No.227893

アタシとみんなと海水浴っ!

バカテスにっが始まりましたね。
日々溜まるストレスと体調の悪さを払拭すべく久しぶりに書いてみました。
その結果、しばらく離れていた内にどういう物語だったかすっかり忘れている自分がいました。
その為にほんの少しだけ違和感があるかもしれませんがご容赦を。
にっの1話の設定・舞台は利用しています。そういう意味ではネタバレです。

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2011-07-14 12:08:22 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:5980   閲覧ユーザー数:5591

 アタシとみんなと海水浴っ!

 

 

 夏休み。

 アタシたちは毎週恒例となっている女性FFF団の集会を放課後にF組で開いていた。

 “にっ”になっても変わらない日常。

「それでは女性FFF団定例集会を始めるわよっ!」

「「イッエィ~♪」」

「……ドンドンドン。パフパフ」

 驚き役の姫路さん、島田さんが集会の開始を盛り上げてくれる。

 代表も表情は変わらないけれど、声に出して反応してくれる辺り楽しんでいるようだ。

 “にっ”が始まったというのに本当に何も変わらない。

「さて、待望の夏休みとなった訳なのだけど、女性FFF団も夏らしい活動をしないといけないと思うの。誰か、遊びに行くのに良いプランある?」

 私の質問に対して姫路さんは顔を横に背けた。島田さんも同じ。あまつさえ、代表さえ横を向いてしまった。

 一体、何故?

