No.439482

そらのおとしものショートストーリー4th Unlimited Brief Works7

水曜日定期更新。
パロってれば楽だったから始めた企画が長文化して
負担増で誰得企画なってしまったUBW第7話。
間違いはあっても後悔だけはできないのです。士郎は凄いなあ。

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2012-06-19 23:43:18 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1540   閲覧ユーザー数:1468

 

そらのおとしものショートストーリー4th Unlimited Brief Works7

 

拙作におけるそらのおとしもの各キャラクターのポジションに関して その11

 

 

○鳳凰院・キング・義経(UBW):本編の道化。言い換えればワカメ。ハーピーにそそのかされて参戦するも敢なく敗北。路頭に迷っていた所をイカロスに拾われ利用される。義経自身はイカロスと対等な関係を結んでいると思っているが、実際には良いように使われているだけである。イカロスは耽美な美少年を贄に必要としている為に現時点においては義経に死なれる訳にはいかない。機が熟するまでは大切にするという意味で家畜に等しい男。

 

○オレガノ(UBW):本編の黒幕…にこのシナリオではなりきれなかった人。言い換えればマーボー。オレガノは地上にいるエンジェロイドの中では最も戦闘力が弱い。しかし、拳銃、手榴弾、戦車、機関銃と人間の武器を用い、また策謀を張り巡らしニンフを圧倒し、尚且つ己より絶対的に強い者には巻かれ、機を見て裏切る状況判断能力を有している。非力な自身を熟知しているが故に戦い方も最も熟知している最も手強い少女機械天使である。

 

○風音日和(UBW):本編に出てこない。言い換えれば間桐桜。日和が出てくると『約束された勝利の出番』が発動されかねないので、UBWには出て来ない。代わりにHeaven’s Hiyori編のヒロイン役が決まっている。尚、日和ルートはフラレテル・ビーイングが大きく絡んで来るので桜ルートとは展開の仕方がだいぶ異なってくる。また、主要登場人物がUBWとは大きく異なり、早々に脱落する者が多数出る一方で新キャラも続々登場する。

 

 

 

「Unlimited Brief Works(無限の禁製)」

 夕闇に包まれていく神社の境内で智子は妄想具現化(リアル・ダイヴゲーム)を発動させた。

周囲の世界が侵食を遂げて丘陵の草原へと風景を変える。智子だけの、イケメン達のパンツが無限に実る空間がここに形成された。

「智子ちゃん……1つだけ訊いて良い?」

 そはらは手を合わせたままの状態で智樹の前に立つ赤い外套の少女に尋ねた。

 智子は無言のままそはらを見ている。

「智子ちゃんは智ちゃんと同一存在なんだよね? なのに何故、こんな自分を殺すような真似をするの?」

 智子は智樹に向かって歩みを進めながらゆっくりと口を開く。

「確かにあたしは智樹が可愛い女の子になったらという、コイツにとっての理想にも等しい存在。スケベな変態として地の底にまで落ちていたコイツの人気をあたしという同一存在のおかげで人並みまで引き上げても来た。コイツの社会的生命を救ってきたのはあたし」

 智子は立ち止まり鼻から息を吐き出した。

「でも、その果てに得たものは後悔だけだった」

 智子は自嘲めいた笑みを浮かべている。

「残ったものは社会的な死だけだったもの」

「死、だけ……?」

 智子の言葉にそはらが驚いた。

「そいつとあたしの平和の為にそりゃあもう頑張った。頑張り尽くしたわよ。智樹が起こす騒動の余波を揉み消すのに必死だった。でもね、智樹が起こす騒動は留まる所を知らない。ううん、それどころか人智を超えたこの町をいつ滅ぼすのか分からない大騒動ばかり繰り返される毎日。そう、智樹の毎日は異常なのよ」

 智子はそはらを見ながら昏い瞳で笑った。

「智樹が騒動を起こす。あたしが後処理を担当する。そしてまた智樹がまた騒動を起こす。その繰り返し。そして騒ぎの被害範囲は拡大する一方。その輪から抜け出す方法はないわ。ただ1つの例外を除いて……」

