No.229775

アタシと浴衣とお祭り騒ぎっ!

バカテスにっを見ながら考えた本編から外れたストーリー。
例によって何も考えずに手を動かしているので、話の整合性は弱いです。舞台と設定だけネタばれ。そんなシリーズです。


あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。

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2011-07-22 12:02:10 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:4604   閲覧ユーザー数:4203

アタシと浴衣とお祭り騒ぎっ!

 

前回までのあらすじ

 姫路さんと島田さんは驚き役を降りてメインヒロインになるとか血迷い出したからさあ大変。女性FFF団は存続の危機。

 

 

「さて、秀吉の体内に仕掛けた発信機からの情報に拠れば、吉井くんたちがこの夏祭り会場に来ているのは間違いないわ」

 今回のミッションを遂行するに当たり新たに仲間に加わった久保くんと清水さんに現状を説明する。

 ちなみに3人とも服装は浴衣。

 アタシは紫、清水さんはピンク、久保くんは青。

 祭り会場への溶け込み方は完璧。

 これなら実は人探しをしていると疑われることもないだろう。

「ということは、浴衣姿の吉井くんがこの会場のどこかにっ!」

 久保くんの鼻息は荒くメガネは白く曇っている。

「ということは、お姉さまがペッタンコな胸によく似合う浴衣姿で美春のすぐ近くにっ!」

 清水さんの口からは涎が垂れている。

 2人ともやる気は十分だけど、端から見るとかなり危ない人だ。せっかくの浴衣迷彩が台無し。

 一体、何を妄想しているのやら。

 まあ、アタシもこの夏祭りの会場の中で吉井くんに声を掛けられるかと思うと興奮するのはわかる。

 

『優子さん、着物の時は下着を穿かないっていうけれど、それは本当なのかい? 是非、その浴衣の裾を巻くって確かめたいのだけど?』

 

「だ、ダメよ吉井くんっ! アタシの浴衣を脱がせたいだなんて……そういうのはもっと暗くて人気のない所に行ってからでないと♪ えへへっ♪ えへへへっへっ♪」

「木下さん、それでは完全に痴女だよ」

「美春は木下さんが性犯罪で捕まらないか心配でたまりませんわ」

 若い男女の健康的な時間の過ごし方について一考察した所で我に返る。

「というわけで、今回のアタシたちのミッションはこの夏祭りの会場内で吉井くんたちを発見すること。そして場合によっては拉致監禁洗脳調教よ!」

 大声で今回の指令を口にする。

「明らかに私服警官や警備員に目を付けられそうな一言だったけれど、よしわかった。この久保利光が手を貸そう。吉井くんとの愛に満ちた未来の為に!」

「愛するお姉さまをこの手に取り戻し、淫靡な快楽に満ちた毎日を送る為に美春も頑張ります!」

 アタシたち3人に祭りの見物客たちの視線が一斉に突き刺さった。

 

 

「それで木下さんはどうやってこの広い祭り会場から吉井くんと愉快な仲間たちを探し出すつもりなんだい?」

 久保くんが周囲を見回しながら尋ねて来る。

 確かにこの祭りの会場は規模がやたらと大きい。視界の端まで屋台が並んでいる。

「そこがネックなのよねぇ。秀吉に取り付けておいた発信機は500m単位でしか反応しないし」

 探知機を見ると、アタシたちと愚弟キュゥべえ一行は同じ場所にいることになっている。

秀吉たちがこのお祭りに来ていることは間違いない。だけど、それ以上詳しいことはわからない。

「まあ、秀吉に仕掛けてある時限爆弾を起動させて、爆発騒ぎの中心に吉井くんたちがいる筈っていう確かめ方はあるんだけどね」

 その方法は気乗りがしない。

「その探し方はまずいと思うよ」

「美春も反対ですわ」

 2人の表情も渋い。

「そうよね。ここで爆発騒ぎなんて起こしたら屋台の人と見物客の人に迷惑が掛かるものね。超完璧優等生の優子さんが他人様に迷惑掛けるなんて許されないわ」

 爆弾を起動させれば周囲10mは綺麗に吹き飛ぶ。

 その際に発生するであろう被害を考えると、この人ごみで爆発を起こす訳にはいかない。

「いや、周囲の被害も重要だけど、それ以前に弟である木下くんの命を、だね」

「秀吉はキュゥべえだもの。死んだって幾らでも代わりは出て来るわよ。だってそれが淫キュベーダー秀吉なのだから」

「一片の曇りも見えない何と澄み切った瞳。木下秀吉は男ですが、美春もさすがに同情してしまいますわ」

 一体どうしたのだろう?

