No.305737

……私と恋路と恋愛術っ!


チッ! また某ラノベ大賞の応募作品が最終選考で落ちました。2回連続……。
そんなに私が嫌いかスク〇ニっ!! 最後の5人ぐらいで複数回落とされるのは心が痛いんじゃ!
まあ、そんなどうでも良い嘆きは後にして、”にっ”だった気がする作品。
聖帝(メインヒロイン)美波(サウザー)編の最終章です。

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2011-09-23 00:09:51 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:4074   閲覧ユーザー数:2888

……私と恋路と恋愛術っ!

 

 

「行きなさい、葉月ちゃん。時代を拓くのです。美春は、いつも貴方を見守っています。さらば、です……っ」

 

 ズドン、と大きな音が鳴り響いた。

 聖碑が聖帝腕十字陵の地面へと落ちる音がした。

 

「縦ロールのお姉ちゃ~~んっ!!!」

 

 葉月の絶叫が文月学園の校庭にこだました。

 悲痛な、とても悲痛な叫びだった。

 

 

 

「……あっ、須川が死んだ」

 聖碑の下敷きになった須川が死んだ。

 でも、そんな些細なことはどうでもいい。

 今は傷心の葉月の方が心配だった。

 でも、あの娘は私が思うよりも遥かに強い心を持っていた。

「葉月の中で生きるのですっ、同性ラヴの縦ロールのお姉ちゃんっ!」

 葉月は清水が運んできた石に触るのを止めて毅然とした表情で立ち上がる。

 そして聖帝腕十字陵の下からこの悲劇を楽しげに眺めていた島田を睨み付けた。

「お姉ちゃんっ! お姉ちゃんの髪の毛1本すらこの世には残さずに\アッカリーン/(空気化)してやるのですよ!」

 あの優しい葉月が、姉思いの葉月が島田に対して怒りをむき出しにしていた。

 こんなにも激しく怒った葉月を見たのは初めてだった。

「その遠吠えがアンタの最期の遺言になるのよ」

 でも、島田はそんな葉月の怒りを涼しげに受け流していた。

「愚かな小娘ね。どこまでも悲しみを引きずっていくつもりなの?」

 島田がゆっくりと聖帝腕十字陵を登り始める。

 自信が狂気と成り果てた歪な笑みを浮かべながら。

 

 

 

 島田は自信満々に己の将来の墓地を登っていく。

 自身の権力の象徴にして虚勢の象徴である自分の巨大な墓を。

 島田は頂上からゆっくりと下り始めた葉月を不愉快とばかりに睨み付け、己が憤慨を吐き出した。

「人は愛ゆえに苦しまなければならない。悲しまなければならない。愛ゆえによっ!」

 愛という言葉を発する島田には大きな苛立ちを垣間見えた。

「ウチはずっとアキに男扱いされて来た。女の子として瑞希や木下にずっと負けていた。ウチの気持ちはアキに全く届かない。こんなに苦しいなら、こんなに悲しいなら、愛なんか、愛なんか要らない! そう思ってたわ」

 島田はハッと鼻で息を鳴らした。

「でもね、強化合宿を通してウチは気付いたのよ。愛は受身で与えられるのを待つものじゃない。積極的に奪い、独占し、支配するものなんだって。誰にも遠慮なんか無用なんだって。ううん、ウチはヒロインの星に目覚めたのよ。ヒロインに友情なんか要らない。歯向かう者には死、あるのみよ」

「だったら葉月は友情の為に戦うのです」

 視線で激しく火花を散らす姉と妹。

「フッ。もう人質なんか要らないわ。今こそ姉と妹の決着を付ける時よ」

 島田は部下たちに人質に取っていたレジスタンスの百合娘たちを解放させた。

 葉月との戦いに揺ぎ無い自信を持っているからこそできる所業。

 そんな島田の態度を見て葉月は更に闘気を燃え上がらせる。

「この石段は縦ロールのお姉ちゃんの悲しみっ! 1歩1歩かみ締めて登って来るがいいのですっ!」

 距離を縮めていく姉と妹。

 2人の決戦の時は近づいていた。

 

 でも、そんな2人の戦いを邪魔しようとする男がいた。

「聖帝(メインヒロイン)さまの手を煩わせるまでもない」

 F組の横溝だった。

 横溝は須川のように自らを矢と化して、葉月の唇を狙おうとしていた。

 葉月は島田との対峙に夢中で横溝の悪しき企てに気付いていない。

 葉月の乙女の大ピンチ!