 智子は智樹を鋭い瞳で睨み付ける。その視線の意味はそはらにもよく分かった。

 

「で、でも智子ちゃん。だからって智ちゃんを殺そうとするのは過激すぎるんじゃ?」

 智子は首を横に振った。

「そはらなら一番良く分かってくれるんじゃないの? イカロス達エンジェロイドが地上に降りてきてから智樹とその周囲の世界が如何に破綻してきたのかを」

「そっ、それは……」

 そはらが体を半歩引いて怯んだ。

「ニンフ達が地上に降りてきて智樹が大騒動を起こすようになってから、何度空美町は滅びかけた? 何度世界は滅亡の危機に陥った? そんなこと、智樹がエンジェロイド達を住まわせる前に1度でもあった?」

「そっ、それは……」

 そはらは答えられない。身に覚えがあり過ぎた。シナプスとイカロス達の激闘、そして智樹自身が引き起こす騒動。人間の科学技術力を遥かに超えたシナプスの力が働いたそれはただの冗談や暇潰しに過ぎない筈なのに地球滅亡の危機を招きかねないものだった。

 そう。そんな騒動が毎日のように起きているのだ。智樹を中心にして毎日。

「で、でも……イカロスさんもニンフさんもアストレアさんもみんなみんな良い子だよ。彼女たちのおかげでわたし達は今生きていられるのだし」

「そうね。確かにイカロス達は良い子よ。それは認めるわ」

 智子は首を縦に降って同意した。

「でもね。その良い子達がいるからこの空美町で毎日のように騒動が起きて、多くのものが壊れて多くの人が傷ついているのよ」

「それは……でも……」

「その良い子であるイカロスがもたらしたカードによって今回の戦いは起きたのよ。そして美香子会長と守形先輩達はこの戦いで命を落とした」

 智子の視線がより一層鋭くなる。その瞳には怒りが満ちている。

「空女王は(ウラヌス・クイーン)とても危険なことを考えている。あの子が勝利すれば……本当に世界は滅びるでしょうね」

「イカロスさんはそんな世界の滅亡なんて望まないよぉ」

 そはらが恐怖にかられながらも懸命に反論を試みる。

「確かにイカロスは人間が憎くて世界を滅ぼすようなことは絶対にしないでしょう。でもね、その空女王の歪んだ愛をカードで実行すれば結果的に世界は滅ぶでしょうね。彼女の愛ゆえに容赦なく淀みなく滞りなく」

「そ、そんなあ……」

 そはらの全身が大きく震える。イカロスが人類の滅亡を願う筈がないと信じる一方で、智子の言葉が否定できない。

「イカロスだけならどんな強大なカードが存在していても何の問題もなかった。智樹が絡んだから彼女は狂った。智樹が絡んだせいで世界は滅亡の危機に瀕しているのっ!」

 智子の怒りの視線が智樹に向けられる。

「智樹が絡むとみんなが狂う。そして、世界に破滅がもたらされる。だからあたしは世界が破滅する前にその元凶である智樹を、もう1人の自分を討つっ!」

 智子の激しい眼光。けれど智樹もまたその視線を真正面から浴びて少しも引かなかった。

「お前……後悔しているのか?」

「無論よ。あたしは生まれるべきではなかったし、智樹はニンフ達と出会うべきでもなかった。貴方は平和を愛する普通の中学生に留まり続けなければならなかったのよ。それが出来なくなった以上……桜井智樹は早々に排除されなければならない。このあたしと共に」

 智子が空を舞うパンツを見据える。その瞳は苦渋の色を湛えていた。

 

「それじゃあ俺達は別人だな。俺は後悔だけはしない。ニンフ達と出会ったことが間違いだったとも思わない。だから、お前の考え方を認めないっ!」

 智樹が智子に吠えた。その瞳に怒りの炎を燃やしながら。

「そんな間違った信念は俺自身の手で叩き潰すっ!!」

 智樹がそはらとニンフのパンツを両手に構えて戦闘態勢に入る。

「分かっているようね。あたしと競うということはパンツを争うということだとっ!」

 智子の頭上に無数のパンツが一斉に舞う。

「行きますよ……守形先輩っ!」

 智子が左手に装備したのは守形のブリーフパンツだった。ろくに動かない右腕は捨てて左腕1本で智樹へと斬り掛かっていく。

「でりゃぁああああああああぁっ!!」

「舐めんなぁあああああああぁっ!!」

 智樹と智子のパンツがぶつかり合って激しい交錯音が鳴り響く。

 2人の譲れない戦いはここに始まりを告げたのだった。

 

