No.402477

バカテス 僕と死亡フラグとエイプリルフール

エイプリルフールだからバカが女の子に刺されます。
そういう日でしたよね?

2012お正月特集
http://www.tinami.com/view/357447  そらおと 新春スペシャル 智樹のお年玉

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2012-04-04 00:32:37 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:5063   閲覧ユーザー数:4848

バカテス 僕と死亡フラグとエイプリルフール

 

 春休みに入り半分が消化した。

 いよいよ今日から4月。後1週間ほどすると僕は2年生に進級する。

 今までも2年生だった気がするけれど細かいことは気にしない。

 僕やみんなは1週間後には2年生だ。

 でも、2年生に上がる前に僕にはやるべきことがある。

 それは──

「今日のエイプリルフールでみんなを騙してやるんだっ!」

 去年僕は雄二やみんなに散々騙されてきた。

 その恨みを今日こそ返してやろうと思う。

 僕の心はどす黒い炎が渦巻いていた。

 そう、今日の僕は復讐者なのだ。

「でも、どんな嘘をついてみんなを騙そうかな?」

 嘘、というのはなかなかに難しい。

 正直で誠実をモットーに生きている僕にとって嘘をつくのは大変なことなのだ。

 発言の95%が嘘である雄二と僕とでは人間としての作りが根本的に違うのだ。

「テレビでも見ながら参考にするか」

 自分の頭で考えても埒が明かないので、テレビ番組からヒントを得ることにする。

 スイッチを押すと丁度ドラマが放送されていた。

 

 

『イカロス、俺と結婚してくれ』

『ニンフ、俺と結婚して欲しいんだ』

『そはら、俺と結婚してくれ』

『アストレア、俺と結婚してくれ』

『オレガノ、俺と結婚して欲しいんだ』

『カオスっ! 俺と結婚してくれぇ~~っ!』

『風音、俺と、結婚して欲しいんだっ!』

 

 

 ドラマの中で主人公の少年はエイプリルフールのネタとして友達の少女たちに次々とプロポーズを仕掛けていた。

「なるほど。友達の女の子たちにプロポーズして回るか。うん、これは使えるな」

 友達から突然プロポーズされたら誰だって驚くに違いない。

 これなら僕でもみんなを一泡吹かせてやることができそうだ。

「よしっ、早速実行に移ることにしよう」

 ドラマの結末が気になるけれど、モタモタしている暇はない。

 善は急げ。今日は短い。早速友達の女の子に電話を掛けていかないと。

 僕は早速携帯を手にとった。

 

『201×年 3月31日 午前10時27分』

 

 何かを見落としている気がするけれど、さっさと電話を掛けることにしよう。

 

 

 

「あっ、アキ。その、突然呼び出してさ、大事な話って何なの?」

 作戦を思い立ってから30分後、僕は近所の公園で美波と会っていた。

 今日の美波はいつもよりリボンが大きかったり、パットの重ねが多かったり。何ていうかいつもより気合が入っている。

 その美波は顔を真っ赤に染めながらモジモジと体を揺すっていた。

「うん。美波にどうしても聞いて貰いたいことがあってね」

 最初に電話が繋がったのが美波だった。しかも、会いたいと言ったらすぐに会えると帰ってきたので助かった。

 これなら後の予定も余裕をもって立てることが出来る。

「そ、そのさあ」

「何、どうしたの?」

 美波は普段以上にモジモジしてどうしちゃったんだろう?

「そのね、こんな公園に、しかも長期休み中にアキに呼び出されるなんて初めてのことだなあって思って」

「そういえばそうだね」

 美波とは普段毎日学校で会える。だから、呼び出すどころか待ち合わせることさえも滅多にない。

 外で2人きり、しかも僕が呼び出したのは確かに初めてのことかもしれない。

 うわっ、何か緊張してきた。

「そ、それで何の用なの? さっさと言いなさいよ。ウチだって忙しいんだから」

「もしかして、何か用事の最中だった? いや、忙しいんなら別に今日でなくても良いんだけどさ」

 エイプリルフールとはいえ、忙しい人の時間を削ってまで楽しむのは間違いというものだろう。

「ううん。全然忙しくないから大丈夫よっ! もしかすると今日は瑞稀の家に泊まって来るかもと断って家を出たから、もしもの場合だって全然全く問題なく大丈夫よっ!」

 美波は激しく首を横に振った。

「へっ? 何でお泊り?」

 美波は一体僕に何を言われると思っているんだろう?

