No.610230

三匹が逝く?(仮)~邂逅編・sideティカ~

この作品は、TINAMIで作家をしておられる
YTA(http://www.tinami.com/creator/profile/15149
峠崎丈二(http://www.tinami.com/creator/profile/12343
赤糸(http://www.tinami.com/profile/93163
上記の方々の協力の下で行われるリレー型小説です。

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2013-08-19 05:10:50 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1062   閲覧ユーザー数:982

 ティカにしてみれば、目の前で発生していた遣り取りは、実にどうでもいいことだった。

 

 より正確には現在進行形でどうでもよかったりする。

 

 そんなティカが一言も発さずに、ある意味ぼけーっとしたまま待っていたのは、実に単純な理由だ。

 その理由は大別してふたつある。

 

 ひとつは、ティカなりにこの世界が“異世界”であるという認識があるため、極端な事を言えば何処にいったらいいものか判然としなかったため。

 まあ、これについてはどこか適当に歩いて回ればそれなりになんとかなるだろう、と、本人は思っていたりもするのだが。

 

 もうひとつは、これまた単純で、ユウタ・コミネを名乗る男が「待っていてくれないか?」と言った事に頷いたからである。

 

 こうしてぼーっとしながら待っていると、なるほど自分は混乱していたのだろう、と、今更ながらに思い知らされる。

 この世界で生きて氏族を復興するのはまあいい。

 いいというよりは、還れないのならそれはティカにとっての必然であり決定事項ではある。

 決定事項なのだが、ティカは“この世界”を全く知らない。

 知らないという事はどういう事なのか。

 自分はどこか未開の地を目指していけばいいのか、そうではないのか。

 それすらも判別がつかない状態に置かれている、という事だ。

 そして、ここに無視できないジレンマが存在する。

 

 未開の大地があり、そこで氏族の復興を目指すために汗を流し血を流し、同胞となる女達を得られるのなら問題はない。

 だが、そのような場所がない場合が問題だ。

 まさか、氏族を復興する為に“現在この大地にいる”人間達を押し退け駆逐し、大地を空を取り上げるような真似が許されるのだろうか。

 

 それでは魂の腐った連中と何も変わることがない。

 

 そう、これはティカにとっては非常に由々しき問題なのだ。

 

 そういった意味では、ティカの価値観は開拓者のそれに非常に酷似しているとも言える。

 先に来て頑張った奴が、その土地では一番偉いに決まっているのだ。

 後からやってきて土地だけ取り上げようなんて事は考えるだけで悍ましい。

 

 多分にユウタ・コミネを名乗る戦士の言動を興味深そうに見ていたのは、そういった事柄に一定の回答を持っていそうだと判断できたからに他ならない。

 

 そして、苛立たしげに紙巻の端を噛み潰しながら舌打ちをする男がこちらを振り返ったのを機に、ティカはのんびりと欠伸をしてみせた。

 これが相手の神経を逆撫でするのを承知の上で。

 

「………で、おいらはどうすりゃいいんだ?」

 

 ティカの言葉に男は隠そうともしていなかった渋面を、一瞬で驚愕へと変える。

 そりゃそうだろう、とティカは思う。

 なにしろ、自分が口にした言葉は“日本語”なのだから。

 

「ちょ! おま! 待て! それって日本語…」

 

 ぽろりと右手の指の間から煙草が落ちるのにも気づかず、掴みかからんばかりの勢いでユウタが詰め寄ってくるのがなんとなく面白い。

 

「ああ、日本語じゃおかしいか? おいらは一応日本人でもあるからな。お前の名前、なんか格好つけて言ってるけど、日本人なんだろ?」

 

「おかしいだろ! 日本語とかその外見でありえんだろ! そもそも名前が日本人じゃないというかなんつーか………うがあああああああああっ! もう訳が解らんっ!!」

 