 

 

「やっぱり、アンタがデルタを裏で操っていたのね……オレガノっ!!」

「お久しぶりですね、ニンフ様。いや……コンブッ!」

 医療用量産型エンジェロイド・オレガノはニンフを見て愉悦を浮かべていた。

一方でニンフは出現したオレガノを見て冷や汗を流し続ける。オレガノに拒否感を抱いているのが明白な表情だった。

「あっ、あの……?」

アストレアはニンフの拘束を破壊しようとしていた作業を制止させられて戸惑っていた。三者三様の反応。

「何をなさっておられるんですか? 私は智子様を始末するように方針を立てた筈ですが?」

 着物姿の医療用エンジェロイドは瞳を細めてアストレアを睨んだ。

「智子さんのことは智樹がきっと何とかします。それよりも……そこの全裸男は一体?」

 アストレアは自身が体当たりで弾き飛ばした義経を見た。

「フッ。アストレアさん。幾ら僕の愛を独占したいからと言ってもあの愛情表現は過激すぎますよ……ウッ」

 ようやく目を覚ました義経が這いつくばったまま戯言をほざいていた。

「この男をどうにかしてニンフ先輩を助ける方が重要じゃないですか!」

「何を言っておられるんですか? 私達は鳳凰院・キング・義経様とは協力関係にあるのですよ。そして義経様とイカロス様はカードを手に入れる為に共に認め合った仲ですよ」

 オレガノは黒い笑みを浮かべた。

「な、何ですかそれはっ!? 私、そんなの全然聞いてませんよっ!?!?」

 ニンフが反応を示す前に驚いたのはアストレアの方だった。

「じゃっ、じゃあ……ニンフ先輩はどうなるんですか? 同じエンジェロイドを助けたいと言っていたのは嘘なんですか!?」

「嘘ではありません。制御が効かなくなった美香子お嬢様を倒す為の大切な駒でしたから。故にアストレア様に警護して頂きました。エンジェロイド同士のよしみの愛情としては十分じゃありませんかね?」

 オレガノは大きく目を見開き、アストレアに向かって告げた。

「コンブを始末して下さい」

 アストレアはオレガノから顔を背けた。

「幾ら私のくらいあんこでもその命令には従えません」

 アストレアは断固拒否の姿勢を取った。

 

「では、私とアストレア様の雇用関係もこれまでということになりますね」

「そうですね」

 アストレアはオレガノを見ないまま自身の体を盾にしてニンフを守っている。

「しかし、雇用関係とは信頼関係。契約が切れたとはいえ今日の分の給金を払わなかったとなれば私は詐欺師の汚名を着ることになるでしょう」

 オレガノは持っていた茶巾袋を開いて3つのおむすびを取り出した。

「餞別でもあります。是非受け取って下さい」

「おむすびだ~。わ~い♪」

 おむすびの匂いに惹かれてアストレアが振り返りオレガノへと飛び付く。

「ちょっと!? デルタっ!?」

 ニンフの制止も聞かずにアストレアはおむすびを受け取っていた。

「丁度お腹減ってたんだぁ~~♪ いっただっきま~~す♪」

 アストレアは1個目のおむすびを口の中に丸ごと放り込んだ。

「おっかか~~~~~~♪」

 アストレアはとても美味しそうに咀嚼している。あっという間に食べ終わると2つ目を口の中へと放り込む。

「シャケ~~~~~~♪」

 アストレアは幸せ全開の笑みを浮かべている。そして、3つ目のおむすびを空中へと放り投げ、大きく口を開けて一気に飲み込んだ。

「ごっくん。3つ目は…………えっ!?」

 おむすびを飲み込んだアストレアの動きが止まる。硬直して動かない。

「アストレア様は動けないようですね。では、私が代わりに正解をお教えしましょう」

 オレガノは茶巾袋に入っていた残り1つのおにぎりを取り出して、真ん中から2つに割ってみせた。

「正解は……見月さんの目玉焼き~~♪ でした♪」

 オレガノが割ってみせたおむすびの具を見てニンフの顔面は蒼白になった。

 そのおむすびの割れ目から死霊が幾つも飛び出していた。それは猛毒さえ超えた何かだった。強いて言うなれば食したものを必ず冥界へと誘っていくに違いないあの世行きのチケットそのもの。

