No.209189

アタシとエイプリルフールと最強の敵封じ込め作戦

バカテスOVAの下巻を見た感想……拙作のあの構図がアニメでオフィシャル化してしまうとは……。何のことだかは実際に見て確かめてください。
作品の方はエイプリルフールねたです。騙し騙され最後に勝利するのは誰なのか? 優子VS真のラスボスのある種完結編です。
なおこの作品掲載後は諸事情によりpixiv掲載作品の転載期間に入ります。
1ヵ月後には連載でもぼちぼち始められたらなと思います。

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2011-04-01 00:19:41 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:5946   閲覧ユーザー数:5383

アタシとエイプリルフールと最強の敵封じ込め作戦

 

 

 

バカテスト 生活アンケート

 

【第?問】

 

問 以下の質問に答えなさい

『あなたが春休みの生活を送る上で気を付けている点を自由に述べてください』

 

 

姫路瑞希の答え

『早寝早起きをして規則正しい生活を心がける。毎日健康に明久くんを監視する為に』

 

教師のコメント

 吉井くんは遅寝遅起きな人でしょうから、早寝早起きでは吉井くんの動向を掴むのは難しいでしょうね

 

 

島田美波の答え

『遅寝遅起きをして睡眠時間の確保に努める。毎日健康に妹を監視する為に』

 

教師のコメント

 葉月さんは早寝早起きな人でしょうから、遅寝遅起きでは葉月さんの動向を掴むのは難しいでしょうね

 

 

木下優子の答え

『毎日弟を折ることを心がける。毎日健康に弟を監視する為に』

 

教師のコメント

 最近の木下さんには骨を折れば木下くんが動けなくなるという安易な発想に基づく過信が見られます。木下くんの超回復を甘く見ていると出し抜かれてしまいますよ

 

 

霧島翔子の答え

『雄二をペットにしてうちで飼う。監視にもなる』

 

教師のコメント

 坂本くんの人間としての尊厳さえ無視すれば合理的な選択ですね

 

 

吉井明久の答え

『気が付いたら何も成し遂げていないのに春休みが終わっていたという毎年の後悔を今年こそは繰り返さないようにする』

 

教師のコメント

 無理です

 

 

坂本雄二の答え

『翔子のいない生活』

 

教師のコメント

 無理です

 

 

工藤愛子の答え

『誰にも邪魔されないでムッツリーニくんとの仲を進展させる』

 

教師のコメント

 無理です

 

 

島田葉月の答え

『財テク』

 

教師のコメント

 何かの伏線でしょうか?

 

 

 

 3月末日。

 アタシたちは毎週恒例となってきた女性FFF団の集会を放課後のF組で開いていた。

「それでは女性FFF団定例集会を始めるわよっ!」

「「イッエィ~♪」」

「……ドンドンドン。パフパフ」

 メインヒロイン的ポジションから驚き役にジョブチェンジした姫路さん、島田さんが集会の開始を盛り上げてくれる。

 代表も表情は変わらないけれど、声に出して反応してくれる辺り楽しんでいるようだ。

 さて、みんなの気分も乗っていることだし、さっさと本題を切り出しましょうか。

「いよいよ、明日から4月、新年度よ。アタシたちもいよいよ2年生になるのだから気を引き締めないといけないわ!」

 春休みが終わればアタシたちも遂に2年生になる。新年度に向けた自覚を持たないと。

「あれっ? 私たち、今2年生じゃなかったでしたっけっ!?」

「もしかしてウチら……全員留年したのっ!?」

 フッ。さっそく驚き役が仰け反りながらいい狼狽振りを見せてくれているわ。さすがね。

「……この手の物語のお約束」

 そして代表、ナイスな解説よ。

 この世界の時間の流れがどうなっているのかは知らない。けれど、とにかくアタシたちは1週間後には新2年生になる。それだけは事実。

「でも、その前にアタシたちには大きなイベントが待っているわ」

 そう、2年生最後の大イベントが。

「そのイベントとは一体何なのですかぁっ!?」

「もったいぶらずにさっさと教えなさいよっ!」

 姫路さんと島田さんが実に生き生きとした表情で尋ねて来る。彼女たちは新しいポジションにすっかり馴染んでいる。ほんと、2人は良い表情をするようになった。吉井くんの気持ちがわからないと嘆いてばかりいたあの頃とはまるで違う。

