No.203056

これはゾンビですか?  いえ、パンツ伯爵です

これはゾンビですか? の二次創作作品です。
原作を知らない方でも楽しんで頂けるように努力してみました。
というか、ネタバレを回避する為にヒロインズは目立ちませんので悪しからず。
代わりにこれからクラスメイトたちをもっと愛してあげてくださいという感じです。

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2011-02-22 04:02:15 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:9224   閲覧ユーザー数:8939

総文字数17,000字 原稿用紙表記56枚

 

これはゾンビですか?  いえ、パンツ伯爵です

 

「ぼーいずべーあんびしゃすだぜ、相川ぁ」

「お前が言うと犯罪っぽいからやめろ、織戸」

 夏休み前の照り付ける日差しだけでもう勘弁なのに、ツンツン頭のメガネ男に抱きつかれて俺は本気で死にそうだ。

 ゾンビ舐めんなよ。幾ら放課後の教室の中とはいえ、日が差し込む場所じゃ3歳児並の能力しか発揮できなくなるんだぞ。バ~カ!

 あっ、俺、ゾンビっす。もう死んでるっす。って、今は自己紹介している場合じゃない。

 早くこのバカを引き離さなくては。

「もしくはカッとなってやった。今も後悔していない。だよな、相川?」

「悪い。犯罪者っぽいじゃなくて、もう犯罪者だったな、お前」

 早くこのバカを引き離して通報しなくては。

「で、犯罪者様は何をそんなに浮かれてるんだ? まさかロリ少女でも誘拐したか?」

 織戸と同じくクラスメイトのアンダーソン(下村)くんと三原かなみにアイ・コンタクトを送りながら尋ねる。

 このバカが本当に誘拐でもしていようものなら、通報&被害者の救出に働いてもらわないといけない。

 アンダーソンくんと三原はコクンと頷いた。へっ、頼りになる奴らだぜ。

 そんな俺たち3人のやり取りを見ながら当惑しているお下げ髪の美少女が平松妙子。

 学年トップの成績を誇る優等生な平松も、人付き合いは苦手な為か俺たちの怒涛のやり取りに付いていけないようだ。

「ロリ少女を誘拐? バカを言うな。俺はスラッとした脚を持つ大人が好みだ。今は」

「じゃあ織戸はスラッとした脚の女子大生を誘拐したのだな?」

 2人に視線を送る。だが合図の前にバスケ部出身の三原は既に俊敏に携帯を取り出して『110』番を押していた。同じくバスケ部のアンダーソンくんは屈伸運動を始めていた。へっ、本当に頼りになる奴らだぜ。

 平松、このクラスから逮捕者が出るのは心優しいお前には辛いだろうが耐えてくれ。

「何をバカなことを言っているんだ、相原? 男子高校生が心踊る瞬間といえば恋と相場は決まっているだろうがぁっ!」

「学業や部活に真面目に打ち込んでいる全世界の男子高校生に謝れ」

 高校生がみんなお前みたいな桃色ピンク頭ばっかりだったら世界の未来は本気で危ない。

「恋か、なるほどね」

「いいね~いいねぇ。弄り甲斐がありそうなネタでいいねぇ。私も心躍るわ」

 って、アンダーソンくんと三原が織戸の意見に同意しちゃっている?

 お前ら、諦めたらそこで終了ですよのスポ根バスケ選手じゃなかったのかよ?

「……恋……ポッ」

 平松までぇっ!?

 平松はこの学校どころか、全国模試でさえ成績上位者に名前を連ねる秀才なのに。何故、この変態の言葉に耳を貸すんだぁ!?

 だが、事ここに至って形勢は俺が圧倒的に不利。ならば、適当に織戸の話を聞いてさっさと流してしまった方が良い。

「で、織戸さんがお惚れになったのはどんな子だったんだよ?」

 どうせAV女優とかそんなのだろう。

「ああ、後姿で顔は見えなかったんだけど、脚のスラッとした子でさ。身長は相川と同じぐらいか」

「俺と同じぐらいってことは相当身長高いな、その子」

 俺と同じということはバスケ部の三原よりも更に高いわけだ。俺の中の織戸の想い人のイメージが一気に大人びる。

「だけど、彼女の本当の魅力はあんな大人びた脚を持っているのに、魔法少女みたいなフリフリドレスを着て活動的に動いていた所なんだ」

「なかなかに興味深い女性だね」

 首を振って頷くアンダーソンくん。

 だけど俺は織戸の言葉に素直に同意することができなかった。

 誤解のない様に言うが、俺だって魔法少女のコスチュームは大好きだ。

 セクシーお姉さんレイヤーがそんな格好をしてくれれば、そのギャップに萌えてしまうだろう。

 だが、それはドレスを着ているのが綺麗なお姉さんだったらという前提でのお話。

「その子の他に特徴は?」

「……そう言えば空を飛びながら学ラン着た巨大フクロウと戦っていたな、あの子」

「本物の魔法少女なのぉ? 何それぇ~っ?」

 三原は声を上げて笑っている。けれど、俺は笑うことができなかった。心当たりがありすぎるのだ。

「それで戦いの最中にその子が空から落ちてきてさ、俺の顔にぶつかったんだ。ピンクの縞パンがパンチラ、いや、パンモロだった」

「空から降って来た女の子のパンツを見てしまう出会いはこの世界の常識だからね。なるほど。うんうん」

 そんな何度も頷いてアンダーソンくんは一体どんな世界に住んでいると言うんだ?