 

「オレガノぉおおおおおおぉっ! アンタって子はぁああああああぁっ!! ……グウウゥッ!?!?」

 オレガノに斬り掛かろうとしたアストレアだったが死呪の回りが早くその場に倒れてしまう。そしてピクリとも動かなくなってしまった。

 自身の目の前に倒れたアストレアをオレガノは美香子を髣髴とさせる悪い笑みを浮かべながら覗いていた。

「昨夜そはら様が美香子お嬢様に捕まって洗脳されていた際に、隙を見ましてちょいと彼女を連れ出し、料理を作って頂いた訳なのですよ」

 オレガノが黒い笑みに満ちている。

「さすがはこの世で最強の毒物呪。エンジェロイドであるアストレア様でさえこの瞬時に葬り去るとは。これならイカロス様にも……そしてカードと智樹様は私のものです」

 オレガノは手に持ったおむすびを見ながら最大限に黒い笑みを浮かべている。

 アストレアが動かないことを目で見て確認すると彼女が手に握っていたクリュサオルを奪い右手に構える。

「さて、コンブよ。オメェにも逝ってもらいますぜ。私と智樹様の幸せの為に」

 オレガノがクリュサオルを高く掲げる。

「クウッ!?」

 幾らオレガノが非戦闘用エンジェロイドであるとはいえ、この星最強の剣をもって攻撃されれば一撃で絶命することは間違いなかった。

 拘束されて動けないニンフは頭を真っ二つにされるビジョンを思い描いてしまう。そして今まさに剣が振り下ろされようとするその時だった。

「さら…………グッ!?!?!」

 オレガノの動きが止まる。いや、止まらざるを得なかった。

 左手に持っていた筈のそはら特製おむすびを口の中に放り込まれたのだから。

「あっ、アストレアぁあああああああああぁっ!!」

 オレガノは自身の口の中に即致死性の毒物を放り込んだ犯人の名を叫んだ。

「私は……サバイバル経験が長いんですよ……そんな簡単にくたばったりなんか…しませんよっ!!」

 アストレアは残された力を振りしぼってオレガノの身体を弾き飛ばした。

「グハァッ!?!?!?」

 オレガノの身体が崩れ落ちる。

「智樹……さ…………ま…………っ」

 その言葉を最期にオレガノは二度と動かなくなった。

 

「はっはっはっはっはっはっは。ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ」

 オレガノが崩れ落ちた直後にニンフの耳に耳障りな笑い声が響いた。視線を向けると鳳凰院・キング・義経が立ち上がって笑い狂っていた。

「全く愚かな者達が勝手に殺し合ってくれたものだ。あっはっはっはっは」

 ニンフは気付く。拘束された状態で再び義経と2人きりになってしまっていることに。

「何がカードは義経様のものですだよ。まったく、この僕をたばかろうなんてふざけているよ。ひゃっひゃっひゃっはや」

 義経は狂ったように笑い続け……やがて視線をニンフへと向けた。

「さあニンフさん。僕の美しい全裸鑑賞会を再開しましょうかっ?」

 ニンフの前に誇らしく立つ義経は葉っぱ1枚身に付けていない全くの裸。ニンフに先程の全裸フィーバーの恐怖が蘇る。

「やっ、止めなさいよっ!」

「はっはっはっは。もうカードは僕のものなんです。僕の言うことを聞いた方が身の為ですよ♪」

 義経が腰に手を当てて踊りの準備に入る。

 だが、次の瞬間だった。

「ぶべぇっ!?!?」

 義経は強い衝撃を受けて大きく吹き飛ばされた。

「さっきも言いませんでしたか? その人は……貴方の触れて良い人じゃないんですよ」

 義経を背後から殴り飛ばしたのはアストレアだった。

「ぎやぁああああああぁあああああああああああぁっ!?!!?!」

 左肩を大樹の幹にぶつけた義経の身体からゴキリという大きな音が鳴り響いた。

「ばっ、ばっ、化け物めぇえええええええええええぇっ!!」

 義経は肩を抑えながらニンフ達の前から逃げ出していった。

 