 そんな輝いている2人にアタシも負けるわけにはいかない。

「そのイベントとはずばり…………エイプリル・フールよっ!」

「「何ですってぇ~~っ!?」」

 ほんと、輝いてるなぁ2人とも。

「吉井くんの奇行にいつも驚かされているアタシたちが1年に1度だけ、驚かし返すことが全国的に認められる日なのよ!」

「「お~っ」」

 大げさに身体を仰け反らせて驚く2人のリアクションは既にダチョウな倶楽部に達している。プロの領域だ。

「そして、吉井くんにアタシたちの存在を深く印象付けて一気に彼女の座をゲットするのよっ!」

「「おぉ~っ!」」

 アタシたちは何故吉井くんの彼女になれていないのか。その原因を考えてみた。

 アタシたちに足りないもの。それはアピール。

 エイプリル・フールはバレンタインやクリスマスに比べて恋人同士の行事というニュアンスは弱い。けれど、この全国的イベントを活かさない点はない。

「吉井くんにアタシたちの存在を刻み付けた後に誰が恋人に選ばれても恨みっこなしよ」

「「勿論ッ!」」

 姫路さんは包丁を、島田さんはロープを手に持ちながら元気良く返事してくれる。アタシも鈍器を持ちながらこれに答える。一瞬でも気を抜けば命はない三竦み状態。うん、息の合った友情って本当に素敵♪

「……吉井を騙しても私は面白くない」

 でも、代表だけは浮かない顔をしていた。確かに坂本君のこと以外に関心がない代表には単純に吉井くんを騙そうといっても面白くないだろう。

「確かに吉井くんを騙しても代表にも直接的な利益はないように見えるかもしれない。だけど考えてみてよ」

「……何を?」

 代表がアタシをジッと見ている。

「だって、吉井くんを上手く騙して坂本くんと完璧に別れさせれば、坂本くんは代表だけのものよ」

「…………っ!」

 代表が大きく目を見開いた。

「……私、やる」

 鼻息荒く語る代表。鼻息だけで宙へと舞い上がりそうだ。

 代表にとっての最大の敵は吉井くんなのだからやる気が出るのも当然だろう。

 

「さて、騙すからにはとことんやるわよ」

 3人が正座してアタシに注目する。

「いい、アタシたちの目標は吉井くん。これは良いわね?」

 3人が首を縦に振る。

「アタシたちの目的は吉井くんを派手に騙してアタシたちに関心を、できれば好意を持たせる。そして吉井くんと坂本くんを別れさせる。以上の2点よ」

 3人が再び首を縦に振る。

「そして問題は大きく分けて2つ。1つは吉井くんにどんな嘘をつくかという問題。もう1つは……」

 アタシは後ろを振り返る。

 するとそこには黒板のすぐ脇には手足を縛られ磔にされたラスボス愚弟の姿があった。

「ライバルたちの行動をどう封じるかという点よ」

 弟をキツイ視線で睨みつける。

「何故ワシは縛り付けられておるのじゃぁっ!」

 弟は磔を抜け出そうと必死にもがく。

 苦しみながらも必死に抗うその表情。色っぽすぎて吉井くんにはとても見せられない。

 まったく、罪の上に罪を重ねるなんて。

「異端審問会を始めるわよ、姫路さん、島田さん」

「「了解っ!」」

 姫路さんと島田さんが全身黒尽くめ装束を着て鎌を構える。

「被告木下秀吉は一昨日の3月29日、吉井明久及び坂本雄二との両手に花デートを楽しんでいた。事実に相違ないわね?」

「「相違ありません!」」

「……吉井だけじゃ飽き足らずに雄二にまで手を出すなんて許さない!」

 我が弟ながら破廉恥すぎて恥ずかしい。男なら誰でも良いのかしら? まさにケダモノ。Qべぇよ。

「ちょっと待つのじゃ! 一昨日ワシは明久と雄二と3人でスケートに行っただけじゃ! 両手に花デートなどというけったいなものではないぞ」

 弟が必死に弁明する。もう証拠は挙がっているというのに。

「木下くんは明久くんの手を何度も握っていたじゃないですか!」

「木下は坂本の腰にもしがみついていたじゃない!」

 姫路さんと島田さんが追跡調査の末に得た結果を写真つきで見せる。

「あれはワシがスケート初心者だったから2人にレクチャーしてもらっていただけじゃ!」

 だけど秀吉は頑として譲らない。下卑た欲望を認めようとしない。Qべぇのくせに。

「……雄二を押し倒していた」

「あれは滑り出したら止まらなかったので雄二にぶつかって倒れてしまっただけじゃ」

「……でも、木下の手が雄二のお尻に触っていた」

「ワシは明久一筋じゃっ! 確かに雄二の尻はよく引き締まっておって触り心地が良いが、そんなもの愛とは関係ないのじゃっ!」

 姫路さんと島田さんと顔を見合わせながら同時に頷く。

「吉井明久くんとの不純交遊を確認。判決、死刑」

 弟に有罪判決を下さないといけないのはつらい。

「FFF団以上に理不尽じゃぁ~っ! ……うっ!?」

「……雄二のお尻の感触を楽しんで良いのは私だけ」

 騒ぐ秀吉に代表が注射を打って大人しくさせる。注射の中にはこげ茶色の水溶液。あれって、私が差し入れたクッキーを水で溶かしたものじゃないだろうか?

