No.172347

くろのほし 第3話

連載型!童話風?厨二病小説 第3話。
ゲイルは村を出て、街に来ました。そこで出会う人物とは?

……とりあえずコメディ分を少しでも補いたかった。

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2010-09-13 23:24:42 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:614   閲覧ユーザー数:610

 星々の輝く空が、にわかに白み始めました。

 広い草原にも限りがあり、ゲイルはようやく街へと到達します。

 行商と妙酒の街――ミデノです。

 

(ヴィオって言ったか、あの女……一発殴ることすら叶わなかった)

 

 薄暗く眠ったままの街に足を踏み入れましたが、考えるのは先の戦闘のことです。

 

(戦闘経験もそうだけど、得物が……武器によるリーチが、圧倒的に足りないのかもしれない)

 

 村を出る前に、村長の好意で路銀を貰い受けていました。

 

(倒せないまでも身を守るくらいはできないと、レイは……)

 

 買ってしまうべきかどうか……ゲイルは悩みます。

「おい、そこ往く若者よ!」

 

 思いあぐねていると、誰かに話しかけられました。

 だみ声の持ち主は、冴えない風体をしていた中年の男性でした。

 

「た、助けてくれ……!」

 

「どうしたんですか?」

 

 ゲイルは丁寧に訊きました。

 

「家に財布忘れてきた☆」

 

 自分の頭を叩いて片目をつぶりますが、可愛くもなんともありません。

 それどころか不快感がひしひしと募るのを感じていました。

 

「……酒場のおじさん、なんとかならない?」

 

「ツケも溜まってるからねえ、ちょーっと許せないねえ」

 

 おじさんはにこにことしていましたが、目は笑っていませんでした。

 

「はあ……」

 

 ゲイルは溜め息を吐き、頭をかきむしります。

 中年男性を睨んで、確認しました。

 

「……家に行けば財布があって、ちゃんと返して頂けるんですね?」

 

「おう、俺は詐欺師じゃねえからな! 約束するぜ!」

 

 ゲイルはおじさんから金額を聞き、お酒の代金を払います。

 

(うわ、所持金のほとんどが……)

 

「ありがとよ。さ、じゃあ俺んちに来てくんねえか」

 

 目覚め始めた街の中を、冴えない中年男性と一緒に歩きます。

 行商の街と言うだけあって、特定の店舗を持たない商人も見受けられます。

 様々な職業の人たちがせわしなく動き、活気の片鱗を見せています。

 

「ああそうだ、若者よ」

 

 冴えない中年男性が閃いたように言いました。

 

「俺のことはオッサンと呼んでくれ!」

 

「え、ああ……ハイ」

 

(それはオジサンという意味の、あのオッサンなのか……?)

 

 なにか釈然としないものを感じますが、ゲイルは問い質せませんでした。

 しばらく歩いていると、男達が揉めているのを見かけました。

 言い争った後に、二人とも腰に帯びていた剣を抜きました。

 その陽光を照り返す輝きは、紛れもなく……模造ではない刃物のそれでした。

 

「あれはやばいんじゃ……あれ?」

 

 ゲイルが隣を見ても、誰もいませんでした。

 逃げられたかと思いきや、自称オッサンは男達の方に向かって行きました。

 

「な……何やってるんだあの貧相中年……!」

 

 駆け寄っていこうとすると、自称オッサンの様子がおかしいことに気付きました。

 先ほどまで普通に歩いていたはずなのに、なぜか千鳥足です。

 剣を振りかぶった男に体当たりして突き飛ばし、剣を手から話させました。

 

「おい、何しやがる呑んだくれが!」

 

「いーひひひ、すいませんねえすいませんねえ! 出ー来上がっちゃってるもんで!」

 

 自称オッサンは男が落とした剣を拾い上げると、もう一方の男に向かいます。

 

「オッサンもチャンバラやっちゃおうかなああああ」

 

 その目の据わった形相は、酔っ払いを通り越して幽鬼のようでした。

 生気の感じられない泥酔状態ながら、鋭い視線です。

 

「ひぃ……なんだアンタは!?」

 

 怖じついた男の振り下ろす剣を受け止め、刃を返し峰で打ちました。

 その一連の動作は洗練されており、目に留まらぬ程の素早さでした。

 

「へへ……名乗るほどのモンじゃねえですよっと!」

 

 こうして……自称オッサンは驚くべき滑らかさで揉め事を鎮圧したのでした。

 自称オッサンがざわつく人ごみから抜けて、ゲイルを促します。

 しばらく歩くと街外れの閑静な中に、自称オッサンの家はありました。

 気付くと千鳥足でもなく、至って平然と二の足で立っていました。

 

「あんた、すごいんだな……ええと」

 

「俺のことはオッサンと読んでくれ!」

 

「いや、でも」

 

「俺のことはオッサンと読んでくれ!」

 

「オッ……さん。頼みがあるんだけれども」

 

 ゲイルはオッサンを見据えて言いました。

 

「オッサン、俺に剣の稽古をつけてくれないか」

 

 オッサンはそれを聞くと、不敵な笑みをこぼしました。

 

「おいおい……俺は“剣の”達人じゃねえぜ? ……“武器の”達人だ」


 
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