 そうだろうそうだろう、と頭を掻き毟らんばかりに悶絶をはじめるユウタの前で、腕を組んで頷いて見せる。

 ちなみに、ティカのこれは完全に故意である。

 もし日本語が通じるようなら、自身の状況を(自分に理解できている範囲ではあるが)説明し、ユウタをこの世界で生きていくためのガイドにしよう、と考えたからだ。

 

 言うまでもなく、ことサブカルチャーという範疇に於いては、日本人の持つそれは世界の標準を余裕で飛び越える。

 悪い表現をすれば、このような“異常事態”に対する“マニュアル”が、玉石混交千差万別とも言える状態で一般に流布しまくっている、とも言えるのだ。

 ティカが持つ地球世界の知識で言うなら、こんな世界で生き抜くには日本のサブカルチャーよりは欧米のシビア系なMMOやらFPSに馴染んでいた方が生存確率は格段に跳ね上がるような気はしないでもないのだが、そこについて語っていたらそれだけで時間が無駄になるような気がするのでやめておこうと思う。

 

 ともかくも、日本人としての知識を有しているティカとしてみれば、相手が“日本語”を操れるかどうかは、一定の試金石となると判断できたという事だ。

 

 故にティカは、ユウタが比較的納得できる形で、自身の状況を端的に説明する。

 

「そうだなあ…。おいらはこんなだけど、なんていうかな? ゲームアバターに日本人が憑依してるような状況だって言えば解らないか? まあ、厳密にはかなり違うし、性格やら感性やらはアバターが基本で、そこにプレイヤーの知識というか、そういうものが足されてるって感じなんだけどな」

 

 ティカのこの言葉に、ユウタは頭を掻き毟るのを止め、視線を斜め下に落としながらゆっくりと懐に手を差し込む。

 そして懐から愛用の紙巻を取り出し咥えると、指を弾いて火花を弾き出し火を着けた。

 

 目を瞑り、深呼吸するように、味わうように、ゆったりと煙を呑み込み、吐き出す。

 煙は渦を巻いてふたりの周囲を踊りながら、香ばしい匂いが周囲を満たしていく。

 

「………OK。とりあえず俺が気にするのは今の時点ではふたつだ。まずひとつは…」

 

 確りとティカの顔を見詰め、煙草の火口で胸の辺りを指し示しながら、ユウタは問う。

 

「エルフィティカ、と言ったな? まず重要なのはお前さんが“被召喚者”だってことだ。だったら俺は俺達の“法”で、お前を保護しなきゃならん。これに否はあるか?」

 

 この言葉に反射的に反論をしそうになるティカだが、それを瞬時に呑み込み、視線で保留と伝える。

 次の問いの如何によっては、首を横に振らなければならない、そう考えたからだ。

 

 そして、その意図は正確にユウタに伝わる。

 

「ふむ…。じゃあお前にとってはこっちが先ってことか。では問おう。俺は、俺達はお前を“日本人”として扱っていいのか?」

 

 この上もなく真摯で真剣な言葉と、その事に思い至ったユウタの理解力に尊敬を示しながら、ティカはゆっくりと首を横に振った。

 ティカがこの言葉に首を横に振ったのは、明確な理由が存在する。

 

 まず第一に、自分には日本人としての“知識”はあれど“意識”が非常に薄い。ほぼ皆無と言って差支えがないくらいには自分が“日本人”であるという感覚が存在しない。

 ティカとしての知識や感性、ティカを“形造るモノ”の隙間を埋めているのが、日本人としての“それら”であり、極端な事を言えば“なくても困らない”ものだという自覚が存在する。

 

 次に、自分の存在そのものが、既にして世界の“枠外”にあるという事が理解できている。

 恐らく、手段を選ばず“禁戒”や“制約”をすら無視すれば、己が身ひとつで“この世界”を相手取れる、その程度には“異物”である、という事が事実として感じられるのだ。

 多分にその理由は“ひとつの神話”と共にこの異世界にやってきた事に由来するのだろう。

 ティカはそう勝手に結論づけている。

 