 まあ、どんな溶液を使おうが結果は同じだから関係ないけど。

「ラスボスはこのように一人で抜け駆けする癖を持っている。けれど、対処するのはそう難しくないわ」

 そう。問題なのはラスボスじゃない。

「アタシたちの最大の問題は、真のラスボスをどう出し抜くかということよ」

 アタシの脳裏にツインテールの髪型をした幼い少女のシルエットが浮かび上がる。

 敵はあまりにも強大。戦闘力は多分53万ある。多分3回は変身する。でも、やらないといけない。

「島田さん、妹さんは春休みに入ってからどうしているの?」

「毎日の様に遊びに出掛けているのだけど、追跡していると途中で見失っちゃって、どこに行っているのかはよくわからないのよ」

 島田さんは首を横に振ってみせた。

「姫路さん、妹さんが吉井くんの家に出入りしている形跡は?」

「それが、よくわからないんです。吉井くんの家には毎日の様に人の出入りがあるのは確かなのですが、坂本くんみたいな背の大きい人じゃないと地上からの観察だとマンションの柵に阻まれてよく見えないんです」

「つまり、妹さんの動きは白とも黒とも言えないわけね」

 相手はストーキングのプロの尾行を易々かわしている。

「それで島田さん。妹さんの明日の予定はどうなっているか知らない?」

「特に聞いてないわ」

 真のラスボスの行動は予測不能。

 だったら……

「明日の作戦を伝えるわよっ!」

 積極的に先手を打つ。

 それが勝利の鍵。

 作戦会議は夜遅くまで続いた。

 

 

 

「わあ~。キリンさんの首、長いのですぅ~♪」

「葉月ちゃん、ゾウさんの鼻も長いですよ」

「葉月、そんなにはしゃぐと危ないわよ」

 エイプリル・フール当日。

 アタシと姫路さんと島田さんは妹さんを連れて動物園へと来ていた。

 これこそがアタシの考えた作戦。

 1日中連れ回してしまえば妹さんが吉井くんに接近するのは不可能になる。つまり、妹さんはエイプリルフールを通じて吉井くんとの仲を深めることが不可能になる。

 単純ではあるけれど、最も効果的な作戦ではないかとアタシは考える。

 

 ちなみに吉井くんの動向は愚弟に探らせて携帯メールを通じて逐一報告させている。吉井くんが如何なる女の子とも男の子とも接触しないように手を回す。これがアタシたちの吉井くんに対するエイプリル工作。本人は知らぬ間に騙されているという話となる。

 そして代表にはその秀吉を見張ってもらっている。少しでもおかしな素振りを見せたり、裏切るような真似をしたらアタシが予め渡しておいた自爆スイッチを押すようにお願いしてある。

 昨夜3人で襲撃し、目隠しして両手を縛って首輪と鎖を付けた坂本くんを進呈したら代表は快く応じてくれた。

 きっと今も坂本くんの鎖を握りながら満面の笑みを浮かべているに違いない。

 いいなあ、代表。

 アタシも吉井くんに首輪を嵌めて鎖を引っ張って連れ回したい。

 どうしても吉井くんが望むなら、アタシが首輪を嵌めて引っ張り回されても良い。

 …………もぉ、吉井くんのエッチ♪

 とにかく、そんな近未来を実現すべく最強の敵の行動を封じ、想い人が誰か他の女や男に近づくのも同時に封じる。

 それが本日の作戦の内容だった。

 

