No.488630

そらのおとしものショートストーリー5th あの子と海11 ブラコンツンデレっ子

水曜更新

鳳凰院家の妹の方。HHのヒロインのひとりとも言う。

最近、二次創作に時間取れないなあ。

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2012-09-26 00:13:59 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1453   閲覧ユーザー数:1397

そらのおとしものショートストーリー5th あの子と海11 ブラコンツンデレっ子

 

 

「畜生……っ。どうしてこんなことになっちまったんだ……」

 楽しいものになる筈だった海でのバカンス。

 イカロスやニンフは勿論、日和や鳳凰院月乃なんかも呼んで皆でワイワイやるつもりだった。

 おっぱいボインボインお尻プリンプリンの水着の美少女達に囲まれてうっはうっはのむっひょっひょのひと時を過ごすつもりだった。

 ところがだ。

 それぞれ都合がどうとかで1人欠け2人欠け、海に到着したのは当初の予定より大幅に少なかった。

 たわわに実るおっぱいの量が減ってしまった。

 だが俺に訪れた悲劇はそれだけでは終わらなかったのだ。

 俺達は観光用ヨットに乗って大海原へと繰り出した。ところがいつものお騒がせメンバーがこともあろうに船内で喧嘩を始めた。

 そして危険指数は超1級品である奴らはお約束的な展開として船に大穴を開けてくれた。沈み行く船体。俺は水面へと放り出され……運良く浮いていた丸太に捕まって事なきを得たが、その後気絶してしまった。で、現在……。

 

「こんな無人島に流れ着くなんて俺は漫画の主人公かっての~~っ!!」

 綺麗な淡い青い色をした海に向かって大声で叫ぶ。

 何と俺は漂流してどことも知らない無人島へ流れ着いてしまったのだ。前に1度、会長達に騙されてそはらと2人きりで無人島生活体験もどきをさせられたことはある。が、今回は正真正銘の本物だ。本当に無人島に流れ着いてしまった。

 

「エテ公さま。騒がしいのでキーキー怒鳴らないで頂けますか」

 

 鳳凰院月乃は俺のパーカーの袖を摘んで離さない状態からクレームを付けて来た。

 そう、俺と一緒にこの島に辿り着いたのは義経の妹の鳳凰院月乃だった。

 俺と月乃は命からがらこの島へと逃げ延びて来たのだった。

 

 

 楽しい筈だったクルージングに突如強襲して来たフラレテル・ビーイングの潜水艦。

『ノーブレス・オブ・リージ。妹や我が家の使用人を狙う悪党はこの僕が相手をしよう。脱衣(トランザム)っ!!』

 義経が女の子達を守る為にやる気になったのは良かった。だが、脱衣モードは狭い船内で使うには威力が高過ぎた。

『さっ、桜井く~~んっ!』

『日和~~っ!!』

 俺達の乗っていたヨット及び潜水艦は大破。各自が別れて脱出ボートに乗って海上避難する羽目に陥った。

『おい、月乃。ぼやっとしてないで俺達も逃げるぞ』

『それが、その。銃撃音に驚いて腰をぬかしてしまい動けないんですの』

 月乃はしゃがみ込んだまま1歩も動けないでいる。船は後1分もせずに沈んでしまうであろうにだ。

『おいっ、義経っ!』

 月乃のことは兄に任せようと思った。下手に触ると月乃に嫌がられるだろうし。ところが……。

『それではMr.桜井。妹のことは君に任せたよ』

 義経は髪を掻き揚げながら日和とオレガノ、じっちゃんだけを乗せて脱出ボートを出航させてしまった。

『ちょっと待て!』

『いいかい、月乃。僕と同等の力を持つMr.桜井の言うことをよく聞いて無事に帰って来るのだよ』

『はい、お兄様』

 月乃は俺の服の袖をぎゅっと引っ張った。

『何でそうなるんだ~!? っていうか、救命ボートもなしに一体俺にどうしろと?』

『はっはっは。僕の最大のライバルであるMr.桜井ならこれぐらいの難関はどうとでも対処出来る筈さ。妹を末永く頼むよMr.桜井』

『勝手なことばかり言って去っていくんじゃねえよ~~っ!!』

 義経達の乗ったボートはあっという間に見えなくなってしまった。義経が脱衣モードでバタ足漕ぎでボートを進めたからだ。

 