 久保くんと清水さんがとても遠い瞳でアタシを見ている。ホワイ?

「まあでも、この広い祭り会場の中でも吉井くんたちに出会える方法はきちんと抑えてあるわ」

 アタシは海に来る前にこの祭りについて色々調べておいた。

 その結果、吉井くんたちが必ず絡んで来るに違いないイベントが今夜行われることを発見した。

「その方法とは?」

「何ですの?」

 2人の注目が集まる。

「実は今夜この会場で浴衣美人コンテストが開かれるのよ。吉井くんたちの一行には代表も姫路さんも島田さんもいる。綺麗どころが集まっているのだから、吉井くんが彼女たちを絶対にコンテストに参加させると思うのよ」

 吉井くんは大のお祭り好き。

 きっとこの大会に乗って来るに違いない。

「なるほど。コンテストの会場で吉井くんと鉢合わせか。夏祭りならではの出会いだね」

「勿論美春はお姉さまに投票して、この愛と献身を全力でお届けしますわ」

 2人ともアタシの意見に納得したようだ。

 でも、アタシの計画はもう1歩先がある。

「でも、ただ会うだけじゃダメ。それじゃあインパクトが弱過ぎるわ」

「インパクトが弱いってどうするつもりなんだい?」

 久保くんが首を捻る。

 ならば、アタシのとっておきの秘策を披露しようと思う。

「アタシたちがコンテストに参加して優勝して吉井くんや島田さんの気を惹くのよ!」

 2人を見ながらニヤリと笑った。

 

 

 

「何故僕まで女装してコンテストに出ないといけないんだい?」

「そんなのバカテスにはメガネっ娘ヒロインが不足しているからに決まっているわよ」

 ブツブツと文句を述べる久保くんの背中を押しながらコンテストの出場受付へと向かう。

「美春のメイクアップ技術は完璧ですから何の心配も要りませんわ」

「メイクアップってカツラをかぶって口紅を薄く塗っただけじゃないか」

 ちなみに久保くんは女装している。

 長いストレートヘアのウィッグを付けて、明るいピンク口紅を塗ってみた。

 あんまり化粧を施した訳ではないけれど、まあ女性に見えなくもない。

「とにかく受付で聞いてみれば良いじゃないの。3人で出るかどうかは受付の対応次第ってことで♪」

「まあ、さすがに僕が出場することは不可能だと思うよ」

 久保くんには是非出場してもらいたい。

 そうすればアタシの美しさが引き立つから。

 さて、受付受付っと♪

 

「2名様のご参加ですね?」

 受付のお姉さんはアタシたちの顔を見るなりそう尋ねて来た。

「ほら、やっぱり僕が出場するのは無理があるんだよ」

 久保くんはホッと安堵の息を漏らす。

 でも、久保くんが出場しないのはアタシにとってプラスにならない。

「何で3人じゃないのよ?」

 お姉さんに抗議する。

「そうは申されましても、拳王さまは性別が違いますのでこのコンテストへの参加はできません」

 お姉さんはニッコリと笑った。

「って、出場できないのはアタシかいっ!」

 予想外の答えにひっくり返りそうになる。

 ツッコミを入れたいのにこんな時に限って愚弟も驚き役の2人も側にいなかった。

「アタシは女の子だっての!」

 体を逸らして胸のラインを強調して示す。

「拳王さまの厚い胸板は見なくても存じております」

「厚い胸板じゃないわよっ!」

 アタシのカップがBに届いてさえいればこんな屈辱を味わわずに済んだものをっ!

「とにかくアタシはコンテストに出たいのっ! 優勝したいのっ! 優勝して吉井くんに優子さん綺麗だよって誉めてもらいたいの!」

 そして暗がりに連れ込まれて浴衣の下がどうなっているのか確かめられたいのよ!

 吉井くんのケダモノ♪って火照った体と顔で言いたいのよ!

