No.423606

そらのおとしものショートストーリー4th Unlimited Brief Works2

水曜定期更新。
UBWの第二話。適当に書いて1万文字近くなったら次へというやり方をしているので進み方はかなり適当です。

Fate/Zero
http://www.tinami.com/view/317912  イスカンダル先生とウェイバーくん

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2012-05-16 00:51:31 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:2096   閲覧ユーザー数:2014

そらのおとしものショートストーリー4th Unlimited Brief Works2

 

 

拙作におけるそらのおとしもの各キャラクターのポジションに関して その6

 

○相川歩:これはゾンビですか?の主人公。プロになるまでプロットを書いたことがなかったと巻末で明かしている原作者の言葉通りに色んな意味で可変型主人公。ゾンビで魔装少女という設定だが、実際にはボケとツッコミを兼ねる万能型。

 原作だとアニメ第二期に該当する部分からやたら真面目になっていくのだが、アニメ版だとむしろ初期のキャライメージを残すようにコミカルな面を強化している。

 

○ユー、ハルナ、セラ、友紀:拙作だと学園が舞台になる作品がほとんどなのでヒロインズであるのにも関わらずほとんど登場しない不遇な少女達。友紀の場合はアニメ放映のネタバレを気にしている内に出しそびれた。またアニメ第一期だとアニパロがほぼ全てカットされたせいでハルナはキャラ立てが不遇だった。『這いよれ!ニャル子さん』の様に放送をパロで押すことを決めていないと大変になる。大人の世界は大変であることを示す一例。

 

○織戸:歩のクラスメイトでスケベで馬鹿な変態メガネ。しかし拙作においては常に物語の中心を占める重要人物。こう書くと拙作が変態ばっかり贔屓しているように思われるがそれは大変な誤解である。織戸が俺を出せと脳内で続けて脅して来る結果に過ぎない。ユー、ハルナ、セラで物語を書こうとすると何も物語が浮かばないが、織戸を入れると3分で大体構想が完了することが脅迫の逼迫性をよく指し示している。

 

○平松妙子:歩のクラスメイト。拙作における事実上のヒロイン。基本的に織戸が歩と平松をくっ付けようと策謀しているのがこれゾン小説の大体の大枠である。歩も平松も人間関係に消極的である為に進展はせず、そこを織戸がお節介を焼いて引っ掻き回すのがセオリー展開になっている。第一期ではエンディングテーマを担当していたが、本編にはほとんど出なかったなかなかに凄い役回りを受け持った少女。

 

○アンダーソンくん、三原かなみ:ヒロインズの代わりに織戸の馬鹿に付き合うことになるレギュラーメンバー。原作だと三原は隣のクラスのはずだが、アニメだとクラスメイトに。そんなこんなでアニメ版だとちょい役ではあるが、出番は微妙に増えている。

 ぶっちゃけ1本作品を作るのに必要な概念は、歩、織戸、平松、アンダーソンくん、三原を各々どう配置するのか。それだけである。

 

 

そらのおとしものショートストーリー4th Unlimited Brief Works2

 

 

 智樹達は疲れた体を引き摺るようにして桜井家へと帰宅した。特に智樹はカオスから受けた傷のこともあり疲労困憊状態だった。

「今夜はもうさすがに襲撃とかないよな?」

 居間にあぐらを掻いて座ってようやく気が落ち着けた智樹は息を吐きながらニンフに尋ねた。

「問題はそれなのよねえ」

 ニンフは渋い顔を見せる。

「アルファも美香子陣営もまだ1度も仕掛けて来ていない。一方私たちがカオスと派手な戦闘をやらかして疲弊したことは当然知られていると仮定すべきだわね。となると……」

「夜中に仕掛けて来る可能性は否定出来ねえってか」

「そういうことになるわね」

 ニンフは両手を広げながら溜め息を吐いた。

「そういう訳で敵襲に備えてしばらくは固まって動かないとダメね。そはらも今日からしばらくは桜井家に泊まっていってね」

「ええええぇっ!?」

 ニンフの言葉にそはらが驚きの声を上げた。

「とっ、智ちゃんの家に泊まるなんて、そ、そんな……っ」

 両手で胸を庇いながら俯いて頬を赤らめる。だが、そんなそはらの思春期の少女らしい繊細な悩みを智樹はまるで共有していなかった。

「どうすりゃイカロスや会長達に勝てるんだ? カオスだって次撃退出来るとは限らないしなあ」

 腕を組んで次の展開に頭を捻らせていた。そはらが泊まっていくという話を耳に入れても微塵も反応を示さない。そはらを見もしない。

「分かった。今日からしばらくお世話になるね」

 桜井家に滞留することになったそはらの頬はパンパンに膨れ上がっていた。思春期少女はとても複雑だった。

 