『あの……エテ公さま?』

 不安そうな表情で俺を見る月乃。

『大丈夫だ。心配すんなって』

 月乃の頭を撫でてから脱衣モードに移行。木の甲板を適当にぶった切って即席のイカダを組む。

 それに月乃を乗せると大海原へと降ろし、後は義経と同じ様にバタ足を動力機関にして陸地を目指す。

「とはいえ、俺のトランザムは1度に3分間しか使えないんだよなあ」

 俺のトランザムは義経のと違い時間制限がある。

 水上でも超音速の動きを可能にするが持続時間は3分だけ。

 だから3分進んでは止まりを繰り返しこの島に辿り着くまで随分時間が掛かったのだった。

 

 

「それでエテ公さま。わたくし達はこれからどうすれば良いのでしょうか?」

 俺の袖を握ったまま顔は泣きそうで声だけは高圧的に月乃は尋ねて来た。

「そうだなあ」

 海を見る。視界内にこの島以外にどこにも陸地は見えない。船が沈んだ地点から最初に見えた島がここだった。

「現在地が分からない以上、またイカダで漕ぎ出して海に出るのは危険だろうな」

 代わりに島の内陸部を見る。

 大きな島ではないものの内部には林があり水が期待できそうだった。海の方も魚介類は豊富で食料も何とか調達出来そう。

「助けが来るまでこの島でサバイバル生活を送るのが最も妥当な策だろうな」

 山での遭難と同じで下手に動かない方が良い。それが俺が下した結論だった。

「助けが来るまでってどれぐらい待てば良いのですの?」

 月乃は泣きそうな表情で訴えてきた。

「さあ?」

「1時間ですの? 1日ですの? 1週間ですの? 1ヶ月ですの? 1年ですの?」

「そんなことを言われても、この辺に船が頻繁に通っているのかも分からないしなあ」

 サバイバル期間がどれぐらいになるのかなんて俺に言われても困る。

「そんな、無責任じゃありませんの!」

 月乃が体を震わせながら怒っている。

「エテ公さまはお兄様からわたくしの安全を任された身。なのにいつ帰れるのか分からないサバイバル生活を送れだなんていい加減過ぎますわ」

「じゃあお前はどっちが陸地かも分からないのに海に飛び出した方が良いのか? 溺れ死んだり衰弱死したりした方が良いのか?」

「それは……そうなるぐらいならこの島で生活した方が良いですけど」

「だろ。それが安全の為の第一歩だって」

 月乃に笑い掛ける。

 俺の場合過去にも無人島サバイバル経験があるから月乃ほど取り乱していない。

「それでは、サバイバル生活を送る為にこれからどうすれば良いのですの?」

「そうだな。やっぱりまずは水と食料の確保からだな」

 天を見上げれば日はまだ高い。

 島内部を探索して水を発見するのが最初の目標だろう。

「俺はこれから水を探しに島内部を歩き回るけど、お前はどうする? ここで待っていても良いぞ」

 月乃は如何にもという感じのお嬢様。地道な探索という泥臭い作業は嫌だろう。

「わたくしも一緒に行きますわ。貴方はお兄様からわたくしの身の安全を任されているのです。側にいないとわたくしを守れないでしょう」

 月乃は俺の裾を掴んだまま立ち上がった。

「そうだな。2人で探しに行くか」

「貴方にはわたくしを守る役目があるのをお忘れなくですわ」

 こうして俺達は2人で水を求めて内陸部へと入っていった。

 

 

