No.470301

はがない とある残念美少女の友達づくり

佐天さんを参考に友達作りに励む星奈さんのおはなし。

とある科学の超電磁砲
エージェント佐天さん とある少女の恋煩い連続黒コゲ事件
http://www.tinami.com/view/433258  その1

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2012-08-15 01:37:54 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:2571   閲覧ユーザー数:2438

はがない とある残念美少女の友達づくり

 

 

「あたしもやっぱり友達が欲しいのよぉおおおおおおおおおぉっ!!」

 自室に戻ってベッドに飛び込みながら大声で叫ぶ。ふかふかのベッドに深く深く体を沈み込ませる。すっごく気持ち良い。けれどこの陰鬱な雰囲気までは取り払ってくれない。

 あたしが落ち込んでいる原因。それは割と単純なことだった。

 今日もまた教室ではぶられた。それが理由。

 掃除当番のことでクラスメイト女子に話し掛けたら

『柏崎さんは掃除なんて全部男子に任せちゃえば良いんじゃないのぉ?』

 露骨な嫌味兼拒否られた。

『柏崎さんっ! 掃除なら俺がやりますから休んでいて下さいっ!』

『そんなブスに話し掛けることなんてありませんよ』

『お前ら。抜け駆けはなしだろうがっ!』

 そして馬鹿男子クラスメイトどもがあたしの周りに群がって来てあの子の言葉を正当化してしまった。

 この一連の行動がクラス内の女子コミュニティーにおけるあたしの地位を更に悪化させたことは言うまでもない。

 喋るどころか近寄るだけで疎まれるのが現在のあたしのクラス内女子序列なのだった。

 

「あ~~っ! 畜生~~~っ! あたしだって教室内で楽しく気軽にお喋りしたいのに~~っ!!」

 バタバタと手足を動かしてベッドの上を泳ぎながら暴れる。

 あたしに話し掛けて来るのは下心みえみえの男どもばかり。うんざりする程つまらない言葉を並べられるだけで少しも会話にならない。

 その点、夜空は羨ましい。

 きっと、毎日の様にクラスメイトである小鷹とフランクトークを楽しんでいるに違いない。ううん、きっと小鷹は夜空とストロベリートークを……。

 

『夜空。君の瞳は死んだ魚のように美しいよ』

『小鷹。お前の髪こそ冷蔵庫に入れっ放しにして3ヶ月ぶりに発見したもやしの様に綺麗だぞ』

 

 きっとこんな感じの甘い会話を毎日の様に展開しているに違いない。くぅっ!

 でも、いいの。今のあたしの目標は小鷹との恋人同士の甘い会話じゃない。友達同士の爽やか日常トークなのよ。

「愛情するよりこんな時友情したいのぉおおおおおおおおぉっ!!!」

 1度で良いからしてみたい友達との無駄話。でも、あたしには残念ながら友達がいない。

 友達を作らないことにはダチとの会話は出来ない。同性の友達を作る為に隣人部に入ったけど、そこで知り合ったのは性悪女狐と変態露出妄想狂。アイツらは友達じゃない。友達ってのはラブプラスの智花みたいに話し易くて可愛い子を言うのよ。

 だからあたしは隣人部以外に友達を作らないといけなかった。その為にはこれまでとは異なるコンセプトを採用する必要があった。

 

「よしっ! 友達を作る為に研究しよう」

 成績学年トップで努力家でもあるあたしは、友達作りの研究に全力で励むことに決めた。

 研究の第一歩は先人達の知恵をよく借りること。即ち友達作りの名人を事例にして色々学ぶのだ。

「友達の多い人間を観察することから始めましょう」

 知り合いを1人1人思い出していってみる。

 

 小鷹……友達いなさそう。

 夜空……友達いないに決まっている。

 理科……部室以外では引き篭もり。

 幸村……友達いないから隣人部に来た。

 マリア……小学校通ってないし。

 小鳩ちゃん……ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ♪

 

「うん。友達の多いアニメキャラクターの特徴を分析しましょう♪」

 研究は新たな段階へと突入した。

 現実の知り合いは友達作りの参考にまるでならない。

 アニメの方が友達作りの秘訣がデフォルトで描かれていて参考にし易い筈。

 さて、どんな作品を見るかだけど……。

「私が欲しいのは女の子の友達だから女の子が多い作品よね。やっぱり」

 男ばかり出ていそうな『男子高校生の日常』を放り投げて、もう1つの作品のディスクを手に取る。

「とある科学の超電磁砲(レールガン)。あなたに決めたわっ!!」

 可愛い女の子がジャケットに沢山描かれているディスクを再生デッキに入れて早速視聴を始める。

 レールガンは今まで見たことなかったのだけど、期待がかなり持てそうだった。特に私はこの女の子4人組の中でセーラー服を着た髪の長い女の子がとても気になっていた。

 何ていうか……こう、魂が惹かれる感じがした。

 

 視聴を始めたから約12時間が過ぎた。気付けばもう夜明けを迎えていた。

あたしはレールガン全24話+OVAを不眠不休の徹夜で全て視聴終えたのだった。

 そして私はこの作品を通じて1人の天使に出会った。

「佐天さん。マジ天使ぃいいいいいいいいいいぃっ!!」

 存在の全てが素晴らし過ぎた。美貌は勿論のこと、まだ中1なのに体型もとってもセクシー。更に更に声が可愛かった。何であんなに美しい声が出せるのか分からない。そして何より──

「佐天さんは友達が多い~~っ!!」

 佐天さんには確認できるだけでもクラスメイトや他校の生徒など沢山の友達がいる。

 お嬢様から頭にお花の咲いた子まで選り取りみどり。

 つまり、佐天さんの行動を真似すれば私も友達100人間違いなしってことだった。

 そして天才のあたしはもう佐天さんの友達作りの秘密を見抜いていた。

 答えは──

 

『う~~い~~はぁ~~~~る~~~~~~っ! パンツ見せろぉ~~~~っ♪』

 

 画面の中で勢い良く捲くれ上がる頭にお花が咲いた少女のスカート。

 佐天さんはそのスカートの中に顔を突っ込む。そしてそのパンツを堪能する。

 そう。佐天さんに友達が多い理由はこのスカート捲りに秘密があるに違いなかった。

「つまり……あたしもスカート捲りさえしていれば友達100人出来るってことなのよ~~~~っ!!」

 答えは得た。

 小鷹、あたしこれから頑張ってみるから。

 

 こうしてあたしのスカート捲り友達づくり大作戦は始まりを告げたのだった。

 

 

 

