No.470293

美琴「ていうか、一山超えたら水着回とか安くない?」♪♪

超電磁砲水着回第2回。修羅場るJK。水着へと傾くJC。

とある科学の超電磁砲
エージェント佐天さん とある少女の恋煩い連続黒コゲ事件
http://www.tinami.com/view/433258  その1

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2012-08-15 01:13:42 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:2606   閲覧ユーザー数:2486

美琴「ていうか、一山超えたら水着回とか安くない?」♪♪

 

 

1.今日も……やっぱり不幸だ……っ

 

「今日も……やっぱり不幸だ……っ」

 大きく溜め息を吐きながら教室へととぼとぼ戻る。

 包帯が巻かれた右手ですきっ腹を押さえながら。

 

 昨日の火曜日に俺は自分のプライドを曲げに曲げて女物の水着を着てモデルの仕事に臨んだ。全ては餓死からこの身を守る為に。お金が1円もないという状況を変える為に。

 だが、それは大きな間違いだったと言わざるを得ない結果をもたらした。

 

『ハァハァハァ。上やん。よく似合っているから心配ないでぇ。ハァハァハァ』

『息を荒らげるなこの変態がっ! そして俺の手を引っ張るなっ!』

 

 女物の水着姿の俺は土御門や青髪達に散々おもちゃにされた。そして俺の悲劇はそれだけに終わらなかった。

 俺の幼女物の水着姿を絶対に見られたくない人物、ビリビリにこともあろうに見られてしまったのだ。

 

『……………………っ!!』

 

 ビリビリはいきなりレールガンをぶっ放して来やがった。そしてその後も有象無象の嫌がらせは続いた。更に極め付けは絡んで来た土御門達を共同戦線で撃破した後に起きた。

 

『アンタぁあああああぁっ! さっきは私に何てものを押し付けて“パシャ”、今度は何てものを晒してくれちゃってるのよぉ~~~~~~っ!!』

『アンタなんて……大嫌いッ!! 死ネェエエエエエエエエエエエエェッ!!!!!!』

 

 戦いで水着が焼け落ちてしまった俺はビリビリに全裸を晒してしまった。後はどうなったのか想像に難くないだろう。

 俺は超電撃に巻き込まれて全身を負傷、元から嫌われているビリビリには更に嫌われてしまう結果となった。

 そんな苦労の末にやっと手にしたバイト代の8千円。それは奨学金支給までの残りの9日間俺を生き永らせる為の大切な金銭になる筈だった。だがそうはならなかった。

 両腕を負傷している俺は箸もスプーンも扱えず学食で飯を食うことも出来ない。パンを買ってゆっくり食べようにも両手が使えないせいで確保に失敗。

結局昨日と同様に何も食べられないままに教室へと戻ることになったのだった。

 

「誰か上条さんに幸せを分けてくれませんかね~?」

 あり得ない幻想を口にしながら教室へと入る。昼休みが終わるまで寝て過ごそうと机に向かう。だが俺の歩みは自分の机を目の前にして止まった。止まらざるを得なかった。

「へっ?」

 何故か俺の席には姫神秋沙が座っていた。

「おかえりなさい……上条」

 姫神は机の上に三つ指を突いて深々と頭を下げた。こう、テレビの時代劇でよく出来た奥さんが帰宅したダンナにやるあのポーズだ。

「えっと……これは何の冗談でしょうか?」

 姫神の行動の意味がよく分からない。けれど、嫌な予感だけはプンプンと漂って来ている。これは一体どんな死亡フラグの始まりなんだ?

「上条……ご飯にする? 昼食にする? それとも……私?」

 姫神は頬を赤くしながら首を傾けた。

「あの、姫神さん? 一体何がどうなっているのか詳しい説明を……」

 額から汗がダラダラと止まらない。上条さんの不幸予知センサーは今日もバッチリだ。最大限の危険が迫り来ていることを知らせている。

「上条はご飯か私か選べば良いだけ」

 姫神は無表情にごく短過ぎる説明をしてくれた。

「あの……私を選ぶとどうなるのでしょうか?」

 敢えて危険そうな点を先に尋ねてみる。最大の危険を迅速に回避できるように。だが、そう思った俺は甘かった。甘過ぎた……。

「こんな明るい中。しかも学校の中で。皆が見ている前で私が欲しいなんて……上条のエッチ……」

 姫神は目を逸らして俯きながら顔中を真っ赤に染め上げた。えっ? 何、この反応?

 

「カミやんっ! お前って奴は、神聖なる学び舎の中でなんて破廉恥極まりないエロ過ぎる要求をJKにしてるんだにゃ~っ! リアル淫行許すまじっ!」

「上やんっ! 大人のファンタジーとペガサスファンタジーの区別も付けられん男子高校生になってはアカンっ! リアル高校生に手を出したいというそのイヤン♪な幻想を僕らがぶち殺したるっ!」

「「ダブルそイぶパ~~ンチッ!!」」

「グッハァ~~~~ッ!?!?」

 突然目の前に駆け寄って来た土御門と青髪に思い切り殴られて俺は高々と宙を舞った。これ以上ないぐらいの濡れ衣を着せられながら。

 ていうかコイツら、昨日ビリビリのレールガンをモロに食らった筈なのに何でこんなにピンピンしてんだ? 負傷した様子がどこにも見られねえ。

 そんなことを考えながら地面に転がった。余りにも理不尽な展開が続くので泣けて来た。

「……私の……将来の夫に……酷いことしないで」

 姫神は俺には聞こえない声で2人に何か文句を言っている。

「カミやんは……どこまでリア充街道を登れば満足するんだにゃ~……リア充オーラにあてられた反動が……グハッ」

「上やん……友達だと思っていた奴の結婚式に呼ばれないのは地味に傷付くから気を付けるんやで……グフッ」

 そして何故か土御門と青髪が横に倒れて来て血を吐きながら気絶した。もう、何が何だか訳がわかりません。

 けれどこのまま寝ていると土御門達の顔が間近にあって男子高校生的にはあまり嬉しくもない。なので立ち上がって頬を摩る。すげぇいいパンチ貰って両方の頬が痛い。

「それで。上条。結局選ぶのはご飯? それとも私? ちなみに私の方がお買い得」

 ……立ち上がっても少しも状況は良くなりませんでした。

 

「えっと……じゃあご飯でお願いします」

 俺にはもうそう答えるしかなかった。

「……チッ。意気地なしの童……郎」

 俯いた姫神から何かとても不穏当な声が聞こえた気がした。いや、あの寡黙にして冷静沈着な姫神からあんな言葉が出るとは思えないから俺の聞き間違えだろう。

「まあ良いわ。じゃあ。お弁当にしましょう」

 無表情に戻った姫神は俺の机の上に五重の重箱を置いた。えっ? 五重?

「あの、この豪華なお弁当は一体?」

 五段重ねのお弁当なんて漫画の中でしか見たことがありませんよ?

「私達の今日のお弁当」

「いえ、あの、この量は……?」

「少なかった?」

 戸惑いながら首を捻る姫神。

「いえ、全然。上条さん的には充分過ぎる量です。ハイっ」

 止まらない汗を掻きながら返答する。

「じゃあ。食べましょう」

 姫神が弁当を開く。一番上の段の中身がお披露目される。何かやたらと白かった。

「えっと……これは?」

「豚の角煮にとろろ芋を掛けたもの。精が沢山つく」

「はっ、はあ」

 どうしよう。汗が本気で止まらない。上条さん、今日もプールに入っている気分です。

「えっと、じゃあ、他は?」

「この下の段は。レバーとニンニクのバーベキュー焼き。精が沢山つく。その下の段はウナギの蒲焼に納豆を添えたもの。精が沢山つく。その更に下の段はスッポンと唐辛子とモロヘイヤを煮込んだもの。精が沢山つく」

「あの……姫神さんはお笑い芸人か何かを目指しておられるのでしょうか?」

 どうしよう。姫神に、凄い恐怖を感じる。上条さんは急に草食動物になった気分です。

「そして最後の段は。私用に卵焼きとかお野菜とかそぼろご飯とか普通のお弁当」

「上条さんそれが良いっ! 上条さんそれが食べたいですっ!」

 熱く激しくアピールする。

「…………そう」

 何故か姫神はガッカリした様な表情を見せながら一番下の重箱を開ける。そこには昨日と似た、それでいながら昨日とは少しずつ違うおかずの数々が並んでいる。相変わらずの匠の1品。

