No.199637

そらのおとしものf 私のちょっと変わったお友達(スイカ・マニア) 後編

 スイカ・マニアの後編です。
 
 次回は逆襲のアストレア後編となる予定です。しかし逆襲のアストレアは原稿用紙100枚程度で密度も濃く書かないといけないので完成まで時間が掛かることが予測されます。
 ですのでそらのおとしもの短編で、こんな話が読みたいという希望がありましたらお申し出ください。可能な限りご期待に沿いたいと思います。
 なお、エッチィのやグロいのなどTinamiの投稿ルールに抵触する作品、アストレアさんを幸福にするお話などはお受けできませんのでご了承ください。

続きを表示

2011-02-04 07:59:03 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:3794   閲覧ユーザー数:3456

総文字数約15100字 原稿用紙表記49枚

 

そらのおとしもの二次創作

私のちょっと変わったお友達(スイカ・マニア) 後編

 

 

「そう言えばイカロスさんが私の部屋に来るのも久しぶりだよね?」

「……そうですね。約2ヶ月ぶり。正確には58日ぶりとなります」

 以前のイカロスさんは毎日のようにこの部屋を訪れていました。

 もっと正確に言えば、私が毎日のように部屋に招きいれていました。

 シナプスから降りて来たばかりのイカロスさんに地上での生活方法を教えていたのです。

 智ちゃんは面倒くさがりなのでイカロスさんに何か教えたことはほとんどありません。

 しかも何か言うときは大概文句を言っているだけなので、生活上のスキルは全部私が教えたといっても過言ではありません。

 とはいえ、イカロスさんは飲み込みが早かったので私が教えなければならないことはすぐになくなっていきました。

 それと共にイカロスさんが私の家を訪れる頻度は減り、彼女は桜井家の家事に専念するようになりました。

 弟子の成長を見るのは嬉しくもあり、イカロスさんがこの部屋を訪れなくなったことは寂しくもあります。

 もっとも弟子といっても今では家事料理炊事全てにおいてイカロスさんの方が上手です。

 目玉焼きなら負けない自信があるのですが、智ちゃんは死臭が漂うとか失礼なことを言って食べてくれません。本当、智ちゃんは女の子に対してデリカシーがないと思います。

 

「あーあっ。食べ物のことを考えていたら何かお腹空いてきちゃったな」

 時計を見れば午後6時。

 両親は親戚の家に年始周りに出掛けて明後日まで帰って来ないのでご飯は自分たちで用意しないといけません。

「……マスター、夕食、大丈夫でしょうか?」

 イカロスさんが心配そうに桜井家を眺めます。

 智ちゃんの部屋の明かりが付いていることからもう地球に帰還しているようです。

帰って来ているのにイカロスさんに謝りに来ないのは腹立たしいですが、とりあえずは無事のようです。

 ちなみにアストレアさんはいまだに大空に笑顔で浮かんだままです。だから宇宙から帰ってきていないのだと思います。それは別に重要なことではありませんが。

「ニンフさんもいるし、大丈夫じゃないかな?」

 ちょっと見栄っ張りだけど、そつなくこなすことを信条にしているニンフさんが桜井家にいるのでご飯の心配はないと思います。

「……ニンフは、あまり、手の込んだ料理は、得意じゃ、ありません」

「そうなんだ」

 この間の学校での調理実習で、ニンフさんは見事な包丁捌きと豪快な焼きを披露してくれました。そのイメージが強いのかもしれません。

「……それに、ニンフは、放っておくと、お菓子だけで、食事を済ませようとします」

「そっちは確かに問題かも」

 元旦から食事が甘いお菓子というのは問題かもしれません。でも……

「智ちゃんがいるし、別に食事の心配はないかな?」

「……えっ?」

 イカロスさんが驚きの声を上げました。

「智ちゃん、ご両親が世界旅行に出てからイカロスさんが来るまでの間ずっと一人暮らしをしていたから、料理とか実は結構上手なんだよ」

「……マスターが、料理上手? ……全然、知りませんでした」

 イカロスさんはとても意外そうな表情を浮かべています。

「智ちゃん、イカロスさんが来てからは家事を任せっ放しで手伝いもしなかったもんね。知らないのも無理はないと思うよ」

「……私は、もしかして、マスターに、必要ないエンジェロイド、なのでしょうか? ……シュン」

 ちょっとした話題の提供だったのにイカロスさんは落ち込んでしまいました。

「そんなことはないって。イカロスさんが来てから智ちゃんが家事をやらないのはそれだけ頼りきっている証拠だよ」

「……そう、なのでしょうか?」

「そうよ!」

 力強く断言します。

「だから自信を持ってね、イカロスさん」

「……はい」

 イカロスさんの表情がようやく少し緩みました。

「……それで、あの、そはらさん」

「何?」

 イカロスさんの顔をジッと見ます。

「……今日の、お夕飯は、私が、作ります」

「そんなことを言わないで2人で作ろうよ」

 イカロスさんと2人で料理したら懐かしくてきっと楽しいと思います。

「……そはらさんには、お世話になっていますし。それに……」

「それに?」

「……そはらさんに、私の料理の腕が、どこまで上がったのか、確かめて、欲しいですし」

 モジモジと体を揺らすイカロスさんがとても可愛らしいです。

「じゃあ、今日の夕食はイカロスさんにお願いしようかな?」

 こうして私は、既に師匠を遥かに凌駕している弟子の実力を確かめることになりました。

 