「だけど動物園なんて来たのは何年ぶりかしら?」

 小学校3、4年を最後に動物園に来た記憶はない。

 ケモミミの可愛い少年少女は大好きだけど、動物自体はそんなに好きじゃない。

 だけど、数年ぶりにこういう場所に来てみると子供の時とは違ったものが見えてくるので面白い。

 例えば動物園に来ている人。

 子供の頃は動物ばかり見ていたけれど、今は動物園に来ている人を見る視野がある。

 子供と家族連ればかりだと思っていたけれど、意外とそうじゃない。

 デートを楽しんでいるカップルも結構いる。

 動物園は場所によっては結構臭いがきつく、柵ばかりが目立ち神秘的な世界が演出されている訳でもない。なので水族館に比べてデートスポットとしては確かに魅力に欠ける。

 だけど水族館よりお金が掛からないし、動物の方が魚よりも話が弾み易い。お気軽という点を考慮するなら動物園というのは意外と侮れないスポットかもしれない。

 まあ、初デートでいきなり動物園に連れて来るような彼氏だったら色々と考えてしまうかもしれないけれど。

「あの、ムッツリーニくん。今日は動物園に誘ってくれてありがとう、ね。ムッツリーニくんから誘ってくれるなんて初めてだから、ボク、ちょっと緊張しちゃてるよ」

「…………別に礼を言われる覚えはない。緊張する必要もない」

 孔雀の檻の前にどこかで見たことがあるようなリア充どもがいた。

 仮称Aさんは仮称Tくんに誘われて嬉しいのかかなり舞い上がっている。

「その、ムッツリーニくん。動物園に行くのにボクだけを誘ってくれたのって……これってもしかしてデー……」

 Aさんが期待を込めた瞳でTくんを見る。学校では全く見せない恋する乙女な表情。

「…………知り合いからここのチケットをもらい、一緒に行く相手を探していたら偶然お前がいた。それだけだ」

 Tくんは照れているのかAさんに素っ気無い。でも、Aさんは負けない。

「偶然でも、ボクは嬉しいよ」

「…………ただの気まぐれに喜ぶな」

 今にも爆発しそうな空気を漂わせている2人。

 でも、アタシも鬼じゃない。それに妹さんの相手をしなくてはならないことだし、今日ぐらいは見逃してあげようかな。フッ、アタシも丸くなったものね。

「よしっ♪ FFF団のみんなに緊急連絡網メール送信完了です♪」

「須川。裏切り者は孔雀の檻の前よ。5秒で来なさいよ!」

 だけど驚き役の対応は早かった。

 そしてFFF団の対応はもっと早かった。

 2人が情報を伝達してから10秒も経たない内に黒尽くめ装束の一群がアタシたちの前を駆け抜けていった。そして──

「ああっ! ムッツリーニくんを連れて行かないでよぉ~っ!」

「…………すまない。俺は生きて帰れそうにない」

「ムッツリーニく~~んっ!」

 Tくんは縄でグルグル巻きに縛られ、黒尽くめの男たちに担がれてどこかに消えてしまった。AさんはTくんが連れて行かれるのを声を上げて見ているしかなかった。

「FFF団の鉄の掟がまた一つ悲劇を生んでしまいました♪」

「まったく、春休み中にちょっとデートしたぐらいで死刑判決だなんてFFF団は鬼の集まりね♪」

 そしてやたらツヤツヤした表情でAさんを見ながらFFF団の非道を糾弾する姫路さんと島田さんの姿があった。

 驚き役の2人は明らかにポテンシャルが上がっている。メインヒロイン指数以外の何かの能力が。

 FFF団のリーダーが須川くんから彼女たちに移る日も近いかもしれない。

「わぁ~コウノトリさんなのですぅ~♪」

 そして妹さんは惨劇に気付かずに無邪気に動物を見て回っている。

「お姉ちゃんたちは知っているですか? 赤ちゃんはコウノトリさんが運んでくれるのですよ」

 この無邪気さはF組に関わりすぎたアタシにとって清涼剤となっている。

「葉月はバカなお兄ちゃんの子供が欲しいのでコウノトリさんにお願いしてみるのです♪」

 清涼剤じゃなくて劇薬だった。致死性十分の。

「姫路さん、島田さん。フォーメーションDAよ。妹さんがアタシたちを出し抜いて吉井くんに近づかないように注意しましょう」

「ディーフェンス ディーフェンスのDですよね」

「諦めたらそこで試合終了のAだったわよね」

 2人は妹さんに向かって走って近づいていくと、ヒーローショーの下っ端戦闘員のように妹さんを囲んでグルグル回り出した。

「わぁ~。ヒーローショーの始まりなのですか?」

「ふっふっふぅ。世の中には正義のヒーローなんていないんですよ、葉月ちゃん」

「そうよ。葉月は大人しくウチらに捕まっていれば良いのよ」

「葉月は楽しいのですぅ~♪」

 輝き過ぎている2人を止める術をアタシは知らない。