「デルタ……っ」

 アストレアは焦点の半分合わない瞳でふらついた足取りをしながらニンフへと近付いてくる。オレガノから自身の剣を取り戻すと、その剣をニンフの手錠へと振り下ろした。

 アストレアの巧みな一撃により両手両足を縛り上げていた手錠は砕け散った。

「今、治療するからっ!」

 ニンフは急いでジャミング・システム発動の準備に取り掛かる。けれどゆっくりと手を左右に振ってアストレアはそれを断った。

「もう……治療とか言っている段階は過ぎましたから……」

 アストレアは荒い呼吸を繰り返す。

「それよりも……桜井智樹のことをよろしくお願いしますね。もう…ニンフ先輩にしか…お願い……出来ませんから…………」

「分かったから。智樹は私が絶対に死なせないから。だから、もう喋らないでっ!」

 アストレアの表情は言葉を一言発する度に生気が抜け落ちていく。彼女にもう幾ばくの時間も残されていないのは明白だった。

「智樹は先輩に任せた……これで安心して……逝けますね…………さよなら、です……」

 アストレアは剣を地面に向かって突き立てた。クリュサオルが刺さった反動で地面に大穴が開き、周囲の地面をも巻き込んで陥没していく。

 ニンフの目の前でアストレアとオレガノは土の波にさらわれて地中へと飲まれていった。10秒後、2人の姿は地上のどこからも見えなくなっていた。

「さようなら……デルタ」

 ニンフは神社の正面に向かって駆け出していった。

 その瞳に溢れる涙を拭うこともなく。

 

 

 

 智樹と智子の剣戟は続く。

 智子の方が剣を操る腕は高い。

 しかし、現在の智子は左腕1本で戦っているに過ぎない。右手は使えない。

 一方智樹は両手のパンツを同時に操ることで技量の差を補っていた。

「アンタの剣とあたしの剣が同等とでも思っているの!?」

 だが、それでも智子の優位は変わらない。彼女のパンツが智樹のパンツを砕く。

「ぐわぁあああああああぁっ!?」

 パンツを破壊された智樹がその反動で大きく後方に吹き飛ぶ。

「アンタはまだまだパンツに対する思い入れが甘いのよ。エロスじゃなくて、パンツそのものを愛しなさいっ!」

「うるせえっ!!」

 智樹は立ち上がりながら智子に向かっていく。その両手に再びそはらとニンフのパンツを召喚しながら。

「甘いっ!!」

 だが智子は再び智樹のパンツを砕き落とした。智樹はその反動でまた大きく吹き飛ばされた。

「アンタは……知るべきなのよ。この先にこの世界に起きてしまうかも知れない悪夢を」

 智子が悲しそうに呟く。

 そして、智樹は見た。

 この先に彼を待ち受けているかもしれない世界の断片を。

 

 

 智樹の見た世界には1人の女もいなかった。

 ただ、荒々しい男達だけが荒涼とした野原からなる世界に存在していた。

 男達の中心にはよく知った全裸の少年がいた。

 よく知っているのも当然だった。

 少年は桜井智樹本人だったのだから。

 智樹は無数の男達に群がられていた。

 男達の下卑た手が智樹に伸び、そして智樹を飲み込んでいった。

 智樹は……総受けだった。

 総受け以外の何物でもなかった。

 ただ、この世界には智樹の総受けのみが存在していた。

 無限の総受け。

 これこそがこの世界の唯一にして絶対のあり方だった。

 

 

