No.200529

バカとテストと召喚獣 僕と木下姉弟とベストフレンド決定戦 その4


本作品の設定の一部はnao様の作品の設定をお借りしています。
http://www.tinami.com/view/178913 (バカと優等生と最初の一歩 第一問)
本作品はバカコメが主体ですので重点が変わった優子さんになっていますが。

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2011-02-09 07:40:54 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:8667   閲覧ユーザー数:8133

総文字数約16000字 原稿用紙表記枚52枚

 

 

バカテスト 世界史

 

【第四問】

 

問 以下の問いに答えなさい

『日本で世界三大美女に数えられているのは(1)と(2)と(3)である』

 

 

木下優子の答え

『(1)クレオパトラ (2)楊貴妃 (3)小野小町』

 

 

教師のコメント

 正解です。日本以外では小野小町の代わりにギリシャ神話に登場するヘレネーを加えるのがメジャーなようですね。

 

 

吉井明久の答え

『(1)姫■■■ (2)■■秀■ (3)■■■■ 島田美波』

 

教師のコメント

 吉井くんの答案はよく血だらけになりますね

 

 

坂本雄二の答え

『(1)クレオパトラ (2)楊貴妃 (3)■■■■ 霧島翔子』

 

教師のコメント

 坂本くんの答案もよく血だらけになりますよね

 

 

木下秀吉の答え

『(1)■■■ワシはこんな解答は書きたくないのじゃが■■明久にアピールしておけという姉上の命令なので■■木下優子と答えてみる■■■』

 

教師のコメント

 Fクラスでは試験の最中に暴力行為が頻繁に発生しているようですね

 

 

玉野美紀の答え

『(1)総受けアキちゃん (2)無口でキュートな香美ちゃん (3)文月学園女子生徒人気ナンバー1の木下秀吉くん』

 

教師のコメント

 美女の定義に当てはまらない人ばかり並んでいる気がします

 

 

 

 

バカとテストと召喚獣 二次創作

僕と木下姉弟とベストフレンド決定戦 その4

 

 

『……雄二、ちょっとこっちに来て』

『何だ翔子? 俺もお前もこれからベストフレンド決定戦に参加する忙しい身だろうが』

『……はい、これ』

『って、何故にお前はナチュラルに俺に首輪を掛けるんだ!?』

『……私には、その権利がある』

『何だ、その手書きのチケットみたいなものは……って、俺の1日自由使用権だとぉっ!?』

『……親切な人がくれた』

『明久のヤツだなっ! あの野郎、俺が優勝したら酷い目に遭わされると思って先に報復手段に打って出やがったな!』

『……そんな些細なことよりも、雄二に聴きたいことがある』

『俺の自由の侵害は些細なことじゃねえ! で、話って何だ?』

『……昨日の日曜日、雄二はどこにいたの?』

『お前から逃げ回る為に早朝マラソンをして、その後は明久の家に逃げ込んでたな』

『……つまり、吉井は雄二の裸エプロンを独り占めして堪能していた』

『どうしてそういう結論になるっ!?』

『……自然の摂理』

『どこが自然の摂理だ! そう言えば翔子は俺が明久の家に逃げ込むと追って来ないよな。何でだ?』

『……夫の浮気現場をこの目で直に見てしまうのは私も辛い』

『俺と明久を愛人関係のように扱うのはやめろ!』

『……雄二×吉井は自然の摂理だから仕方ない』

『だから何が自然の摂理なんだ? もう用件が済んだのなら俺は行くぞ。大会前に明久に一言文句を言ってやらなにゃ気が済まねえ』

『……待って。もう1つだけ尋ねたいことがある』

『下らない質問だったら怒るぞ』

『……雄二は何故この決定戦に参加するの?』

『…………明久をからかえて面白そうだから、だ』

『……雄二の行動は瑞希や島田、優子の恋路の邪魔になっている。それがわかっていて参加するのは雄二らしくない』

『その言い方だと俺は随分女子に優しい男みたいに聞こえるのだが?』

『……雄二は女の子に優しい。それは雄二にいつも優しくしてもらっている私が一番良く知っている』

『俺は自分で言うのも何だがお前を凄く邪険に扱っていると思うぞ』

『……雄二がテレ屋さんなのはよく知っているから』

『俺も随分と高く持ち上げられているもんだ』

『……私は雄二の良い所を誰よりもよく知っているから。それで、参加の理由は何?』

『…………散々持ち上げてもらって悪いが、俺がこの決定戦に参加した真の理由は、試召戦争でお前のいるA組に勝つ布石を張る為だ』

『……私たちに勝つ為の布石?』

『そいつの中身を今言うことはできないが、翔子も知っての通りF組はバカの集まりだ。俺が口で百回説明するよりも秘策を1回実際に見せた方が理解が早い。そしてこの決定戦はあいつらにそれを披露するには持って来いの機会なんだよ』

『……よくはわからないけれど、雄二は私に勝ちたいからこの決定戦に参加したのね?』

『そういうことだ。俺は私利私欲の為に動いている。だから翔子が考えているような女に優しい人間じゃない』

『……雄二はやっぱり優しい』

『どうしてそうなる?』

『……雄二は私のことを想ってこの決定戦に参加したということでしょ?』

『グッ』

『……雄二、頑張って』

『俺はお前を倒す為に画策しているんだぞ?』

『……妻は夫の行動を応援するものだから』

『……勝手にしろ』

 

 

 

 