 夜になり俺が獲ってきた魚を薪で焼きながら砂浜で月乃と向かい合って座る。

 水は割りと簡単にみつかった。空美町でも見たことがある水辺の植物が生えていたのでもしやと思って近付いてみたら綺麗な湧き水があった。

 水が早くにみつかったので次に海に出て漁に勤しんだ。以前の無人島サバイバル体験で鍛えた魚獲り技術によって4匹の魚と多くの貝を手に入れることが出来た。

 これで生き抜ける最低限の術は確保できたのだが……。

「料理上手とか言っておいて……魚1匹調理できないんだもんな。はぁ~」

 月乃を見ながら溜め息を吐く。

 捌いて焼く行程は全部俺が担当することになった。

「そ、そんなことを言われましても生の魚を、しかも内臓を除けとか気持ち悪くてわたくしには出来ませんわ」

「すっげーお嬢様っぽい口上だよな」

「食べ慣れた高級フランス料理でしたら作ることも出来ますのに」

「ここじゃそんなものを振舞う機会は永久に来ないぞ」

 月乃は大きく息を吐いた。

「ですが、いつまでも貴方に全てを任せっ放しというわけには参りません。わたくしも、明日からは頑張って生物を調理するように致します」

 苦渋の決断という感じで決意を口にする。

「そうしてくれるとありがたい」

 漁から調理まで全部担当していると俺のエネルギーも持たない。

「まっ、何はともあれ食べようぜ。お腹ぺこぺこだ」

「はいっ」

 2人で獲ってきた魚を食べる。

「お箸もフォークもスプーンも使わないで丸齧りだなんてはしたない……自己嫌悪ですわ」

 月乃は魚に1口かぶりついてガックリと首を落とした。

「無人島暮らしでお嬢様なんて何の役にも立たない称号だぞ」

「窮地に立たされた時こそ貴族の矜持が試されるものです」

「プライドばっかり高くて役に立たないってことか」

「明日からはちゃんと役に立ってご覧にいれますわ。それこそが鳳凰院家の姓を背負う者の使命です」

 月乃は大きく背を反らした。そはら程ではないが、14歳にしては十分に立派な胸が赤いビキニに包まれてプルンと揺れる。

 イカンイカン。

 この状態で月乃に欲情するのは卑怯というものだろう。

 今のコイツは俺と一緒にいないと生き延びることが出来ない。好きでもない俺に依存せざるを得ない状況でエッチィことを仕掛ければ月乃は大きく傷つくことになる。

「貴方、一体どこを見ているんですの? 目がいやらしいですわ」

「別に。何でもないさ」

 目を逸らして空を見上げる。

 俺の周りにいる子はどの子もエネルギーに溢れていて人間離れしている。そんな中で月乃は純然たるお嬢様ではあるけれど、本当にごく普通の女の子。

 この無人島生活は他の子と漂着した場合よりも気を付けないといけなさそうだ。

 

「今度は急に空を見上げて溜め息を吐いてどうしたんですの?」

「何でもないさ」

 正面を向き直しながら首を横に振る。

「何でもない何でもないって、はっきりしない方ですわね。どうしてお兄様はこんな男にわたくしを任せたりしたのか分かりませんわ」

 食事を終えて元気を取り戻した月乃が早速ダメだしをして来た。

 コイツの普通は憎まれ口ってことで間違いない。

「にしてもお前は本当にお兄様、義経が好きなんだな」

 口を開けばお兄様お兄様。俺には義経のどこが良いのかまるで分からない。

「当然ですわ。お兄様は小さい頃から格好よくて憧れで……理想の男性なのですから」

「外見は良いかもしれないが……中身は完璧に変態だぞ、アイツ」

 他人に全裸を見せ付ける快感で脱衣(トランザム)モードになる男がまともな訳がない。

「貴方も女性に全裸を見られる快感でお兄様と同じモードでなるではありませんか」

「グハッ!?」

 義経と同じ変態扱いされて吐血する。

「ですが、あのモードになってお兄様と互角に渡り合えるおかげでお兄様は貴方の実力を認めているのですよ。貴方の力を認めて下さっているお兄様に感謝して下さい」

「断る。アイツが絡んで来る度に俺は酷い目に遭って来てるんだ」

 今の状況だって義経が妹を俺に勝手に預けたりしなければ起きなかったんだ。

「なっ? 貴方はもっとお兄様に選ばれた男であることを自覚してください」

「義経に見込まれても嬉しくねえんだよ。あんな全裸でクルクル輪を描きながら踊っているような奴に好かれてもなあ」

「それではお兄様のお許しの下に貴方と一緒にいるわたくしの立つ瀬がないではありませんの」

「お前はほんと……あらゆる基準がお兄様だけなのな」

 月乃のブラコンは呆れるを通り越して感心する。

「…………そんなことはありませんわ」

 月乃はちょっとムッとした表情を見せた。

「貴方の実力を認めているのはお兄様だけではありません。うちのお手伝いをして下さっている風音日和さんもです」

「日和が?」

 首をぐるっと回して月乃をジッと見る。

「凄い速さで反応しましたわね…………日和さんがそんなに大事ですの?」

 月乃は凄くムッとした表情を見せた。

 でも、そんな些細なことはどうでも良かった。

 