「小学生のまだ青い果実の唇……一体どんな味が……ぷぎぇぺぇっ!?」

 横溝がFFF団の男たちにより発射されようとしていたまさにその瞬間だった。

 突風が吹き荒れ、落下防止用のフェンスが横溝の体に深々と突き刺さっていた。

「だっ、誰だ!?」

 聖帝軍の兵士たちがフェンスを投げた犯人を捜す。

 そして彼らは新校舎の屋上に数十人の男たちが鈍器を構えて立っているのを発見した。

 

「け、拳王軍……っ!」

 聖帝軍の兵士たちはみな一様に引き攣った表情を見せた。

 そう。屈強な男たちの集団の先頭に立っているのは文月学園が誇る美人双子姉弟。

 木下優子と木下秀吉だった。

「この勝負っ、邪魔立てする者はこの木下の長姉と次姉が許さないわっ!」

 高らかに宣言する優子。

 優子は島田を険しい眼力で睨み付けた。

「美波さん(サウザー)っ! 貴方の野望もここまでよっ!」

 拳王の異名を持つ優子の剣幕は次元の異なる恐ろしさを持つ。

 でも、そんな優子の激しい目力も島田は歪に笑って受け流してしまった。

「フッ。丁度いいわ。サブキャラ3人まとめて聖帝腕十字陵の礎にしてやるわ」

 島田は優子を鼻で笑うと再び葉月へと顔を向け直した。

「葉月、アンタは神が与えたこの肉体の前に敗れ去るのよ」

「そんなペッタンコな体、怖くないのですよ」

 数mの距離を置いて対峙する姉妹。

 姉妹の最後の戦いが、今始まりを告げようとしていた。

 

 

 

「滅びなさいっ! アンタの信じる友情と共にっ!」

 島田が下から葉月に向かって一気に駆け寄っていく。両手で手刀を作って葉月の胸を狙う。

 島田ならではの超高速攻撃。

 けれど葉月はその攻撃を読んでいたかのようにしゃがみ込んでその手刀を避ける。

 更に起き上がる反動を利用して島田に密着する。

「あぅっ!」

 掛け声と共にツインテールが渦を巻きながら島田の体を襲う。

 葉月の右ツインテールは島田の胸を捉え、その体に傷を負わせた。

「クッ」

 葉月の攻撃を受けた島田は空中へと放り出される。

 だけど空中で一回転すると難なく階段へと着地した。

「へぇ、アンタ、美春の縦ロール白鷺拳をねえ」

 葉月が階段をゆっくりと下りながら島田へと近づいていく。

「せめて一傷、お姉ちゃんの体に縦ロールのお姉ちゃんの拳を浴びせたかったのです」

 キッと表情を更に引き締める葉月。

「でも、お姉ちゃんを倒すのはあくまで乱世の拳、島田の拳なのですっ!」

 葉月が両手を交差させながら構えを取った。

「フフフフフ。ハハハハッハハ」

 島田はそんな葉月の構えを見ながら笑った。

「愚かな小娘ね。島田の拳には構えはないというのに。それに島田の拳はこの聖帝(メインヒロイン)には通じないわよ」

 心底バカにした瞳で妹を見る姉。

「さあ、突いて来なさい、葉月っ! 突きなさいっ!」

 島田は無防備に葉月に近づいていき……

 正面から攻撃を繰り出した。まるで誘っているかのように。

「お姉ちゃんの動きはもう見切っているのですっ!」

 鋭い突きをかわして葉月が島田のボディーへと乱打を加える。

 ツインテールによる突きは数十発に及んだ。

 

