、みんなすぐに来て欲しいそうだ」

 そしてステイルの資本主義の原理に従った死刑宣告。

「上やん。どうやらもう時間がないみたいやでぇ」

「今手に持っている水着を着るのか、それとも餓死するのか? カミやんがここで餓死してしまったら今後の世界はどうなってしまうのか心配なんだにゃ~」

 青髪と土御門は勝ち誇った笑みを浮かべている。

 そして実際に俺はもはや詰んでいた。

 ここでバイト代を得なければ俺は死ぬ。そして俺がこんな所で死んでしまえば俺の守りたい人達のいる世界がどうなってしまうのか分からない。

 守りたい人…………。

 その時何故か、ビリビリの顔が頭に浮かんだ。

 あの我がままで泣き虫で意地っ張りで……でも優しくて可愛い所もあるアイツは俺が守ってやらないと駄目だよな。

 何となく、そんなことを考えた。

「不幸だ…………っ」

 そして結局、俺は餓死しない道を選ぶことにした。

 父さん、母さん。

 貴方の一人息子は汚れながらでも生きることを決意しました。

 生きるって本当に辛いです。

 

 

 

4.俺は昨日までの自分を不幸だと思っていた。でもそれは間違いだった

 

「俺は昨日までの自分を不幸だと思っていた。でもそれは間違いだった」

 俺は今までの自分が甘ちゃんだったことを認識せざるをえなかった。何故なら俺の本当の不幸は今日から、そしてここから始まるのだから。

「ハァハァ。ほら、カミやん。恥ずかしがっていないで早く集合位置に行くんだ。ゴクッ」

「うっせぇ、土御門っ! 肩を掴むんじゃねえっ!」

 荒々しく俺の肩を掴んできた土御門の手を振り払う。

 こんな格好で……お天道様の下に出るのは大変な、大変な勇気が必要なんです。

「ハァハァハァ。上やん。よく似合っているから心配ないでぇ。ハァハァハァ」

「息を荒らげるなこの変態がっ! そして俺の手を引っ張るなっ!」

 男友達の俺を見る目がとても怪しくて身の危険を感じます。

「俺、やっぱり……餓死の道を……」

 どんなにお金がなくてもどんなにひもじい思いをしても人間には超えちゃいけないラインがあると思います。

 回れ右して帰ろうと……。

「雇い主は早く来いと急かしている」

 ステイルは俺に再び死刑宣告をした。

「さあ、行くんだにゃ~。ハァハァハァハァハァ」

「僕らがエスコートしまっせ。ゼーハーゼーハーゼーハ」

「ふっ、不幸だ……」

 黒い服の男たちに引きずられる宇宙人のような構図で俺は土御門と青髪に引っ張られていった。

 かつてビリビリが着ていた子供っぽさ満載のフリフリセパレート水着を着た状態で。

 

 

 俺の痴態が白日の下に晒される。

 6月はじめとは思えない太陽の眩しさは俺の思考を麻痺させる。いや、麻痺して欲しいと願った結果の白昼夢状態。今日の記憶は全て綺麗にリセットしてしまいたい。

 雇い主の緑の短パン姿のおっさんの話はすぐに終わった。俺達はカメラマンの指示に従って行動すれば良いだけらしい。

「その……カメラマンは当然男、何ですよね?」

 恐る恐る訊いてみる。

 こんな怪しさ満載の企画だ。カメラマンも男以外には有り得ないだろう。

 ていうか、女の人にこんな格好見られたら俺は死ぬしかない。

「ああ。どんな汚れ仕事も冷静沈着にこなす超一流の魔術師殺しにして男の中の男で正義の味方でもある衛宮切嗣さんにお願いしたさ」

「そっか。男の中の男か。しかも俺と同じ正義の味方か。はぁ~」

 俯きながらホッと胸を撫で下ろす。

 魔術師殺しの部分は聞かなかったことにする。そして何でそんな人がこんな怪しい企画のカメラマンになってるんだとか考えないようにする。

 とにかく、これでこの痴態を女に見られずには済む。

 こんな格好をビリビリに見られたら俺はまず間違いなく殺されるな。断言できるぜ。

「おおっ。到着したようだ」

 雇い主の声が聞こえて頭を上げる。

 この際、この姿を見るのがビリビリでなければ誰でも良い……や……えっ?

 

「どうもっ」

 

 俺達の前に現れたソイツは、よく見知った常盤台の制服を着たよく見知った短い髪のよく見知った顔の少女だった。へっ?

「あ~色々あって今日の撮影を代わりに引き受けることになった常盤台中学の御坂美琴です。よろしくお願いします」

 ソイツは御坂美琴と自己紹介した……。

 そしてビリビリは軽く下げていた頭を上げて俺達を見た。

 それはビリビリが俺達を、正確には以前アイツが着ていた幼女物の水着を着ている俺を発見してしまうことを意味していた。

 

「……………………っ!!」

 

 ビリビリは無言のままコインを1枚取り出すと間髪入れずにレールガンをぶちかましてきやがった。って、こんな人間の密集した所で何て危ない真似をっ!?

「「「「「回避」」」」」

 だが音速の3倍以上の速度で飛んで来るそのコインを土御門達は余裕で避けてしまった。青髪なんて大あくびまで見せている。

人間は衣服を脱ぎ捨てて身を軽くするだけでこんなにも速く動けるようになるのか……。

 って、そんなことに驚いている場合じゃねえっ!