 

「はい。ア~ン」

 姫神は弁当の中から玉子焼きを一切れ箸で掴むと俺の口に向かって差し出して来た。

「あの……?」

「上条は手が使えない。だから私が食べさせてあげる。あ~ん」

 昨日と同じような展開。その同質性故に俺の脳内探知機は限りない不幸を感じ取って止まなかった。

「そこかっ!?」

 突如として振り返りながら襲撃者の奇襲に備える。だが、視線の先には誰もいない。

「甘いぞ、上条っ!」

「何いっ!? う、上かぁっ!?」

 少女の声が頭上から聞こえたので慌てて天上を見上げる。するとそこには体操選手以上の跳躍力で宙を舞い綺麗な弧を描きながら胸から落下して来る吹寄制理の姿があった。

「おおっとぉっ! 今日も盛大に胸が滑ったぁああああああぁっ!」

「回避が……間に合わねえっ!? …………グハァアアアアアアァッ!?」

 一瞬後、俺は脳天に吹寄の豪快なボディープレス、いやおっぱいプレスを食らったのだった。

 父さん、母さん、貴方達の息子は今日も難儀な人生を歩んでいます。

 もしかするとこの流れで先立つことになるかも知れない不幸をお許し下さい。

 

 

 

2.気にするかどうかの決定権は俺にありますよね!?

 

「スマンな、上条。ついまた胸が滑ってしまった」

 少しも悪びれた様子なく吹寄は偉そうに踏ん反り返りながらそう述べた。

「お前、少しも反省していないだろう?」

 一方で俺は頭を抱え激痛に耐えながら半泣きの瞳で襲撃犯を睨む。吹寄のGカップは鈍器として立派な殺傷兵器だ。

「ドジッ子属性というやつだ。高校生男子的には萌えなのだろう? 何、気にするな」

「気にするかどうかの決定権は俺にありますよね!?」

 吹寄の横暴に付き合っていると二重の意味で頭が痛くなってくる。

「で、何の用だ?」

「上条。お前は今日両腕が使えなくて不便だろうと思ったので私が厳選した健康パンを恵んでやろうと思ってな」

 吹寄は胸の谷間から“健康玄米パン”と記されたパンを取り出した。流石はレベル5(Gカップ)超乳力者。物の収納の仕方が半端ねぇ。

「また……邪魔をするの?」

 そして俺の後ろでは姫神が何かに覚醒してしまったかのように黒いオーラを吹き上げている。めっちゃ怖いです、はい。

「フッ。何を当たり前のことを。私はライバルに対して手を抜くことも遠慮することもしない。ただ全力でぶつかるのみだ」

「全力でぶつかって俺の頭を砕く気か!?」

 俺のツッコミは吹寄に軽くスルーされた。

「上条は。お弁当よりも私を選んだ。ムッツリスケベの上条という野獣は。私という少女をその毒牙に掛けることを決めたの」

「決めてないからな、そんなことっ!?」

 2人は俺のツッコミを無視して再び激しく睨み合っている。

 ほんと、昨日の再演だった。

「上条。私が食べさせてあげる。はい。ア~ン」

 姫神は俺へと向き直ると箸で玉子焼きを掴んで俺の口の中へと入れて来た。

「いきなりそんな……あっ。美味い。すっげぇ~美味いぞ、この玉子焼き」

 突然の行為に驚きはしたが、姫神の作った料理は間違いなしに美味かった。

「本当? 良かった」

 姫神は安堵したように胸に手を当てて息を撫で下ろした。その仕草は凄く可愛かった。

「なら、この私が厳選して選んだこのパンも上条に食べさせてやろう」

 吹寄はパンを一欠けら千切って俺の口へと入れて来た。

「いや、だからそういう恥ずかしい行為を平然と……あっ。このパンもすげぇ美味い」

「そうだろそうだろ。何せこの私が健康と上条の好みを考えて選び抜いたパンだからな」

 首を縦に何度も振る吹寄はとても嬉しそうだ。けれど、吹寄が嬉しそうにしていると今度は姫神がまた不機嫌そうな表情に変わった。

「そんな既製品のパンよりも。私の手作りお弁当の方が。美味しいの」

 姫神は玉子焼きを今度は5切れまとめて掴むと俺の口へと押し込んで来た。えっ?

「ちょっと待て。幾ら何でもそんな一気に…………美味いけど…息が、息がぁっ!?」

 一気に詰め込まれた玉子焼きが喉に詰まる。だが、俺を窒息に追い込もうとしている少女は何かとても幸せな表情を浮かべている。

「……上条が。私の作ったお弁当を。美味しいって言ってくれている……幸せ」

 俺の顔色が段々蒼く変色している横で小声で呟きながら頬に両手を当てて悦に浸っている姫神さん。何でしょうか、この状況は!?

「上条っ! 玉子焼きばかりでなく私のパンももっと食べろ」

 何故か対抗心を燃やしたらしい吹寄がパンの残りをまとめて一気に俺の口へと押し込んで来た。

「グフゥエッ!?」

 ただでさえ姫神の玉子焼きで窒息し掛けている所に更にパンをほぼ丸ごと。俺の口の中は玉子焼きとパンでいっぱいになり過ぎて大変なことになってしまった。

「うん。男子に食べ物を食べさせてあげるという行為もなかなか良いものだな。青春だ」

 青春じゃネエ。これは処刑だ!

 そう言いたかったが窒息し掛けた俺にそれを喋ることは叶わなかった。

 何て言うか……今日も俺は絶好調に不幸街道をまっしぐらです。

 

 

「大丈夫?」

 姫神が準備してくれた麦茶を喉に通しながらようやく一息吐く。

 上条さんお得意の生死を賭けた戦いに何とか今回も勝利した。ギリギリの所で勝利した相手というのが玉子焼きとパンだったというのは人生初めての体験だったが。

「ああ、何とかな」

 包帯が巻かれ動きにくい両手で何とかコップを支えながら返事をする。

「ごめんなさい」

「私もちょっと功を焦り過ぎた。スマンな」

 それぞれ頭を下げる姫神と吹寄。

「いや、気を付けてくれれば別に良いって。それに昨日の昼は餓死し掛けていたのに比べれば食べ過ぎで死に掛けるのは幸せだっての」

 上条さんは別に今回のことを根に持ってはいない。姫神も吹寄もわざわざ俺に食べ物を持って来てくれたのだし。

「それに俺が手さえ怪我していなければもっと普通に美味しく食べられたんだしな」

 むしろ不幸を招きいれた原因は動かないこの両手にある。そう考えるのが正義のヒーロー上条さんですよ。

 でも、その一言は余計だった。

「上条。今日ずっと気になっていたのだけど。その手は一体どうしたの?」

「昨日は水着の撮影をしたのだろう? どうしてそんな怪我をしているんだ?」

 しまった。2人が俺の手の怪我に興味を持ってしまった。

 俺が昨日女物の水着を着て写真撮影していたことはバレたくない。そんなことがバレたら恥ずかし過ぎる。何とかその部分は隠し通さなくては……。

「実は、知り合いの女子中学生を助ける為の名誉の負傷って奴だな、これは」

 正確にはその知り合いの女子中学生の電撃によって両腕を負傷した訳なのだがその辺の事情は省く。

 俺は自分では恥ずかしい部分を隠してよく説明したと思った。だが、そう思った俺はやっぱり甘過ぎたのだった。

「女子中学生を……助ける為」

「名誉の負傷だとっ!?」

 姫神と吹寄の目が大きく吊り上がった。えっ? 

「上条っ!」

 姫神さんは普段のクールな言動をどこかに捨てて激しくお怒りでいらっしゃる。何で?

「はいっ、何でしょうか?」

 背筋を伸ばして直立不動の体勢で姫神の話を聞く。

「その女子中学生の……顔は可愛いの?」

 姫神からかつてない程巨大なプレッシャーを感じる。だから何故なんだっ!?