 そしてこれが一番重要な点だが、自分が“虹のエルフィティカ”となってから、日本人的な感性や感覚、そういったものに少なくはない忌避や嫌悪を感じるのだ。

 当然、その忌避や嫌悪といったマイナスの感情にも様々な段階というかレベルというか、そういうものはある。

 ただし、“虹のエルフィティカ”にとって無視し得ない根幹にあたる部分では、日本人的な部分はほぼ確実に無視される、そういった確信が自分にはある。

 

 故に、ティカは先の問いには首を横に振るしかないのだ。

 相手を試す為に日本語を用いておきながら、根本的には日本人であることを拒否する。

 

 この矛盾に少なくはない嫌悪を感じながらも、自らの“立場”を知る、その為だけにティカはこの方法を選ばざるを得なかったのだ。

 

 そして、この出会いは双方にとって非常に有益かつ幸運であった。

 

 何故ならば、ティカの目の前にいる小峰勇太という男、この男が持つ“経験”と“知識”が、この場にあってティカを否定しないでいられるだけの波乱に満ちたものだった、という事が、何より幸運と言えたのだ。

 

 まあ、小峰勇太にしてみれば、自身をこんな境遇に突き落とした神に唾を吐きかけながら文句を言う理由がもうひとつ増えただけの事であって、一般にはこれを指して“不幸”と言うのだが、それはまあいいだろう。

 

 ともかくも、この世界にとっては、この二人の出会いは非常に幸運である。

 

 重ねて言うが、小峰勇太にとっては不幸でしかない幸運なのだが…。

 

 その事が理解できた、できてしまったユウタは、首を横に振るティカを見て、泣きそうな表情になりながら天を仰ぐ。

 

「神よ………。いつも思うんですが、これはあまりにあまりじゃありませんか…?」

 

 そう呟くユウタに向けて、全く悪気のない明るい声が追撃を行う。

 

「うん、まあ、おいらが言うのもなんだけど、なんとなく頑張れ?」

 

「お前が言うんじゃねえええええええええっ!!」

 

 全力で絶叫するユウタを生暖かく見詰めるティカ。

 色々な意味で間違っているこの構図に、誰かツッコミを入れるべきだろうが、残念な事にそんな余裕がある人間はこの場に誰もいなかった。

 

 ぜはーっぜはーっと、全身で息をするユウタ。

 そんな彼に向けて、ティカは更に追い討ちをかける。

 

「ところで、ユータ、だったよな? とりあえず聞いて欲しいんだが…」

 

「なんなんだよもう! いいから言えよ! 早く言えよ! もうなんでも聞いてやるからさあっ!!」

 

 両手で耳を塞いでいやいやをしながらそんな事を言うユウタを誰も責められはしないとは思うが、そんな可哀想な彼に向かって、ティカはのんびりと告げる。

 

「うん、おいらもそろそろだるいから、いい加減天井を押さえるのをやめたいんだけど…」

 

「………………Wait just for a moment?」

 

 思わず英語で訪ねてしまったユウタであるが、それも仕方がないと思う。

 ティカとしては“どんな言語でも”聞き取れるから、不都合は全くないのがこの場合の不幸とも言える。

 

「ちょっと待てと言うなら待つけどさ。おいらだって何時までも“戦闘状態”でいるのは腹も減るし面倒なんだよ。さっきまではほら、気持ち悪いのがいたから気も張ってたけどさ、おいらとしてはもう危険もないみたいだし、この聖地ごとあの気持ち悪いのやそこの臭いのを“潰す”つもりだったから」

 

「潰す、ですと?」

 

 物騒な単語を聞き咎めて呆然とするユウタに、こくんと頷くティカ。

 

「おいらも最初は気を使ってたんだけど、なんかもう面倒になってさ。全部潰せば聖地も元に戻りそうだったから、なんかもういいかなって…」

 