 いや、俺があのちっぱい魔装少女に初めて出会った時も同じシチュだったが。

「それ以来俺は彼女に夢中さ。フクロウと戦う彼女のパンツをずっと追いかけていた。下から丸見えだったんだ」

「三原、やっぱり通報してくれ」

「うん」

 通話ボタンを押そうとする三原とそうはさせまいとする織戸の攻防戦。

 しかし俺には織戸のバカが警察に捕まるかどうかよりももっと気になることがあった。

「織戸はその魔法少女みたいなのとフクロウの戦いを覚えているのか?」

 魔装少女の持つ魔法の力で戦いに関する記憶は全て消されている筈なのに何故?

「ああ。どうも前後で記憶が繋がらない部分はあるんだが、パンツとセットになっている光景はみんな覚えているさ」

「パンツの力は偉大だね。うんうん」

 ヴィリエの魔法、パンツに敗れちゃったよ。

 ゴッド、奴にもっと人並みの祝福をあげてください。そうすればパンツ伯爵は魔法の力に屈するはずですから。

「俺、あのピンクの縞パンのパンチラ主を探し出して告白しようと思うんだ」

 織戸の決意を聞いて俺は背筋が震えた。震えまくった。震えない筈がない。

 織戸の鼻息は荒い。口から涎まで垂らしている。告白ってお前、一体を何する気だ?

 織戸を見ながら全身の悪寒が止まらない。

「しかし織戸、その子の顔も見ていないのでは君好みかどうかわからないんじゃ?」

 良いこと言った、アンダーソンくん。織戸よ、その告白は絶対に思い留まるべきだ!

「あんな綺麗な脚を持ち可憐なパンチラをする女の子が美少女でないわけがない!」

 織戸の言い方はいつになく無駄に男らしい。だがその見解は激しく間違っているぞ!

「美少女とは限らないじゃない。もしかするとおばさんだったり、男が女装しているだけかもよ」

 三原も良いこと言った。って、まさかお前もあの光景を見ていたのか?

「俺はあの子の脚とパンチラに夢中なんだ。もう年上とか年下とか美少女とか美少年とか関係ないね。ハァハァ」

 やべえよ、コイツ。人として越えちゃいけない一線を余裕で高飛びしちゃったよ。

「……そんなに……好きなの? その人のこと?」

 最後の頼みの綱だ、平松。真面目なお前に言われれば織戸も目を覚ますかもしれない。

「俺はあの子を愛してるんだ! ハァハァ」

 やべえ。織戸の鼻息超荒いっす。涎垂らしまくりでハァハァ言ってるっす。

 完璧にケダモノと化してます。このバカ。

「俺、あの子を探し出して告白してくるわ」

 織戸はズボンのベルトに手を掛けながら教室を走り去っていった。何故ベルトを外す?

「今の織戸がその彼女をみつけたら確実に犯罪に走るな」

「このクラスから本当に犯罪者が出ることになるとはねぇ」

「……何か……手を打たないと」

 3人は織戸が犯罪者になることを前提に対策を話し始めた。それを聞きながら俺は気分が酷く滅入っていた。

 俺の貞操大ピンチっす。人生最大に危機っす。俺、もうゾンビっすけど。

 後、言い忘れていたことが一つあるっす。

 俺、魔装少女っす。

 ピンクの縞パンのパンチラを振り撒きながらメガロとかいうあの世から来た何だかよくわからない怪物と戦ってるっす

 織戸に貞操を狙われている俺は一体、どうすれば良いっすか?

 

 

 

 ゾンビである俺は日中動き回ることができない。

 織戸を捜しに行けない代わりに対策会議に付き合って1つの結論を導き出した。

「……その、他の人のパンツをあげて……織戸くんの興奮を鎮めたら……どうかな?」

 提案者が真面目な平松なのは意外だった。でも悪くない提案だった。顔を真っ赤にして恥ずかしさと戦いながら一生懸命提案してくれたのだと思う。

「パンツを以てパンツを制すか。悪くないね」

 俺もアンダーソンくんも賛同した。ただ、問題な点が1つあった。

「だけど誰のパンツをあげるの? 私は嫌よ」

「……男の人に……下着あげたら……恥ずかしさで死んじゃうよ」

 それはパンツ提供者がいないことだった。至極当然の話だったが。だが、その難問に対して俺は光明を見出していた。

「パンツに関しては俺に心当たりがある。任せてくれ!」

 力強く立ち上がりながら宣言する。狙われているのは俺の貞操なのだし、自分が何もしない訳にもいかないだろう。

「相川にはパンツくれる彼女がいるの?」

「……相川くんに彼女……そんなぁ……」

 平松が急に落ち込んで机に突っ伏してしまった。一体何故?

 だけど俺はこうして織戸を封じる策を得たのだった。

 

 すっかり暗くなった夜道を全速力で走る。

 ゾンビの脚力は凄い。人間は普段体を酷使から守る為に力を無意識にセーブしているが、ゾンビにはその必要がない。

 その気になれば潜在能力の10倍ぐらいまで引き出せる。言い換えれば界王拳と同じ力を引き出せるのがゾンビなのだ。

 この力をもってすればほんの数十秒で家まで辿り着いてしまう。元々歩いて5分だけど。

「しかし、昨夜の戦いを織戸に見られていたとはな」

 走りながら昨夜のメガロとの戦いのことを思い出す。

 メガロは出現する場所と時を選ばない。しかし例外なく動物の姿で、何故か全員黒学ランを着ているので見分けるのは容易い。

 昨夜現れたのはフクロウのハカセー(仮名)だった。魔装少女に変身してもなかなか近寄ることさえできない強敵だった。

 途中で1度地面に叩き落されて、何かを踏んでしまったとは思っていたのだが、まさか織戸だったとは。メガロ以上に厄介なものに目を付けられてしまったもんだ。

「だが、織戸のバカだって俺のパンツよりは本物の美少女のパンツの方が良いだろうよ」

 幸いなことにうちには極上の美少女が3人も居候している。

 その内の誰かのパンツを与えれば奴の俺に対する変態極まる下劣な欲望もただの美少女エロへと昇華されるだろう。

 そしてもしもうちの美少女たちを狙うようなら切り刻んで東京湾に捨てれば良い。

「我ながら完璧な計画じゃねえか」

 全身を駆け巡っていた悪寒、尻に感じていた緊張感が一気に解けていく。雪解け、デカルトの時代だ。うん、何かおかしいか?