「さて、これからだけど……」

 ニンフが居間の中を見回す。智樹、智子、そはらの視線が一斉にニンフへと向けられる。

「攻めと守りの両面に気を使わないと私達は負けるわ」

 負けるわと言い切るニンフの言葉が重い。智樹は冷や汗を掻いていた。

「とはいえ、敵陣営の拠点も分からない状態では攻めようがない。攻撃面に関しては当分の間私がステルス機能を駆使しながら諜報活動に専念するわ。まずはアルファとカオスの居場所を突き止める!」

 3人はニンフに対して無言で頷いた。

「次にここの防御に関してだけど……今夜の所は智子が担当して頂戴」

 ニンフ、そして智樹とそはらの瞳が智子へと向けられる。

「アンタ、シナプスの科学力の結晶でもある訳だし普通の人間よりは体力も多いでしょ?」

「まあ確かに1晩ぐらい見張りしてても大したことはないわね。疲れたら昼間寝れば良いんだし」

 智子は事も無げに答えた。

 智子はシナプスの超科学の力が誤作動を起こして智樹と分離した。その意味では純粋な人間とは異なる存在だった。そして姿形は人間と変わらなくてもその内には強大な力を秘めている。人間離れした力を持つ少女美香子に匹敵する程の力を。

「そういう訳で今夜は私が外で諜報活動、智子はこの家の警備を担当。智樹とそはらは明日からの戦いに備えてゆっくり休んで」

「わかった」

 3人から異存は出なかった。

 智樹陣営の作戦会議はこうして方針を打ち立てて終了した。

 予想外の出来事が今夜起こることも全く知らずに。

 

 

 

「智ちゃんと同じ部屋で2人っきりとか……眠れる訳がないよぉ~~っ!」

 深夜12時。智樹の部屋で2人布団を並べて床に就いているそはらは完全に茹で上がっていた。

 隣には幼い頃からの想い人である智樹が眠っている。性を強く意識し始めた少女にこのシチュエーションは刺激が強すぎた。

「…………なのに智ちゃんは大いびき掻いて爆睡中だし」

 隣で寝ている少年を見ながら頬を膨らませて細目で睨む。

 もしかすると今夜何か大きな過ちが起きてしまうのではないか。そんな大きな恐れと小さな期待がそはらにはあった。そうなってしまうことは自然であり不自然である。夢でもありまだ早いとも思う。恋する少女は酷く葛藤を抱いていた。

 けれど智樹は布団に入るなりろくに言葉も交わさずに寝入ってしまった。

 密かに入浴時にいつも以上に丹念に体を磨き全身をチェックしていたのにも関わらずちょっと拍子抜けだった。

「……わたし、やっぱり智ちゃんにとって魅力ないのかなあ?」

 思わず溜め息が漏れ出る。

「まあ、目の前のことに全力で一生懸命になれる所が智ちゃんの良い所だもんね。わたし、ちゃんと知ってるよ」

 そはらは眠っている智樹の手をそっと握った。

 すると急に眠気が催してきた。

「お休みなさい……智ちゃん」

 そはらは睡魔に逆らうことなく眠りへと落ちていった。

 

 

 深夜2時を回った頃のことだった。

 桜井智樹は突如布団から上半身を起こした。

「パン……ツ……っ」

 意思を感じさせない光を失った瞳で智樹はパンツと呟いた。

 見れば、智樹の目の前にはデフォルメされた犬がプリントされた少女モノの白いパンツが浮かんでいた。

 パンツは智樹が起き上がったのを確認するとその全身を羽ばたかせながらゆっくりと移動を開始する。

「パンツ……パンツ……」

 智樹は朦朧とした状態でゆっくりとパンツの後ろを追い始める。

 自身の隣で無防備に眠っているそのパンツの所有者の美少女には目もくれずに。桜井智樹の本領発揮だった。

「パンツ……パンツ……どこに行くんだ?」

 夢うつつ状態のまま智樹は外へと抜け出していく。

 長い葛藤の果てに眠りに就いたそはらは智樹が出て行ったことに気付かない。

 一方、桜井家の屋上で敵襲を警戒していた智子はパンツに導かれて外へと出て行く智樹を見ながら大きな溜め息を吐いた。

 だが、智樹を起こそうとも止めようともしなかった。

「パンツァ・トランザ」

 代わりに行ったことは2枚の男物のブリーフパンツの召喚だった。

 そして智子はゆっくりと立ち上がり、五月田根家を険しい瞳で睨んだ。

 