 まあ、その理由の見当は付いているのだけど。

「じゃあ今日は夏を楽しく過ごすに当たって、有益な情報を紹介してくれるお友達を紹介するわ」

 チラリと3人を見る。

「そのお友達とは一体誰なのですかぁっ!?」

「もったいぶらずにさっさと教えなさいよっ!」

 姫路さんと島田さんが実に生き生きとした表情で尋ねて来る。やはり彼女たちの本質は驚き役。

頭はアタシを無視しようとしても体は反応してしまうのだ。

「それじゃあ、紹介するわね」

 指をパチンと鳴らす。

 すると後部のカーテンが解かれ、中から猿轡をかまされ、全身を縄で縛られた愚弟が出て来た。

「木下くんっ!?」

「木下っ!?」

 姫路さんたちが驚きの声を上げる。

 だが、その声は愚弟の身を心配しているのではない。何を重要な時期に捕まってんのよこの淫キュベーダーがぁと非難するものだった。

「さて、秀吉。貴方は明日から泊り掛けで遊びに行くようだけど、誰とどこに行くのかしら?」

 キュゥべえに流し目を送る。お色気満点のアダルティーアイ。

「ふ~ふ~フーっ!」

 猿轡をかまされた弟は何か騒いでいる。

 ちっともわからないので指を再びパチンと鳴らす。

 猿轡が一瞬にして解かれる。

「もう1度尋ねるわ。キュゥべえは明日から誰とどこに行くの?」

 姫路さんと島田さんがキツイ瞳で秀吉を睨む。視線だけで殺せそうだ。

 そんな彼女たちの視線が身に染みたのか

「ワシが誰とどこに行くかは言えんっ! 知りたくばワシと契約して魔法少女になって欲しいのじゃ!」

 キュゥべえは回答を拒否した。断固拒否した。

 誰がたった1つの望みと引き換えに魔女と死ぬまで戦うものか。

「そう」

 もう1度指を鳴らす。

「なっ、何じゃ!? 突然目が見えなくなったぞ? 姉上、ワシに目隠しでもしたのか?」

 すると愚弟が叫び始めた。

「五感の内の1つ、視覚を塞いだだけよ。回答しないと他の五感もどんどん塞ぐから」

 夏は暑いので相手と密着しなければならない関節技は使いたくない。

「さあ、もう1度尋ねるわよ。誰と、どこに行くの?」

「い、言えぬのじゃっ!」

「あっ、そ」

 指を再び鳴らす。

「今度は何をしたんじゃ!?」

「味覚と嗅覚を取り去っただけよ」

 そして姫路さんが差し入れに持って来てくれた自家製シフォンケーキを秀吉の口の中へと全部放り込む。

「うっ!? 一体何をワシに食べさせておるのじゃ? 味も匂いもわからぬから皆目見当もつかないぞ!?」

 焦る秀吉。

 味覚と嗅覚がなくなっているおかげで食べた瞬間即死という事態はないらしい。

 けれど、消化される頃に弟の命が尽きることに変わりはない。

「酷いです、木下くん。せっかくのシフォンケーキを味わいもせずに食べてしまうなんて……」

 姫路さんが瞳をウルウルと潤ませている。

 彼女には悪いが危険物が処理できて助かった。

「さて、もう1度だけ尋ねるわ。誰と、どこに行くの?」

「言えぬと言ったら言えぬのだ。ワシとて男の意地があるのじゃ!」

「よく言ったわ」

 指をもう1度鳴らす。

「何も見えぬし何も聞こえぬし何も感じぬっ!? 姉上、五感全てを断ち切ったというのか?」

 大騒ぎする愚弟。

 まあ、弟の言う通りなのだけど。

 さて、ここからは尋ねるではなく、吐かせることにする。

 人間に存在する感覚は五感だけではない。

 例えば、痛覚というものは五感が絶たれても存在する。

 そして、経験を体は覚えている。

 アタシの48の必殺技と52の関節技の痛みを秀吉は体で覚えているのだ。

「さて、最初は(偽)木下リベンジャーからいってみましょうかね♪」

 アタシは手を団扇にして仰ぎながら愚弟へと近付いていった。

 

 5分後。

「ワシは明日、明久や姫路、島田、霧島たちと一緒に海に行くんじゃ……」

 頭まで床にめり込んだ秀吉が死んだ魚の目をしながらようやく素直に答えてくれた。

「答えたのじゃからもう良いじゃろ? 早くワシを解放して五感を戻してくれ」

 ちなみに五感を治す方法なんてアタシは知らない。けれど、元通りにする方法ならわかる。

「アンタなら、余裕で明日までにあっちの世界から戻って来られるでしょう」

 言いながらアタシは拳を振り上げ、そして下ろした……。

 回復呪文をたくさん唱えるよりも蘇生呪文を1度唱える方がコストが安上がりなことがある。

 薬草をたくさん使うよりも教会でお布施を払う方が安上がりなこともある。

 秀吉の場合は特にそう。

 まあ、そういうこと。

 

 秀吉の件が根本的解決を迎え、アタシは姫路さんたちへと向き直った。

「さて、これはどういうことかしら? 異性と、しかも吉井くんと泊り掛けで遊びに行くなんて、女性FFF団団員としてあるまじき裏切り行為じゃないかしら?」

 姫路さんたちをキツイ視線で睨む。

 決してアタシを誘ってくれなかったことを妬んでいるんじゃない。吉井くんと一緒にお泊りなんて魅惑的で甘美的すぎる体験をアタシだけ迎えられないことをジェラスしているわけじゃない。

 そう。これは女性FFF団の崇高なる任務を完遂する為の正義の審判なのよ!

「裏切る? フッ。裏切ってもいませんし組んだ覚えもありません」

 ところが姫路さんは予想に反して強気な態度に出た。

「そうよそうよ。これは裏切りではなく知略なのよ!」

 島田さんがこれに続く。

 そして2人は制服を脱いで、見事な水着姿を披露してみせた。

「貴方たち、こんな所で何を突然脱いでいるのよ!」

 言いながらアタシは驚愕していた。

 姫路さんの常人ではあり得ない大きな胸に。

 島田さんの常人ではあり得ない細い腰に。

 F組の女性陣は化け物なの!?

