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新・恋姫無双 ~呉戦乱記~ 第8話

4BA-ZN6 kaiさん

続きを投稿します。
よろしくお願いします。

2021-07-03 12:55:13 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:866   閲覧ユーザー数:766

それからは袁術と袁紹の連合での攻略戦であったが案の定上手くいくはずもなく、敗戦と疲弊が続く。

 

うまいこと後方から支援する曹操軍と孫策・劉備。

 

袁紹と袁術の損耗率が4割を越えたあたりを皮切りに袁紹・袁術軍は諸侯に泣きつき、雪蓮たちは助太刀するという形で参加を始めた。

 

前回の巳水関戦では俺の爆破作戦の発案により損害は少なく済んだのが幸いしたようで、士気は高く保たれ兵もやる気は十分だ。

 

ただ親衛隊こと北郷隊は飛将軍こと呂布を抑えることを命じられ、相手が相手でもあり幾分緊張はしている。

 

心配性である副官は相変わらずソワソワしっぱなしである。

 

「張遼軍を魏軍が担当し華雄軍を劉備軍がそして飛将軍呂布は俺たちが相手をするが・・・・」

 

「貧乏くじを引かされたということですな」

 

副官がいつものように疲れた顔つきでため息つきながら話す。

 

「そうだ、劉備軍も前回の戦いで張遼相手に損害は出ている。無理はさせられないため、ここは損害が少ない俺たちが抑えるしかない」

 

「飛将軍をですか?」

 

「飛将軍は倒せるとは思ってはいない。あくまで抑えるというだけだ。その間に劉備軍と魏軍で活路を開く。呂布をなんとか押さえ込めばこの戦い活路は見えてくる」

 

「しかしこんな単純な作戦で・・・・」

 

「そう単純だ。だが敵が巨大であればそのほうがいい。呂布は確かに凄まじい武力を誇る。だがその攻撃は常に一定方向であり予測はつきやすい。そこをつき飛将軍の動き・火力を限定させるんだ。それにより関羽たち劉備軍が動きやすくなるということだ」

 

「呂布を我々で抑えるなど・・・・・」

 

「副官、何でも言うが今回は呂布討伐が目的ではない。あくまで『抑える』だけだ。いいか、呂布は俺たちだけで勝てるほど甘くはない。黄巾党3万人をたったひとりで壊滅させたという話もある。決して単独行動で奴と戦うことはするな」

 

「「はっ!!」」

 

「それに我々でダメならほかの諸侯に擦り付けるのも選択肢としてはある。引き際を誤らないようにはするつもりだ。それに今回は孫策様と周泰の隊も友軍に加わる。我々も捨て駒ではないということだ」

 

「一刀さんと比べたら私の隊は頼りないかもしれませんが・・・・精一杯やらせていただきます!!」

 

「北郷の言うとおり今作戦は呂布を抑えることよ!この戦いが終われば洛陽の民たちは救われる。この戦いを収束させ、苦しむ者を救うためには私も剣を持ち共に戦う所存!!孫呉の兵よ、すまないが今少し耐えて欲しい」

 

明命と雪蓮がそう言うと兵士たちは敬礼を返す。

 

王である雪蓮が頭を下げて頼み込んだのだ。その意図を組み兵士の士気はマックスに高まる。

 

 

「今回の陽動とは別動隊で甘寧、黄蓋、そして孫権様の部隊が劉備軍と行動を共にする。その間耐えて、耐えて、耐えしのぐ。孫呉の底力ここで見せつけてやろう!」

 

「「ハッ!!」」

 

兵士たちが敬礼をし各自持ち場に戻る。隣で雪蓮がひっそりと呟く。

 

「様になってきたわね。親衛隊隊長?」

 

「・・・・・・・・・・ああ」

 

「あら、元気ないわね?そんなんじゃ呂布は抑えられないわよ?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「一刀?」

 

雪蓮は茶化すが俺はそれを空返事で流す。というのもあの雪蓮と冥琳の台詞がいつまでも頭に離れなかったからだ。

 

雪蓮は俺に怪訝な顔で覗き込む。

 

「ちょっと一刀?」

 

「聞いているさ。・・・・・すまない、今はこの作戦に集中したいんだ」

 

「そう・・・・・・・・・なら・・・・いいけど」

 

雪蓮は怪訝な顔を崩さず、そう言うと持ち場へと向かった。俺は彼女を横目に見えないように溜息を吐く。

 

「お疲れのようですね!北郷さん!」

 

「明命・・・・・すまない、今は少し・・・・」

 