 

 私の直伝にして、私が揚げたものよりも遥かに美味しいコロッケを夕食に食べ、お風呂にも入って後は寝るだけになりました。

「……そはらさん。すみません……シュン」

 イカロスさんは一緒にお風呂に入った後からずっと落ち込んだ表情を見せています。

「別にもう、気にしていないよ」

 手を横に振りながら何でもないことをアピールします。

「……でも、そはらさんの、大きな胸が、スイカのように、見えてしまって」

「そこまで大きくないから!」

 胸の大きさをよく男子にからかわれたりしますが、スイカと間違えられたのはイカロスさんが初めてです。

「それにイカロスさんは今日のスイカ事件のことでナーバスになっているだけだよ。悪いのはみんな智ちゃんなんだから気にしないの」

 浴槽でイカロスさんに胸を鷲掴みにされ撫でられ始めた時には本当にビックリしました。

 どうせだったら智ちゃんにして欲しい……じゃなくて、女の子同士でも恥ずかしいです。

 でもその内にイカロスさんの行動がスイカを思ってのものだと知り、私の心は平静を取り戻していきました。それと同時に彼女を情緒不安定にした智ちゃんに対する怒りの感情が湧き上がって来たのです。

「……はい。シュン」

 はいと言いつつイカロスさんはわかり易いほどに落ち込んでいます。

 イカロスさんはマスター思いなので、智ちゃんが非難されても自分のことと同じぐらい、ううん、それ以上に落ち込んでしまうのです。

 困ったなあとは思いますが、私にはこんな時にどうすれば良いのかアイディアが思い付きません。

 イカロスさんの唯一の生きがいはスイカであり、イカロスさんの心を唯一軽くすることができるのは智ちゃんです。

 しかし、そのスイカを巡って智ちゃんと対立していたのではイカロスさんを元気付ける方法が思い浮かびません。

 

 気分転換すべく窓の外を見ると、いつの間にか智ちゃんの部屋の電気が消えていました。

「イカロスさんが大変なのに自分だけ寝ちゃうなんてずるいよ、智ちゃん」

 智ちゃんはいつまで強情を張っているつもりなのでしょうか?

「……マスターが、寝てる?」

 その時、イカロスさんがハッと声をあげました。

「……マスターと、ニンフが、2人きりで、1夜を過ごす……」

 言われてみるとその通りです。

「ニンフさん、可愛いから心配だよね」

 イカロスさんと智ちゃんが2人きりというのは今まで沢山ありましたが、ニンフさんと智ちゃんが2人きりというのは今回が初めてのことだと思います。

 ニンフさんは可愛いし智ちゃんにベタ惚れでもありますから、煩悩少年に強引に迫られたら大変な過ちが起きかねません。

「……そうではなくて、危険なのは、マスターの方です」

「えっ? 智ちゃんが? 何で?」

「……ニンフは、割と単純で、自分の欲望に忠実です。だから、マスターの布団に、潜り込んで、添い寝ぐらいは、してくると、思います」

「あっ、そうなんだ……」

 私から見るニンフさん像とイカロスさんが見るニンフさん像はだいぶ異なるようです。

「……ニンフは、ツインテールの皮をかぶった、ケダモノですから、添い寝だけじゃ、満足できなくなって、襲い掛かるかも、しれません。ううん、必ず、襲い掛かります」

 イカロスさんは翼を大きく広げました。

「ちょっとイカロスさん。そんな杞憂で桜井家に帰っちゃダメだよ」

 窓を開けて飛び立とうとするイカロスさんを必死に思い留まらせます。

「ニンフさんだって、智ちゃんの態度を変えようと頑張っているのだから、その好意を無駄にしちゃダメだってば」

「……わかりました。シュン」

 イカロスさんはやっと桜井家を強襲するのを諦めてくれました。

「それじゃあ、夜も遅いし、もう寝よう?」

「……はい」

 エンジェロイドは眠らないそうですが、人間が活動していない時はイカロスさんもただ座って朝が訪れるのを待っているそうです。

 だから私が眠ってしまえば、イカロスさんも変な気は起こさないと思います。

「アストレアさん、私たちの代わりに智ちゃんとニンフさんを見守っていてね」

 夜空から微笑み掛けているアストレアさんにお願いすると部屋の電灯を消しました。

 そして明日こそは智ちゃんとイカロスさんが仲直りできると良いなと思いながら眠りについたのでした。

 

 

 