 普通であれば致命傷になってもおかしくない大ダメージ。

 でも、島田は涼しい顔をしていた。

 口元から僅かに血を垂らすだけ。ダメージを受けているようにはまるで見えない。

「アンタの拳では血を流すことはできても、このヒロインの定めを断ち切ることはできないわ。遊びはこれまでよ、葉月っ!」

 3度攻撃を開始する島田。

 葉月はこれも迎撃して猛攻を掻い潜り、島田に反撃を加える。

 葉月のツインテールは島田の体を捕らえた。胸に髪を押し当てたまま島田の体を空中へと持ち上げる。

「フッ!」

 絶体絶命の危機なのに島田はまるで慌てていない。

 ううん、これは葉月が島田を捕らえたんじゃない。

 島田が葉月に逃げられないようにわざと密着状態を作り出したのだ。

「フフフフフ。効かないわね」

 島田は余裕の笑みを浮かべている。そのごく眼前には葉月の顔がある。

 島田は葉月に捕まることで容易に懐に侵入を果たしたのだ。

「あぅっ? これはっ!?」

 一方、葉月は何かに気付いたようだった。

 でも、葉月には猶予が与えられていなかった。

「無駄よ。死になさい、葉月っ!」

「あぅううぅっ!?」

 島田のポニーテールが葉月の背中を十文字に切り裂いた。

 葉月は攻撃の衝撃で弾き飛ばされピラミッドを転がり落ちていく。

「フフフフフ。あっはっはっはっはっは」

 勝利を確信した島田の高笑いが響き渡る。

 島田の強さは圧倒的だった。

 

「さあ、新世紀救世主という名の脇役は倒したわ。次は新世紀覇者? それとも魔法秀吉・秀吉の方かしら?」

 島田が挑発的な視線を優子と木下に送る。

 対する優子たちは無言のまま島田を見ている。

 ……ところで、魔法秀吉って何?

「クッ……あぅ、なのです」

 島田が優子たちに構っている間に葉月が再び立ち上がる。

 フラついてはいるものの闘志はまだ衰えていない

「往生際の悪い妹ね」

 島田はそんな葉月を圧倒している余裕としぶとい妹への苛立ちを伴った表情で見た。

「姉より先にお墓に入りなさいっ!」

 島田はとどめを刺すべく再び攻撃に入ろうとする。

 だけど、葉月はその瞬間を見逃さなかった。

「実は葉月は普段サラシで隠しているだけで既にEカップのばいんばいんなお胸の持ち主なのですっ!」

「なっ、何ですってぇ~~っ!?」

 島田が驚きの声を上げた次の瞬間だった。

「ウッ!?」

 島田の額が割れて血が噴出したのだ。

「葉月の攻撃が、ウチに通じるなんて!? ま、まさかっ!」

 額を押さえる島田。

 妹の攻撃にダメージを受けたという事実に大きな衝撃を受けているようだった。

「お姉ちゃんの闘気の質の変化が葉月に謎を解かせたのですっ!」

 葉月は島田に対して息高らかに指を差していた。

 その闘気は戦いが始まった時よりも漲っている。

 葉月の完全復活だった。

 

 

 

「お姉ちゃんの闘気の質の変化が葉月に謎を解かせたのですっ!」

 完全復活を遂げた葉月が鋭い瞳で島田を睨む。

「フン。何を戯言を」

 額を押さえながら険しい表情の島田。

 戯言と言いつつその表情には先ほどまでの余裕がない。

 そんな島田に葉月は一気に畳み掛けた。

「葉月は昨日、バカなお兄ちゃんに舌を入れたキスをされてしまったのです。お兄ちゃんは強引だったのです。でも、葉月はそんなお兄ちゃんを……ポッ、なのです♪」

「何ですってぇええええええぇっ!? …………ぐっ、ぐぁああああああぁっ!?」

 島田の体の何箇所もから一斉に血が吹き出す。

 これは一体どういうこと?