 まあ良いさ。

「待ってろ、織戸。俺が今、極上のパンツを手に入れてやるからなっ!」

 気が付くと家を通り過ぎて隣町まで走ってきてしまっていた……。

 

 

「ユー、頼みがあるんだっ!」

 「ただいま」の一言も言うのももどかしく、玄関で靴を脱いで居間へと駆け込んで行く。

 するとそこには腰まで届く長くて綺麗な銀色の髪をした少女がお茶を片手に正座して佇んでた。

 プレートアーマーにガントレットという西洋騎士風の出で立ちが和室の居間には一見不釣合いにも見える。

 しかし少女の物静かな佇まいは和と洋を完璧に調和させていた。

『歩 おかえり』

 少女はちゃぶ台の上のメモ帳にペンを走らせ口の代わりに文字で挨拶を示してくれた。

 少女の名はユークリウッド・ヘルサイズ。通称ユー。

 小柄な中学生のような外見をしているが、その正体は何と冥界から来たネクロマンサー。

 俺はユーの力によりゾンビとして蘇生してもらったおかげでこの世に留まっていられる。

 いわばユーは俺の命の恩人だった。いや、俺はもう死んでいるのだけど。

 そしてユーには人をゾンビにするだけじゃなくて、他にも強大な力を有している。

 その内の1つが、ユーの喋った言葉の内容が彼女の意思に関係なく現実化してしまうというもの。

 たった一言、「あー」とか「いー」とか言うだけでもこの世界に大きな変化をもたらせてしまう。

 だからユーは決して喋らない。世界に悪影響を与えたくないから。人を傷つけたくないから。ユーは心根のとても優しい少女だから。

 って、今はユーについてのんびり解説している場合じゃない。織戸のバカを止め、俺の貞操の危機を防がなくては。

『歩 どうしたの? 辛そう』=『お兄ちゃん、大丈夫? ユー心配だよぉ』

 俺の脳内で妹変換されるユーの気遣いがありがたい。よし、今だ!

「頼む、ユー。俺のパンツになってくれっ! お前が俺のパンツなんだっ!」

 うん? 何か言い間違えた気もする。けど、ユーならわかってくれるだろう。

『歩』

 ペンを走らせながらユーはにっこりと笑った。

 良かった。ユーにはあれだけで通じたようだ。よし、これでユーのパンツが手に入って一件落着。

って、どうしてユーさんは俺を見ながら口を開いているのでしょうか?

 

「死んで」

 

 清涼感に満ちた綺麗な声が耳に届いた。

 ユーの言葉は本人の意思に関係なく現実化してしまう力がある。では本人が望んだ場合はどうなるだろう?

 うん、考えるまでもなく俺は死ぬな。

「グッ!?」

 ほらっ、思った通り。俺は自分の心臓が急停止して動かなくなったのを確認しながらゆっくりとちゃぶ台に崩れ落ちた。

 

 

「ゾンビでなかったら今頃完全に死んでたぞ」

 頭を擦りながら2階に向かう。

 俺はゾンビなので死んでも生き返ってしまう。そして生き返る度にユーの「死んで」でまた殺される。

 そんなやり取りを10回ほど繰り返した後、俺は自ら鼓膜を破りユーの言葉を聞こえなくして居間から速攻逃げ出した。

 

『お兄ちゃんが急にエッチなことを言うから、ユー恥ずかしくなっちゃったぁ』

 

 ユーの行動を俺なりに妹風味に解釈しながら次なる交渉相手の元へと向かう。

「ハルナはいつもパンツ1枚でうろうろしているし、意外に交渉は上手くいくかもな」

 俺が向かっているのは、自称天才魔装少女ハルナの部屋だった。

 ハルナはヴィリエという名前の異世界から来た、見た目は中学生ぐらいの茶色掛かったショートカットのアホ毛を立てた女の子。

 魔装少女とは、メガロを刈る存在らしいのだが、その辺は今どうでも良い。

 問題なのは、ハルナとメガロの戦いの場に偶然俺が居合わせてしまったこと。そして俺が(正確には俺に力を与えているユーが)ハルナの魔力を吸い取ってしまったこと。

 そのせいで俺はハルナの代わりにフリフリドレスの魔装少女となってメガロどもと戦わなくてはいけなくなった。

 で、パンチラ大サービスをしている内に織戸の変な探知機に引っ掛かってしまった訳だ。

「ハルナ、話があるんだ!」

 ノックもせずに扉を開ける。すると中には上半身裸で下は水色の縞パンのみという格好のハルナがいた。

 ちなみにハルナがこんな格好でいるのは露出癖があるからじゃない。魔装少女の変身に失敗すると服が勝手に消え去ってしまうからだ。

 ハルナは自分に魔力が戻ったか定期的に変身を試みて確かめている。結果、いつも裸(ら)。実にけしからん少女なのだ。だが、それが良い。

「いきなり何を開けているんだ、このバカ野郎がぁっ!」

 ハルナが無を5回ほど付けたくなるほど貧しい胸を晒しながらぶん殴ってくる。隠せば良いのに愛い奴だ。せっかくだから脳内メモリに保存しておく。

 ちなみに俺は胸が小さい方が好きだ。大きいのも嗜むが。だが、ロリコンじゃねえ!

