No.195711

そらのおとしものf ニンフの野望(ノーモアおふろイベント)全国版 前編

*最初にアップした際に5ページ目が丸々抜け落ちていましたので追加編集いたしました。歯抜けの文章を読まれてしまった方申し訳ありません。

 そらのおとしものfの二次創作作品です。
 『ヤンデレ・クイーン降臨』『逆襲のアストレア』とは平行世界のお正月用作品です。

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2011-01-13 06:08:46 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:3951   閲覧ユーザー数:3656

総文字数 約8200字 原稿用紙表記28枚

 

ニンフの野望(ノーモアおふろイベント)全国版 前編

 

 私は今、非常に困惑している。

 とはいっても、今回はエンジェロイドの存在意義が、とか、マスターが、とか、翼が、とか、そういう問題じゃない。

 私が今悩んでいるのはもっとこう、恥ずかしいというか、葛藤のベクトルが全然違うというか、昔の私だったら気にもしなかったこと。

 私の好きな昼ドラ風に言えば、乙女の悩みというか、女の武器というか、そういう類のもので真剣に悩んでいる。

「わぁ~、イカロスさん。そのブラ可愛い。……あっ、それって」

「……はい。この間、そはらさんと、買い物に、行った際に、買ったものです」

「私が選んだのを使ってくれてたんだ。嬉しいなあ」

 目の前にはシンプルなピンク色の下着姿ではしゃぐそはらと、羽の模様をした白いのブラを誉められて満更でもなさそうなアルファ。

 アルファたちが悪い訳ではないのだけど2人が前にいると私の悩みは深まる一方。だから制服のシャツのボタンにかけた手はずっと止まったままになっている。

「ニンフ先輩、せっかく貸し切りにしてもらっているのだから早く入りましょうよ?」

「ちょっと考え事をしているのよ……」

 そして新たに目の前にやって来たデルタ。

智樹並に堂々とすっぽんぽんを晒しているのは女の子としてどうかと思う。

 本人はケロッとしているけど見ているこちらの方が恥ずかしい。この娘は本当に変な所だけは智樹にそっくり。

 そしてアルファよりもグラマラスなプロポーションは見ていて凹む。憂鬱極まりない。

「ははぁ~ん。さてはニンフ先輩、自分の胸がぺったんこだから、私たちと一緒にお風呂に入るのが恥ずかしいんですね。ぷすすっ」

「少し黙りなさいよっ! あんたわぁああぁっ!」

 手で口を押さえて笑うデルタに両手を振り上げて怒る。

 デルタの言葉が真実なだけにとても悔しい。

 智樹にバカにされ続けている内にスタイルの問題は私にとって最も大きなコンプレックスの種となってしまった。

 今では胸の大きな女性が薄着で近くにいるだけで憂鬱になってしまうことさえある。例えば今みたいに……。

 大体、アルファもデルタもそはらもEカップとかFカップってこいつら一体、どこの星の住民なのよ!?

「悩んだ所でそのお子ちゃまボディーが変わる訳じゃないんですから、さっさと脱いだらどうですかぁ~。ぷすすぅっ」

 私たちエンジェロイドは年を取らない。言い換えれば、私の体はこれ以上成長の余地がない。つまり、一生ぺったんこのまま。デルタには生涯敵わない。あのデルタに、敵わない。この私が、デルタにぃ……っ!

「ほんとっ、うるさいわねっ! デルタのくせに生意気よっ!」

 銭湯の脱衣所を裸のまま笑いながら逃げるデルタと、それを追う私。

 デルタにバカにされると本当に腹が立つ。デルタのくせに私をバカにするなんて生意気!

「ニンフ先輩~。ダッダ~ン、ボヨヨンボヨヨン。ですよぉ~♪」

「何でシナプスにずっといた筈のあんたが20年も前のテレビCMを知っているのよ!」

 そして動く度に地殻変動を起こしているのかと思うぐらいに揺れる胸はもっと生意気。

 デルタのくせに、デルタのくせに、デルタのくせに、生意気なのよぉ~っ!

