No.228981

そらのおとしものショートストーリー2nd メガネキャプターアストレア

水曜更新。
メガネです。
もうそれ以上語る言葉はありません。


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2011-07-20 00:06:56 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3020   閲覧ユーザー数:2696

メガネキャプターアストレア

 

 ある日、桜井智樹は空美町商店街の中でいつものように発作を起こした。

「うぉおおおおおぉっ! メガネ分が足りねえぇええええぇっ! メガネっ娘と付き合いてぇええええええぇっ! いや、むしろ今すぐ結婚してぇえええぇっ!」

 メガネメガネと叫びながら地面をのた打ち回る智樹。

 それはあまりにも日常と化した光景だったので商店街を行き交う人々は誰も智樹を気にしない。

 だが、その智樹の発作を無視することができない少女たちもいたりした。

「……メガネを、下さい」

「智樹のヤツ、そんなに私のメガネ姿が見たいのなら素直に言いなさいよね!」

「そのぉ、何だか今日急に目が悪くなっちゃって……」

「お~ほっほっほ。このお店に置いてあるメガネは全て鳳凰院家が買い占めますわっ!」

 その日空美メガネショップは空前の大盛況を迎えたという。

 

 メガネ屋が繁盛する一方、メガネを買いたくても買えない少女もいた。

「うっうっ。お腹減ったよぉ~。めがねも買えないしぃ~」

 シナプスが誇る近接戦型タイプ・デルタ・アストレアは空腹と戦いながら空美町の上空を飛んでいた。

 アストレアは山の中でサバイバル生活を送っている。

 食料は山の中で木の実や草などを調達。

 働いていないので収入は一切ない。

 そんな状況なのでアストレアはメガネを買うことができなかった。

 だが、神はアストレアを見捨ててはいなかった。

 

『アストレアよ。こちらを向くが良い』

 

 神がアストレアの横にいた。

 神は禿げた中年親父の顔をしてメガネを掛けていた。

 アストレアの身長ほどの巨大な顔を持ち、首から下がないのでこれはもう神に間違いなかった。

「あんた誰なの?」

 アストレアは神に向かって尋ねた。

 

『我は知性の神だ』

 

 神は正体を名乗った。

「神様は食べ物持ってるの?」

 アストレアはお腹を押さえながら尋ねた。

 

『食料は持っておらぬ』

 

 神は答えた。

「あっそ。じゃあ私、お腹が減ったから去る~」

 アストレアは神に興味を失った。

 食欲の前に神は無力だった。

 

『待て、アストレア!』

 

 神は必死でアストレアを呼び止めた。

「何よ? 私は食料調達で忙しいのだけど」

 神を見るアストレアの視線は冷たい。

 

『アストレアよ、お前に我の力を与えてメガネにしてやろう』

 

「えぇええええええぇっ!?」

 神の提案にアストレアは驚いた。

「それって、私がめがねっこになれるってこと? 桜井智樹にぷろぽーずされちゃうってことっ!?」

 アストレアが期待に満ちた瞳で神を見る。

 

『ああっ。しかもただのメガネっ娘ではないぞ。Abstract Phoenix(絶対的な知性)を持つ、最強のメガネっ娘になれるぞ 』

 

「最強の、めがねっこ!」

 瞳を爛々に輝かせるアストレア。彼女は最強という言葉に弱かった。

 

『アストレアよ、絶対的な知性を持つメガネっ娘になりたいか?』

 

「はいは~い。なりたいで~す!」

 手を盛んに挙げながら同意を示すアストレア。

 

『ならば、アストレアを絶対的な知性を持つメガネっ娘にしてやろう』

 

「やったぁあああああぁっ!」

 万歳しながら喜ぶアストレア。

 そんな彼女を見ながら神は唇の端をニヤリと歪めた。

 

『だが、一つだけ条件がある』

 

「条件?」

 アストレアは首を捻った。

 

『昨今世間では、目が悪いから、お洒落の為にというあり得ない理由でメガネを掛けている者が急増している。メガネはインテリの証だというのに全く嘆かわしいことだ』

 