「あ………………っ」

 智樹は今見た映像が何なのか分からない。

 けれど、それが智樹の生気を刈り尽くそうとするものであることは間違いなかった。

 両膝をついた状態で呆然と地面を見る

「アンタは今見たはずよ。イカロスが勝ったらこの世界がどうなるのか待ち受けている未来の光景をね」

 智子は智樹に映像の正体を告げる。

「シナプスやエンジェロイドと楽しく平和になんていうくだらない理想を唱えた男の末路がアレよ。それがアンタの果てだって理解した?」

 智子は酷く醒めた瞳で智樹を見ている。

「空女王によって改変された世界で女は全て消される。あの子の理想恋愛に女は一切不要だから。そして、あるのは男しか残らず遠からず滅亡を約束された世界とアンタの総受けのみ」

 智子の声は妙にさばさばしていた。

「アンタが……イカロスたちとずっと一緒にいたいと望んだ結果が世界の滅亡よ。智樹の想いが世界を滅ぼすのよっ! 分かってるのっ!?」

 智子の声が大きくなる。

 

「………………っ!!」

 智樹は右手で思い切り地面を叩く。

 そして勢い良く立ち上がりながら3度ニンフとそはらのパンツを召喚し、智子に向かって切り掛かった。

「このぉおおおおおおおおおおおおぉっ!!」

 智樹の今までよりも遥かに重い一撃が智子を襲う。

「何故、まだ分からないのよっ!!」

 2枚のパンツを智子は左手1本で受け止める。

「アンタは本当に平和を愛しているのっ!? アンタの存在は平和を壊すのよっ!! 世界を滅亡へと導くのっ!」

 智子も先程よりも重い一撃を智樹へと打ち返す。

「愛してるんじゃないっ! 俺は平和を作り……守っていくんだっ!!」

 智樹のパンツと智子のパンツが激突し激しい火花を散らす。

「絶対に……守り抜いてみせるんだぁあああぁっ!!」

「アンタならそう言うでしょうね。だって、今のままがアンタにとっては一番都合が良いでしょうからねっ!」

 更に激しい剣戟と共により激しい火花が散って放たれる。

「アンタは……ただ浸っているだけなのよっ! アンタを慕ってくれる可愛いエンジェロイド達との生活があまりにも幸せだから。世界がおかしくなっていることに気付いててもそれを見ないフリをしているだけなのよっ!」

 智子の猛撃。智樹は押されていく。

「アンタの唱える平和なんて……所詮は紛い物なのよっ!!」

 智子は大きくパンツを振りかぶってキメに掛かる。

 だが、その渾身の一撃を智樹の2枚のパンツに止められてしまう。

「なっ!?」

 だが、それでも智子は怯まない。智樹への攻撃を続ける。

「アンタが…イカロスと一緒にいるから、アンタが…ニンフと一緒にいるから、アンタが…アストレアと一緒にいるから世界はどんどん壊れていってんのよっ! アンタと出会ってしまったことであの子達もおかしくなったってどうして気付かないのよっ!!」

 智子の攻勢は更に増す。

「アンタの存在は……結局ニンフ達も不幸にするのよっ!!」

 智子の攻撃で智樹のパンツがまたまた砕かれる。

 だが、それでも智樹の瞳は勝負をまるで諦めていない。いや、戦い始めた時よりも一層激しい闘志をその身体に燃やしていた。

 

「智樹……アンタっ!」

「オメェには負けねえっ!!」

 智樹は強力な眼光で智子を睨みながら再びパンツを召喚する。

「誰かに負けるのは仕方ねえ。けど、自分には負けられねえんだよっ!!」

 智樹が吼えた。

「…………じゃねえんだよっ!!」

 智樹の渾身の一撃が智子へと放たれる。その両腕から放たれる攻撃の重さに智子の身体が微かにぶれる。

「間違いなんかじゃねえんだよっ!!」

 智樹が再び重い一撃を放ってくる。不恰好で先程まで自分に見せていた洗練された剣技とはまるで似つかない代物。

「くっ!?」

 だが、智子はその一撃を受けずに後方に飛んで避けた。

「アイツらが……ニンフ達が幸せそうに笑ってくれるのを見るのが間違いであるものかぁっ!! アイツらの幸せを守ろうとすることが間違いである筈があるかぁああああぁっ!」