「えっと、その質問の意図はどういうものなんでしょうか?」

「いいから答えなさい。可愛いの? 可愛くないの?」

 姫神から受ける負のオーラが巨大過ぎて回答しないという選択肢を俺は選ぶことは出来ない。

 仕方なくこの意図不明な質問の答えを考えてみる。

「えっと……可愛いか可愛くないかで考えますと……」

 ビリビリの顔を脳裏に思い浮かべる。

 普段俺に対しては怒ってばかりいるビリビリ。怒っている時のビリビリは苦手だ。でも、アイツが笑うと俺はとても幸せな気分になれるのも確かだ。

 そう。アイツの笑顔を見るとどんな不幸が続いても頑張れる気分になるんだよなあ。

 うん。答えは得た。

「その、顔は可愛い子だと思います。お嬢様でもありますから立ち居振る舞いもたまに優雅で気品がある時もありますし」

 俺は正直に自分の胸の内を答えた。

 

「可愛い……しかもお嬢様っ!!」

 姫神が俺の机の上に手を思い切り叩き付けた。次の瞬間、俺の机は大きな音を立てながら真っ二つに裂けた。

「おっ、おっ、俺の机がっ!?」

 全身がガタガタと震える。目の前の少女がいつも冷静沈着なあの姫神と同一人物なのかと激しく疑いながら。

「上条……っ!」

「サー・イエッス・マムっ!! 一体、何でしょうか!?」

 更に激しく直立不動の体勢を取りながら尋ね直す。

「男子高校生は女子高校生と付き合うべき。女子中学生と付き合うのは……ロリコン」

 姫神の瞳はこれ以上ないぐらいに怒りの炎を激しく燃え上がらせている。

「あの、それは一体どういう意味でしょうか? わたくしめは別に女子中学生と男女交際する意図は全く……」

「黙りなさいっ!!」

「はいっ!」

 姫神が再び俺の机に手を思い切り叩き付けた。今度は机が4分割されてしまった。

「上条は鈍感。相手の女子中学生がどう思っているのかは分からない。よって上条はどんな誘惑を受けても。女子中学生と付き合ってはダメ。それはロリコンの所業っ!」

「いや、あの、その、別に俺はそいつと全然仲良くないですから。いつも怒られてますし。それにロリコンと言われましても、年齢の差異はたかだか2歳でして……」

 別に俺は女子中学生と積極的にお付き合いしたいとは思わない。男子高校生は女子高校生と付き合うのが一番自然なんじゃないかなとは思っている。

 けれど、中学生と付き合ったらただちにロリコンという論理にはちょっと納得しかねるものがある。相手が小学生以下だったらロリコンに同意するだろうが、中学生だからなあ。

 身長と頭の良さで考えればビリビリは大人と何ら遜色ない訳だし。

「上条はロリコン?」

 机が8等分されました。姫神さんはとてもお怒りです。

「いえっ、決してわたくしめはロリコンという訳ではありません。その、ロリの境界線をどこに置くかという観点が姫神教官と違うだけの問題でして」

 万が一にもあり得ないだろうが、ビリビリと付き合うことになったとして俺は自分をロリコンだと考えるだろうか?

 ……俺の方がアイツに弟扱いされているのに、どうロリコンであると仮定しろと?

「その、世の中には子供っぽい高校生も、大人っぽい中学生もいる訳でして、男子高校生と女子中学生の組み合わせが必ずしもロリコンとは……」

「…………っ!!」

 机が16等分されました。

 

「まあ待て秋沙。このペド野郎を処刑する前にまだ他に聞いておくべきことがあるだろう」

「ペド野郎って……処刑って……」

 吹寄の言葉には姫神以上の悪意を感じる。

「さて、被告人上条よ。これから2つ質問を行おう」

「既に被告人扱いっすか、俺?」

 勿論俺の抗議に意味などなかった。

「さて上条死刑囚よ、貴様は胸の大きい女と胸の小さな女のどちらが好きだ?」

「死刑囚ってあのなあ……いえ、何でもありません」

 吹寄は自分の大きな乳をわざとらしく揺らした。その瞳は姫神に負けないぐらい暗い炎を吹き上げていることは今更言うまでもない。

 答えないとこの場で殺されそうだった。

「え~と上条さん的には大きい胸には大きいなりの良さがあり、小さい胸にも別の良さがあるという答えを述べたいのですが」

「却下だ。二者択一だ。もしくはこの場で死ぬかだ。好きな選択肢を選べ」

 とても嫌な第3の選択肢を頂きました。

「えっと、じゃあ…………」

 考える。考える。考える。

「上条さんも男の子さんなのでやはり大きい胸にロマンを感じます」

「そうかそうか。上条は大きな胸が好きか。このスケベめ」

 俺を非難しながらも吹寄は何故かとても嬉しそうだった。大きく踏ん反り返って胸を強調しているし。

「では、次の質問だ」

「はい」

「上条が助けたというそのJC。胸は大きいのか?」

「えっと……何故そのような質問を?」

 先程の姫神の質問同様趣旨がまるで掴めない。

 ビリビリの顔が可愛かったら、胸が大きかったら一体何だって言うんだ?

「良いから答えなさい。さもなければ死だ」

 吹寄さんの言葉をとても重く感じる。

 魔術サイドとどれだけ戦ってもこんな恐怖感じたことはありません。はい。

「その……あの子は無乳力者(レベル0)です。はい」

 恐怖に駆られて素直に述べる。

「ということは、Aカップ未満ということか」

「その、詳しいことは上条さん的には全く知りませんが、服の上から見た感じで判断するとそんな感じではないかと……」

 冷や汗が止まらない。俺は一体、何を供述させられているというのだ?

 父さん母さん、俺には女の子というものが分かりません。

 

「そうか。上条は巨乳マニアで、上条が昨日助けた女子中学生は無乳力者か。なるほど」

 吹寄はニヤッと笑ってみせた。

「あの、上条さんは別に巨乳マニアという訳では……」

 俺の反論は当然の如く無視された。吹寄は窓の外を見ながら何かを考えている。

「よしっ。上条」

 振り返った吹寄は先程以上に悪い笑みを浮かべていた。

「今度の土曜日に私と秋沙と上条の3人でショッピングに行く約束。買い物が終わったら3人でプールに行って泳ごうじゃないか」

「あの、今は6月の初めで泳ぐにはまだ早いんじゃ?」

 昨日バイトしたプールは時期が早くて休園していたから自由に撮影が出来た。つまり、プールはやっていない筈。

「室内施設なら問題ないだろう。それとももしかして上条はカナヅチだから行きたくないとか?」

 挑発的な瞳を向けて来る吹寄。その挑発はちょっとだけ俺をムッとさせた。

「そんなに言うなら上条さんの華麗な泳ぎを土曜日にプールで吹寄にみせてやるよ(伏線)」

「ああ。楽しみにしてるぞ」

 吹寄は姫神へと向き直る。

「さて、これで私と上条はプール行きに賛成した。秋沙はどうだ?」

 気のせいか、吹寄が姫神に対してもやたらと挑発的な瞳を向けている気がする。

 一体、どうしたってんだ?

「フッ。勿論一緒にプールに行く」

 だが、姫神の返し方もまた吹寄を煽る類のものだった。鼻で笑ったのだ。

「ほお? 中乳力者(レベル3)では巨乳マニアの気は惹けんぞ。少なくとも私がいる限りはな」

「私をいつまでも中乳力者だと思わないで。後は水着さえちゃんと選べば超乳力者にだって負けない…………バストアッパーの真価を今こそ」

 2人は再び激しい火花を散らし合っている。一体、何でこの2人は争っているんだ!?

「大きく出たな、姫神秋沙」

「驕る平氏は久しからずよ。吹寄制理」

 何でこの2人、普段は凄く仲が良いのに今は宿命のライバルみたいにして激しく闘志を燃やし合っているのでしょうか?

 俺には理由が欠片も見当が付きません。

「何で2人は争っているんだぁあああああああああぁっ!?」

 意味不明さと悲しみが絶叫となって口から漏れ出る。

「それをいつまで経っても理解しないのがカミやんのカミやんたる所以なんだにゃ~」

「ホンマ、何で上やんばっかりモテるんやのかな?」

 俺の問いに答えてくれる者は誰もいないのだった。

 

 

 

 

3.うっさいわね! 無乳力者って言うなっ! 気にしてるんだからっ!