「わかりました。それでは女性2名、最近流行りだという男の娘1名の計3名でご出場を受け付けたいと思います」

 お姉さんはあくまでもアタシが男だと言い張るつもりらしい。

 腹が立つ。

 けれど、出場は認めてくれたのだから拳は収める。

 アタシは木下優子。多分数年後は吉井優子。

 一時の屈辱に耐えてでも実を取る女。

 でも、とりあえずイライラしたので淫キュベーダーの体内に仕掛けた爆弾を発動させてみた。

 100mほど離れた駐車場でちょっと気の早い花火大会が開催された。

 

 

「さあ、コンテストに出るからには絶対に優勝するわよっ!」

 コンテストの出場者の控え室に向かいながら拳を振り上げる。

「別にそこまで気張らなくても吉井くんたちに僕たちの存在を気付いてもらうだけで十分なんじゃ?」

 コンテストに参加することになってしまった久保くんは表情が渋い。

 考えてみればコンテストの最中に吉井くんを見つけてしまうということは女装姿を見られてしまうということ。

 品行方正で売っている久保くんからすれば厳しい試練かもしれない。

 でも、自分を出し惜しみしているようじゃ吉井くんの気はきっと惹けない。

 だって……

「あんな可愛い子たちも出場するのよっ! 精一杯アピールして優勝しないとアタシたちの存在が埋もれてしまいかねないわっ!」

 アタシたちの横を2人の浴衣姿の美少女が通り過ぎていく。

 1人は吉井くんに似た面影を持つ、オレンジ掛かった黄色い浴衣を着た髪の短い女の子。

 もう1人は土屋くんに似た面影を持つ、濃紺の浴衣を着たセミロングヘアの物静かな女の子。

 2人からキラキラとした光が輝いている。

 アニメスタッフが明らかに姫路さんや島田さんよりも美人として描いている、真のヒロイン登場ですクラスの美少女が2人も並んで歩いている。

 彼女たちを上回る成績を収めないと吉井くんの気なんか惹けっこない。

「なっ、何なんですの? あの、美少女2人組みは!? 美春の中の野獣が目を覚ましてしまいそうですっ! ガルゥウウウゥ」

「ハァハァ。あの、黄色い浴衣を着た吉井くん似の女の子。ハァハァ。まさか、まだ僕の中に女の子を愛する気持ちがあったというのか? 僕は、吉井くん以外の子に興味があるというのか? 僕は浮気者なのか!?」

 清水さんと久保くんも2人の存在に大きな衝撃を受けている。

 こうなったら、アレしかない。

「よしっ! こうなったら、コンテストが始まるまで山に篭って特訓よっ!」

 姫路さんや島田さんにだったら今のままでも渡り合えると思う。

 けれど、あの吉井くん似の子と土屋くん似の子には絶対に勝てない。

 あの子たち、美人過ぎるもの。

 バカテスの真のヒロインに違いないのだもの!

 となれば、あの子たちに対抗すべく新必殺技をコンテスト開催までに習得するしかないっ!

「うん。何が何だかわからないけれどわかったよ。今よりパワーアップしないと吉井くんの気は惹けそうにない」

「あの2人の超美少女にお姉さまを取られない為に美春も頑張りますわっ!」

 こうしてアタシたちは特訓を開始した。

 

 

 で、1時間経って山から戻ってみたら……

「何でコンテストが途中で中止になっているのよ~っ!?」

 せっかく新必殺技木下ミレニアムを習得してきたのに、肝心のコンテストが中止になってしまっていた。

 何でも、出場者の1人に色目を使ったスポンサーがコンテストの運営陣と対立。

 しっちゃかめっちゃかな争いが生じてコンテストは中止に追い込まれてしまったらしい。

 せっかく、吉井くんの為に新しい必殺技まで会得したというのに……。

「アタシは、コンテストの続きがやりたいのよぉ~~っ!」

 見物客も多くが帰り始めている。

 吉井くんたちももう帰ってしまってかもしれない。

 けれど、アタシの晴れ姿を吉井くんたちに1度も見てもらうことなくこのまま夏が終わってしまうなんて嫌だった。

 するとその時、帰り始めたお客たちの中から野太い声が上がった。

「拳王さまは、コンテストの再開をお望みであられるぞ~っ!」

「拳王さまの為に、コンテストを再開させるのだっ!」

「拳王っ! 拳王っ! 拳王っ!」×100

 浜辺で出会った悪どもだった。

 悪どもはコンテストの再開を大声で要求し、そしてスポンサーは抜きでコンテストが再開されることが決まった。

「アイツら……ちょっとは良い所があるじゃない」

 久しぶりにホロッと来てしまう一幕だった。

 こうしてアタシは“お友達”のおかげでコンテストに参加できることになった。

 

 

「ほとんどの出場予定者はもう帰っちゃっていたみたいだから、コンテスト参加者はアタシたち3人と新たに申請した子が1人の計4人」

 姫路さんたちも真ヒロインズたちもコンテストに参加していない。

 これなら優勝も狙えるわっ!