 色々と気が抜けてきたのか、だるそうな気配を隠そうともしないティカを、能面のような表情で見詰めるユウタ。

 その声も既に抑揚が全くないのは必然とも言える。

 

「……ちょっとお尋ねしますが」

 

 どうぞ、と仕草で示すティカ。

 

「もしも、もしもですよ? 今君が気を抜いたら、ここはどうなります?」

 

「おいら以外は潰れるんじゃないか?」

 

「ダメに決まってるでしょうがあああああああああああああっ!!」

 

 再び全力で絶叫するユウタを、何か面倒くさいものでも見るかのような感じで見詰めるティカ。

 とは言え、この場合よりどちらに共感が得られるかなど、今更問うまでもない。

 この事実に、ユウタは嫌でも理解を深める、深めてしまう。

 

 コイツの持ってる常識は、明らかに何かが違っているのだと。

 一見、利己主義に見えるが、その言動がそれを否と言っている。

 そうであるなら、コイツにとっての規範や常識に、地球のソレやこの世界のソレを当て嵌めては痛い目に会う。

 むしろ、獣人と言われる未開地に生きる種族のソレを当て嵌めて扱った方が間違いは少ない。

 

 そんな連中の法など詳しく知っている訳ではないが、地球世界での先住民族や自然派コミュニティを形成する人々の規範を基準にすれば、多分それなりの理解を得られるはず。

 

 一瞬でそこまで考えついたのは、ティカの外見がそういった民族に共通する意匠だったからだ。

 

 多分にユウタの“直感”ではあるが、こういう“勘”を無視していたら、自分はとうの昔に冷たい地面の下で独り寂しく寝ていた事だろう。

 

 故にユウタは、自分を疑うことなく、迷わずにそれを言葉にする。

 

「ここには! 子供が! たっくさん! 拉致られてんの!! お前さん、そんな子供も一緒に潰してどうすんの! いいから潰れないようになんとかしなさい!!」

 

 一見理不尽極まりない言葉なのだが、ティカはそれにすんなりと頷く。

 

「そうか、子供が潰れるのはよくないな。おいらが生きるべき世界のあの連中の子供だったら関係ないけど、ここの子供に罪はないもんな」

 

「そうだよな! わかってくれるか!?」

 

 うんうん、と必死で頷くユウタに、ティカは苦笑しながらも頷く。

 

「まあ、どうせ生命より金が大事な連中なんだろうが、そうと決まった訳でもないからな。恩を恩と感じられない臭い連中の子供でも、子供は子供だ。助けてやるさ」

 

 皮肉げに笑うティカに、ユウタは内心で絶句する。

 

 自身の生命より恩や禁戒や誓約を重んじる民族の事は知ってはいる。

 しかし、その現物を目の当たりにしたとき、やはりそれらが持つ“重さ”は違うのだ。

 そして自然と察した事がある。

 

 このエルフィティカという少年は“俺”が請うたからこそ、子供達を助ける事を了承したのだ、と。

 

 自分には理解できない筋道ではあるが、俺に対する“恩義”の為に動こうとしているのだ、と。

 

 そして、内心でそれを察し表情を引き締めるユウタを見遣る事もなく、少年は喉の奥から奇怪な“音”を紡ぎ出す。

 

 瞬間、世界が罅割れたような“音”が響き、空気が変質してゆく。

 

「ああ、疲れた……。腹減ったなあ………」

 

 そんな緩い呟きを聞き、声の方向に再び顔を向けたユウタであるが、彼は再び絶叫することになる。

 

「お前さん! なんでいきなり全裸になってんのさっ!!」

 

 そこには、なんとなく二頭身な姿を彷彿とさせるユルさに満ちた、全裸の少年がぼけーっと座り込んでいた。

 見たくもない男の全裸に絶叫したユウタだが、彼の怒りは至極当然のものだろう。

 当然ながら、いつの間にか全身から消えていた文様の事など、裸族化したという事実の前にはどうでもよい事である。

 