「それじゃあ、みんなお待ちかね、文月学園実行委員会プレゼンツ、吉井明久くんベストフレンド決定戦を始めるよぉ~っ!」

 工藤さんのマイクパフォーマンスと共に体育館は大歓声に包まれる。

 体育館には全校生徒のおよそ半分、4百から5百名の生徒たちが決定戦を観戦しに押し寄せている。急遽授業を潰しての学園行事に生徒たちの心も盛り上がっているようだ。

 ちなみに体育館に来ていない生徒は自習したり、校庭で遊んだりと思い思いの時間の過ごし方をしている。決定戦にどう関わるのか自分で決めるのも人間教育の一環とのことだ。

 そして本日のイベントの中心にいる僕は──

「何で僕の友達を決める大会なのに、縛られて足に鉄球まで嵌められているのぉ~っ!?」

 椅子に縛り付けられて身動きできないように厳重に拘束されていた。おまけに横にはFFF団の黒装束を着た須川くんと横溝くんが鎌を僕の首に向けながら立っている。

 完璧に人質扱いだった。

「えっとぉ、ごめんね吉井く~ん。ボクもこの扱いは色々とマズいとは思ったんだけど周囲の声がねぇ」

 頭をポリポリと掻く工藤さん。

「人間教育の為ですから問題ありません」

 僕の惨状を人間教育の為の一言で切って捨てる高橋先生。

「流石は学年主任の高橋女史。完璧な教育理論の持ち主だな」

「雄二は僕の惨劇を楽しんでいるだけだよねっ!?」

 しきりに感心した様に頭を振って頷く雄二がムカつく。

「こんな酷い扱いでは僕の人間性が歪んでしまうとは思いませんか、高橋先生!?」

「確かに吉井くんの言うことは一理あるかもしれません。今日1日、吉井くんにその体勢で過ごしてもらった後、拘束が人体に及ぼす影響について先生と話し合いましょう。その体勢のままで」

 ダメだ。高橋先生はどこかが完璧にずれている。鉄人以上にやり難い。

 

「それじゃあ吉井くんも抵抗を諦めたみたいだから大会の進行について説明するねぇ」

 ガックリと首を落としてうな垂れる横で工藤さんが大会を進行させていく。人はいつだって孤独だ……。

「まず第1回戦は知力、体力、時の運の3つの勝負を行ってもらい、得点上位4名が準決勝に進めるよぉ」

 僕の扱いはともかく、大会自体はまともで本格的なものらしい。

「ではではここで大会の進行をお手伝いしてくれるアシスタントさんたちを紹介するねぇ」

 アシスタントまで使うとは大会自体は期待できるかもしれない。ちょっと興味を惹かれながら壇上に登ってきたアシスタントさんとやらを見る。そこに立つショートカットの女の人は……ゲッ。

「アシスタント1号は、吉井くんのお姉さんである吉井玲さ~ん」

「本日は私の弟、アキくんの為にこんな盛大な催しを開いて頂いてありがとうございます」

「工藤さんッ、人選最悪だよッ!」

 ちょっとでも興味を抱いてしまった自分を心の中で最大限になじる。姉さんが介入する大会がまともになる筈がない。今朝いなかったのはこの為だったのか。最悪だ。

「吉井にこんな美人のお姉さんがいるなど許されるのか!?」

 その姉さんは外見だけならスタイルの良い美人なので生徒たちから大人気を博している。須川くんも美人な姉を羨ましがっているのか、鎌が今にも僕の首に食い込みそう。というか、もう食い込んでいる。

 けれど、そんな評価は姉さんの実態を知らないからのもの。姉さんの常識外れぶりを知れば誰だって引く。頼むからもうこれ以上変な人が増えないで欲しい……。

 

 

 

「そしてアシスタント2号は、実は吉井くんに最初に愛の告白をした女の子、2年D組玉野美紀ちゃ~ん」

 あの、髪をおさげに結った女の子は……ゲッ。

「あの……私、玉野美紀って言います。今日は総受けのアキちゃん、じゃなくて吉井くんのおホモだち、じゃなくてお友達を決める穴会、じゃなくて大会に関わらせて頂いて大変光栄ですっ! よろしくお願いします」

「何なの、その悪意すら感じる言い間違いは!?」

 変な人が増えないで欲しいという僕の願いは天に届かなかった。

 工藤さんのアナウンスを聞いて会場内は一斉に怒号に包まれる。

「明久が女子に告白されただってぇ!? 殺せえ~っ! 奴だけは生かしちゃおけない!」

 一際大きな怒声がF組の生徒たちの集まるエリアから聞こえる。

 って、その中心にいるのは──

「雄二ッ! 貴様ぁ~ッ!」

 F組を率先して煽っているのは雄二だった。

「吉井明久、異端審問会の血の掟に背いた罪で処刑に処す」

 須川くんも横溝くんも僕が玉野さんに告白されたと聞いて殺気立っている。

 好きと言われたのは正確には僕じゃなくて、女装姿のアキちゃんの方だと言うのに。彼女は男としての僕には関心がないと言うのに!

 しかしこの嫉妬の塊と化した魑魅魍魎どもにそんな理屈が通じる筈がない。何とか逃げ延びないといけないけれど、こう頑丈に拘束されていては動くことさえ叶わない。

 誰かに助けを求めなくちゃいけない。だけど、一体誰に?

 雄二は煽る側の中心人物だし、ムッツリーニもFFF団側の人間だから無理。となると、頼れるのはあの子しかいない!