「最終目標は小鳩ちゃんのスカートを捲ってパンツを堪能してお友達になってペロペロし尽すこと。これはもう決まりよね」

 学校に到着したあたしは今日の最終目標を確認する。

 あたしは小鳩ちゃんと今日こそお友達になる。だって小鳩ちゃん可愛いから。友達にさえなれば1日中ペロペロし尽くすことが出来る。だって友達だから。一緒にお泊りして小鳩ちゃんを一晩中ペロペロすることも勿論可能。だって友達だから。

 でもこれはあくまでも最終目標。

 いきなり小鳩ちゃんに近付いてスカートを捲ろうとしてもきっと逃げられてしまうに違いない。小鳩ちゃんはあたしを警戒している。

 最終的には小鳩ちゃんの警戒網を掻い潜ってスカートを捲ることがあたしに求められる今回のミッション。

 それを実行する為にはまずは、そう。あたしはスカート捲りのスキルを高めないといけない。

 佐天さんのように神速を超えた超神速によるスカート捲り天翔龍閃(あまかけるパンツのひらめき)を会得するしかない。

 その為にはスカート捲りの実戦経験が必要になる。実戦に勝る練習はないのだから。

「よしっ。隣人部の面々でスカート捲りの練習を積みましょう」

 という訳で、まずは隣人部の面々のスカートを捲ってみることにした。全く知らない子のスカートを捲って友達になれなかった場合、校内でのあたしの立場が更に悪化しかねないから。

 

「さて、まずは理科からね」

 理科はパパが授業に出なくて良いという条件で入学させた子。で、普段はあの子の為に特別に用意された理科室に篭って実験を繰り返している。居場所に見当を付ける上では一番楽な子だった。

 という訳で早速理科室へと向かう。4階へと上がるとすぐに理科室前へと着いた。

「理科ぁ~入るわよ」

 扉に手を掛ける。

 けど、幾ら引いても開かない。

 どうやら鍵が掛かっているらしい。

『どなたですか?』

 頭の上のスピーカーから声が聞こえてきた。

「あたしよ。柏崎星奈」

 カメラで覗けば1発で分かるだろうに何でこんな面倒なやり取りをしなきゃいけないのだか。

『嘘ですね。何故なら星奈先輩はわざわざ理科の所を訪ねたりはしませんから』

 頭上のスピーカーからまた声が聞こえて来た。

「って、何でいきなり嘘吐き呼ばわりされなくちゃいけないのよっ!」

 何、この展開?

『何故ならここには小鷹先輩が肉欲に脳を乗っ取られて理科を襲い来る以外に誰かが訪れるなんてことはありませんから』

「つまり、誰も尋ねて来ないのね。さすがぼっちだわ」

 ……スピーカーは沈黙した。

『星奈先輩の偽者の産業スパイだか理科のナイスバディーを狙いに来た変態の分際でうるさいですね。プンプンです』

 今度は急に怒り出した。

「どうせカメラも付いているんでしょ? あたしの顔を見れば本物か偽者かぐらいすぐに判断できるでしょうが」

『理科は今日メガネを家に忘れて来ました。人の顔なんか5cm隣にいても判別できません』

 澄ました声で頭の悪い回答が返って来る。

「換えのメガネとかコンタクトとか持ってない訳?」

『メガネに換えてコンタクトにしろだなんて……あっ、あなたはコンタクトにして本当の自分とか言っちゃう派なんですか!? 理科のキャラクターとしての唯一の個性を消すつもりなんですか!?』

「メガネがなくなってもまだ変態っていう強固な個性が残っているわよ」

『くぅううううぅっ! メガネ以外の特徴で天才を挙げてくれないなんて……理科、もう、本気でプンプンですっ!』

 今日の理科は手ごわい。メガネがないせいで普段より防御に入っているのかも知れない。

「なら、どうしたらあたしが柏崎星奈だって信じてくれるのよ?」

『では、理科が1つ質問をします。その質問に対して満足の行く回答を頂けたらあなたを星奈先輩だと認めます』

 ……本気で面倒な展開になった。あたしはただスカートを捲くりに来ただけだってのに。

 

「で、その質問ってのは?」

 面倒だけど付き合うことにする。でないと小鳩ちゃんに至れない。

『質問は単純です。ずばり、あなたの好きな人は誰ですか?』

「はぁああああああああああああぁっ!?!?」

 理科の質問はとても嫌なものだった。小学生のいじめみたいな質問だった。

『答えられないんならお帰り下さい。嘘を付いてもお帰り下さいですよ』

 理科の抑揚のない声がスピーカー越しに聞こえて来る。やる気ない癖にとんでもない爆弾を落としてくれる女ね。

 けど、厄介な質問だった。嘘を付いても駄目だという条件は辛い。

 理科は恋敵でもあるのであたしの好きな人物が誰なのか当然知っている。理科の質問はあたしに校内で想い人をカミングアウトしろと催促しているのと変わらない。

 確かに今この付近に人はいない。声に出しても誰にも聞こえない。けれど、相手はマッドサイエンティスト志熊理科だ。録音とかして後で全校、いや、全世界に向けて発信しないとも限らない。

 けれど、嘘を付くわけにもいかない。理科に会えないと小鳩ちゃんに至れない。

 うん? 小鳩ちゃん?

 そうだわ! 

 理科の質問は別に異性でとは言っていない。

 甘かったわね、志熊理科っ! この勝負……あたしの勝ちよっ!

「あたしがこの世で一番好きなのは……羽瀬川小…………」

 小鳩って言おうとした所で小鷹の顔が突然思い浮かんだ。

 小鷹って言わないことは酷い裏切りになるんじゃないか。瞬間的にそう思った。

 誰に対する裏切りになるのか?

 それを考えると答えは1人しかいない。

 あたし自身に対する裏切りだ。

 確かにあたしと小鷹は何でもないただの部活仲間。でも、それは現在の2人の関係がそうだというだけで、あたしがアイツを好きかどうかは全然関係ない。

 そうよっ! 大事なのはあたしの正直な気持ちよ。この気持ちに嘘を付いてたまるかってのっ!!

「あたしが好きなのは……羽瀬川小だ……」

『その煮え切らないツンデレっぷり。まさしく柏崎星奈先輩で間違いありませんね』

 理科室の扉がスゥ~と開いた。理科に合格をもらってしまった。

「何で最後まで言わせてくれないのよ……」

 あたしが不完全燃焼に陥ったのは言うまでもないことだった。

 

 ぶすっとしながら理科室へと入っていく。

「何で部屋に入るだけでこんなに疲れないといけないのよ」

 やる気が萎えかける。でも、友達を作る為にはここで挫けちゃいられない。

「それで星奈先輩。一体理科に何のご用ですか?」

 目の前には裸眼の理科が立っている。ちょっと珍しい光景。でも、それ以上に珍しいのは……。

「何で目を瞑ったまま会話しているのよ?」

 理科は目を瞑っていた。

「どうせ目を開けていても先輩の顔さえよく判別出来ませんから。だからどこかの星座漫画で見た五感の内の1つを遮ることでコスモを高めてみる実験をしようかと」

「アンタ元々高めるほどコスモないでしょうが……」

「ちなみに理科はヒドラの市の大ファンです。あの不細工な顔で『勝負は顔で決まる』とか言われてユニバースしない女の子はいません」

「聞いてないわよ、そんなこと」

 やっぱり思うのは天才と何とかは紙一重だということ。

 でも、目を瞑って無防備な姿を晒してくれているのは丁度良かった。

 これならまず失敗しない。早速実行に移ることにする。

「あたしが理科に会いに来た理由。それは──」

 理科のスカートの裾を両手で一気に捲り上げる。

 佐天さん。

 あたしは今、あなたに一歩近付いてみせるわよっ!

