No.838496

別離  12.召喚

野良さん

式姫の庭、二次創作小説の第十二話になります。

3/26 召喚に用いる図を、五芒星から庭準拠の太極図に変更。
   完全に勘違いしてました……。

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2016-03-21 19:22:53 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:803   閲覧ユーザー数:786

「よう、随分のんびり名残を惜しんで来たな」

 門の傍らに植えられた桜の木。

 その下に卓を引っ張り出して、あの人は一人、ゆるゆると酒を呑んでいた。

 いや……一人ではないか。

 傍らには彼の愛刀の蜥蜴丸が、桜の木に背を預けるように立てかけられている。

 この刀も式姫。

 彼を鍛え、そして佩刀として戦場で彼を守護し、共に戦い続けた。

 ……だが、今は静かに眠りに就いている。

 

「この庭が広すぎなだけじゃ」

「違いない」

 目で示された二人は、空いた席に腰を下ろした。

 卓上には、杯が四つ。

 酒を満たした片口に、ひとひら、ふたひらと桜の花が舞い降りる。

 春の香りを淡く宿した酒を、男は杯に満たしていく。

「こうめも小烏も普段呑まないのは知ってるが……まぁ、体の中から邪を払う、旅立ちの儀式みたいなもんだ」

 一献どうだ?

「頂戴する」 

「ご相伴に与ります」 

 酒盃を手にする二人を嬉しそうに見て、男は杯を蜥蜴丸の前に置いてから、自分の分を手にした。

 祠に飾られたあの桜も、この酒も……供えたところで、彼に応えてくれる訳ではないのに。

 なんで……この男は。

 

「そういや、こうめと酒を呑むのも初めてか」 

「……そうじゃな」

 浮かないこうめの顔を見て、男はにやりと笑った。

「まだ、団子か、らあめんの方が良さそうだな」

「子ども扱いするでない」

「俺の戯言をさらっと流せないのが、まだ子供の証拠さ」

 しれっとした顔で杯を掲げる。

「とはいえ、可愛い子には旅をさせろって言葉もある……気をつけて元気で行ってこい、こうめ」

 門出に。

 そう言って、杯を掲げた男に応えて、小烏丸も杯を目の高さに上げる。

「こうめ様?」

 主に目を向けると、杯を手にしたまま俯く姿。

「どうした、こうめ?」

 変わらない、優しい声音。

 永の別れになるかも知れないのに、その声は近所に遊びに行く飯綱やコロボックルを送り出す時の声と何も変わらない。

 ちょっと心配していて、ちょっと楽しんでいる。

 その声に、悲しみと同時に、憎しみに近い感情すら覚える。

 わしの存在は……やはりその程度の物なのか。

 わしは憎んでもらう価値すら無いのか……。

「何故じゃ……」

「何故って、何がだ?」

「何故……わしを嫌わぬ?」

「ふむ」

 こうめの言葉に、男は珍しく困ったような表情を浮かべた。

「がさつな男なりにだが、割と仲良くやってきたつもりだったんだがな、こうめは何か嫌だったのか?」

「そうではない、お主が、わしを……じゃ」

「何故俺がこうめを嫌うんだ?」

 からかってたのを本気に取ってたなら、今更だが謝るが……。

 本当に思い当たる節が無く困惑する男に、こうめは顔を上げた。

「お前……泣いて」

 言われて、こうめは自分が泣いている事に気が付いた。

 後から後から溢れる涙。

 だがそれを拭いもせず、こうめは声を荒げた。

 

「平穏に生きていたお主を戦いに巻き込んだ」

 こうめが向ける視線の先、掲げた男の手には、今は薄くなっているが傷が幾つも走っている。

 これだけではない、その全身に。

 

「そして……」

 式姫達の笑顔が、この庭で彼女達と過ごした無数の思い出が溢れ出す。

 だけど……もう。

 罪悪感でこうめの声が詰まる。

 

「このわしが……」

「こうめ……もう止せ」

 返ってくる言葉は、優しい嘘かもしれない。

 それでも、やはり言わねばならない。

「このわしが、お主から、式姫たちを奪い去ったのではないか!」

 