 いや、何を考えているにしても僕はそれ以上に驚くことを言ってしまう訳だけど。

「なっ、何でもないのよ。そうなるかどうかは全部アキ次第なんだから」

 美波はどうも何かテンパっているようだ。あまり追及しない方が良さそうだ。

 さて、本題に入ることにしよう。

「じゃあ、そろそろわざわざ出てきて貰った用件を言うことにするね」

「う、うん。ウチも覚悟決めてきたから」

 美波は俯いてギュッと拳を握り締めた。

「美波にどうしても聞いて欲しいことがある」

「うん」

 さあ、始めるよ。僕のエイプリルフールを。

 

「美波…………僕と結婚して欲しいんだ」

 

 我ながら凄いことを口にした。

 そう思う。

 一生大事なお友達である美波にプロポーズしちゃったんだもの。

 うん。何ていうかエントロピーを凌駕した。ティロ・フィナってる。そんな感じ。

 さて、美波の反応は?

「……愛の告白をされることは予想してた。休日にわざわざ呼び出されるぐらいだもの。だから彼女になって欲しいと言われればうんと答えられる様に覚悟は重ねてきた。でも、まさか、男女交際の段階を飛ばしていきなりプロポーズされるなんて……」

 美波は俯いたままブツブツと小声で呟いている。

「……これで瑞稀や木下さん、葉月との長きに渡る戦いにも終止符が打たれることになるわけよね。ウチの勝利で。ううん、ウチがプロポーズを受けないと決着にはならないわよね、やっぱり。でも、まだ高校生なのにもう結婚だなんて早すぎるよぉ。どうしたら良いのぉ?」

 声が小さすぎて聞き取れない。

 しかも首を深く曲げているので表情さえも読み取れない。

 これじゃあ僕の嘘がどう作用したのかわからない。

「……アキが付き合って欲しいじゃなくて結婚して欲しいって言ってきたのにはそれだけの理由があるということよね。やっぱり、今日から一緒に住んで欲しいということなのかな? でも、アキってウチより家事が得意な筈よね。ということは、アキが必要にしているのはウチの家事能力じゃなくてウチ自身……。だっ、ダメよ、アキ。初めてのキスはイチゴミルク味なんだからぁ~っ」

 美波がこちら側に帰ってきてくれないので僕としては大変困ってしまう。

 いや、嘘ついて悪いことをしているのは僕だけど、その僕がないがしろにされてしまうととても寂しい。

「……そうなると、ウチも新学期からは名前を吉井美波に変えないといけないわよね。持ち物の名前もみんな書き直さないと。学校にも連絡しないといけないわよね。それ以前に役所に届出を出さないと。2年生やるのも次回で5回目ぐらいな気がするから年齢的には何の問題もないわよね。あれっ、婚姻届で必要な書類って一体何だっけ? あああ、もう。やることが多過ぎるよぉ~。こういうのを嬉しい悲鳴って言うんだよね」

 いい加減、美波には僕の元に帰ってきてもらおう。

「あのさ、美波」

「……結婚したら、アキのことをなんて呼ぼうかしら? あなた? 旦那様? ううん、そういうのは堅苦しいしウチらしくない。やっぱりダーリンかしら? それともドイツらしくVaterかしら? って、Vaterだったらお父さんになっちゃうじゃないの。や~だ~もう~ウチったら気が早すぎよぉ~」

 手ごわい。

 美波が自分の世界から戻ってきてくれない。

 こうなったら少し強引な手段を用いても戻ってきてもらおう。

「美波っ! しっかりするんだ」

 美波の両肩を掴む。

 聖帝(メインヒロイン)の称号を持つ武神にしては信じられないほどに細い肩。

 美波を女の子として強く意識してしまう。

 って、僕はそんな目的で美波を呼び出したんじゃない。

 エイプリルフールに嘘をつくという崇高な目的の為に彼女を呼んだんだっ!