「これをやりに来たのよ~~っ!!」

 あたしの人生初スカート捲りが今ここに炸裂する。ぶわっと捲れ上がる理科のスカート。

「へっ?」

 何が起きたのか瞬時には理解できずに呆然とする梨花。

 さて、次は佐天さんに倣ってパンツを堪能する手順よね。

 しゃがみ込んで理科のパンツを拝見することにする。

 

 ………………えっ?

 

 見えたのは一面の肌色だった。全面、肌色。他にどんな小さな布地も見えない。

 これって、つまり……。

「何でアンタノーパンなのよぉおおおおおおおおおおおおおぉっ!?!?」

 佐天さんの数々のスカート捲りにもなかった事態に思わず大声を上げてしまう。

「そう言えば今日、通学途中でメガネを忘れたことに気付いた際にやたら下がスースーしたのですが……なるほど、そういうことでしたか♪」

 理科は納得が行ったという表情で爽やかに笑ってみせた。まるで湖から出てきた精霊のように爽やかな笑顔で。

「何でそんなにあっさり納得してんのよ~~~~っ!」

「だって理科、週に3日はノーパン健康法を実践していますから♪」

 理科はまた爽やかに笑った。ギャルゲーラストの感動の1枚絵みたいな愛らしい笑みで。

「こういうのをパンツじゃないから恥ずかしくないもんって言うんですよね♪」

「もっと恥ずかしいものを晒しているでしょうがっ!!」

 ここが教室じゃなくて本当に良かった。そう思った。

 

「…………じゃま、したわね」

 激しい脱力感に襲われながら部屋を出ることにする。

「結局、先輩は何の為にここに来たんですか?」

 理科は首を捻った。

「斜め上を知りに来た……ってことにしておいて」

 壁にもたれ掛かるようにして室外へと出る。

「今日は絶対に誰もこの部屋に入れるんじゃないわよっ!」

 出る際にちゃんと念を入れておくのを忘れない。

「誰も来ませんから大丈夫ですよ~」

 理科の声は余裕に満ちていた。理科は自身のぼっちぶりに絶対の自信を持っている。

 ある意味で最強のガードかも知れない。

 ぼっちは理科にとって世間体と貞操を守る為の最強の守りなのだ。

 ぼっちに特化しているが故に快適に暮らしている人間を見ながらあたしは理科室を去っていった。背中に哀愁を漂わせながら。

 

 

******

 

 対理科戦は悔しいけれどあたしの完敗だった。まさかノーパンであたしのパンツ拝見を防ぐとは思わなかった。

「でも、次こそは勝つっ!」

 拳を突き上げながら次戦での勝利を誓う。

 あたしはそこいらの天才と違って1度負けたからといって凹んだりはしない。不屈の闘志で再チャレンジがこのあたし、柏崎星奈さまの売りなんだからっ!

「次の目標は楠幸村っ! いざ尋常に勝負よっ!!」

 先程の理科はスカート捲り初心者にはハードルが高過ぎた。やっぱり初心者はビギナーらしく難易度の低い敵から倒していかないといけない。

 という訳で次なる目標幸村が在籍する1年生の教室へと向かう。

 教室に到着し、後部扉から中を覗いてみる。幸村らしき人物は見えない。

「ねえ、そこのアンタ」

 教室から出て来たモブッぽい無個性な男子生徒に尋ねてみる。

「なっ、何でしょうか?」

 突然あたしに話し掛けられて男子生徒は戸惑っている。

「頭を踏みつけてやるから質問に答えなさい。楠幸村は今どこにいるの?」

「幸村確か今……えっと……」

「早く答えなさい」

 モブ男くんに足払いを掛けて倒し背中に乗って丹念に頭の頂点を踏んであげる。

 小鷹以外の男はみんなこうすると喜ぶ。

「おっ、俺っ、柏崎星奈に踏まれている!?」

 モブ男くんは興奮して鼻息を荒らげた。

「良いから早く答えなさい」

 小鷹だけは喜ばない。それどころか怒ってくる。そして、小鷹に怒られているとちょっぴり嬉しくなるあたしがいる。

 もしかすると……あたしは小鷹にいじめられたいの!?

 ご主人様、どうかお仕置きして下さいって言っちゃいたい訳!?

 小鷹の前で自分からスカートを捲ってお尻ペンペンして下さいとか言っちゃう訳なのね!

 そ、そんなあ……♪ 

でも、そんな自分がちょっとだけ好き♪

「幸村は……この時間はいつも上級生に差し出すパンを確保しておく為に購買の方に行っている筈です」

「そう。これは情報提供のお礼よ♪」

 ほっぺに靴裏でキッスしてあげる。靴裏の跡がくっきり付くようにサービスサービス。

「ああ~~っ!? お前、何で星奈先輩に踏まれて気持ちよさそうにしているんだよっ!」

「汚ねえぞっ!」

 あたしが降りるのと同時に多くの男子生徒たちがモブ男くんの上に乗っかかっていった。

「ここはあたしの戦場じゃない」

 モブ男くんのことは放っておいて購買に向かう。

 ていうかもうモブ男くんの顔さえも思い出せない。元々覚えていないのだけど。

 

 幸村とは簡単に会うことが出来た。購買からの帰り道だった彼と廊下の途中で遭遇したのだった。

「幸村~っ」

 ミニスカメイド服姿で校内をうろつく生徒なんて1人しかいなかった。

 幸村に向かって手を振る。

「星奈のあねご。おはようございます」

 パンを両手で抱えた幸村があたしに丁寧に頭を下げた。

 男の中の男を目指しているというこの変わった少年は夜空に騙されてメイド服で1日を過ごしている。頑固な割に騙され易いというおもちゃにされ易いキャラクターだった。

 そして……男の癖に妙に色っぽい。その辺の馬鹿女子より遥かに色っぽい。当然夜空の馬鹿より100倍は女らしい。

 何ていうか、目指す方向と実態がまるで乖離しているのが楠幸村という少年だった。

 そんな少年なので他の男子生徒は彼をどう扱って良いのか分からずに距離を置いてしまい結果的にぼっちになっている。

「ちょっと幸村に用があるんだけど」

「はい。何でしょうか?」

 首を捻る幸村。その仕草は可愛らしく、彼が男だと知らない人間が見れば100人が100人幸村を美少女と答えるだろう。

 あたしと小鳩ちゃんの次に可愛いことを認めてやることもやぶさかじゃない。

 でも、今はあたしのスカート捲りの獲物だった。そして、両手がパンを持っている為に塞がっているのも好都合だった。

 早速、ミッションの遂行に入る。

「ちょっとパンツ見せてぇ~~~~~~~~っ♪」

 両手が塞がってガード出来ない幸村のミニスカートを捲る。

 