 何故、わしを恨まないのじゃ……お主は。

 何故。

 

 不思議な程に静かな心境で、白兎は空を見上げていた。

「落ち着いて」

 弓に矢をつがえる。

「きっと、好機は来るから」

 きりきりと引き絞る。

「その一瞬を掴む」

 呼吸を鎮める。

「絶対……」

 身を起こし、藪の中から姿を見せた自分に、妖怪が殺到する気配が判る。

 でもそんなの……どうでも良い。

 空に向けた弓が驚くほどぴたりと定まる。

 その腕が、背中が、心が、誰かに支えられている。

「大丈夫、出来る」

 

 見上げた空で、二つの影が凄い速さで動き出した。

 鷹の如く上空から迫る影と、下から射放たれた矢の如き天狗の姿。

 

「……見えた」

 

 

 白天狗は恐らく産まれて初めて抱く困惑に囚われていた。

 天狗が相討ちを狙う、その狙いは、彼を力で制する術を持たない弱者としては正しいし、珍しい選択でもない。

 だが、迷い無く突進してくる彼女は、今まで彼が目にしてきた、相撃ち狙いの敵のどれにも当てはまらない。

 自棄になって突っ込んでくる、戦場に不慣れな兵など珍しくもない。

 戦場の狂気に身を任せた狂戦士も知っている。

 自尊心を支えに、絶望をねじ伏せて突撃してくる誇り高い敵も見た事がある。

 諦念から命を永らえる事を諦め、自殺するように突進してくる者も居る。

 だが……こいつは何だ。

 恐れなく、狂気もなく、昂ぶりもなく、諦めもない。

 こいつの目は自分を貫いた先に、まだ生を見ている。

 

 相討ちを狙いながら、この矛盾。

 理解できない異質の存在が迫る。

 微かに揺らいだ心が、彼に一つの疑問を突きつける。

 お前は本当に、この目の前の存在より強いのか?

 いつものように、この攻撃をかわせるのか?

 その揺らぎは彼の心の中で増幅し、勝利という皮相な物だけを積み上げた、脆い積み木の自尊心を容易く崩した。

 理解……出来ない。

 

「馬鹿か、貴様はっ!」

「何を今更」

 上ずる声と対照的な、氷のような声。

 その声が形を取ったかのように、恐怖が冷たい手で彼の心を鷲掴みにする。

 

 逃げねば……そう思うより先に、体が既に動いていた。

 速度を緩めようと、翼を逆に打つ。

 軌道を変えようと、身を捩る。

 

 その体が、空中でほんの一瞬静止した。

 

 とん。

 体が意図しない方向に押され、白天狗は有ろう事か空中で姿勢を崩した。

「なん……」

 開いた口から血が滴り、敵の返り血にすら汚れたことが無い、自慢の白い服を赤く染めた。

 腹を斜め下から貫き、心臓を抉る、一筋の矢。

 急激に体が重くなる。

 泳ぐ目が、夜目にも鮮やかな薄紅の衣装と長い耳に止まる。

 あの方の尖兵として、あらゆる強敵を葬って来た私が……子ウサギに狩られたのか。

 こちらを見据える、白兎の静かな目と、彼の目が一瞬交錯した。

 

 あの目だ……深く澄んだ、迷いの無い。

 今自分に向かって飛来する……あれと同じ目。

 

 そして白天狗に、恐怖が襲い掛かってきた。

 彼女が身に纏う猛々しい風が、守りの力を失った彼と、その美しい羽を吹き散らした。

 惨めなほどの絶叫が、知らず口から溢れたのを、彼は自覚していたのか。

「何だ……お前らは一体、何なんだ!」

 判らない、何もかも。

 叫びながら落ちていく同族を冷たい目で見送りながら、天狗はため息混じりに呟いた。

 

「……ただの阿呆ですわ」

 

 

 自分に掛かる重圧が、嘘のように消え失せた。

 驚いて上げたこうめの顔を、心配そうに見下ろす顔が迎える。

「大丈夫か、こうめ?」

 その顔に、苦痛の影はもう無い。

 何かを理解した、穏やかな顔。

「……っ」

 安堵と疑問が一緒くたになって、声にならない。

「ありがとうな、お陰で助かった」

 ぽふ。

 頭を大きな手で包み込まれた。

 物慣れない手が、優しく、こうめの繊細な髪を梳る。

 