「そっかぁ。日和はちゃんと俺の真価を認めてくれているんだなあ。うんうん」

 腕を組んで首を縦に振りながら何度も頷いてみせる。

「お兄様の時と違って随分嬉しそうですわね」

「そりゃあ義経と日和じゃ比較にならないだろう」

 美少女と変態男。どっちに誉められて嬉しいかなんて考えるまでもない。

「…………そんなに日和さんが良いんですの」

 義経のことを貶しているからか月乃の不機嫌は一層加速している。

 でも、俺としては日和のことをもっと聞きたい。

「日和は一体どんな風に俺のことを褒めていたんだ?」

「全裸でクルクル躍る様が素晴らしいとおっしゃっていましたわ」

「グハッ!?」

 もしかして俺は周囲の人間に義経と同じ行動パターンの人間と思われているのか?

「ショックだ……」

 砂浜に両手両膝をついて悲しみに暮れる。

「フン。いい気味ですわ」

 月乃の視線が俺の哀愁を一層濃いものへと変えた。

 俺は立ち直るのに数十分を要した。

 こうして俺と月乃の無人島漂流生活1日目は終わりを告げた。

 

 

 この島に流れ着いてから1ヶ月が過ぎた。

 この間付近を通り過ぎる船舶は1隻もなし。

 そんなこんなで漂流生活はいつ終わりを迎えるのか分からない状態のまま続いている。

『智樹様。お魚が焼けましたので作業を止めてお食事にしましょう』

 砂浜から月乃の声が聞こえて来た。

 俺は木を切っていた手を止めて砂浜へと向かう。

 砂浜には葉っぱで出来た服を着た月乃が俺の到着を待っていた。

 

『この1ヶ月で月乃も随分無人島生活に馴染んだよな』

 焼き魚、煮魚、蒸し焼きと様々なバージョンの食事を出す月乃を見て感慨に浸る。

 1ヶ月前とは凄い違いだ。

『それは、智樹様がわたくしに調理を精進するようにおっしゃったからですわ』

 月乃はちょっと照れ臭そうに答えた。

『けど、言われたからってなかなか出来るもんじゃない。月乃は頑張ってるぜ』

 ただの我が侭お嬢様で終わらないのが月乃の良い所だろう。

 負けん気の強さとも言えるかもしれないが。

「それは……智樹様にご迷惑ばかりお掛けする訳にはいきませんから」

 月乃は顔を赤くしながら笑った。

 俺達の関係は随分角が取れたものになっていた。

「わたくしは智樹様の言いつけをきちんと守りますわ」

 月乃の考え方にエンジェロイドの存在意義とやらと似たものを感じて気になる部分もあるが。

 俺の呼び方もエテ公様から貴方、智樹様へと変わってきているし。

 

「わたくし達が流れ着いて1ヶ月が経ちました。智樹様はこれからの方針をどうなされますか?」

 食事が終わり、木で作った湯飲みに若布を乾燥させたものを湯に溶いてお茶代わりに飲んでいると月乃が尋ねて来た。

「方針、とは?」

「大きな船を作ってこの島を出て行く準備を進めるのか、島での滞在を続けるのかなどです」

「ああ。そういうことか」

 雲ひとつない青い空を見上げる。しかし見上げた所で考えるほどの選択肢はない。

「当面は現状維持、だな」

 唯一の選択肢を口にする。

「大きな船を作った所で現在地も地図もないんじゃ海原に漕ぎ出しても当てがない。船が大きくなればなるほど俺のバタ足スクリューも速度が落ちるし。なら、この島での生活を快適に出来るように道具を整えていく方が大事だな」

