No.314128

僕と姫路さんと身体測定

ピンクの人の体重にまつわる話。
”にっ”派生は書き込んでいたデータが吹っ飛んだのでしばらくお休み。
life toucn no○eの書き込みライフノー○は起動は早いし軽いし、キーボードもあるからバスや電車で書き込むのに便利なのだけど……ちょっと指がtabとかの他のキーとかに掛かったりすると一瞬にして全文消えたりとか勘弁して欲しい。

あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。

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2011-10-07 13:04:26 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:8688   閲覧ユーザー数:7661

僕と姫路さんと身体測定

 

 

「今夜、私を明久くんのお家に泊めてくださいっ!」

 僕の腰に必死にしがみ付いてくる彼女。

 鼻に当たる髪のかぐわしい香りに思わずクラッと来てしまいそう。

 でも、そんな劣情に流されてしまいそうな自分を律して彼女の体を突き放す。

「だ、ダメだよ、姫路さん。そんなこと、認められる筈がないよ」

 彼女、姫路さんは僕の拒絶の言葉を聞いて悲しげに瞳を潤ませた。

「どうしても、ダメ、ですか?」

「ダメだよ。姫路さんを同じ屋根の下に泊めるなんて僕にはできない」

 首を横に振る。

 こんな可愛い女の子と2人きりで一緒に寝泊りしていたら、僕の理性はどうなってしまうかわからない。

 姫路さんは僕の大切な友達。

 姫路さんを傷付けるような真似はしたくない。

 けれど、姫路さんの反応は違った。

 彼女は全力で僕に抱きついて来た。

「明久くんが受け入れてくれないのなら、私はここで舌を噛んで死にますっ!」

「馬鹿な真似は止めるんだ、姫路さんっ!」

「私は本気ですっ!」

 姫路さんは舌を出してみせた。

 その動作はとても可愛らしい。が、やろうとしていることは自殺に他ならない。

 命を担保にした交渉。

「思い直しては、くれない、かな?」

「明久くんが泊めてくれるのなら舌を噛むのはやめます」

 姫路さんの言葉に強い芯を感じた。

 彼女は可愛い顔に似ずとても頑固な一面がある。

 その頑固さが彼女の成績を学年トップクラスに押し上げているのは間違いない。

 でも、今は死をも辞さない危険な覚悟に凝り固まる方向に具現してしまっている。

 僕が泊めると言わない限り彼女は本当に舌を噛み切ってしまうかもしれない。

 

 弱りきった僕は周囲のクラスメイトたちを見た。

「泊めて欲しいとこんなにも頼んでいるのだから泊めてやれば良いじゃないか」

「雄二は他人事だと思って簡単に言ってくれちゃって」

 予想はしていたけれど、雄二に姫路さんを説得する気は皆無。

「それとも何だ? お前は自分を必死に頼ってくれている姫路にいかがわしいことをするつもりなのか?」

「そんな訳がないじゃないかっ!」

「じゃあ、泊めても何の不都合もないだろう」

「ウッ……」

 雄二は僕を助けるどころか丸め込んでしまった。

「お願いします、明久くん。私を、泊めてくださいっ!」

 雄二の助力を得た姫路さんは深々と頭を下げた。

 戸惑った僕は秀吉とムッツリーニに視線で助けを求める。

 けれど、2人は静かに首を横に振った。

 もはや僕に彼女を断る手立てはなかった。

 軽く息を吐いてから姫路さんの両肩に手を添える。

「わかったよ、姫路さん」

「えっ。それじゃあ……」

 姫路さんが期待に満ちた瞳で僕を見る。

「僕の家に泊まっていってくれないかな?」

 あくまでも僕が提案した体裁をとる。

 これで、後で何か問題が生じたとしても姫路さんには責任がいかないで済む。

「はっ、はい。よろしくお願いしますっ!」

 姫路さんは元気良く頭を下げた。

 頭を下げた際の彼女の表情は本当に嬉しそうなものに見えた。

 この顔が見られただけでも僕は今まで生きてきた甲斐があったと思う。

 僕の人生は間違ってなかったのだと。

 