 けれど、足止めとしては十分に役に立っている。

 妹さんは2人に任せてアタシは携帯を取り出して秀吉に電話してみる。

「直接電話とは、どうしたのじゃ姉上?」

「ちょっと電話する余裕ができただけよ。それより、そっちの様子はどうなの?」

 ちなみに余裕を作ってくれた2人は、怪人として周囲の子供たちからも大人気になっている。正義のヒーローというか動物園の係員が来なければ良いけれど。

「明久はずっと寝ておるようじゃな。カーテンも閉まりっ放しじゃ」

「寝ている? 留守って可能性も考えられるんじゃ?」

 真のラスボスの様子を覗き見る。妹さんは驚き役2人の怪人ショーを見ながら無邪気に笑っている。

 でもあの子のことだから吉井くんをどこか他の場所に呼び出しておいてアタシたちを出し抜いて会いに行くということも考えられる。

「いや、家の中にいるのは確かじゃ。ワシも姉上と同じことが気になって、宅配業者を装って明久の家のインターホンを押してみた。すると明久は寝巻きのまま玄関まで出て来た。その後、家の外には出ておらぬし、寝っ放しと考えるのが妥当じゃろう」

「ふ~ん。また徹夜でゲームでもやっていたのかしら? でも、1日中寝ていてくれるなら好都合だわ」

 吉井くんが寝ている限り、誰かと接触することもなく、誰かに騙されてドッキリイベントが起きることもない。

「じゃあ、引き続き監視を続けなさい。6時には妹さんが島田さんと家に帰るから」

「わかったのじゃ」

 秀吉との電話を切る。

 そして代わりに代表に電話を掛けてみる。

「……何?」

「さっき秀吉が話していたことは本当?」

 秀吉の服には盗聴器が仕掛けられており、その一言一句は全て代表の耳に入っている。

「……うん。本当」

 これで秀吉の言っていた言葉に確証が持てた。

 秀吉はちゃんと監視の仕事をこなしている。偉い偉い。

 じゃあ、後伝えないといけないのは……

「6時になったら、代表に預けた自爆ボタンのスイッチを押してくれないかしら?」

「……でも」

 6時になったらアタシたちを裏切るに違いない弟の処分だけ。

「6時になったら、坂本くんと自由にデートしに行って頂戴とアタシは言っているのよ。もぉ~代表ったら恥ずかしいこと言わせないでよ」

「……うん。わかった」

 文月学園には自分の願望に忠実な恋する乙女が多い。

 これで後顧の憂いはなくなった。

「それじゃあ代表は坂本くんとのデートを楽しんでね」

「……うん。せっかく首輪と鎖があるのだから、四つん這いになった雄二と街中をゆっくり散歩することにする」

「ちょっと待て、翔子っ! それはどんな羞恥プレイだぁっ!」

 電話口に坂本くんの声が聞こえる。

 どうやら代表は坂本くんの口に嵌めていたギャグを外してあげていたらしい。優しいわね、代表。

「……大丈夫。雄二は全裸で歩くから、みんなペッドの犬だと思うはず」

「俺が明日からこの街に住めなくなるだろうがぁっ!」

 坂本くんが絶叫してうるさいので携帯を切る。代表もすぐに彼を静かにさせるだろう。注射で。

「さて、心配事もなくなったことだし、アタシは妹さんとの遊びに戻るとしようかしら」

 絶好調の盛りあがりを見せる姫路さんと島田さんの怪人ショー。

「待ちなさいっ! 世の中に、悪の栄えたためしはないのよっ!」

 その輪の中にアタシは口上を述べながら勇ましく飛び込んでいった。

 

 

 

「今日は1日とても楽しかったのです。遊んでくれてありがとうなのです、お姉ちゃんたちなのです♪」

 午後6時、4人で島田さんの家を目指してゆっくりと歩く。

 思った以上に帰るのが遅くなってしまった。

 でも、久しぶりの動物園は思ったよりも楽しかった。

 まあ、最後の方は動物園の係員の人に追い掛けられたりと大変だったりもしたけれど。

「おかげで今日4月2日を楽しく過ごせたのです♪」

 満面の笑みで語る妹さん。

 だけど……

「今日は4月1日よ、葉月ったら」

 妹さんは日付を間違えていた。

「えっ? 昨日が4月1日ではなかったのですか?」

 妹さんがとても驚いた表情を浮かべている。

「葉月は3月が30日までしかないと勘違いしていたです。それでバカなお兄ちゃんにも伝えて2人でそう思ってしまったのです」

 何故だろう?

 とても嫌な予感がする。

 アタシたちは今日という日が始まる前に既に負けていた。そんな大逆転劇を予感させる悪寒が全身を走る。

「だから葉月は昨日、葉月のお部屋でバカなお兄ちゃんと2人でエイプリルフールを楽しんだのです♪」

 あれっ? 気が付くといつものパターンに陥ってない?