「秀吉ッ! 僕を助けてっ!」

「すまぬが、今の明久を助ける気分にはどうしてもなれんのじゃ」

 しかし頼みの綱の筈の秀吉は不機嫌そうな顔をしながらそっぽを向いてしまった。

『あ、明久くんに告白した女の子がいるだなんて……ど、どうしましょう、美な、じゃなくてビューティフルヴィーアブちゃんっ!?』

『お、落ち着くのよ瑞、じゃなくてプリンセスロード。ドイツ帰国子女はうろたえないぃいぃいぃのよぉッ!』

 大会に突如参戦してきた謎の仮面少女ビューティフルヴィーアブさんとプリンセスロードさんも全身をガタガタ震わせながら動揺している。何でこんなに怪しい人たちなのに、その正体について誰も騒がないのだろう? 

 2人のあの凹凸激しい胸は絶対に特徴的だと思うのに。あの胸は。あの胸はぁっ!

「え~いっ! 静まりなさい、みんなッ!」

 そして大混乱に陥りかけた会場を一喝して黙らせる澄んだ大きな声。秀吉と瓜二つの顔をした女の子はいつもの様に腕を組み凛々しい態度で会場を黙らせた。

「吉井くんは玉野さんに告白された。でも付き合っていない。そうなんでしょ?」

 お姉さんは僕に近付いてくると、みんなに聞こえる様に大きな声で質問してきた。ほんの少し苛立ちを含んでいるように聞こえるけれど、よく通る綺麗な声だった。

「僕と玉野さんは付き合っていないよ。玉野さんが興味あるのは、僕じゃなくて女装姿の僕なんだから」

 僕も会場全体に聞こえるように大きな声で答える。

「これでわかったでしょ? 吉井くんには彼女がいない。騒ぐことなんか何もないでしょ」

「人が人を好きになるというのは自由だからね。好きになること自体を咎めてはダメさ」

「……玉野にも吉井にも罪はない」

 久保くんと霧島さんもお姉さんに同調してくれたおかげで会場はようやく沈静化した。

 だけど本当にこの大会は僕の心臓に悪い影響を与えすぎる。

「え~と、人を紹介する度に騒ぎが大きくなって困っちゃうんだけど、続いてはこのイベントの発起人である島田葉月ちゃんを紹介するよぉ」

 スポンサー席に座っている葉月ちゃんが立ち上がる。何でも小学校の方がインフルエンザの流行で学級閉鎖になったとかで朝から文月学園に来ているらしい。

「葉月は、お婿さんであるバカなお兄ちゃんの為にこんな盛大なイベントを開いてもらったことにとっても感謝しているのです。バカなお兄ちゃんのお嫁さんはファーストキッスもあげた葉月で決まりですが、お友達を決めるイベントは大歓迎なのです」

 葉月ちゃんの挨拶を聞いて会場が再び騒然となったことは言うまでもないだろう。しかも今度はお姉さんまで怒り狂う側に回ってしまった……。

 

 

 

「それじゃあ、第1回戦の第1種目は、みんなに吉井くんに関する知識を問うクイズ大会だよぉ。吉井くんのベストフレンドたる者、吉井くんのことはよく知っていないとね♪」

 最初の種目はクイズ大会。クイズという選択は妥当だと思うのだけど、どうにも嫌な予感がして止まない。何しろクイズの内容が僕に関する知識なのだから。

「ちなみに出題及び答えを審査してくれるのは吉井玲さんと玉野美紀ちゃんだよぉ」

「ああっ、このクイズは絶対ろくな物にはならないや」

出題者が絶対的におかしいもの。というか、これ以上ないぐらい変な人たちに出題を任せちゃってるよ、工藤さん?

 僕の嫌な予感を他所をクイズ大会の準備が進んでいく。僅か3分ほどでテレビ番組で見るような本格的なクイズ解答台が8つ壇上に設置された。

 そして決定戦の参加者たちがそれぞれ台へと赴いていく。

 始まって欲しくないと思いつつも身動きが取れない僕にできることはない。見ているだけしかできない無力さに涙しつつ、クイズ大会が少しでもまともなものになって欲しいと神様に祈る。叶わぬ願いだと知っていながら……。

 

「それでは、第1問目を私の方から出題させて頂きます」

 いきなり姉さんからの出題か。この際、多少世間ずれした問題ぐらいなら構わない。お願いだから、僕の社会的生命を絶つような出題だけは勘弁してくださいッ!

「問題。アキくんの不純異性交遊の具体的事例を述べてください」

「それがクイズかぁあああああぁっ!」

 それはクイズじゃなくて、姉さんが僕のプライベートを嗅ぎ回りたいだけの情報収集だぁ~っ!

 だけど、考え方によっては悪くない問題だ。こんなおかしな問題なら誰だって解答を躊躇する筈。こんなバカげた問題は解答者ゼロでお流れになるに違いない!

 

  ピンポーン

 

 ……押しやがったよ。雄二のバカが。

 アイツ一体、何を答える気だ?

