アロガンスの目的は、あくまで妖魔の根絶である。彼らにとって、魔族、神族との交流の中心地になっている光陽町は目の上のたんこぶであり、風都以上に危機に晒されている土地だ。
今回は、そこでアロガンスと戦う少年達に関する話だ。
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ソルジャーT近接型は目の前に立つファイズに向かって剣を振り上げ、斬りかかる。ファイズはその場を動かず、タイミングを見計らって横からその剣を殴って弾く。
もう片方の手ですかさず渾身のストレートを放つ。ダメージが致死量に達したソルジャーTは爆散する。隠れていたソルジャーT遠距離型はその隙を突き、背後からキャノンを撃つ。
「っ!?」
ファイズの相棒たるオートバジンは伏兵にいち早く気づき、射線上に割り込んでガトリングシールドで砲弾を受け流す。その流れで銃弾の雨を降らせ、ソルジャーTを蜂の巣にする。
「助かったよ」
ファイズは感謝の印としてオートバジンの肩を軽く叩く。その時、着信音が鳴り出したので変身アイテムでもあるファイズフォンを手に取る。
「緑葉か」
『稟、こっちは終わった。そっちはどうだい?』
「今終わったところだ」
『OK。じゃあ、シアちゃんの家で合流だ。そこで、現状の確認をしよう』
親友の緑葉樹からかかってきた電話が終わると、ファイズ……土見稟は変身を解除して、少年の姿へと戻る。稟はオートバジンをビークルモードへと変形させ、それに跨がって合流地点へと向かった。
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土見稟とその友人達は神王ユーストマの別宅に集まっている。以前、夏休み終盤で宿題を片づける際にも使われたその部屋は襖を固く閉じた上で更に結界で覆っている。
参加者の大多数は大きな机を囲んで座り、緑葉はホワイトボードの側に立っていた。
「現在、アロガンスによるテロの頻度が高まっている」
ボードに張り付けてある地図に付けられている印をいくつか指示棒で示す。
「未だに特定の拠点を狙った襲撃は無いが、敵は新型を投入してきている」
「最近現れるようになった黒いソルジャーのことだろ」
稟の発言に対し、魔王フォーベシィが口を開く。
「それだけじゃない。風都に居る工藤君から連絡があったんだけど、向こうにはアロガンスの仮面ライダーが現れたらしい」
「しかも、奴は負けてしまったらしい」
フォーベシィを捕捉する形で発せられたこの家の家主であるユーストマの言葉に面々はざわめく。
「刹那が負けた!?」
「ああ、マテリアルの封印を解くことにしたらしい。僕達も今まで以上に力を入れる必要がある」
「もうそんな状況になっているんですね」
芙蓉楓が悲しげに呟く。
「私達はただ平和に暮らしたいだけなのに……。どうして、そこまでシアちゃん達を殺す気になれるんでしょうか?」
「楓……」
しんみりとした雰囲気になっていく中、緑葉がフォーベシィに発言をを促す。
「敵の攻撃は散発的なのは、恐らく偵察が主目的であるからだと考えられる」
「偵察? 奴らがそんなまどろっこしいことをするようには見えないんですが」
アロガンスの攻撃はかなり過激で、たくさんの犠牲者が出ている。偵察だと考える人間の方が少ないだろう。
「だが、不自然な物資の輸送もいくつか確認されている。近い内にでかい戦いが起きるのは間違いねぇ」
軍神とも呼ばれるユーストマの威厳は辺りの空気を張りつめさせるには十分だった。
「敵がどう動くかは分からない。何か分かったら、すぐに連絡するようにした方がいい」
緑葉はそう話を締めくくると、参加者達はポツポツと帰宅しだした。
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「ただいま」
現在、誰もいないはずの家に稟達は帰宅した。それを出迎えるために1人の少女が奥の方からトコトコ歩いてきた。
「お帰り」
「リムちゃん、もう診察の方は済んだんですか?」
プリムラは首を縦に振って肯定する。
「夕御飯、すぐに作りますのでちょっと待っててくださいね」
楓は急ぎ足で台所の方へと歩いていった。稟はソファーにどかっと座りこんだ。
「ふぅ」
ふと空を見上げる。ちょうど灰色の雨雲が空を覆いはじめていたところだった。それを見て、稟は眉をひそめる。
「嫌な天気だな。8年前を思い出してしまう」
稟は右手をかざす。瞬間、稟の体に灰色のシルエットが浮かび上がった。
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「先生!! 稟は助かるんですか!?」
1人の男性が病室内で医師につかみかかる勢いで問い詰める。医師は、暗い表情で首を横に振った。
「患者は身体中に強い衝撃を受けています。お気の毒ですが、生存は絶望的です」
「そんな……」
男性はベッドで眠る1人の子供を見つめ、そのまま倒れこんだ。
「鉢廉や紅葉達は死に、楓は塞ぎこんだ!! 更には、稟君までこんな目に会わせてしまった!!」
よほど悔しいのか男性は人前であるにも関わらず慟哭した。
「我々も出来る限りの手段を尽くします。今日の所は、お引き取りください」
男性は無言で立ち上がり、医師と共に病室を後にした。2人と入れ換わるようにして、青年がケースを片手に病室へ入ってきた。
「よお、大丈夫……なわけないか」
青年は稟の眠るベッドまで近づき、軽い雰囲気で語りかける。
「しっかし、無茶するなぁ。女の子を守るために生身でオルフェノクに立ち向かうなんて普通じゃ出来ねえぞ。――でもな、それだけじゃ駄目だ」
それまで軽口だった青年の雰囲気が一変した。
「お前が死ねば、周りの人達が悲しむ。現に、お前が倒れたせいであの子はいつ目覚めるかも分からない眠りに着いてしまった」
稟の頬がビクっと反応する。
「なぜ体を張ってまで助けようと思ったのか、その思いを直接ぶつけてみろ。そうすりゃ、なんとかなるだろ」
青年はトランクを床に置く。
「これは餞別だ。お前の好きに使え」
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(もうこんな時間か)
稟が時計を見ると、既に18時だった。示し合わせたかの様に腹の虫もなる。
「稟君、ご飯が出来ましたよ」
「すぐに行く」
まずは、この幸せを噛みしめよう。稟はそう考え、食卓に着いた。
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