明命に謝罪をするが、彼女は笑顔で自分の胸をどんとたたく。

 

「私たちは今まで北郷さんに助けてもらいましたから・・・・。今回は北郷さんを私たちが助ける番ですよ!」

 

彼女とは俺の部隊であまり共闘はしなかったが今回晴れ渡る笑顔でそう答える。

 

「ありがとうございます」

 

「敬語はいいですよ!北郷さんのほうが階級は上だし、年も上なんですから!」

 

最初に会った際もこうやって笑顔で真名を預けてくれた明命。

 

その彼女のやさしさに、彼女の笑顔に、俺の暗い影が少し晴れ渡る気がした。

 

そんな彼女の健気さに内心感謝をする。

 

「そうだな・・・・明命、今回は相手が相手だ。無理はしないでくれよ?」

 

「はい」

 

そうしていざ開戦となり、俺たちは呂布がいるであろう場所へと向かうが・・・・。

 

 

なんと呂布と分かる二つの触覚のようなくせ毛をした赤い髪の少女がジロリとこちらを睨みつける。

 

「な?一人だと?!舐められたものだな我が隊も」

 

副官が驚きの声を上げるが、呂布は無表情のままこちらをじっと見つめ動かない。

 

(隙が全く無い・・・・。それになんてプレッシャーだ・・・・・!!)

 

彼女が放つ圧に俺たちは後ずさりをするが、雪蓮は好戦的な態度を崩さず不敵な笑みを放つ。

 

「一人なら上等、一斉に攻撃するまでよ!」

 

彼女はそう言うと驚異的な速さで呂布の懐に入る。呂布はそんな彼女を目で追うだけで反応はしない。

 

「もらった!!」

 

彼女が南海覇王を横払いに振るが、呂布はそれを苦も無くひらりと躱し南海覇王をガシッと掴む。

 

「クッ!!私の斬撃を素手で?!なんてやつなの!?」

 

呂布は持った手に血が滴り落ちるのを何も感じていないのか、無表情で剣を持つ力を強めていく。

 

雪蓮は完全に捕まったようでこのままではマズイと察したのか、南海覇王を手から離し、後退をしようとする。

 

「まずい・・・・!!各隊、孫策様を援護!!敵を引き離せ」

 

「私も出ます!」

 

孫策を逃がさないつもりか南海覇王を放り投げ、彼女の持つ大型の方天画戟を繰り出そうとする。

 

だが北郷の援護射撃により邪魔をする。

 

援護射撃が始まると同時に呂布に向かう明命に、俺はマズイと声を上げた。

 

「明命ダメだ!!」

 

「ダメよ!!明命!!!迂闊だわ!!」

 

「でやぁー!え・・・・?きゃあああ~」

 

雪蓮と俺は止めたが彼女は弓矢に乗じて攻撃を加える。

 

だが呂布は弓をまるでダンスでも踊るかのようにヒラヒラと難なく躱し、明命の攻撃を受けとめると弾き飛ばす。

 

 

「ぐぅ・・・・なんて力なのですか・・・・」

 

「こんな至近距離で弓を躱すなんて、なんてやつだ!化け物か?」

 

副官が驚きと同時に恐れをその表情に滲ませる。

 

「化け物でも人間は人間だ。このまま攻撃を続けろ!」

 

俺は言うと同時に呂布に剣撃を与えるが、全くその剣筋が通る気はしない。

 

彼女は無表情のまま俺を再度吹き飛ばし、追撃に移る。

 

方天画戟を凄まじいスピードで振り下ろす。速い!

 

「一刀!!」

 

雪蓮は叫ぶが南海覇王を放り投げられてはどうすることもできない。

 

が弓兵から弓をひったくると雪蓮は北郷を助けるべく2・3発と弓を放つ。

 

「・・・・・・・・!!」

 

呂布は雪蓮が放った弓を躱し、最後の1発は手でガシッと掴んでポイッと捨てる。

 

「孫策様!!」

 

北郷の副官がすぐさま孫呉で採用されている剣を差し出す。

 

「ないよりはましか・・・・。借りるわよ!明命、いけるわね!?」

 

「はい!!」

 

その後明命、雪蓮と北郷とで攻撃を加えるが全くといっていいほど有効打が与えられない。

 

「明命、雪蓮!!」

 

俺は叫ぶと二人は阿吽の呼吸でサッと下がると同時に弓兵の一斉射で味方が援護する。

 

「・・・・・ん・・・・!!」

 

呂布は初めてではあるが僅かに苦悶の表情を出すが、方天画戟を器用にあやつり弓を弾いていく。

 

(チャンスだ!!)