 

〔当麻ぁっ、お姫様抱っこしたまま移動するなんて恥ずかし過ぎるよぉ。もぉいい加減に降ろしてよぉ~〕

 当麻はさっきから1時間程私をお姫様抱っこしたまま地面に降ろしてくれない。

 おかげでさっきから通り過ぎて行く人々の視線が私達に向けられっ放し。お姫様抱っこしてもらえるのは嬉しいけれど、やっぱり人目が気になるというか恥ずかしい。

〔駄~目だ〕

 けれど当麻は私のお願いを聞いてくれない。ちょっと誇らしげで意地悪な表情を浮かべて私を降ろしてくれない。

〔俺は、俺と美琴のラブラブぶりをこの学園都市中に知らしめたいんだ。だから今降ろす訳にはいかないな〕

 当麻は私との恋仲を皆に知らせたくて堪らないのだ。だから私の言うことを聞いてくれない。

 そんな当麻のスパっとした態度に一方ではメロメロになっちゃう私がいる訳なんだけど、一方では当惑する私もいる。特に今は後者の私が問題だった。

〔当麻の意地悪ぅ。幾ら私達が正真正銘の恋人同士で愛し合っているからって、こんな風に見せ付ける様にしたら私が恥ずかしくて死んじゃうよぉ〕

 当麻の恋人でいられることは私にとって何事にも代えられない嬉しいことなのは事実。でも、だからと言って乙女である私が恥を捨てることも出来ない。

〔なるほど。そう言えばまだ学園都市の皆に俺達が熱愛中であることをまだアピールしていなかったな〕

〔えっ?〕

 それってどういうこと?

 そう聞き直す暇もなかった。

 当麻が自分の唇を私の唇へと重ねて来たのだ。お姫様抱っこされていて動けない私に避けるなんてことは出来なかった。不意打ちのキスに対して目を開けたままキスをするという醜態を晒さないことが精一杯。

 当麻は普段の執着心の弱い言動とは異なりキスする時はかなり強引で激しい。

 今も私の唇を荒々しくついばみ、彼の舌が私の口内へと侵入し、私の舌を激しく愛撫している。

 彼の強引にして巧みなキスに私の意識は全部持っていかれそうになる。でも、負けっ放しは私の性に合わない。私も必死に舌を絡め返して反撃する。

 それから数十秒が過ぎて息が苦しくなった私達はどちらからともなく唇を放した。そして大きな音を立てながら息を何度も吸い込む。激しすぎるキスだった。

〔もぉっ、当麻ったら。不意打ちのキスは止めてっていつも言っているでしょう〕

〔いやぁ~悪イ悪イ。美琴たんがあんまり可愛かったもんでつい我慢出来なくなっちまってな〕

 悪びれる様子もなく語る当麻。彼はいつもそう。私の唇を好き勝手に貪る。幾ら私の唇が当麻専用だとはいえちょっと強引過ぎる。

〔もぉっ。当麻はファーストキッスの時も私が寝ている時に強引にするし……ケダモノ〕

 プクッと頬を膨らませながら抗議する。

〔アレは世界一可愛い癖に俺の前で無防備に寝ている美琴たんが悪いの。美琴が宇宙で一番可愛いから上条さんの野獣が目を覚ましたのは仕方ないことですよ〕

〔当麻ったら、可愛い可愛い連呼し過ぎだよぉ……ばか〕

 恋人に可愛いと言ってもらえるのは嬉しい。だけどここは天下の往来のど真ん中。皆の目があるのでやっぱり恥ずかしい。

〔じゃあ美琴。俺はもう1度お前とキスがしたいんだ。良いか?〕

 尋ねる当麻の顔は真剣。その凛々しい顔を見ていると私の胸はうるさい程の高鳴りが止まらなくなる。

〔うん。良いよ。私も当麻とキスするの好きだもん。だって当麻のこと愛しているから〕

 目を瞑って彼を受け入れる体勢を整える。

 そして私達はまた少し長めで激しいキスをした。

 当麻を口いっぱいに感じる。

 これが私の新しい日常だった。

 当麻と共に人生を歩む私の新しい日常だったのだ。

 

 ………

 ……

 …

 

 

「お姉さま、一体どうなされたんですの? 天井に向かって急に唇を伸ばし始め舌を出したかと思ったら今度は急に左右に転がり出して。一体、どんな夢を見ていたのですか?」

 目を開けるとルームメイトであり頼れる後輩でもある白井黒子が呆れ顔で私を見つめていた。

「なっ、何でもないの。夢だから覚えてないし。た、多分私が喜んでたって言うのならきっとゲコタが出てくる夢を見ていたんだと思う」

 ベッドから上半身を起こし、右手を左右に振りながら誤魔化してみる。

「それなら良いのですが……」

 黒子は瞳を細めて疑わしそうな眼差しを向けている。けれど、夢と言われてしまえばそれ以上追究も出来ないようだった。

 ちなみに黒子にした説明は嘘だったりする。

 私は寝てなんかいなかった。

 朝早く、多分5時前に目を覚まし、昨日起きた出来事を再整理していた所だった。途中で私の願望が入ったせいで話が変な方向に曲がっていった所で黒子に声を掛けられた形になる。

 って、それも違うっ!

 私はアイツとキス、しかもディープキスしたいだなんて思ったことは1度もない。だからこれはきっと昨夜インターネットでキスに関して色々調べた結果妙な影響を受けてしまったに過ぎないのよ。そう。そうなのよ。

 妄想の中でお姫様抱っこされているのも、昨日実際にアイツにお姫様抱っこされてしまったからその時の記憶が残っているだけ。私が望んだことじゃない。

 そうよ。全て悪いのはアイツのせいなのよ。私が気絶している間に人工呼吸という名前のキスをしたんじゃないのかって疑いを抱かせたり、頼んでもいないのにお姫様抱っこして私を運んだアイツが全部悪いんだからっ!

「お姉さま。さっきから1人百面相をなさっておられますが、一体どうしたのですの?」

 私を見る黒子の瞳はかなり冷たい。私が何を考えているのか全てお見通しなのだけど敢えてそれには触れないみたいな。そんな感じ。

「いや、今度ゲコタグッズの新アイテムが発売されるんだけどなかなかコンプリート出来ない仕組みになっていてどうしようかなあと……アハハハハ」

 我ながら苦しい言い訳していることを自覚する。でも、黒子の前で迂闊にアイツの名前を出そうものなら怒り狂うに決まっている。よって伏せたままにする。

「なら、結構ですわ」

 黒子は納得はしていない。納得はしていないけど追究を諦めた。本当に助かったぁ。

「そう言えばお姉さまは昨日夜遅くに戻られた時に随分と上の空で楽しそうでしたけれど、あの殿方と何かありましたの?」

「そうなのよぉ。ちょっと聞いてよぉ。昨日色々あってカメラ撮影を手伝うことになったら、その撮影会場にアイツがモデルとしていたから驚いちゃったわよぉ……あっ」

 何でもない感じで尋ねて来た黒子につい本当のことを答えてしまった。

 恐る恐る黒子の反応を見る。

「やっぱりぃっ! お姉さまが上の空なのはあの類人猿と一緒だったからなのですねっ!」

「ひぃいいいいいいいいぃっ!?」

 思い切り怒っていらっしゃった。その全身から湧き出る黒いオーラが半端じゃない。目なんか点になって黒子最大級のお怒りモードだ。

「先程のうわ言の中でお姫様抱っこがどうとか何度も聞こえたのですが……まさか、されたんですの?」

「そ、それは……」

 答えに詰まる。

 アイツが私をお姫様抱っこしたのはプールで気絶した私を助ける為。男女の親密さを示す意味は欠片もない。

 だけどお姫様抱っこされたことは事実であり、そのサプライズ行為を私が喜んでいたのも事実。

 だから否定するのも何か違うと思った。そう。否定したくない自分が心のどこかにいた。

「否定、して下さらないのですねぇえええええええええええぇっ!!」

「ひぃいいいいぃいいいいいいいいいいいぃっ!?!?」

 黒子のお怒りが更に膨れ上がった。自分の気持ちに正直に生きた結果、黒子が凶悪してしまった。

「それではキスという単語が何度か聞こえましたけれど、まさかそれも本当なんですのぉおおおおおおおおおぉっ!?」

 黒子のツインテールが蛇のようにニョロニョロと蠢きながら私を威嚇している。

「そっ、それはないっ! 私、アイツとキスなんてしてないんだからぁあああああぁっ!!」

 大声で自分の無罪を主張する。

 最初は私が気絶している間にアイツが人工呼吸=キスしたんじゃないかと疑いもした。でもアイツはそんなことをしていないと言ったし、アイツがそう言う以上それは真実なのだと思う。よって私はキスなんてしていない。