 

 

 

 パンツに導かれた智樹は夢遊病者の様に意識なく町内を歩き回る。そしてとても大きな敷地を誇る屋敷の前へと辿り着いた。

 智樹は石段を上り、更に開かれている大きな門を通り抜けて敷地内へと入っていく。

 そして屋敷へと至る庭の中央には長髪の絶世の美女が立っていた。

「うふふふふふ~。桜井く~~ん。よく来てくれたわ~~」

 絶世の美女、五月田根美香子は智樹を見ながら微笑んでみせた。

 ついで美香子は右手の親指と中指を擦り合わせて音を鳴らしてみせた。

 蝶の様に待っていたパンツがいきなりボトッと地面に落ちる。

 それと共に智樹が掛かっていた催眠状態が解けた。

「あれっ? 俺? ここ、どこだ?」

 目が覚めた智樹は自身が外に出ていることにまず驚いた。そして、目の前に美香子が立っていることに激しく驚いたのだった。

「何で会長がここに~~っ!? 一体何でだぁあああぁっ!?」

 智樹は今最も警戒している人物が目の前にいるという状況に極度に混乱していた。

「うふふふ~。桜井く~ん。こんばんは~~♪」

 一方、大胆なスケスケネグリジェ姿を晒している美香子は智樹の反応を見ながら楽しんでいる。

「こんばんはって……あの、ですねっ!」

 文句を言おうとして気付く。

 ここがかつて1度足を踏み入れたことがある五月田根家の敷地内であることに。

 即ち、完全アウェイ。しかも逃走することは極めて困難。

 智樹の額に汗が次々に滲み出てくる。

「で、何の用っすか?」

 智樹は周囲を見回す。マシンガンや日本刀を構えた男達がいつ現れるのかと警戒しながら。

「そんなに警戒しなくても大丈夫よぉ~」

 美香子は焦る智樹を見ながら笑ってみせる。

「交渉が上手くまとまれば~桜井くんは五体満足で帰れるわ~~」

「一番信用できない言葉だってのっ!」

 つまり交渉がまとまなければ智樹を無事に帰すつもりはない。美香子はそう言っているのと変わらなかった。

「で、交渉ってのは一体?」

 智樹が険しい瞳で美香子に尋ねる。

「うふふふふ~」

 美香子は勿体付けている。いや、勿体付ける絶対的な立場の違いがあることを智樹に見せ付けていた。

 そして智樹を散々焦らした末に美香子はようやく本題を切り出した。

 

「私たち~~手を組まな~~い?」

「手を、組む?」

 智樹は美香子を怪訝な瞳で眺めている。そんな智樹を見ながら美香子はより楽しげに喋りだす。

「そうよ~~~。会長の陣営もなかなか強力だけど~~カオスちゃんやイカロスちゃんに確実に勝てると言えるほどの力はまだ持っていないから~~桜井くんたちと手を組みたいのよ~~♪」

 美香子は実に楽しそう。

「ニンフちゃんの索敵能力と~~見月さんの殺人チョップ・エクスカリバーが加われば~怖いものなしだわ~~」

 美香子は両手を大きく広げた。子供のようにはしゃぐ美香子を見ているが智樹は一向に心が晴れない。

「会長と組むと俺達にはどんな利益があるって言うんですか?」

「イカロスちゃんやカオスちゃんに確実に勝てるわよ~~。会長~~その為の必勝の策を練っているのだから~~」

「俺たちを使い捨ての鉄砲玉にするつもりですか?」

「桜井くんたちが仲間になってくれれば~~対人間戦に特化した私達に無残に残虐に葬られることはないわよ~~」

 美香子が黒い笑みを零した。

「やっぱりそういうことかよ……」

 智樹は舌打ちして返した。

「なら、俺達には例え殺されることになっても会長と組まないという選択肢もあるってもんです。会長がカードを手に入れたらこの世界全てにどれだけの災厄が降り掛かるか分かったもんじゃないっすから。イカロスに負けてくれた方が安全ってもんですよ!」