「そう。アキは瑞希を泊めるんだ。アキから瑞希に泊まっていくようにお願いするんだ」

 1人の少女がポニーテールを揺らしながら教室を後にした。

「……包丁……1回で楽に……アキが可哀想……」

 美波が何を言っているのか小さ過ぎて聞こえない。

 けれど、美波の背中は何故か僕をドキドキさせっ放しにするのだった。

 

 それは、ともかくだ。

 今は僕の家に泊まりに来ることに対してお姫様にもう1度真意を確かめておかないと。

「それじゃあ、今日から明久くんの家で絶食ダイエットの始まりですね。明後日の身体測定まで頑張ります♪」

 姫路さんは満面の笑みを浮かべた。

「姫路さん全然太っているように見えないんだから、絶食ダイエットなんて必要ないのに」

 姫路さんの場合、どうしてもその豊かな胸の方に僕たち男の視線は集中してしまう。

 姫路さん本人はウエスト回りをミリ単位で気にしているのだけど、僕としては全然気にならない。 美波ほどじゃないけれど女性らしい腰のくびれになっているし。

「それじゃあダメなんです! 何としてでも1学期の測定よりも体重が減ってないとダメなんです! この間明久くんも私の身体測定の結果を見ましたよね?」

「いや、別に気にしないで良いんじゃないかなと……」

 姫路さんから慌てて目を逸らす。

 僕と一緒に姫路さんの身体測定の結果を見て“転校”しちゃった須川くんと横溝くんのことを思い出す。

 “最初からいなかった”ことにされた2人がどこに“転校”したのかとても気になる。

 けれど、それを追求しちゃいけないことは僕にもわかる。

 それは僕も“転校”する結果しか招かない。

「明久くん、まさかあの数値について誰かに口外したりなんてことは?」

「女性のプライバシーをむやみに口外するなんて許されないことだよね!」

 瞳がトロンとした姫路さんに慌てて反論する。

 今確かに須川くんと横溝くんが姫路さんの後ろで手を振って僕を招いていた。

 川の対岸から。

まだ逝ってたまるかっての!

「私は後2日で3kg痩せないと先学期の体重を下回ることができないんです! だから、明久くんの指導の下でしっかり絶食ダイエットしたいと思うんです!」

「えっ? それって、先学期より3kg増えてるってこと?」

 姫路さんの先学期の体重に3kgプラスすると……ええっ!? いや、だって、そんな!

「明久くん……余計なことを考えたら須川くんたちが“迎え”に来ちゃいますよ」

「僕の心はいつでも無ぅっ!」

 僕は心の中で須川くんと横溝くんにさよならをした。

 しばらく再会する気はない。

「それじゃあ今日からダイエットを一緒に頑張りましょうね、明久くん♪」

「僕はダイエットしたくてするんじゃなくて、単に食べ物を買うお金がないだけだけどね」

 両手を突き上げる姫路さんに苦笑して頷く僕。

 こうして僕は姫路さんと絶食ダイエット生活を送ることになった。

 

 

 

 あれはそう、今から3日前の放課後のことだった。

 