 中学生からが良い。いや、中学生が大好きなんだ!

 そんなことを考えながら殴られていると、ハルナは慌てて引き返してTシャツを上から羽織った。チッ。

「で、アユムは一体何の用だ?」

 ブスッとした表情のハルナ。当たり前なのだが機嫌はすこぶる悪そうだ。

 慎重に言葉を選んで伝えなくては。よし!

「ハルナ……俺は、お前……が欲しいんだっ!」

 流石に恥ずかしくて『のパンツ』の部分が大声では言えなかった。

「あっ、あっ、あたしが欲しいって……あっ、あっ、アユムにはまだ早~いっ!」

 ハルナは顔を真っ赤にして怒っている。やはりパンツが欲しいというお願いには無理があったようだ。にしても、まだ早いって後ならくれるのか?

「でも、アユムがそんなにもあたしのことを好きだと言うのなら、ちょっとだけ、か、かっ、考えてやらないこともないぞ」

「おおっ、本当か?」

 これであのパンツ色情狂を鎮める為のリーサルウエポンが手に入る。

「そ、その……優しくだぞ。少しでも痛いことをしたら絶対に許さないからなっ!」

 ハルナは顔を真っ赤にして湯気を噴き出しまくっている。凄まれても全然怖くない。

「じゃー、早速パンツをくれ。織戸に与えて鎮めるから」

「いっ、いきなりパンツを脱げって言うのかよ!? この、ケダモノぉっ! って、うん?」

「別に穿いているのをくれと言っているんじゃない。って、どうした?」

 ハルナが疑惑の総合商社な眼差しで俺をジッと見ている。ホワイ?

「どうしてあたしの脱ぎたてのパンツをあのエロ猿にやるんだよ?」

「別に脱ぎたてでなくて良い。って、織戸に与えるのが目的でお前に頼んだのだし」

 今度はハルナの体が震え始めた。はて?

「アユム……お前はあのエロ猿に売りつける目的であたし……が欲しいと言ったのか?」

「売りつける訳じゃないが、まあそうだな」

 そして震えるハルナ山は俺の返事を聞いて大爆発を起こした。

「あたしの体を弄ぶだけじゃ飽き足らずっ、その上あたしのパンツで商売なんて……この全宇宙のあたしの敵がぁ~っ!」

 荒れ狂う大自然の驚異の前に人間は無力だった。俺、ゾンビっすけど。

 

 

「こうなったらセラに頼むしかねえな」

 ハルナの説得にも失敗した俺は再び階段を降りる。

 俺が向かっているのは台所。おそらくセラはそこで料理と自称する放射性廃棄物よりも危険な物質を生成している筈だ。

 セラは本名をセラフィムと言い、吸血忍者という謎な職業をしている、見た目は俺と同い年ぐらいの超ナイスバディーな女の子。

 吸血忍者とは、文字通り吸血鬼で忍者らしいのだが、その辺はやはりどうでも良い。

 大事なのは、吸血忍者が内部分裂状態に陥ってその調停の為にユーを頼り、特使としてセラを我が家に派遣して来たことだ。気が付けばうちにすっかり居座っている。

 セラは任務に忠実というか、曲がったことが大嫌いな性格だ。その割に秘剣燕返しというひん曲がる剣技が大好きなのだけど。

 そして嘘がつけないバカ正直というか、歯に衣着せない毒舌家だ。俺なんてクソ蟲呼ばわりされている、Mには堪らないお姉さんだ。

 更に料理が神の領域に達するほど下手だ。料理の天才ハルナと比べるとその腕前の差は比喩ではなく天地ほどの開きがある。

 そして極めつけにセラは自分の料理が下手だと気付いてないし、指摘しても認めない。かなり致命的にイタイ奴でもあった。

 だが、あのお色気ムンムンのナイスボディーを包むパンツの戦闘力はロリっ娘ハルナ&ユーにも劣らない。

 いや、大人の色気を愛する織戸にとってはセラのパンツが最強の筈だ。

 よしっ、この勝負、もらった!

「セラ、頼みがあるんだ!」

 のれんをくぐり台所へと踏み入れる。

 そこにはドラム缶をガスコンロにかけて紫の煙を噴き上げさせているセラの姿があった。

「悪い、俺の勘違いだった」

 この後の展開を予想し、速やかに回避行動に移る。

「待ちなさい、クソ蟲。私に頼みがあるのでしょう?」

 しかし回り込まれてしまった。セラはポニーテールを振り回しながら俺の退路を的確に断っている。

「俺の勘違いだった」

「この料理の試食と引き換えに頼みを聞きましょう」

「頼みなんかない……」

「なくてもいいから食べなさいっ!」

「要らねえよ! …………って、プグっ!?」

 ついカッとなって大口を開けてしまったのは痛恨の失敗だった。

 一流の剣士でもあるセラがそんな大きな隙を見逃す筈がなかった。

 俺の口の中にはセラが作っていた真っ黒い“何か”がスプーンごと放り込まれていた。

 その“何か”は既にスプーンを溶かしており、後1秒俺の口に入るのが遅ければ床に落ちていたことだろう。チッ、惜しいことを。

「なあ、これ何だ?」

 意識を失う前に確かめてみる。ゾンビである俺を昏倒させるこの暗黒物質の正体を。

「見てわかりませんか? 湯豆腐ですよ」

 チッ。クリームシチューに山張ってみたが、セラの答えは予想の更に斜め上を行っていた。

 俺もまだまだだなと思いながら目を閉じる。

 結論、この家でパンツを得るのは無理、だと。

 

 

 

 

「色々と手を尽くしてみたが、パンツを入手することはできなかった。スマン」

 翌日の放課後の教室で俺はアンダーソンくんたちに結果報告を行い頭を下げて謝罪した。

「まぁ、パンツをくださいなんて交渉は上手くいかないのが普通だよ」

「むしろあげる娘はかなりヤバイわよ」

 2人は俺の失敗を許してくれた。でも、平松だけは難しい顔を崩さなかった。大口叩いて失敗した俺を怒っているのだろうか?