「いや~~ん。マイッチング~~~~」

 

 スカートを捲られた幸村は体を半回転させながら右足を膝から曲げてつま先をお尻に向かって高く伸ばした。勿論顔は真っ赤に染めながらだ。

 とても洗練された仕草。女らしさを極めたポーズだった。

 そしてそんな幸村があたしに見せたパンツ。

「いちごパンツ~~っ!?!?」

 それは女物のいちご柄のパンツだった。何かもう100%とか始まりそうな見事な少女もののパンツだった。

 

「また……あたしの負けね」

 あたしは自身の敗北を認めない訳にはいかなかった。

 あたしがこの敗戦から学んだこと。

 それはもし、幸村がぼっちでなかったら多数の男に群がられて大変な目に遭っていたに違いないということ。

 きっと多数の男を倒錯的かつ犯罪的な愛に走らせ、自身もその下卑た欲望に食い尽くされてしまっていることだろう。

 つまり幸村はぼっちでいることで、自分とこの学校の多くの男子生徒のあすへの希望を守っているのだ。

 それがこのスカート捲りを通じて明らかになった。

「あの、星奈のあねご?」

「あなたはいい女よ。あたしの次にね」

 幸村に背を向けて颯爽と去っていく。

「ええぇえええぇっ!? 男の中の男を目指しているのに……」

 背後でガクっと何かが崩れ落ちる音がした。

 けれど、敗者であるあたしに振り返る資格などなかったのだった。

 

 

 

「2連敗した……後はないわね」

 理科と幸村は予想を超える下着と反応であたしを圧倒した。

 彼女たちがあたしに示したのはぼっちの素晴らしさだった。これ以上の敗北が続けばあたしは友達づくりを止めてぼっち最高と叫んでしまいかねない。

 そうならない為には今度の戦いで最高の勝利を収めないといけない。

「勝負よ……三日月夜空っ!!」

 あたしは次の戦いの相手の名を叫んだ。

 

 部室にいる時以外の夜空の行動は謎。

 同じクラスでぼっち仲間である筈の小鷹も休み時間中の夜空がどこにいるかは把握していないらしい。

 何でも休み時間になるといつの間にか煙の如く消えてしまい、始業のチャイムと共に席に座っているという。

 つまり、夜空は休み時間の間リア充どもが跋扈する教室を離れ1人になれる場所に潜伏していることになる。

 5時間目と6時間目の間の休み時間。これを逃すと放課後に入ってしまう。

 放課後は小鳩ちゃんとのファイナル・ファイトが待っている。この時間中に何としてでも夜空をみつけないと。

 でも、夜空はどこにいるというの? 何のヒントもないというのに。

「ううん。あたしなら分かる筈。そう、夜空と同じぼっちのあたしなら分かる筈なのよ」

 たとえ他人からもたらされるヒントがなくてもあたしなら解答に辿り着ける筈だった。

 何故ならあたしと夜空は共に友達が少ないのだから。

 あたしは普段の休み時間は男共に囲まれて教室を出ることはない。けれど、男がいなかったとしたらあたしはどうしていただろう?

 女だらけの教室は居心地が悪くて出ていったに違いない。ではどこへ行く?

 答えは決まっている。人のいない場所。

 この校内で人のいない場所、かつ10分の休み時間で教室に戻れる場所とはどこか?

 あたしはぼっちセンサーを全開にしながら夜空の教室を出ていく。ぼっちの力が最大限に高まる場所を目指して何かに導かれるようにして歩く。

 

「えっ? 壁?」

 あたしが辿り着いたのは校舎の1階片隅の何の変哲もない壁。でもあたしは、ここが怪しいと思った。

 壁に手を触れ、どこか不自然な場所はないか探る。

 すると、あたしの目線の高さの所に指2本分僅かに窪んでいる箇所をみつけた。そこを指でつついてみる。

 すると、壁の一部が開き、人が通れる隙間が生じた。

 あたしはその隙間…狭い通路へと入っていく。けれどその通路はすぐに行き止まりを迎えてしまった。行き止まりの壁には『露戸』と書かれた伝説の剣が掛けられていた。

「これは……真の秘密空間を隠すための囮って訳ね」

 あたしはこの付近に夜空がいることを直感した。と、その時真下からごく微妙の光が漏れていることに気付いた。

「そうか。地下ねっ!」

地下へと至る階段を探す。すると、あった。伝説の剣を立て掛ける為の台座が。

「これを回せば」

 台座を回してみる。すると読み通りに地下へと至る階段が壁の一部が変形して出現してきた。

 あたしは時間を惜しんでその階段を駆け降りる。この下にきっと夜空がいると確信を持ちながら。

 

「なっ、何故この秘密の場所を肉がっ!?!?」

 階段を降りきった先の小部屋で椅子に座って読書していた夜空はあたしを見ながら驚いていた。

「やっぱり、休み時間ごとに消えていたと思ったらこんな所に潜んでびっち…もといぼっちライフを送っていたのね」

 部屋には小説が渦となって積まれている。その小説の中には先日あたしがプレイしていたエロゲーの小説版も含まれている。このムッツリエロ女が。あたしのエロゲ趣味を批判してんじゃないわよ。

「この場所は理事長が賊に討ち入られた時のことを考えて建設したはいいが、作らせた本人でさえ忘れ去っていた秘密空間。ぼっちの魂に導かれた私だからこそ辿り着くことが出来た絶対孤立の場所。何故貴様がここにっ!?」

 珍しく夜空が狼狽していた。

「フッ。愚問ね。あたしもぼっちの魂をフル活用してここに至ったって訳よ」

 ニヤソって悪の笑みを全開にする。パパの奇行についてはこの際考えない。

「これだから友達のいない非社会的な生物は困るんだ。私の安寧を意味もなく踏み躙ろうとする!」

 夜空が立ち上がって私に吼えた。

「アンタもその友達のいない非社会的な生物だってことを忘れないでよね」

 夜空から目を反らさずに視線の火花を散らす。

 

「チッ! で、貴様。私の安寧を妨害して一体何をしにここまで来た?」

 夜空は単行本を手に持ったまま不快感100%の表情であたしから顔を背けた。

 早く出て行って欲しいことが丸分かりの邪険な態度。けど、あたしから目を離し、尚且つ本を持ったままなのは愚かな行為でしかなかった。

「あたしがここに来た理由。それは……」

 あたしはしゃがみ込むと同時に両手を夜空に向かって伸ばす。

「何っ!?」

 夜空はあたしの行動の異変に気付いたみたいだけれど……もう遅いっ!!