 

俺は呂布が弓に注意を向けているこの僅かな隙を好機と見て彼女の懐に入り込む。

 

 

「もらったぁ!!」

 

俺が叫び彼女の腹部に強烈な殴打を与えんと右ストレートを放つ。

 

しかし雪蓮の持つ驚異的な直感が彼に危険だと告げる。

 

「一刀?!だめよ!!」

 

だが北郷はそれに構わず突っ込む。

 

この距離は北郷の最も得意とする間合いであり、彼が荊州の赤鬼と呼ばれる所以でもあった。

 

ゆえにいくら呂布といえども・・・・。

 

「な?!」

 

だが呂布はやはり驚異的な反応速度で北郷のストレートを躱すと、今度は北郷相手に同じように右ストレートを繰り出す。

 

(呂布・・・まさか・・・嵌めたのか?!)

 

餌に食いついたのは自分であったと悟るが時すでに遅し。

 

彼の腹部に強烈な一撃が入り、メキメキとめり込んでいく。

 

 

「・・・・・グハッ・・・・・」

 

北郷は口から吐血をし蹌踉めくとそのまま地面に倒れ込んだ。

 

一切動かない北郷を見て副官や雪蓮が一気に青ざめる。

 

「隊長!!!!お前たち何をしている!援護しろ!」

 

副官がそう喚くと弓矢の斉射をはじめると同時に、副官も援護に入るべく槍を持ち彼のあいだに入る。

 

「クソぉ・・・・!!」

 

副官が果敢に槍を振りかざすも呂布は無表情で方天画戟を用いて全て受け止めてしまう。

 

援護での弓も全く効果を見いだせず、敵は無表情のままこちらをジッと見続ける。

 

明命・雪蓮も加勢をし、なんとか呂布を引き剥がすことができた。

 

副官の勇敢な行動により北郷は引きずり出せたが、重傷であり戦いができるような状態ではなかった。

 

吐血した血が彼の服を汚し、意識はあるが息は絶え絶えである。

 

「一刀!!しっかりしなさい・・・・・・」

 

「救護兵!!隊長がやられたぞ!!!!」

 

それから北郷は抱えられ兵に後ろに上がり、救護兵による治療が行われた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

雪蓮は無言で治療をされる北郷を見つめる。

 

「・・・・・雪蓮様?!」

 

雪蓮は恐ろしい形相で呂布を睨みつける。その目つきは今までの彼女を見ていた明命も思わず怯み、気圧されてしまう。

 

「・・・・・・・・呂布よ、貴様は私を怒らせた。その不敬な態度、貴様の血で償わせてもらうぞ!!」

 

雪蓮は恐ろしい形相のまま呂布に突っ込むと目にも見えない速さで斬撃を繰り返す。

 

「・・・・・ぐぅ」

 

呂布は驚く。孫策の速度が今までとは違い、彼女が反応できるギリギリの速度であったからだ。

 

「・・・・速く・・・・なった」

 

呂布はボソボソと呟くが雪蓮は縦に横にと斬撃をし呂布を圧倒していく。

 

「すごい・・・・雪蓮様が呂布を・・・・・」

 

「なんてお方だ・・・・・」

 

副官と明命はもはや彼女の邪魔はできまいと悟る。

 

今彼女に加勢をしても足でまといになるのは目に見えていたからだ。

 

呂布は怒りに支配される雪蓮を相手に反撃を加えることができず、押される一方であった。

 

最初無表情だった呂布の顔が次第に苦悶な表情へと変わる頃、雪蓮は方天画戟を弾くと剣で横になぎ払う。

 

「・・・・・・・ッ!!」

 

呂布は辛うじて躱し距離をとったが、彼女の服には血がにじみ出ていた。

 

剣が掠ったのだ。

 

「呂布が・・・・・?!」

 

明命が叫ぶと同時に呂布が雪蓮に向かっていき、斬撃を加え反撃をする。

 

彼女も本気を出したのか、今までの速度とは違うその斬撃は、もはや目に追えないの程の驚異的な速度であった。

 

だが雪蓮はそれを目で追い、時には未来予知も言える直感を働かせ、剣で呂布の剣撃を受け流す。

 

だがそんな雪蓮の攻撃と防御に耐え切れなくなったのか剣がバキンと割れてしまう。

 

「ちぃ?!」

 

雪蓮は舌打ちをするが直ぐ様、明命は南海覇王を雪蓮に向け投げつける。

 