「はぁ」

 アストレアはどう反応すれば良いのかわからない。

 

『そこでアストレアよ。お前は絶対的な知性を持つメガネっ娘となり、インテリ以外のメガネを刈り尽くすのだっ!』

 

「メガネを刈る?」

 アストレアには神が何を言いたいのかよくわからない。

 

『知恵比べを挑み、アストレアに敗北した者のメガネを全て刈り尽くせ』

 

「あぁ。なるほど」

 おりこうさん対決をして、負けた者からメガネを奪えと言っていることだけは何とかわかった。

 バカでもそれぐらいはわかった。

 

『今日からお前はメガネキャプターアストレアとなって、全世界のメガネ秩序を守るのだ』

 

 神から金縁の成金趣味メガネがアストレアに贈られる。

「わっかりました~♪」

 アストレアはそれを勇んで掛けた。

「メガネキャプターアストレア、ここに参上ですっ!」

 こうして絶対的な知性を持つメガネっ娘、メガネキャプターアストレアが誕生した。

 

 

 

「くぅ~。体中からインテリの衝動が込み上げてきたぁ~っ!」

 メガネっ娘となったアストレアは絶好調だった。

「ぷすすぅ。今なら分数の引き算も出来るかもしれませんっ!」

 神の力を得たアストレアは神の領域の計算にまで手を出せるようになっていた。

「おっと、こんな所で笑っていないで早速メガネ刈りを始めないといけないわね」

 メガネ刈りは神からの指令だった。

 けれど、アストレアはそれ以上に己の増幅した知性を試してみたいと思った。

「え~と、私の知り合いの中でメガネと言えば……」

 アストレアの脳裏に思い浮かんだのは川原でサバイバル生活を送る1人の少年。

「私の初陣を飾るのに相応しい相手ね。ぷすす」

 絶対的な知性を持った少女は不敵に笑みを浮かべた。

 

「ねーねー守形、守形ぁ~っ!」

 アストレアが川原に到着すると、守形はいつものように釣り糸を垂らしながら食料調達に努めていた。

「どうした、アストレア?」

 空美町が誇るインテリ少年は無表情のままアストレアを見た。

「守形、私と知恵比べして欲しいの?」

「知恵比べ、だと?」

 守形が驚いた表情を見せる。

 アストレアが知恵比べなんて単語を知っていたことに仰天しているに違いなかった。

 そして守形は気付いたようだった。

 アストレアの顔にメガネが掛かっていることを。

「それはっ、知性の神の加護により絶対的な知性を有することができるという伝説のメガネっ! 一体何故お前が!?」

 守形は驚愕していた。

「フッ。さすがは守形。話が早いわね。さあ、私の絶対的な知性がどれほどのものか、確かめさせてもらうわよ!」

 アストレアのメガネがきらり~んと光る。

 それはインテリメガネキャラしかできない伝説の技。

 それを、バカの代名詞であるアストレアが使っていた。

「チッ。何が何だかわからないが厄介なことになったな」

 守形の頬から冷や汗が垂れる。

「じゃあ、早速知恵比べ対決を始めるわよ。ぷっすっすっす」

 アストレアの背後に巨大な邪悪な影がある。

 守形にはそう見えた。

 

「対戦方法は逆にらめっこ対決よ。笑い続けていないと負けになるのよ!」

「何だとぉっ!?」

 逆にらめっこ。

 それは笑わない守形にとっては圧倒的に不利な勝負内容。

 それをあのおバカ極まりないアストレアが選んできた。

 それ、即ち──

「相手の圧倒的不利な領域を瞬時に読み取って勝負を挑む。それが絶対的知性の正体だと言うのか!?」

 絶対的知性の小っさい正体に気付く守形。

 だが、気付くのが遅すぎた。

「フッ。何を言っているのかわからないけれど、行くわよ守形。笑ってないと負けよ~あっぷっぷ!」

 勝負は一瞬で決まってしまった。

「やったぁ~♪ 大勝利~♪」

「む、無念」

 守形が勝負だからといっても急に笑えるようになる筈がなかった。

 

