No.351574

ほむほむとクリスマス

さあ、クリスマスだ。
心を込めて祝おうじゃないか。愛で地球が満たされますように。
第一段 魔法少女まどか☆マギカ

僕は友達が少ない

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2011-12-24 00:18:55 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:2772   閲覧ユーザー数:2250

ほむほむとクリスマス

 

 

 12月23日午後9時。

 私は自室の布団の上で悶々と悩んでいた。

「まどかはクリスマスを誰とどう過ごすつもりなの?」

 まどかのクリスマスの予定がわからない。

 まどかと私は対ワルプルギスの夜戦で石破ラブラブ天驚拳を放ち勝利した仲。愛し合っているいっても過言じゃない。少なくとも私はそう考えている。

 けれど、まどかからクリスマスのお誘いはまだない。私の方からまどかを誘うなんてはしたない真似はできない。

 やっぱり、こういうお誘いはまどかの方からして欲しい。私にできるのは新しい下着を買って明日に備えるのみ。ちなみに色は黒。スケスケのヒラヒラ。

 けれど、どんなに明日に備えても肝心のまどかからお誘いがないのでは仕方がない。

 それどころかまどかが明日という日を誰とどう過ごすのかわからない。誰とどう……。

「ま、まさか、まどかは男と一緒に明日という日を過ごす予定なんじゃっ!?」

 言うまでもなくまどかは世界で一番可愛い。

 まどかとクリスマスにデートしたい男の数は万を下らないだろう。

 その中には強引にまどかとのデートを取り付けようとする男もいるかもしれない。男なんていうのは性欲のみが存在理由の下種極まりない存在だから。

 デートとなれば、調子に乗ってまどかの可憐な唇を狙って来るかもしれない。ううん、それどころか道に迷ったとか言ってまどかをホテルに誘い込み、欲望のままにまどかの体を貪り尽くすに違いないわっ!

「冗談じゃないわっ! 愛らしい唇も、小さな胸も、髪の毛1本に至るまでまどかは全部私のものなんだからぁっ!」

 まどかは私の娘を産めば良い。私以外の子供を産むべきじゃないし、子供が出来るような行為を他人としては絶対にいけない。

「そう。まどかは須らく私のものなのよ」

 これこそがこの世の唯一にして絶対の理。

 それを邪魔しようとする奴はみんな滅びれば良いのよ。

 

 私は先週届けられた1通の手紙をジッと眺めた。

 差出人は『フラレテル・ビーイング』となっている。

 フラレテル・ビーイングとはモテ男撲滅の為の武力介入組織。要するにクリスマスに浮かれるカップル共に嫉妬という名の天誅を加える組織だ。

 男女のカップルなんていう浅ましい肉欲しか感じさせない連中に興味はない。好ましいとは少しも思わないけれど、別に勝手に乳繰りあっている分には関係ない。

 そう思っていた。

 だから、フラレテル・ビーイングの決起への参加を要請されても受ける気はなかった。

 なかったのだけど……。

「まどかが男とデートするのなら……私は修羅になるしかないじゃないの」

 涙がポロポロと溢れる。

 まどかを男なんかに渡したくない。

 けれど、まどかが私のことを選んでくれなかったら……私は武力介入してまどかのデートを潰すしかない。

 例え嫌われる結果になろうとも、まどかは誰にも渡せない。

「まどかはたった1人の私の大切な百合達なのだから」

 フラレテル・ビーイングへの参加要請状をギュッと握り締めた。

 

 

 