 盾にしようと思っていた男達がいなくなった以上、俺自身がレールガンを防ぐしかなかった。

「うぉおおおおおおおぉっ! 消え失せろぉおおおおおおぉっ!」

 超音速で飛んで来るコインに向かって右手を突き出す。右手がコインに当たって能力を掻き消してくれれば生。当たってくれなければ間違いなく死。

 俺は今後の自分の人生と世界の将来を託しながら右手を全力で伸ばしたっ!

 

「あっ、危なかったぁ……っ」

 レールガンはギリギリ俺の幻想殺しが掻き消してくれた。

 生と死を賭けた戦いに俺はギリギリ勝利することが出来た。冷や汗が止まらないがとにかく生き延びることが出来た。

 そして生きている喜びを噛み締めると共に俺を死の世界へと誘おうとした中学生に怒りが生じた。

「いきなり危ねえじゃねえかっ! 今のはマジで死ぬ所だったんだぞっ!」

 まあ、気持ちは怒る分からんでもないが。ビリビリの奴は結構プライド高いし、俺に馬鹿にされたと思ったら容赦はないだろう。それでもレールガンはやり過ぎだが。

「あっ、アンタはそんなにまでして私とペアルックをしたいって言うのっ!」

 ビリビリは顔を真っ赤にしながら怒鳴った。よく分からんことを述べながら。ペアルックって何だ? この水着がお揃いってことか?

「そっ、そんなにペアルックにしたいんだったら、そんな水着じゃなくて普通のシャツ……」

 ビリビリは言葉を切ってそこで自分の服装を見た。常盤台の夏用の制服をジッと眺める。あのお嬢様学校は外出時に必ず制服着用を義務付けている。なのでこのよく突っ掛かって来る電撃姫の私服姿は俺もほとんど見たことがない。

「ペアルックをしたいなら、お揃いのパジャマを準備すれば良いじゃないのよっ!」

 顔を赤くしながら大声で叫ぶ学園都市第3位。本当にこのお嬢様は一体何をおっしゃっているのだろう?

「あっ! でも、だからって私は別にアンタと同じ布団で寝たいとか寝顔を見たいとかお休みのキッスしたいとか全然思ってないんだからねっ! 勘違いするんじゃないわよっ!」

「…………上条さん的には全くもって訳が分かりません」

 中2にして俺よりも遥かに物をよく知るお嬢様の思考回路はよく分からない。

「それとも何っ? 私に常盤台を辞めさせてアンタの学校に飛び級入学させようっていうの? 私と自由にペアルックする為にっ!」

「…………いや、お前が俺の学校に通うのはどう考えても才能の無駄遣いだぞ」

 俺個人としては今の学校は気に入っている。先生も生徒も。だがビリビリの才能を伸ばせるような優秀な教育機関かと問われれば答えはノーであると自信を持って言える。

「何よ。アンタは……私が同じ学校に通うのは迷惑なの? 私なんて要らないって言うの?」

 今度は急に落ち込んでしまった。俯いて今にも泣きそうな表情を浮かべている。

 何なんだ、俺のキャパを超え過ぎたこの事態は。と、とにかくビリビリを慰めないと。

「え~とですね、上条さん的にはビリ……御坂が同じ学校に入ってくれればそれはもう嬉しいですよ。ええ、もう本当に」

 ちょっとわざとらしい程の大きなリアクションを付け加えながら語る。

「本当……?」

 ビリビリが半信半疑の瞳を向ける。ビリビリが偶に見せる幼い子供のような瞳。俺は彼女を安心させるように笑ってみせた。

「本当だよ。でも残念ながら上条さんの通う学校はですね、施設は3流で、教育方針もアレなのでレベル5の御坂の力を伸ばせる様な教育体制が整っていないのですよ。学校はお勉強するのが本来の目的ですから。だから、ね……」

「分かった」

 ビリビリは顔を上げた。

「じゃあ、アンタが常盤台中学に来て。それなら制服でペアルック出来るでしょ?」

「何を無茶苦茶言ってくれやがりますかね、君はっ!?」

 最大限の無茶が来ました。

 男で、高校生で、しかも無能力者の俺が高レベル使いのお嬢様達が集う常盤台中学に通うってどんだけ無理難題なんだ!?

「ハァハァ。常盤台中学の制服姿のカミやん。アリなんだにゃ~」

「ハァハァハァ。上やんをここに連れて来た僕らの眼力に狂いはなかったんや。ハアハア」

「うっさいから永遠に息を止めてろ。この変態どもがぁっ!」

 さっきからクラスメイト2人の俺を見る目が何かおかしい。冗談なのだろうが演技が真に迫りすぎだっての。

「……ちょっと待って……コイツが常盤台に通うようになったら誰かがルームメイトにならなきゃいけない訳で、この変態女装男を取り押さえられるのは私しかいない訳で、ということは私がコイツと同じ部屋に住むことにっ!? えええぇええぇっ!? そ、そんなことになったら私、私は……でへへへへへぇ」

 ビリビリは急に頬を緩めると幸せそうに笑い始めた。

「もう、勘弁して下さい」

 自分の世界にずっぽりと浸ってしまったビリビリを見ながら俺は再び嘆いた。

 