「さあ、約束通りにメガネを頂くわよ!」

 アストレアが右手に力こぶを作る真似をする。

「ま、待て! 俺はメガネを外されると……」

 守形はアストレアに躊躇を求める。しかし──

「問答無用っ! シナプスボンバーっ!」

 インテリの力にとり憑かれたアストレアは無情にも守形に向かって超強力なラリアットを放った。

「メガネばり~んっ!?」

 力をセーブしなければ首ごと吹き飛ぶという大技を食らい、守形のメガネが大空へと舞う。

 守形のメガネはそのままアストレアのマント(唐草模様の風呂敷)へと吸い込まれていった。

「ぷすすすぅ。私が一番っ、なんですよぉっ!」

 右手の人差し指を高々と天に向かって突き上げるアストレア。

「む、無念」

 地面に突っ伏した守形は ε ε な瞳を晒しながらアストレアを見上げることしかできなかった。

「ぷすすぅ。これから全世界のメガネを刈り尽くしてやりますよぉ。ぷすすぅ」

 知力という新たな武器の魅力にとり憑かれてしまったアストレアによるメガネ刈りの凶行はこうして始まりを告げた。

 

 

「ぷすすぅ。英語の発音対決ですよ!」

「あっ、えっ、えっぽぉおおおぉ……で、できないよぉ」

「ぷすすぅ。メガネはもらっていきますよぉ」

 

「ぷすすぅ。イカロス先輩、創作小説対決ですよ。お題は『男同士』ですっ!」

「……男同士……ぶ、ぶはっ! 妄想で吐血と鼻血が止まらなくてそのお題では小説を書けません」

「ぷすすぅ。イカロス先輩のメガネももらいです」

 

「アストレアちゃん。英くんの仇よ。覚悟しなさい」

「ぷすすぅ。師匠、道徳の問題ですよ。空き缶を道に捨てている人がいました。どうしますか?」

「そんなの勿論全殺し♪ はっ、しまったわ!」

 

「わたくしは今までの相手とは違いましてよ。鳳凰院家の力、見せてご覧にいれますわ」

「では問題。10円玉が3枚、5円玉が2枚、1円玉が4枚ありました。合わせて幾ら?」

「わたくしは1万円の札束とクレジットカード以外見たことがないのでそんな問題答えられませんわ」

 

 

 アストレアの快進撃は止まらず、空美町中のメガネは刈り尽くされていった。

「ぷすすぅ。これで99個のメガネを集めましたよ。ぷすすぅ」

 アストレアの笑いが止まらない。

 アストレアのマントは相手から奪ったメガネでぎっちりと溢れていた。

 

『後1つメガネを刈れば、お主は正真正銘のメガネキャプターとなるのじゃ』

 

 知性の神もご満悦だった。

「ぷすすぅ。何を言っているのですか? 私は全世界のメガネを刈って刈って刈り尽くすまで戦いをやめるつもりはありませんよぉっ!」

 だが、新たな武器を手にしたアストレアはすっかりメガネ刈りの魅力にとり憑かれてしまっていた。

 全世界のメガネを刈り尽くすつもりに本気でなっていた。

 

『やる気なのは結構だが、どうやら次の相手が来たようだぞ』

 