 翌日、24日午前8時半。

 私は発信機によりまどかが自宅にいることを確認すると、彼女の今日の予定を確かめるべく自宅を出た。

 アニメ版と漫画版で何でこんなに自宅の豪勢さが違うのだろうと思いつつ、2階建ての年季の入ったアパートを出る。

 私が向かったのはまどかの情報を私と同レベルに収集している変態ストーカーの家だった。

「巴マミ。話があるのだけど」

 20分後。私は高級マンションの一室を訪れていた。

「まあまあ、ほむほむさん。よく来てくれたわね」

 玄関に現れた巴マミはやたらニコニコしていた。

 その笑顔に何か気味の悪いものを感じた。けれど、まどか関連情報を集めるにはこの変態ストーカーに尋ねるのが一番早い。

「ささ、上がって上がって」

 巴マミに背中を押されて室内へと上がる。

 そして私が室内で見たもの。

 それは──

「背後の妖怪ぼっちに気を付けるんだ、暁美ほむほむっ!」

 魔法のリボンで拘束され、口にケーキを突っ込まれて死んだ魚の目をしている淫キュベーダーの姿だった。

「妖怪ぼっち?」

 その言葉の意味を理解するのに数秒の時を要してしまう。

 そしてその時間ロスは取り返しの付かないものとなった。

「うふふふふ。うふふふふふ」

 危険を感じて巴マミから離れようとした瞬間だった。

 私は巴マミの魔法のリボンにがんじがらめにされて拘束されていた。

 巴マミクラスの魔法少女ともなれば変身せずとも魔法が使える。そんな簡単な事実さえ私は失念していた。

「妖怪ぼっち。何のつもりなのっ!?」

「うふふふふ。拘束された状態ではお得意のなるほど・ザ・ワールドも使えないでしょう」

「なるほどは要らないわ」

 如何にトチ狂っていても巴マミは私の弱点を冷静に突いてくる。こういう冷静な変態は始末に悪い。

「それで、私を拘束した理由をそろそろ聞かせてもらえないかしら?」

 淫キュベーダーの衰弱ぶりからして相当なことが起きているに違いない。

 一体、何が巴マミを狂気に走らせているの?

「うふふふふ。そうね、ほむほむさんは今日が何の日か知っているのかしら?」

 巴マミがトロンとした瞳で尋ねて来た。

「今日はクリスマス・イヴでしょ」

 何を当たり前のことを聞いてくるのだろう?