 気がつくと私は教会の中にウェディングドレスを着て立っていました。

 それで私がこれが夢であるとすぐにわかりました。

 現実離れしたシチュエーションであり、最近頻繁に夢に出て来るシチュエーションでもあるからです。

 智ちゃんと結婚、という夢は最近毎日のように見ています。智ちゃんとの結婚は私の文字通り夢であり願望です。だから今の状況は私の願望が素直に反映されたものです。

 ですが、結婚の夢を頻繁に見るようになったのは純粋な願望だけでは説明できないことを最近私も自覚して来ました。

 それはエッチな願望が、ということではなくて、いえ、それは間違っているとは言い切れないのですが、とにかく他の想いが大きく影響を与えているからだと思います。

 もっと具体的に言えば、智ちゃんとの結婚が現実できないかもしれないからという焦りがあるから。だからせめて夢の中だけでも結婚を実現させようとしているのかなと自分では解析しています。

 イカロスさんたちがやって来る前は智ちゃんとの結婚を具体的に考える必要もなく、結婚できない可能性を考える必要はなおさらありませんでした。

 あの頃とはやはり大きく状況が変わったのだと思います。

『──それでは新郎新婦の入場です』

 どこからともなく声が響きました。でも、その声は夢の中とはいえ妙でした。新婦である筈の私は既に教会内にいます。智ちゃんも隣にいません。

 一体、どう新郎新婦の入場を行えというのでしょうか?

 と思ったら、入り口の扉が開き、腕を組んだ男女がゆっくりと入って来ました。

『智ちゃんと……ニンフさんっ!?』

 入ってきたのはタキシード姿の智ちゃんと、真っ白い綺麗なウエディングドレスに身を包んだニンフさんでした。

 ニンフさんは、女性ならその変化のわけを察するぐらいに微妙に膨らんだお腹に右手を当てながらゆっくりと歩いてきます。

『智樹ったら、2人っきりで夜を過ごすことになった途端にケダモノになるんだから♪』

『おいおい、先に俺の布団に潜り込んで来たのはニンフの方だぜ♪』

 説明的な台詞を口にしながら私の前を通り過ぎていく2人。

 どうやらこれは願望ではなく私の不安を形にした夢だったようです。あまりにも先ほどのイカロスさんとの会話と被りすぎています。

『──それでは誓いのキスを』

 そして色々な手順が吹き飛ばされてキスの番になっていました。

 ゆっくりと顔を重ねていく2人を見て、私は夢の中の出来事だとわかっていても叫ばずにはいられませんでした。

『ダメぇええええええええええぇッ!』

 

 気が付くと、視界には見慣れた天井が映り、体はいつものベッドの上でした。夢から醒めたのです。

「……大丈夫ですか、そはらさん?」

 いつもと違うのは、視界に私の顔を覗き込むイカロスさんの姿があることでした。

「大丈夫って、私、何かしていた?」

 嫌な予感がしますが聞いてみます。

「……最初は、楽しそうな表情で、眠られていましたが、段々と険しくなり、最後には、ダメェと、大声で寝言を、口にされて、おられました」

「ああ、やっぱりね……」

 夢の通りのリアクションを寝顔と寝言でしていたようです。

 それにしても──

「イカロスさん、ずっと私の寝顔を見ていたの?」

「……はい。他に、やることも、ありませんので」

 イカロスさんにずっと寝顔を見られていたのは恥ずかしいです。

 気分転換にカーテンを開けて外を眺めます。

 夜空には月とアストレアさんと沢山の星が浮かんでいます。

 智ちゃんの部屋の電気は消えたまま。耳を澄ましても何の音も聞こえてきません。時計を見れば午前2時なので寝静まっているのも当然なのですが……先ほどの夢の内容がどうしても気になってしまいました。

「……アルテミスで、マスターの、部屋を、破壊しますか?」

「そんな気の使い方は良いから!」

気にするのはやめました。気にしていると桜井家が崩壊するか、少なくともニンフさんに凄く怒られることをイカロスさんはしでかしてしまいそうです。

「じゃあ、私、もう1度寝直すから」

「……お休みなさい。           ……マスターの布団で、一緒に寝ている、ニンフを、討つ機会を、失っちゃった。シュン」

 何も聞こえなかったことにして固く目を瞑ります。余計なことを考えれば桜井家は崩壊、智ちゃんとイカロスさんは仲直りできず、ニンフさんもへそを曲げてしまうでしょう。そうなってはもう修復のしようがなくなってしまいます。

 だから私は、空手で鍛えた鉄の意志で寝ます…………。

 