「お姉ちゃんの不死身の体の秘密。それはヒロイン補正による無敵状態の創出なのです」

 葉月が島田の体の謎を高らかに叫び上げる。

「ヒロインなら人智を超えた補正、即ち神から無敵状態を与えられてもおかしくないのです。お姉ちゃんの無敵状態はヒロイン補正を自ら積極活用したものなのです!」

「チッ!」

 島田の舌打ちが鳴り響く。どうやら葉月の推理は図星だったらしい。

「ヒロイン補正はメインヒロインだけに与えられた特権。けれどお姉ちゃんの本当の役回りはヒロインではなく驚き役。驚き役の本領を発揮してヒロインから外れれば無敵状態は一瞬にして崩れ去るのです」

 島田は無言のまま葉月を睨み付ける。

「それがお姉ちゃんの謎。知ってしまえば何でもないことなのです!」

 誰もが知らなかった島田の肉体の謎。

 それを葉月は戦いを通じて見破ってしまった。

 名に恥じない天才ぶりだった。

 

 

 葉月の謎解きにより島田の優位は崩れさった。

 けれど、それでも島田は葉月を見て笑い出した。

「フッフッフ。アッハッハッハ」

 さもおかしそうに高笑いを奏でる島田。

「フッ。さすがはウチと並ぶ島田の拳の伝承者だわ。よく見破ったわね」

 島田が全身に力を込める。

 すると激しく噴出していた血がピタリと止まった。

「でも、それだけではウチの謎を完全には掴んだことにはならないわよ」

 島田は大きく跳躍してピラミッドの頂きに立つ。

 そして両手を横に大きく広げ、天を仰いだ。

 厚い雲に覆われた空から光が、一筋の眩しい光が島田に向かって降り注ぐ。

 

「島田鳳凰拳奥義っ、天翔腕十字鳳ッ!」

 

 彼女の背後に大きな雷が落ちる。

 島田はその構えだけで天候を、ううん、天を揺り動かしていた。

 

「あぅっ!? 島田の拳に構えがあるのですか!?」

 葉月が驚きの声を上げる。

「葉月、アンタに教えた島田の拳は基礎の基礎だけよ。アンタに本当の島田の拳、島田鳳凰拳を今こそ見せてあげるわ!」

 島田が毅然とした表情で葉月に叫ぶ。

「ヒロインの拳、島田鳳凰拳に構えはないわ。敵は全て脇役。でも、対等な敵が現れた時、自ら虚を捨て立ち向かわなければならない!」

 島田の体に光が集まり光り輝いていく。

 

「即ち、天翔腕十字鳳ッ! ヒロインの誇りを賭けた不敗の拳ッ!」

 

 島田の体が、天からの光で眩しくて見えないっ!

「あぅ。だったら葉月もその礼に応えるのですっ!」

 島田は腕をグルグルと回しながらその両手の間に空間を作り上げる。

 私の目には葉月の両手の間に北斗七星が見えた。

 よく見ると北斗七星の星の並びが左右逆。

「……あれは、北東神拳秘奥義・天羽の構え」

 姉と異なり様々な拳法を学んでいた葉月は北東神拳まで会得していたというの?

 