 その日も僕らはFFF団の活動に勤しんでいた。

 他人の幸せを許さない僕らは霧島さんに言い寄られていた雄二を追跡して校内中に散らばっていた。

 けれどFFF団に追われるのに慣れっこになっている雄二はなかなか捕らえられない。

 それどころか見失ってしまい、僕はその報告の為にF組に戻った。

「あれっ? 須川会長、それに横溝くん。もう戻ってたんだ」

 教室には黒装束を脱いで荒い息を繰り返す2人の姿があった。

「何だ吉井。お前も逃げられたのか?」

「うん。完璧に見失っちゃってね」

 3人で溜め息を吐く。

 雄二の逃走術は日増しに凄くなっている。

 それに元々悪知恵はよく働くのでどうも最近手玉に取られてしまっている。

「雄二を捕まえるには何か新しい手を考えないとダメだね」

「よしっ、だったら坂本の弱みを握って逃げられないようにするのはどうだろうか?」

「坂本の私物を漁って脅せそうな材料をみつけよう」

 こういう話がすぐ出てくる辺りがF組のF組たる所以だと思う。

 そして2人は既に雄二のちゃぶ台に向かって歩みを進めていた。

 こういう悪い方向への行動力の高さがF組のF組たる所以だと思う。

「けど、雄二の私物を漁ったのがばれたら後で仕返しされそうな気がするよ。100倍返しで」

「「あっ!」」

 2人は開け掛けていた雄二のかばんを放り投げ出した。

 こういう考えなしの行動辺りがF組のF組たる所以だと思う。

 そして放り投げられた雄二のかばんは運悪く姫路さんのかばんに当たってしまった。

「「「あっ!」」」

 更に運の悪いことに姫路さんのかばんの口が開いてしまったのだ。

 かばんの中からバサッと飛び出していくノートや教科書。

「ど、どうしよう?」

「お、落ち着くんだ吉井っ! お、俺たちは落ち着かなきゃいけないんだ!」

「そういう須川こそ落ち着けってぇのぉ!」

 FFF団は決して女の子には手を出さない。女の子の嫌がることはしない。

 そんな鉄の掟があるのに僕たちは姫路さんの学校生活の妨害をしてしまった。

 これは許されざる行為だった。

「と、とにかく姫路さんの私物をかばんの中に戻そう」

「そ、そうだな」

「綺麗に戻せば俺たちが不幸な事故でかばんを開けてしまったとはわからないもんな」

 3人で慌てて姫路さんのかばんへと近づく。

 そして僕たちは運悪く発見してしまった。

 

 『身体測定記録』という名のパンドラの箱を。

 

「ど、どうしよう、これ……?」

 その恐怖の二枚折のカードを前にして僕は震えていた。

「こ、これは女子のプライバシーの塊なんだぞ。中身を見ようものなら殺されても仕方ない代物だぞ」

 須川くんの言う通りだった。

 しかも、これはあの姫路さんの身体測定記録。

 そこに書かれている数値を知ってしまうことがどれほど恐ろしいことか。

 体中の震えが止まらなかった。

 けれど、横溝くんだけは違った。

 彼はあまりにもチャレンジャー精神に溢れ過ぎていた。

「だが、俺は神罰が下ろうとも見るぜ。姫路のバストサイズがどうしても知りたいんだぁ!」

「「や、やめるんだっ!」」

 僕と須川くんが止めようとした時には遅かった。

 横溝くんは姫路さんの個人データ満載のカードを開いてしまった。

 そして僕の目にも姫路さんの体の秘密に関する幾つかの項目が目に入ってしまった。

 

「身長152cm。姫路さん小柄で可愛いもんね」

 僕の目に入ってしまったのが胸囲の項目でなくてホッとした。

「姫路さんが気にしている体重は……あれっ?」

 僕はその数値を読み上げることができなかった。

 何かの間違いかなと思った。

「えっと、確か人間の適正体重って身長-110だったっけ?」

 細かいことは覚えてないけれど、確かそんな基準があった筈。

「姫路さんの場合は……えっと、胸が大きいから基準が当てはまらないんだよね?」

 だって、身長170cmをちょっと越している僕と姫路さんがほとんど同じ体重だなんて、そうとしか考えられない。

 姫路さんの体重が、身長-100を上回っているなんて何かトリックがあるに違いない。

 だけど、体中から嫌な汗が吹き出て止まらない。

 今にも恐怖から大声で叫び出したい衝動に駆られる。

「やっぱりこれは見なかったことにしよう。ねっ、須川くん。横溝くん」

 精一杯の笑顔を作りながら2人を振り返ってこのカードの存在をなかったことにする。

 けれど──

 

「えっ? 2人とも? どこに行っちゃったの?」

 2人の姿はF組のどこにもなかった。

 僕と同じように怖くなってどこかに逃げたのだろうか?