 

「夜空~~~~っ!! パンツ見せて~~~~~~っ!!」

 佐天さんの魂をこの身に宿らせながら夜空のスカートを一気に捲りあげる。

「なぁあああああああああぁあああああああああああああああああああああぁっ!?!?」

 あたしの手がスカートの裾を捲り上げた瞬間、夜空は驚きの声と共にその活動を停止させた。

 そしてあたしがその戦果として見たもの。それは──

「クマさ~~~~~~んっ!?!?!?!?!?」

 真っ白なキャンバスに大きくプリントされたクマだった。夜空の下半身はクマにより守られていた……。

「夜空……アンタ…………っ」

 何と言えば良いのか分からない。

 ただただ無数の汗が額から流れ落ちる。

 見てはいけないものを見てしまった。

 それだけはよく分かる。そして、見てはいけないものを見てしまった人間の末路がどうなるのかも分かり過ぎていた。

「じゃああたし、これで教室戻るから。ここのこともここで見たものも誰にも言わないから」

 言葉では秘密厳守を誓う。けれど抑止力は必要だと脳のどこかが考え、スカートを捲り上げられた状態のままの夜空を携帯で撮ってしまった。

 夜空の顔と可愛らしいクマが1枚の写真の中に映し出される。

 その間夜空は全く動かない。固まってしまったまま。

「それじゃあ!」

 夜空が再起動を果たす前にあたしは全力ダッシュで地下室から逃げ出したのだった。

 

 夜空が何故クマさんを穿いていたのかは知らない。

 普段からそうなのか。それとも今日だけ特別にそうなのか。

 ともあれ、どんな時も肌を晒そうとしない夜空のとんでもない秘密をあたしは知ってしまったのだった。

「これが死亡フラグにはなりませんように……」

 それだけがあたしの望みだった。

 

 

 

 放課後になった。

 いよいよ小鳩ちゃんとの勝負の時だった。

「3人との死闘を経て強くなったあたしならきっと大丈夫」

 3人が怖くてしばらく隣人部部室に近寄り難くなってしまった。けれど、代わりにあたしは超神速のスカート捲り術を体得した。

「さあ、勝負よ。小鳩ちゃん」

 あたしは小鳩ちゃんのパンツの柄を想像しながらその時を待った。

 そして10分後、中学の制服姿の小鳩ちゃんが部室がある礼拝堂へと道を歩いて来るのが見えた。

 友達のいない小鳩ちゃんは当然の如くして1人で歩いて来ていた。

「可哀想な小鳩ちゃん。だけど大丈夫。今日からはお姉ちゃんがお友達になってあげますからねぇ。はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

 鼻息荒く口から涎を垂らしながら獲物の到来を待ちわびる。

 後10mすれば……小鳩ちゃんはあたしのもの。裸に首輪だけさせて夜の街を四つん這いでお散歩させながらペロペロするのも出来るようになる。だって友達だから。友達だから。友達だから~っ!

 

「ひぃいいいいいいいいいぃっ!?!?」

 後5mという地点で小鳩ちゃんは大声を出すと共に歩みを止めた。そして道の中央に立つあたしを見ながら全身を震わせて怯え始めたのだった。

「さあ……小鳩ちゃん。あたしたち…………お友達になりましょう♪」

 小鳩ちゃんへの“友情”を全開にしながら1歩1歩にじり寄っていく。

「いっ、嫌ぁっ!!」

 けれど小鳩ちゃんはあたしが近寄った分だけ遠ざかっていく。

「どうして逃げるのかなあ~? お姉ちゃんはこんなにも小鳩ちゃんと仲良くなりたいのに。はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

「怖いもんっ!」

 小鳩ちゃんが体の向きを斜めにずらして後方に逃走できる角度を作り出す。

 でも、超神速のスカート捲りを可能にしたあたしにはそんな細工は無意味。

 小鳩ちゃんが後ろを向いた瞬間にはそのスカートの裾を掴んで持ち上げている自信がある。するとあたしは小鳩ちゃんのお尻側、多分パンダだのウサギだのが印刷されている白のコットンを目撃することになるに違いなかった。

 小鳩ちゃんの可愛らしいパンツ……。

「ふふふふふふふふふふふふふふふふふ」

 鼻の穴が最大限に広がってしまう。はしたない。格好悪い。でも、小鳩ちゃんとの“友情”を前にしてそんなことはどうでも良いことだった。

「いっ、いっ、嫌ぁああああああああああぁっ!!」

 そして怖さの限界を超えてしまった小鳩ちゃんはあたしに背を向けて逃げ出す体勢に入った。

 でも、その後ろを回る隙こそがあたしの待ち望んだ瞬間だった。

 あたしに新しい友達の作り方を教えてくれた佐天さんに心の中で手を組んで感謝を唱えながら奥義の発動に入る。

「小鳩ちゃん…………パンツ見せてぇええええええええええええええぇ天翔龍閃(あまかけるパンツのひらめき)っ!! 」

 体を踏み込ませながら両手を小鳩ちゃんのスカートの裾に向かって伸ばす。

 腕は一直線に小鳩ちゃんに向かって伸びていく。小鳩ちゃんに動きは見られない。

 勝った。

 それを確信した。

 でも、それが甘かった。

「縮地~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」

 小鳩ちゃんはあたしの目の前から突然いなくなったかと一瞬後には5mほど後ろまで遠ざかっていた。

「あんちゃ~~~~んっ!! た~す~~け~~~~て~~~~~~~~っ!!」

 小鳩ちゃんはあたしに背中を向けて逃げ出す。そして、その際にほんの一瞬だけだったけど、小鳩ちゃんの規定より短いスカートが捲れ上がって見えた。

「くっ、黒のローレグッ!?!?!?」

 あたしの目に入り込んできたのは可愛い可愛い小鳩ちゃんからは想像もできない程にセクシーなパンツだった。あたしだって持っていないアダルティーな1品。

 幼い小鳩ちゃんと大人のパンツ。ミスマッチにしてそれでいてよく似合う組み合わせ。

 その刺激的な光景はあたしの脳を激しく揺さぶった。そしてあたしを柏崎星奈というこの学校を代表する淑女から1匹の野獣に変えたのだった。

「ガルルルルゥルルルルルルルル~~~~~っ!!」

 あたしの心の中を今占めているのは、邪魔なスカートを剥ぎ取って小鳩ちゃんのパンツを堪能したい。心ゆくまで鑑賞したい。小鳩ちゃんの黒をもう1度この目に焼付けたい。

 それだけだった。

「ひぃええええええええぇっ!? あんちゃ~~~~んっ!!!??」

 小鳩ちゃんが逃げ出す。先程よりも更に速い足で。

 けれど、淑女というリミッターを外したあたしもまた今までとは次元の違う動きを可能にしている。

 小鳩ちゃんとあたしの黒を掛けた戦いがここに始まった。

 