 気が付くと、芝生の広い庭を持つ真っ白い家の前に私は立っていました。

 それで私はまた夢の中にいるのだと思いました。どうやら今回は新婚さん編のようです。

 緑に囲まれた広い庭付きの一戸建ての家に智ちゃんと住むのは私の夢のです。

 そして私の願望通りならこの庭には真っ白い毛並みの大きなペットがいる筈です。

 庭を見渡すと、犬小屋に鎖で繋がれた大きな生き物を発見しました。

「……見なかったことにしよう」

 犬小屋の前で丸くなって眠っている白い翼のアストレアさんがいましたがスルーします。

 何かこの夢も私の願望を映したものじゃないような気がしてきました。

 用心しながら家の周りを回ってみます。すると睨んだ通りこれが私の願望を素直に映した夢でないことがわかりました。家の裏側に回って私が見たものは──

「スイカの残骸っ?」

 緑の芝生を真っ赤に染め替えてしまっているほどに大量のスイカの残骸でした。

 廃墟に散乱する瓦礫のような風景が目の前に広がっていました。痛ましい光景でした。

 そしていつの間にか1人のメイド服姿の少女がスイカの残骸の中央で蹲って泣いているのに気が付きました。

「イカロスさん……」

 そのメイド少女はイカロスさんで間違いありませんでした。

「ああっ、もうっ! 智ちゃんはどこで何をやってるのよ」

 見渡す限り、庭にも家の中にも智ちゃんがいるようには見えません。それは、現状の2人の関係を暗示しているかのようです。

 この状況で私にできること、私のやりたいことと言えばやはり一つです。

 私はゆっくりとイカロスさんに近付いていきます。そして、しゃがみ込んで熱心にスイカたちに手を合わせているイカロスさんの肩に手を置いてそっと囁きます。

「イカロスさんには私が側にずっといるから……だから、大丈夫だよ」

 それは私の思い上がりなのかもしれません。

 智ちゃんとイカロスさんには深い絆があります。私が何かする必要はないのかもしれません。

 でも、それでも私はイカロスさんの為に何かしてあげたい。だってイカロスさんは私にとっても大切な人だから。

 私が言葉を掛けた直後、夢の世界は急速に白みだし、やがて何もわからなくなりました。

 

 朝陽とアストレアさんの笑顔に誘われ目を開けるとイカロスさんが私を覗き込んでいました。

「おはよう、イカロスさん」

「……おはようございます、そはらさん」

 よく見ればイカロスさんの頬が赤いです。

「どうしたの、イカロスさん?」

「……いえ、何でもありません」

 どうしてイカロスさんは恋する乙女のような表情で私を見ているのでしょうか?

「……マスターに、続いて、そはらさんにまで、プロポーズ、されてしまいました」

 一体、イカロスさんはどうしたのでしょうか?

 

 

 

 年明け2日目。

 この日の昼間の私たちは智ちゃんがやって来るかもということで家の中でのんびりとテレビを見ながら過ごしていました。

 お料理特番が多く、番組で紹介された料理の作り方を沢山メモしました。これらの料理のいくつかが作れるようになればレパートリーの幅が広がります。

 そして料理の研究をしていると私のお腹の幅も広がりそうです。ただでさえお正月ということで体重管理に気を付けないといけないのに困った問題です。

 

 そうこうしている内に夕方になりました。

 夕日とアストレアさんの笑顔が地面を茜色に染め上げます。

 しかし智ちゃんはまだやって来ません。

 それどころか今日の桜井家は朝から物音一つ聞こえてきません。

 智ちゃんもニンフさんも私が起きるよりも早く出掛けてまだ帰って来ていないようです。

 

 そして、夜が訪れました。

 空美町の夜空に、月と星とアストレアさんが輝いています。

 ちなみに今日の夕飯は2人で作りました。メニューはカレーです。昔みんなでキャンプした時の事を思い出して懐かしい気分になりました。

 そして一緒にお風呂に入ったのですが……また胸を揉まれました。

「……私の、スイカは、ここにある」

 決め台詞なのか何なのか知りませんが、イカロスさんは入浴の最中、私の胸から手を離してはくれませんでした。

 それから更にテレビを見たり、雑談話をして時間を過ごし、気付けば時計は11時半を回っています。

 寝不足は美容の敵なのでそろそろ寝ようかなと思いますが、結局智ちゃんは今日も現れませんでした。それどころかです──

「……マスター、今日は、帰られないのでしょうか?」

 買い物時間を除いて今日私たちはずっと家にいました。

 だけど、桜井家に人が出入りすることは全くなく、電気が付いたこともありません。1日中無人でした。

 そして田舎町である空美町にはこの時間に動いている交通機関はもうありません。そしてニンフさんは翼を失っているので飛べません。つまり……

「智ちゃんとニンフさん、どこかで外泊するんだろうね」

 言いながら自分の発言に冷や汗を覚えます。

 緊張しながらイカロスさんの姿を見ると──

「……マスター、今、救出に、参りますッ!」

 バトルスーツに着替え、今にもうちの天井を突き破って飛び立とうとしていました。

 私は慌てて後ろからイカロスさんを羽交い絞めにし、先ほどお風呂で発見した弱点、背中を縦にすぅ~と一撫でします。

「………………はふぅん、です」

 イカロスさんはその場に崩れ落ちました。

 最強のエンジェロイドの攻略法を知ってしまった私って結構凄いんじゃないでしょうか?