 でも、それにしては逃げ出す気配も音も何も感じなかった。

 スゥーと幽霊のようにいなくなってしまった。

 そんな感じ。

 一体、2人はどうしちゃったんだろう?

 不思議がっている僕に答えは後ろから聞こえて来た。

 

「須川くんと横溝くんなら“転校”、しちゃいましたよ」

 

「転校!? 何でそんな急に!?」

 振り返ると、自分の髪の毛を口に咥えた、絶対零度の瞳を持つ雪女みたいな雰囲気の少女が立っていた。

「ひぃいいいいいいいぃっ!?」

 飛び上がって驚いてしまった。

 体の震えが今までと比較にならないほど大きくなる。

 けど、少女、姫路さんの顔を見たら誰だってショック死するほど驚くに違いなかった。

「明久くんもしちゃいますか、“転校”?」

 ウサギの髪留めの目がギロッと光った気がした。

 そして後ろ手に見えないように隠している左手に何か赤いものが付着した大きな石が見えた。

「ひぃえええええええぇっ!? 何でも言うことを聞きますから、どうか命ばかりはお助けくださいぃいいいいいぃっ!」

 姫路さんに向かって全力で土下座する。

 本能が土下座しなければ命がないことを告げている。

 僕は深々と土下座を続けた。

 そして──

「もぉ~命ばかりはお助けくださいって何ですか? 私が明久くんにそんな酷いことをする訳がないじゃないですか」

 姫路さんは頬をプクッと膨らませてくれた。

 それは明らかに怒っていた。

 でも、命の危機は過ぎ去った。

 それを実感させる怒り方だった。

 

「明久くんが今見ていたものを誰かに口外するようなことがあれば、明久くんも“転校”しちゃうことになりますから気を付けてくださいね♪」

 訂正。僕の命の危機は全然過ぎ去っていなかった。

 今は死刑執行猶予期間なだけなのかもしれない。

 

「それと、身体測定の結果を見てしまったのでわかるとは思いますが、私にはダイエットが必要なんです。だから、協力してくださいね。私の秘密を知ってしまった明久くん♪」

 姫路さんは絶対零度の瞳を僕に向けた。

「イエスッ! ユア・ハイネス!」

 僕は姫路さんに絶対の忠誠を誓った。

 

 こうして僕は姫路さんのダイエットを手伝うことになった。

 その顛末が、姫路さんが僕の家で絶食ダイエットを行うという提案と僕らのやり取りだった。

 

 

 

 そんなやり取りの末に姫路さんは僕の家にやって来た。

 経緯はともかく女の子、それも学校を代表する美少女が泊まりに来たとあっては緊張しないはずがなかった。

「あの、姫路さん。本当に良いの? 僕の家なんかに泊まり込みしちゃって」

「はい。明後日の身体検査が終わるまで不退転の決意です」

 姫路さんの意思は固い。

「でも、ご両親が反対してるんじゃ?」

 年頃の娘が男の家に泊まることを奨励する両親はそうはいない筈。

「お母さんはこれを持たせてくれました」

 そう言って姫路さんが見せてくれたもの。

 それは『安産祈願』と書かれたお守りだった。

 何と答えたら良いのか微妙すぎてわからない。

「お父さんはもしもの時用にとこれを持たせてくれました」

 防犯ブザーか何かだろうか?