 

 

「クッ! 小鳩ちゃんったら、一体どこに隠れたと言うのかしら?」

 小鳩ちゃんと愛の鬼ごっこを始めてから10数分後、あたしは最愛の人を見失ってしまっていた。

 

『びぃえええええええぇっ!? おっ、追い付かれてしまうた~~~~いっ!?!?』

 あたしは確実に小鳩ちゃんとの距離を縮めていた。あたしは後3mの距離まで彼女に近づいていた。

 その為に小鳩ちゃんは作戦を変えたのだった。

『おっ。吸血鬼ではないか。そんなに慌ててどうしたの……ぎゃあぁあああああぁっ!?』

 小鳩ちゃんは礼拝堂近くを通り掛かったマリアのギリギリ脇を通り抜けた。そして後ろから追い掛けていたあたしはマリアを避けきることができずにぶつかってしまった。

『痛いではないかぁっ! 何をするのだぁああああああぁっ!』

 抗議するマリア。尻餅をついて大股開きに座っている。修道服の長い裾の為にパンツが見えることはなかった。けれど、どう考えてもスカートを捲ってくれと訴えている様にしかあたしには思えなかった。

『そんなに捲って欲しいなら捲ってあげるわよ』

『ほえっ?』

 お子ちゃまマリアのパンツになんか興味はなかった。けれど、本人のリクエストなので叶えてあげることにする。

 M字開脚の姿勢で尻餅をついたままのマリアのスカート裾を持って捲る。

 その奥に見えたのは何の飾り気もない真っ白なパンツだった。

『なっ、何をするのだぁあああああああぁっ!?!?!』

 顔を真っ赤にするマリア。全裸になっても気にしない癖にパンツを見られるのは恥ずかしいらしい。

『アンタもぼっちだからパンツ見られて友達を作りたかったんでしょ?』

 スカート捲りは見る側と見られる側の両方がいてはじめて成立する。見る側だけが友達を欲しているとは限らない。見られる側だって友達作りがしたいこともあるのだ。

『何を言っているのだ?』

『マリアが将来もっと美人に育ったらちゃんと友達になってあげるわ』

『本当に何を言っているのか全然分からないのだ』

『だけどマリア。あなたも女の子なんだから他人にホイホイとパンツ見せちゃダメよ。相手が小鷹みたいなロリコン犯罪者だったらお嫁にいけない体にされかねないんだから』

 世間は物騒でまだ幼い女の子に欲情する変態はごまんといるのだ。小鳩ちゃんやマリアなんてパンツを見られたり他にも色々されたりとロリコン犯罪者の餌食になりかねない。

『何でそこでお兄ちゃんが出てくるのだ?』

『とにかくあたしは小鳩ちゃんを追うわ。マリアももう他人にパンツを見せようなんてはしたないことを考えちゃダメよ』

 小鳩ちゃんが消えていった礼拝堂に向かって駆け出す。

『わたしはパンツ見せようなんて考えてないのだっ! って、謝りもしないで行くのか~~~~~っ!』

 マリアが後ろでまだ騒いでいたけれど、あたしにはもう聞いている余裕はなかった。

 

 そんなこんなであたしは小鳩ちゃんを見失ってしまった。

 そして小鳩ちゃんは鬼ごっこではなく隠れんぼへとあたしから逃れる手段を変えたのだった。どこにもその姿を見せない。

「けど……捜し出してあげるわよ。待っていなさい。くっくっくっく」

 小鳩ちゃんの真似をして笑ってみる。身を潜めるというのは確かに探しにくい。けれど、同時にそれは自らの逃げ場所をなくす行為でもある。

 そう。見つけてしまえばあたしの勝ちなのだ。

 

 礼拝堂の入り口から小鳩ちゃんがこっそり逃げ出すことがないように細心の注意を払いながら探索を続ける。

 けれど、彼女はなかなかみつからない。周到に気配を消して身動きさえしていない。

「やるわね、小鳩ちゃん」

 だけどあたしは焦ってはいなかった。だってこんな状況下でより強いプレッシャーに晒されているのは小鳩ちゃんの方なのだから。

 根気良く探し続けていればいつか堪えられなくなって尻尾を出すに違いない。

 そうしたら……服を脱がせて全身をくまなくペロペロしながらあの黒を堪能するのだ。

「待ってなさいよ。今、お姉ちゃんが可愛がってあげますからねえ♪」

 1室1室丹念に見て回る。彼女のプレッシャーを煽るようにじっくりと。

 すると、隣人部の部室から音が聞こえて来た。椅子か何かが床を擦る音が。

「そこね、小鳩ちゃんっ!」

 あたしは目を血走らせながら隣人部の部室へと走っていく。あんなペロペロし易い場所に逃げ込むなんて……小鳩ちゃんったら、もしかしてあたしを誘っているのかしら?

 

 

「あたし……小鳩ちゃんのお姉ちゃんになってあげるからね~~~~♪」

 決意表明しながら隣人部の扉を乱暴に開く。

 そこはあたしにとってパラダイスになる筈だった。

 でも、現実は違った。

「星奈……いっ、今のってどういう意味だ?」

 部室の中にいたのは小鳩ちゃんじゃなかった。その兄の羽瀬川小鷹だった。

 小鷹は顔を真っ赤にしながらあたしを見ていた。

「えぇええええええぇっ!?」

 小鳩ちゃんの黒とペロペロへの期待で浮ついていた心が一気に冷める。けれど代わりに恥ずかしさで顔が真っ赤に燃え上がる。

「小鳩のお姉ちゃんになるっていうのは……その……俺と……ってことなのか?」

 小鷹の顔は更に真っ赤に染め上がった。

 小鷹があたしのことを異性として気にしてくれている。嬉しいっ♪

 じゃっ、なくてぇっ!!

「ちっ、違うわよっ! 変な勘違いしちゃ駄目なんだからねっ!」

 慌てて打ち消す。

 小鷹とそういうことはもっとちゃんとした雰囲気の中で進展させたい。

 じゃっ、なくてぇて!!