 これだけ街はクリスマス一色で染まっていると言うのに。

「私はね、クリスマスという日が嫌いだったのよ」

「まあ、キリスト教を信じてもいないのに、クリスマスだけはしゃぐ風潮を嫌がる人もいるわよね」

「そうじゃないわ」

 巴マミはゆっくりと首を横に振った。

「クリスマスになるとね……みんな誰と過ごすか。それで話題が持ち切りになるの」

 室温が急激に下がった気がした。それと共に巴マミから禍々しい邪気が発せられ始める。

「だけどそれって、一緒に過ごせる人がいるという前提での話じゃない?」

 巴マミからワルプルギスの夜並みの悪意と憎悪が発せられる。

「一緒に過ごす人がいない人間は、この世界に存在してはいけないとでも言うのかしら?」

 巴マミからどんな魔女よりも強烈な負の感情が発せられる。

「そんな訳でわたし、今日この宇宙を滅ぼしてぼっちに優しい世界に作り変えようと決意していたの」

「なぁっ!?」

 宇宙の危機がこんな身近に迫っていたなんて……。

 今の巴マミは危険な存在。

 女神まどか、通称アルティメットまどかでさえ敵わないかもしれないぐらい強大な負のエネルギーに覆われている。私じゃ、敵わない……。

「そう、思っていた時期が私にもありました」

 巴マミから邪気が消えた。

「クリスマス・イヴに友達が2人も尋ねて来る。これって、リア充の極みじゃない?」

 巴マミはとても艶々した表情で微笑んだ。

「友、達?」

 私は巴マミと友達になった覚えはない。

 私の友達はまどか1人で十分。もっともまどかとは将来夫婦になる予定なので、友達という表現が正しいのかはわからないけれど。

「ええ、そうよ。私とほむほむさんは友達、でしょ?」

 巴マミがゲート・オブ・マミロンから引っ張り出した1000丁の銃を私に向けて構えながら尋ねる。

 ノーと言った瞬間に私は肉片と化して砕け散るだろう。

「脅しに屈服しちゃダメだ、暁美ほむほむっ! ……ウピャァっ!?」

 淫キュベーダーは肉片と化した。

「ヤレヤレ。これで今日だけで666回も体を交換することになっちゃったよ。あっ!」

 新しい淫キュベーダーが現れてまた巴マミに拘束されていた。

「私とほむほむさんはお友達、よね? うふふふふ」

 巴マミの背後にティロ・フィナーレの巨大銃の存在を確認。

 肉片1つ残す気はないらしい。

 つまり、私に残された選択肢は正直を貫いて跡形もなく消失するか、嘘をついて生き残るかのみ。

 まどかに嘘に塗れた私を見て欲しくない。答えなど決まっていた。

「私と巴マミは昔から友達でしょう? 何を今更言っているの?」

 まどかに二度と会えなくなるなんて冗談じゃない。

 どんなに穢れようと私はまどかの隣にい続ける。それが私の魂の選択だった。

「あらあらあら。私ったらお友達を縛り付けるなんて何てはしたない真似を」

 巴マミが拘束を解いた。

 私はようやく自由になった。

「暁美ほむほむ。君は、悪魔に魂を売ってでも生き延びたいのかい?」

「悪魔に魂を売るに等しい契約を持ち掛けている分際で生意気を言うわね」

 前髪をサッと撫でる。

「それにね、悪魔に魂を売る程度で叶う望みなら私にとっては安過ぎるわ。私の望みはもっと業が深いの。だから、何だってする」

 まどかの為なら私は何だってする。どんな闇をひた走ろうと後悔なんてしない。

「ヤレヤレ。人間の私利私欲の深さには頭が下がるよ。ボクだったら、巴マミの友達なんて何百回殺されたって言えやしな……プエェテっ!?」

 淫キュベーダーはまた新しい個体に入れ替わった。

「さあ、ほむほむさん。リア充として友達同士の楽しいクリスマスを過ごしましょう♪ 大丈夫、リア充祭り開催に備えて食べるものは沢山作っておいたから。うふふふふ」

 病んだ表情の巴マミの後ろに無数のケーキや七面鳥、その他の料理が出現する。

 この女、ぼっちの癖に準備だけはこんな万端にしているなんて……。

「待って、巴マミ。私はまどかのことで聞きたいことがっ!」

「そういう込み入った話は、食事が済んでからにしましょう♪」

 最萌えで優勝したアルティメットぼっちはニッコリと笑い

「さあ、遠慮しないで召し上がってね。ゲート・オブ・マミロンっ♪」

 私に向かってその必殺の宝具を開放した。

 次々と口の中に雪崩れ込んでくる食べ物の数々に私の意識はあっという間に掠め取られていった。

 

 

 

 ゲート・オブ・マミロンの開放から3時間後、ようやく私は解放された。

「リア充って何て素敵な体験なのかしら。これはもう、私のリア充ぶりを全世界の人々に伝えるしかないじゃない!」

 そう言って巴マミはダッシュして出掛けていった。行き先をホワイトハウスと言っていたのが少し気になるが、この際無視する。

「鹿目さんの今日の予定? 最近はクリスマスの料理を作るのに夢中で鹿目さんの動向は監視カメラで入浴時の安全を見守っていただけなの。だから知らないわ」

 そして彼女がもたらしたのはどうしようもなく役に立たない情報だけだった。まどかの入浴なら私だってカメラを通して毎日見ている。

「仕方ないわね。新しい情報源を確保しないと」

 発信機を見る限り、まどかはまだ家にいる。

 でも、午後から出掛けないとも限らない。

 そして──

『恥ずかしいけど……私が、プレゼント、だよ』

 見知らぬ男に、裸にリボンを巻き付けて自分をプレゼントする可能性がない訳でもない。

 そして、そしてまどかは名前も知らない男に自らの純潔を──

「今なら、巴マミの気持ちがわかるわね」

 もしもの時は私がこの宇宙を打ち砕いて書き換えよう。そう思った。

「やはり、まず知るべきはリア充どもの行動原理よね」

 まどかのデートを潰すにはリア充の思考及び行動パターンを理解する必要がある。

 私は見滝原のリア充が集う喫茶店へと足を運んだ。

 

 『喫茶ウロブチ』。普段であれば足を踏み入れる気にもならないリア充どもの聖地。でも今日だけはまどかを守る為にこの地に足を踏み入れる!

「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」

「1人よ」

 ウエイトレスの表情がサッと変わった。

「ぼっちはその辺で勝手に立っていやがれ。こっちはクリスマスで忙しいんだよ。ペッ」

 ウエイトレスは床に向かって唾を吐いた。

 さすがはリア充の聖地。

 ぼっちだと見るや否や人間扱いしてくれない。巴マミが宇宙を滅ぼそうと思ったのもよくわかる。

 でも、私は負けない。

 私は席に案内されない利点を活かして店内の様子を伺うことにした。

 すると、店の奥側のテーブルに見知った2人がいるのを発見した。

「あれはワカメとイマジンブレーカー(幻想殺し)?」

 クラスメイトの2人に間違いなかった。

 ワカメは……本名は忘れたけれど、まどかの友人を名乗る許し難いお金持ちのお嬢さま。以前、絶望先生並に絶望してまどかと無理心中を図ろうとしたこともあるこの世全ての悪。