「では、キスしようとしたけれど未遂で終わった。そういうことですの?」

「それも違うっ! わ、私はアイツとキスなんて全然したくないってのっ!」

 黒子に反論して微かに胸が痛む。

「ではお姉さまはあの類人猿のことなど何とも思っていないと?」

「あっ、当たり前じゃないの。あんなズボラでガサツで鈍感な男がこの私の眼鏡にかなう訳がないじゃない」

 首を背けながら答える。

 言葉を発する度に何故か胸がズキズキと痛んだ。

「…………まだ大声で否定出来てしまう程度に自分の気持ちと向き合う覚悟がないのですね。少し安心しましたわ」

「何か言った?」

「別に何も言っておりませんわ」

 向き直った黒子はいつもの澄まし顔に戻っていた。

 

「まあ、有り得ない心配だったとはいえ安心しましたわ。お姉さまがあの類人猿とお付き合いするような展開になっていなくて」

 黒子は胸に手を当てながら大きく息を吐き出した。

「何で私がアイツと付き合わないといけないのよ」

 黒子のそのわざとらしい動作が何だかムッとする。

「え~え~。皆まで言わずとも黒子には分かっておりますとも。お姉さまがあんな冴えない品のない身長も学力も社会的なステータスも高くない男に惚れる訳がありませんもの」

「そりゃあそうなんだけどさ……………………当麻のこと、そんな悪く言わなくても良いじゃない」

 小声で黒子に愚痴る。アイツの悪口を私以外の口から聞くと腹立たしくなる。何故かはよく分からないけれど。

「それにあの殿方の方もどうなんでしょうねえ?」

「えっ?」

 黒子はニヤッと意地悪な笑みを浮かべながら私のパジャマの胸元をジッと見た。

「あの殿方は類人猿だけあって己の欲望に忠実な筈。果たしてそのような野性味溢れる殿方が、女性としてのセックスアピールに乏しいお姉さまを好きになるでしょうかねえ?」

「どこ見て喋ってんのよっ!」

 黒子の言葉に大きな動揺を覚え、それを吹き飛ばすべく大声で怒鳴る。

「巨乳好きの男子高校生が集うインターネットサイトにアクセスし、胸の大きな女性と胸の小さな女性のどちらが好きか尋ねた所、99%の回答者が胸の大きな女性が好きと答えました。つまり、世の男子高校生は胸の小さな女性には性的な魅力を感じないのですわっ!」

 黒子が指を私に向かって突き刺しながら大声で叫んだ。

「そっ、そんなぁあああああああああぁっ!?!?」

 ベッドに両手をついてガックリと項垂れる。

 黒子の言葉には心当たりがかなりあったりする。

 アイツは年上好きでセクシーなプロポーションの女性を好むんじゃないかって。

 例えば一番身近な所で言うと、私よりも私の母親の方に好感度が高いことが言動の節々から見て取れる。

 確かに私の母親は娘が言うのも変だけど、美人だしスタイルも抜群。でも、あの人は14歳の娘がいるおばさんで、おまけに人妻なのよ。

 そんな人への好感度が私よりも高いって絶対間違っているでしょうがっ!

 やっぱり……胸、なのかな?

 私の胸が婚后さんや佐天さんみたいに大きかったらアイツの接し方も変わっていたんじゃないか?

 そんな風に考えてしまう。ひたすら憂鬱。

 それにお母さんが中2の頃は写真で見る限り既に私よりも全然成長していた。

この体型の差は学園都市でレベル5になる為に投薬とか頭の中を弄った反動で胸を大きくするホルモンが止まっちゃったとかそういう話なのだろうか?

 だとしたら悲し過ぎる。

「お姉さまは粗野丸出しの類人猿を相手にせず、類人猿も無乳力者のお姉さまを相手にしない。お二人は学園都市を代表するベスト・不カップルじゃございませんの」

「うっさいわね! 無乳力者って言うなっ! 気にしてるんだからっ!」

 黒子の言葉に凄い悪意を感じる。いや、実際に悪意が篭められているのは間違いないのだろうけど。

 この胸、どうにか出来ないかな?

 どこかにお手軽に胸を大きくできる画期的なアイテムとか売ってないのかな?(伏線)

「何をおっしゃいますの。女同士であれば胸があろうがなかろうが大した問題ではありません。それにわたくしとお姉さまは共にレベル0同士で相性もバッチリですのよ~♪」

「黙れっ!」

 ルパンダイヴして来た黒子を電撃で黒こげにする。

「あっ、そうですわ」

「アンタ、全身黒こげなのにタフね」

 呆れながら黒子を見る。この子の回復能力は半端ない。その内に死んでもすぐに生き返りそうな気がする(回収済み伏線)。

「お姉さまが昨日上の空で門限を破って帰宅した罰として、今日の放課後プール掃除をするように寮監が言っておりましたわ」

「ゲッ!? あの広いプールを1人で掃除するのっ!?」

 かつてあの広いプールを黒子と2人で掃除した時の苦労が蘇る。

「今回はプールサイド清掃や備品整備等で作業は以前と比べてごく限定されておりますわ」

「そう、なんだ」

 少し安心する。あの巨大プール浴槽を1人で掃除するのは流石に厳しいから。

「という訳で、お姉さまと黒子で力を合わせてプール掃除を頑張りましょう」

「何でアンタもやるのよ?」

「お姉さまの帰りが遅くて寮内で大声で叫んでいましたら寮監に罰を申し付けられましたの。テヘッですわ♪」

 黒子は舌を出して見せた。

「あっそ……」

 大きな溜め息を吐く。黒子が手伝ってくれることで仕事が楽にもなるのだろうけど、厄介も増えるんだろうなあ。

 そんなことを考えながら窓の外を見つめて太陽の光を浴びることにした。

 

 

 

4.どうか婚后さん達に出会いませんように

 

 私の名前は佐天涙子。柵川中学校に通う1年生。

 親友である初春飾利のスカートを捲りパンツを眺めるのが日課のどこにでもいるちょっとお茶目な女学生。ちなみに昨日の初春のパンツは赤と白の縞々。もっと子供っぽいのが良かった。可愛らしいクマさんが見たかった。最近の初春は背伸びして困る。

それはともかく私は明るく元気が売りの茶目っ気たっぷりの天真爛漫お気楽極楽女子中学生。それが皆の知る佐天涙子。佐天さんのキャラクター。

 でもそれは私の表の顔でしかない。そう。私には初春にも秘密にしているもう一つの別の顔がある。

 それは私がお皿洗いからお風呂掃除までどんな過酷な仕事もやってのける万能エージェントであるということ。1食700円で食事も作るわ(材料費は別途)っ!

 

 エージェント佐天さん。

 

 それこそが私のもう一つの顔。言い換えれば裏の顔。

 今までにこなして来たミッションは数知れず。私はいつの間にか学園都市の暗部を渡り歩く女になっていた。

 そして今日もまたエージェント佐天さんの元に新たなクライアントが依頼を持って来たのだった。

 

 金欠女学生とブルジョワお嬢様中学生が交差する時、物語は動き出す──

 

 

 6月第1週の水曜日の放課後、私は天下のお嬢様学校常盤台中学の体操服姿に変装して寮の隣に立っていた。

 常盤台の寮と言っても御坂さんや白井さんがいる方の寮じゃない。婚后さんや湾内さんや泡浮さんがいる方のもう一つの寮の方。

 エージェント佐天さんへの今回の依頼はこの寮の中庭の草むしりだった。

 

 昨日、私、というかエージェント佐天さんの所に依頼のメールが届いた。

 クライアントの名は“おっほっほっほっほ”。事情により素性は明かせないが高貴な家の出のお嬢様で常盤台中学の生徒らしい。

 そのお嬢様は至急の用件ということで、明日(=今日)までに寮の庭の草むしりを代わりに行って欲しいと述べて来た。前金を1万円振り込んで。

 私が一も二もなくオーケーしたのは言うまでもない。

「どうか婚后さん達に出会いませんように」

 エージェント佐天さんはその正体を秘密にしている。初春にだって教えていない裏稼業。非正規、下手すれば非合法バイトだから。噂が広まれば担任の大悟に何を言われるか分からない。どんな罰課題を出されるか分からない。

 従って常盤台のお嬢様達にだって知られる訳にはいかない。そう、エージェント佐天さんは学園都市の暗部に潜む存在なのだから。

「あらっ? 佐天さんではありませんの。常盤台中学の寮まで一体何の御用ですの?」

……早速、婚后さんと出会ってしまった。しかも婚后さんはまるで私を待ち構えるかのようにして寮の裏口前に立っていた。よりによって何故今日このタイミングでこんな所に!?