 現状のこの島での快適度から考えるとリスクを冒して海に出て行く必要性はあまりない。あくまでも俺の立場から考えたらの話ではあるけれど。

「その、月乃はここでの生活はもう嫌か?」

「えっ?」

 月乃は驚いた表情を見せた。

「月乃が空美町にどうしても帰りたいって言うのなら、多少危険を冒してでも海に出るけどな」

 この場合、目指すは陸地ではなく他の船に拾ってもらうこと。海上での長期戦になるだろう。しかも相当に分が悪い。

 そんな俺の提案に対して月乃は首を横に振った。

「わたくしはこの島から早急に出たいとは考えていませんわ」

「そうか。ほら、この島に着いたばかりの頃は早く帰りたがっていたからさ」

「漂着したばかりの頃と島の生活に慣れ親しんだ今では状況が違います。それに何より智樹様が出て行かないとおっしゃる以上、それに従うまでです」

「そうか」

 頭をポリポリ掻く。やっぱり月乃のこのエンジェロイド的な思考はちょっと引っ掛かる。

「ですが、島での生活を続けるに当たって提案がありますの」

「何だ?」

 家具をもっと増やして欲しいとかそんなことだろうか?

 月乃は胸の前で両手を合わせ大きく深呼吸する。そして目を瞑ったかと思うと今度は目を大きく見開きながら述べたのだった。

 

「わたくしを智樹様の妻にして頂けませんか?」

 

 それは全くの不意打ちだった。

「へっ?」

 間抜けな声しか出せなかった。

「お兄様は智樹様とわたくしの結婚に賛成なさっています。ですから後は智樹様からプロポーズを頂ければわたくしは智樹様の元に嫁ぐ所存です」

「何でいきなり結婚になるんじゃ~っ!?」

 やっと頭が回復したと思ったら大声でツッコミを入れていた。

「それは、致し方ない事情があったとはいえ、若い男女が2人きりで1ヶ月も寝食を共にしている。これは鳳凰院家を揺るがしかねない大スキャンダルなのでちゃんとした体裁を整えないと」

「家の為に結婚するってのか?」

 月乃の回答にすっごく腹立たしいものを感じた。

「も、勿論それだけではありませんわ。智樹様はお兄様がお認めになった世界でただ1人の男性。わたくしもその方の元に嫁ぐことはやぶさかではありませんわ」

「そういう家とかお兄様とか自分じゃないものを理由に結婚とか言い出さないでくれ!」

 イカロスやニンフのエンジェロイド話を思い出してイライラする。

「で、ですが……」

「お前の家の都合で結婚なんて絶対に却下だ却下」

 首を横に強く振って譲歩の余地がないことを示す。

「分かりましたわ」

 月乃は思い詰めた表情で俺を見る。

「鳳凰院家は捨てます。智樹様がおっしゃるのならわたくし、この島でずっと暮らします。そして智樹様に尽くしますわ」

「それはお兄様のご命令か? それとも俺のご命令か?」

 月乃は顔を逸らした。

「智樹様は意地悪です。お父様とお兄様の、そして将来夫となる方の言うことをよく聞くように育てられたわたくしに対して決断を迫るなんて……」

「イカロス、ニンフ、アストレアを相手に散々そういう問答はやって来たからな。月乃にも自分のことは自分で決めて欲しい」

 命令に従うことを優先する、自分の意思を放棄する姿勢がエンジェロイド達とどうしてもダブる。それが俺には嫌だった。

 

「なら、わたくしの素直な気持ちをお話しますわ」

「ああ。そうしてくれ」

 月乃は背筋を伸ばして正面から俺を見る。

 

「わたくしを智樹様の妻にして下さい」

 

 先程よりもより直接的な表現。いや、問題はそんな所にあるんじゃない。月乃の言葉の内容とその重みにあった。

「俺の、妻?」

 妻ってことは結婚か?

 俺、プロポーズされたのか?

「そうです。わたくしは智樹様と生涯を共にしたい。そう望んでいます」

「何で俺と?」

 別に月乃に好かれるようなことはしてないと思うんだが?