 絶対絶命の不幸に陥る俺。だが、そんな俺を神はまだ完全に見捨てた訳ではなかった。

「僕達はさっき、カメラマンは正義の味方だという男の中の男が担当すると聞いていたのだけど、どうして君が?」

 先程から何度も俺に死刑宣告をしてくれたステイルの一言だった。

「確かにビリビリの勇ましさ男らしさはここの誰にも勝るが……衛宮何とかって人が来ると聞いているからなあ」

 ビリビリの本名は確か御坂美琴だった筈。よって衛宮何とかではない。

「誰が男らしいってのよ! 私は誰よりも女らしいってのっ!」

 ビリビリは男らしい勇ましい大声を上げながら復活した。

「私はその衛宮って人から仕事を継いでくれるように頼まれたからここにいるのよ」

「頼まれた?」

「さっきそこの門の前を通ったら、正義の味方を名乗る衛宮っておじさんが8歳の娘に悪い虫が付くんじゃないかって不安で妻と愛人を残してドイツに急に帰ってしまったのよ」

「全然男の中の男じゃねえぞっ! 子煩悩な心配性パパじゃねえかっ! しかも奥さんと愛人を一緒に行動させてるって全然正義じゃねえっての!」

 思い切り突っ込みを入れてしまった。

「ま~私も、あの人が落とした財布に挟まれていた写真を見てさ、可愛いお子さんなのできっと学校では男の子に大人気ですよねって言っちゃったのよ。そうしたらその人顔を真っ青にして慌てちゃって。だから、ここでの仕事を代わりに引き継ぐのが道理かなって思ってカメラマンの仕事を引き受けたのよ」

 ビリビリはゲコタ携帯を俺に見せながら語った。カメラマンの仕事を携帯の撮影機能でやるつもりらしい。しかもあの携帯、カメラ機能の性能はあまり良くなかった筈。

「仕事途中で放棄しているし、後任を任せたのがカメラ1つ持っていない女子中学生って……そんな正義の味方は駄目だろうよ」

 ガックリと膝を落とす。

 疲れがドッと湧いて出た。

「何を腑抜けた表情をしているのよ? 撮影の手順は全部メモに書いてもらったし、撮影は私でも問題なく進められるわよ」

「携帯のカメラ機能で撮影しようとしている人に誇らしげに言われてもですね……」

 お嬢様の考えることはよく分からない。

 だが、そんな思惑とは関係なく土御門達はメモに興味を持ったようだった。

「常盤台のお嬢さ~ん。ちょっとそのメモとやらを見せて欲しいんだけどにゃ~」

「はい。どうぞ」

 メモをあっさり見せるビリビリ。

 ていうか、俺に対する時よりも対応が丁寧に見えるのは気のせいか?

 考えてみれば俺はアイツより歳上なのにそのような待遇を受けていない。今度から当麻さんとでも呼ばせてみようか。ぜってぇ無理だろうし、呼ばれたら気持ち悪いだろうけど。

「何々……男同士のサラダオイル塗り合いっこ。そして続いて力を合わせて熱々でドロドロのクリームシチューの作成、及び食べさせ合いっこ。最後はおなじみのポロリも辞さない本気水中騎馬戦大会。さすがは超一流の正義の味方。ツボは全て心得ているんだにゃ~」

「そんな気持ち悪そうな企画、誰得なんだよ、一体?」

 男同士でオイル塗り合って誰が喜ぶんだよ? しかもサンオイルじゃなくてサラダオイルって一体なんだよ!? 人間を焼く気か?

 カロリーが摂取出来るので調理タイムがあるのは大いに結構。けれど、クリームシチューを食べさせ合うって一体何だ? 男同士で食べさせ合いとか気持ち悪いだけだっての。しかも、あんな熱くてドロッとしたもの、口の中に上手く運べるかっ!

 そして5人しかいない状況でどうやって騎馬戦大会をやれって言うんだ? そして何故男同士の騎馬戦でポロリを待ち望むっ!? 一体、誰に売るつもりの写真集なんだ?

 本当に……お金を稼ぐって大変過ぎます。

 父さん、いつも俺の為に働いてくれてありがとうございます。

 

 

 

5.それってつまり、1万人の御坂妹が俺の痴態を眺めているってことか?

 

 それからの1時を俺は悪夢としか表現出来なかった。

 舌を噛み切らない様に必死に堪えた。堪える時間だった。

『ハァハァ。カミやん。俺がサラダオイルを背中に塗ってやるんだにゃ~。おっと、手が滑ったんだにゃ~』

『土御門っ! てめぇ、今、わざと俺の尻を撫でなかったか?(読者サービス)』

『土御門くんは自分の欲望に正直過ぎるでぇ。ここは紳士で有名な僕が上やんの背中に丹念にオイルを塗るでぇ。ハァハァハァ。上やんの背中、何や綺麗やぁ。ハァハァハァ』

『ええ~いっ! 息を荒げるなっ! そして手の動かし方が何だか気持ち悪いっての!(読者サービス)』

 土御門と青髪は何故か俺の体にオイルを塗りたがった。そして執拗に俺の体に触りたがった。

「………………っ」

 そんな俺達をビリビリは無表情のまま携帯で写し続けた。時々撮ったデータをどこかに転送しているらしいのがやたら気になった(伏線)。

 

『さぁカミやん。俺達が真心を篭めて作り上げたドロッドロでネバネバしたクリームシチューを食べさせてあげるんだにゃ~』

『熱っ! そして苦っ! お前ら一体シチューに何を入れやがった!?』

『ハァハァハァ。上やんが僕らの熱くて苦いのを飲んでる。しかも飲み切れなくて口からだらしなく零してる。(読者サービス)こんな光景見せられたら僕は、僕は……ハァハァハァ』

『って、熱いんだから青髪もスプーンを俺に向けて突き出して来てんじゃねえよっ!』

 40時間ぶり以上の食にありついて空腹は満たされた。けれど俺が食わされたシチュー^は苦く熱過ぎた。そして、土御門達の食べさせ方が下手過ぎて俺の顔はクリームシチューでベタベタになってしまった。マジで最悪だ。

『……………………っ』

 そしてビリビリはそんな俺達の様子を一心不乱に撮影し続けている。何でそんなに無表情なのに手の動きだけは淀みないんだ? 