 智樹は鼻を鳴らした。

 美香子は唇に指を当てながら思案顔をしてみせた。

「そうねえ~。カードの望みは会長が叶えさせてもらうけど~~桜井くん達の身の安全は保障してあげるわ~~」

 美香子の示したそれは圧倒的強者が提示する交渉という名の暴力だった。

「会長と組めば桜井くんたちに死という災いが降り掛かる可能性が極端に減る~。これって凄く素敵なことじゃないかしら~~? 人生最大の幸運よ~~っ♪」

 智樹の視界の隅に銃器を手に持った男達の姿が見えた。撃つ気が満々であることは容易に見て取れた。ならば智樹の答えは決まっていた。

「お断りしますよ」

「どうして~~?」

 美香子が尚も楽しそうに首を傾げる。

「俺達が戦っている理由の一つは会長がこの世に地獄絵図をもたらすのを阻止する為です。俺達だけ安全圏にいても仕方がありません。だって…俺は、正義の味方なんすからっ!」

 智樹は銃器を持っている男達の方を見た。

「それに会長と組めば自分の命が助かるなんて信用できるかっての!」

 智樹の反抗的な態度を見て美香子は更に喜んだ。

「正義~~なんてつまらないものの為に~~自ら進んで死に急ぐなんて実に楽しいわ~~」

 美香子が右手を軽く挙げる。すると、10人以上の武器を持った男達が一斉に智樹を取り囲んだ。

「会長~もう一度桜井くんに尋ねてみるわね~~。私達と手を組まないかしら~~?」

「くどいっ! 死んだって世界を滅ぼす手伝いなんてするかってのっ!」

 智樹は大きな声で叫んだ。

「残念だわ~~。交渉決裂ね~~」

 美香子は右手を目に当てて泣く真似をしてみせる。勿論その目が実は笑っていることは智樹に十分見えていた。

「それじゃあ、交渉を拒絶した桜井くんには~~死んでもらうしかないわね~~♪」

 美香子はやけに嬉しそうだった。

「チッ!」

 智樹の舌打ちが五月田根の敷地に鳴り響いた。

 

「さようなら…桜井くん。私の夢の為に…死んでね」

 美香子の右手が無情にも振り下ろされる。それと同時に男達が構えている銃が一斉に智樹に向かってその銃口を──

「ブリーフ・ブーメランッ!!」

 撃鉄を下ろし銃口を向けた所で男達は飛来してきた2つの白い物体によって次々と吹き飛ばされていった。

「ぐっはぁあああああああぁっ!?」

 ブーメラン状の2つの白い物体は男達に直撃する度にその骨を砕きその肉を引き裂く音を立てながら回転飛翔を続ける。

 そして対象を完全に沈黙させるとそのまま次の対象に向かって飛来し、また同じ様に砕き切り裂いて沈黙させる。

 僅か1投、僅か数秒の間に智樹を囲んでいた男達は全て地面に沈黙して果てた。

「あらあら~これは困ったことになったわね~」

 手下を無残に全滅させられたのにも関わらず美香子は少しも慌てていない。それどころかこの事態を一層楽しんでいるようだった。

「だけど貴方を招待した覚えはないのよ~~智子ちゃ~~ん」

 美香子は自身の家の庭に生えている殊更立派な松の木の最上部を見上げる。

 そこには赤い外套の短髪の少女が立っていた。

 

 