「……その……あのね……」

「何だ、平松?」

「……いるの、相川くんには?」

「何が?」

 スタンドとか守護キャラの話だろうか?

「……彼女」

「へっ?」

「……だから、彼女はいるの?」

 最初は聞き間違えかと思ったけど、そうじゃなかった。

「生まれてこの方16年、彼女はできたことがない」

 居候ならうようよいるけど。俺、ゾンビだけど。

「……そっか。良かった」

 平松はパッと顔を輝かせた。よくはわからないがどうやら許してもらえたらしい。

「良かったわねぇ、妙ちゃん」

「……べ、別に何でもないよ」

 三原は平松の頭を撫でながらおもちゃにしているし。一体何なんだ、この光景は?

 

「しかし、パンツがないことには織戸くんを止める方法がない」

 アンダーソンくんが溜め息を吐く。彼の言うことはもっともだった。

「そうよねぇ。織戸がいつその魔法少女もどきに遭遇するかわからないから時間もないし」

 昨夜はメガロが現れなかったので織戸に襲われることもなかった。

 しかし三原の言う通り、残された時間は幾らもなカト考えるべきなのだろう。

「やはりパンツを至急確保する必要があるな」

「……却下」

 三原の目を見た途端に俺のアイディアは却下されてしまった。目だけで全てを悟るとは、本当に頼もしすぎる奴だぜ。

「織戸にパンツをあげるぐらいなら死んだ方がマシよ」

「否定することができない重い言葉だな」

 日常生活の中でクラスメカトからこんな悲壮めいた覚悟を聞かされることになるとは。

 だが、ここで諦めてしまっては俺の貞操が危ない。しかも俺の場合はゾンビなので自殺さえ許されない。

 三原がダメなら残るは……。

「平松、2人きりで話がしたいんだ」

 平松に1対1で交渉するしかない。

「……ふっ、2人きりって……急に、そんなぁ」

 平松は目を大きく見開いて驚いている。

「妙ちゃ~ん、2時間ぐらい帰って来なくて良いわよぉ」

「グッドラックだね、平松」

「……えっ、ええ~!?」

 何をこいつらは盛り上がっているのだろうか?

 2時間って、俺が映画にでも誘うと思っているのか? それともカラオケか?

 だが、どちらにせよ俺が頼れるのはもう平松しかいない。

「行こうぜ」

 多少強引だが平松の手を取って教室の外へと連れ出す。

「……う、うん」

 俺の後ろをとぼとぼと付いてくる平松の顔は真っ赤だった。

 

 

 夕暮れの屋上に平松と2人立つ。

 昼間ほどじゃないが、夕暮れの太陽光は俺から体力と思考を奪う。早く交渉を済ませないといけない。

 俺は平松の手を強く握って顔を覗き込む。

「大事な話なんだ」

「……う、うん」

 平松は俯いて目を合わせてくれない。

「平松っ、俺は……」

「……は、はいっ!」

 平松の体が硬くなるのがわかる。緊張と不安が見て取れる。でも、俺は言わなくちゃいけないんだ。

「俺は平松のパンツが欲しいんだぁっ!」

「……わ、私も、相川くんのことがずっと前からっ! ……へっ?」

 平松が大口を開けたまま止まっている。戸惑っているのだろう。

 だが、パンツを求めたら問答無用で殺しに来た相川家の居候たちより好感触なのは間違いない。ここは一気に畳み掛ける!