「美波っ! 美波っ!」

 激しく肩を揺さぶり美波を覚醒させる。

 さあ美波、今こそ目覚めの時だっ!

「だっ、ダメよ、アキっ♪ そういうことは家に着いて暗くなってからにしてくれないと~~っ♪ 天翔腕十字鳳っ♪」

「うわらばぁああああぁっ!?」

 美波の必殺攻撃で思いっ切り吹き飛ばされる。

 間違いなく将来美波と結婚する男は大変な暴力に晒されることになる。

 僕はそれを確信した。

 

「あれっ? アキ? 何でそんな所に寝っ転がっているの」

 僕を吹き飛ばした犯人はようやく正気に戻った。

 僕は瀕死の重傷を負ったけど。

 まあいい。

 僕の嘘が美波にどれだけ激しいインパクトをもたらしたのか。

 それが、重要だ。

 地面に手をつきながらゆっくりと立ち上がる。

 やばい。全身がフラフラしている。目も焦点が定まらない。

 当然だ。美波の必殺技を受けて生きていること自体が奇跡に近いのだから。

 でも、負けない。今日は1年に1度だけ、僕がみんなに反撃できる公認デーなんだ。

「さあ、美波。返事を、聞かせて欲しいんだ」

 美波に向かって右手を伸ばす。

 最高の驚きのリアクションを僕に見せておくれっ!

「あっ、ああっ、あああっ……」

 美波は全身を震わせながら1歩、2歩と下がっていく。

「い、今、返事しないとダメ?」

 僕は無言で頷いてみせる。

 美波を混乱させて大きなリアクションを引き出すこと。それこそが僕の望み。だから、返事まできちんと聞かないと意味がない。

 今頃美波は必死になって僕を傷つけない様に断る言葉を探している筈だ。

 だって、友達だから。幾らなんでも結婚は無理だろう。

「……アキが返事を求めている。ということはやっぱり、今すぐにでもウチにお嫁さんになって一緒に暮らして欲しいということなのよね。アキは本気なんだ。でも、それに比べてウチにその覚悟はあるの? 吉井明久の妻として今すぐにやっていく覚悟が? ううん、覚悟だけじゃない。ウチはアキの妻として相応しい要件を満たしているのかしら? ただ同棲するんじゃない。妻としてやっていく資格が」

 って、美波はまた自分の世界に入ってしまった。

「……ウチは世界で一番アキを愛している自信はある。瑞稀よりも木下さんよりもウチの方がアキのことを愛している。でも、一介の高校生に過ぎないウチがお嫁さんになってしまって本当に良いの? 瑞希みたいに頭が良いわけじゃない。霧島さんみたいにお金があるわけじゃない。そんなウチがアキと2人で支え合ってこの世間の荒波を生きていけるのかしら? こんなにもアキのことが好きなのに、愛だけじゃそう簡単に決められないのよ~~っ!」

 美波は野生の獣みたいに咆哮しながら顔を上げた。

「あの、それで返事なんだけど……」

 おっかなびっくり美波に尋ねる。

「もう少し、もう少しだけ1人で考えさせて頂戴」

 美波は僕に向かって手を合わせた。

「ウチとアキの一生に関わることだから、ちゃんと考えてちゃんと答えを出したいのっ!」

「あっ、うん」

 美波の勢いに押されて何も言えない。

「ウチ、必ず自分自身を納得させてみせるから。そうしたら……2人で、世界で一番幸せになりましょう♪」

「は、はあ」

「2人で幸せって。もう、ウチったら答えを言っているようなもんじゃない♪ 恥ずかしいよぉ~天翔腕十字鳳っ♪」

「あべしぃいいいいいいぃっ!?」

 スキップしながら僕の元を去っていく美波。

 そんな彼女を僕は瀕死状態で地面に這いつくばったまま見ているしかなかった。

 

 

 