 お父さんはやっぱり年頃の娘のことが心配で心配で堪らないのだろうと思う。

 そう言って彼女が見せてくれたもの。

 それは姫路さん側の欄が全て記入済みの『婚姻届』だった。

 どんなものよりも抑止力がある防犯グッズだった。

「後、幾つかこの家に隠しカメラと録音機を仕掛けさせてもらいました♪」

「そんな真似しなくても僕が姫路さんに酷いことするわけがないって」

 やっぱり僕はいまいち信頼されていないのだろうなあ。それも当然の話だけど。

「……カメラは美波ちゃんや木下くんたちライバルに私たちの“記念”を見せ付けて諦めてもらう為なんですけど。だから明久くんには野獣になってもらわないと私が困ります」

「えっ? 何か言った?」

「いいえ、何も言ってませんよ♪」

 姫路さんは天真爛漫な顔で微笑んで返した。

 やっぱり姫路さんには清純派美少女という言葉がよく似合う。

 でも、そんな笑顔がよく似合う美少女だからこそ今回の提案は僕としては薦められない。

「ねえ、姫路さん。女の子が絶食ダイエットだなんて絶対に体に悪影響を及ぼすよ。姫路さんだけでも少しは何か食べた方が良いよ」

「この家には何も食べるものがないじゃないですか。だから、私も明久くんにお付き合いするしかありませんよ」

 確かに姫路さんの言うとおりにこの家には食べ物と呼べるものがまるで存在しない。

 瓶に入った塩を食料とは世間一般では呼ばないのでこの家に食べられる物は何もない。

「でも、姫路さんはお金持っているでしょ? 何か最低限の食事は買って来て食べた方が良いよ」

「それじゃあ絶食ダイエットの意味がなくなっちゃいます」

 姫路さんは頬を膨らませてしまった。

 彼女の決意は固いようだ。

 

「じゃあさ、テレビでも見る? それともトランプでもする?」

 時計を見ると7時になるかならないか。

 お金のある時なら食事時だけど、お金がない今は暇を持て余す時間帯だった。

「明久くんは普段通りに生活していてください。私は明久くんの邪魔をしたいわけではありませんので」

「そ、そう?」

 姫路さんにはそう言われてしまったけれど、別に僕は生活の中で大層なことをしているわけじゃない。

 宿題だってまともにやらないようなダメ学生。

 家でよくやる趣味といえばゲームぐらい。

「……じゃあ、格闘ゲームでもやろうかな」

「はいっ。私は横で見ていますから明久くんはゲームを楽しんでくださいね」

 姫路さんのいる前で攻略途中のギャルゲーをやる気にはさすがになれなかった。

「遊ぶのはこの『俺の妹がこんなに可愛いわけがない かなかな道場出張版』で良いんですよね?」

「畜生ぉおおおおおおぉおおおおおおおおおおぉっ!」

 最も知られたくないゲームの存在がいきなり姫路さんにばれました。

 父さん……僕はもう生きていく気力がどこにも湧き出しません。

 

 

 

「そろそろ、9時だね……」

「そ、そうですね」

 姫路さんが僕の家に来てから数時間が過ぎた。

 姫路さんには普段通りの生活を送って言われているけれど、初恋の女の子と2人きりで緊張しないわけがない。

 雄二が泊まりに来ているのとは違う。

 顔から冷や汗が止まらない。

 ちなみに雄二は姫路さんと親しそうに話していたのが霧島さんにバレて天に召された。

 情報提供者は僕だけど何の問題もないだろう。

 この状況を招いたのは雄二の煽りが原因でもあるんだし、そもそも雄二が霧島さんとラブラブしていなければ僕が姫路さんの体重を知ることもなかったのだ。

 そういうわけで雄二の死は自業自得なのだ。

「あの、明久くん。どうかしたんですか? 体中から凄い汗が出ていますよ?」

 今は雄二の犬死を論じている場合じゃなかった。

「いや、これはね……」

「もしかして、ダイエットなんですか? ダイエットなんですね! 自室なのにサウナ気分に浸っちゃって汗を流す空想ダイエットなんですね!」

「何その斬新なダイエット方法っ!?」

 姫路さんのボケボケな回答に驚かされる。

「いや、これは姫路さんと2人きりで家にいるという事実から緊張しちゃってるからで……」

 姫路さんは一本ネジが抜けているというか、思考回路がどこかズレている。

「あの、明久くん……」

「何、姫路さん?」

 急に姫路さんは俯いてしまった。

 一体、どうしちゃったんだろう?

