No.308776

あたしのルリ姉がこんなに可愛いわけがない その1

pixivで4日ごとぐらいに更新している
俺の妹がこんなに可愛いわけがない五更日向の物語です。
8巻途中からの分岐物語です。9巻は読んでないので知りませぬ。
こちらでも1週間に2話ずつぐらい更新していこうとは思います。

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2011-09-28 00:29:24 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:6423   閲覧ユーザー数:3033

あたしのルリ姉がこんなに可愛いわけがない その1

 

 

「家族が重度の厨二病オタクっていうのは、多感なお年頃の少女にはすっごく逆境を招く要素だよね」

 あたし、五更日向は通学路を帰りながら我が身に起きてしまった不幸を嘆いていた。

 今日はつい、クラスの中でやってしまった。

 夏休み中の登校日。久しぶりに顔を合わせたクラスメイト。

 学級会でみんなの注目を浴びる中、ルリ姉が会話の中でよく使うフレーズを使って発言してしまっ た。

 クラスメイトを魔界の住人、先生を闇の教皇、学校を堕天俗人養成所とつい喋ってしまった。

 あたしたちはもう小学5年生。

 アニメや漫画の中の用語を日常生活で使ってはいけないことを知っている年頃だった。

 だけどオタ用語を使った人間をスルーして聞き流す技術を持つにはまだ幼すぎた。

 結果、あたしの発言は大炎上を招くことになった。あたしが喋った後のクラスメイトたちの反応はもう言うまでもないだろう。

「辛い……1日だったなあ」

 思い出すだけで泣いてしまいそうだった。

 あたし、別にアニメ好きじゃないのに。

 ルリ姉や珠希と話を合わせる為に見ているだけなのに。

 ルリ姉の毒電波の影響で時々変な言葉を発してしまうだけなのに。

 

 アニメだと子供という存在は大人に比べてとかく清純な存在として描かれがち。

 でも、あたしの目から見ればそれはとんでもない大きな誤解。

 何故なら小学校高学年の教室社会においては弱みを見せることは時として死を意味するのだから。

 一度弱みを見せてしまえば、その点を徹底して責められ続ける。長期的な損得計算を働かして自制する大人とはその点で大きく異なる。

「これでまたしばらくクラスで肩身が狭い思いをしないといけないんだろうな。はぁ~」

 溜め息が漏れ出る。

 

 あたしは元々クラスの中で不利な立場に置かれ易いネックを抱えている。

 一つは今述べたように重度のオタク女だと思われていること。

 そしてもう一つはうちが経済的に苦しい……要するに貧乏だということ。

 家が貧しいということはそれだけで不利なポジションに立たされ易い。

 もっと分かり易く言えば、いじめの標的にされたり、軽視・無視される対象にされたりもする。

 なのであたしは家に友達を連れて来るのがあまり好きじゃない。

 特に初めて招く時はすっごく緊張する。

 あたしの通う学校はお嬢さま、お坊ちゃまの子も多く、あたしの家を見せるとカルチャーショックを受ける子もいたりする。

 家に招いた翌日から急に態度がよそよそしくなった子もいた。

 その原因に察しがつく年頃になってしまっただけにあたしは自分の家に友達を呼ぶのは気が重い。

 そして加えて家にはルリ姉がいる。

 ルリ姉が電波を受信している姿を見られようものなら、その子は確実にあたしから離れていってしまう。

「……変……じゃなくて、変わった、お姉さん……だね……」

 色々な言葉を飲み込みながら引き攣った顔を見せる友達を見るのはあたしの方が辛い。

「ルリ姉……どこで道を踏み外したんだろ?」

 ルリ姉は昔あたしにきっぱりと言ったことがある。

 

『人間はオタクに生まれるのではない。オタクになるのよ』

 

 この言葉を信じるならルリ姉は生まれて来た時から厨二病オタクだったわけじゃない。

 育っていく過程の中で自ら厨二邪気眼オタクになっていったことになる。

 そこには何か原因、そこまで堅苦しいことを言わなくてもきっかけがあるはず。

 昔のことを思い出してみる。

「ルリ姉があたしと同い年ぐらいの時って、オタクだったっけ?」

 あたしとルリ姉は5歳違い。

 ルリ姉があたしと同じ11歳の時のことを思い出してみる。

「ルリ姉は……あたしより全然大人だったよね」

 五更家の長女として、共働きの両親に代わって家事を取り仕切るルリ姉は今の私よりも遥かにしっかりした少女だった。家事能力はもう比較にならない程の差があった。

「そして、地味だったような……」

 あたしの洋服はほとんどがルリ姉のお下がり。

 そしてその洋服が地味、ダサい、田舎っぽいのオンパレード。

 そのせいであたしの洋服もいつも地味。

 中学に入ってしばらく経ち、黒ゴスロリで堂々と御近所を歩き回るようになったのを考えると雲泥の差。

 やっぱり、ルリ姉は生まれた時からオタクだったわけじゃない。

 オタクになったんだ。

 

「けど、ルリ姉がオタクになったのっていつの頃からだっけ?」

 ルリ姉が小学生の時には真人間だったのは確か。

 じゃあ、いつ頃からあんな電波女になってしまったのか?