「あの、明久くん。突然呼び出して、大事なお話って一体何ですか?」

 2時間後、ようやく歩ける程度に回復した僕は次に姫路さんを同じ場所に呼び出していた。

 今日の姫路さんはいつもより胸の谷間が強調される服を着ていたり、スカートの裾が短かったり。何ていうかいつもより気合が入っている。

 その姫路さんは顔を真っ赤に染めながらモジモジと体を揺すっていた。

「うん。姫路さんにどうしても聞いて貰いたいことがあってね」

 姫路さん、優子さん、葉月ちゃんにはなかなか電話が繋がらなかった。その中で一番早く通話できたのが姫路さんだった。

「そ、そのですね」

「何、どうしたの?」

 姫路さんは普段以上にモジモジしてどうしちゃったんだろう?

「そのですね、こんな公園に、しかも長期休み中に明久くんに呼び出されるなんて初めてのことですねって思って」

「そういえばそうだね」

 姫路さんとは普段毎日学校で会える。だから、呼び出すどころか待ち合わせることさえも滅多にない。

 外で2人きり、しかも僕が呼び出したのは確かに初めてのことかもしれない。

 うわっ、何か緊張してきた。

「そ、それで何の御用でしょうか? で、出来れば一思いにガツンと言っちゃって下さい。私も色々ありますので」

「もしかして、何か用事の最中だった? いや、忙しいんなら別に今日でなくても良いんだけどさ」

 気のせいかさっきほとんど同じ会話を美波としたような気がする。

「いいえ。全然忙しくないから大丈夫ですよ。もしかすると今日は美波ちゃんのお家に泊まってくるかもしれませんと断って家を出ましたから、もしもの場合だって全然全く問題なく大丈夫なんですっ!」

 姫路さんは激しく首を横に振った。

「へっ? 何でお泊り?」

 何で美波といい姫路さんといい、僕に呼び出されると泊まりになることを考えるのだろう?

 僕が遠くに遊びに行くことを提案すると思っているのかな?

「とにかく、何でもありません。そうなるかどうかは全部明久くん次第ですから」

 姫路さんも美波同様にテンパっているようだ。あまり追及しない方が良さそうだ。

 さて、本題に入ることにしよう。

「じゃあ、そろそろわざわざ出てきて貰った用件を言うことにするね」

「は、はい。私も覚悟を決めてきましたから」

 姫路さんは俯いてギュッと拳を握り締めた。

「姫路さんにどうしても聞いて欲しいことがある」

「はい」

 さあ、今度こそ成功させてやる。僕のエイプリルフールをっ!

 

「姫路さん…………僕と結婚して欲しいんだ」

 

 我ながら再び凄いことを口にした。

 そう思う。

 一生大事なお友達である姫路さんにプロポーズしちゃったんだもの。

 うん。何ていうか聖杯破壊しちゃった。約束された勝利の剣ってる。そんな感じ。

 さて、姫路さんの反応は?

「……愛の告白されることは予想していました。休日にわざわざ呼び出されるぐらいですから。なので彼女になって欲しいと言われればはいと答えられる様に覚悟は重ねてきました。でも、まさか、男女交際の段階を飛ばしていきなりプロポーズされるなんて……」

 姫路さんは俯いたままブツブツと小声で呟いている。

「……これで美波ちゃんや優子ちゃん、葉月ちゃんとの長きに渡る戦いにも終止符が打たれることになりますよね。私の勝利で。いいえ、私がプロポーズを受けないと決着にならないですよね、やっぱり。でも、まだ高校生なのにもう結婚だなんて早すぎますよぉ。どうしたら良いんでしょうかぁ?」

 美波同様に声が小さすぎて聞き取れない。

 しかも首を深く曲げているので表情さえも読み取れない。

 これじゃあ僕の嘘がどう作用したのかわからない。

「……明久くんが付き合って欲しいではなく結婚して欲しいって言ってきたのにはそれだけの理由があるということですよね。やっぱり、今日から一緒に住んで欲しいということなんですよね? でも、明久くんって私より家事が得意な筈です。ということは、明久くんが必要にしているのは私の家事能力ではなくて私自身……。だっ、ダメですよ、明久くん。初めての夜は天井の染みを数えている間に終わるんですからぁ。明久くんもピンク髪は淫乱って思っているんですね! 私が淫乱かどうかは明久くんがベッドの上で確かめてくれれば良いんです! 私、淫乱じゃありませんから是非ベッドで確かめて下さいっ!」