「なんでもいいから、さっさと服を着やがれ! こんバカチンがあっ!!」

 

 そんなユウタが、実は素早くティカと自分を比べ、互角である事に驚愕していた事は、彼だけの秘密となったのだが。

 こんな二人にとっての重要課題は、実は全くクリアされていない。

 

 特にユウタにとっては、これは頭が痛いを通り越して禿げ上がりそうな問題である。

 

 その理由は、今まさにエルフィティカが見せた能力に他ならない。

 

 あくまでユウタの私見ではあるが、実際に一対一でやりあえばだが、この少年に自分が負ける要素は存在しないだろう。

 ただし、あくまで“刀の届く範囲”では、だ。

 

 どうにもこの少年、ユウタの見立てではあるが“近接戦闘”を得意とはしてはいない。

 

 基礎能力が飛び抜けているだけにそこらの戦士などはものともしないだろうが、恐らくギルドランク赤に達するレベルの戦士であれば、互角以上に戦うことは可能だ。

 

 つまり、この少年は基礎能力だけで“あの”キマイラと戦っていた、という事になる。

 

 それだけならまあいい、問題は山積みだが、なんとでもなる。

 この少年の抱える問題は、そんな部分には存在しない、という事だ。

 

 今までの言動とかのキマイラとの戦闘状況、そしてたった今目の前でやってみせた大規模魔術。

 これらを自身の見識に当て嵌めて考えた場合、この少年が持つ真価は“この世界に存在しない新しい魔術”を有している事、これに尽きる。

 

 これらを踏まえて考えた場合、この少年を保護する為にどう扱うのが最善なのか。

 

 正直、残された時間はそう多くはなく、なによりも自身の安全と安寧のためにも、今ここで少年の処遇を決めなければならない。

 

 ユウタは内心でもう幾度目になるか判らないが、盛大に神に憤懣を叩きつけながら、件の少年に問いかける。

 

「まあ、とりあえず感謝する。助けてくれてありがとな」

 

「いや、構わない。腹は減ったけど、食わないものを殺しても仕方ないしな」

 

(食う気だったのかよ! こりゃあいよいよ、俺の常識で当て嵌めたらエライ事になりかねんな…)

 

 内心で冷汗をかきながら、ユウタは本題を口にする。

 

「で、一応だな、俺としてはお前を保護せにゃならん訳だが、それは構わんか?」

 

 少年はそれにすんなり首肯する。

 

「まあ、おいらが勝手にどうこうするのはまずいんだろ? だったら仕方ないさ」

 

 その言葉に肩の力を抜くユウタだったが、それは早計に過ぎた。

 ティカはのんびりとゆるい口調と表情のまま、さらりと答える。

 

「ただ、おいらを利用しようとか使ってやろうとか、飼ってやろうっていうなら、その時は戦争だ」

 

 気負いも何もない、ただただ事実だけを述べるその姿に、ユウタはごくりと喉を鳴らす。

 

「ユータ、お前は『力には、責任が伴うんだ。自覚しろ』とか、そう言ったよな?」

 

 緩い視線のまま問いかけるティカの瞳を真直に見詰め、ユウタは力強く頷く。

 

「言ったよ。それがどうかしたか?」

 

 くだらない連中が力を振りかざしながら“自由”だの“仲間”だの“侠”だの“漢”だのとよく口にする。

 が、そんなものは人間のクズが口にする言い訳でしかない。

 そういう連中が世の中で何をしているかを見てみるがいい。

 サブカルチャーであれば、そういったものにも一定の潔さや格好良さがあるのは認めよう。

 しかし、現実はどうだ。結局弱いものを食い物にして、周囲を顧みもせず、責任も取らず、自分がやりたいように勝手にやる事の迷惑も考えない。

 それを指してクズやダニというのだと、小峰勇太は確信している。

 

 そしてお前もそういう連中と同類なのか、と。

 そう視線で尋ねるユウタに、ティカはぽつんと言葉を返す。

 