「あの、翔子ちゃん? 北東神拳とか天羽の構えとか一体何のことですかぁ?」

 横から声が聞こえた。

「……瑞希、いたの?」

 全然気付かなかった。

「酷いですよ、翔子ちゃん。学校に着く前からずっと一緒だったじゃないですか!」

「……影が薄いから気が付かなかった。……アッカリン(空気)?」

「ひ、酷いですよ。翔子ちゃ~ん!」

 涙目で抗議する瑞希。

 でも“にっ”になってから瑞希の影は凄く薄い。

 ヤンデレった目をしているか、料理で吉井を殺そうとしている場面が大部分。

 ただのギャグキャラ。

 しかも8話と11話では欠片もアニメに出ていない。

 まさにアッカリン(空気)。

 島田が聖帝(メインヒロイン)を名乗り始めたのもよくわかる。

「ひ、控えめな女の子の方が男の子には受けるから私のことはどうでも良いんですぅ!」

「……ごめん。私は11話で積極的な幼女ヒロインまで演じてしまって」

「謝らないでください。悲しくなっちゃいますからぁ~っ!」

 11話で私は小学生時代の初恋物語を披露してしまった。ロリぃな私に新しいファンが増えてしまったに違いない。

 出番すらなかった瑞希に申し訳ない。

「私の存在意義はともかく、北東神拳と天羽の構えについて教えてください!」

「……わかった」

 瑞希は島田が驚き役を離脱したことで自分のポジションを見失ってしまっている。

 瑞希1人では驚き役として役不足だから。

 でも、瑞希は代わりに新しい役割をみつけようとしている。

 それが、多分……。

「……まさか、文月学園で北東神拳と天羽の構えを見ることになるなんて思わなかった」

「知っているのですか、翔子ちゃん!?」

 瑞希が大きく目を見開く。

 やっぱり、瑞希が新しく狙っているのは解説役。

 驚き役から解説役に瑞希はジョブチェンジを目指している。

「……ええ。武を志した者ならおよそ聞いたことがあるに違いない1800年の歴史を持つ一子相伝の伝説の暗殺拳法・北斗神拳っ!」

「伝説の暗殺拳法・北斗神拳っ!?」

 瑞希が声を詰まらせながら大声を上げる。

「……の隣で道場を開いていたかなり微妙な流派が北東神拳。その北東神拳のかなり微妙な奥義が天羽の構え」

「と、隣なんですかぁ~っ!?」

 大声で絶叫する瑞希。……解説役になっても瑞希の役目は絶叫すること。何ら変わりがない。

「……隣をバカにしちゃいけない。バカボンのパパが出たバカダ大学はワセダの隣」

 隣はグレート。

「……確かに北東神拳自体は微妙。でも、葉月が使えば北斗神拳にだって負けない」

 校舎の屋上にいる木下姉弟を見る。

「互いに拳の秘奥義を出したのじゃ。後は2人の能力が勝敗を分けるのみ」

 ほらっ、木下姉弟も葉月の構えの威力を認めている。

「天も宿命の対決に興奮しているわね」

 優子の言葉と共に激しく雷が落ち、周囲に突風が吹き荒れる。

 続いて天から大きな氷の塊が落ちてきた。

「こ、これはっ!?」

「雹だっ!」

 聖帝軍の兵士たちが叫んだように雹が空から降ってきた。

 人の拳大の氷の塊が次々と空から落ちて来る。

 それは優子の言う通り、天が姉妹の対決に興奮しているかのようだった。

 

 

「行くわよ、葉月。天空に極星は2つも要らないわっ!」

 島田がピラミッドの頂きから大きく跳んだ。

 島田は空中を滑空しながら葉月へと襲い掛かるっ!

「あうっ! くっ!?」

 葉月は両手の拳とツインテールを使って島田を迎撃する。

 しかし島田は葉月の攻撃をすり抜け、妹の肩を切り裂いた。

「天空を舞う羽は、なん人にも砕くことは出来ないのよっ!」

 葉月の下方に降り立った島田は再び上空へと舞った。

 島田は再び葉月に襲い掛かる。

「こ、今度こそっ! あ、あぅっ!?」

 島田は再び葉月の迎撃をすり抜けて打撃を与えた。

 葉月の背中から血が吹き出る。

 

「島田の拳に伝承者は2人も必要ないのよ」

 島田が葉月を見ながら嘲笑の息を漏らす。

 そして右手を高々と天に向かって掲げた。

「天に輝く極星はひとつっ! 即ちこの聖帝(メインヒロイン)美波(サウザー)のヒロイン星、南(みなみ)十字星なのよっ!」

 島田の頭上に南十字星が光り輝いたように見えた。

 