 姫路さんがこちら側に帰ってきてくれないので僕としては大変困ってしまう。

 いや、嘘ついて悪いことをしているのは僕だけど、その僕がないがしろにされてしまうととても寂しい。

「……そうなると、私も新学期からは名前を吉井瑞希に変えないといけませんわよね。持ち物の名前をこの春休みの間に書き直しておいて正解でした。後、昨日の内に学校に連絡しておいたのが無駄にならなくて良かったです。それから役所にも届出を出さないといけませんよね。2年生やるのも次回で5回目ぐらいな気がしますから年齢的には問題ないですよね、きっと。えっと、婚姻届出で後必要なのは何でしたっけ? 後は明久くんの実印だけでしたね。備えあれば憂いなし。やっぱり常日頃から準備しておくと助かりますね♪」

 いい加減、姫路さんには僕の元に帰ってきてもらおう。

「あのさ、姫路さん」

「……結婚したら、明久くんのことをなんて呼びましょうか? ご主人様? マイ・マスター? いいえ、そういうのは私がピンク髪で淫乱だと誤解されそうだから心の中でそう呼ぶだけにしないといけませんよね。やっぱりダーリンでしょうか? それとも日本らしくPapaでしょうか? って、Papaだったらお父さんになっちゃうじゃないですか。私ったら、気が早すぎますよ~」

 手ごわい。

 姫路さんも自分の世界から戻ってきてくれない。

 こうなったら少し強引な手段を用いても戻ってきてもらおう。

「姫路さんっ! しっかりするんだ」

 姫路さんの両肩を掴む。

 第二期アニメ空気(ヒッメジ~ン)の称号を持つ存在の細い女の子らしい細い肩。

 姫路さんを女の子として強く意識してしまう。

 って、僕はそんな目的で美波を呼び出したんじゃない。

 エイプリルフールに嘘をつくという崇高な目的の為に彼女を呼んだんだっ!

「姫路さんっ! 姫路さんっ!」

 激しく肩を揺さぶり姫路さんを覚醒させる。

 さあ姫路さん、今こそ目覚めの時だっ!

「だっ、ダメですよ、明久くんっ♪ そういうことはせめてそこの植え込みの人目に付かない所に入ってからにしてくれないと~~っ♪ \ヒッメジ~ン/」

「拳王さまああああぁっ!?」

 肩を掴んでいた筈の姫路さんが突然消えてしまい、バランスを崩した僕は盛大にずっこけた。

 しかもコケた先には何故か姫路さんの手作りクッキーが置いてあり、それが僕の口の中へと入ってしまった。

 間違いなく将来美波と結婚する男は大変な死の危険に晒されることになる。

 僕はそれを確信した。

 

「あれっ? 明久くん? 何でそんな所に寝っ転がっているのですか?」

 僕を危うく冥界に送り掛けた犯人はようやく正気に戻った。

 僕は瀕死の重傷を負ったけど。

 まあいい。

 僕の嘘が姫路さんにどれだけ激しいインパクトをもたらしたのか。

 それが、重要だ。

 地面に手をつきながらゆっくりと立ち上がる。

 やばい。全身がフラフラしている。目も焦点が定まらない。

 当然だ。姫路さんの手作りクッキーを食べて生きていること自体が奇跡に近いのだから。

 でも、負けない。今日は1年に1度だけ、僕がみんなに反撃できる公認デーなんだ。

「さあ、姫路さん。返事を、聞かせて欲しいんだ」

 姫路さんに向かって右手を伸ばす。

 最高の驚きのリアクションを僕に見せておくれっ!