 イマジンブレーカーは……やっぱり本名は忘れたけれど、まどかの幼馴染であるという許し難いお金持ちのお坊ちゃま。他人の夢想を重い言葉と態度と涙でブチ殺してくれる幻想殺しの使い手。美樹さやかが熱心に惚れている相手でもある。

 この2人は付き合っているという話だったが、なるほど。リア充らしくクリスマスデートを満喫しているという訳なのね。

「仁美~っ! 恭介にくっ付き過ぎ~~っ!」

 と、店外から怨念じみた腐ったような女の声が聞こえてきた。

 振り返る。

「美樹、さやか……」

 そこには制服姿でハンカチを口で引きちぎって滝のように血の涙を流す美樹さやかの姿があった。

 この女、ワカメとイマジンブレーカーの仲を認めたようでまるで認めていない。

 血の惨劇の結末を思わせる悲壮感を漂わせている。

 まあ、リア充2匹と美樹さやかがどんなに無残な最期を遂げようと私には少しも関係がないのだけど。

 それよりもリア充からクリスマスデートに関する情報を収集しなくては。

 ワカメたちの会話に耳を傾けることにする。

 

「それで僕は言ったんだよ。だったらまず、お前のそのフザけた幻想をブチ殺すってね」

「まあ、上条くんはそげぶ大好きなのですわね」

 さすがはリア充カップル。

 私にはよくわからない単語を使って会話をしている。

「そ、それで、上条くん」

「何、仁美さん?」

 ワカメはポッと頬を赤らめた。

「その今夜なのですけども、私の父と会って頂けないでしょうか?」

「仁美さんのお父さんと?」

 このワカメ、凄いことを言い始めた。

「その、私たちの将来を考えた場合に……あの、一度父に会って頂けると嬉しいです」

 まだ中2の癖に何を血迷っているのかしら、このワカメ。

「えっと……夕方、仁美さんの家を訪ねれば良いのかな?」

 このガキもまだ義務教育の分際で何交際相手の親に挨拶する気になっているのかしら?

 バカなの?

 リア充はみんなバカなの?

 バカなのね。もう決定よ!

「いえ。父は今日、会社のパーティーで東京のホテルに滞在しています」

「えっと。でも、夜に東京に行くと帰りの交通が……」

「あの、上条くんの部屋ももう予約しているんです」

 ワカメの顔が一気に沸騰した。

「あの、勿論、私とは別々の部屋ですわよ!」

 ワカメの声が甲高くなっている。うん、何を考えているのか丸分かりだ。

「その、上条くんがどうしてもと言うのなら……わ、私は、同じ部屋に泊まっても構いませんけれど……」

 ワカメの顔が茹で上がりきっている。

「それって……」

「これ以上、私の口から言わせないでください。恭介くんの……エッチ」

 ワカメは俯いた。

 2人の間に沈黙が走る。

「仁美~~っ! このエロ女ぁ~~っ! さっさとあたしの恭介から離れろ! この腐れビッチ~~っ!」

 外野は煩いが無視する。

 とにかく一つだけわかったことがある。

 リア充はやっぱりエロいことしか考えていないということ。

 今日という日を、公認エロデーと勘違いしている。

 私は懐に忍ばせている、フラレテル・ビーイングの参加要請状をギュッと握り締めた。

 