「あの、私、勘違いしちゃっても良いですか?」

「えっ? 勘違いって?」

「その、明久くんが緊張しているのは単に女の子と2人きりだからじゃなくて……私と、一緒だから。なんて……」

 姫路さんが顔を上げて僕の目をジッと見る。

「私、明久くんに意識されてるって勘違いしても良いですか?」

 祈るような姫路さんの表情。

 それを見て僕は──

「勘違いはダメだよ」

 首を横に振って答えてみせた。

「そ、そうですよね。明久くんに意識されているなんて私の思いあがりですよね」

 姫路さんが悲しげに俯く。

 今にも泣き出してしまいそう。

 僕はそんな彼女の手を強く握った。

「勘違いなんかじゃないからさ」

「えっ?」

 驚いた声を上げながら姫路さんが顔を上げる。

「僕が姫路さんのことを意識しているのは勘違いなんかじゃないから」

「本当ですか、明久くん?」

 姫路さんの顔がパッと花が咲いたように輝く。

そして僕は一気に自分の思いの丈をまくし立てた。

「だって僕は……ずっと前から姫路さんのことが大好きなんだからっ!」

 勢いで言っちゃったけれど、長い間温めてきた想いを口に出せてスッキリした。

 僕は、ずっと前から小学校の頃から姫路さんが大好きだったんだ。

 

「う、嬉しいです、明久くん。私も、明久くんのことがずっと好きでした」

 涙を流しながら僕の告白を受け入れてくれる姫路さん。

 姫路さんも僕のことを好きでいてくれたなんて嬉しい。

「これで僕たち両想いだね」

「そ、そうですね」

 両想い。

 その言葉を口にすることで更に気分が高揚し、でも反対に緊張もしてきた。

「えっと、僕たち、恋人同士になったのかな?」

「私は明久くんのことが好きで、明久くんも私のことが好き。だから、私たちは恋人同士だと思います」

「そっか。僕たち恋人同士なんだ」

「はい……」

 2人して俯いてしまう。

 どうしようもないぐらいに恥ずかしい。

「その、恋人同士ってどうすれば良いのかな? 僕、女の子と付き合うなんて初めてだからどうしたら良いのかよくわからなくて」

「私も男の子と付き合うのは初めてだからわかりません。でも……」

 姫路さんが僕に近づいてその瞳を潤ませた。

「恋人同士はやっぱりキス、するものなんじゃないでしょうか?」

 姫路さんの瞳は潤んでいる。その頬は上気して赤く染まっている。

 かっ、可愛い。

「キス、して良いの?」

 僕は段々と目の前の新しくできた彼女を前にして理性を失いそうになっている。

「私と明久くんは恋人同士なんですから問題ないと思います」

 そう言って姫路さんは目を閉じた。

 意外と大胆なんだな、姫路さん。

 男として、彼氏として負けてはいられない。

 なけなしの勇気を振り絞る。

「じゃあ、キスするよ。姫路さん……」

「はい。明久くん」

 震える手で姫路さんの両肩を掴み、ゆっくりと彼女の綺麗な顔に自分の顔を近付けていく。

 2人の顔の距離が段々と近づいていく。

 

 5cm

 4cm

 3cm

 2cm

 1cm

 

 2人の唇と唇が重なろうとするまさにその瞬間だった。

 

 交わした約束忘れないよ~目を閉じ確かめる~押し寄せた闇振り払って進むよ~

 