「あらあら~。2人とも元気ね~」

 アルファたちほどではないにしろ、やっぱりプロポーション抜群の美香子が私たちの追いかけっこを見ながら笑っている。

 貸し切りという特殊な環境によりこの場で胸が小さいのは私だけになってしまった。

 見せ付けてくるバカの存在もあって、私の小さな胸に対するコンプレックスは際限なく高まっていく。

 何でこんなことになってしまったのだろうと少し前の出来事を思い返してみることにした……。

 

 

 

 そもそも何故私たちが貸し切りの銭湯にいるのか。

 話は今日の午前中に遡る。

 

 午前中、私たちは空美商店街の新春イベントを手伝っていた。

 空を飛べるアルファとデルタは白いシーツを被り天使の格好をして上空からチラシを巻いていた。

 そはらは商店街中央の特設ステージでのイベントの呼び込みを行っていた。

 私は一部の男性から『空美のアイドル』とか呼ばれているとかで、特設ステージに上って集まった観客たちに手を振ったり「蟲のくせに生意気よ!」と怒るポーズを取っていた。

 すると観客たちから「ニンフた~んっ、萌え~っ!」とか「もっと罵ってぇ~っ!」とか大きな声援をもらった。

 そんなこんなで商店街新春イベントは大盛況の内に終わりを告げた。

 見物客たちのノリはよくわからなかったけど、悪い気分じゃなかった。新年早々ちょっとだけ楽しい気分になれた。

 そのイベントが終わって舞台裏で休んでいるとホクホク顔の智樹が近寄って来た。

「ご苦労様だったな、ニンフ。よくやってくれた」

 智樹はとてもご機嫌な表情で、歯から光がピカピカ毀れていた。

「あっ、うん」

 智樹に誉められるとそれだけでまた嬉しくなった。

「ニンフのおかげで正月から大もうけだぜ。うっひょっひょっひょ」

「えっ?」

 よく見れば智樹の手には千円札、5千円札、1万円札の束がぎっしりと握られていた。

「そのお金、どうしたの?」

 私の質問に智樹は目を逸らした。

「まあ、臨時収入があっただけだ。別に、やましいことはしていないぞ……」

 冷や汗を垂らしながら顔ごと目を逸らす智樹。怪しいと思って更によく見てみると……

「あっ! 私の……グッズっ?」

 智樹の背後には、私の顔がプリントされたシャツやハッピ、写真などが並んでいた。

「何でこんなものが存在するのよ!」

 よく見れば私の体操服姿や水着の写真まである。頬が一気に熱を持った。

「いやっ、ちょっ、これは、みんなが欲しがっているものを良心的な価格で提供しただけで、俺はいわば慈善事業をだな……」

「私の許可を取らずにこんなものを勝手に売らないでよ!」

 智樹の胸をポカポカ叩く。

 智樹以外の男が私の写真をいやらしい視線で眺めているかと思うとゾッとする。

「いやっ、だからっ、流石にニンフに悪いと思って、入浴中や着替え中の写真は売りには出さなかったぞ。俺にだってそれぐらいのモラルはある!」

「そんな写真をあんたが持っていること自体がよっぽどモラル違反でしょうがぁっ!」

 智樹の顔もポカポカ叩く。

 智樹が私の恥ずかしい姿の写真を持っているだなんて、考えただけでオーバーヒートしそうになる。

 智樹のことだからきっと……

 

『フッ、俺の可愛いニンフ。お休み前にその愛らしい唇に熱いベーゼを100回だ。まったく、お前は俺を惑わす困った子猫ちゃんだぜ。ぶちゅ~(綺麗な裸王)』

 

 私のエッチな写真をこんな風に破廉恥なことに使っているに違いないわっ!

「ちょっと、智樹っ! そういうことは写真じゃなくて、私本人にしなさいよっ!」

 本当に失礼しちゃう。写真より実物の方が良いに決まっているじゃない!

「何を言っているんだ、お前は?」

「えっ? あれ?」

 智樹の呆れた声と視線に我に返った。何か私、凄く暴走していた気がした。体は石化してしまったかのように固まり、額から嫌な汗が流れた。

「と、とにかくだな。事前に相談しないのは俺が悪かった。お詫びに今日の売り上げからお年玉をやるからそれで勘弁してくれ」

「お年玉?」

 最近何度かテレビで聞いた単語に私の興味は惹かれた。

「そうだ。お正月には家族にお年玉をあげるものだからな。ニンフにも売り上げの一部は還元するさ」

「家族……っ」

 その言葉の響きが嬉しくて、溜まっていた怒りや恥ずかしさが吹き飛んでしまった。

智樹は全然意識しないで使ったみたいだけど、それがまた嬉しかった。つまり、自然体で私のことを家族だって考えているということだから。

「今日はたんまり稼いだからな。大盤振る舞いできるぞ。いくら欲しい?」

 智樹が5千円札、1万円札を見せてきた。でも私はお札そのものにはあまり興味を示さずに周囲の出店をぐるりと見回した。

 するとあった。目的のお店が。

「現金はいらないわ。代わりにあれ買って」

 目的のお店を指差す。

「またリンゴ飴か? ニンフは本当にあれが好きだな」

 智樹がキョトンとした表情を見せていた。

「だって、好きになっちゃったんだもの。しょうがないじゃない」

 智樹の顔を見ながら微笑んだ。

 どうせこの鈍感男は私の言葉の本当の意味なんか少しも理解していないのだろうなと思いながら。

 それから私は智樹にリンゴ飴を買ってもらい、さっそく一口かじった。

「甘くて美味しい~♪」

 口一杯に広がる甘い味を満喫する。

 ううん、この甘い味を満喫できる今の幸せを口一杯に感じる。

 智樹と一緒にリンゴ飴を食べられるこの一時が幸せなんだって再確認していた。

 