 もっとも、本当の敵が相手の場合、イカロスさんが背中をとらせる筈はないのですが。

「イカロスさん、今夜の外出禁止」

 うちは桜井家と違い、3日も経つと自然治癒で天井が塞がったり窓ガラスが戻ったりしません。戦闘モードのイカロスさんに好き勝手出入りはさせられません。

「……でも、マスターの身が……」

「大体、イカロスさんはニンフさんの居場所がわかるの?」

「……ニンフが、ジャミングを掛けているので、2人の位置は、全く掴めません。シュン」

「イカロスさんが闇雲に超高速で飛んだらご近所にも迷惑。だから外出禁止っ」

「……はい。シュン」

 こうして私は『空美町、深夜謎の突風により崩壊』の危機を救いました。

「それじゃあお休みなさい」

「……お休みなさい、です」

 そして間髪あけずに寝に入る。イカロスさんに行動させる暇を与えない。私は空美町の平和を守る為に早々に寝ることにしました。

 

 

 

 気が付くと私は無人島にパジャマ姿で立っていました。

 何故無人島だとすぐにわかったのか?

 それはやはりこれが夢だからだと思います。

 私はこれがどういう夢なのか確かめるべく周囲を見回しました。

 すると、この無人島はかつて私と智ちゃんが会長たちに嵌められて連れて行かれた島の光景とそっくりなことに気付きました。

 あの時私と智ちゃんは島で2人きりの生活を送りとても良い雰囲気になっていました。

 もう少しでその、深い関係と言いますか、何かの一線を越えてしまう所でした。

 今思い返すと凄く惜しいことをした……いえ、何でもありません。

 でも、この島が夢に現れたということは、あの時の続きを、ということなのでしょうか?

 それじゃあ、智ちゃんは一体どこに?

『ニンフ~♪ それそれそれ~♪』

『やったわねぇ~智樹っ♪ 私も反撃しちゃうんだからね~♪』

 ……いました。葉っぱで作った水着を着て楽しそうに水を掛け合って遊んでいる智ちゃんとニンフさんが。

『どうして私とニンフさんのポジションが入れ替わっているの……?』

 2人はかつての私たちのように楽しそうに過ごしています。

『ねえ、智樹? 私たち、こんな所で油を売っていて良いのかしら?』

『どうせ今日中に帰る手段はないんだし、楽しもうぜ』

『今日中に帰れないだなんて……もぉっ、智樹のケダモノ♪ 変態♪』

 何故かニンフさんはとても嬉しそうです。

『空美町のことは明日どうにかするとして、今日はアバンチュールを楽しもうぜ』

『そうね…………あ・な・た♪』

 重なり合う2人のシルエット。そして2人は折り重なって砂浜へと倒れこみます。

 ……よしっ、リセットしたいと思います。

 人生にリセットはできませんが、夢にならリセットが効きます。

 ここは一つ、大声を出して私の本体を覚醒したいと思います。

『ニンフさんとイチャイチャしてぇ~智ちゃんのバカぁ~~っ!』

 

 気が付くと私は電灯の消えた暗い部屋の中にいました。夢の世界から戻ってきたのです。

 そして視界の片隅にはバトルコスチューム姿で恭しく片膝をついているイカロスさんの姿が入って来ました。

「…………そはらさんの、ご命令さえ、頂ければ、私は、いつでも、ニンフを、討ちます」

「不許可」

 布団を被り直してもう1度寝に入ります。

 今度こそ良い夢が見られるようにと強く念じながら目を閉じます。

 

 気が付くと猛烈に吹雪いている雪山の山小屋の中にいました。

 勿論これも夢の中です。

 そして私は智ちゃんと雪山に行ったことはないので今回はシチュエーション自体が創作です。

 外界との往来が閉ざされたこの山小屋で一体私たちに何が起きると言うのでしょうか?

 雪山に対する知識がごく偏ったものを除いてほとんどない私にはこの先の展開で考えられるものは一つしかなかったりするのですが……。

『ちわ~三河屋の配達です』

 ……いきなり、世界観が崩れる声が聞こえました。

『は~い。今出るわ~』

 突然目の前にエプロン姿のニンフさんが現れました。

 そのニンフさんは私の存在に気付かずに山小屋の入り口へとスリッパでパタパタとかけていきます。

 まあ、夢ですし、多少の不合理があるのは今更気にしません。

 でも、自分の夢ながら雪が横に吹き荒んでいる光景でこのシチュエーションはないんじゃないかと思います。

『奥さんっ、いやっ、ニンフっ! 俺は、俺は、俺はもう~っ!』

『きゃぁ~♪ ダメよ三河屋さん、じゃなくて智樹っ。こんな真昼間からだなんて~♪』

 吹雪いているので全く気付きませんでしたが、今は昼間だそうです。

『冬山で遭難した時は裸で温めあうのが一番なんだぜ、ニンフ』

『そうよね。冬山で遭難したのだから裸で温めあうしかないわよね、智樹』

 そして配達で来たのに遭難していることになっているそうです。そしてニンフさんは状況的にこの山小屋の住民の筈なのにやっぱり遭難しているそうです。

 夢とはいえ辻褄が合わなすぎです。

 そして何より、2人とも裸で温めあうという行為に嬉しそうなのが腹立ちます。

 ミスキャストです、これは。

 そしてより根本的な問題として、どうして私の夢なのに私が空気扱いされてしまっているのでしょうか?