このつまらない状況の何が一体アイツに精密機械の動きを与えているんだ?

 だが、とにもかくにも撮影は順調に進んでいった。

 

 俺の尊厳とか矜持とかそんなものを代償に撮影は進んだ。料理を作るのに一番多くの時間を費やしたが、残すは水中騎馬戦大会だけになった。

 だが、その大会を始める前に俺にはどうしても文句を言っておきたい相手がいた。

「おいっ! ステイルっ! 一方通行っ! お前ら何で撮影に参加しないんだっ!」

 パラソルと椅子を引っ張り出してさっきから寝ている2人に向かって文句を叫ぶ。

「だって、そんなことを言われても彼女は君を撮影するのに夢中で他の男は撮っていない。なら、僕達が撮影に加わる必要はないじゃないか」

「…………っ」

 ステイルは寝ている姿勢のまま両手を広げ、一方通行は首を縦に振ってみせた。

「そんなこと言ってないでお前らも雇われているんだから真面目に働けっての! 俺だけが被写体って恥ずかしい限りだろうが!」

「それならまず彼女に他の人物も撮るように頼んでみたらどうだい? 僕は無駄なことはしない主義なんだ」

 ステイルは俺の訴えを退け一方通行がそれに同意を示す。

 チッ! どうやら先にビリビリを御さないといけないらしい。

「おいっ! ビリビリ」

 振り向きながら本日の臨時カメラマンを見る。

「…………………何よ?」

 ずっと携帯を弄っていたビリビリは面倒臭そうに俺を見た。

「お前、さっきから撮った写真をどこに転送してやがる?」

「オンライン上のデータ倉庫よ。携帯のメモリーだけじゃすぐいっぱいになっちゃうもの」

「そのオンライン上の倉庫ってのは外部と接続してないだろうな?」

 何かとてつもなく嫌な予感がした。

「大丈夫よ。ミサカネットワークの一部を借りているだけだから、妹達は自由にデータにアクセス出来るけど、外部の人間に覗かれる心配はないわ」

 常盤台のお嬢さんは事も無げにとんでもないことを仰って下さいました。

「それってつまり、1万人の御坂妹が俺の痴態を眺めているってことか?」

「さあ? 私はデバイスを通じてしかネットワークにアクセス出来ないからよく知らないけれど、興味がある子は見るんじゃないの?」

 ビリビリ様はまた他人事のように言って下さいました。

「アイツらは情報を共有できるんだぞっ! 1人が見たら全員で共有する可能性が高いってのっ!!」

 俺と縁が深く特別に御坂妹と呼ぶ御坂10032号。アイツならきっと見る。そして広める(伏線)。つまり……もう俺の痴態は1万人の御坂妹に知られてしまっている可能性が高い……。

「なんて……こった……」

 女座りに地面に崩れる。そしてお約束に手を目元にやってヨヨヨと泣いてみせる。

「アンタね、その格好で何を女々しく泣いている“パシャ”のよ。まさか、私より色気があるって“パシャ”自慢しようって“パシャ”わけ?」

「誰が自慢するか、そんなことっ! って、喋りながら撮るんじゃねえっ!」

 今日のビリビリはどこかがおかしい。

 

「ていうか、俺ばっかり撮っていないで他の奴も撮れっての!」

 原点に立ち返ってクレームの声を上げる。

「ほとんど裸の男の人を私が撮影なんて出来る訳がないでしょうが。このバカぁっ!」

 ビリビリは顔を真っ赤にして両手を振り上げながら逆切れしてみせた。

「何でいきなりそんな純情乙女みたいなことを言い出すんだよっ!」

「私は“パシャ”男子禁制の乙女の園に通う“パシャ”正真正銘の乙女だってのっ!」

「じゃあ、何で俺だけは平然とパシャパシャ撮るんだよ?」

「そっ、それは……」

 ビリビリは急に俯いて両手の指を絡めてモジモジしてみせた。

「私がアンタのことを好………じゃなくてっ! アンタが“パシャ”だらしない弟みたいだからよ。弟だから男を感じさせない。だから写真を撮るのも全然抵抗がないのよっ!」

「ヴッ……」

 ビリビリは俺に指を差しながら唾を吐き飛ばす勢いでまくし立てた。そしてその言葉の内容は、俺のプライドを傷付けるものだったことは言うまでもない。

「はぁ~。やっぱ俺って出来の悪い弟みたいに思われていたんだな。頼りない、だらしない、取るに足りない存在だと……」

 何となく自覚はあったのだが、本人から改めて言われるとキツい。

「えっ? ちょっと? 何をそんなマジに受け取ってるのよ? わっ、私は別にアンタのことを取るに足りない存在だなんて全然。それどころか……」

「まあまあ、カミやん。落ち込むことはないんだにゃ~。常盤台のお嬢様のお眼鏡に適おうなんてこと自体、無能力者の俺達には土台無理な話なんだにゃ~。住む世界が違うんだにゃ~」

 土御門が俺の右肩に手を置いた。

「別に私は、アンタがレベル0だからって気にしな……」

「そうそう。常盤台のお嬢様に相手にされなくても、上やんには僕らがおるやないか」

 青髪が俺の左肩に手を置いた。2人の優しい気遣いに不覚にもちょっとグっと来た。そうだ。常盤台のお嬢様が俺にダメ出しても俺にはまだこんなにも優しい友達がいるじゃねえかっ!