「うん、そうだな」

 

 素直に頷いて、ティカは続きを呟く。

 だからこそ譲れないのだ、と。

 

「おいらのこの力は、おいらの全ては、誰がどう考えようが、おいらのものじゃない。だから宣言しておくぞ」

 

 緊張感の欠片も存在しないが故に、単なる事実だけを述べる、そんな感じで。

 

「おいらの存在理由、夢、生き様、それらを利用し汚すような連中に、おいらが頭を下げる事も、平伏す事も、肩を並べる事も、同じ方向を向くこともありはしない。そんな連中を利用してやろうとか、そんな事すらおいらは考えない。だから聞くぞ? その“保護”っていうのは、そういう事じゃないんだな?」

 

 これに即答できるだけの根拠が、残念ながらユウタにはない。

 

 その全容はまだ知れないが、この少年が持つ力は明らかに“人間の領域”を遥かに超えている。

 これを利用しようと考えない人間が、果たしてこの国に…、否、この世界にどれだけ居ることか。

 

 そんなユウタに視線を向ける事すらせずに、少年は囁くように話し続ける。

 

「おいらのこの“力”は、言われるまでもない、本来はおいらが扱う事すらできなかったはずの力だ。こことは違う世界。本来はまだ産まれてもいなかったはずの世界で、おいらが血と涙と肉と骨と、それを支える全ての魂と共に生きる為に与えられたものだ。それら全てを取り戻し、母なる大地を寿ぎ、再び空に向けて生命を謳いあげる、そのためのものだ」

 

 

 英雄。

 

 

 小峰勇太は、この言葉の他に、こういう存在を表現する言葉を知らない。

 知らないが故に、知らず自身の愛刀の柄へと手が伸びる。

 

(だってそうだろう? 一体どこのどいつが“こんなモノ”を御せると言うんだ?)

 

 そういった意味に於いて、小峰勇太は良くも悪くも“大人”である。

 この世界に放り出されるより遥か以前から、少なくとも自身の持つ“義”と“矜持”に従い、救うべくを救う事で“生きてきた”男だ。

 馬鹿馬鹿しくて“善”だの“正義”だのを語るような“青さ”こそ摩滅しているが、必要とあらば生命を背負うことを躊躇ってはこなかった。

 

 そんな自身の生き様が告げる。

 

 この少年の存在は間違いない、良くも悪くも、必ず、必ずだ。

 

 

 

 

 この“世界”に確実に変化を齎すだろう。

 

 

 

 

(どうする? 俺は今此処で、こいつを斬るべきなのか…?)

 

 今なら俺だけが背負い、またひとつ背中に墓標を抱えるだけで済む。

 

 そう自問するユウタに、少年は告げる。

 

「うん、まあ、その気持ちはおいらにも解るからさ」

 

 再び視線を合わせたユウタは悟る。

 

(あ~…、こりゃダメだ。俺にはこいつは“今”は斬れんわ…)

 

 もし、このままどうなっても恨みはしない。逆に自分が残ってもそれを背負ってやる。

 そう告げる瞳を前に、自身の考えだけで未来を閉ざすような、そんな凶刃を振えるはずがない。

 

 だから小峰勇太は、今度こそ肩の力を抜き、再び懐から紙巻を取り出す。

 

「…悪いな、ちっと火、貸してもらえるか?」

 

 にやりと笑うユウタの要求に、ティカはぼへーっとした顔で応える。

 

「あのなあ…。おいらに火打石でつけろっていうのか?」

 

「使えねえ小僧だなあ…。ま、仕方ねえか…」

 

 どこから出したのかも判らない腰巻だけの少年に火を要求する方もどうかと思うのだが、この遣り取りは二人の間に柔らかな何かを確実に齎した。

 再び指を弾いて煙草に火を灯し、うまそうに煙を楽しむユウタ。

 