「明久は教室で半径3m以内に女子がいるという不純な環境の中で毎日睡眠学習している」

「教室なんだから、女子が近くにいたっておかしくないでしょうがっ! しかも、睡眠学習って、僕は寝てばっかりなのっ!?」

 体が動かせない分、口で全力のツッコミを入れる。

「フッ、謙遜するな明久。お前に鎌を構えている須川なんか一番近い女子である秀吉までの距離だって5m以上ある。それにお前、授業の大半は寝て過ごしているじゃないか」

「雄二、ワシは女子ではないぞ!」

 雄二に反論されて唇を噛む。

「ごめんね、須川くん。僕、調子に乗っていたかもしれない」

「やめろぉ、吉井~っ! 俺をそんな同情の眼差しで見るなあ! 異端審問会は誇り高き紳士の集まりなんだ! 女に全く相手にされてないことを憐れまれる集団じゃなぃ~っ!」

 須川くんは蹲って苦しみ始めてしまった。人間、こうはなりたくないものだ。

「坂本くんの解答を不純異性交遊と認めます。坂本くんに1点を差し上げます」

「よっしゃ。幸先いいスタートだぜ」

 ガッツポーズを作って喜びを表現する雄二。

「ちなみにアキくん、不純異性交遊と授業中の態度に関して話があるので大会が終わったら姉さんの所まで来てください」

「先生も吉井くんのハーレム王阻止対策は真剣に協議する必要があると思います」

「本当に最悪だよ、このクイズ大会は……」

 まだ1問終わっただけなのに先が思いやられる。

 

 

 

「続いて第2問目も私からの出題となります」

 また姉さんか。まあさっき変な問題が出たからあれ以上変な問題は出ないとは思うけど。

「アキくんの不純同性交遊の具体的事例を述べてください♪」

「だからそれはクイズじゃな~いっ!」

 しかも姉さん、何でそんなに嬉しそうなの?

 だけど、こんなおかしな問題に今度こそ解答者はゼロだろう。だって僕は不純同性交遊なんてしてないのだから。

 

  ピンポーン

 

 ……押しちゃったよ。今度は霧島さんが。

 えっ? 霧島さん?

「お~と、代表がここで解答してくるとはちょっと意外だったけど、霧島翔子さん、答えをどうぞぉ」

「……雄二の裸エプロンは吉井のもの。昨日もそう……」

 悔しそうに声を絞り出す霧島さん。

 静まり返る場内。そして──

「「事実無根だぁあああああぁっ!」」

 僕と雄二の声がハモった。

「やっぱり明久くんと坂本くんはもうそんな爛れた関係になってしまっているのですね。どうしましょう、美な……じゃなくてビューティフルヴィーアブちゃん?」

「ウチらが優勝してアキに女性の素晴らしさを少しずつ教えていくしかないでしょ。アキの頭は坂本のことで一杯だろうから大変だろうけど」

「『雄二×明久』本ってやっぱり事実を元に描かれた本だったのね。フィクションにしてはリアリティーがありすぎると思っていたのよ」

 だけど参加者の女性陣は誰1人として僕たちの関係を否定してくれない。一体何故?

 雄二の裸エプロンって誰得なのさ!

「アキくんの隠された真実を明らかにした霧島翔子さんには千点を差し上げちゃいます♪」

「隠された真実じゃないよッ! ただの捏造だよ、姉さんッ!」

「何で俺の得点は1点で、翔子の得点は千点なんだっ!」

 僕と雄二が文句を述べるけれど姉さんは取り合ってくれない。

「姉さんは不純同性交遊は大歓迎で~す♪」

 姉さん、アメリカに留学する前はもう少しまともだったと思うんだけどなあ。

「先生も坂本くんの裸エプロンはアリだと思います」

 ……頭の良い女の人ってどこかおかしくないといけない決まりでもあるのだろうか?

 

 

「第3問目は私、玉野美紀からの出題です」

 姉さんが出題から外れてくれてホッと一息。

 さて、玉野さんはどんな問題を出すのかな?

「アキちゃ……吉井明久くんのファーストキスの相手は誰で場所はどこでしょう?」

「えぇえええええええぇっ!?」

 姉さんの問題とは方向性が違うけど、直球でこっ恥ずかしい問題が来たぁあああぁっ!

「「あっ」」

 何故かビューティフルヴィーアブ仮面さんと目が合ってしまった。その途端、彼女は恥ずかしそうに頬を染めながら目を逸らした。その仕草が何だか美波とそっくりで、美波と通学路でファーストキスをした時のことを思い出してしまった。

 って、美波との嬉し恥ずかしのファーストキス体験を白日の下に晒されてしまうのか、僕は!?

 

  ピンポーン

 

 ……解答ボタンを押したのはお姉さんだった。あれ?

 お姉さんが僕と美波の秘密の体験を知っているとは考えにくいのだけど……?

「参加者の中で吉井くんの恋愛事情に一番疎そうな優子が解答権を得るのはちょっと意外かな。でも、木下優子さん、はりきって解答をどうぞ~」

 お姉さんが大きく深呼吸を行う。緊張の一瞬。

「吉井くんのファーストキスの相手は坂本くん。入学式当日に、校内の茂みの中に連れ込まれて強引に唇とその他諸々を奪われたのよ!」

 お姉さんの語りはこれまでに聞いたことがないほどに熱かった。

 再び静まり返る場内。そして──

「「だから事実無根だぁあああああぁっ!」」

 僕と雄二の声が再びハモった。

「大正解なの! アキちゃんが坂本くんに入学式の日に強引に唇とその他諸々を奪われた実録模様は、文月学園漫研製作『雄二×明久 vol.1 野獣たちの夜明け』に出てるからみんな読んでね」

「こんな問題、文月学園生の常識よ!」

「先生も確かにそれは文月学園の常識だと思います。この間没収した『雄二×明久』漫画の既刊シリーズ全巻を読破して学びましたから」

 男同士の恋愛の捏造劇が常識って、この学校はどこかおかしいと思います。

「アキくんのファーストキスの相手が坂本くんだったとは姉さん感激しました。木下優子さんに千点差し上げます♪」

 姉さんは僕のファーストキスの相手が男だったとしてそれの何が嬉しいの?