 待っててね、吉井くん。

 もうすぐコンテスト優勝者となってあなたの前に現れるからっ!

 

「それでは、東西南北中央不敗スーパー浴衣美人コンテストを再開いたします。まず最初のエントリーは久保利子さんですっ!」

 何か微妙に名前が変わっている気がしないでもないけれど気にしない。

「ほらっ、久保くん。出番よ」

 久保くんの肩に手を置く。

「こういうイベントはあまり好きではないのだけどこれも吉井くんの為だ。仕方がない。久保利光改め久保利子。行って来るっ!」

 久保くんが会場へとゆっくりと歩いていく。

「メッガッネ! メッガッネ! メガネっ!」×多数

 会場はメガネフィーバーに沸き返っている。

 久保くん改め久保さんは大人気だ。

「利子さんは好きな男性はいらっしゃいますか?」

「はい。います」

 躊躇なく質問に即答する久保さん。

 うん。さすが。

「その方とは恋人同士ですか?」

「残念ながら片想いです」

 久保さんは少し寂しそうに視線を落とす。

「その方のどんな所が好きなのですか?」

「僕の好きな人は、とても明るくて親しみが持てる。天然なところも愛嬌であり、一緒の時間を過ごすととても癒されるんだ。そして、いざとなれば周囲の人間を驚かすような行動力を発揮する。──そんな、とても魅力的な人間なんだ。彼は」

 久保さんの口から吉井くんへの想いをきちんと聞いたのは初めてのことだった。

「うぉおおおおぉっ!」×多数

「きゃぁあああぁっ!」×多数

 久保さんの告白を聞いて会場のボルテージが一気に跳ね上がる。

「胸に秘めた切ない想いっ! これはもう優勝は久保利子さんで決まりかぁっ!」

 久保さんの出番は大盛況の内に終わった。

 

「続いては清水美春さんです」

「豚野郎からお姉さまを取り戻す為に美春は頑張りますわっ!」

 清水さんが背中に赤い炎のオーラを吹き上げながらゆっくりと舞台へと出て行く。

「美春タ~~ンッ♪ 萌え~~~~っ♪」

 昼間清水さんを取り囲んでいた汗臭いキモオタたちが最前列に出て来て臭い声援を送る。

 久保さんほどの人気がある訳ではないけれど、親衛隊とでも言うべき固定ファンを持っているのはコンテストでは強みかもしれない。

「美春さんには彼氏がいらっしゃいますか?」

「いるわけありませんわ。男なんてみんな豚です。豚とお付き合いするわけがありません」

「ぶひ~ん。俺たちみんな豚扱い。でも、それが堪らない。ぶひひ~ん」×20

 豚扱いされているのに大興奮するキモオタたち。うん。死ねば良い。

「それでは今まで男性と付き合ったことはないと?」

「美春は男なんか大大大大嫌いですのっ! 付き合うなんて考えただけで鳥肌が立ってしまいますわっ!」

「美春タンはまだ誰とも付き合ったことがない! 美春タンの最初の彼氏になるのはこの俺だぁ~っ!」×20

 ほんと、キモオタはみんな死ねば良いのに。

 そんな感じで清水さんの出番は一部の変態が大盛り上がりして終わった。

 