 知性の神の声に反応して背後を振り返る。

「アンタの暴挙、止めに来てやったわよ」

ツインテールの小柄な少女が立っていた。

「遂に勝負の時が来ましたね、おりこうさんキング・ニンフ先輩っ!」

 アストレアの目の前に立っていたのは黒ぶちメガネを掛けたニンフだった。

 シナプスの英知であり、空美町最高の知識保有者であるニンフが遂にアストレアに戦いを挑んで来た。

「ですが、幾らおりこうさんキングといえども今の私には敵いません。ニンフ先輩との知恵比べ勝負。それはっ!」

「第2回おりこうさんキング選手権で勝負よっ」

「なっ!?」

 アストレアは焦った。

 自分が提案する前に相手から勝負方法を提案されたのは初めてだった。

「フッ。ですが、勝負方法を提案したぐらいで、優位に立ったと思わないでください。私には絶対的知性があるのですから!」

 アストレアのドヤ顔。

 だが、それを見てもニンフは動じなかった。

「そうね。アンタの知性がどれほどのものかはわからないけれど、せっかくのクイズ大会だもの。みんなで楽しくやりましょう」

「みんな?」

 アストレアの疑問の声を聞いて現れる4名の少女。

「あ、あなたたちはイカロス先輩、そはらさん、師匠、鳳凰院月乃っ!? メガネを刈られた筈の貴方たちがどうしてっ!?」

 アストレアによりメガネ刈りに遭った筈の4人の少女がメガネを掛けて現れていた。

「確かにアルファたちはデルタ、貴方に1度敗れたわ。でもね……」

 ニンフが4人の少女の顔をキッと鋭い瞳で見る。

「……心にメガネがある限り」

「私たちは何度だって立ち上がるの」

「だってそれが~」

「真のメガネっ娘というものだからですわ。おっほっほっほっほ」

 メガネ歴3日ほどの少女たちは熱く燃えていた。

 メガネ屋は大繁盛だった。

「ちょこざいな! 何人で束になろうとこの絶対的な知性を誇る私には敵いませんよ!」

 復活を果たしたイカロスたちに不気味なものを感じながらも雄雄しく吼えるアストレア。

「フッ。確かに今のデルタはこの間までとは比べ物にならない知力を手に入れたかもしれないわ。でもね、それはあくまでも1対1での知恵比べ対決に特化した力よ。私たち5人を相手にできるのかしら?」

「ううううう……」

 状況に不利を感じたアストレアは空を見上げた。

 

『良かろう。ならば我が力を貸そうぞ。世界のメガネの秩序を司るのはお前だ、メガネキャプターアストレア!』

 

 知性の神が地上へと降りてきて……

 アストレアと合体した。

「メガネキャプター・アストレア・アブストラクトバージョンっ! ここに爆誕っ!」

 アストレアの腹部から知性の神の顔が浮かび上がる。

「アンタがこのバカを操っていた黒幕って訳ね。いいわ、まとめて相手してあげるわ!」

「……マスターが気に入ってくれるメガネっ娘になる為に、絶対に負けられません!」

「智ちゃん好みのメガネっ娘に私はなるんだからっ!」

「英くんの仇とメガネ界の平和は会長が守る!」

「鳳凰院家の力を甘く見ないで頂きたいですわっ!」

「ニンフ先輩もイカロス先輩も他のみんなもまとめて相手になってやりますよっ!」

 ここに丸3日に及ぶ地上のメガネの覇権と智樹への愛を賭けた壮大な最終決戦が始まった。

 

 

 

 一方、その頃空美学園では……

「風音……そのメガネ、一体どうしたんだ?」

 桜井智樹は風音日和を見ながら震えていた。

「商店街の福引でメガネが当たったから掛けてみたのだけど、似合わない、かな?」

 日和はフチなしの丸レンズのメガネを掛けたまま上目遣いで智樹を見た。

 上目遣い+メガネ+美少女。

「……好きだ、風音。いや、日和。俺と結婚してくれっ!」

 智樹はごく自然にプロポーズしていた。

 他にできることは何もなかった。

「えっ? ええ~っ!?」

 日和は突然のプロポーズに驚いた。

 そしてすぐに顔中真っ赤に染まった。

「頼む、日和。俺と結婚して夫婦になってくれ!」

 智樹は固く固く日和の手を握り締めた。

「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします…」

 今にも破裂してしまいそうな胸のトキメキを必死で抑えながら日和はプロポーズを快諾した。

 こうして空美町には1組の年若い夫婦が誕生した。

 メガネが2人を結び付けたのだった。

 

 めでたしめでたし

 

 

 

 


 
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