 僕の携帯が自己主張して着信を知らせた。

「「あっ」」

 慌てて離れる僕と姫路さんの顔。

「この着信音は、美波?」

 ちょっと前に放映していた魔法少女アニメ。

 その作品中に美波そっくりな声で喋る巨乳の女の子がいた。

 だからその作品のOPを美波の着信音にしてみた。着信音で笑えてしまう。

 真相を話したら美波に殺されるから告げていないけれど。

「何でこのタイミングで電話が掛かって来るかなあ?」

 不満タラタラに受話器を持つ。

「あ、あの、私。先にお風呂を頂いてきちゃいますね」

「あっ。うん」

 姫路さんは恥ずかしさに耐えられなくなったのかリビングを出ていってしまった。

 

「仕方ない。キスはしばらくお預けにしないとね」

 溜め息を吐きながら電話に出る。

「どうしたの?」

 別に美波に非はないのだけど声が尖ってしまっている。

「……アキ、今瑞希は何をしているの?」

 美波の声も何故か尖っていた。

 尖っているというよりも感情を全て押し殺そうとしているというか。

「姫路さんなら今お風呂に入っているよ」

「そう。入浴中……なんだ」

 美波の放つ沈黙が重い。

 一体、何だと言うんだ?

「……あのさ、アキ……」

「あっ、そうだ。美波」

 今急に思い付いたことを美波に提案してみることにする。

「…………何?」

「美波に姫路さんのことで相談に乗ってもらいたいことがあるんだけど、ほんの少しで良いから会って話ができないかな?」

「……瑞希のことで、相談?」

 そうだよ。女の子のことは女の子に聞くのが一番早い。

「実は今さっき、ほんの3分前に姫路さんと恋人同士になったんだ。でも、僕、女の子とどう付き合えば良いのかわからなくって。それで美波に教えてもらおうと思って」

「………………瑞希と、恋人同士になったんだ」

「うん。実は僕たち長い間両想いしていたってわかってね」

 やっぱり人に話すのはとっても恥ずかしい。

「………………アキと瑞希が恋人同士。しかもまだ3分しか経ってないのに瑞希はお風呂に入っている。なるほどね」

「ご、誤解しないでよっ! 姫路さんがお風呂に入っているからってそういう意味じゃないよっ! 僕たちまだキスもしてないんだからぁっ!」

 大声で誤解を解こうとする。

 いや、誤解、だよね。

 だって、そんな、姫路さんと僕が……なんて。

 いや、でも僕と姫路さんは恋人同士。

 そして2人は健全な高校生の男女。

 えっ、これって、もしかしてっ!

「…………丁度良かった。アキ、これからちょっと出て来られる? 話があるの」

「わ、わかったよ。今すぐ出るよっ! どこに行けば良いっ!?」

 恋人同士の2人きりの夜ということを意識した途端に緊張で心臓が大変なことになり始めた。

 とてもこの家になんかいられない。

 この家で姫路さんと2人きりなんて危険すぎる。

 今日は美波にも僕の家に泊まってもらうことにしよう。

 じゃないと危険すぎる。

 主に僕の理性がぁっ!

「…………じゃあ、文月学園の旧校舎の屋上まで来てくれる?」

「今すぐ行くよっ!」

 電話を掛けながら玄関に向かって歩き出す。

「…………そう。じゃあ、気を付けて学校まで来てね。悔いが残らないように家をよく眺めてから」

「へっ? 何で?」

「…………何でもないわ。…………さようなら」

 美波との通話を終えて学校に向かって走り出す。

 

 念願叶って姫路さんと恋人同士になることができた。

 後はできたばかりの彼女とどう接していけば良いのか美波に聞けば良いだけ。

 ついでに美波も泊まっていってくれると僕の心の動揺も収まる。

 

「よしっ。姫路さん、待っていてね。僕は美波と会って君と幸せになるからっ!」

 

 僕は幸せと言う名の未来に向かって今確かな1歩を刻み始めた。

 

 バカとテストと召喚獣 瑞希シナリオ HAPPY END

 


 
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