「バカなお兄ちゃんのファーストキッスの相手が葉月じゃないのはちょっとお冠なのです」

 そして頬をプク~と膨らませた葉月ちゃんの危険な一言。

「そう言えば吉井くん、さっきその小さな子にキスしたって聞いたけど?」

「お、お姉さんっ。幾ら幼い男の子か可愛い女の子が大好きだからって、僕に八つ当たりするのは間違いだってば!」

「アタシはちゃんと、リアルでは同年代の男の子が好きだってのっ!」

「リアルって何さぁああああぁっ!」

 お姉さんの締め技を受けて意識が霞んでいく中、やっぱりこのクイズ大会はろくでもないと思うのだった。

 

 

 クイズ大会はその後も景気よく、そして僕の大事な何かをズタズタに破壊しながら進んでいった。

「第4問。アキくんの今日の下着の色は?」

「姉さん、それもうストレートなセクハラだよ! いや、パワハラだよ!」

「……この問題は雄二しか答えられない」

「俺は明久のパンツになんか興味はねえ!」

「……雄二は吉井にパンツを履かせない趣味なの? つまり吉井はノーパン?」

「僕までお姉さんみたいなノーパン開放主義者にしないで!」

「アタシはちゃんと穿いているわよ!」

「……今日は?」

  ピンポン

「明久……吉井くんの今日の下着の柄は赤と黒のチェックのトランクス。昨日は水色。一昨日は青と白のストライプです」

「マスク・ド・プリンセスロードさん大正解~。3点をあげちゃいます」

「ふぅ~。私にも答えられるとても簡単な問題が出題されて良かったです」

「今日の柄についてはもう問わない。でも、昨日は日曜日だったよね? どうして休日の僕のパンツの柄まで知っているのぉ!?」

「吉井くんの今日のパンツの柄は高校生にしては派手すぎるかもしれませんね。船越先生を刺激しています。高校生らしいパンツの柄について後で先生と話し合いましょう。大会が終わったらパンツ1枚で職員室まで来てください」

「この学園の女の人はみんなどこかおかしいよ!」

 

 

 心が折れてしまいそうになる瞬間の連続。

「第5問。アキちゃんの写真の中で最も売り上げが高いのはどの写真でしょうか?」

「僕の女装写真なんか誰が欲しがるの? まずそれを教えてよッ!」

  ピンポン

「…………1位チャイナ服寝顔アキちゃん。2位ウェディングドレス寝顔アキちゃん。3位体操服(ブルマ)寝顔アキちゃん。4位旧スクール水着寝顔アキちゃん。5位裸ワイシャツ寝顔アキちゃん」

「何でみんな寝顔なのっ!? もしかして僕が学校で眠っている間に着替えさせて撮ったのっ!?」

「こらこらアキくん。学校だけではありませんよ。ちゃんとうちで寝ている時も着替えさせて写真に収めてますよ」

「最悪だよ、あんた!」

「とにかく、ムッツリーニくんの解答は正解です。5点差し上げます」

「ああっ~もうっ、サービス問題だったのに土屋に先を越されたわ!」

「私、運動はダメなので早押しも得意じゃないのが残念ですぅ」

「僕としたことが、人気ランク10位まで思い浮かべている間に土屋くんに先を越されてしまったよ」

「僕の女装写真の売り上げはそんな一般常識問題みたいな扱いなの? それにどうして久保くんまで僕の女装写真を知っているのっ!?」

「一般常識と聞いては先生も知らないわけにはいきませんね。土屋くん、後で吉井くんの女装写真を全て持って教員室に来てください。職員会議で議題にあげたいと思います」

「…………1枚500円」

「職員会議で取り上げられたら、僕、もうお嫁にいけなくなっちゃうぅうううぅっ!」

 

 

 悪夢のようなクイズ大会は続く。だけど唯一の救いは地獄への道連れがいること。坂本雄二という名の地獄への道連れが……。

「第6問。アキちゃんの文月学園女子生徒最新人気ランキングの順位は何位でしょうか?」

「何で男子じゃなくて女子なのさ!」

「男子生徒ランキングでアキちゃ……吉井くんは圏外だから問題にはできないよ」

「畜生~っ!」

  ピンポン

「はいはーい。これならウチの得意分野だわ。アキの人気ランキングは2年女子生徒部門で4位ね。5位の土屋香美と共に女帝木下秀吉に迫りつつあるダークホースとして注目されているわ」