「確かに、1年に1度ぐらい人は正義の為に生きても良いわよね」

 これまでの私はまどかを守る為だけに生きてきた。

 けれど、ワルプルギスの夜は倒したし、他の魔女も拳一つで倒せるようになった以上、まどかを守るという命題はそう大きな意味を持たなくなって来ている。

 私には新しい目標が必要だった。そして私が新たに見つけた目標。

それが、正義の執行だった。

「こんな世の中だから、正義を身をもって示すことが重要かもしれないわね」

 フラレテル・ビーイングに大義があるのかはよく知らない。ただのテロリスト集団に過ぎないのかもしれない。

 けれど、その理想が私には心地よく思えた。カップルのいないクリスマスを実現させようという彼らの理想が。

 だから私も、私のやり方で正義を追求したいと思う。

「ザ・ワールドっ!」

 魔法を発動して時を止める。

 そして【クリスマスプレゼント】を置いて優雅に店を出る。

「……そして時は動き出す」

 店から数十メートル離れた所で時止めを解除する。

 それから心の中でゆっくりと1、2、3と数を唱えた。

 そしてカウントが5まで行った所でそれは起きた。

「きゃぁあああああああぁっ!?」

 『喫茶ウロブチ』の内部で謎の大爆発が生じたのだ。

「ああぁ~っ! 恭介が大爆発に巻き込まれて黒焦げアフロヘアになっちゃったよぉ~。でも、ワイルドな恭介もス・テ・キ♪」

 美樹さやかの大声を聞いている限り、リア充の暗殺には失敗したらしい。ギャグ漫画故の補正が働いてしまったらしい。

 『魔法少女ほむほむ☆マギカ』がシリアスアニメとして全国放送されていれば、リア充を生かしておくなんて失態は犯さずに済んだのに。

 でも……。

「私の戦場は、ここだけじゃない」

 正義を成す為、そしてまどかの貞操を守る為の戦いに終わりなどある筈がなかった。

 私は次の戦場を求めて旅立った。

 

 

 

 私は正義の執行者、フラレテル・ビーイングの一員として本懐を果たしまくった。

 この見滝原の街でリア充カップルが寄りそうな飲食店、ブティック、映画館、その他遊戯施設は全て爆破して回った。

 でも、どれだけ大爆発を起こしても誰1人死なないのはこの際諦める。

 でも、デートスポットを徹底的に潰して回ればまどかと下種男のデートコースを潰すことにも繋がる。

 まどかの為と思いながら爆破を続けた。

「まどか……貴方は一体、どこにいるの?」

 発信機を途中で落としてしまい、まどかの現在地がわからない。

 携帯に電話を掛けて位置を本人に聞いてみることは可能かもしれない。

 けれど──

『今、デート中だから後にしてくれると嬉しいなあ』

 なんて屈託のない声で言われたら、私は最悪の魔女を超える最悪な存在になるしかない。

 だから私にできるのは、デートスポットにまどかがいないか確認して、いないことが判明した後に吹き飛ばすのみ。

 もう99箇所のデートスポットを吹き飛ばしたけれど、まだまどかには出会っていない。

 一体あの子はどこにいるの?

 

「よぉ、ほむほむ」

 まどパン(注:まどかのパンツの略称。ちなみに昨日穿いていたもので未洗濯のこだわりの一品)を眺めても、くんかくんかほ~むほむしてもまどかの場所に辿り着けない。

「オッス。ほむほむ」

 私のまどかへの愛情が足りないから、彼女の場所がわからないと言うの?

 私は、まどかを愛していないと神は言いたいの?