 

 

「ニンフ先輩ばっかり美味しいものを食べてずるぃ~っ!」

 私が幸せを満喫していると天使に扮したお邪魔虫(ダウナー)が空から降って来た。

「私は今食べるのに忙しいのだからあっちに行きなさいよ、この堕天使っ!」

 私の幸せを壊すなんて、こいつは悪い天使に違いない。

「堕天使って、翼のないニンフ先輩の方がそうじゃないですか!」

「うっさいわね。黙りなさいよ!」

 鬱陶しいのでパラダイス・ソングで打ち落としてしまおうかと考えていると、今度はアルファまで降りてきた。

「……マスター、スイカ」

 アルファは全身を揺すってモジモジしながら特売コーナーを見ていた。

「おぅ。イカロスも家族だからな。お年玉にスイカ、買ってやるぞ」

 智樹はカラッとした笑顔を見せながら答えた。

「……ありがとうございます、マスター」

 アルファは頬を赤らめた。

 嬉しそうなアルファの顔を見て私も心が弾んだ。

 と、同時に私だけが智樹の家族という特別な存在でないのがはっきりしてちょっと残念だったりもした。

「ねぇねぇ、私には買ってくれないの?」

 デルタが如何にも物欲しそうな笑顔で自分のことを指差していた。

「お前は家族じゃないだろ」

「そんなぁ~」

 デルタは凹んだ。体育座りでいじけている。

 そんなデルタを見ながら智樹は笑った。

「だけど去年はお前にも随分世話になったからな。特別に好きなものを買ってやるぞ」

「じゃあ、おむすび山盛り~っ!」

 デルタは顔を輝かせて凄い勢いでお弁当屋さんの中へと駆け込んでいった。本当に現金というか単純な娘だった。

 まあ、これではっきりしたのは智樹の中では私もアルファもデルタも同じポジションにいるらしいということ。つまり、誰も一番にはなれていない。

「ハァ」

「どうしたんだ? 急に溜め息なんか吐いて」

 智樹鈍感王が私の溜め息を不思議がった。

「別に。安心もするけど苛立ちもする。それだけよ」

「何だそりゃ?」

 智樹は何もわかっていない。

 そんな智樹を見ているとちょっと疲れる。気分転換でもしたいと考えていると……

 

「みんなぁ~よく頑張ってくれたわね~」

 イベントの企画人である美香子が赤い振袖姿でやって来た。美香子は私たちに手を振りながら智樹の前へと立った。

「会長チッス」

「桜井く~ん。今日だけで随分儲けたみたいねぇ~。でもぉ~、許可なく~五月田根家の縄張りで~商売するのは~会長どうかと思うのよ~」

 美香子は笑顔でアイアン・クローを決めていた。智樹の頭蓋骨が軋む音が鳴り響いた。

「痛っ、痛いぃいいいぃ! いや、勿論、後で上納金を五月田根家にですね……」

「そんなものいらないわ~。会長はただ、お痛をした桜井くんの~悲鳴が聞きたいの~」

「いや、それ、最悪ですって!」

 美香子はもがく智樹を掴んだまま私たちへと振り返った。

「それから~頑張ってくれたごほうびに~銭湯のご夫婦が~みんなに貸し切りお風呂を準備してくれているわよ~」

「貸し切り風呂ぉ~っ!?」

 美香子のごほうびに一番敏感に食い付いたのは智樹だった。

 智樹は顔に美香子の指が食い込みながらも幸せそうな顔をしていた。智樹が私たちの入浴を覗こうとしているのは火を見るよりも明らかだった。

「桜井くんには特別に~過死斬痢汚訃牢を準備しているわ~」

「何すか、そのヤバそうな当て字は~っ!? って、放せぇええええぇっ!」

 智樹は黒服の屈強な男2人に両腕を抱えられ、路地の裏へと消えていった。

「桜井くんは玄界灘の海底冷泉に~、女の子たちは~お風呂屋さんに出発よ~」

 こうして、私たちは貸し切りの銭湯で入浴することになったのだった。

 