「何故男のワシが女子生徒部門でトップなのじゃ!?」

「…………不名誉極まりないッ!」

「女子生徒人気ランキングで上位5名までの内3名を男子生徒が占めている。先生はこれもアリだと思います」

「なしですよ、そんなの!」

「ともかくビューティフルヴィーアブさん、正解。3点を差し上げます……って、正解したのに何か不満があるの?」

「ウチ……じゃなくて、島田美波さんのランキングが坂本の女装姿である洪雄麗より下なのが納得できないのよ! アキや土屋はともかく、坂本にまで負けるなんてぇっ!」

「それは美波の男らしさが雄二を上回ったって証拠じゃないかな……や、やめてぇっ! 動かせない足首をジワジワといたぶりながら折らないでぇっ!」

「バカが。キジも鳴かずば撃たれまいと言うのに。って、島田、何故俺の方に憎悪に満ちた瞳でやって来るんだ!?」

「ウチは島田美波さんじゃなくてビューティフルヴィーアブ仮面よ! 坂本さえいなくなれば、ウチの人気順位は1つ上がるのよっ!」

「言っていることが無茶苦茶だぞ、お前っ! ぎゃぁあああああぁ! 何で翔子まで!?」

「……雄二、他の女にくっ付いた。だからおしおき」

「へっ、雄二。先に川の向こうで待っているよ……ガクッ」

 

 

 そんなこんなで僕を不幸に陥れるクイズ大会はようやく終盤に差し掛かり──

「それでは第7問目。アキちゃんのファーストキスの相手は誰で、どんな味になるでしょうか?」

「これはクイズ大会という名の僕に対するイジメだぁああああああぁっ!」

 僕を更なる不幸のどん底へと陥れてくれた。

「ちなみに、吉井くんの方のファーストキスの相手は坂本くんなのでこの問題の答えとは違います」

「僕のファーストキスの相手を雄二って決め付けるのはやめようよっ!」

  ピンポン

「アキちゃんの初めてのキスの相手はこの僕で、キスの味はイチゴミルク味に違いないのさ~」

「久保くんまでこんなクイズ大会に悪乗りしないでよ! って、どうして雄二たちは辛そうに僕から目を逸らすのさ!?」

「姉さんはアキくんの不純同性交遊は大歓迎ですよ~♪ 久保くんには期待も込めて3千点を差し上げちゃいます♪」

「吉井くんのお姉さん。久保利光、久保利光の名前をよく記憶してください」

「先生は久保くんと吉井くんもアリだと思います」

 真面目な久保くんまでが点数を取る為にこんな変態的趣向を持つ姉さんたちに同調するなんて。生きているのが辛いよ、外国で母さんに虐げられている筈の父さん……。

 

 

 

 そして僕に心身ともに苦痛を与え続けたクイズ大会もようやく最後の時を迎えた。

「え~と、それじゃあ次が最後の問題になるからみんな頑張って答えてね」

 工藤さんの陽気なマイクパフォーマンスもズタズタに引き裂かれた僕の心は癒せない。

 どうせ最後も酷い目に遭うんだろうな。

「それでは、第8問目。最後の問題です。アキくんに愛の告白をしてください♪」

「クイズの要素が一欠けらもないよ、それっ!」

 姉さんに大声でツッコミを入れる。

 でも、待てよ?

 この問題は僕にとってはとても美味しいんじゃないだろうか?

 クイズ大会には何人もの女の子が参加している。

 幾らクイズの為の方便とはいえ、女の子から愛の告白をされるなんて人生最高の瞬間じゃないか。

 いや、騙されるな明久。

 姉さんが狙っているのは、そして会場がお笑い的に期待しているのは雄二みたいなぶ男からの愛の告白に違いない。大会的に、資本主義的に!

 僕は絶対にぬか喜びしないぞ!

 って、誰もボタンを押してくれないなあ。お姉さんたちは難しい顔をして考え込んだまま動かない。

考えてみれば、点数の為とはいえ好き好んで晒し者になる必要はないのだし。だからこの問題はお流れということで……。

 

  ピンポン

 

 って、誰か押しちゃったよ。

 どうせ雄二ってオチだろうけど……えっ?

「お~とぉ、ここで解答権を得たのは今まで沈黙を守って来た妹くん、木下秀吉さんだぁ」

「ワシは姉上の妹ではないと言うのに。じゃが、良い。ワシとてこのクイズに沈黙したまま敗退はしとうない」

 ボタンを押したのは意外や意外、秀吉だった。

 今日の秀吉は学ランにサラシという、女の子がするにはちょっとイヤラしく見える変わった服装をしている。

「明久、1度しか言わんからよく聞くのじゃ」

 秀吉が真剣な瞳で僕をみつめる。

 えっ? もしかして──

「ワシは明久のことが好きじゃあああああああぁっ!」

 秀吉のその告白を聞いた瞬間、僕はそれまで感じていた不幸がもうどうでも良くなった。

 

 

 