「頼む、平松のパンツを俺にくれっ!」

 土下座して頼み込む。俺の人生でこんなに必死になったのは初めてのことかもしれない。何しろ俺の貞操が掛かっているからな。

「……でも、私の下着なんて、地味だから……織戸くんの興味は惹けないよ」

 土下座している頭をちょっとだけ上げてみる。

 ……眩いばかりの純白が目に入った。

 涙が、出た。

「俺には平松の白が必要なんだっ!」

 清純な女学生は白に限る。柄や色なんて、清純派の前には必要ないんだ。とても大切なことを教えてくれてありがとう、ゴッド。

「……そんなことを……言われても。でも、どうして私の下着の色を知っているの?」

 平松の問いには答えられない。ただ、黙って平松の白を見上げ続ける。

「……真剣、なんだね」

「ああ、これ以上ないぐらいにな」

 貞操の危機と平松の白。これで真剣にならない奴は男じゃない。

 俺の超ド級真剣土下座は1分以上に及ぶ。そして──

「……いいよ」

 平松はとても小さな声でそう呟いた。

「……私の下着、相川くんにあげる、よ」

「ほ、本当かっ!?」

 裁判で勝利したような、いや、神様の降臨を偶然見たかのような感動がこみ上げる。

 平松の背後に光が、後光が差して見える。

「……織戸くんにあげるのはダメだけど、相川くんになら……いいよ」

「ありがとう、平松っ!」

 何かが本末転倒な気がしないでもないけれど、遂にパンツを手に入れる当てを得た。

「……それで、いつ、渡せば良いの?」

 完熟トマトよりも真っ赤な顔で平松が尋ねてくる。

「できれば今すぐ欲しいな」

 織戸もメガロも動きが読めないから一刻も早く封印アイテムが欲しい。

「……それって、今すぐ脱がないとダメってこと?」

 ゴッド。

 俺はいつの間にか貴方と同じ高みに上り詰めてしまったようです。

 何やら凄い勘違いをしている平松に俺が言ってあげられるのはたった一言だけ。

「お願いしますっ!」

 もう織戸のバカのことなんかどうでも良い。俺は今、純粋に平松のパンツが欲しい。

「……恥ずかしいから向こうを向いていてね」

 恥ずかしそうに視線を上に逸らした平松は──

「……ぞ、象が空を……飛んでいる……ウッ」

 空を飛んでいる学ラン姿の象を見て気絶してしまった。パンツを脱がないまま。

 そう言えば平松って、お化けとか幽霊が嫌いだったっけ……。

 

 

「相川。随分怒っているようだね」

 いつの間にか後ろにアンダーソンくんが立っていた。

「ああっ、こんなに怒ったのは生まれて初めてだ」

 先ほどまでメガロが飛んでいた地点を睨みながら告げる。

 俺は自分を殺した犯人を捜している時だってこんなに怒ったことはない。怒りの炎が全身から沸々と湧き上がって止まない。

「すまないが、平松の面倒を頼む」

 平松を抱きかかえてアンダーソンくんへと託す。

「君はどうする? いや、聞かないでおこう」

「重ねてすまないな、アンダーソンくん」

 時々だが、アンダーソンくんは全てを知っているのではないかと思うことがある。

 日本人離れした体格や顔はもしかしたら日本人、いや、人間ですらないかもしれない。現に俺の周囲には異界から来た者が多いわけだし。

 だけど今の俺にとって大事なのはアンダーソンくんの正体じゃない。

 俺から平松の白を奪ったあのメガロをこの世界から消失させること。絶対に奴だけは許さねえ。

限界の限界を超える2千パーセントの一撃を打ち込んでくれる。

「それじゃあ、俺は行ってくるぜ」

 平松とアンダーソンくんに背を向け俺は狩人として覚醒を──

「その前に君に渡したいものがある」

 遂げようとして引き止められた。

「俺に渡したいもの?」

 首を傾げながら振り向く。するとそこにはピンクの縞パンを右手に持ったアンダーソンくんがいた。

「そのパンツは一体どこから……?」

 それは、俺が魔装少女となって戦っている時に穿いているものと瓜二つだった。

「俺が準備したものだよ」

「……大変な世話を掛けたな」

 アンダーソンくんは昨日、俺たちと別れた後にデパートまでこのパンツを買いに行ったに違いない。

 縞パンを吟味しながら漁る長身のイケメン。さぞ、周囲の目がきつかったことだろう。それを思うと涙が込み上げてくる。

 涙を零さない様に上を向きながら縞パンを受け取る。その縞パンはほのかに温かかった。

「織戸くんに新品のパンツを渡しても効果は薄いだろう。だから俺が直前まで穿いて温めておいたのさ」

「アンダーソンくんが女だったら、俺は確実に惚れていたな」

「フッ、よせやい」

 男だからちょっと殴ってやりたいけどな。

 だが、織戸にくれてやるには最適な兵器だ。

「問題解決の鍵、ありがたく受け取ったぜ」

 縞パンを硬く握り締めながら屋上を出る。

 思えば自分で積極的にメガロを倒したいと思ったのはこれが初めてのことかもしれない。

 魔装少女としての使命をこんなにも肯定的に捉えたのも初めてのことだ。

 けれど、細かいことはもうどうでも良い。俺にはメガロを倒す理由がある。そして俺にはメガロを倒す力がある。

 動機と実行力があれば今は十分だ。

 さあ、ここからは……狩りの時間だ。

 

 

 

 その気になれば無敵になって万事が解決。

 そう思い込んでいた俺がバカだった。アニメの主人公と自分を同一視して脳が毒されてしまっていたのかもしれない。

 

「ノモブヨ、ヲシ、ハシタワ、ドケダ、グンミーチャ、デー、リブラ!」

 

 魔装少女に変身してあの象のメガロ(俺はカトちゃんと名づけた)を追えばすぐにでも倒せると思い込んでいた。

 魔装少女になった俺は空だって飛べるし、力だって通常の10倍以上出せる。つまり、界王拳百倍以上の力を発揮できる。

それにやる気にもなったのだから今日のメガロもすぐに倒せると思い込んでいた。

 けれど、現実はそう甘くなかった。

「畜生っ! どっから出てきやがる?」

 象のカトちゃんは俺に一撃加えては離脱して姿を隠す所謂ワン・ヒット・アウェイ戦法を取ってきた。しかも、隠れたと思ったらいきなり背後から攻撃してきやがる。

 カトちゃんの動きがまるで捉えられない。

「地味に効くな、この攻撃は……」

 鳩尾を押さえながら周囲を警戒する。

 カトちゃんの攻撃力は人間なら即死ものだが、メガロの中では強い方でもない。しかしその分、急所を突いてくる。スピードとテクニック重視のメガロと見て良いだろう。

 俺がゾンビである以上死という敗北はないが、倒せないのでは意味がない。

「しかし何故奴は俺の死角をいきなり突けるんだ?」

 カトちゃんの動きは確かに速い。が、目で追えない程ではない。

 俺の視界から抜け出た瞬間に超高速移動を開始している可能性もある。しかしそれなら最初から超高速移動を使って俺を叩けば済むだけの話だ。

「カトちゃんには何か秘密があるってな」

 無邪気な楕円形の瞳の深淵、とくと拝ませてもらおうじゃねえか!