 

「友達っ! 友達なのよ~~~~っ!!」

 大声で釈明を叫ぶ。

「友達っ? 小鳩のお姉ちゃんになるのが友達ってどういうことだ?」

 小鷹はあたしの話を理解してくれない。まあ、当たり前の話なんだけど。だからあたしは実際に行動で示してみせることで彼に理解してもらおうと思った。

 あたしは一目散に小鷹の元へと駆け寄る。そして──

「こういうことなのよ~~~~~~っ!!」

 しゃがみ込んで小鷹のズボンのベルトを外す。チャックを開いてズボンの裾を床に向かって引っ張った。

「どへぇえええええええええぇっ!?!?」

 あたしの眼前に晒される水色と白の縞々。

「あたしと……お揃いだわ」

 縦縞か横縞かという差はあるけれど、同じデザインなのは間違いなかった。

 なんか、ちょっと運命を感じる♪

 

「あの……星奈さん?」

 硬直している小鷹が声を震わせながら尋ねてきた。

「何?」

「これは一体、どういうことなんでしょうか?」

「あたしが小鳩ちゃんのお姉さんになる為に必要なことなのよ」

 そう。あたしが小鳩ちゃんと親密になるのには今みたいにパンツを媒介にしないといけないのだ。

「それって……やっぱり星奈は俺のことが……」

「ちょっと黙っててよ。考え事をしているんだから」

 パンツが繋ぐ友情について考える。これを小鷹にどう伝えたものか……。

 

 と、廊下から声が聞こえて来た。

「旦那様。こちらがお嬢様が所属しておられる隣人部の部室です」

「生徒の部活動の様子を知るのも理事長として当然のことだからな。今日は星奈の父親ではなく、理事長として部活光景を見学させてもらうとしよう」

 そして扉はノックもなく開かれた。

 

「「「「へっ?」」」」

 

 次の瞬間、あたし達は凍り付いた。

 だって、入って来たのはパパとステラだったのだから。

 

 

 

 

「お嬢様……とても愉快なことをしておられますね」

 いち早く石化から解けたステラが微妙な表情であたしに尋ねて来た。

 その声にようやく我に返って状況を整理し直す。

 あたしは小鷹のズボンを降ろしてそのパンツを至近距離からマジマジと眺めている。

 あれっ? これ、ヤバいんじゃ?

 すっごいエッチな場面だと誤解されてるんじゃ?

「星奈……どういうことなのか、説明しなさい」

 パパの声はちょっと震えていた。

 恐れているのか怒っているのかちょっと分からない声で。

 でも、あたし達のことを誤解していることだけは間違いなかった。

「えっと……」

 何と答えようか迷う。

 けれど、何にも良い回答が思い浮かばない。それで、ついありのままに喋ってしまった。

「こっ、これはあたしが小鳩ちゃんのお姉ちゃんになる為に絶対に必要な行為なの。それだけなのよ~~~~っ!!」

 ちゃんと真心を伝えれば通じるんじゃないか。そう思った。だって、ギャルゲーやエロゲーは結局最後は正直者が勝つことを教えてくれるんだから。

「小鳩ちゃんというのは確か……」

「はい。羽瀬川小鷹様の妹さんですね」

「つまり星奈は小鷹くんと……」

「そういうことになりますね。面白そうなのでそういうことにしましょう」

 パパとステラは顔を見合わせて頷いた。

 そして2人は小鷹へと向き直った。

 

「小鷹くん。君は勿論責任は取ってくれるのだろうな?」

「えっと……責任とおっしゃいますと……」

 小鷹の額から無数の汗の粒が流れ出る。

「責任を取ってくれるのなら俺は君を息子として心から迎え入れよう。だが、責任を取らないと言うのなら……」

 パパはステラの顔を見た。

「今後100年は人間が訪れないと思われます山中と、最新の科学技術を駆使してもまだ潜れない深海の底とどちらがお好みですか?」

 責任とか、海とか山とか3人は一体何の話をしているのかしら?

 あたしには分からない。

 けれど、小鷹の顔に張り付いている汗の量が尋常ではなく増えているのがとても気になった。

 そして、ガチガチに固まった動作で体を動かしながら小鷹は答えた。

 

「俺……さっき星奈に小鳩のお姉さんになりたいって言われてすっごく嬉しくなって……それで、俺も星奈のことが……だって気が付いて。だから、俺は星奈のことを幸せにしてみせますっ!!」

 

 頭上から聞こえる小鷹の声はとても大きいものだった。

 でも、その内容を整理するあたしの脳の処理能力の方が追い付かなかった。

「ほえっ?」

 えっと、小鷹は一体何を言っているのかしら?

「星奈。ちゃんと立ち上がって小鷹くんの話を聞きなさい」

「はい……」

 パパに言われるままに立ち上がる。

 すると小鷹はあたしの手を握って来た。

 えっ? ちょっと!?

 でもあたしの脳は相変わらずまともに働いてくれなくて驚きの声を上げることもできない。

「そのさ……こういう状況で言うのは良くないことだって分かってはいるんだけどさ」

「う、うん……」

 小鷹の手がやたらと熱く感じる。彼は何かとても重要なことを言おうとしている。

 でも一方であたしの脳は相変わらず麻痺状態。

 だけど小鷹の次の一言はあたしのそんな麻痺さえもぶっ飛ばすものだった。

 

「俺……星奈のことが好きだ」

 

「えっ?」

 突然のその言葉にあたしは息が詰まった。

 何で、何で突然告白されているの、あたしは?

 何で突然大好きな小鷹から告白されたりしているわけ?

「えっ、ええ~~~~~~~~っ!?」

「それで……その、今はまだ学生で偉そうなことを言える身分じゃないのは分かっているんだけど……」

 小鷹が両肩を掴んできた。

 とても力強かった。痛いぐらいに強い力。

 でも、全然嫌じゃない。

「星奈には将来小鳩の本当のお姉さんになって欲しいんだ。ずっとずっと…お姉さんでいて欲しいんだ」

「えっ? それって、それって……」

 恋愛沙汰には疎いあたしでもさすがにここまで言われれば小鷹が何を言おうとしているのか理解できた。

 顔が真っ赤に茹で上がっていく。続く言葉を聞くのが怖いような嬉しいような。

 興奮して頭がおかしくなってしまいそう。

 そして、彼は述べたのだ。

 

「星奈…………俺と、結婚してくれ」

 

 あたしの意識は小鷹からのプロポーズを聞いてヒューズが飛んだみたいにブチッと切れた。

 