「だから、さっきのは照れ隠ししただけで私はアンタのことをちゃんと認め……」

「それに今のカミやんはそこら辺の女子なんか目じゃない可愛い女の子なんだにゃ~。女の子として自信を持てば良いだけなんだにゃ~。ハァハァ」

「そうやでぇ~。僕は今までこんなベッピンはんを見たことない。僕の中の野獣が今にも目を覚まして荒れ狂ってしまいそうや。ハァハァハァ」

「オメェらなんか……友達じゃねえっ! そげぶパ~~ンチッ!」

 冗談にしてもやり過ぎな金髪と青髪に向かってそげぶをお見舞いする。

「おいおい、カミやん。そげぶは効かないってさっきの体験で十分に理解したんじ……ブホッ!?」

「上やん、真の男には同じ技は二度効きへんって世界の常識や……グボォエッ!?」

「えっ? 決まった!?」

 パンチを2人の顔面にめり込ませた俺の方が驚いた。

「今のカミやんは水着、つまり裸も同然……」

「つまり、僕らと同じ裸(ら)の力を身に付けたから上やんも超神速の速さを会得したと。それで避けられんかったんやな……」

 2人は解説を咬ましながら地面に崩れ落ちた。

「そうか……これが裸(ら)の力なのか。すげぇな」

 自分の手をジッと見る。俺自身には何か変わった点は感じられない。だが、超音速で動き回っていた2人にそげぶ出来たのだから俺も同等に速くなっている。

 これは、今後もしピンチに陥った時に有効な手を1つ得たと言えるかも知れない(伏線)。

 

 

 そして、最後の水中騎馬戦の時がやって来た。やって来たのだが……。

「ちょっと待て! 何だ、この構図はっ!?」

 その騎馬戦とは似つかない構図に俺は苛立ちの声を上げていた。

「何って、5人じゃ騎馬は組めないから、“パシャ”他の4人が一斉にアンタに襲い掛かる水中足軽戦に変えただけよ」

 ビリビリは何を当たり前のことを言わんばかりに髪を撫でた。

「騎馬戦が出来ないから個人戦に切り替えたのはいい。……だが、何で俺が4人に一斉に襲われにゃならんのだっ!」

 そう。俺は土御門達に水中で包囲されている。何だこの差別?

「何でって……“パシャ”戦争は非情で非合理なものよ。それに対する憤りを“パシャ”私なりにリアルに表現してみただけじゃないの」

「俺はその非合理を俺だけに要求するお前に憤っているってのっ!」

 クッソ。やっぱりビリビリの奴、俺のことを嫌っているな。

「まあまあ、カミやん。これも仕事なんだにゃ~。ハァハァ。諦めて俺らに襲われるが良いんだにゃ~」

「そうやで~。ハァハァハァ。上やんは総受けになって僕らに滅茶苦茶にされているだけで良いんや。それだけで大スターへの道をまっしぐらや!」

「黙れ変態共っ! そんな怪しいスターの道なんぞ上がりたくねえってのっ!」

 変態演技でアカデミー賞を取れそうな2人に大声で叫び返す。さっきからコイツらが俺を見る瞳が尋常じゃない気がしっ放しなのは、コイツらの演技が上手いから…だよな?

「まあようやく僕らにも撮影される機会が巡って来たのだから精一杯やらせてもらうさ。彼らみたいに役になりきってね。ガルルルル」

 ステイルが牙を剥き出して野獣となった。

「こんな時だけ懸命になるなっ! って、一方通行もかっ!」

 一方通行もまた逝っちゃった瞳で俺を見ている。

 ヤバい。4匹の野獣が俺を狙っている。俺は生命の危機を感じた。いや、生命以上の何かの危機を感じる。その危機が何なのか俺は分かりたくない。

「じゃあ、“パシャ”みんながやる気になったみたいだから“パシャ”撮影を始めるわよ。コイツを“パシャ”全力でやっちゃって頂戴」

「何平然と恐ろしいことを言い放ってくれてやがるんだっ!」

 気のせいか目を蘭々と輝かせているようにも見えるビリビリに抗議の声を上げる。

 だがその瞬間、4本の野獣達の手が俺に向かって伸びて来ていた。

 父さん、母さん。貴方達の息子は今日、未知なる世界に旅立ってしまうかも知れません。

 

 

 

6.いや、ニットベストがなかったとしても男の興味は惹けないから安心だなって思ってな

 

「って、危ねえっ!」

 水中に潜り水上に伸びる手をかわす。そのまま潜水して包囲網を突破する。

「甘いで、カミやんっ!」

 だが、包囲網を掻い潜ったと思ったのも束の間、俺は再び包囲されてしまっていた。

「今の僕らは猟犬。猟犬はチームで狩りをする。実際にチームを組んだことがなくても、今の僕らは本能でチームプレイが可能なんや!」

「変な所で危険な才能にばかり目覚めやがってぇっ!」

 怒りをぶちまけてみるものの圧倒的劣勢下にいる事実には変わりがない。

「悪いがこれも仕事だ。遠慮なく襲わせてもらうよ。ガルルルルルル」

「仕事だと言いながら獣の唸り声を上げてんじゃねえっ!」

「…………ケケケケ」

「お前はやっと喋ったと思ったらそれかっ!」

 1つだけ分かったこと。コイツら4人は本気で俺を襲おうとしているので間違いないということ。しかも4人から尋常でないオーラを感じる。俺の戦闘力を上回る気だ。これは上条さん大ピーンチ!

 この状況を一体、どうすれば?