「こ、婚后さん。こんにちは。えっ、え~と……実は、湾内さん達に少しばかり用がありましてこうして変装してやって来たという訳です」

 常盤台の体操服に麦藁帽子姿の変装は知り合いには通じなかった。額から流れ出す汗の量がドッと増える。

「まあ、そうなんですの。ですが、湾内さんも泡浮さんも今日は水泳の練習で寮に戻るのは遅くなる筈ですわ(伏線)」

 婚后さんは首を捻った。エージェント佐天さん更にピーンチっ!

「そっ、そうなんですかあ。なら、行き違いになってしまったんですねぇ。ところで、婚后さんこそこんな寮の裏口前で何をしているんですか?」

 私の質問に婚后さんはギャグ漫画の様に全身を大きく仰け反らせた。

「そ、それはですわね……」

「それは?」

「わたくしが寮の備品を能力でぶっ飛ばしてしまった罰に寮の草むしりを……ではなく、寮の裏口の換気を行っていたのです。ええ、もうそれだけです。それ以上にここにいる意味などありませんわ。おっほっほ……」

 お得意の扇子を使っての笑いが発動出来ない。扇子を持つ手が震えてしまっているのだ。何かを隠そうとしているのは明白。けれど、何を隠そうとしているのかまるで見当が付かない。

「えっと、じゃあ、湾内さん達もここに来られないようですし、私はこれで失礼させて頂きますね」

「わっ、わたくしも自室に戻って勉学に戻りませんと。高貴な血に生まれたる者、常に自戒して精進に励まないといけませんわ。おっほっほっほっほ」

 婚后さんは寮の中へと戻っていった。私も婚后さんに疑いを抱かれない様に1度去るフリをして寮から遠ざかる。そして柵川中学のジャージに着替え、サングラスとマスクを装備して戻って来る。後は麦藁帽子とタオルで顔を更に隠して作業を開始するだけだった。

 

 作業を開始してから約1時間が過ぎた。時計を見れば午後4時20分。普段から業者が手入れしているかなのか、私がすべき作業量は多くなかった。

「よしっ、これで大体作業は完了かな」

 裏庭を見回しながら額の汗を拭う。

 作業を開始してからは誰からも話し掛けられることはなかった。あからさまに外部の人間の格好をしていたので業者の人と納得してくれたのかも知れない。

「後は、クライアントに草むしりが終わったことをメールで報告してっと」

 物陰に移り再び常盤台の体操服に着替えながらクライアントに任務完了のメールを送る。さて、後は何食わぬ顔をして常盤台を去るとしますか。

「さすがは超一流のエージェント。わたくしの知らぬ間に仕事はきちんと果たして下さいましたのね。これでわたくしの罰当番は終わりましたわ。おっほっほっほっほ」

 常盤台の寮を去ろうとしたら、何故かまた裏口の所に婚后さんがいた。

「あっ、どうも……」

「こっ、こんにちは……」

 何か凄く気まずい。

 お互いどうしてここにいるんだろうって微妙な表情で見ている。

 と、その時私の携帯が左右に激しく揺れた。

「あっ、メールだ」

「それは大変ですわ。早く出ないと相手に失礼でしてよっ!」

 2人して妙にテンション上がりながら私はメールを確かめる。

 御坂さんから送られてきたメールだった。

 

『 常盤台のプールで野獣に

襲われているの。助けて 』

 

 ……短い割にとても物騒な内容だった。

「たっ、大変ですっ! 御坂さんが学校のプールで野獣に襲われているって!」

 半分パニックになりながらメールの文面を口にする。

「何とっ! 御坂さんはわたくしの大切なお友達。友を見捨てたとあっては婚后家の名に泥を塗ってしまいますわ。佐天さん、御坂さんを助けにいきますわよ」

 婚后さんは腕ごと扇子をビシッと伸ばして言い放った。

「あっ、ありがとうございます」

「レベル4の空力使い(エアロハンド)の力を存分にご覧に入れて差し上げますわ」

 こうして私は婚后さんと常盤台のプールに急行することになった。

「もし、本気でヤバい事態かも知れないから……初春にもジャッジメントとして来てもらおう」

 援軍の要請も忘れないようにしながら。

 

 

 

5.どうせ私はニットベストがなかったとしても男の興味を惹けないから安心な女だから

 

 午後3時。本日最後の授業がようやく終わりを告げる。世間一般でいう放課後の始まり。

 普段であれば私も好きな漫画雑誌の立ち読みに出掛けたり、アイツと偶然出逢って今度こそ負かせてやれないかと街を徘徊する時間。

 けれど、今日は違う。

「罰掃除なんて面倒なのよねぇ」

 自分にだけ課された罰当番が待っているかと思うと気が重くなる。

 しかも内容はプール掃除。制服から着替えてやらないといけないという手間まで掛かる。何とも憂鬱極まりなかった。

「黒子に見つかる前に着替えておこうかな」

 冗談か本気か黒子はよく私のことを性的な目で見る。分かり易く言い直すと、黒子に肌を見られると男のエッチな目で視姦されているような寒気を覚えるのだ。

 だから私はあの子の前ではあまり肌を曝さないようにしている。そんな訳でプールに着く前に着替えてしまおうと思う。

「体操着で十分よね」

 水着で掃除という選択肢も一瞬浮かんだのだけど即座に却下する。昨日のアイツの何気ない残酷な一言を思い出してしまったから。

 

『いや、ニットベストがなかったとしても男の興味は惹けないから安心だなって思ってな』

 

 アイツは私の胸を見ながら一切の悪気を感じさせなくそう言ってのけた。つまり、素の感想として私の胸には全く興味がないと。

 しかも、私が無乳力者であることに対するフォローまで入れてくれて。

 

『見栄は張らなくて良いぞ。お前はまだ中学生なんだし、無乳力者でも全然問題ない。まだこれからじゃないか』

 

 私の心中がどれ程の悲しみと劣等感に包まれたかは詳しく説明する必要もないだろう。

 

『優しい瞳で私の胸を哀れむんじゃないわよ~~っ!!』

『グホォエッ!?』

 

 アイツの何気ない残酷な言葉によって私は心に大きな傷を負った。

 しばらく水着は勘弁して欲しい。ボディーラインがモロに出る服装は着たくない。それが今の私の素直な心情だった。

 

 校舎内の更衣室で体操服に着替えてからプールへと移動する。

するとプール手前の更衣室でいつかの撮影の時に見た際どすぎる紫のマイクロ・ビキニの水着を着た黒子の姿を発見した。

「うっふ~~ん♪ お姉さま~ん♪ あっは~ん♪」

 黒子は艶かしく腰を上下左右に振っている。

 私はその横を素通りしてプールへと向かう。

「お姉さまっ! スルーはっ、スルーは酷いですのっ! ナチュラルスルーは芸人にとっての最大の屈辱ですのぉっ!」

「ああ~早く掃除始めない駄目ね。1人だと時間掛かりそうだわ」

「存在丸ごと全スルーっ!? お姉さまの愛が痛いですわ~~っ!」

 叫びながら黒子は私の前に回り込んで両手を広げた。踏み付けて通過してやっても良いのだけど、それはこの子にとってご褒美になりかねないので行進を止める。

「日が暮れる前にさっさと掃除始めるわよ」

「それは良いのですが、何故にお姉さまは水着ではありませんの?」

 黒子は痛い所を突いて来た。

「別にプールサイドを掃除するだけなら水着でなくても良いでしょう」

「水がなみなみと張ってあるプールサイドの掃除だからこそ、水が掛かる可能性を考えて水着が普通ですわ」

 黒子は胸の頂点以外全く隠せていない大胆水着を堂々着ている変態なのにこういう時は正論を述べるから困る。

「じゃあ、私は水着を着たくない。それで良いでしょ」

「わたくしはお姉さまの水着姿が見たい。よってお姉さまの意見は却下です」

「何で却下されなきゃならないのよ」

 正論でもなかった。

「とにかく、黒子はお姉さまが水着に着替えて下さらないとやる気が出ませんの。やる気が出なければ掃除が終わるのが遅くなりますわよ」

 そして嫌な脅しを掛けてきた。でも、乗らない。

「どうせ私はニットベストがなかったとしても男の興味を惹けないから安心な女だから。そんな魅力に欠ける女が水着になっても仕方ないでしょ」

「何ですの、それは?」

 首を捻る黒子を置いて私はプールへと向かった。

 