 やはり、私は智ちゃんとニンフさんが2人きりで外泊という事象を気にしているということなのでしょうか?

『さあ、2人きりなのだし身も心も温めあおうぜ』

『そうね…………あ・な・た♪』

 重なり合う2人のシルエット。そして折り重なって木の床へと倒れこむ2人。

 よしっ、今回もリセットしたいと思います。

『毎回毎回ニンフさんとイチャイチャしてぇ~智ちゃんのバカぁ~~っ!』

 

 気が付くと私はいつもの天井を見ていました。夢の世界から戻ってきたのです。

 そして視界の片隅にはやっぱりバトルスーツ姿で恭しく片膝をついているイカロスさんの姿が入って来ました。

「…………そはらさん、お願いします。ニンフ討伐令を、発令して、下さい」

「却下」

 布団を被り直してもう1度寝に入ります。

 3度目の正直という言葉を信じて、今度こそ良い夢を見られるように熱心に祈ります。

 

 今度の夢は今までとは毛並みの違うものでした。

 景色は真っ暗でどこが地面なのかもよくわからない空間です。

 先ほどまでの夢と違いニンフさんも智ちゃんもいません。代わりに体育座りの姿勢でスイカを抱えたイカロスさんが寂しそうに背中を向けています。

 見ているだけで泣けてしまいそうな光景です。

 一緒に過ごす時が楽しくてついつい忘れてしまいがちですが、イカロスさんは家出して来たのです。

 それはイカロスさんが家出したくなるほどに悲しいこと、腹立たしいことが起きたから。

 もしかするとイカロスさんがニンフさんのことをずっと気にするのは、自分の負の感情を紛らわせるための代償行動なのかもしれません。

 そんな彼女の胸の内を考えると、私はイカロスさんのことを抱きしめずにいられませんでした。

「私はイカロスさんに寂しい想いをずっとさせないから。だから、そんなに悲しまないで」

 私の体温が少しでもイカロスさんに伝われば良いなと思って強く、強く抱きしめました。

 

「……そはらさんに、2度も、プロポーズ、されてしまいました。ポッ」

 朝になって起きてみると、イカロスさんが体をモジモジと揺らしながら私を見て赤くなっていました。

「イカロスさんは一体、どうしたの?」

 太陽の横で輝いているアストレアさんに問いかけてみても、笑っているだけで何も答えてはくれませんでした。

 

 

 

 1月3日。

 イカロスさんとの同居生活も3日目に入りました。

 今ではすっかり同居生活にも慣れ、イカロスさんは色々と家事を率先してやってくれるので大助かりです。

「ねえ、イカロスさん? このまま私の所にお嫁に来ない?」

「……そはらさんの、お嫁さん、ですか? ポッ、ポポポポポ。はい、末永く、よろしくお願いします」

 今日のイカロスさんは調子がちょっとおかしいですけど、それもまた生活上のちょっとしたアクセントだと思えば楽しいです。

 でも、そんな楽しい生活の終わりが訪れたのも突然のことでした。

「イカロスッ! いるかっ?」

 ベルも鳴らさず、ノックもせずにいきなり玄関の扉を開けて1人の少年が入って来ました。

「……マスター……」

 応対に出たイカロスさんが驚きの声を上げています。私も玄関に出て少年の顔を確かめると、それは確かに智ちゃんでした。

 智ちゃんは全身ボロボロで、でも目だけは真剣で生気に満ち溢れています。

「……何故、ここへ?」

 戸惑いの声を出しながらもイカロスさんはとても嬉しそうです。頬にサァ~と赤みがさしています。

 愛しい人がようやく迎えに来てくれたのだから女の子だったら当たり前だと思います。

「ちょっと智樹っ! 一人で先に行かないでよ!」

 そして遅れて家の中へとやって来た小柄な女の子。ニンフさんです。

「……ニンフ」

 イカロスさんの肩がビクンッと震えました。

 