「続いてはエントリーナンバー3番。拳王さまですっ!」

 いよいよ、アタシの出番が来た。

「って、どうしてアタシだけ名前じゃなくてニックネームで呼ぶのよっ!?」

 まったく、吉井くんが見ているかもしれないっていうのにイメージが悪化しちゃうじゃないのよ。

 でも、ここでは怒り出さない。

 おしとやかなお嬢様を心に思い描きながらゆっくりと舞台に出る。

 すると──

「何でみんな土下座して額を地面に擦り付けているのよっ!?」

 司会者から審査員、そして見物客に至るまで全員が土下座していた。

 アタシの登場で会場が華やぐどころかドン引き状態に陥っていた。

 これじゃあ吉井くんにアタシが暴力的な女だってあらぬ誤解を受けてしまう。

「ちょっと、司会者っ! 軽快なトークで質問して場を盛り上げなさいよ!」

「しかし、拳王さまにつまらない質問をしたら命はないものと思えとあちらの方々が…」

 司会者が視線を特に深々と頭を下げている一群の連中に向ける。

 悪どもだった。

 チッ。

 所詮は社会不適合者の群。

 知力を求めるのは不可能だったようね。

「とにかく、質問なさい。それとも今すぐ絶対的な死を味わいたいの?」

 この司会者はまだ知らないのだ。

 絶対的な死の恐怖とは、縮こまって動かない体で震えていることじゃない。

 動かない体をそれでも必死に動かして微かな生の可能性を掴もうとあがく。

 それが、絶対的な死を背負うということ。

「そ、それでは質問を……拳王さまは今日、修羅の国と決着をつける為にこちらにお出でになられたとか?」

「や~ね~。そんな物騒な目的な訳がないじゃない♪ 友達と一緒に海に遊びに来ただけよ♪」

 吉井くんを追い掛けて来たとストレートに言うのははしたないのでちょっと目的を隠す。

「え~とぉ……拳王さまは、美少女か半ズボンのよく似合う幼い男の子にしか興味がないという話ですが、本当ですか?」

「そんなわけがないじゃない♪ アタシは同級生のちょっとおバカな男の子が好きなノーマルな女の子よ。きゃっ、言っちゃった♪」

 吉井くん、アタシの婉曲な告白に気付いてくれたかしら?

「拳王さまは普段下着を着けないで校内を徘徊するノーパン快楽主義者とのことですが、本当ですか?」

「そんなわけがないじゃない♪ 今日は浴衣だから下着を着けていないだけなんだから。でも、それを確かめて良いのは吉井くんだけなの。きゃあ、優子ったら恥ずかしい♪」

 イヤンイヤンしながら照れる。

 これなら吉井くんもアタシの気持ちに気付いてくれるはず。

 さっきから会場内のどこにも吉井くんの姿が見えないけれど。

「こ、このように拳王さまは見た目とは違い冗談の得意な大変ユーモアに溢れる方です」

「冗談なんて言ってないわよ♪」

 この審査員、後で覚えてなさい。

 でも、困ったわね。

 会場がこんなぎこちない空気でいたんじゃアタシの魅力が吉井くんに伝えきれない。

 こうなったらもう……脱ぐしかないのかしら?

 でも、吉井くん以外の男の前で肌を晒すなんて……。

 あっ、そうだわ。

 この会場にいる吉井くん以外の全ての男の目を潰しちゃえば良いのよ。

 そうすればアタシが肌を晒してもそれを下衆な欲望にまみれた男たちに見られることはないわ。

 よし、そうしましょう。

「ちょっと急で悪いんだけど、男たちは全員、両目の眼球をアタシに差し出しなさい♪」

「へっ? 拳王さま、一体何をおっしゃって?」

 飲み込みの悪い司会者ねえ。

「男たちは全員アタシの幸せの為に失明しなさいって言っているのよ。それが聞けないのなら目の代わりに心臓を差し出してもらうまでよ」

 待っててね、吉井くん。

 今、あなたの好感度をマックスに上げる為の下準備を済ませるわね♪

「ひぃいいいいいぃっ!?」×多数

「拳王さまはお怒りになられておるぅ~~っ!」×多数

 さあ、吉井くんと淫キュベーダーなひと時を!

 

 

「待つのです! 拳王のお姉ちゃんっ!」

 アタシが目刈りを始めようとしたその時だった。

 舞台に赤い浴衣姿の小さな女の子が上がって来た。

 ツインテールの髪型をした大きな瞳のあの少女はっ!