 智樹が再び突っ込んでくる。

「舐めるなぁっ!!」

 智子は今度は逃げずに迎撃に移る。

 互いの渾身の力を入れて振り下ろされ交錯する3枚のパンツ。

「なっ!?」

 智樹の2枚のパンツは砕け散った。

 だが、智子のパンツもまた砕け散ってしまった。

「バカなっ!」

 智子は再び守形のパンツを召喚する。

 そして先程よりも更に鋭く早い突撃で智樹へと襲い掛かる。

「エンジェロイドが……シナプスがアンタの近くに存在することは間違いなのよっ!」

「ニンフ達は地上が楽しいって言ってくれてんだっ! 嬉しいって涙まで流してくれてんだっ! それが間違いであるものかぁああああああぁっ!」

 智子には智樹のパンツが砕けない。素人丸出しに戻っている剣術が叩き伏せられない。

 何故?

 心の中で自分に問い掛ける。

 自分は手など抜いていない。

 なのに、隙だらけのその全身に剣を叩き込んではいない。

 正面から智樹の剣を弾き返している。

 何故?

 何故、こんな重くて不細工な剣を正面から弾き返している?

 分からない。分からない。

「俺はっ、アイツらがいたいと言ってくれる限り、いつまでだってニンフ達と一緒にいる。その間、何度だって地球を救ってみせるっ! それが、ニンフ達と一緒にいるってことだろうがぁああああああぁっ!!」

 また、智樹の剣を正面から受ける。

 分からない。分からない。

 けれど、智樹から目が離せない。

 その言葉が耳に張り付いて離れない。

 何故? 

 何故?

 

「智子だって……自分が生まれてきたことを後悔してんじゃねえぞぉおおおおおぉっ!!」

 

 智樹が左手のパンツを投げ捨て、右手のパンツを両手で持って全身弾丸と化して突っ込んで来た。

 あまりにも隙だらけ。

 剣術のどんな初心者でも簡単に切り伏せられる不恰好な突撃。

 けれど、身体が動かない。

 智樹の瞳を見ていると、その熱く燃えた瞳を見ていると……体が動かない。

 何故? 

 何故?

 頭が逡巡を繰り返している間に智樹は飛び込んで来た。

 智樹の身体が肩口にぶつかり、それとは違う痛みが下腹部を襲って来た。

 その痛みで……智子は自分が何故動けなかったのかようやく理解した。

 

 地面に大量の血が零れ落ちた。

 

「俺の……勝ちだ……智子」

 

 智樹は智子の腹にパンツを突き立てた状態で静かにそう告げた。

 

「そうね……そしてあたしの敗北ね……」

 

 智子は智樹に腹にパンツを突き立てられた状態で静かにそう返した。

「未来に何が待っていようと……後悔なんかしねえ。ニンフ達と一緒にいることが間違いだなんて絶対思わねえよ。……お前も含めてな」

 智樹の声がとても頼もしく聞こえた。

 

「フ…………っ」

 智子は随分と焼きが回ったものだと心の中で自嘲してみせる。

智樹ならもしかすると未来を守りきれるかも知れない。

 そんな考えが頭を過ぎる。

 妄想具現化(リアル・ダイヴゲーム)はいつの間にか解けていた。目の前に広がるのは日の完全に沈んだ神社の境内。

 このまま智樹がニンフと合流して万全の体調を整えそはらと3人で力を合わせれば或いは。そんな希望を抱いてしまう。

 だが、現実とはままならないものだった。

 

「……楽しませて頂きました。偽者同士、実に下らない三文芝居でした」

 

 少女の声と共に大量のアルテミスが本殿の角の奥から放たれて智子達を襲って来た。

 智子には分かった。自分も智樹もこのアルテミスから逃れるだけの体力は残っていないとが。

「チッ!」

 智子は智樹の肩を掴むと自分の後方へと思い切り放り投げた。その行為はアルテミスの標的を全て自分に向けることと同義だった。

「智子ちゃ~~~~んっ!!!」

 そはらの叫びが聞こえるのと智子の身体の周囲で大爆発が立て続けに起きるのはほぼ同じタイミングだった。

 

 

 つづく

 

 

 

 


 
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