「はっ、葉月ちゃん! 明久くんとエイプリルフールしちゃったんですかっ!?」

「い、妹のくせに姉より早くエイプリルフールを楽しむなんてダメじゃないの」

 驚き役が本気で狼狽している。

 アタシは日が落ちかかっている空を見上げる。

「後はもう、どこまで負けるのかの勝負よね」

 今回もこの子に勝てなかったのは明白だ。後は被害をどこまで食い止められるか。

 だけど、アタシたちと1日中一緒に遊んでいたくらいだから相当大きな被害だろうなあとは予想する。

「葉月はまだ子供だから結婚できないのは知ってます。でも、エイプリルフールには嘘をついても良いからバカなお兄ちゃんに結婚してくださいと頼んだのです」

 ほらっ、来た。

「プ、プロポーズしたのですかぁっ!?」

「アキは何て答えたのよっ!?」

 こんな時でも驚き役に徹せられる2人のプロ根性が羨ましい。流石は元メインヒロイン格だっただけはある。

「バカなお兄ちゃんもエイプリルフールだから結婚を快諾してくれましたです♪」

「「何ですって~っ!?」」

 だけどプロポーズを受け入れてもらえたのに妹さんの顔は暗い。一体何故?

「でも、昨日がエイプリルフールじゃなかったとすると、葉月たちは嘘をついてしまったことになるのです。嘘つきは死刑だってよくお姉ちゃんが言っているのです。死ぬのは怖いのです~!」

 妹さんは島田さんを見ながら震え出した。

 島田さん、妹や弟に怖がられるような存在になっては人としてダメだと思うわよ。

「そしてお姉ちゃんのことを大好きなお姉ちゃんからたまたま貸してもらった盗聴器にたまたまその時の会話が記録されてしまったのです」

「ウチのことを大好きなお姉ちゃんって……まさか、美春? あの娘、余計なことをしてくれて!」

 憤る島田さんを他所に妹さんはMP3を取り出した。

「これがその声のデータなのです」

 妹さんは音楽プレイヤーの再生ボタンを押した。

 

 

『バカなお兄ちゃんっ、大好きなのです。葉月と結婚して欲しいのです♪』

『僕も大好きだよ、葉月ちゃん。今すぐ僕と結婚しよう♪』

 

『わ~い。葉月今日は夜もバカなお兄ちゃんといっぱいいっぱい遊ぶのです~♪』

『どれどれ。僕の華麗な大人のテクニックをたっぷりと披露してあげるよ、葉月ちゃん』

 

 

「……あのぉ、後半の会話は何?」

 音声データが再生し終わってから1分。アタシはようやく声を絞り出した。

「昨日はお父さんもお母さんも出掛けていて、お姉ちゃんも学校から帰って来るのが遅かったのです。だから、お姉ちゃんが戻って来るまで葉月はお部屋でバカなお兄ちゃんといっぱいゲームして遊んでいたのですぅ」

 状況はわかった。吉井くんと妹さんがゲームで遊んでいたのも納得する。だけど……。

「ウチ、アキが遊びに来ていたなんて聞いてないんだけど……」

「お姉ちゃんに動物園に行こうってお話をされてすっかり忘れてしまっていたのです」

 いや、そこも重要な話かもしれない。けれど、もっと重要な点がある。

「どうして、あの2つのやり取りだけ記録されていたのでしょうか?」

「葉月はゲーム以外の機械の操作は苦手なのであの部分だけ残ってしまったのです」

 姫路さんはだいぶいい線をついた。でも、もっと大事なことがある。

 もうもったいぶらずに訊いてみる。

「ねえ、その音声データのコピーは他にどこにあるの?」

 妹さんはアタシの顔をジッと見た。

「お姉ちゃんがいつも利用しているインターネット上の倉庫なのですよ。パソコンにデータを残すとお姉ちゃんに怒られてしまうのです」

 妹さんの言葉を聞いてから空を見上げる。

「完敗、ね……」

 他に言葉が出なかった。

 孔明の罠に落ちたのだ、アタシたちは。

「ウチが利用しているインターネット上の倉庫ってどこのことよ?」

「そうです。早く教えてくださいよぉ」

 驚き役の2人は戦いに敗北してもまだ己の役割を全うしようとしている。素晴らしいプロフェッショナリズム。

 でも、その行為は同時に傷口を無用に広げるだけの行為でもある。

「ここなのですよ」

 妹さんはポケットから最新式のスマートフォンを取り出して、アタシにも見えるように差し出して見せた。

 

『文月学園公式HP 自由掲示板』

 

 あまりにもピンポイントな爆撃だった。そして予想通りだった。

「ここに、思い出のファイルをどんどんアップしてくださいと書かれていたので葉月もバカなお兄ちゃんとの思い出をアップしたのです」

 一応ファイルデータに目を通してみる。

 

 葉月とバカなお兄ちゃんの思い出 Date 3/31 21:28   閲覧者数1018

 