「葉月ちゃん。どうしてここに!?」

 この夏祭りには来ていないはずの島田葉月ちゃんだった。

「そんなことよりも、ここからはエントリーナンバー4番、島田葉月の出番なのです。出場が終わった拳王のお姉ちゃんは下がって欲しいのです」

 葉月ちゃんはそう言いながらその場でクルッと一回転してみせた。

 葉月ちゃんの回転に合わせてツインテールもクルクルとよく回る。

「うぉおおおおおぉっ! 萌えぇえええええええええぇっ!」×超多数

 その瞬間、爆音にも匹敵する歓声が見物席から沸き起こった。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん。葉月のことを応援して欲しいのです♪」

 葉月ちゃんは鍛錬の末によく洗練された天真爛漫な笑みで見物客たちに微笑みかける。

 それは、このコンテストの歴史を変える笑みとなった。

「もはや武力による恐怖統治の時代は終わったんだ。これからは萌えが全てを優しく包み込む時代なんだ」×100

 悪どもは隠し持っていたメリケンナックルなどの武器を捨て、葉月ちゃんに向かってハァハァ言い出し始めた。

「高校生にもなって自分のことを名前で呼んでいる非社会的な年増女より、リアル小学生の葉月タンの方が断然可愛い~~っ♪」×20

 先ほどまで清水さんの熱烈信者だったキモオタどもも葉月ちゃんに寝返った。

「あの子、可愛いなあ」

「お人形さんみた~い」

 そして一般のお客さんからも絶大な支持を受けている。

「それでは東西南北中央不敗スーパー浴衣美人コンテストはもう集計を計るまでもなく、優勝者は島田葉月さんで決まりとなりました。みなさん、大きな拍手をっ!」

「葉月っ! 葉月っ! 葉月っ!」×超超多数

 こうしてコンテストはアタシが踏み台にされて葉月ちゃんが優勝するという何だかいつもっぽい展開で幕を下ろしたのだった。

 

 

「あ~あ、またおいしい所を葉月ちゃんに持っていかれちゃったわね」

 コンテストを会場を出て、アタシたちは葉月ちゃんを加えた4人で歩いていた。

「葉月は特に何もしていないのです。拳王のお姉ちゃんが目を抉ろうとしていたのでやめさせただけなのです」

「ま、まああれはちょっとやり過ぎたかもしれないわね」

 一般人の目まで抉ろうとしたのは確かにちょっとやり過ぎだった。

 会場に上がったことで、ちょっと緊張してしまったのかもしれない。

「だけど、葉月ちゃんはどうしてこの夏祭りに来たの? 確か今日は動かないって言っていたのに」

 島田さんたちが海に行くと聞いても葉月ちゃんは動きを見せなかった。

 島田さんたちと吉井くんの間に進展はないと考えたからに違いなかった。

 なのに、どうして今ここにいるのかしら?

「葉月がここにいるのは、拳王のお姉ちゃんが生ぬるいやり方をしているからなのです」

「アタシが生ぬるいですって!?」

 葉月ちゃんの一言はとってもグサッて胸にきた。

「拳王のお姉ちゃんはバカなお兄ちゃんと進展どころかまともに会話さえしていないのです。こんなのじゃバカなお兄ちゃんはあっという間に葉月のものなのです。ついでに言っておくと驚き役の2人は最初から眼中にないのです」

 葉月ちゃんが天真爛漫な瞳でアタシを覗き込んでくる。

「そ、それは……」

 葉月ちゃんの言葉に激しく動揺する。

「葉月のライバルを自称するならもっとしっかりして欲しいのです」

 葉月ちゃんはアタシに背を向けた。

「葉月ちゃん、どこへ?」

「次回、葉月が真のヒロインとは何であるか見せてあげるのです。葉月はその下準備に帰るのです」

 葉月ちゃんの背中には静かな、けれど熱すぎるほどの闘志が立ち込めていた。

 葉月ちゃんは本気だ。

 本気で吉井くんを落とすつもりなのだ。

 あの葉月ちゃんが本気になるのだから、その威力は超絶無比に違いない。

 バカテス史上初の吉井くんのキスシーンが放映されてしまうかもしれない。

 世間的に明久×葉月のカップリングが公式と思われてしまうかもしれない。

 そんなの、そんなの認められないわよっ!

「アタシだって葉月ちゃんには負けないからっ! 吉井くんとのフラグが立っていることを全国のお茶の間に知らしめてやるんだからっ!」

 葉月ちゃんに向かって指をビシッと差す。

「葉月はライバルが手強いほど燃えるのです♪ 拳王のお姉ちゃんの活躍、楽しみにしているのですよ♪」

 吉井くんを巡る最強の敵が、いよいよその実力を見せ始めた。

 

 

 分裂したままの女性FFF団。

 遂に動き出した最強のライバル。

 果たしてアタシは、この危機を乗り越えることができるのか?

 そして、吉井くんと結ばれることができるのか?

 

 白熱の次回に続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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