「無視すんなぁっ!」

 何か周囲が煩い。

「あん子じゃないの。どうしたの?」

 振り返るとそこには魔法少女の同業者である佐倉あん子が立っていた。

「アタシを美味しそうな名前で呼ぶな! アタシの名前は杏子だっての!」

「それで、何の用なのよ、あん子?」

「アタシの抗議はガン無視かよ」

 あん子に関わるなど今の私にとっては時間の無駄でしかない。

 さっさと用件を済ませて欲しい。

「今日はよぉ。クリスマス・イヴじゃねえか」

「そうね。クリスマスよね。貴方の所の教会も忙しいんじゃないの?」

 あん子はワルプルギスの夜戦以降、冬木市の言峰教会を手伝いながら暮らしを立てている。変な神父の下でマーボーをひたすら作る日々を送っているらしい。

「綺礼の奴は信者をマーボーで洗脳するつもりだ。あんな所にいたらアタシまで脳がマーボーに犯される」

「だから言ったでしょ。貴方は宗教に向いてないって」

 違法なドーピング薬で警察に捕まったこの子の父といい、あん子は宗教人を見る目がまるでない。

「まあ、それは良いんだ。それよりさ……」

「何?」

 あん子は頬をポッと赤らめた。

「美樹さやかの姿が見えないんだけど……どこにいるか知らないか?」

 あん子は体をやたらモジモジさせている。

「リア充乙ってやつね」

「バカぁっ! そんなんじゃ全然ねえってば!」

 あん子が両手を振り上げて怒る。

「アタシはただ、あの半人前魔法少女がちゃんと仕事しているのか気になったからここに寄ってみただけだっての!」

「ちゃんと仕事しているかも何も、この県に現れる魔女はみんな私が拳で倒しているのだから美樹さやかが変身する余地なんかないわよ」

 まどかに危害を及ぼしかねない存在は全て跡形なく滅ぼす。その為だけに私は魔女狩りを続けている。

 よくよく考えてみれば、淫キュベーダーとの契約を破った所で何のペナルティーも存在しない訳なのだけど、まどかの為なら私は地球上の全ての魔女を狩り尽くすのも問題ない。

「いや、まあ、そうなのかもしれないけどよ。まあ、先輩魔法少女としては後輩の面倒もたまには見てやらないといけないなって思ってよ」

「巴マミっていうやたら先輩ぶったのがいるのだから、貴方の指導を受ける必要はないんじゃないの?」

「うっさい! とにかくオメェはさやかの居場所を知っているのかよ!」

 あん子が吠えた。

 からかい過ぎたらしい。

 

「美樹さやかならきっと病院にいる筈よ」

「病院だとぉ~~~~っ!?」

 あん子が更に大きな声で吠えた。

「さやかは一体どこが悪いんだっ!? 不治の病なのかっ!? 不治の病なんだなっ!?」

「落ち着きなさいよ」

 あん子が服ごと私の首を締め上げて来る。美樹さやかのこととなると目の色変えてムキになる所は以前と少しも変わってない。

「美樹さやかは魔法少女で、しかも治癒能力に特化した存在よ。病気になんかなる訳がないでしょ」

 溜め息を吐く。

「じゃあ、まさか……」

 あん子は突然頭を抱えた。

「それじゃあまさか、さやかは産婦人科に行ったんだなあ~~っ!」

「えっ?」

 あん子の思考のぶっ飛び具合に呆れるしかない。

「父親は一体誰なんだぁ~~っ!? 誰であろうとぶっ殺してやる~~っ!」

「ちょっとこんな所で変身しないで頂戴。コスプレ仲間だと思われたら私が迷惑だから」

 今にも槍でその辺の男たちを串刺しにしそうなあん子を止める。

「けどよっ、けどよ~っ! アタシのさやかが男に汚されたなんて……そんなことが許されて溜まるかってんだよぉ。ち、ち、畜生……っ!!」

 今度は急に私の胸の中で泣き始めた。

 ほんと、喜怒哀楽が激しい子だ。

「産婦人科だなんて私は一言も言ってないわよ」

「じゃあ、何で病院に行ったんだよ?」

「怪我人の付き添いよ」

 美樹さやかはイマジンブレーカーに付き添って病院に行っているに違いなかった。ポイント稼ぎの為に。もう彼女がいる男に対して無駄な行動でしかないにも関わらず。

 というか、黒焦げアフロになっただけなのだから検査しても何の異常もみつからないだろう。黒焦げアフロというのはそういう症状だ。

「それじゃあ、さやかは男に汚されてないんだな!?」

「ええ。そうよ」

 美樹さやかが思い余ってイマジンブレーカーを拉致監禁して逆レイプとかしなければね。

「そっかそっかそっかぁ~~♪」

 急に顔を崩して涎を垂らし始めた。

「考えてみればさやかが男にモテる訳ないもんな~♪ 何たって、安定のさやかだもんな~♪」

「貴方、何気に酷いことを言っているわよ」

 この子、本当に美樹さやかのことが好きなのかしら?

「まあ、とにかく何だ。せっかく見滝原まで来た訳だし、ちょっくら病院までさやかの顔を拝みに行ってくらぁ~」

 あん子は楽しそうにそう述べた。

「自分から会いに行くの?」

「当ったりめぇじゃねえか。自分からガンガン動かねえと、後悔する羽目になるだろ?」

「動いても後悔する羽目に陥る時はあるわよ?」

「後悔の質が違うだろ。全力を尽くして届かなかった後悔と、全力さえも尽くせなかった不完全燃焼の後悔じゃ。アタシはもう、後者の後悔はしたくないんだよ」

 あん子は切なげな表情を一瞬してみせた。

「そう……」

 言葉が上手く繋げられない。

 けれど、あん子の言葉は私の胸の奥深くにまで入り込んでいった。

「それじゃあアタシは病院にちょっくら顔を出してくる」

「じゃあ私は貴方の武運を祈ることにするわ」

「武運、ね。まあその言い方は間違いでもねえな」

 あん子は私に背を向けるとゆっくりと手を左右に振った。

 彼女はそのまま雑踏の中へと消えていった。

「変身を解いてから行きなさいよね。フッ」

 柄にもなく、彼女の勝利を祈ってみた。

 