「えっと、えっとですね……」

 姫路さんは全身を震わせながら1歩、2歩と下がっていく。

「い、今、返事しないとダメですか?」

 僕は無言で頷いてみせる。

 姫路さんを混乱させて大きなリアクションを引き出すこと。それこそが僕の望み。だから、返事まできちんと聞かないと意味がない。

 今頃姫路さんは必死になって僕を傷つけない様に断る言葉を探している筈だ。

 だって、友達だから。幾らなんでも結婚は無理だろう。

「……明久くんが返事を求めている。ということはやっぱり、今すぐにでも私にお嫁さんになって一緒に暮らして欲しいということですよね。明久くん、本気なんですね。でも、それに比べて私にその覚悟はあるでしょうか? 吉井明久の妻として今すぐやっていく覚悟が? ううん。覚悟だけじゃありません。私は明久くんの妻として相応しい要件を満たしているでしょうか? ただ同棲してエッチなことをするんじゃない。妻としてやっていく資格が」

 って、姫路さんはまた自分の世界に入ってしまった。

「……私は世界で一番明久くんを愛している自信はあります。美波ちゃんよりも優子ちゃんよりも私の方が明久くんのことを愛しています。でも、一介の高校生に過ぎない私がお嫁さんになってしまって本当に良いのでしょうか? 大人の下着も恥ずかしくてなかなか買えません。後学の為にエッチなDVDを見るのもしばらく躊躇ってしまいます。そんな私が明久くんと2人で支え合ってこの世間の荒波を生きていけるでしょうか? こんなにも明久くんのことが好きなのに、愛だけじゃそう簡単に決められないんですよ~~っ!」

姫路さんは野生の獣みたいに咆哮しながら顔を上げた。

「あの、それで返事なんだけど……」

 おっかなびっくり姫路さんに尋ねる。

「もう少し、もう少しだけ1人で考えさせて下さい」

 姫路さんは僕に向かって手を合わせた。

「私と明久くんの一生に関わることですから、ちゃんと考えてちゃんと答えを出したいのっ!」

「あっ、うん」

 姫路さんの勢いに押されて何も言えない。

「私、必ず自分自身を納得させてみせますから。そうしたら……2人で、世界で一番幸せになりましょう♪」

「は、はあ」

「2人で幸せって。もう、私ったら答えを言っているようなもんじゃないですか♪ 恥ずかしいですよぉ~っ♪ \ヒッメジ~ン/」

「ひぃでぶぅうううううぅっ!?」

 また姫路さんの体が透明になって、転んだ先に姫路さんのお菓子。、

 スキップしながら僕の元を去っていく姫路さん。

 そんな彼女を僕は瀕死状態で地面に這いつくばったまま見ているしかなかった。

 

 

 

「このままじゃあ……死んじゃう。助けて、優子さん、葉月ちゃん」

 

 美波の拳法と姫路さんの料理により僕の体はいつ死んでもおかしくない状態に陥っていた。

 動かない体で必死に携帯を操作して2人にメールを送る。

 

『 助けて。お腹。死にそう。早く公園に来て 』

 

 やって来た2人が僕を介抱してくれるのが早いか、それともこのまま死んでしまうのが早いか。時間との戦いだった。

 だけど答えは意外な形で示されることになった。

 

「アキ~~~~っ♪ プロポーズの返事をしに来たわよ~~っ♪」

 美波がスキップしながら戻ってきた。

 よし、この際だ。美波に介抱してもらおう。

「……おお~い、美波~」

 声が掠れてよく出せない。

 でもまあ良いや。美波も僕の惨状を見ればきっと介抱してくれる筈だ。

 ところがここで事態は僕の思ってもみない方向へと進み出した。

 

「明久く~~~~んっ♪ プロポーズの返事をしに来ましたよ~~っ♪」

 姫路さんもまたスキップしながら戻ってきたのだ。

 そして2人は僕のすぐ手前で顔を合わせた。

「あれっ? 瑞希じゃない。一体こんな所でどうしたの?」

「美波ちゃんこそ公園に何かご用ですか?」

 2人の顔はやたらとホクホクツヤツヤしている。

 よほど2人には良いことがあったらしい。

 僕と別れた後に何があったのだろう?

「良いことがこの公園であったのよ。そして、これからもっと良いことが起きるの」

 美波は倒れている僕を見ながらデレデレしている。

「わぁ。奇遇ですね~。実は私もこの公園で良いことがあって、これからもっと良いことが起きるんですから」

 姫路さんも僕を見ながらデレデレしている。

 一体、2人に何が起きたと言うんだ?