 それからどれぐらいの時間が流れたのか分からない。

 10分かも知れないし、10秒かも知れない。

 だけどとにかく、あたしは意識をようやく取り戻した。

 パパの声によって。

「星奈……呆然としてしまうのは分かるが、小鷹くんのプロポーズにちゃんと返事してみせなさい」

 パパはいきなり凄い無茶なことを言ってきた。

 頭の中がまだ呆然としたままなのにプロポーズの返事をしろだなんて。

 自分の一生を決める一番重要な瞬間なのに……。

「ちなみにプロポーズの返事を保留したり拒絶した場合には、不純異性交遊の現行犯として2人共退学。星奈には孤島にある全寮制の伝統お嬢様学校に転校してもらおう」

「「なっ!?」」

 パパの言葉に2人して息が詰まる。

 退学も嫌だし、小鷹と離れ離れも嫌。その上に下僕たる男さえもいない女子校になんか転校したら……。

「お嬢様はぼっちを悪化させて死んでしまうかも知れませんね」

 ステラはサラリと見解を述べた。

「うっさいわねっ!」

 ステラを睨み付ける。でも、言う通りだった。

「さあ、娘よ。プロポーズの返答をするが良いさ」

 パパは意地悪く笑った。

 隣に立つステラも意地悪く笑っている。

 2人の魂胆は丸見えだった。

 それがあからさま過ぎて凄く腹立たしい。

 でも…………あたしの後押しをしてくれているのは間違いなかった。

「小鷹っ! いいっ! よっく、聞きなさいよっ!!」

 小鷹の腰を両手で掴む。頭1つ分あたしより大きな小鷹を見上げながら威嚇して喋る。

「あっ、ああ」

 小鷹は戸惑った表情をあたしに向けている。

 何を言われるのかまだ理解していない表情で。

「小鷹は、ついさっきあたしのことを好きだって気付いたみたいだけど……そんなんじゃあたしの年季とは比べ物になんないんだからねっ!」

「へっ?」

 大口を開けている小鷹。この鈍感男は本当に困った男だ。

 だから、あたしがちゃんと口で分からせてやるんだからっ!

「あたしはねっ! ずっと前からアンタのことが好きだったんだからねっ! プロポーズ? ……勿論受けるに決まっているでしょうがっ!!」

 あたしは小鷹に密着して背伸びをすると硬直している小鷹の唇を一気に奪った。

 初めてのキスはロマンチックとは正反対のやけっぱちなものだった。 

 でも、それでも悪くないと思った。

「あたしのこと……一生幸せにしてくれなきゃ……絶対に許さないんだからねっ!」

 唇を離してから固まったままの小鷹に注文を付けた。

 残りの70年ぐらいの人生を一緒に過ごすのだからこの程度の男の度量は示してくれないと困る。

 このあたしの旦那様になるんだから世界で最高の男になってもらわないと。

「はぁ~。娘が親から離れていく瞬間を目の当たりにするのは何とも複雑な気分だな」

「柏崎家にお笑い要員が増えたと思えば悪い話ではありませんよ」

 大きく溜め息を吐くパパとニヤニヤとやらしい笑みを浮かべているステラ。

 どうやら2人共あたし達が出した答えに納得してくれたらしい。

 これで、あたし達が引き離されることもなくなってハッピーエンドに……。

 

 

「突然私の隠れ家にやって来てスカートを捲って去ったと思えば、今度は小鷹と結婚だと? この肉はどこまで私を愚弄すれば気が済むのだ? 貴様の幸せなど絶対に認めん」

「あにきが奥方を娶られても……一生側でお仕えしますゆえ。夜のお世話もお任せ下さい」

「理科は結婚なんて枠には囚われませんから。理科の体が欲しくなったらいつでも呼んで下さいね、先輩♪」

「わたしはお兄ちゃんがこのスカート捲り魔と結婚するなんて絶対に反対なのだっ!」

「あんちゃんっ! さっさとその変態野獣女から離れるとばぁいっ!」

 5人の怒りの視線があたしに向けられていた。

 あたしの弁明第2ラウンドはこうして始まりを告げたのだった。

 

 

 

 

「ああ~~。もう~~。疲れたわよ~~~」

 

 ベッドの上に転がりながら今日1日の出来事を思い出す。

 結局あたしは今日友達をつくることは出来なかった。

 隣人部の5人の女子との関係はより悪化してしまった。

『私は……私は絶対にお前達の仲を認めないからなっ! せっかく10年ぶりに再会出来たいのに……小鷹の馬鹿ぁ~~~~っ!』

 夜空は散々怒り散らすと出ていってしまった。でも、隣人部の部室を出ていく瞬間あたしは見た。夜空の目に涙が溜まっていたことを。

 小鷹は全然気付いていないようだったけど、最大のライバルであったあたしから見ればその涙の訳は明白な訳で。いずれ何とかしなくちゃなあと思う。

『………………………フンッ!』

 小鳩ちゃんには幾ら話し掛けても背中を向けられたままで返事一つしてもらえない。

 これから一生のお付き合いになるというのに……いきなりお姉ちゃん失格の烙印を押されてしまっている。

 こっちも絶対に何とかしないといけない問題。だってあたしと小鳩ちゃんは家族になるのだから。

「そっか。でも、あたし……小鳩ちゃんのお姉ちゃんになるのよね」

 深刻な状況にいるのにも関わらず思わず笑みが毀れる。

 ただでさえあまり仲の良くなかった隣人部の面々と疎遠になるなど散々な1日ではあった。けど、悪いことばかりじゃなかった。

「あたし……この学園を卒業したら小鷹のお嫁さんになるんだもんね♪」

 あたしは今日、小鷹にプロポーズしてもらった。そしてあたしはそれを受けた。

 かなりというかどう考えても無茶苦茶な筋道だったけど。

 そしてあたし達の結婚はパパの意見で高校の卒業式の翌日と決まった。大学には夫婦として通うことになる。

 小鷹もあたしも驚きの連続だったけど、それでも前向きに今後の生き方を考えている。

 今度の日曜日には2人で指輪を買いに行くことになっている。

 昨日までからは考えられない人生を歩んでいる。

 そう。これからの人生をあたしは小鷹と共に歩む。

 もう……あたしはぼっちじゃないのだ。

「友達は出来なかったけど……あたしはぼっちじゃなくなった」

 左手の薬指を天井に翳してじっと見る。指輪を嵌めていない状態の手を見るのは今週が最後になるのだなあと感慨深く思ったりする。

何か思っていたのとは違う解決法な気がする。

 けれど、あたしは教室内で楽しく気軽にお喋りできる、しかも掛け替えのない唯一無二の存在を手にすることができた。

 こんな変化があたしに訪れたのはあの人のおかげに違いなかった。

「ありがとう、佐天さん。あたし……貴方のおかげで幸せになれたよ」

 佐天さんがスカート捲りというぼっち解消法を示してくれたからあたしは幸せになれた。

 あたしは縦に積み重ねて置いてあるレールガンのBDに向かって丁寧に頭を下げた。

 

 

 僕は友達が少ない ハッピーエンド

 

 

 


 
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