「ワシは明久のことが好きじゃあああああああぁっ!」

 顔を真っ赤にしながら発せられた弟の告白を聞いてアタシは酷く気分が滅入っていた。

「何でこの問題にアタシは答えなかったのよ……」

 奇声を上げながら大興奮する吉井くんを見ながら加速度的に後悔が膨れ上がっていく。

 外聞とか見栄とか恥とか、そんなものに躊躇せずに「好き」と叫んでしまえば良かった。

「秀吉が僕のことを好きだなんてぇ。僕はもういつ死んでも構わないよぉおおおぉっ!」

 そうすれば吉井くんのあの喜びの表情はアタシに向いていたかもしれないのに。

 アタシはこの大会の優勝よりも大事な大一番で弟に完膚なきまでに敗北した。     

 ……悔しい。よしっ、殺っちゃおう。

「木下くんは確か男の娘でしたよね? 同性同士の本気の愛の告白に大感激して姉さん、木下秀吉くんに1万点をあげちゃいます♪」

「いや、ワシの明久への告白はクイズ大会の解答じゃからであって、本気かと言われると……その、なんじゃ……違うのじゃ……その、あの」

 あれだけ顔を真っ赤にしながら本気でないなんて誰が信じるものか。

「木下のヤツ、ついに本性を表したわね!」

「坂本くんに続いて木下くんまでもだなんて……恋愛の神様は私たちに厳しすぎますぅ。でも、負けません!」

 姫路さんも島田さんも秀吉に対する警戒レベルを最大限に引き上げている。

 だけど彼女たちは吉井くんのことを諦めていない。他の男や女?にあれだけ大騒ぎする吉井くんを見ても恋心が冷めるどころか新たな闘志を熱く燃やしている。

 吉井くんとの恋愛にはそういう不屈の精神力が必要なのは間違いない。だからアタシも姫路さんたちと同等に、ううん、それ以上に闘志を燃やして対抗する。

「秀吉ッ! あんた、こんな大勢の前で告白、しかも相手が男だなんて、アタシまで変な目で見られるじゃないの!」

「姉上っ、だからこれはクイズの解答であって、ワシの本心かと言われるとじゃな……両肘の関節を同時にじゃと? ギャァアアアアァ!」

 そして闘志を関節技へと昇華させて弟にお見舞いする。

 アタシを一歩先んじたことを褒め称えていつもより丁寧に関節を極めてあげる。

「やってくれるじゃない、秀吉。流石はアタシのラスボスね」

「大会はまだ序盤じゃと言うのに、そのラスボスは今にも姉上に滅ぼされそうなのじゃが」

 なるほど。このまま秀吉をコキュッと殺ってしまえば最大の障壁はいなくなる。

「あぁ~。美少女に愛の告白をされて、その上美少女と美少女が絡み合うプロレスまで見られるなんてぇ。今日は何て良い日なんだぁ」

 だけど秀吉が今逝ってしまえば吉井くんは悲しむだろう。だから、もうしばらくだけ生かしておいてあげることにする。

 死なないように、でも生きることもないように最大限の痛みを与え続ける。

「姉上っ! いっそのこと、ワシの腕をへし折ってくれぇっ! その方が痛くない!」

「え~とぉ、優子によるおしおきが続いているけど、クイズ大会の結果を発表するよぉ」

 そして愛子はアタシの扱いをよく心得ている。流石A組での付き合いが長いだけある。

「トップは木下秀吉さんの1万点。ビリは坂本雄二くんの1点。坂本くんは次の種目でもっと頑張らないとダメだよ」

「俺も秀吉も同じ1問ずつ正解の筈なんだが?」

 確かに坂本くんの言うとおりだ。

 クイズ大会では出場者が全員1問ずつ正解した。にも関わらず、得点は1万点から1点と大きく引き離れている。

 アタシの得点は千点で順位だけで言うなら代表と並んで3位。だけど2位の久保くんとの得点差は2千点だし、トップの秀吉にいたっては9千点の差がある。

 つまり、審判員の趣味趣向が点数を左右し勝負の行方も左右している。

 課題に対してただ無難に切り抜けるだけじゃダメ。何かプラスアルファの付加価値を創出しないとこの勝負には勝てない。

 アタシの将来のお義姉さんになるかもしれない人と、吉井くんに告白したとかいうあのいけ好かないおさげ女のツボを上手く付かなくちゃ!

「相手の人となりを瞬時に鑑定できるアタシの真価を発揮してやるんだから!」

「姉上、そういうことを言うと優等生の化けの皮が剥がれる……グギャッ」

 パキッと、とても気持ちの良い音がした。

 

 

 ベストフレンド決定戦 1回戦 第1種目終了時 得点表

 1位 木下秀吉 1万点

 2位 久保利光 3千点

 3位 木下優子 千点

 3位 霧島翔子 千点

 5位 土屋康太 5点

 6位 マスク・ド・プリンセスロード 3点

 6位 ビューティフルヴィーアブ仮面 3点

 8位 坂本雄二 1点

 

 

 

「続いて第2種目はガチンコ体力勝負~。と言いたい所だけど、腹が減っては戦ができないということで、吉井くんへの愛妻弁当ならぬベストフレンド弁当勝負を開催だよぉ」

「お弁当作り対決ですかぁ? それなら私の大得意な分野です。えっへん」

 プリンセスロードこと姫路さんが可愛らしくガッツポーズをとっている。どうやら彼女は料理が得意らしい。家庭的な女の子に見えるし、中身もそうなのだろう。

 だけどお弁当作り対決と聞いてアタシは大きな焦りを覚えていた。額から嫌な汗が流れ出てくる。

「プリンセスロードさんを見ていると何故か死の予感がする……」

 吉井くんも姫路さんを見ながらガタガタと本能的に震えている。一体どうしたのだろう?