 

 

 午後6時、私は鹿目家の玄関前に立っていた。

 アポイントを取っている訳じゃない。

 まどかに何か事前に喋っていた訳じゃない。

 それどころか今現在まどかがこの家にいるのかもわからない。

 けれども私は来てしまった。

 まどかに会いたかったから。

 ただ、それだけの思いで。

「まどか……会ってくれるかしら」

 緊張しながら呼び鈴を鳴らす。

 それから待つこと10数秒。とたとたを駆けて来る可愛らしい足音が聞こえてきた。

 そして扉は唐突に開かれた。

「わ~ほむほむちゃん。来てくれたんだぁ~♪」

 扉を開けたのは私の探し人にして想い人である鹿目まどか本人だった。

「まど、か……」

 彼女の顔を見た瞬間、グっと喉の奥から得も知れぬ熱いものが込み上げてきた。

「あの、まどか、突然来ちゃったけど迷惑じゃなかった?」

 そして気づく。私は何て礼儀のない行動をとっているのだろうと。

 でも、そんな無礼な私に対してまどかはニッコリと笑って微笑んでくれた。

「そんなことないよ。ほむほむちゃんが来てくれてとっても嬉しいよ♪」

 そう言ってまどかは私の手を引いて家の中へと引き入れてくれた。

 

「あの、今日は家族でクリスマスを過ごす予定だったんじゃないの? 良いの、私なんかを引き入れて?」

 鹿目家のリビングにはまどかのお手製と思われる可愛らしい飾り付けがしてあった。

 クリスマスツリーにぬいぐるみを括りつけている所などは如何にもまどからしい可愛さを感じる。

「いいんだよ。本当はお友達を沢山誘おうと思ったのだけど、みんな予定が入っているんだろうなと思ったら、悪いかなって思って誰も誘えなくなっちゃって……」

 まどかは俯きながら少し寂しそうな表情を見せた。

「ほむほむちゃんこそ、ここに来て良かったの?」

 まどかが上目遣いに私を見た。

「あの、何のこと?」

「だって、ほむほむちゃん。男の子からデートのお誘いとか受けてたんじゃないの?」

「ホワッ?」

 素っ頓狂な声を上げてしまった。一体まどかは何を言っているの?

「だって、ほむほむちゃん。男子から一番人気の女の子なんだもん。今日はもう格好良い男の子とデートに決まっているんだろうなあって思って……」

「私にはまどか以外必要ないわっ!」

 言いながらまどかの手を握る。

 まどかはとんでもない勘違いをしている。私がまどか以外の存在に、ましてや男などに気を惹かれるものか。

 大体、私は自分の学校の男子生徒の名前を1人も記憶していない。何十回とループしたのに関わらずだ。そんな状況なのにデートなど引き受けるものか。

「まどかの方こそ、デートの誘いが沢山あったんじゃないの?」

「そ、そんな誘いなんか全然ないよ~っ」

 まどかは顔を真っ赤にした。

「本当に?」

「本当だよ~っ! だって、私、背小さいし、子供体型だし、おバカだし。誘ってくれる男の子なんていないよ~っ!」

「…………そこが良いのに」

 どうやら見滝原の男たちは女を見る目がまるでない屑の集まりらしい。

 もっとも、まどかに近付こうとした少数の見る目のある男たちはティロ・フィナーレとザ・ワールドで例外なく黒焦げアフロになって二度と彼女に近付けなくなったが。

「だからだからね、ほむほむちゃんが来てくれてとっても嬉しいんだよ♪」

「私も、とても嬉しいわ」

 まどかの背中に手を回し優しく抱きしめる。

 私は今、幸せを実感している。

「あっ、今お料理の途中だったんだ。ほむほむちゃん、ちょっとテレビでも見ながら待っていてね」

「あっ」

 私の体から離れたまどかがテレビのスイッチを入れる。

 料理なんかどうでも良いから私と抱き合っていて欲しかったのに……。

 けれど、まどかの行動を邪魔するなど私には出来ない。

 おとなしくまどかに言われた通りにテレビと向き合う。

 画面の中ではニュースが流れていた。

 