 

「あ~あ、しっかし。何で私はプール掃除の罰当番とこんなに縁があるんだか」

 プールサイドをモップでゴシゴシ擦りながら愚痴る。

 電気の流れを操る私の能力はこういう時にはまるで役に立たない。というか、こんな水場で盛大に電気を流したりすればどんな大惨事になるのかは昨日の1件が証明している。

 実生活ではほとんど役立たないのにレベル5という最高位に祭り上げられていることに疑問を抱きながらモップを動かし続ける。

「それはつまり、プール掃除を通じて黒子との絆を深める為に違いありませんわ」

「へいへい」

 うっとりして述べる後輩に生返事してみせる。

「まったく、お姉さまは愛が足りませんわ。今だって横にいるのがわたくしではなくあの類人猿だったら嬉し恥ずかしトキメキのデートシーンに脳内補完する癖に」

「だっ、誰がそんなことをするかってのっ!」

 顔を真っ赤にしながら黒子に反論する。

 確かに罰当番を一緒に受けているのがアイツだったら、この光景は確かに意味が変わったものになっただろう。

 

………

……

 

〔美琴。どっちが先に端まで綺麗にモップ掛け出来るか競争だ。負けたら罰ゲームだからな。ヨーイ、スタート〕

 当麻は提案するや否やモップを滑らせながら走り始めた。

〔あっ! 待ってよ、当麻。先に行くなんてずる~い〕

 私は頬を膨らませながら彼の背中を追いかける。

 

〔はっはっは。この勝負、俺の勝ちだな〕

 勝負に勝ったのは当麻だった。

〔先にスタートしたんだからずるいよぉ~〕

 考えてみれば男で年上の当麻の方が有利に決まっている。しかも当麻の方が先にスタートしたのだから私に勝ち目なんかない。それに気付いたのはスタート後のことだった。

〔はっはっは。勝負の世界は厳しいんだ。さて、美琴たんには何をお願いしようかな〕

〔あんまり……難しいのは嫌だよ〕

 もしかすると当麻にちょっとエッチなお願いをされるんじゃないか。心の奥底で期待と不安にドキドキしている私がいる。

 

〔じゃあ、美琴……〕

〔はいっ〕

 背筋を伸ばしながら彼の言葉を待つ。

 そして彼の口から発せられたのは全く予想もしていない言葉だった。

〔俺と……結婚してくれ〕

〔はい、分かりました…………って、えぇえええええええぇっ!?〕

 はいと一度了承してしまってからとても驚いた。だってまさか、突然プロポーズされるなんて思いもしなかったのだから。

 

〔とっ、当麻。私、まだ、中学生だよ!? 結婚できないんだよ!?〕

 全身真っ赤になりながら当麻に問い直す。私はまだ14歳。当麻も16歳。2人ともまだ結婚できる年齢ではない。

〔ああっ。だから学校を出て俺達が結婚できる年齢になったら夫婦になって欲しいんだ〕

 当麻は私の両手を上から握って来た。

〔そっ、そうなんだ……〕

 当麻の両手を見ながら戸惑う。

 

〔それで、美琴の返事を聞かせて欲しいんだけど?〕

 当麻が私の顔を覗き込んで来る。

〔勝負は私が負けちゃったんだもん。ば、罰ゲームはちゃんと果たさないといけないから……〕

 言い訳しながら答える為の土台を作る。

〔果たさないといけないから?〕

 私の答えなんて最初から決まっていた。

〔当麻のプロポーズ、受けさせてもらうね〕

 首を縦に振りながら当麻の求婚に応じる。

〔本当かっ!?〕

〔うんっ♪ だから私を世界で一番幸せな花嫁にしてね、当麻♪〕

 ちょっとだけ大胆に私からキスをすることで彼のプロポーズに答えてみせるのだった。

 罰当番のプール掃除に感謝だった。

 

……

………

 

 

「どこをどうしたら、一緒にプール掃除をするだけで結婚まで漕ぎ着けられますの? あまりの超展開にさすがのわたくしも怒るを通り越して呆れてしまいましたわ」

 黒子は口を大きくアングリと開けて呆然と私を見ている。

「えっ? もしかして声に出してた?」

「ええ、全部。クリアに鮮明に、しかも感情を込めて熱く語っていましたわ」

 黒子の点になった瞳は私のことを未知の生物のように捉えていることを物語っていた。

「嫌ぁああああああああああああああああああぁっ!?」

 私の絶叫が常盤台のプールにこうして木霊したのだった。

 本気で死にたい。そう思った。

 

 

 

6.世の中には2種類の後輩がいる。私より胸の小さな可愛い後輩と、私より胸の大きな可愛くない後輩よ

 

 黒子の前で果たした大失態により軽く死にたくなった。

 レベル5の鮮明過ぎるヴァーチャル・リアリティーが憎い。憎すぎる……。

「よしっ、高層ビルからコードレス・バンジーにチャレンジしよう」

 自分の今後の行動指針を立てる。これ以上の生き恥は晒せない。

 そう決意を固めた私に翻意を促したのは意外な人物の登場によってだった。

 

「あらっ、御坂さま、白井さん。こんな所で何をなさってますの?」

「プール掃除をなされているのですか?」

 

 私の目の前に黒と青の競泳用水着姿の2人の少女が立っていた。

「こんにちは、湾内さん、泡浮さん」

 セミロングの髪の毛が茶色掛かったのが湾内さん。婚后さんや佐天さんのような長くツヤのある髪をしたのが泡浮さん。

 2人は黒子のクラスメイト。ついで言えば私のファンを名乗ってくれている友人でもある。

「まあ、見ての通りでプールサイドの掃除の真っ最中なのよ。ちょっと昨日馬鹿しちゃってね」

 2人に向かってモップを示してみせる。

「まあ、そうでしたの。それでは微力ながら私達もお手伝いさせて下さい」

「水泳部員ですもの。当然のことですわ」

 根が素直で優しい2人は協力を申し出てくれた。

「ありがとう。助かるわ」

 援軍の申し出を素直に受けることにする。これで作業は一気に楽になる。

 楽になると思うと今度は色々と気を他のことに回す余裕が出てくる。

 

「湾内さんや泡浮さんみたいなよく出来た優しい後輩がいてくれて私は幸せ者だわ」

「よく出来た優しい後輩だなんて勿体ないお言葉です」

「そうです。私達は御坂さまと一緒にいられるだけで光栄なのですから」

 喋りながら年下の友人のとある部分をチェックする。彼女達の水着姿は何度か拝見しているから既に知ってはいるのだけど……やっぱり大きい。明らかに私よりサイズが上。

「あのさ、2人にどうしても聞いておきたいことがあるんだけどさ」

「はい。何でしょうか?」

「私達に答えられることなら何でも聞いて下さい」

 私よりも遥かにお嬢様お嬢様している2人は疑いもせずに尋ね返してきた。なら、私も素直に訊いてみることにする。

「2人ってさ、胸のサイズ幾つ? 何カップ?」

 私にとってとても大事な質問だった。

「…………お姉さま。そこまで追い詰められていますの? 直球過ぎますわ」

 黒子が呆れ顔で私を見ているがこの際無視。

「あの……それはどうしても答えないとダメな質問でしょうか?」

 湾内さんが顔を赤くしている。

「うん。とても大事な質問なの。だからちゃんと答えて」

 私も真剣に答えた。

「えっとじゃあ……」

 湾内さんは俯いて水面を見つめた。

「その…………Bカップです」

 そして呟くように小さな小さな声で頬を赤く染めながら答えた。

「その、私もBカップです」

 小さく手を挙げながら泡浮さんが話に乗った。

「Bカップ。ということは2人とも普乳力者(レベル2)って訳ね」

 首を縦に振りながら考える。

 誰が言い始めたのか知らないけれど、学園都市ではレベル0からレベル5までの6段階に胸の大きさを分けて女の子をランク付けするセクハラが公式化されている。

 学園都市的には女性の健康管理とか富国強兵の為とか何とか妙な説明を付けているのだけどここは明治時代の日本かっての。

 その理不尽な区分によると、Aカップ未満がレベル0(無乳力者)。Aカップがレベル1(小乳力者)。Bカップがレベル2(普乳力者)。

 レベル2までは全国統計的にも学園都市統計的にも最も該当者が多い。それに学園都市の女子は大半が未成年であることを加味するとレベル2以下が大多数なのは何もおかしくない。