 

 

 追いかけっこが終わりみんなが女湯の中へと入っていった後も私の葛藤は続いていた。

「だけど悩まなきゃいけないことなんてないのよね……」

 銭湯に招待されてここに来ているのだから入浴する以外に選択肢はない。

 でも、一緒に来ている女の子はみんなスタイルが良い娘ばかりなので貧相な私の体を見せたくない。

 そんな葛藤がかれこれもう5分以上続いている。葛藤というか踏み出せない状態が。

「ニンフさ~ん。早く入っておいでよ。気持ちいいよ~」

 そはらが私を呼ぶ声が聞こえる。

「そうよね。悩んでいたって仕方ないものね」

 そはらの声を後押しにして服を脱ぎ始める。

 

 それにしても人間の服というのは変わっている。

 例えば今私が着ている制服という服もそう。

 学校で衣服を規定しているくせに機能性というものがまるでない。

 装甲は0で敵に攻撃されたら一溜まりもない。

 何でこんな服を人間はわざわざお揃いで身に着けているのか最初はよくわからなかった。

 でも最近は段々わかるようになってきた。

 智樹はこの制服という種類の衣装が大好きなのだ。それは智樹が隠し持っているエッチな本やDVDの傾向からよくわかる。

 つまり、制服というのは異性を魅了する為の武器なのだ。

 防具ではなく武器。装甲の代わりに異性のハートを貫く矢が装備されている。

 きっとより良い結婚相手をみつけたり、相手を魅力で服従させる為に用いているに違いない。

 だから、私が制服姿で智樹と2人きりでいれば……

 

『ニンフ、制服姿がとっても眩しいぜ。ビュ~ティーフォー(花束抱えてキラッ☆☆)』

『そういう智樹は今日も全裸なのね(指の隙間からしっかり見ています)』

『全裸は俺にとっての一番フォーマルな制服だからな。それよりニンフ、愛している。今すぐ結婚だぁ!(裸王剛掌波)』

『もうっ、智樹ったら私の制服姿にメロメロなのね。仕方ないから結婚してあげるわ(テレテレしつつVサイン)』

『ニンフたん、好きだぁ~っ!(ルパンダイブは基本)』

『制服が皺になっちゃうわよ。もぉ~♪(長い間ご愛顧ありがとうございました。End)』

 

「って、夢想に浸ってないで早くお風呂行かなくちゃ」

 恥ずかしさが体を動かして衣服をテキパキと脱いでいく。そして残るはブラとショーツという下着だけになった。

 下着という衣装も変わっている。人に、特に異性には見せないのに一番凝らないといけないものらしい。

 だけどエンジェロイドである私には人間の美的感覚がよくわからない部分がある。なので私は自分の足りないセンスを智樹とそはらの感覚を参考にすることで補っている。

 例えば今日身に付けている上下白の下着は

「やっぱ、清純な女学生は白に限るよな。むっひょっひょっひょ」

 と、エロ本を見ながら智樹が嬉しそうにスケベ面していたのを参考にしてみた。

「…………早く、入らなきゃ、よね?」

 自分の選択基準に何か致命的な間違いを感じながら下着も脱いでいく。

 脱ぎ終えてから鏡で自分の姿を見ると、作られた時と寸分違わぬプロポーションの私がいる。変わっているのは翼がなくなったことだけ。

 シナプスにいた時は何とも思わなかったけど、地上に降りてからはアルファたちに劣等感を抱かずにいられない貧弱なスタイル。

「ダイダロスももう少し先読みして私を作りなさいってのよ」

 自分の胸に手を当てながら作りの親を恨めしく思ってみたりする。

 ダイダロスが如何に優れた科学者であっても、私が地上で人間やアルファたちと一緒に暮らすことなんて想定していた訳がないのを知っていながら。

「せめて智樹が胸の大きさを気にしない紳士だったらこんな悩まずに済んだのに……」

 恋敵のスタイルを智樹が好んでいるという点は私をより一層落ち込ませる。

あのおっぱい星人は大きな胸ばかり賛美する。その対として私のことをバカにする。

 触れば触るほど小ささを実感する胸。心がどんどん虚しくなっていく。

 でも裸のままはやっぱり恥ずかしいのでバスタオルで入念に体を隠す。

 で、それから脱衣所と女湯を隔てる扉を見る。私の目にその扉は、どんな堅固な要塞よりも堅く厚いものに見えた。

 ここから先は巨乳(バインバイ~ン)の国。足を踏み入れれば絶望と屈辱が待っている。

 女湯を目前にして足が動かない。

「おいっ、ニンフ、ニンフっ!」

 すると、背後から声を掛けられた。あの聞き慣れた声の持ち主は……

「智樹ぃ? あんた一体、こんな所で何をやっているのよっ!?」

 脱衣棚の影から、美香子によって玄界灘に沈んだ筈の智樹が全裸で私を手招きしていた。

 