「私、思い出したんです」

 姫路さんが強調するように胸の前で手を組む。

「私こそがバカテスのメインヒロインなんだって」

「そうよ。ウチと瑞希こそがバカテスのメインヒロインだと思い出したのよ」

「「えっ?」」

 メインヒロインの範囲を巡る見解の差により姫路さんと島田さんの間に一瞬火花が散る。

「そういう訳で私は驚き役なんかで収まる器じゃないんです。明久くんと“にっ”で破廉恥極まりないインモラルな関係になるんです。だって、メインヒロインですから!」

「そうよ。ウチだってアキと同じ布団に入ったり、キスだってしちゃったりするんだから!」

 2人はとても強気だった。

 そして、天職ともいうべき驚き役を降りるというのだ。

「……それが、アンタたちの進む道、なの?」

「ええ。メインヒロインとして主人公にセクハラを受ける。そして結ばれる。それが、私の生きる道です」

「ウチのポニーテールがアキによって解かれてしまう日もそう遠くない。それがメインヒロインの宿命なのよ」

 2人は意気揚々と水着姿のまま教室を出て行った。

「代表はどうするの? って、代表まで水着!?」

 振り向くと代表は赤いビキニの水着に着替えていた。

「……私は雄二さえいてくれればそれで良い」

「代表の場合はそうよね」

 代表は女性FFF団の正式なメンバーではない。

 吉井くんと坂本くんがいつも一緒にいるからアタシたちと共に行動している外部協力員。従って血の盟約は元々当てはまらない。

「……明日の準備があるからそろそろ行く」

「うん。わかった」

 代表も教室の外に向かって歩き出す。

 水着姿のまま。

 そして、教室を出る際に1度だけアタシの方に首を回した。

「……優子。ごめんね」

 アタシを誘わなかったことに対する謝罪だろうか。

 その言葉を残して代表は視界から去っていった。

 

 

「女性FFF団もアタシ独りになっちゃったか……」

 大きく溜め息が漏れる。

 みんなでいる時は狭く感じたF組も独りでいると広く感じる。

 ちょっぴり未来から来た青いヤツに去られたメガネの気分。

「まあ、それはそれとして吉井くんの動向はチェックしないとね」

 今回の泊り掛けの海イベントに対して葉月ちゃんは何の動きもみせていない。

 つまり、姫路さんたちがどう動こうが何を企もうが恋愛フラグは立たないと踏んでいるに違いない。葉月ちゃんが動かないからにはそうなのだろう。

 けれど、安穏と座してはいられない。

 何故なら吉井くんは稀代の特級フラグ立て士。

 海など行けば、どんな女や男を新たに引っ掛けるかわかったものじゃない。

 これ以上のライバル増加は避けたい。

「でも独りきりだと尾行の人数が足りないのよね。……困ったわね」

 尾行はチームプレイによって初めて成果を挙げることができるのに。

「お困りのようだね。吉井くんを追い掛けるなら僕も手伝うよ。メガネきら~ん」

「お姉さまの見張りなら美春に任せてください」

「あ、貴方たちは……っ!?」

 アタシの前に突如現れた一組の男女。

 こうしてアタシは新たなる仲間を得て、吉井くんたちを追跡することになった。

 

 

「まったく、吉井くんも遠慮しないで僕を誘ってくれれば良いものを」

「お姉さまも、豚野郎が一緒だからって遠慮せずに美春のことを誘ってくだされば良いですのに。で、この問題はどう解きますの?」

 吉井くんたちが向かう海岸へと電車で移動中のアタシと久保くんと清水さん。

 到着するまで何時間も掛かるということで電車の中で勉強会となった。

 勉強会という所が如何にも久保くんらしい。

「ああ、この問題はね……こうやってこうやってこう解くんだよ」

「ああ、なるほど」

 久保くんと清水さんは共に文系なので勉強している所が重なっている。なので、2人で一緒に勉強している。久保くんが清水さんを教えてあげているという感じだけど。

 対するアタシは思いっきり理系。勉強している科目も異なり、何だかちょっとだけ疎外感を覚える。

「にしても、この2人、本当にお似合いよね」

 2人に聞こえない様に小さく呟く。

 多分他の人から見ると久保くんと清水さんはカップルにしか見えないと思う。

 それぐらいよく似合っている。

 けれど2人はそういう関係じゃない。

 何故なら2人とも同性愛者だから。

 久保くんは吉井くんのことが好きで清水さんは島田さんのことが好き。

 だから2人はカップルではなく共闘者という関係を結んでいる。

 でもまあ付き合っている訳でないにしろ、ああやって親しく接してくれる異性がいることは青春真っ盛りのアタシにとっては羨ましい限りだ。

 ちなみにあの愚弟淫キュベーダーは異性にはカウントしない。あの自称男は。

「はぁ~。勉強しよう」

 A組成績上位者の価値って何だろうと疑問に思いながらアタシは物理の参考書とにらめっこを再開した。

 

 

 それから2時間ほどの時が過ぎてようやく目的の海水浴場に到着。

 時間的に考えれば、吉井くんたちは先に着いていておかしくなかった。

「さあ2人ともっ! 吉井くんたちを見つけ出して見張るわよっ!」

「「おおっ!」」

 アタシの号令に手を突き上げて答える2人。

「まずは水着に着替えてここに集合よ。後、日焼け止め対策と熱中症対策を怠らない様にしてね」

 夏の砂浜だけあって非常に暑い。

 普段クーラーの効いた室内で勉強する生活を送っているアタシたちにとってこの暑さは殊更にこたえる。

「ああ、わかったよ」

「早く着替えて一刻も早く豚野郎を成敗してやりますわ」

 2人は勇み足で更衣室へと歩いていく。

 そんな2人を頼もしく思いながらアタシも後を追った。

 

