No.212519

そらのおとしものショートストーリー 三角関係

という訳で水曜日はそらのおとしものの短編更新です。
短編は全部で8作ありますがその第5作目です。
今回は智子と美香子です。
ちなみにこれはイカロスから最終話のあの人までは基本的に全部を通して
1日で書いた物をアップ前日に加筆修正して発表しています。

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2011-04-20 00:44:27 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3560   閲覧ユーザー数:3269

 

 智子が智樹から分離独立して1ヶ月が過ぎた。智子は今では別人格、別人物として空美町で認知されるようになっていた。

 その智子は授業が終わって早々に愛しの君を捜しに新大陸発見部の部室へと向かっている。扉を開けて部室に足を踏み入れてみると……いた。

 智子の想い人は美少女フィギュアを手に取り、そのスカートの中を覗きながら物思いに耽っていた。

 メガネの奥のその瞳は確かに美少女フィギュアのパンツを眺めている。なのに遥か遠くを、そう、新大陸に想いを馳せているかのような澄んだ瞳をしていた。

「守形先輩、いつ見ても素敵ぃ♪」

 智子の憧れの男性の名は守形英四郎。智子の1学年上の先輩で、新大陸発見部部長。

 そして──

「智子ちゃ~ん。英くんに熱を上げすぎじゃ~ないかしら~。会長ちょっとお冠~」

 空美学園生徒会長五月田根美香子の想い人でもあった。

 

 

そらのおとしもの二次創作ショートストーリー 三角関係

 

 

「会長~。人の恋路を邪魔すると馬に蹴られて何とやらですよ」

 智子がブスッとした不満げな表情で美香子に非難の視線を送る。

 智樹は美香子を絶対的な力を持つ悪の存在として恐れている。しかし智子は美香子を特に恐れていない。喧嘩を売る行為だって特に深い考えもなく普通にしてしまう。

「なかなか面白いこと言ってくれるわね~。智子ちゃんは~」

 対する美香子は智子の態度が不思議でならない。

 前進制圧、敵は全て下郎なりをモットーにしてきた美香子にとって智子は生まれて初めて接するタイプの少女だった。

「どうやら智子ちゃんは対等な敵として接しなければならないようね」

 美香子が奢りを捨て智子を対等なライバルと認めた。

 口調にも普段の間の抜けた喋り方を止め、メリハリのある澄んだ声に変わっている。

「天も私たちの戦いを喜んでいるわよ」

 外を見ると雹が地面へと降り注いでいた。つい1分前まで快晴だったのにも関わらず。

「さあ、英くんのお嫁さんの座を賭けて勝負よ、智子ちゃん!」

 将星の宿命の下、智子に決戦を挑む美香子。

「ああっ、美少女フィギュアのパンツを1体1体確認しながら柄をチェックしてメモする姿も素敵♪」

 しかし、智子は少しも話を聞いていなかった。

「フッ、やるわね智子ちゃん」

 そんな智子に対して美香子は微笑を浮かべながら

「痛いっ! 会長痛いって! 俺、死んじゃいますって! 本気で、死ぬぅうううぅっ!」

 さっき校内で拾った木人形(でく)を握力400kgを誇る拳で殴りつけていた。

「ああっ、守形先輩素敵過ぎ♪ 今すぐでも結婚して欲しい♪」

 守形に夢中な智子は隣で起きている自分の元半身の惨劇に気付かない。

「助けてくれ智子……俺は、このままだと……本当に死んでしま……」

「智子はやっぱり花の乙女らしく、自分の恋に忠実に生きま~す♪」

 惨劇に気付かない。

「守形先輩っ♪ 智子行きま~す♪ 縮地~♪」

 智子が人間とは思えぬ超加速を見せながら守形へと迫っていく。

 その瞳は飢えた獣……には見えないが、恋する乙女の輝きに満ち満ちていた。

「そうはさせないわよ、智子ちゃんっ!」

 守形の貞操の危機を感じ取った美香子は手近にあった木人形を掴んで智子に向かって全速力で投げつける。

「あべしぃいいいいいぃっ!?」

 木人形は悲鳴を上げているがそんなことは美香子にとってどうでも良いことだった。

 智子が止まりさえすれば良い。ただ、それだけのこと。

「天翔竜閃っ!」

 智子はスピードを緩めて右手を居合い抜きの要領で振って突進を阻むソレを吹き飛ばす。

「うわらばぁあああああああぁっ!?」

 木人形は断末魔の叫びを上げながら窓ガラスを突き破って外へと落ちていった。

「さあ、先輩♪ 今度こそ智子と愛を育みましょう~♪」

 落ちていったアレのことは全く気にせず、再び守形の元へと足を踏み出す。しかし──

「フフフ。遅かったわね、智子ちゃん」

 智子の目の前には美香子が立っていた。

 しかも、制服からプロレスのコスチュームに変わっていた。殺る気は十分。

「会長もしつこい人ですね。そんな風にしているから婚期を逃しちゃうんですよ」

 智子もまた守形への突撃を止めて美香子と対峙する。

「智子ちゃ~ん。私が婚期を逃したってどういうことかしら?」

 いつもの余裕がまるで出せない。美香子は今、カチーンを越えそうな状況にあった。

「智子はまだ生まれて1ヶ月のピチピチなギャルですけど、会長はもう1×歳なのにまだお婿さんもいなくて必死になっているんだなと考えると可哀想だなあと思ってぇ」

「……英くんも私と同い年なんだけど?」

 ガタガタガタと激しく音を立てながら美香子の体が揺れる。

「男の人は年を重ねるほど円熟味が増すから良いんじゃないですかぁ。会長ったら、年のせいで頭がおかしくなったんじゃ?」

 美香子を本気で心配する瞳で見つめる智子。

「カチーンを通り過ぎてドカーンってなっちゃったわ」

 美香子が俯き

「死になさい、智子ちゃんっ!」

 そして顔を上げると同時に襲い掛かってきた。

「守形先輩っ、智子に力をっ!」

 美香子の全力の攻撃を正面から受ける智子。

 シナプスの超科学力のバグの産物として生み出されてた智子は、普通の人間とは少しだけ違う側面を持っていた。

 その内の一つがごく短時間だけだが発動できる怪力能力。

 握力400kgを誇る美香子と正面から取っ組み合いを演じていた。

「「ハァアアアアアアアァッ!」」

 竜の玉のような激しいオーラを巻き上げながら激しい取っ組み合いをする2人の少女。

 そんな2人の少女の存在に美少女フィギュアを机に置いた後で守形は初めて気付いた。

「何をしているんだ、お前ら?」

 守形はおかしなものでも見るかの様に瞳を細めながらそう呟いた。

「あの、これは……」

「違うのよ、英くん」

 部室で取っ組み合いをしている2人は確かにそれだけ見ればおかしな存在だった。

 守形の一言に固まってしまう2人の少女。

 そして入ってくる新たな珍客。

「守形お兄ちゃん。シナプスに遊びに行こうよ」

 見た目は幼女。中身は第二世代型最強エンジェロイドのカオスだった。

「ああ。いざ行かん、新大陸へ」

 守形はそう短く返事すると、カオスに抱えられながら大空へと飛び立っていった。

 智子たちのことは1度も振り返らずに。

 後に残されたのは守形を巡って争っていた智子と美香子。

「えっと、智子たちのライバルは……カオス、じゃないですよね?」

「せめてシナプスであって欲しいわね」

 智子と美香子は守形たちが飛び去っていった空をジッと眺めていた。

 プリティーくん人形が優しく2人を見守っていた。

 

 了

 

 


 
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