 話を元に戻して自分の焦りに関して一言で述べれば、アタシは料理が苦手だ。

 とはいえ、漫画みたいに鍋を火に掛ければ爆発オチが待っているとか、食べた人間が三途の川を渡ってしまうとかそこまで酷いレベルじゃない。   ……と自分では思いたい。

 多分、日本の一般の女子高生と同等レベルぐらいに苦手だというものだ。料理の経験はないし、情熱もスキルもない。小学生が調理実習で作れそうなものは四苦八苦しながら何とか作れる。だけど完成品は少しも美味しくない。そんなレベル。

 勿論アタシは優等生で通しているので家庭科の成績だって優秀だ。

 でもその優秀さは筆記試験の結果によるもの。洋裁や刺繍の場合は家に持ち帰って弟に縫わせている。調理実習の場合は上手な人と班を組んで鍋をかき回す役目に徹している。実技はそうやって誤魔化している。

 だけどこうしてアタシが1人で料理を作るとなると誤魔化しが効かなくなってしまう。

 愚弟との入れ替わりも秀吉が大会の参加者である以上できない。

 他の参加者7名を全員殺ってしまうわけにもいかないし、アタシがやるしかない。

 うう、気が重い。

 

「お弁当作りのルールに関して説明すると、制限時間は90分。家庭科実習室の個別に仕切られたスペースの中で調理をしてもらうよぉ。材料と器具は実行委員会で適当に準備したからそれを自由に使ってね」

 共同作業に持ち込むという手も完全に断たれてしまった。

「お弁当の審査はボクと高橋先生、葉月ちゃん、それから玲さんと美紀ちゃん、そして毒見係の吉井くんで行うよぉ」

「毒見係って表現がストレートすぎて嫌ぁああああぁっ!」

ごめんなさい、吉井くん。それアタシ、否定できないかも。

「それでは審査の基準の目安となる吉井玲さんのお弁当を試食してみたいと思いま~す」

「今朝の調理跡の伏線はこれか、畜生~っ!」

 吉井くんが泣きながら大絶叫している。一体どうしたのだろう?

「それではアキくんに姉さんの愛情篭った愛妻弁当を食べてもらいたいと思います♪」

「嫌だぁあああああああああぁっ!」

 吉井くんは椅子を必死に揺らしながら何とか逃れようとしている。

 照れているのかな?

「明久、骨は拾ってやるさ」

 坂本くんが苦々しげに目を瞑った。一体、何なの?

「それではアキくん……ア~ン」

 吉井くんのお姉さんが玉子焼きをお箸で持って吉井くんの口元へと運ぶ。

 だけど青い玉子焼きって初めて見た。あの色、どうやって付けているのだろう?

「の、の、ノォオオオオオオオオオオオオオオオオォッ! ガクッ」

 そして吉井くんは玉子焼きを無理に口に詰め込まれるなり、悲鳴を上げて気絶してしまった。えっ?

「え~とぉ、吉井くんは見事毒見係の大役を果たしたということで……ボク、ダイエット中だからお姉さんのお弁当はご遠慮させてもらうね」

「先生は決まった時刻に食事をするようにしていますので、今は試食を差し控えたいと思います」

「あうっ。葉月も決まった時間以外に間食するとお姉ちゃんに怒られてしまうので食べられないのです」

「ひぃいいいいいぃっ!」

 他の審査員は一斉に試食を拒否した。

 

「皆さん事情があるのなら仕方ありませんね。残りのお弁当も、美味しさのあまり天に昇ってしまっているアキくんに全部食べてもらいましょう」

 気を失っている吉井くんの口に次々に運ばれていくカラフルなお弁当。ピンク色のハンバーグ、紫色の鳥のから揚げ、赤く着色されたパチンコ玉など独創的な料理の数々。それらが吉井くんの口に詰められていく度に彼がとても遠くに旅立ってしまいそうな悪い予感に囚われる。

 止めなくちゃと思うのだけど、足が石になってしまったかの様に固まって動けない。それどころか体が震えている?

「バカな……アタシが、この木下優子が震えて……」

 生まれてこの方16年と数ヶ月。完璧な優等生を演じて周囲に褒められ続けてきたアタシにとってそれは生まれて初めてのできごと。

「それが恐怖というものじゃよ、姉上」

 いい音を立てて逝った愚弟があの世から蘇った。

「ところで、みな顔が引きつって固まっておるが、一体どうしたのじゃ姉上?」

「吉井くんのお姉さんのお弁当を見てああなっちゃったのよ」

 坂本くんや土屋くんは気まずそうに目を逸らしているだけだけど、審査員や会場の観客たちは硬直しちゃっている。アタシもその1人だけど。

「明久の姉上の料理は、姉上のと同じように最悪に不味いからのぉ。無理もない」

「この肉体から恐怖を拭い去り優勝者となるにはアンタの命と命と命が必要なのよ!」

「そんなの理不尽じゃぁあああああああぁッ! グヘッ!」

 愚弟の両手両足、それから腰を砕いてみるけれどアタシの恐怖は拭い去れない。やはりアタシが怯えているのは吉井くんのお姉さんの料理だけじゃない。

 アタシはアタシの料理に怯えている。

 アタシの料理を食べて、吉井くんがお姉さんのお弁当と同じような反応を見せたらどうしよう?

 そんなことになったらアタシはもう二度と立ち上がることができなくなってしまう。女としてのプライド、というか人間としてのプライドを根本から失ってしまう。

「料理ならワシに1日の長がある。このラウンドもワシが勝利させてもらうぞ、姉上」

「やっぱり情けは弱さよね。きちんととどめを刺さなかった自分の弱さが悲しいわ」

 パキッ

「哀しみと愛を知らぬ者にこの決定戦の勝利はないぞ姉上ぇええええぇッ! ……明久、今ワシもお主の元に逝こう。……ガクッ」

 これ以上つまらない茶々を入れられない様にラスボスの首を確実に砕いておく。

 しかしこの料理勝負、アタシにとって厳しいものになるのは間違いなかった。

 

 続く

 

 

 


 
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