 

 それから30分後。アタシは独りで浜辺に立っていた。

「おっそいわね。2人とも」

 今のアタシの格好は吉井くんが好きだという競泳水着の赤バージョン。

 足元にはダイエットと適度な運動をかねてちょっとだけ特殊なビーチサンダルを履いている。

 日焼け止め対策に紫外線遮断効果のあるパレオを肩から羽織ったりしている。

 これで夏対策はバッチリ。

 けれど、待てど暮らせど2人はやって来ない。

 一体、どうしたのだろう?

「あの~、僕は用があるのでそろそろ解放して頂けないでしょうか?」

 背後から久保くんの声が聞こえた。

 振り返ると10人ぐらいの若い女性が群をなしているのが見えた。

 その中心に頭1つ高い久保くんの顔が見えた。

「そんなことを言わないで写真もう1枚お願いします」

「ずるい。私の方が先よ」

「あんたたち、もう2枚ずつも撮ってるんじゃないのよ!」

 女性たちが久保くんを中心に揉み合っていた。

「逆ナンっていうよりも……ちょっとしたアイドル状態よね」

 久保くんは顔がいい。女性への受け答えも親切丁寧だ。そして何よりメガネだ。

 だから久保くんのファンは文月学園内にも多い。

 けれど、久保くんは誰とも付き合わない。

 吉井くんに一途だから。

 よってあそこで逆ナン攻勢を仕掛けている人たちも結局は徒労に終わるのだけど、久保くんが抜け出す頃には日が暮れてしまいそうな勢いだった。

 

 久保くんはナンパされているのでこちらに来られないのはわかった。

 じゃあ、清水さんは?

「嫌ぁあああぁっ! 豚野郎どもが美春に近付かないでくださいっ!」

 悲鳴が聞こえた方に振り返ると、10人ぐらいの如何にも汗臭そうなぷよっぷよなキモオタの群が見えた。サンオイル塗っているわけでもないのに脂っぽく見える集団。

 その中心に縦ロールがピコピコ揺れているのが見えた。清水さんに間違いなかった。

「リアル縦ロールのツンデレな女の子萌え~」

「美春タン萌え~」

 キモオタが死んだ方が良い寝言をほざきながら清水さんを囲んでハァハァしていた。

 確かに清水さんの髪型はアニメのキャラクターを連想させる縦ツインロール。

 清水さんの男性嫌いによる嫌悪感丸出しの口調も、聞き様によってはツンデレに思えなくはない。

 自分のことを美春と名前で呼ぶ点も。

 あのキモオタたちには、清水さんがアニメの世界から飛び出して来たキャラの様に思えているのかもしれない。死ねば良いのに。

「何ですのぉ~? この身の毛もよだつ気持ち悪い生物たちは~!?」

 男たちに大人気なのは間違いないが……清水さんが嫌がっているのは明白だった。彼女は男嫌いなのだし当然の反応だった。

「しょうがない。助けに行きますか」

 肩を回しながらゆっくりと清水さんに近付いていく。

 今年もまた海岸を赤く染めてしまうことになるとは思わなかった。

 けれど、アタシが後10mの距離に近付いた時だった。

「いい加減に美春から離れてください。この豚野郎どもがぁああああぁっ!」

「あっ」

 清水さんは大声で叫ぶと全力ダッシュで逃げ出してしまった。

「待って美春タ~~ン♪」

 そして清水さんを追い掛けていくキモオタたち。

 清水さんたちはあっという間に視界から見えなくなってしまった。

「所詮頼れるのは己の力のみってことかしらね」

 真夏の太陽に照らされながらアタシはそう呟いた。

 ああ、暑い。

 

 

 

 

「久保くんも清水さんもあれだけ大人気なのだもの。アタシだってナンパしたい男の子に群がられるに違いないわね。ふっふっふ。困ってしまうわね」

 吉井くん以外の男の子に用はない。

 けれど今は夏。

 ひと夏のアバンチュールな恋が花を咲かす魔性の季節。

 一体アタシはどんな美少年に口説かれてしまうのかしら?