「フッ、とどめを刺す前に葉月に面白いものを見せてあげるわ」

「面白いもの、ですか?」

 葉月が首を傾げた。

「聖櫃を開きなさいっ!」

 島田が自身から20mほど横に離れた地点に向かって大声で叫ぶ。

 すると一部の石が動いてピラミッドに穴が開き、10畳ほどの空間が目の前に現れた。

 その空間の中央にいたのは……。

「あぅっ! バカなお兄ちゃん、なのですっ!」

 聖櫃の中央にいるのは縄で全身を縛られ猿轡で口を塞がれた吉井だった。

 吉井はもがきながら何かを喋ろうとしている。

 けれど、口を塞がれている為に何を言おうとしているのかわからない。

「この聖帝腕十字陵はウチとアキのお墓。アキを狙う全ての脇役を葬った後、ウチはアキと共にこの陵に入って永遠の愛を確かめ合うのよっ!」

 高笑いを奏でる島田。

「お姉ちゃんは葉月たちをみんな倒した後に死ぬ気、なのですか?」

 葉月が信じられないという瞳で姉を見る。

「アキの愛を永遠に独占するには一緒に死ぬしかない。そうしたらアキは永遠にウチだけのものになるんだから」

 ウットリとした瞳で吉井を見つめる島田。

 吉井は激しく暴れて島田の言葉に対する反対を示す。

「……お姉ちゃんは葉月たちを倒した後、バカなお兄ちゃんとラブラブしながら子沢山に暮らすつもりなんだと思っていました。でも、2人で死ぬつもりだったなんてぇっ!」

 葉月が立ち上がりながら怒りを露にする。

「絶対に、そんな未来は来させないのですよっ!」

 葉月の闘志が膨れ上がっていく。

「誰も幸せにならないそんな未来、葉月がこの手で潰してやるのですっ!」

「フッ。小学生のお子ちゃまには大人の愛がまだわからないみたいね」

 怒る葉月。

 妹を白い目で見る島田。

 姉妹の宿命の戦いは最終局面を迎えようとしていた。

 

 

「これ以上の話し合いは無駄のようね」

「話し合いを拒否して葉月たちを排除しようとしているのはお姉ちゃんの方なのですよ」

「……それもそうね」

 島田は軽く息を吐き出した。

「じゃあ、そろそろ姉妹の戦いも終わりにしましょうか」

 島田は両手を横に大きく広げる。

「とどめよ、葉月っ!」

 そして、島田は空中を舞った。

 

「でりゃああああああぁっ!」

 空中を舞う島田は葉月にとどめを刺すべく近づいていく。

 島田は勝利を確信した自信に溢れた表情。

 天翔腕十字鳳を繰り出し始めてから島田は一方的に攻撃を加えている。

 島田が自信に溢れているのも頷ける。

 けれど、葉月は諦めていなかった。

 葉月の瞳は熱く燃えていた。

 

「北東神拳奥義っ、天羽活殺っ! なのですっ!」

 

 葉月が掛け声と共に両手を前に突き出す。

 次の瞬間、島田の体が後方に向かって大きく吹き飛んだ。

 それと共に島田の後ろの岩が砕ける。

「グゥっ!?」

 島田の背中から血が吹き出す。

「天羽活殺の奥義は、触れずして闘気をもって攻撃することにあるのです!」

 島田は口元の血を拭いながら葉月を睨む。その瞳には強気に反して動揺が含まれていた。

「……奥義の秘密はわかったわ。けど、どうしてウチがダメージを受けるのよ? 驚いていないのに……」

 それは確かに変な話だった。

 驚き役を発揮していないのに何故島田は打撃を受けたの?

「答えは簡単なのですっ! バカなお兄ちゃんとの心中を企むお姉ちゃんを天は既にヒロインと認めていないからなのです!」

 葉月は天へ向けて高く指を突き出した。

「ヒロインとは明日への、未来への希望を捨ててはいけない存在なのです。なのに自ら命を捨て、バカなお兄ちゃんを殺して囲おうと企むお姉ちゃんにヒロインの資格はないのです!」