 この学校の生徒数は全部で約900名。教職員、事務、その他合わせて約100名。

 その内の何割が閲覧したのかはわからない。けれど、学校からは春休み中の連絡手段としてこまめに学校のHPにアクセスすることが推奨されている。

 学期中より遥かに多いことは間違いない。

「ふ~」

 軽く息を吐く。

 もう、今更工作を始めても遅いだろう。

 アップされた日付は3月31日。エイプリルフールの冗談ですともごまかせない。

 妹さんの無邪気な偶然という名の工作は完璧だ。

「あっ、新しいファイルがアップされているのですよ」

 文月ちゃんが驚きの声を見る。

 すると、一番上のファイルにこんな文字の動画ファイルがアップされていた。

 

 雄二とお散歩(鎖編) Date 4/1 17:39  閲覧者数5024

 

「代表、6時まで我慢できなかったんだ」

 私は代表に6時になったら秀吉の自爆スイッチを押すように頼んだ。だけどファイルが上がっているのは6時より20分も前のこと。

 代表は坂本くんとのデートの誘惑に勝てなかったのだ。

「坂本くんとのお散歩って一体どんなファイルなのでしょうかね?」

「葉月、早く開いてみなさいよ!」

 しかしこの2人がいてくれると本当進行に困らないわね。

「開いてみるのですよ」

 妹さんが画面にタッチして動画を開く。

「「こ、こ、これはぁああああぁっ!?」」

 驚き役が本領を発揮しながら仰け反る。いや、驚き役でなくても仰け反ったかもしれない。

 画面には全裸で、目には目隠しをされ、口には馬用のハミを噛まされ、鎖に繋がれて四つん這いで街中を歩く坂本くんの姿があった。

 顔は映っていないけれど、位置関係的にどうやら代表が散歩しながら自分で撮ったものらしい。というか、こんな映像を堂々と撮影するのも学校のHPにアップできるのも世間ずれした代表しかできないだろう。

 機械オンチな代表らしくカメラのピントがおかしかったり手ぶれ補正がされていなかったりするけど、映っている人物が坂本くんであることはわかる。

 『雄二』と題名に書かれている時点でもうアウトなのだけど。

 動画は坂本くんが犬となって歩いている様が1分間ほど撮影されていた。

 そして画面が終わる5秒ほど前にそれは起こった。

「わっ、綺麗なお姉ちゃんのパンツが見えちゃっているのです!」

 カメラの電源を切ろうとした代表がしゃがみ込んだ拍子にスカートの中の真っ白い布地が見えていた。

 それは妹さんのいう通り、代表のショーツで間違いなかった。

「アップされたばかりなのに閲覧者数5000の謎はこれか……」

 坂本くんを知っている人なら誰がこの動画の撮影をしたのか見当をつけるのは容易なことだろう。

 つまりこれは代表のパンチラ、ううん、パンモロ動画として多くの男共に認識されているに違いない。

 そして文月学園には我が盟友玉野美紀のように男の裸(ら)を愛して止まない女子もいる。多くのニーズを持つこの動画の閲覧者数が上がらない筈が無かった。きっとエンドレスで見続けている人が多いのだと思う。

「あっ、閲覧者数6000を越えちゃいました。葉月ちゃんのファイルも釣られて閲覧者が増えていきます」

「坂本のは今日中に1万は軽く越えるんじゃないの?」

 もう1度空を仰ぐ。

「新しく木下くんが爆発したってスレが立ってますよ。これってどういう意味でしょうか?」

「こっちにはリア充土屋康太が爆発したってスレが立っているわよ」

 春なのに、夜の風はまだ涼しい。

「さようなら、吉井くん、坂本くん、土屋くん、秀吉……」

 一番星を見ていると、何故か涙が出て来た。

 

 

 

 それから約1週間が過ぎて新学年初日。

「あれっ? 明久くんの名前がF組にありませんよ? 私、その為に学年末試験の日に欠席したのに残念ですぅ」

「F組どころか、2年生のどこにもアキの名前がないのよ」

「そう言えば、坂本くんと土屋くんと木下くんの名前もありませんよ?」

「一体全体どうなっているのよぉ~!? 誰か教えなさいよ!」

 新2学年のクラス分け名簿の中に吉井くん、坂本くん、土屋くん、秀吉の名前はなかった。

 それを大げさに騒ぎ立てる彼女たちはお笑い要員として完成の域に達している。彼女たちさえいれば、今年もF組は笑いが絶えないだろう。

 次代の笑いを託された2人から目を離し、桜の木に投げやりに貼り付けられた小さな告示に目を寄せる。

 