「この1ヶ月間、わたくしは智樹様のことをずっと見ておりました。そしてお兄様でも日和さんの言葉でもなく、わたくし自身が智樹様の魅力と能力に気付いたのです」

「能力って、俺はサバイバル経験が以前あったから月乃よりこういう状況になれているだけで……」

 俺に有能という言葉ほど似合わないものもないと自覚する。

「船からの脱出時にイカダを作製した判断能力の速さ、自らの身体を動力源としてこの島に辿り着いた体力と献身性、漁や道具や家の作製などの技術力、実行力の高さ、そしてわたくしにこの島での生活に馴染むように導いたカリスマ性。どれをとっても最高の方です」

「そ、そうかな」

 誉められた経験なんてほとんどないのでどう対応したら良いのか分からない。

「わたくしにとって智樹様は最高の男性なのです。ですから、わたくしを妻にして下さい」

 月乃の本気に俺は知らずに後ずさりしていた。

 自分で決めろと偉そうに言った癖に本心をぶつけられると受け止めきれないとは我ながら情けない。

 

「でも、何で結婚なんだ? その、彼氏彼女でも良いんじゃ?」

 月乃は首を横に振った。

「わたくし……この島で智樹様の子供を産んでママになりたいんですの」

「ママァ!?」

 心臓が飛び出すんじゃないかと思うぐらいに驚いた。

「はい」

 月乃は顔中を真っ赤に染めた。

「2人きりの現状でもわたくしは大変幸せです。ですが、わたくし達の子供達に囲まれて賑やかに暮らせばもっと幸せになれるのではないかと思いますわ」

 月乃はとても恥ずかしそうに喋っている。けれどそれを聞く俺の方がもっと恥ずかしいというか硬直状態。

「こ、子供を作る過程はわたくし知識に乏しいので智樹様にお任せいたします。智樹様の期待には何でも応えられるように誠心誠意尽くしますので」

「ぐおぉほえぼのおいrへいおhちおえ!?!?!」

 吐血して驚く。

 ウルウル瞳で覗き込んで来る月乃は破壊力があり過ぎた。

 良いもの食っている鳳凰院家のご息女だけあって月乃の目鼻立ちの良さは半端じゃない。

 それに加えてこのスタイルの良さ。

 そんな子が俺の望むムフフを何でも叶えてくれると言っている。ママになりたいということはその行為はノンストップでだ。

 俺が望めばこの子のすべてを……。

 

「智樹様。わたくしをお嫁に貰って下さいますか?」

 重ねて俺の意思を尋ねて来る月乃。

 俺がイエスとさえ言えば2人の関係はガラリと変わる。

 月乃を妻とした俺はきっと自身の欲望を月乃の為と正当化しながら彼女を貪欲に求めるだろう。そしてそんな俺を月乃は喜んで受け入れてくれるだろう。

 それは島からの脱出を半分諦めている俺達にとってはごく自然で、きっと合理的な選択なのだと思う。俺達が結ばれることがこの島での生活をより豊かにする。

 でも、それは……。

 

『桜井くん♪』

 

 日和の顔が脳裏に浮かび上がった。

 

(約束された勝利の出番 発動)

 

「智樹様、今、何を考えていましたの?」

 月乃はとても悲しげな瞳で俺を見ている。

「そ、それは……」

 口篭る。他の女の子のことを考えていたとはさすがに言えない。

「日和さんのことですね?」

「えっ?」

 心の中を見透かされたようで大いに焦った。

「図星、ですのね」

「…………ああ」

 俯きながら認める。犯行を認めた犯人みたいな心境。

「智樹様はこの1ヶ月、ことある度に日和さんのお話ばかりしていました。わたくしに訊くのも日和さんのことばかり。それで疑わない女性はおりませんわ」

「そうか」

 俺としては月乃との共通の話題が義経か日和しかないから日和の話題を振っていたつもりだった。けど、月乃は全く違った受け取り方をしていた。いや、俺が自分で気付かなかっただけで日和の話をしたかったのかも知れない。

「智樹様が日和さんのことを好いているのはわたくしも百も承知です」

 月乃が1歩踏み込んで近付いて来た。俺と彼女の間はほんの10cmぐらいしかない。

「その上で申し上げます。日和さんではなく、わたくしを選んでください」

 間近で見る月乃の瞳は真剣そのものだった。

 心臓がバクバク言っている。

 月乃に自分で決めろと説教たれたのは俺だってのに、情けねえ。

 一方で月乃は俺の手を握ってきた。

「智樹様が選んでくださるのなら……わたくし、何でも致しますから」

 月乃は握った俺の手を自分の胸に当てながら語った。

 女の子特有の柔らかい感触。でも、それよりも破裂してしまうんじゃないかと思うぐらいに高鳴っている胸の鼓動が手を通じて俺にも聞こえて来た。

 その音の心地よさに……俺の覚悟も定まった。

 