「そ、そんな……」

 葉月の話に大きな衝撃を受ける島田。

「将星、墜つべしなのですっ!」

 妹に指を刺され姉は震えていた。でも、それでは島田は妹に弱さを見せようとしなかった。

「フンッ! たとえ天がヒロインと認めなかろうと、ウチはバカテスの聖帝(メインヒロイン)っ! ヒロインたるウチを倒すことは誰にもできないのよっ!」

 島田が気合と共に全身に力を込める。

 するとあれほどおびただしく流れていた出血が瞬時に止まった。

「羽を持つ島田鳳凰拳に致命の拳を突き入れることはできないのよ」

 再び闘気を全開にした島田は大空に向けて跳躍しようとする。

「クッ! あ、足がっ!」

 だけど島田は足がもつれて飛び立つことができない。

「鳳凰は既に飛ばないのです。お姉ちゃんは翼をもがれたのです!」

「そう。翼までもがれたというわけね」

 島田は軽く笑いを吐き出した。

「でもね! たとえ翼をもがれようとウチは聖帝(メインヒロイン)美波(サウザー)っ! バカテスの唯一にして絶対のヒロインっ!」

 もはや島田に勝ち目がないのは明白。

 でも、島田はむしろ激しく自分を奮い立たせていた。

「引かないっ! 媚びないっ! 省みないっ! ヒロインに敗北の2文字はないのよぉおおおおおおおぉっ!」

 島田は動かない足に代わり、腕を使って大空へと跳躍を果たす。

 そして、葉月に向かって最後の攻撃を仕掛けた。

 

 全身全霊を賭けた、けれどあまりにも無防備な特攻。

 そして──

「あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅうううううううぅっ!」

 葉月は島田の体を滅多打ちにした。

「ぐっはぁあああああぁっ!」

 吹き飛ぶ島田の体。

 ここに葉月と島田の戦いは決着がついた。

 

 

 

 力を失った島田の体は葉月に向かって倒れ込んでいく。

 葉月が島田を倒した最後の技。

「……あれは、島田有情アッカリン拳」

「えっと、それは一体どんな技なのですか?」

「……いたの、瑞希?」

 また、存在を忘れていた。

「うっうっ。翔子ちゃん、酷いです。でも、負けません! さあ、あれはどういう技なのか解説してください」

 瑞希は瑞希で強くなっている。

「……解説は、必要ない」

「それは幾らなんでも酷いです、翔子ちゃん! 驚き役を捨て、解説役まで捨てたら私は一体どうなってしまうんですかぁっ!?」

「……アッカリン(空気)」

 涙目の瑞希は放っておいて決着がついた2人に注意を向ける。

 

「アンタ……苦痛を生まぬ有情拳を。このウチの死さえ苦しみを与えずに情けで送ると言うの?」

 葉月は無言のまま島田を見ている。

 その表情はとても悲しそう。

「……聖帝の、メインヒロインの夢は潰えたわね」

 葉月に敗れた島田はむしろサバサバとした表情をしていた。

 腫れ物が落ちたような、そんなスッキリした表情を。

「最期に、葉月に聞きたいことがあるの」

 島田は葉月を見た。

葉月は島田の瞳をそらさずに見つめ返している。

「愛や友情は悲しみしか生まないわ。なのに、何故悲しみを背負おうとするの? 何故苦しみを背負おうとするの?」

「悲しみや苦しみだけではないのです。お姉ちゃんもぬくもりを覚えているはずなのです」

「ぬくもり、ね……」

 島田は天を仰いだ。

「葉月にそれを教えてくれたのは…………お姉ちゃん、なのですよ」

 葉月の声と姉を見る視線には暖かさと物悲しさが入り交じっていた。

「フフフフフ。ハハハハハ。負けよ。完全にウチの負けよ」

 島田は晴れ晴れとした顔を葉月に見せた。

「今こそわかったわ。美春が葉月に託した想いが」

 島田は私たちに向かって顔を向けた。

 女性FFF団で一緒にバカやっていた時の生き生きとした表情だった。

「女性FFF団のみんなにも悪いことをしたわね。悪いことをしたなんて言葉じゃ許されないことをしちゃったけれど。ごめんね、霧島さん、瑞希」

 私は島田に何と返せば良いのかわからなかった。

「美波、ちゃん……」

 瑞希も言葉を続けられなかった。

 島田はその後は何も言わずに視線を元に戻し、葉月の両肩に手を置いた。

「新世紀救世主……最期の相手が葉月で良かった」

 島田は葉月に向けて微笑んだ。

 それは姉が妹を慈しむ顔で間違いなかった。

「……お姉ちゃんのキャラとしての寿命は後僅かなのです。最期は好きな場所でアッカリン(空気化)すると良いのですよ」

 葉月は俯き体を震わせながら姉に答えた。

 