「智子ちゃ~ん。招いてもいないのに夜中に訪問して来るのは~感心しないわね~~」

 美香子の声は先程までと同じ間延びしている。

 けれど、智子を見据えるその瞳は先程までと違って鋭い。よく鍛えられた日本刀よりも鋭い双眸で智子を見ていた。

「同じ学校の生徒の意識を操ってあたし達を襲わせた女にモラルを説かれたくはないわね」

「アイツらがおかしくなったのはハーピーじゃなくて会長の仕業だったのかよっ!」

 智樹が驚きの声を上げる。

「私は生徒会長ですもの。空美学園の生徒たちを正しい方向に導いてあげただけよ」

 美香子はごく簡単にその事実を認めた。そして口調がいつの間にか淡々としたものになっていた。

「アンタみたいな性格の歪んだ女が守形先輩に選ばれると思ったら大間違いよっ!」

 智子は屋敷の中を見ながら叫んだ。

「さあ? それはどうかしら~?」

 美香子がネグリジェを脱ぎ捨てる。その下にあったのは体のラインにピッタリと合わせて作られたプロレスのコスチューム。そして2丁の軽機関銃。

「私の望む世界に貴方は要らないわよ、智子ちゃん。だから……死んでね」

 美香子は両手に構えた機関銃の引き金を躊躇なく引いた。

「チッ!」

 智子は智樹を肩に抱き上げるとその場から後ろに向かって大きく跳躍する。銃弾は智子が跳躍を始めた地点の下に注がれていた。

「おいっ! 下ろせっ!」

 肩の上の智樹が暴れる。

「うっさいっ! 黙ってなさい!」

 智子は智樹の抗議を無視して跳躍を続けて銃弾を避け続ける。

 だが跳び続けている内に美香子が地面に仕掛けたとりもち罠に足を引っ掛けてしまった。

 それは本来であれば大した罠ではない。けれど、一瞬の判断、一瞬の動作の遅れが命取りになる現状においては致命的な危険となっていた。

「さあ、次は逃げられないわよ」

「そうね。あたしももう逃げるのには飽きたわ」

「へぇ~。それは命を捨てる覚悟が出来たということね?」

 屋敷の屋根に上り撃ち下ろす射撃角度を得た美香子は機関銃のマガジンを素早く交換しながらほくそ笑んだ。だが、そんな美香子に対して智子は面白くなさそうに鼻を鳴らした。

「……躱しなさい」

「何と言ったの?」

「ヴァ~カっ! 躱せと言ったのよ、会長っ!」

 智子が叫んだ瞬間、上空を飛翔し続けていた2枚のパンツが美香子を襲い、その両手に持っていた軽機関銃をまっ二つに切り裂いた。

「クッ!」

 美香子が怯む。

 その隙を逃す智子ではなかった。智樹を地面へと放り出し、必殺の矢を発射する準備を整える。

「恋的天使矢(カラサワギ・ボルグ)っ!」

 そしていまだ防御の準備が整わない美香子に向かって躊躇なくその矢を発射した。

 

 轟音が鳴り響き空美町一の権勢を誇る五月田根家の邸宅の屋根が半分以上吹き飛んだ。

 だが──

「何故、外したの?」

 美香子自身は傷を負っていなかった。矢は美香子の隣を通過していったのだった。

「無意味な殺生は苦手なのよ。守形先輩にも野蛮な女の子とは思われたくないし」

 智子は鼻を鳴らした。

「やはり貴方と桜井くんは同じ存在だという訳ね」

「何ですって?」

 智子が不快そうな表情を美香子に向ける。

「貴方は無益な殺生を好まない。桜井くんは無関係な人間を巻き込むことが許せない。全く同じよね。流石は同一存在」

「ふざけんなぁっ! 誰がこんな味方まで巻き込んで躊躇なく攻撃する奴とっ!」

「同感ね。今は全く異なる存在よ」

 2人は揃って美香子の言葉を否定した。

「否定し合うのが可愛いわねぇ」

 美香子は智子達を見ながら笑っている。智子は溜め息を吐いて返した。

「今夜の所はもう十分楽しんだでしょ? 去りなさい」

「何だよ!? 今、会長を脱落させられる絶好の機会じゃないかっ!」

 智樹が不満の声をあげる。だが、智子は取り合わない。

 そして──

「それじゃあ~~またね~~」

 美香子は笑顔を見せると穴の開いた屋根から自宅へと飛び込んで入っていった。

 残されたのは智子と智樹だけだった。

 

 

「何で会長を逃がしたんだっ! 学校で生徒を操っていたのは会長なんだろう!?」

 智樹は智子に向かって苛立ちを爆発させた。

「あの屋敷の中に……どれだけの戦力がいると思ってるの?」

 智子は屋敷内を見た。

「たとえ守形先輩が敵としていようが、会長諸共ぶっ飛ばすしかないだろうがっ! 会長を放っておく方が危ねえっての!」

 智樹は手を大きく振りながら怒りを表明した。

 だが、そんな智樹に対して智子は氷のように冷たい瞳を差し向けて返した。その冷徹な瞳は明らかに智樹の考えを否定したものだった。

「なら、俺1人でも会長達と決着を付けてくる」

 智樹は五月田根の屋敷に向かって歩み出す。

 そんな智樹に対して智子が出した答え。それは──

「ムフフを抱いて…轢死なさい」

 新たに召喚した2枚のブルマで智樹を背中から斬りつけることだった。

「ぐぁああぁっ!」

 智樹の悲鳴が木霊する。

 智子から攻撃を直接受けることは智樹にとっても予想外のことだった。

 肩口から血が勢い良く噴き出す。

 致命傷ではないが重傷には違いなかった。

「ちっ、畜生っ!」

 智樹は身体を引き摺るように歩きながら五月田根家から撤退を試みる。

 だが、それは誰の目にも不可能なことだった。

 智子がすぐそこまで迫っていたのだから。

 