『以下の者

  除籍処分とする

  2年F組 吉井明久 坂本雄二  理由 品行不良

  2年F組 木下秀吉 土屋康太  理由 王大人死亡確認

 

                        文月学園』

 

「よくよく考えてみれば、吉井くんたち、今回何も悪いことをしてないのよね……」

 満開の桜を見ているのに何故か涙が溢れて止まらない。

 涙を止めるべくグッと大空を仰ぐ。

「エイプリルフールって怖いわね」

 人間、やっぱり嘘はいけないと思う。

 人を陥れるような真似は良くない。

 今回のことでよく思い知った。

「でも大丈夫! アタシが沢山稼ぐから吉井くんは家で主夫してくれれば良いのよ!」

 アタシは木下優子。転んでもタダでは起きない。

 吉井くんが学校を辞めさせられてしまったのなら、専業主夫に徹してもらえば良いだけの話。

 妹さんはまだ小学生。働きに出られるのはまだ先のこと。社会人として経済力を付けるのはアタシの方が先。

「この勝負っ、アタシの勝ちよ、妹さんっ! あっはっはっはっは」

 笑いが、笑いが込み上げてくる。

 妹さんはアタシに完全勝利を収めたつもりだろうけど、そうは問屋がおろさない。

「今回こそ、アタシが吉井くんのヒロインになってみせるっ!」

 大人と子供の絶対的な違いを見せてあげる。

 と、そこで校門の外を一組の若い男女が歩いているのが見えた。

 女の子の方はツインテールを靡かせながら歩く妹さんだった。

 そして男の子の方は……

「吉井くんっ!?」

 何故、学校を追放された筈の吉井くんがこんな朝から妹さんと一緒に歩いているの?

 しかも、タキシード装束を着て。一体、何がどうなっているの?

「いやぁ、まさか突然学校をクビになって路頭に迷ったかと思ったら、葉月ちゃんの執事として雇われるなんてねぇ。世の中どうなるかわからないもんだなぁ」

「葉月、この携帯を使って始めたかぶとえふえっくすとかいうので大もうけしたのです。だからバカなお兄ちゃんをひつじさんとして雇うことができたのです♪」

「ひつじじゃなくて執事だよ、葉月ちゃん。いや、葉月お嬢さま」

「この間、動物園でひつじさんを見たので間違ってしまったのです♪」

 吉井くんは学校を辞めて1週間も経たない内に妹さんの執事になっていた。

 さて、この現象はどう考えるべきだろう?

 あまりにも簡単すぎて問いにもならない。

「ところで、この間バカなお兄ちゃんから借りたゲームがすっごく面白かったのです」

「そう。喜んでもらえて良かったよ」

「特に、戦いは常に2手3手先を読むものだというゲームの中の仮面の人の台詞、とっても格好良かったのですぅ」

「女の子にロボット戦記モノってどうかなって心配したんだけど、気に入ってくれて何よりだよ」

 2手3手先を読むという所で妹さんはこちらを振り向いた気がする。ほんと、気のせいだったら良いなあ。

「計画通り…………なのです♪」

 妹さんがなにやら不穏な言葉を発しながらニヤッと笑った気がした。気がしたと思いたい。……でもやっぱり、希望的憶測で現実逃避しちゃダメよね。

「今は葉月がバカなお兄ちゃんのご主人様ですが、葉月と結婚したらバカなお兄ちゃんが葉月のご主人様になるのですよ♪」

「ははは。その場合はご主人様じゃなくて主人でしょ」

「あぅ。また間違ってしまったのです♪」

 2人は並んで去っていってしまった。

「バカなお兄ちゃんは葉月のめぇ~めぇ~なのです」

「ははは。だからそれじゃあ僕はひつじになっちゃうって。ペットじゃないんだから」

「今度は間違ってないのですよ♪」

吉井くんは文月学園を全く振り返ろうとしない。

 どうやら、アタシの知る吉井くんはもういなくなってしまったらしい。

「さようなら、アタシの知っている吉井くん。こんにちは、アタシの知らない吉井くん」

 感情のうねりが収まるまでじっとその場で耐える。

「……早く帰って雄二に餌をあげなきゃ」

 まだ始業式前なのに慌しく校門を駆け出て行く代表。

「坂本くんも、アタシの知らない坂本くんになってしまったのね」

 満開の桜の花びらが風に揺られて大空へと舞っていく。

「……さようなら。2年F組の英雄たち」

 花びらを追って視線を上空へと向け直す。

 

 文月学園の上空に吉井くんと坂本くんと土屋くんと秀吉が笑顔でキメていた。

 

 

 バカとテストと召喚獣 明久&雄二ペットHappy End

 

 


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