 高い遮蔽物の少ない公園の上空でメガロの襲撃を待つ。

「来たっ!」

 すると、予想通り死角となる真下から学ランを来た象が凄い勢いで突っ込んできた。

 俺は敢えて鼻攻撃を受けながらメガロの様子をよく観察する。すると見えた。

「リボン?」

 カトちゃんの耳付近には蝶々リボンが結わえられていた。そんなもの、さっきはなかった筈だ。

 だがリボンが気になって、カトちゃんが茂みの中へ隠れるのをジッと見つめていると、今度は背後から突如攻撃を受けた。

「本当に瞬間移動ができんのかよ!」

 悪態を付きながらもカトちゃんへと振り返る。そして俺は見た。

「リボンが、ねえな……」

 俺に頭突きをかましたカトちゃんにはリボンがなかった。

 

「なるほど。種が明かされてみりゃ簡単なことだったな」

 俺に頭突きをかましたカトちゃんを必死に追いながら独り呟く。

「つまりこいつら、2匹いるってことだな!」

 カトちゃんの攻撃方法の秘密。

 それはカトちゃんが超高速移動して死角から攻撃して来たのではない。2匹が連携し合って死角から襲って来ていたのだろう。

「1匹はカトちゃんで、もう1匹はカトコちゃんってか」

 リボンを付けた方をカトコちゃんと命名しながら俺はカトちゃんを視界からロストしないように食らい付く。

 敵の戦術がわかった以上迎撃は下策。追跡して1匹ずつ仕留めていくのが上策だ。

 カトちゃんが樹木の間に隠れようと関係ない。追跡して炙り出すまで!

「うぉおおおおおおぉっ!」

 木の枝が自分の体を傷つけて行くのも構わずに、カトちゃんが降り立った地点へと一直線に突っ込んでいく。

「みつけたぁっ!」

 そして俺は、樹木の裏に身を潜めていたオレンジ色の象をみつけた。

「千パーセントッ! 覚悟ぉおおおおぉっ!」

 最大級の怒りを拳に込めて、カトちゃんに向かって一気に振り下ろすッ!

「グッハァアアアアァッ!?」

 だが、拳がもう少しでカトちゃんに当たるという所で、俺は大きく吹き飛ばされた。

 カトコちゃんの鼻攻撃だった。

「ヘッ。ようやく2匹ともお揃いになってくれたか」

 俺の目の前にはカトちゃんとカトコちゃんが並んで立っていた。俺の仮説が正しかったことがこれで証明された。

「それじゃあこれからが本番だぜッ!」

 そして俺はまた錯覚を抱いてしまった。

 敵の攻撃の秘密さえ暴けば勝てる少年漫画の主人公になったかのような錯覚を。

 

 

「畜生っ、こいつら隙がねえじゃねえかっ!」

 姿を明かしても2匹の連携は完璧だった。いや、姿を隠す必要がなくなった分、近距離からより密な攻撃を仕掛けて来た。

 俺が一方を攻撃しようとするともう一方が攻撃して来る。2匹同時に相手にするには奴らの方が技量が上だった。

「1対2じゃ勝てないって訳かよ」

 1対1か2対2に持ち込まないと勝てそうにない。

 だが、こんな時に頼りになる筈のセラは一向に援軍に来る気配がない。もしかすると、自分の料理を味見して気絶しているのかもしれない。そうでなくても、なかなか助けに来てはくれないのだが。

 そんなことを考えて油断した隙に象の鼻と頭の攻撃を食らって大きく吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされ先が掃除用具などを入れている倉庫で、接着剤でも潰したのか体中に色々な物が張り付いている。

 頭にも……ウッ、モップの毛が張り付いてやがる。視界は悪いし、髪が急に伸びたみたいで気持ち悪いじゃねえか。

 愚痴りながら外へ出る。すると、そこにはツンツン頭のメガネ男が立っていた。ゲッ。

「ずっと、貴方のことを見ていました」

 織戸はやたらと真剣な表情をしていた。

「ずっと貴方のパンツを見ていましたっ!」

 千パーセントの一撃をこのバカの顔に叩き込みたくなる。

「じゃなくて、貴方の戦いをずっと見ていました」

 うん?

 織戸の奴、俺の正体に気付いていないのか。

 暗いからかもしれない。このモップの毛が俺の顔を隠しているからかもしれない。

 何にせよ、俺にとってはラッキーだった。クラスメイトに魔法少女衣装で戦っていることがバレたら恥ずかしさで死んでしまう。

「苦戦しているようですね」

 返事は言えない。声を出せば正体がバレかねないから。

 代わりに首を縦に小さく振る。

 喋りたくても喋れないユーの気持ちが少しだけわかった。いや、あいつは俺とは比べ物にならない悲壮な覚悟で喋らない訳だが。

「何か俺に手伝えることはありませんか?」

 織戸の口調も瞳もいつになく真摯だ。よほど俺の身を案じているのだろう。

 その心遣いはありがたい。けど俺は首を横に振った。

 人間とメガロでは力が違いすぎる。戦闘に巻き込んでしまえば織戸は確実に死ぬ。

「……俺にできることはないです、か。そうですよね。どう見てもあいつら、人間とは比べ物にならない力を持ってますもんね」

 織戸は目に見えて落ち込んだ表情を見せる。だが、ここで安易に同情して戦いに巻き込めば取り返しの付かない事態に陥る。

 心を鬼にして織戸には何も言わない。

 でも俺はゾンビであって鬼ではないので役割の代わりにプレゼントを与えることにする。

 アンダーソンくんにもらったアレを取り出して織戸に渡す。

「これは貴方のパンツ!? な、何で俺に?」

 「餞別だ」と言ってやりたいが、それすらも叶わない。

「あっ、ありがとうございます」

 そう言って織戸は……パンツを躊躇なく頭にかぶった。

 しかも片目を塞ぐ眼帯風に。

「やっぱりお前死んで良いよッ!」

 この、パンツ伯爵めが!