 夢では……無い。

 

「……一体何が?」

 ようやく搾り出したのは、芸も何も無い疑問の言葉。

「さて……俺にも良く判らんのだが」

 

 こうめ達の事を考えていたその時、不意に、自分の血と神経が、まるでこの庭全てに通ったような、不思議な感覚を覚えた。

 

「何ていうのか……心が定まったというか、有るべき所にぴったり収まったというか」

 

 そして、その血と神経の流れに感じたそれを、自分が操れる事にも。

「それでまぁ……何か流れが滞ってたのを適当にあちこちに流したんだ」

 そうしたら、何か、上手く行ったみたいでな。

 良く判らん……そう言いながら首を捻る彼を、しばしこうめはぽかんとした顔で眺めていた。

「お……お主は……」

 徐々に驚嘆と呆れをない交ぜにした表情が、こうめの顔に浮かぶ。

 その滞っていた力というのは、天女が勧請した慈愛の光の力の事だろう。

 それを適当に流して散らした……。

 それは、他人の術や地脈の流れを操ったと言うに等しい。

 まるでその力は。

 

「神の力を使うか……驚いたね全く」

 

 こうめの内心を代弁するように、涼やかな声が二人に掛けられた。

 慌てて声の方向に目を向けた二人は、大樹の上に立つ眩い光に包まれた姿と、その存在と自分達の間で、両手を広げて立ちはだかる天女の姿を認めた。

「天女、無事じゃったか」

 こうめの声が喜色を帯びるが、それに被せるように天女が緊迫した声を上げた。

「お陰様で……ですが今はこうめ様達が危ないんです!」

「わしらが?」

「確かにな……」

 男はこうめを背中に庇うように前に出た。

 今の男には判る……これは周囲に集う妖を全て集めたより、遙かに危険な存在。

 

「そう、君達には死んでもらう必要があってね……だけど極力他を巻き込みたく無いから、ボクの結界内に来て貰った」

「……あんたは一体?」

「ボクね……どう言えば良いのか」

「お名前は名乗れないけど、この樹を砕いた方、らしいですよ」

 天女が前を見据えたまま、代わって答える。

「この樹を砕いたじゃと?!」

「お話を伺う限りでは、已むを得ず……みたいですし、その後は、この樹に宿って、この地の禍を封じて来たそうですよ」

 声を荒げるこうめを、天女が静かにたしなめる。

「敵対してるボクにも公平か……優しい式姫だね」

 だが……強い。

 こちらに向けてくる、彼女の強い視線、その源泉になっている後ろの二人への信頼。

 それがボクを躊躇わせる。

 

 だけど感情に流されちゃいけない。

 失敗は、一度すれば十分。

 

「さっきも言ったと思うけど、ボクは、無辜な他の人には危害を加えたくない」

 右手に凝った光から、時折雷光が空中や大地に向かって走る。

「最後にもう一度だけ聞くよ……退いてくれないかな?」

「お断りします」

 天女の言葉を予想していたのだろう、その存在は僅かにため息をついた。

「今の返事で確信したよ……彼が本格的に式姫と、この庭の主として目覚めてしまったら危険極まりない」

「……この庭の主?」

 僅かな違和感を覚えた言葉を、男は反芻するように、口の中だけで呟いた。

「……それじゃ、悪いね」

 掲げられた手の人差し指が伸びた。

 その指が、既に自分の心臓を刺し貫いているのを、男は感じ取った。

「どうにも納得できねぇんだが……な」

「死ってのは、殆どが理不尽な物だよ」

「はいそうですかと諦められるなら、人間なんぞやってねぇよ」

「ご尤も」

 殺気が膨れあがるのを感じて、天女は声を張り上げた。

「おやめ下さい!この方とこうめ様は……貴方の危惧するような過ちは犯しません」

 