「ほらっ、智樹。アルファにちゃんと用件は伝えたの?」

 智ちゃんの背中を押すニンフさん。

「いや、まだなんだ。ここに来るのに必死で、まだ何も話していない」

「しっかりしなさいよね」

 ニンフさんの顔を見ながら苦笑いする智ちゃん。そんな智ちゃんを呆れ顔で見るニンフさん。2人の息はぴったりで、まるで恋人同士のようです。

 勿論これは私たちが智ちゃんとニンフさんの仲を疑ってばかりいたのでそう見えてしまうというのは理解しています。

 でも、それでも2人の仲はイカロスさんが家出する前に比べて格段に親密になっているように見えます。

「……マスター」

 イカロスさんも不安そうな表情で2人を見ています。だけど智ちゃんはそんなイカロスさんの表情の変化に気付かないまま話し掛けて来ました。

「イカロスっ、一昨日はすまなかった。これで許してくれっ!」

 そう言って智ちゃんが1度玄関を出て再び戻って来て見せたのが大きな真ん丸いスイカ。

「智ちゃん、そのスイカはどうしたの?」

 今はお正月。真冬ですからスイカはない筈です。

「ああ、これは舶来品果物フェアが大阪であって、スイカも並ぶって言うからニンフと2人で買いに行って来たんだよ」

「智樹が交通費のことを考えていなかったせいで、帰りは途中から徒歩で野宿って散々だったんだけどね」

 よく見ればニンフさんの顔にも所々泥が付いています。それを見るだけでも2人が相当な苦労をしてスイカを手に入れたことがわかります。

「まあ、そんな訳でこれはイカロスのスイカをだめにしたお詫びの印だ。受け取ってくれ」

 智ちゃんが頭を下げながらスイカを差し出します。

 これで、3日間に及んだイカロスさんの家出騒動も幕引きに……

「……私は、そはらさんに、プロポーズ、されて、お受けしたので、マスターの元へは、戻れません」

 あれっ?

 イカロスさんが、智ちゃんの謝罪を拒絶した?

 ええぇえええっ?

 

 

 

 話は意外な方向に進んでしまっています。

「……私は、そはらさんの、お嫁さんになったので、マスターの元へは、戻れません」

 イカロスさんはちょっと拗ねた表情で智ちゃんに帰れないことを告げます。

 その理由が私のお嫁さんになったから。

 まさかここで私が事件の中心人物になるとは思ってもみませんでした。

 智ちゃんもニンフさんも呆気に取られた表情で私を見ています。

 ……非常に、困りました。

 イカロスさんが拗ねている理由は私には凄く良くわかります。家出してから2日間も放っておかれて、しかもその間可愛い女の子とずっと一緒にいたなんて知れば、その行動の是非はともかくとして拗ねたくもなります。それが女の子のプライドというものです。

 でも、私がプロポーズしてイカロスさんがそれを受けたから帰れないのだと智ちゃんたちに本気で思われるのも困ります。

 私には女の子を恋愛対象として好きになる趣味はありません。というか好きなのは智ちゃんです。でもこの鈍感男は今回の件を真に受けて私を完全に眼中から外してしまう可能性は否定できません。

 だけどイカロスさんの発言を冗談だと切り捨ててしまう訳にもいきません。冗談にして今回の家出騒動をうやむやにすると、智ちゃんが反省までやめてしまう可能性があります。智ちゃんには心の底から反省してもらわないといけないのに、安易に贖罪符を与えてしまうわけにはいきません。