「えっ? 今、喋っ?」

 危ねぇ。もう少しで正体バレる所だった。

 女装して、しかも少女ものの縞パンをプレゼントする男だと知られたら、俺は全力で太陽に消失させてくれる様に祈るしかない。

 とにかく織戸の変態はもう放っておいて、もう1度カトちゃんたちに挑むしかない。

「あっ、待ってくださいよ」

 織戸が付いてくるが無視する。戦いが始まったら公園を離れよう。そうすれば織戸はもう付いて来られないだろう。

 

 広場に戻ると、カトちゃんとカトコちゃんが並んで待っていた。だが、様子が変だった。

「セイヤーッ!」

「クーッ!」

 今まで一言も発しなかった2匹が奇声を上げながら突っ込んで来た。織戸に向かって。

「ちょっ? 嘘だろぉ!?」

 変態でも身体能力は普通の人間である織戸にメガロの攻撃が避けられる訳がない。

 俺は織戸を抱えて慌てて宙へと逃げる。

「ユンケッ!」

「ルーッ!」

 だが2匹は連携を取ることもなく一直線に俺たちを追って来る。

 どうやら織戸のパンツスタイルが事の他ご立腹のようだ。まあ、俺があいつらの立場でも同じ行動を取るだろうが。

「あいつら何で急に怒り出したんだ?」

 そしてメガロの行動の意味を全く理解していないパンツ男が1人。

 ゴッド。本当に頼むからこいつをもう少しだけ愛してやってくれよ。

 だがこの状況は俺にとっては好都合だった。

 今のあいつらは全く連携が取れていない。それどころかどちらが先に攻撃を仕掛けるかで邪魔し合っている。

 このチャンスを逃したら俺に勝ち目はない。

「なあ、俺の為に死んでくれるか?」

 上空へと昇っていきながら織戸に尋ねる。

「随分ハスキーな声なんですね」

「そんなことはどうでも良い。俺の為に死んでくれるのか?」

「漢、織戸。貴方に出会った瞬間からこの命は貴方の捧げると胸に誓いましたっ!」

「そうか……」

 織戸の了承を取った所で上昇を止める。

「じゃあ、今死んでくれ」

そして俺は織戸を抱えていた手を離した。

「うっそぉおおおおおおおぉっ!?」

 悲鳴を上げながら落下するパンツ伯爵。

 そしてその変態を追い掛けていく2匹の象。

「今こそ……平松の白の恨みを晴らさせてもらうぞっ!」

 平松のパンツを手に入れることができなかった怒りをパワーに換えて2匹を追う。

「スットォッ!」

「ナーッ!」

 そして織戸にトドメを刺そうと互いに邪魔をし合っている2匹の真上に追いついて……

「2千パーセントッ!」

 2匹まとめて1撃で粒子に変えてやった。

「平松のパンツの仇、討たせてもらったぜ」

 今日のメガロも手強かった。織戸のパンツ色情狂がいなければ勝てなかった。

「俺は貴方の為なら死ねるぅうううぅっ!」

 それから織戸の手を掴んで墜落死の危機から救った。

 本当は助けたくもなかったが、織戸のスプラッター姿を誰かが見て精神的打撃を受けるのは忍びなかった。

「俺を助けてくれるなんて……やはり俺と貴方は運命の赤い糸で結ばれているようですね」

 だから助けたくないんだよ。何でこいつはアンダーソンくんが穿いていたパンツをドヤ顔でかぶりながら俺を口説いているんだか。

 なあ、ゴッド。あんた、人間には平等に愛を与えてやってくれないか?

 こいつ、哀れすぎるだろ……。

 

 

 

 翌日の放課後、俺は織戸と2人で屋上に来ていた。

 空は一面白い雲に覆われているおかげで俺も普通に屋上に出られる。

 毎日曇ってくれたら良いのになあ。

「俺、あの魔法少女のボーイッシュなお姉さんがやっぱり好きなんだ」

 織戸が死んでくれたら良いのになあ。

 織戸は今回も俺とメガロの戦いを覚えていた。記憶操作の魔法、役に立たねぇ。

「けどよ、どこの誰かもわからないんだろ?」

 暗に諦めろと語ってみる。また貞操の危機を感じながら暮らすのはもう御免だ。

「彼女にはまた会えると思う」

「何故だ?」

「彼女はこの街に現れる化け物と戦っている。だから化け物がまた現れれば会えるさ」

 チッ。織戸のくせに妙に鋭い。生意気だ。

「それに、彼女から愛情の篭ったプレゼントをもらってしまったからな。愛さない訳にはいかないだろう? フッ」

 ドヤ顔の織戸。

 やっぱこいつには今すぐ死んで欲しい。

「で、そのプレゼントとやらをお前はどうしたんだ?」

「勿論肌身離さずに持っているさ」

 そう言って織戸はズボンを脱いだ。

 ズボンの下にはピンクの縞パンがあった。

 こいつ、穿いてやがる。しかも直に。

「なあ、パンツ伯爵?」

「何だ?」

 普通に返事しやがったよ、こいつ。

「頼むから、1度警察行ってくれ」

 ちょうど屋上に上がってきた平松、三原、アンダーソンくんに目で合図を送る。

 3人は晴れ晴れとした表情で携帯の通話ボタンを押してくれた。

 

 

 

 

 


 
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