「アキ……っ」

 島田は体を引き摺るようにして聖櫃へと寄っていく。

 その体は徐々に薄くなり始めていた。

「アキっ! アキっ! アキ~っ!」

 島田は吉井に寄り添いながら想い人の名を連呼する。

 透明になっていく手を必死に動かしながら吉井の猿轡を外す。

「……ごめんね、アキ」

 半分透き通った顔で島田は吉井に謝った。

 吉井は静かに首を横に振った。

「謝るのは僕の方だよ。僕は美波を男友達と付き合うみたいな雑な態度で付き合っていた。それが美波を苦しめていたんだよね。それに僕はとても大事なことを伝えていなかった」

「大事なこと?」

 ほとんど透明になった島田が首を傾げる。

 

「僕にとって美波は、ありのままの自分で話が出来て、一緒に遊んでると楽しくて、たまに見せるちょっとした仕草が可愛い……とっても魅力的な、そう、とっても魅力的な女の子だよ」

 

 それは聞いていて恥ずかしくなるぐらいにストレートな告白だった。

 とても温かい言葉。

 私に向けられた言葉じゃないのに私の心まで温かくなった。

 

「ありがとう、アキ。本当に……嬉しいよ……大好き、だよ…………」

 

 その言葉を最後に島田の体は完全に透明となり、空気と、世界と一体化した。

 

 

「悲しいお姉ちゃんなのです。誰よりも愛と友情深き故に……」

 葉月は聖櫃に背を向けてゆっくりとピラミッドを降り出す。

 哀を湛えた色をその目に宿しながら。

 姉妹の戦いはここに本当に終わりを告げた。

 

 

 

 葉月と島田の戦いは終わった。

 けれど、島田の手下、聖帝軍はいまだ健在だった。

「せ、聖帝(メインヒロイン)さまの仇っ!」

 黒尽くしの男たちが手に鎌を持ってピラミッドを降りてきた葉月を取り囲む。

「ダメっ!」

 けれど、そんな葉月の前にレジスタンスの百合乙女たちが立って人間の盾となる。

 凶器を手にした男たちを相手に1歩も引かない乙女たち。

「くぅ……っ」

 聖帝軍の残党たちはその瞳の意志の強さに困惑する。

 そして、短い睨み合いの末に彼らは自分の武器を地面へと投げ捨てた。

 聖帝軍は戦いを放棄した。

 

「見るのじゃ、姉上。心が一つに動いたぞ」

 木下は武器を捨てた聖帝軍を見ながらそう評した。

「そして美春の同性ラヴも泣いておるぞ」

 ピラミッドの頂きが微かに揺らいだように見えた。

「うっ、うっ、うわぁあああああぁ。ら、落石がぁあああああああああぁっ!?」

「……あっ、吉井が死んだ」

 聖櫃が落石により埋まり、縄で縛られたままだった吉井は巨石に潰された。

 同性ラヴは美波に告白した吉井に怒り全開だったようだ。

 でも今はそんな些細なことよりも木下姉弟のやり取りの方が気になった。

「姉上よ。これで天下は姉上のものじゃ」

 木下の言う通りだった。

 島田の脱落により文月学園には優子に並ぶだけの力を持つ者がいなくなった。

 即ち天下は優子の手により統一された。

「でも、恐怖では人は縛れないよ……お姉ちゃん」

 えっ?

「お姉ちゃん? まさか、秀吉……ううん、秀子。アンタ、昔の記憶が戻ったって言うの?」

 驚きの声を上げる優子。

 だけど木下は姉をジッと見つめるだけで優子の謎の問いには答えない。

 そんな木下に対して納得を示したのは優子の方だった。

「なるほどね。アタシは今こそ悟ったわ。アンタと葉月ちゃんを倒さない限り天は握れないってね。覇業いまだならず、ね」

 木下に背を向けて校舎の中へと戻っていく優子。

 木下姉弟には私が知らない秘密が存在するらしい。

 そしてその秘密は姉と弟の戦いを誘うものに違いなかった。

 

 女性FFF団同士の血みどろの戦いはまだ終わりを告げていなかった。

「あの、翔子ちゃんっ!? わ、私の体まで透明になり始めてしまったのですけれど!?」

「……問題ない」

 この争いはいつまで続くのだろう?

 

 続く

 

 

 

 


 
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