私がレベル0なのだって、佐天さんや婚后さんの発育が良過ぎるだけで中学2年生女子全体で見れば普通な筈なのよ。多分……。

 更にレベルが上がるとC、Dカップがレベル3(中乳力者)、E、Fカップがレベル4(大乳力者)。日本のみならず東アジアの女性達の中でこの域に達するのはかなり限られて来る。

そして日本の全女性人口の0.1%以下しか現在も到達出来ないGカップ以上がレベル5(超乳力者)となっている。

 身近なレベル5と言うと私のお母さんが挙げられる。だけど、あの人はもうおばさんで垂れていると判断して私は該当例には含めないようにしている。でないと、親子格差に泣けて来てしまう。

私だってつい最近までこんなアホらしいレベルを気にしたことなんてなかった。

 でも、アイツが、あのツンツン頭が隠れ巨乳マニアムッツリスケベであることに気付いてしまってから無視できないものになってしまったのだ。

 あのバカは胸の大きさなんて気にしないと言いながら大きな胸の子が好きなのだ。そのおかげで私も胸の大きさなんて気にするようになった。

 ほんと、バカみたい。

 

「レベル2……慎ましやかな自己表現しかボディー的にはしないお姉さまには手の届かない遥かなる高みですわね」

 黒子がニヤニヤしながら私の胸元を見ている。

「黙れ、レベル0仲間の同類が」

 黒子にキツい視線を返す。

「世の中には2種類の後輩がいる。私より胸の小さな可愛い後輩と、私より胸の大きな可愛くない後輩よ」

「その基準に従えば、黒子はお姉さまの可愛い後輩になるのですね。わたくし、感激ですわっ♪」

 黒子が両手を広げて抱き着こうと跳躍した。私は慌てず騒がず電撃で対処する。

「訂正。世の中には3種類の後輩がいる。私より胸の大きな可愛くない後輩と胸の小さな可愛い後輩と胸の大きさに関わらず可愛くない黒子よ」

「何故にそこまでわたくしを別カテゴリーに括ろうとしますの?」

 黒こげ黒子は異議を唱えている。

「愛ゆえにじゃないことだけは確かだから。ていうかセクハラを嫌っているからよ」

「グハッ!?」

 黒子は血を吐き出した。

「ですが、その区分法では初春はともかく、佐天さんも湾内さんも泡浮さんも可愛くない後輩になりますわ。3人ともお姉さまを心から慕って下さっていますのに、酷い女性ですわね」

「ウッ!?」

 黒子に痛い所をつかれた。

「最近のお姉さまは胸のことに必死になり過ぎですわ。そんなことでは近い内に痛い目に遭いますわよ(伏線)」

 残念ながら黒子に反論できる言葉を私は持てなかった。

 

 

 

7.私に全くオシャレ感覚がないみたいに言うなぁ~~~~っ!!

 

 その後掃除は4人で行なったのでスムーズに進み、4時10分頃には終わりを告げようとしていた。

「よしっ。後はこのホースでプールサイドにもう1度水を流せば終わりね。湾内さん、蛇口お願い」

 私はようやくこの労働から解放される喜びに浸っていた。そう。浸っているから気付かなかった。とても初歩的なミスを自分がしてしまっていることに。

「は~い」

 返事をした湾内さんが蛇口を捻るのが見えた。後は水が出てくるのを待つだけ。

 けれどそこで異変は起きた。幾ら待っても水がホースの先から出て来ない。

「あれっ? 一体どうしたんだろ?」

ホースの中を覗いて見るけれど、水が昇って来る様子は見られない。

「御坂さま。ホースを、踏んでおられますわ」

「えっ?」

 泡浮さんに言われて気付く。私は右足で何気なくホースを踏んでいたことに。

「あっ」

 私は慌てて右足をホースの上から退けた。

 けれど、それが良くなかった。

「御坂さまっ。ホースから吹き出す水に気を付けて下さいっ」

「へっ?」

 泡浮さんの注意を受けた時には既に遅かった。

 私が踏んでいた為にホース内部にパンパンに貯まり凄い圧力で発射された水は遥か天空に向かって放出された。

 空に向かって放たれた大量の水は、やがて重力に従って地面へと降り注いだ。

 即ち、私の頭や体に大量に降り注いで来た。

「ばっ、馬鹿やっちゃったぁ……っ」

 私は一瞬にして着衣のまま入浴したようなビショビショ状態になってしまった。昨日アイツに制服のままプールに引きずり込まれたあの時の再現のようだった。

 

「おっ、お姉さま……っ」

 黒子がびしょ濡れになった私を見ながら声を詰まらせていた。

「何よ? どうしたの?」

「体操服から透けてというか丸見えのその下着は一体?」

 自分の体を確かめてみる。

 白い体操着が透けてしまい、上下お揃いのライトグリーンの下着が見えてしまっていた。

「別に普通の下着じゃない。どうしたってのよ?」

「普通ではありませんわっ!」

 黒子は大声で私の見解を否定した。

「お姉さまのお召し物と言えば、ゲコタだの、その他の両生類だの爬虫類だの哺乳類だのそのようなショーツばかり。ブラに至っても体育のない日も機能性重視のスポーツブラばかりでしたのに。そんな年頃の少女が性とオシャレを意識して選んだような可愛いらしい下着を付けるなんてぇえええええええぇっ!」

「私に全くオシャレ感覚がないみたいに言うなぁ~~~~っ!!」

 9割方黒子の言う通りなのだけど私の名誉の為に否定する。

「その可愛らしい下着を一体誰に見せるつもりなんですのぉおおおおおおおぉっ!?」

「へっ?」

 黒子の突然の質問に面を食らった。

「べっ、別に誰かに見せるつもりなんかないわよ」

「嘘です。今まで黒子が幾ら申し上げても変えなかった下着の趣味が急に変わった。これは色気付いた証拠に他ありませんの。この色ガキがぁああああああぁっ!!」

「色気付いたって……色ガキって……っ!?」

 自分で全く考えてもいなかったことを指摘されて戸惑う。

 確かに今朝、シャワーを浴びて下着を換えた際に普段と違うものを選んで着けてみた。でも、別にそれはアイツのことを考えて選んだ訳でもなんでも……。

 

〔今日の美琴はとても可愛くてセクシーだな。惚れ直しちまったぜ〕

 

 突然脳裏に私の下着姿を褒め称えるアイツの姿が思い浮かんだ。

「へっ?」

 アイツにそんな風に褒められて戸惑う私がいた。いや、凄く嬉しい気分で心が満たされる。何、この感覚!?

 だけどこの妄想は私を絶対的な危機へと陥れる最後の1手となってしまった。

「顔を赤く染めやがってぇええええええぇっ!! 今、何を考えたっ!? このエロガキがぁあああああああああぁっ!!」

 黒子はダークサイドに身を堕としながら吠え狂った。

「性欲の塊である野獣の前で色気付いた格好をすることがどれ程危険な行為であるかを黒子が直接お姉さまの体に教え込んでやりますわっ! ガルルルルルルルルルっ!!!」

 黒子は両手を地面につけて狩りに出向く狼のような姿勢を取り、野獣の彷徨をあげた。

「ちょっ!? 黒子っ!?」

「エロガキは1度その体で痛い目に遭いやがれぇえええええぇっ! そしておとなしくわたくしの娘を産みやがれッ!! ガルルルルルルルルルッ!!」

 黒子は両手両足を使って大きく跳躍した。その獰猛な瞳と牙が私を狙っているのを間違いなかった。

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいぃっ!?!?」

 かつてない程に身と貞操の危機を感じ、回れ右して全力で逃げ始める。

 私の電撃に免疫を持ってしまっているこの子に中途半端な攻撃は効かない。大技を繰り出せるような隙を与えてくれるとも思えない。

 だから私に出来ることと言えば全力で逃げること。

「当麻~~~~っ! 佐天さ~~~んっ! 助けてぇ~~~~っ!!」

 そして私が頼りにしている人たちに救援を求めることだけだった。

 あっ、でも、アイツの電話番号は知らないので私が救援のメッセージを送れたのは佐天さんだけだった。

 

 果たして私は野獣と化した黒子の魔の手から清い体を守り切れるのだろうか?

 

 続く

 

 


 
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