 そして、明後日の方向を向きながら、ユウタは呟く。

 

「まあ、お前に何ができるか、どこまでできるか、それ次第だがな…」

 

 この言葉に、ティカは首を傾げながら答える。

 

「多分だけど、そだなあ……。街のひとつくらいは更地にできるし、丘や小山くらいは造れると思うぞ」

 

 この言葉に吸い込んだ煙と共に噎せ返ったユウタを誰も責められまい。

 

「条件さえ整えば、だけどな。まあ、おいら細かい事は苦手だし」

 

 へへへ、と笑う少年を怖いものを見る目でドン引きしてるユウタは決して間違ってはいないだろう。

 

「……するとなにか? お前って本来は、さっきみたいな戦い、やっぱり苦手なのか?」

 

「う~ん……。嫁取りなんかで取っ組み合いとか、戦士の儀式で首の刎ねあいとかはするんだけど、どっちかっていうと苦手だな」

 

「うわちゃあ…。もうなんか、色々とだめじゃん…」

 

(要は本来はこいつ、ネイティブみたいな部族や性別によって農耕やったり狩猟やったりするような、完璧な戦闘民族で、しかもなんかワケワカな補正かかって、基本的な攻撃手段はMAP兵器のそれだってことか…)

 

 やっぱり斬るか、と思い直しかけたユウタだが、その機会は既に過ぎ去っている。

 

(あ~…。もう考えんのやめやめ! 後は爺さんに丸投げしよう。泣いてギルドやめそうな気もするが、俺はもう知らん!)

 

 ひとはそれを“現実逃避”とか“問題の先送り”と言うのだが、そんな事は百も承知でユウタはそう決断した。

 

 そして、遠くから聞こえてくる軍靴の音をBGMに、のんびりと背筋を伸ばす。

 

「さて…。そんじゃまあ、お前さんはとりあえず、俺が保護するってことでいくとしますかね。ついでにそっちの嬢ちゃんも、かな?」

 

 完全に置いていかれていた状態の少女のきょとんとした顔に少なくはない癒しを得ながら、ユウタはにやりと笑った。

 

「とりあえず、風呂と飯だ。文句は言わせねえぞ?」

 

 

 それは、見事なまでに“男”を感じさせる笑顔だった。

 衰弱している少女を抱えたユウタと共に屋敷を出たエルフィティカは、ぐうっと両手を広げて胸を拡げるように大きく天を仰いだ。

 

 自分が識るものとは異なる生命力に満ち溢れた、豊かな世界。

 

 自分が知らない空と大地、沈みかける太陽を、その全身で掻き抱くように、身体を伸ばす。

 

(ああ、ここは本当においらの知らない世界なんだな)

 

 寂しさは、ない。

 

 少年が必要とするものは、既にこの身の裡にある。

 

 だから少年は満面の笑顔で応える。

 

 

 この世界が、自分達を受け入れてくれると、そう信じて。

 

 

 呪われた戦いの道を選ばずに済むかも知れない、この幸運に心からの感謝を込めて。

 

 

 そして“世界”に向かって告げる。

 

 ありったけの感謝と、今の自分を与えてくれた全てに祈りを込めて。

 

 

 

 

「ありがとう! おいらはこの“世界”で、生きていくからな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

斯くて運命の歯車はひとつとなりて、万象須く…

 

 

 

 

 

~Relinquo fortuna ad caelum~

 

運否天賦

 

さて、後書きとなりますが…

 

 

特に言うこともないんだよな、今回…(汗)

 

 

まあ、割とややっこやしい子なんですが、これからどんどん、ティカはアホの子になっていきます(ぇ

 

 

 

 

誰がなんといおうと、アホの子にするのです

 

ふれーふれーわたし! がむばれがむばれわたし!

 

 

 

 

さて、後は他のお三方に、この邂逅編を畳んでいただいて、という事で…

 

 

邂逅編終わったら、設定とかあげなきゃなあ・・・


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