 そして、邪気眼女になってしまった原因は何か?

 よく思い出せない。

「まあ好きな人もできたことだし、少しずつまともになっていくよね? あのままの性格だと高坂くんに絶対に嫌われるし」

 何故ルリ姉がハード・オタクになったのかは思い出せない。

 高坂くんと付き合っていきたいのなら電波を封じていくしかない。

 そして実際にルリ姉は変わった。

 あたしがオタク的言動をやめてと幾ら頼んでも聞き入れなかったルリ姉。そのルリ姉が色気づいてから厨二的言動を自ら少しずつ抑えるようになった。

 

 

 ルリ姉の想い人、高坂京介くんはルリ姉の高校の先輩で2歳年上の18歳。

 でも出会ったのは高校じゃなくてルリ姉の友達のビッチさんを通じてらしい。

 何でもルリ姉とビッチさんは同じチャットのオフ会で知り合って、高坂くんはそのオフ会にビッチさんが心配になって付いてきたとか。で、ルリ姉と高坂くんは知り合ったと。

 平たく言うとルリ姉は友達のお兄さんに恋をしたことになる。

 それはルリ姉にとって多分初めての恋。

 

 恋に目覚めたルリ姉の行動力は目を見張るものがあった。

 高校受験直前に受験校を変えた。

 ワンランク上の公立高校を受験することをなった。

 ルリ姉は高坂くんと一緒の学校に通う為に受験校を変えたのだ。

 あの電波邪気眼厨二病ルリ姉が、そんな乙女的行動を取るなんて……。

 でもルリ姉の乙女的行動はそれだけじゃなかった。

 ルリ姉は高校に入ってからゲーム研究会という部活に入った。

 そして帰りが遅くなることが増えた。

 何とルリ姉は高坂くんの家で一緒にゲームを作っていて遅くなっていたのだ。

 それをあたしはルリ姉の電話の会話を盗み聞いて知った。

 それからあたしの高坂くんに対する関心は急上昇していった。

 けれど、ルリ姉は高坂くんとの仲を否定し、会わせてもくれなかった。

 そうして京介くんがどんな人物か知らないままあたしは夏休みを迎えた。

 

 

 

 五更家の子供にとって夏休みはあまり楽しいものじゃない。

 家は貧しいし、両親は常に仕事に出ているしで旅行なんてことはない。

 一方で友達は外国だの親戚の家だの何だの遠い所に出掛けちゃって地元にいない。

 小学生はバイトもできない。

 そんなこんなであたしは凄く退屈な休みを過ごしていた。

 けれど、ルリ姉は違った。

 毎日とてもリア充していた。

 バイトに行っていない時間のほとんどは高坂くんと一緒に過ごしていた。

 その行動は暇で暇で仕方がなくておまけに高坂くんに興味津々だったあたしと妹の珠希の好奇心を煽った。

 そして夏休みも後半に差し掛かったある日、あたしたちはルリ姉の後を追って家を出た。

 高坂くんの家がごく近所であることは、電話の盗み聞きから確証を得ていた。

 だからほんの10分足らず尾行に成功すれば高坂くんの家に辿り着けるはずだった。

 けれど、ルリ姉の尾行を撒く能力は大したものだった。

 5分ほど尾けた所であたしたちはルリ姉を見失った。

 そしてあたしたちが途方に暮れていた所に声を掛けたのが見知らぬお兄さんだった。

 