「そのさ…月乃の気持ちはすげぇ嬉しいんだけど……その、ごめん」

 

 月乃の精一杯の気持ちをぶつけられて、俺もまた自分の正直な気持ちを答えるしかなかった。

「日和さんが、好きなんですの?」

 月乃は目を瞑っている。

「ああ。俺は日和が好きなんだ。大好きなんだ」

 そんな彼女に自分の正直な気持ちを伝える。それが俺に出来る月乃への唯一の誠意の示し方だった。

「そう、ですの」

 月乃は大きく息を吐き出す。そして目を開いて俺の後ろに向かって話し掛けた。

「智樹様は貴方を選びましたよ。良かったですわね、日和さん」

「日和っ!?」

 慌てて後ろを振り向く。

 俺の真後ろには顔を真っ赤に染めながらも申し訳なさそうに俯いている日和の姿があった。

 真っ白な翼を生やした日和がこの島に立っていたのだった。

「もしかして、今の話聞いて?」

「…………うん」

 日和は紅潮したまま首を縦に振った。

 その恥ずかしそうな態度から日和が月乃との会話の、少なくとも最後の部分を聞いていたことは分かる。

 本人がいない所で口にした筈の想いを聞かれるとか恥ずかし過ぎる~~っ!!

 心の中で苦悶する俺を置いて月乃は日和へと歩み寄っていく。

「聞いての通り、わたくしも智樹様も自分の素直な気持ちを打ち明けましたわ。後は日和さんの気持ちをお聞かせ下さい」

 月乃は日和の手を握った。

「答えを保留するようなら、強引にでもわたくしが智樹様を奪ってしまいますけどね。子は鎹と言いますし、既成事実から生まれる愛もあるでしょうから」

 月乃の言葉に日和の体がビクッと震えた。それから日和は大きく息を吸い込んだ。

「月乃さまのご心配には及びません」

 日和は落ち着きを取り戻しいつもの天使の笑みを見せてくれた。

 

「だって私は……ずっと以前から桜井くんのことが大好きですから♪」

 

 日和の告白の言葉は俺のハートを思い切り撃ち抜いた。

「それでは、日和さんと智樹様は両思いということでよろしいですのね」

 月乃は大きく息を吐き出した。

 俺と日和は顔を見合わせる。目と目が合った瞬間に、日和の顔が、そして俺の顔も真っ赤に染まった。

「その……これから、よろしくな」

「ふつつか者ですが末永くよろしくお願いします」

 ぎこちなく頭を下げる俺達。

「いちゃつくのは空美町に帰ってからにして下さい。それと、日和さんに配置換えを命じますわ」

「配置換え、ですか?」

 日和はきょとんと首を傾げた。

「日和さんにはこれから野菜販売を中心とする空美町流通販売担当部署に移って頂きます。勤務先は空美町鳳凰院流通センターになります」

「そ、それは……」

 日和が悲しそうな表情を見せた。

 そうか。勤務先が流通センターになるってことは、働く中で月乃との接点がなくなることを意味している。

 日和は月乃に嫌われたと考えているんだ。

「ですが、鳳凰院流通センターでは2人ペアで働くのが決まりになっています。もう1人一緒に働いてくれる方を探してください」

 月乃は横目で俺を見た。…………そうかっ!

「じゃあ、俺が日和とペアになって働く。そうしてもらえるか?」

「振られたとはいえ、大恩ある智樹様の申し出では断る訳にはいきませんわ。日和さんと一緒に働くのは智樹様にお願いしますわね」

 月乃は笑った。

 俺も日和と月乃に向かって笑みを返す。

「月乃さま……桜…智樹くんっ!」

 感極まって日和が俺と月乃に抱きついてきた。

 

 

 こうして俺達の無人島生活は終わりを告げたのだった。

 

 

 1行の描写もなかったのに大空に笑顔でキメているアストレアが優しく俺達を見守ってくれていた。

 

 

 了

 

 

 

 

 


 
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