 というわけで現状は限りなく八方塞です。まさか神様も最後の最後にこんな面倒なサプライズを準備してくれるなんて……。

「ちょっとそはら。プロポーズって一体どうなっているのよ?」

 しかし捨てる神あれば拾う神あり。

 ニンフさんが袖を引っ張りながらこっそりと尋ねてきました。

「う~ん。イカロスさんを元気付ける為に色々言ったから、その言葉の内のどれかをプロポーズとして受け取ったのかなと」

「アルファはそういうことに融通が利かないんだから、言葉通りに受け取っちゃうわよ」

「どうしたら良いかなあ?」

「智樹とアルファの様子を見ながら臨機応変に対応するしかないでしょ」

 特効薬のような物はないようです。

 ニンフさんの言う通り、どうすれば解決の糸口がみつかるのかまずは2人を観察してみたいと思います。

「イカロス、戻って来る気はないのか?」

「……私はもう、人妻、ですから」

 この一幕だけ見ているとニンフさんの好きな昼ドラの一場面のようです。

 ニンフさんもどこから取り出したのか、ポテトチップスをぱりぱりと頬張りながら2人のやり取りを見ています。

 さて、あの2人をどう仲直りさせるかですが……。

「ところでニンフさん」

「何?」

 まずはこの2日間で一番気になっていたことを聞いてみたいと思います。

「一昨日の夜は智ちゃんと2人きりだったよね? 何かあったの?」

「ケホッ! ゲホッ! いきなり何を聞くのよ、そはらはっ!」

 ポテトチップスを口から吐き出すこの慌てよう。何かあったのは間違いありません。

「イカロスさんはニンフさんの方から添い寝するって言っていたのだけど?」

「もしかして、見てたのっ!?」

 ニンフさんが驚きの声を上げます。

 ニンフさんの反応を見ながら智ちゃんを睨みます。

「いやっ、添い寝だけで、それ以上のことは何もしてないっすよ。本当っすよ!」

「私のことあんなに強く抱きしめてキスしておきながらその言い方はないんじゃないの!」

「抱きついたのもキスしてきたのはニンフの方だろうが! 俺は何もしてねえ!」

「男のくせに言い逃れしようなんてずるいわよ!」

「智ちゃん、後でおしおきね……」

「……………………ニンフ、廃棄処分」

 イカロスさんも瞳の色を真っ赤に変えて智ちゃんたちを見ています。

「それから昨夜、ニンフさんは智ちゃんと外泊したよね? 何もなかった?」

 怒りが体を震わしますが、まだ怒るのは我慢しなければなりません。もっと、情報を集めないと……。

「一つの寝袋で一緒に寝たけれど、他には何もやましいことはしてないわよ!」

 ニンフさんが焦ったように弁明しています。

 その回答自体が既にアウトを告げるものだと気付いていないようです。

「綺麗な寝顔だなと思って髪の毛の匂いを嗅いだりとか、ちょっと頬を舐めてみたりなんて真似は全然してないぞっ!」

「エンジェロイドって確か寝ないんだったよね、ニンフさん?」

「えっ、いや、あの、寝たふりして智樹に悪戯されるのを楽しんでいたとかそんなんじゃなくてっ! じ、事故だったのよ。そう、不幸な事故っ!」

 ニンフさんは普段の計算能力が高い分、予想外の事態に陥ると脆さを見せてしまいます。

 どうやら智ちゃんには後で大きなおしおきが必要みたいです。

「…………そはらさん、申し訳ありませんが、私は、マスターの元に、帰ります」

 イカロスさんは瞳を真っ赤にして、翼を光らせています。

「それで良いの、イカロスさん?」

「…………マスターと、ニンフは、私が見張っている、必要がありますから」

 イカロスさんは明らかに怒っています。智ちゃんとニンフさんが明日を無事に迎えられるか心配です。

 でも、イカロスさんはちょっとだけ笑っているように私には思えました。

 それはきっと変な形にせよ、イカロスさんが桜井家で自分の居場所を再度みつけたからなのだと思います。

 そして智ちゃん争奪戦においてイカロスさんは諦めるつもりがないという意思表示であるのだとも思います。

「……そはらさんに、せっかく、プロポーズして頂いたのに、一緒に暮らせず、申し訳ありません」

「プロポーズのことは気にしなくて良いから……」

「お前ら本当にそういう仲だったのか?」

 智ちゃんが不思議な生き物を見るように私を見ています。こんなことになったのも全て智ちゃんのせいだと言うのに……。

「……一緒には住めませんが、これからは、そはらさんの、おうちに、ちょくちょく、寄らせて頂きます」

「それは、嬉しいかも」

 智ちゃんが私たちを見ながら仰け反っていますが無視します。

 イカロスさんがうちに来てくれたおかげでこの3日間はとても楽しい時間を過ごすことができました。

 女の子同士で過ごす時間も大事だと思います。

 それに、イカロスさんが智ちゃんに逆らってみる時間というのも彼女にとって必要なんじゃないかと思います。

 確かにイカロスさんは命令されることに喜びを見出すタイプの女の子なのだとは思います。だけど、そんな女の子でも時々は自分を主張する瞬間はあった方が良いと思います。

 それをうちで発揮してくれるなら、私も楽しいですし世の中も平和でいられるのではないかと思います。

「まあ、イカロスも帰ってきてくれることになってめでたしめでたしだな」

 智ちゃんが笑って話を締めようとします。でも……

「智ちゃん、ニンフさんとのことおしおきね♪ 後、イカロスさんを悲しませたことも」

「いや、そはらさん? 朗らかな表情とその殺人チョップの構えがあっていませんよ!?」

「問答無用ッ!」

「ぎゃぁああああああああぁっ!」

 悪い子にはおしおきが必要です。

「…………ニンフ、よくも、マスターを、かぶらかしてくれたわね」

「なっ、何よ。智樹は別にアルファの物じゃないんだからいいじゃない!」

「…………ニンフの、物でもないでしょ!」

「やばっ! アルファったら、本気で怒ってる? こうなったら……戦術的転進よぉ!」

 言うが早いか全力疾走で走って逃げ出すニンフさん。

「こんな時ぃ、デルタが生きていてくれてたら簡単に身代わりにできるのにぃ~っ!」

 翼のないニンフさんの逃走速度は私の走りとほとんど差異がありません。

 ニンフさんの上空を翼を揺らしながらイカロスさんが悠然とついていきます。

 イカロスさんの今の表情を見る限り、元旦にうちの前で見たような憔悴さは見えません。彼女なりに気持ちにメリハリをつけたようです。

 そして、ニンフさんの言葉の中に出てきたアストレアさんですが……

 今も太陽の隣で最高の笑顔を振り撒きながら私たちを優しく見守ってくれています。

 空美町は今も、そしてこれからもずっとアストレアさんの笑顔に見守られていくことでしょう。

ありがとう、アストレアさん。これからも遠い所から私たちを見守り続けてね。

 

 めでたしめでたしです

 

 

おしまい

 

 

次回 逆襲の馬鹿(アストレア)後編

 

 


0
このエントリーをはてなブックマークに追加
0
0
5
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択