 ……判ってるよ、そんなの。

 ボクは見た、二人の想いを、それに従うことを決めた式姫達の覚悟を、闘い振りを。

 その全てを見せて貰った。

 だから、そんな事は良く判ってる。

 判ってるんだよ……あいつだって、そうだった。

 

「そうかもね……でも、その子が、孫が、正しくあり続けてくれる訳じゃない」

 ゆっくりと首を振る。

 否定するというより……どこか自分に言い聞かせるように。

「やっぱり駄目だよ」

 

 かつて、この樹を打ち砕いた雷光が解き放たれた。 

 

「お守りします!」

 無駄かもしれないとか、そういう思いは天女には無かった。

 自分のしたい事、出来る事、やらねばならない事。

 それがあるなら、私はそれを為す……この樹を蘇らせようとしたあの時みたいに。

 

「ふざけんなっ!」

 男は吠えて、反射的にその光に対して手をかざした。

 こうめと、天女を助けてやりたいと、それだけ念じながら。

 

「これは?」

 卓越した陰陽師の資質の故か、こうめには判った。

 男の意思に呼応して、大地がうねった。

 先ほどまで大樹に注ぎ込まれていた大量の力が、さながら龍のように、力強く三人を守るように集まり、そして屹立した。

 光の乱舞、耳を叩く轟音、荒れ狂う力の奔流。

 落雷の只中に立てば、かくあろうか。

 恐れのあまり、こうめは目を閉ざし男の背中にしがみついた。

 男は、その中に巍然と立ち、その光景に目を向け続けていた。

「……どうなってやがる、俺は一体」

 

 それは如何なる僥倖だったのか。

 

「……つくづく君らは、ボクを驚かせてくれるね」

 全てを打ち砕く神威の雷が、天女の前で弾かれ、霧散した。

 彼女が使った術は慈愛の加護……だが、それでボクの雷を弾けるのは、本来は姉様位だろう。

 

「私の方が驚きですよ……」

 男の集めた力に、天女の術が形を与えた。

 どちらかだけでは、この圧倒的な力の前では意味は無かった。

 申し合わせた訳ではない。

 ただ、生きたいと、お互いを守りたいという願いが重なった故の奇跡。

 

「とはいえ……奇跡は二度続かないけど」

 再度、その手に雷光が集まる。

 

「ボクの力は、そうじゃない」

 

 こうめは、必死で考えていた。

 しがみついている男の背中が緊張で硬い。

 次が来たら……もう防げまい。

 

 この存在を力で制するのは不可能だ……では何とか鎮める事は出来ない物か。

(陰陽師などと言ってもな、そう大それた存在でもないし、そう思うべきでもない。

 あっちの世界とこっちの世界が、どちらも上手く行くように調整したり話し合いをする便利屋みたいな物じゃよ)

 だからこそ、色々な知識が要るのじゃがな。

 勉強の嫌いな自分を見て、おじいちゃんが苦笑していた顔が浮かぶ。

 

 知ることじゃ、こうめ、全ては知る事から始まる。

 

 今どうなっているのか、それだけでも知ろうと男の背中から顔を出した、そのこうめの顔に、先ほどの力の余波か、強い風が吹き付ける。

「なん……わぷっ」

 その風に乗って飛来した何かがこうめの顔に貼り付いた。

「お……おい、大丈夫か」

「らいひ……」

 口を塞がれ、上手く言葉にならない事に苛立ったのか、それを些か乱暴に引き剥がすガサガサという軽く乾いた音が続く。

「大丈夫じゃが……何じゃこの書き物は?」

「紙で良かったな、さっきから何か砕けたらしい破片が飛び交ってて危ねぇんだ、俺の背中から出るなよ」

「うむ」

 所々に焼け焦げのある紙には、何か色々な事が、墨痕鮮やかに記されていた。

「……これは、祭文か?」

 中身は殆ど読めない、だけどこの字の並びと、所々に記された模様には見覚えが有った。

「これは鹿か……大に、次が読めねぇな。申す……いや左は汚れじゃねぇ、神だな、この字は」

 上から覗き込んだ男が、焼け焦げた紙片で読める文字を拾う。

「鹿……?」

「その間に字が有るみたいだが、後ろは大明神じゃねぇか?」

 その瞬間、こうめの脳裏で色々な事が繋がった。

 雷、地脈の要に立ち、封じる存在。

 この辺りにあった祭文、そしてこの名。

 では、あの存在は、まさか。

 