 周囲を見回す。何か一発逆転に使えるものはないか……。

「…………どうして“パシャ”私はアイツが“パシャ”野獣達に襲われている所を“パシャ”興奮しながら写真撮影しているのかしら? “パシャ”これもきっとあの子、10032号が私に“パシャ”アイツ似の主人公が男達に襲われて滅茶苦茶にされてしまう薄い本を“パシャ”読ませたりするからなのよ。“パシャ”そうよ。私は10032号に良い様に操られているだけなのよ(伏線)」

 すると、ブツブツ言いながら熱心に写真撮影を続けているビリビリの姿が見えた。

「そうか。この手があったかっ!」

 息を思い切り吸い込んでプールのギリギリ底を潜水しながらビリビリが立つプールサイドへと近付いていく。

 そして一気に浮上して身体を水上へと飛ばしながらビリビリの腕を掴む。

「ちょっ!? 突然何をするのよっ!?」

「いいからお前も一緒に水の中に入りやがれぇ~~っ!」

 ビリビリを思い切り引っ張って水の中へと引っ張り込む。

「私制服のままなのに……馬鹿ぁあああああああぁっ!!」

 ビリビリは溜まらずに体勢を崩して水の中へと落ちて来た。大きな水飛沫が上がる。

 

「アンタ、何てことをしてくれるのよっ! 制服がぐしょぐしょで気持ち悪いじゃないのっ!」

 ビリビリは怒り心頭の表情で俺を見ている。

 確かに今のビリビリは着衣のまま水に入ったので服が大変なことになっている。けれど、ニットベストがあるので胸が透けて見えるということはない。いや、そもそも……。

「アンタ……一体どこを見ているのよ?」

 ビリビリは両腕をクロスさせて胸を隠した。

「いや、ニットベストがなかったとしても男の興味は惹けないから安心だなって思ってな」

 上条さんは別に胸の大きさで人を判断するつもりはない。でも、男の子なのでないよりはある方が嬉しい。ビリビリは……性別を気にせずに付き合えるな。

「失礼ねっ! 私だってAA……Bカップはあるんだからねっ! 貧乳扱いするなっ!」

「見栄は張らなくて良いぞ。お前はまだ中学生なんだし、無乳力者でも全然問題ない。まだこれからじゃないか」

 優しく微笑みかける。

 むしろ高校1年生にして、学園都市全女性の0.1%以下の割合でしか到達できないレベル5超乳力者になっている吹寄の方が異常なのだ。アイツが毎日飲んでいるむさしの牛乳にはきっと何かとてつもない秘密があるに違いない(伏線)。

「優しい瞳で私の胸を哀れむんじゃないわよ~~っ!!」

「グホォエッ!?」

 手を掴んでいた為に避けられない至近距離から良い左を頂きました。

 

「くぅ~。カミやんときたら、女の子になった分際でまだ女の子にちょっかい出そうとしているんだなんて許せないんだにゃ~」

「まったく、頭の中は女の子と仲良くしたいっちゅ~ピンク一色なんやろうな~。そして上やんを誘惑したそっちのお嬢さんも許せんな~」

「バイトの最中だというのに……嘆かわしい限りだね。これは2人とも厳しいお仕置きが必要だね」

「…………2人まとめてぶッ殺ス!」

 4人の激しい怒りの視線が俺とビリビリに向けられている。

「ちょっと!? 何で私まで狙われなくちゃいけないわけっ!?」

 俺に手を掴まれたままの状態でビリビリが焦っている。

「何でって、そりゃ~ビリビリがアイツらの野獣の魂を揺さぶるような企画を練り上げたからだろう」

「それじゃあ私が悪いっての!?」

「まあ、原因はともかくこの場を切り抜けられないことには俺もお前も待っているのは死だけだぜ」

 改めて4人を見る。瞳の中に“死”の文字が見えるようだ。

「つまりアンタは共同戦線が張りたいから私をプールの中に引きずり込んだと」

「まあ、そうだな」

 頷いてみせる。1対4で勝てないのなら数的不利を解消すれば良い。事態がこうなったのにはビリビリにも責任があるのだし丁度良いだろう。

 それに、ビリビリにだったら安心して背中を預けることも出来るしな。

「アンタねえっ!」

 ビリビリは当然怒った反応を見せた。だが、それで事態が良くなる訳じゃない。すぐに4人から発せられる気のヤバさを再認識したようだった。

「カミやんは女といちゃつきたいから戦うに違いないんだにゃ~」

「10年後の世界が上やんそっくりの子供で溢れないようにする為にはここで死んでもらうしかないで」

「世界の為とあらば仕方がない。2人ともここで死んでもらおう」

「…………殺スッ!!」

 4人の気が際限なく高まっていく。きっとドラゴンボールの世界ってこんな感じなのだろうなと感心してしまう程に強大な気が感じられる。

 

「ちょっと、どうするのよ? あの人達、怒りで我を忘れちゃっているわよ」

「ああ。それでいい。もっと怒らせてこそ勝機が見えるってもんだ」

 4人の戦闘力が俺を超えてしまっている以上、まともに戦っても勝ち目はない。

 敵の中に一方通行がいる以上、ビリビリといえどもまともに戦って勝機は少ないだろう。

「アンタには何か作戦があるって訳ね?」

「ああ。極めて単純なやつだけどな」

 ビリビリに力強く頷いて返す。

「で、私は一体何をすれば良いの?」

 御坂は表情を引き締めて尋ねて来た。こういう切り替えがキチッとしている所がコイツの頼もしい所だ。

「俺が合図したら、空に向かって思い切りレールガンをぶっ飛ばしてくれればそれで良い」

 俺は自分の前方仰角45度を眺めながら語った。

「あの人達を一箇所に集めてから私が攻撃するって訳ね」

 ビリビリは理解が早くて助かる。

「でも、どうやって?」

 ビリビリは首を捻った。問題はそこだ。隙だらけの所を一箇所に集めてレールガンでまとめて吹き飛ばせば俺達の勝利は確定。だが、どうやってその状況を作るのかが難しい所。

 けれど、それに関しても俺には秘策があった。

「それはな……こうやるんだよっ!」

 俺は御坂を両腕で思い切り抱き締めた。体が密着して御坂の体温を感じる。あっ、シャンプーのいい香りがする。それに体からも微かに甘い香りが。やっぱりコイツも女の子なんだなあ。