『こちら、99件の爆破事件が起きた見滝原の映像です。ご覧の通り街中の至る所から煙が吹き上げています。現在までの報告の所、死者はいないとの話ですが負傷者は多数出ているとのことです』

『群馬県警では見滝原で起きた一連の事件を武力介入組織フラレテル・ビーイングとの関連から捜査を進めると発表がありました。フラレテル・ビーイングは本日、日本全国で同時多発テロを引き起こしており、多くの犠牲者が出ています』

 

 実に面倒なニュースが流れていた。

「ほむほむちゃん。この街でテロ事件だって。怖いよ~~っ!」

 まどかが泣きながら抱きついてきた。

「大丈夫よ、まどか」

 まどかを力強く抱きしめる。

「まどかは私が守るから。テロなんか心配しなくて良いわ」

「ほむほむちゃん……」

 私を信頼の眼差しを向けるまどか。

 心配しなくてもテロ事件の犯人はここにいるのだから、まどかがテロに狙われることなどありえない。

 そして私は証拠を残すようなヘマはしていない。ザ・ワールドはカメラでも捉えられないのだし、私が爆発物を仕掛けたという証拠は提出できるわけがない。

 

『見滝原連続テロ事件の続報です。本日、17時頃、見滝原総合病院で検査中だった上条京介くんが槍でお尻を刺され、オー・エクスタシ~♪とうっとり叫ぶ事件が発生しました』

『犯人は中学生ほどの年齢の少女で、被害者に対してお前さえ生きていなければさやかはアタシのもんになるんだぁ~っ!と叫んで逃走したそうです。県警はこの事件とフラレテル・ビーイングの関連性を調査中です』

 

 あん子……貴方、何をやっているの?

「ほむほむちゃん。今の事件の犯人ってもしかして杏……」

「まどかは私が守り抜くから大丈夫よっ!」

 まどかを強く強く抱きしめる。

 ついでにまどかの髪の匂いもくんかくんかほ~むほむする。

 

『次のニュースです。ただ今入った外伝に拠りますと、ホワイトハウスが黄色い服を着た少女のテロリストに占拠されたそうです。犯人は声明を発表し、“私はぼっちじゃない。リア充なのよ”と日本語で繰り返しているそうです』

 

 巴マミ……貴方も一体、何をやっているの?

「ほむほむちゃん。このぼっちじゃない宣言ってもしかして……」

「まどかは何も知らなくて良いのよっ!」

 まどかをきつくきつく抱きしめる。

 まどかはこれまでの世界で散々辛い目に遭ってきた。

 だから、生き延びたこの世界ではせめて幸せな体験だけをして欲しい。

「ほむほむちゃんが言うのなら、私はさっきのニュースを見なかったことにするね」

 まどかはテレビのスイッチを切った。

 

「じゃあ私、作りかけのお料理に戻るね♪」

「私にも手伝わせて頂戴」

 まどかは一瞬、キョトンとした顔を見せた。

 そして次いで首を大きく縦に頷いてみせた。

「うん。一緒に作ろうか♪」

「まどかに私の料理の腕をみせてあげるわよ」

 まどかと手を繋ぎながら台所へと入っていく。

 こんな幸せな日が訪れるなんて思っていなかった。

 まどかを救うことだけが私の存在意義の全てだと思ってた。

 でも、今は、彼女と一緒にいられることがこんなにも楽しい。嬉しい。

 今日は、世界中のみんなに幸せになって欲しい。

 そう思える日。

 こんな日にテロを起こすなんて本当に下らない。

 まどかと繋いだこの手の暖かさに比べれば、爆弾なんて何の意味もない。

 まどかと一緒のこの時の感動に比べれば、バカップル爆発なんて何の意味もない。

 それを教えてくれたのはまどかだった。

 まどかはいつだって私に一番大切なことを教えてくれる。

「そうそう、言い忘れていたけれど」

「何?」

「メリークリスマスだよ、ほむほむちゃん♪」

「……そうね。メリークリスマスだわ、まどか」

 この子の笑顔を一生守ろう。

 私はこの日、新しい目標を立てた。

 生涯を通して守り通したいと思う新たな誓いを。

 

 

 Merry Christmas

 

 

 

 

 


 
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