 知る事は力となる。

 

「どうした、こうめ?」

 

 そして、知る事は、相手と対する事も可能とする。

 

 問いかけてくる男の存在を無視して、こうめは地に屈み込んで、手近な石を手にし、何かを大地に書き始めた。

 丸を波線が二つに分ける……これは太極図か。

 それを書上げたこうめが顔を上げた。

「お主、この庭の、良く判らない何かの流れを感じ、それを操れると言うたな?」

「あ……ああ」

 こちらを見るこうめの眩しいほど真っ直ぐな視線に、男は若干気圧されながら返事を返した。

「では頼む、その力で、この図をあの大樹を中心に描いてくれ!」

 

 

「まだ、守ろうというの?」

 天女の力は最早限界だった。

 震える足が立つ力を失って膝を突く。

 だが、それでもこちらに向ける視線は、その意思と力を失っていなかった。

「この身果てるまで……何度でも」

「あの二人がそんなに大事かい?」

「私はお二人が紡ぐだろう未来を見てみたい……少なくとも、この家の子という理由でなど、殺させたくない」

 強い天女の視線に、その存在は僅かに目を逸らした。

「君には判らないんだよ……この庭がどれ程危険かって事が」

 今更説得できるとは思えない……だが、少なくとも自分が故無く殺戮を為すような存在だとは、この気高い式姫には思って欲しくなかった。

 

「この庭が、京に等しい存在だとは既に言ったよね」

「伺ってます」

「京は天子の住まいとして造営される、それは判るよね」

「ええ」

「では、あの京は天子の体そのものを象り、それに力を与え、守るための巨大な術だというのは……知ってるかな?」

「……初耳です」

「だろうね、まぁ諸刃の剣になりかねない秘中の秘の話だから、無理は無いんだけど」

 そこで言葉を切って、その存在は周囲を見渡した。

「それはこの庭も同じ、作った本人は意図していなかったみたいだけど。結果はそうなった……そして京より性質が悪い事に、その霊樹が、更なる力をこの庭と主に与える」

「まさか、そんな」

「さっきのを見たよね」

 天地を引き裂こうという雷を防いだ……自分の扱える慈愛の加護では有り得ない力。

「それは」

「今の荒れ放題の状態であの力さ、これが全てを備えていた時代、どれ程だったと思う?」

「……」 

「通常、ボクは人も妖も相手にはしない……だが、神に匹敵する存在は別、ボクはその脅威を葬る義務があるんだ」

 だから……ボクが砕かざるを得なかったんだ。

 その手に、先ほどのそれよりも眩い光が凝る。

「許してくれとは言わないけど……理解はして欲しい」

 そう呟く、その存在の周囲を、光の輪が取り囲んだ。

「何のつもりだい……これは?」

 目を向けると、何かを念じる少女と、その前に立ち塞がるように立つ、この庭の四代目の姿。

 こちらを見据えるその静かな目が、驚くほどあの男に似ていた。

 

「今ここに、天、地、人……全てを貫く縁を結ぶ」

 こうめの言葉に応えるように、七色に輝く光が強くなり、天に向かって突きあがる。

「懐かしい……けど、この光は」

 何かが違う。

 天女が光りだした地面に手を当てると、強い拍動が返ってきた。

 ……自分が姿を取った時より、この光は更に強く、猛々しい。

 

「神、人の力たれ」

「正気か?君らはこのボクを誰だと」

 

「人、神の力たれ」

 男は妙に静かな、だが身内が震えるような高揚感を感じていた。

 天地がざわめき、それが、自分の心も心地よく揺らす。

 天女との縁を結んだ時にも感じた、だがもっと広い、この世界と共鳴する感覚。

 受け入れよう……どうなろうと。

「良いぞ、こうめ」

 男の言葉にこうめは頷いて、言葉に力を込めた。

 

「式姫、建御雷よ!」

「……知って!?」

 

 

あれ!


 
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