「えっ? ええぇ~~~っ!?」

 御坂が俺の腕の中で大声を上げた。コイツの驚きも無理はない。

 だが、俺の狙い通りならば……。

「「「「2人とも……殺スっ!!」」」」

 4人は一斉に水中から飛び上がり、空中から俺達を襲い掛かってきた。

 だがそれこそが俺の狙っていたことだった。

 幾ら奴らが裸によって超神速の動きを体得しているとはいえ、空中に飛び上がっていたのではそれを活かすことも出来ない。

 加えて……。

「「「「痛っ!?」」」」

 怒りに我を忘れた土御門達はチーム連携を忘れて各個に動いた為に互いに体を激しくぶつけ合った。その為に体勢も崩して隙だらけの姿を晒してくれた。

「今だ、ビリビリっ! レールガンをお見舞いしてやれぇ~~っ!!」

 絶好の機会が到来し、ビリビリに向かって発射を要請する。だが……。

「あわわわわわわ。わわわわわわあ。私、当麻に抱きしめられちゃっているよぉ~」

 ビリビリは熱暴走を起こしてしまっていた。それでレールガンを放ってくれない。

「おいっ! 早く撃ってくれないとあの4人が団子になったまま俺達に衝突するぞ!」

 御坂を抱きしめた腕を解きながら催促する。

「ダメっ! せっかくの機会なんだから離しちゃ嫌だぁっ!!」

 今度は御坂が自分から俺に抱き着いて来た。一体、何がどうしたって言うんだ!?

「はぁ? お前一体何を言って?」

「分かってるわよ。レールガンを撃てば良いんでしょ? 今撃つわよ」

 ビリビリは俺の腰に両手を回した状態でレールガンを発動させる準備に入る。

「せめて右腕は自由にした状態で撃てよ! って、アイツら、もう目の前まで来てやがる。ここは一旦回避してそれから……」

「レールガン……発射ぁああああああぁっ!」

「こんな無茶な体勢で、しかも敵が至近距離に迫っている時に撃つんじゃねえ~~っ!!」

 ビリビリがレールガンを発射するのと4人が固まって俺の上へと落ちてくるのは同時だった。

 プールは眩い閃光に包まれ、次いで巨大な水柱が上がった。

 俺達は皆、ビリビリのレールガンの暴走に巻き込まれた。

 

 

 

7. 何かさっきの言葉の中で“パシャ”って音が聞こえたのは気のせいですかねえ?

 

「しっ、死ぬかと思った……っ」

 気絶した御坂をお姫様抱っこの姿勢で抱き上げながらプールから出す。

「よいしょっと」

 プールサイドに上がった所でホッと一息つく。水から上がり体が軽くなったのを感じる。

 本当に危ない所だった。ビリビリがレールガンを発動させた瞬間、俺も幻想殺しを発動させた。けれど、半分しか相殺できず俺達はその爆発に全員巻き込まれた。

 水の中で気絶しなかったのは幸いだった。おかげでこうして気絶してしまっているビリビリを無事に水の中から引き上げることが出来たのだから。

「アイツらは……まあ、放っておいても平気か」

 土御門達も仲良く揃って気絶している。水着は焼け落ちてしまったのか全員全裸だ(読者サービス)。けれど、仰向けになってプカプカ浮いているし溺死の心配はないだろう。

 レールガンを食らった後遺症が出るかも知れないが、まあ元が変態なのでその変態が治る可能性もあると考えれば悪くないか(佐天さん第5話の症状とリンク)。

「まあ、何はともあれ一件落着だな」

 とりあえず死なずに事態を切り抜けられたことに安堵する。

「…………う……ん」

 ビリビリもタイミング良く目を覚ました。

「アレ? 何で私、当麻にお姫様抱っこされているの? 私まだ夢の中にいるのかな?」

 常盤台のお嬢様ならぬお姫様はまだ寝ぼけているようだった。

「目ぇ覚ませ。ここは夢の中じゃねえよ」

「現実の訳がないもん。だって、当麻が私のことをお姫様抱っこしてくれる訳がないんだもん」

「もんってあのなあ……」

 寝ぼけた御坂はちょっとした幼女退行を起こしているのかも知れなかった。俺の胸に頬を摺り寄せて悦に浸っているし。

 どうすればビリビリは起きてくれるだろうか?

 両手は御坂を抱き上げるのに使っているから使えない。さて、どうするか?

 ……あっ!