 

 

「大声を出すな。そはらたちに気付かれる」

「あっ、ごめん」

 小さく頭を下げながら小走りで智樹に近寄る。

「って、智樹はここで何をしているのよ?」

 周囲に気を配りながら小声で尋ねる。

「何って、覗きだよ。ノ・ゾ・キ」

 覗きと聞いて、私の脳が再活性化を始める。

「覗きって、まさかあんた、私の裸をずっと見ていたんじゃないでしょうね!?」

 顔が、頭全体が恥ずかしさで茹で上がっていく。

「……それよりニンフ、お前に頼みごとがある」

「何で否定しないのよ?」

「女学生はやっぱり白だよな」

 智樹は鼻から一筋の赤い汗を流すことで私の問いに答えた。

「そう? 誉めてくれてありがとう」

 だから私は智樹に正純突きをお見舞いして、智樹の鼻から流れる赤い汗を二筋に増やしてあげた。

「まあ俺はニンフのぺったんこよりもバインバイ~ンの方が好きだからな。気にするな」

「何が気にするな、なのよ!」

 智樹にそはら直伝のチョップを連続でお見舞いする。

今の一言は乙女のプライドが凄く傷ついた。

そしてやっぱり智樹は大きな胸が好きなのだと思い知らされると憂鬱になる。

「黙って覗いたのは悪かった。だから、頼みがある」

「声掛けて覗こうとしたら袋叩きに決まっているじゃない。で、頼みって何?」

 目つきを鋭くして智樹を睨む。だけど智樹は私の視線をものともせずに真剣な表情で肩を強く掴んできた。

 一体、女湯に入り込んでまで私に何を頼もうというの?

「頼む、ニンフ。女湯を覗くのを手伝ってくれぇえええぇっ!」

「……所詮、智樹は智樹よね」

 私はどうしてか智樹がデルタ並のバカであることをよく忘れてしまう。もしかするとこれが恋は盲目というやつなのかもしれない。

「で、智樹は私が女の敵の手助けをすると本気で思っているの?」

「ああ。するさ。お前はきっと俺の手助けをしてくれる。何故なら……」

 智樹が美香子みたいな悪い顔でニヤリと笑った。

「ニンフ、お前はこのお風呂イベントに参加しないで終わることを願っているからだ」

 智樹の言葉は美香子と同じにおいがする悪魔の囁きだった……。

 

 

 

「なっ、何を言っているのよ、智樹は……」

 私は知らず知らずの内に後ずさろうとしていた。本能が今の智樹を怖がっている。

 でも、両肩を掴まれているので下がることができない。

「ずっと覗いていたから知っているさ。ニンフ、お前は自分の体型に強いコンプレックスを持っている。そして、今も何とか風呂に入らずに済む道を模索し続けている」

「なっ、何を証拠に……」

「ニンフがこうして俺と無駄話を続けている以上の証拠が必要か?」

 智樹が悪魔の笑みを浮かべる。

「そ、それは……」

 痛い所を突かれて顔を背けるしかなかった。

 でも、抵抗をやめる訳にはいかない。私はシナプス最高の電子戦用エンジェロイド。智樹に言い負かされる訳にはいかないのだ。

「だからって、この私が覗きなんて破廉恥なことの手伝いなんてしないわよ!」

 胸を叩いて威勢を見せる。お風呂に入りたくないのは認めても、だから覗きを手伝うでは論理的飛躍があり過ぎる。

 私の大事な人たちの裸を覗く手伝いなんて冗談じゃない。恋のライバルでもあって、智樹に欲情を抱かせる訳にはいかない相手の覗きの手伝いなんて断固拒否!

「ニンフならそう言うと思ったぜ。ならば、今日は特別にお年玉の第2弾をやろう」

「何よ、第2弾って……」

 猛烈に嫌な予感がした。でも、ちょっとだけ心が疼いてもいた。

 だって、この状況で智樹が私に言うことを聞かせられる唯一のカードといったら……

「命令だ、ニンフ。俺の覗きを、手伝え」

 命令以外にあり得ないのだから。

「はっ、はい。……マスター」

 命令という言葉の響きに私の思考は停止した。

 私は、智樹の術中に嵌ってしまったのだ……。

 

 

 後編に続く

 

 


 
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