「あー、君たち、こんな所でうろうろしてもしかして迷子か?」

 子供に親切に声を掛けただけでも誘拐犯にされかねないこの時代、高校生ぐらいのお兄さんはさらりと声を掛けて来た。

 そのお兄さんは所謂イケメンではなかった。けれど、あたしの心には何かがグッと来た。

 胸が急に高鳴り出した。頬が熱くなって来る。息苦しい。

 でも、嫌じゃない。

 凄く、嬉しい。

 それはあたしにとって初めて感じる感情のうねりだった。

「えーと、何て言うか……」

 上の空で返答を考えた。お兄さんの顔を見ているとまともに思考できない。

「はい。姉さまを追い掛けていて見失ってしまいました」

 対して珠希はあっさりと頷いてみせた。

 人見知りしがちな珠希がこんなにも素直に答えるなんて不思議だった。

「なるほど、迷子か」

「正確に言うと、迷子じゃなくて、姉の行方がわからなくなったんですけれども……」

 小5になって迷子はかなり恥ずかしい。

 というか、家の方向はわかっているのだから迷子とは違う。あくまでも尾行に失敗しただけ。

「お姉さんの目的地がわかれば、送っていってあげることもできるんだが……」

 お兄さんは首を捻って見せた。微妙に苦い表情を浮かべていた。

「あの、どうしてあたしたちにそんなに構うんですか?」

「もしかして……なんぱですか?」

 珠希は瞳をキラキラに輝かせていた。本気でナンパされていると思っているらしい。

 一体誰があたしの妹にナンパなんていう恐ろしい言葉を教えたのやら。……って、考えるまでもなくルリ姉の見ているアニメで吸収した知識に違いなかった。

「あっはっはっはっは。なかなか面白いことを言うじゃないか。おぜうさんたちは」

 お兄さんは楽しそうに笑っていた。

 その笑いに秘められた自信。

 それは普段女の子から酷い悪口を言われ続けて免疫が出来てしまった者だけが持つ余裕。

 そんな哀愁をお兄さんから感じ取った。

「俺は妹の面倒を見るのが大好きな兄貴ってだけの生き物さ」

 お兄さんは白い歯を綻ばせた。

 その笑顔を見て、あたしは再びドキュ~ンって胸が高鳴った。

 そしてあたしは理解した。

 自分が抱いたこの新しい感情の正体を。

 あたしは、このお兄さんに一目惚れしてしまったのだと。

「ロリコンはみんなそう言うんですよ~だ」

 あっかんべーしてお兄さんに楯突いてみせる。

 お兄さんにあたしの気持ちを知られてしまうのは何だかとても恥ずかしいことに思えた。

 だから、精一杯生意気な態度を取って気持ちを知られないようにする。

「おいおいおい。俺を勝手にロリコン扱いしてもらっちゃ困るぜ。俺に一人前のレディーとして見てもらいたければせめて妹より年上、高校生ぐらいになってもらわないとだな」

 お兄さんは両手を広げながら余裕の表情とポーズを取って見せる。

 でも、小学生の少女に対してロリコンでないことを体全体で表現しようとすること自体が逆に怪し過ぎる。

 もしかして、あたしにも脈があるのかな?

 もしそうだとしたら、どうしようっ?

 あたし、このお兄さんとお付き合いすることになっちゃうの?

 そうするとキス、とかもその内にしちゃうのかな?

 まだ、お兄さんの名前も知らないのにぃ~♪

「あの、お兄ちゃんは何ていうお名前ですか?」

 あたしが未来絵図に心を躍らせていると、珠希が横からお兄さんの名前を尋ねた。

 いつも引っ込み思案な妹にはとても珍しいことだった。

 よく見れば妹の瞳がいつも以上にピカピカに光り輝いている。

 その普段とは違う様子を見て、あたしは姉として悟らずには要られなかった。

 珠希もこのお兄さんに恋をしたのだと。

 姉妹揃って、同じ人に恋をしてしまうとは……。

 姉妹の絆の深さを感じるやらやり難いやら。

 うん。困った。

「ああ、そう言えばまだ自己紹介をしてなかったな」

 お兄さんに瞳を向ける。

 そしてお兄さんの口から発せられた名前。

 それは──

「俺の名前は高坂京介。この近くの公立高校に通う高校3年生だ」

 お兄さんは白い歯を光らせながら笑った。

 そしてあたしは運命というものを感じずにいられなかった。

 いや、皮肉と言うべきかもしれないけれど。

 

「あらっ、先輩。家にいないでこんな往来でどうしたの?」

 そして背後から聞こえて来た聞き慣れた声。

「おう、黒猫。実は道に迷ってしまった姉妹を送っていってあげようかと思っていた所なんだ」

 やっぱり、確認するまでもなく声の主はルリ姉。

 つまり、この目の前のお兄さんがルリ姉の想い人。

「へぇ~先輩が人助けとはね。やっぱり、年下の女にだけは優しいのねぇ」

「ほっとけっ!」

 ルリ姉はゆっくりとあたしたちの前へと回り込みお兄さんの隣に立った。

 そしてあたしたちの顔を覗き込んで来た。

「……って、日向と珠希じゃないのっ!?」

 ルリ姉の顔が瞬時にして引き攣る。

「黒猫の知り合いか?」

「知り合いも何も……」

 口篭るルリ姉。

 だから、あたしが言葉を引き継いだ。

「ルリ姉の想い人がどんな人なのか見に来ました五更日向です。そしてこっちは妹の珠希です」

 お兄さんに向かって頭を下げる。

「じゃあ君たちは黒猫の妹ってことかよっ!?」

 驚いてのけぞるお兄さん。

「ルリ姉ともどもよろしくお願いしますね、高坂くん♪」

 あたしは最高の笑顔でルリ姉の想い人に挨拶した。

 

 これがあたしと高坂くんの初めての出会いだった。

 あたしの人生が大きく変わる、本当の夏の始まりの瞬間。

 

 続く

 

 

 

 


 
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