「御坂。もう起きる時間だぞ。…………ふぅ~」

 ビリビリの耳に息を吹きかけてみる。

「ひゃぁああああぁああああああああああぁっ!!」

 御坂は俺の腕の中で飛び跳ねた。

 

「なっ、何で私がアンタにお姫様抱っこなんてされているのよっ!?」

 起きた御坂は自分の置かれている状況を理解するや否や顔を真っ赤にして俺を怒った。

「何でって言われてもなあ。お前が自分で撃ったレールガンの反動で気絶しちゃったから溺れない様にここまで運んだんだろうが」

 感謝されこそすれ文句を言われる筋合いはない。

「気絶、運んだ……」

 ビリビリは俺の腕の中で顎に指を当てて考え込んでいる。そして突然パッと目を大きく見開いた。

「アンタまさか、気絶した私を蘇生する為とか言って人工呼吸とかしてないでしょうね!」

「してねえよっ! そもそも俺はお前を抱き上げているだろうがっ!」

 俺は自分の潔白を訴える。だが、多感なお年頃のお嬢様は俺の話を聞いてくれなかった。

「私の初めての唇を、寝ている間に強引に奪うなんて酷い。酷すぎるっ!」

「奪ってねえよ。それにお前の言い草は命懸けで人命救助に勤しんでいる人に対して失礼だっての」

「ちゃんと責任は取ってくれるんでしょうね? 男らしく逃げんじゃないわよ」

「責任取るようなことは何もしてねえっての。それに大体どう責任取れってんだ?」

「そんなの勿論私をアンタのお嫁さ……何でもないわよっ! …………ばか」

 ビリビリは急に顔を真っ赤にしながら俯いた。本当、訳が分からない。

「まあとにかく、そんだけ大声で文句が出せるのならもう大丈夫だろう。下ろすぞ」

 御坂を地面に立たせに掛かる。

 だが、そんな俺をビリビリは制した。

「待って。もうしばらくこのままがいい」

「どっか痛むのか?」

 顔を覗き込むとビリビリは益々真っ赤になった。

「痛くはないけれどこのままがいいの」

「何で?」

「……お姫様抱っこなんて夢みたいで……って、何ででも良いじゃないのよ。馬鹿ぁっ!」

 ビリビリは再び俺の腕の中で暴れだした。

「暴れる元気があるのならもう下ろしますよっと」

「…………何かさっきから腿やお尻に変な感触が当たってんだけど? 何、これ?」

「さあ? 何かプールのゴミでも張り付いたんじゃないか?」

 俺は御坂を地面に立たせた。

 

 ビリビリを離したことで彼女の温もりがなくなり随分ひんやりとした。いや、やたらひんやりとし過ぎている。特に下半身が涼し過ぎる。凄く、外気と風を敏感に感じる。まるで露天風呂にいるみたいだ。

 これは一体どうしたことだろう?

 俺は自分の体を確かめてみた。

「…………あっ」

 俺は何も身に着けていなかった。スッポンポンというやつだった(読者サービス)。

「なるほど。さっきのレールガンで俺の水着も燃え尽きてしまっていたと。いや、全然気が付かなかったね。あっはっはっはっは」

 土御門達の水着が燃え尽きたことには気付けても、自分も同じとは気付かなかった。

 もう笑うしかなかった。

 次の展開を考えると、もう笑うしかなかった……。

「アンタぁあああああぁっ! さっきは私に何てものを押し付けて“パシャ”、今度は何てものを晒してくれちゃってるのよぉ~~~~~~っ!!」

 ほらっ。御坂さんは怒り心頭なのだから。

「アンタなんて……大嫌いッ!! 死ネェエエエエエエエエエエエエェッ!!!!!!」

 この至近距離での超電撃、しかも場所は電気が流れる水だらけのプールサイド、そしてお姫様抱っこの疲労により何気に上がらなくなっている右手の俺に防ぐ手立てはありませんでした。

「………………何かさっきの言葉の中で“パシャ”って音が聞こえたのは気のせいですかねえ?」

 その言葉を最後に俺は光に呑まれて意識を失った。

「…………うう~。新婚初夜に見る筈のものをこんな形で見ちゃうなんてぇ~。うえ~ん……」

 最後にそんな声が聞こえた気がした。

 

 

 結論。お金を稼ぐのってとても大変です。

 みんなも無駄遣いは止めような。

 上条さんとの約束、だぞ。

 

 

 

 

 一方その頃学園都市内の某所では

 

「バストアッパーを扱っているのは……貴方なのでしょ。私にも譲って頂戴。私は。あの人に負けたくないの」

「ご安心を。私は思い悩む乙女の味方です。どうぞ大船に乗った気持ちでいて下さい。と、ミサカは新しいお客がやって来たことに内心でしめしめと思いながら親切丁寧な笑顔で接します」

「私も……レベルアップすればきっと彼に振り向いて貰える筈」

「勿論です。この世に胸の大きな女性が嫌いな男性など存在しませんから。と、ミサカはお姉さまから送られてきた画像掲載不可の据え膳物の写真に心の中で涎を垂らしながら力強く応対します」

「私……良いお嫁さんになるから」

「さあ、こちらがバストアッパーこと胸が大きくなる成分を科学的に調合したネオむさしの牛乳です。と、ミサカはあの方に相応しい女性はお姉さまではなく私、いえ、私達であることを再確認しながら脱法豊胸剤をお客様に売りつけます」

「土曜日は勝負よ……吹寄制理っ!」

「近い内に勝負ですね、お姉さまっ! と、ミサカは所詮はレベル5止まりのお姉さまに必勝を期すべく不適な笑みを浮かべるのでした」

 

 嵐は徐々に近付いていた。

 

 

 

 次回予告 

 

上の2人とはとりあえずあんまり関係なく、美少女JC達が水着姿でプールで戯れる

 

美琴「ていうか、一山超えたら水着回とか安くない?」♪♪

 

 美少女JC達がきゃっきゃうふふして水着が脱げたりするだけなのでサービスシーンは期待しないでください

 


 
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