 ちょっとだけドキドキしてしまう。

 できれば半ズボンが良く似合う、おませで、でも礼儀正しい美肌の美少年がいいなあ♪

 もぉ~優子ったらとんだ小悪魔さんなんだから~♪

「さぁ~♪ アタシにいつでも声を掛けて良いのよ~♪」

 スマイルをいっぱいに浮かべながら周囲を見回す。

 するとちょっと悪っぽそうな高校生ぐらいの男の子と目が合う。

 不良は好きじゃないけれどこの際だから構わない。

 フッ、アタシにナンパする名誉を与えるから最高の口説き文句を述べなさい。

 アタシの美しさに惹かれて男子学生が近付いて来る。

 それからアタシの顔を覗き込むと大声で周囲に叫んだ。

「けっ、拳王さまがお戻りになられたぞぉおおおおぉっ!」

 男は砂浜の熱せられた暑さにも関らず素早く土下座し、しかも額を地面に擦り付けた。

 額が砂で焼ける音がする。

 そして土下座したのはこの男だけではなかった。

 100人近い男が一斉にアタシに近寄って来て土下座し始めたのだ。

 100人の不良男たちの総土下座。

 その光景を見てアタシはそいつらが誰であるのかようやく思い出した。

「ああ、アンタたち。去年この浜辺の治安を乱していた悪どもね?」

「御意にございます。拳王さま」

 思い出すのは1年前の夏の日のこと。

 某BL小説のイベントに参加しようとアタシは1人でこの砂浜にやって来た。

 だがそこでアタシが見たものはイベント会場側で柄悪く振る舞い、他の参加者の女の子たちを困らせているこの男たちの姿だった。

 で、アタシがまとめて成敗した。

 清純な心を持つ腐女子の集まりを壊そうだなんて許せるはずがなかった。

 男たちをティロフィナーレ(物理)(=ビンタ)で懲らしめ、手作りクッキーで懐柔してやったらすっかり大人しくなった。誰1人も微かにも逆らわなくなった。

 まあ、去年の甘酸っぱい思い出ってヤツ。

「アンタたち? 去年罰として命じておいた25年間毎日海岸の空き缶拾いはちゃんと続けているのでしょうね?」

「も、勿論でございます」

 海岸を見回す。見た所ゴミは落ちていないようだった。

だが、アタシの瞳は輸血用パックが1つ無造作に砂浜に捨てられているのを見逃さなかった。

 アタシの視線の先に気付いて震えだす男たち。

 そしてアタシはダイエット用に用意した左右合わせて100kgある大型鉄ビーチサンダルを履いたまま前進を始めた。

 アタシが2歩進むとジュ~ッと鉄で肉が焼ける音と臭いがした。

 そのまま歩き続ける。

 砂浜なのにやたら凸凹して歩き難い道だった。

 凸凹を通過して海の目前へと至る。

 海の潮の香りを鼻いっぱいに感じる。

 うん、まさに夏の海って感じ。

「拳王さまが修羅の国のある方角を眺めておられる」

「男子の生存率わずかに1%というあの修羅の国か?」

「まさか拳王さまは修羅の国に攻め込まれるおつもりなのか?」

 何か外野が煩い。

 せっかく乙女チックな気分に浸っているというのに。

「して、拳王さま。今日は何故こちらまで?」

 先ほどの男が立ち上がり、近付いてきて尋ねた。

 砂浜に土下座していたせいで顔は砂の熱で真っ赤に腫れている。そして背中にはアタシのビーチサンダルの痕が刻印となってついている。

 どうやらこの海岸の風紀はまだ守られていると考えて良さそうだった。

「アタシがここまでやって来た理由。それは……」

 答えようとした瞬間だった。

 

 吉井くんと坂本くんが全力ダッシュしながら駆け抜けていく様を偶然目撃してしまった。

 

「雄二こそっ、僕がきっかけ作っておくからさ」

「そんなもん信用できるか。ここは俺に任せとけ」

 

 どうやら吉井くんたちは女の子をナンパしようとしているらしい。

 何故、一緒に旅行に来ている女の子が5人もいるのに、わざわざ他の娘をナンパしようとしているのだろう?