「瑞希に何が起きたのか~聞いても良いかしら?」

「美波ちゃんにどんな良いことが起きたのか聞いても良いですか?」

 2人は顔を見合わせながら笑っている。

 そして2人は述べたんだ。自分の身に起きたとても良いことを。

「実はウチ、アキにプロポーズされちゃったのよ。これから申し出を受け入れる所なの」

「実は私、明久くんにプロポーズされたんです。これから申し出を受け入れる所なんです」

 2人に起きた良いこと。

 それは僕にプロポーズされたことらしい。

 えっ?

「「えっ?」」

 2人の声が重なった。

「それじゃあ何? 瑞希もアキにプロポーズされたって言うの?」

「美波ちゃんも明久くんにプロポーズされたんですか?」

 2人の表情が急に険しくなる。

 いや、これは険しいなんてもんじゃない。

 明らかに病んでいる。

 光を失ったヤンデレの瞳だ。

 

 2人が僕を取り囲むように見下ろす。

 そして、僕の人生の最終章が始まった。

「アキ、どういうこと? 何でウチだけじゃなくて瑞希にもプロポーズしているのよ? ウチのこと世界で一番愛してくれているんじゃなかったの?」

 美波の目が冷たい。果てしなく冷たい。

「明久くん。これは一体どういうことですか? 何で、私だけじゃなくて美波ちゃんにもプロポーズしているんですか? 私、明久くんにプロポーズされて本当に嬉しかったのに」

 姫路さんの目も果てしなく冷たい。

 やばい。やばい。やばいやばい。これは本当にやばいっ!

「えっと、あの、その2人とも。落ち着いて。ねっ、まずは落ち着こうよ」

 懸命に2人を宥めようと試みる。

 でも、ダメだった。

「ウチ、今からアキの家にお嫁入りして一緒に住むつもりだったのに。美味しいご飯を作ってあげようと思っていたのに。酷いよ。二股掛けていたなんて」

 美波は持っていたバッグから包丁を取り出して手に握ってみせた。

「私、今から明久くんの家にお嫁入りして一緒に住むつもりだったんです。美味しいご飯を作ってあげようと思っていたのに。酷いです。二股掛けていたなんて」

 姫路さんも包丁を取り出して手に握ってみせた。

「おっ、落ち着こうよ。2人とも。ねっ!」

 命の危険を感じた僕は大声で叫んだ。

「落ち着けるわけがないでしょっ!」

「落ち着けるわけがありませんっ!」

 興奮した2人が包丁を振り上げる。その切っ先は僕の体を狙っていた。

「こっ、殺されるぅ~~っ!」

 命の危機を感じ取った僕は地面を這い蹲ったまま必死に逃げた。

 公園さえ出てしまえばきっとどうにかなる。

 人通りの多い所に行きさえすれば生き長らえる。

 それだけを信念に据えながら必死に四肢を動かす。

 そして──

「優子さんっ! 葉月ちゃんっ!」

 僕は援軍の元に辿り着くことが出来たんだ。

 頼もしい援軍の元へと。

 

「明久くん。姫路さんと島田さんにプロポーズしたってどういうことなの? アタシのことを呼び出したのは殺して欲しかったから?」

 優子さんが調理用に持ってきたらしい包丁を大きく振り上げた。

「バカなお兄ちゃん。葉月は浮気に対しては死ぬしかないと思っているです。葉月以外の女にプロポーズしたバカなお兄ちゃんには死ぬしか選択肢が残っていないのです」

 葉月ちゃんが同じく調理用に持ってきたらしい包丁を大きく振り上げた。

「ウチ……アキのこと、本気で好きだったのに」

「さようなら……明久くん」

 僕が最期に見た光景。

 それは4つの煌く白刃だった。

 

 

 3月31日。

 文月学園に通う1人の少年が銀河鉄道に乗って別の世界へと飛び立っていった。

 吉井明久は星となって今も大地を優しく照らしているのだった。

 

 

 了

 

 

 

 


 
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