 だが、智樹が絶体絶命に陥ったそんな時だった。

「智樹っ!」

 五月田根家の上空に諜報活動中だったニンフが飛んできた。

 ニンフはセンサーの類を全て封鎖してステルス状態で活動を続けていた。そして五月田根家の偵察に来た所で智子に襲われている智樹を偶然に発見したのだった。

「に、ニンフ……」

 ニンフは苦しそうな声をあげる智樹の身体を掴むと再び空中へと飛び上がる。

「智樹は絶対に逃がさないっ!」

 ブルマを構え直した智子が智樹を討つべく跳躍体勢に入る。

「傷が……深いっ!」

 智樹が重傷の為にニンフは高速飛行が出来ない。しかし低速で飛行すれば追い付かれてしまう可能性は高かった。

 ニンフの一瞬の躊躇を見て智子が跳躍を実行しようとした瞬間──

「ニンフ先輩っ! ここは私に任せて行って下さいっ!」

 五月田根家の邸宅の玄関を突き破ってアストレアが飛び出してきた。

 アストレアの必殺の剣・クリュサオルの切っ先は智子に向かって伸びている。

「チッ! 邪魔をしないでっ、アストレアっ!」

 智子は強化したブルマをXに構えてアストレアの剣を受け止める。

「恩に着るわよ、デルタっ!」

 ニンフは智子がアストレアと交戦し始めたのを確認すると同時に今度こそ桜井家へと向かって撤退を開始する。

 全力で智樹の肩口にジャミングシステムを起動させてその傷を癒しながら。

「やっぱりデルタも……美香子側の陣営だったわね」

 そして大きく舌打ちを奏でながら。

 

「何故邪魔をするのっ! 智樹が邪魔なのはアンタのボスである会長も同じでしょっ!」

 智子は2枚のブルマを自在に操りながらアストレアと互角に切り結び合う。

「師匠が見逃すと言った智樹を殺すなんて絶対に許せませんっ!」

 対するアストレアも近接戦闘用エンジェロイドの本領を発揮して智子相手に1歩も引かない。

「そんなこと言って、アストレアが個人的に桜井智樹に生きていて欲しいだけなんじゃないの?」

「そっ、そっ、そんなことはありませんっ! 今の智樹は敵なんですからっ!」

 アストレアの顔は真っ赤に染まった。

「それに、私の直接のくろいあんこも智樹を見逃せと言っていましたし」

「くろいあんこ?」

 智子は首を捻った。

「あれっ? 違ったかな? くらいあんこ? くらいアントニオ? とにかく、桜井智樹を今見逃すのは私達の総意なんですっ!」

「ふ~ん」

 恥ずかしさを力に換えて更に激しく剣戟を振るうアストレア。避けるのは楽になったものの隙を作るにまでは至れない智子。

 赤い外套の少女と青き鎧の少女の剣戟は時間を経ても互角のまま推移していた。

 そしてその剣戟がそのまま10分ほど続いた所で智子は舌打ちしてアストレアから遠のいた。

 智子は後方に大きく跳躍して五月田根の正門の上へと飛び乗った。

「こんだけ時間を取られちゃ……幾ら何でも智樹達は桜井家に逃げ込んじゃったわね」

 智子は大きく溜め息を吐いた。

「さて、そろそろあたしも桜井家に帰ろうかしら。イカロスやカオスに襲われたら大変だもの」

 智子は首をグルッと回した。

 そんな智子の言動がアストレアには奇妙に思えて仕方がなかった。

「智子さんは智樹の敵なんですか? 味方なんですか?」

 智子はアストレアをジッと見た。

「そんな質問はあたしには無意味よ」

 智子は門の上から道路へと向かって後ろ向きに跳躍する。

「じゃあね、アストレア。貴方とはまた戦うこともあるでしょう」

 その声を最後に智子は暗闇の中へと姿を消した。

「一体、何がどうなっているんですか? 私には全然分かりませんよぉ」

 アストレアの呟きに答える者は誰もいなかった。

 

 

 続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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