 吉井くんたちの行動の意図が全くわからない。

 けれど、これはチャンスに違いなかった。

 姫路さんと島田さんが結局相手にされないのは予定通りとして、吉井くんがナンパに走ってくれたのはラッキーだった。

 即ち、アタシが吉井くんにナンパされてしまえば万事解決なのだから。

 ナンパ相手を探す吉井くんがこの美しいアタシを射止めない訳がない。

 よっしゃ! 勝機が、見えたわ。

 

「拳王さま? 一体どうなされたのですか? まるで木偶のぼうのように突っ立って」

 話し掛けられてハッとする。

「それで拳王さま。一体、何用でこちらまでお越しくださったのですか?」

 そんなこともう決まっていた。

 監視なんてちっちゃいことはもう目的じゃない。

「それは勿論……運命の王子様(吉井くん)と今日こそ雌雄を決する(恋仲になる)からに決まってるわっ!」

 いや~ん♪

 100人の男の前でナンパされます宣言なんて~優子恥ずかし過ぎ~♪

 でも、みんなに聞いてもらいたかったの♪

「運命の王子様(修羅の国の長)と今日こそ雌雄を決する(全面戦争)ですとぉ~っ!?」

 男はガタガタと全身を震わせたかと思うと、勢いよくお漏らしを始めてしまった。

 まったく、何が原因だか知らないけれど情けない男ね。

 けれど、異変をきたしたのは目の前の男だけではなかった。

「修羅の国との全面戦争だなんて、この海岸はもうダメだぁっ! こんな所にいたら全員死んでしまうんだぁっ!」

「俺、今日から悪いことは全部やめて真面目に働くようにします。だから、そんな凄惨な戦争にだけはどうか巻き込まないでくださいっ!」

「どうか、命だけはお助けぉおおおおおおおぉっ!」

 男たちは口々に意味不明なことをのたまった。

 そして、100人の男たちは一斉に駆け出して海岸から出て行ってしまった。

「まっ、人が減ってくれた方が吉井くんもナンパし易くなるわよね」

 あの連中のことは忘れて吉井くんにナンパされるのを待つ。

 

 1時間が過ぎた。

「フッ。吉井くんったら、貴方のナンパを待っている絶世の美女がいるというのに一体どこに行ってしまったというのかしら?」

 波の音が煩い。

 

 2時間が過ぎた。

「本当に吉井くんったらシャイなんだから。ナンパするだなんて言って本当はどこかの岩場の陰で坂本くんと乳繰り合っているんじゃないかしら?」

 波の音が煩い。煩い。

 

 3時間が過ぎた。

「これだけ待ってもナンパしに来ないなんて、やっぱり吉井くんは坂本くんとどこかの岩場の陰で野獣と化しているに違いないわ。2人は一体、どんなプレイをしているというの?」

 波の音が煩い。煩い。煩い。

 

 

 そして、夕暮れ時になった。

「吉井くんは、一体いつになったらアタシのことをナンパしに現れるのよぉ~~っ!?」

 夕日に向かって大声で叫ぶ。

 この間、アタシに近寄って来たのは別の男たちばかり。

 修羅の国の第1の羅将や海の神様、冥界の王を自称する男たちが絡んで来た。

 『突き合え』と煩いので適当にあしらった。

 で、結局お目当ての吉井くんは最後まで現れなかった。

 

「何よ吉井くん。結局、怖くなってナンパなんてできなかったってオチな訳ね」

 

 アタシは吉井くんの行動をそう結論付けた。

 考えてみれば女の子に対して意外と初心な吉井くんがナンパなんてできる筈がない。

 みんなにバカにされながら謝りに帰ったというのが本日のオチに違いない。

 そうでなければ、このアタシを差し置いて他の女をナンパしていたというあり得ない展開になってしまうのだから。

「まったく、アタシもあわてんぼさんの心配性なんだから。テヘッ♪」

 自分の頭を軽く拳で叩く。

 その際舌を出すのを忘れないのがアタシなりのお約束。

 拳が血まみれなのはちょっと失敗♪

「今日は近くで大きな夏祭りがあるっていうし、そっちで合流すれば良いわよね♪」

 海で結ばれるというシチュエーションは吉井くんがシャイだったからなくなってしまった。

 けれど、アタシの夏はまだ終わりじゃない。

 これからが本当の勝負なのよ!

「さて、夏祭りが始まるまでの間、さっき考えた雄二×明久をノートにメモして置かなくちゃ」

 そして、はぐれてしまったままの久保くんと清水さんとも合流しないといけない。

 そうしてアタシが海から陸に向かって目を向けた瞬間、

 遠い海の方から聞き慣れた悲鳴が耳に入ってきたのだった。

 

 

 バラバラになってしまった女子FFF団。

 果たしてアタシたちは友情パワーを取り戻すことができるのか?

 白熱の次回に続く

 

 

 


 
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