呂布が南海覇王を雪蓮に拾わせない形で立ちふさがっていたのだが、雪蓮の猛追により呂布は彼女に意識を集中していた。

 

明命はこの隙を逃がさず、呂布の後方に投げ飛ばされた南海覇王を回収ができたのだ。

 

「雪蓮様!!」

 

「明命!!感謝するわ!」

 

南海覇王を受け取ると呂布に対し攻撃を繰り返す。

 

「・・・・また重くなった・・・・速い・・・・・」

 

呂布は苦悶の表情を再度浮かべ、雪蓮の攻撃を受け止めては反撃を繰り返す。

 

一進一退の攻防が続くこと暫く、だが呂布の様子が少しづつおかしくなっていくことに雪蓮は気づく。

 

(・・・・奴の動きは弱まっている・・・・。疲れが出ている?!)

 

彼女の超人的なスピードはいつまでも発揮できるわけではないということか。

 

雪蓮の斬撃も躱しきれなくなってきており、幾重もの傷が彼女に刻まれる。

 

 

だがそれと同時に騒ぎとどよめきが起こる。雪蓮は副官に大声で捲し立てる。

 

「何があった!?」

 

「はっ!関羽殿が華雄を討ち取ったと!!張遼軍も降伏しました!!!」

 

それを聞いた呂布は僅かに眉をひそめると同時に方天画戟をカランと手放してしまう。

 

「・・・・・・みんな・・・・が・・・・霞も・・・華雄も・・・・・」

 

呂布もペタンと座り込むと風船から空気が抜けたかのように戦意がしぼんでいく。

 

「勝負あったわね。呂布、これで残るはお前だけ。このまま戦うか、降伏をするか選ばせてやろう」

 

雪蓮は落ち着きを取り戻すと南海覇王を彼女にびしっと向ける。

 

「・・・・・・・・」

 

ぺたりと座り込んだ呂布は何も言わず、俯いたままだ。だがその顔は些か青ざめて見える。

 

「・・・・・・・・・・・・降伏ということね。懸命な判断だわ。明命、あとを任せるわ!」

 

「は、はい」

 

雪蓮が南海覇王をしまうと直ぐ様後ろに引き下がった。

 

後方で治療を受けていた北郷の安否が雪蓮にとっては今は最大の懸念であった。

 

(母様が亡くなった時の喪失感・・・・・、あのような思いをするのはもう・・・・・・ゴメンだわ・・・)

 

雪蓮は冷や汗を垂らし、ギリっと下唇を噛み締める。

 

(一刀・・・・・・お願い・・・・・!!死なないで!!)

 

雪蓮はさらに足を速め、救護兵が治療している天幕に向かい北郷を看ている救護兵に飛びつく。

 

「一刀は?!一刀はどうなの?!!!」

 

肩をガシッと掴まれ激しくユサユサと揺らされた救護兵であったが、後ろから声が聞こえてくる。

 

「雪蓮、落ち着け!!」

 

冥琳が後ろから雪蓮を引き剥がすが雪蓮は動揺の色を隠せなかった。

 

「冥琳、一刀は・・・?」

 

「腹部に強烈な衝撃をくらい、体がその衝撃に耐えられず著しい損傷を受けた。生きてはいるが、当分は厳しいだろう」

 

「・・・・・死なないの?」

 

「大丈夫だ。・・・・北郷はそんなことで死ぬような・・・・死ぬようなタマではないのだから」

 

冥琳は雪蓮を励ますが彼女の台詞には彼女自身のこうであったほしいという願望が混じっているように見え、自分にそう言い聞かせているようにも聞こえる。

 

「う・・・・・・・・・・・・」

 

「一刀?!」

 

雪蓮が呼びかける。

 

北郷はそれに応じようとしているのか手を弱々しく伸ばすと雪蓮と明琳は二人でその手を強くつかんでやる。

 

「しぇ・・・・・・・・雪蓮・・・・・と・・・め・・・・冥琳?」

 

「ああ、北郷・・・・・・・北郷、大丈夫だ。私は・・・・ここにいる」

 

「一刀・・・・一刀・・・・・・・・・・」

 

二人の声が聴けて安心をしたのかゆっくりと儚げな弱々しい笑顔を浮かべる。

 

その姿に雪蓮は死んだ母の姿とダブり気が気ではなくなっていき、大粒の涙を目に貯める。

 

「・・・・・雪蓮・・・勝ったのか・・・・・」

 

彼は弱々しく彼女らの手を握り返すと雪蓮は堪えていたのものがついに抑えきれなくなり、涙を流し嗚咽交じりに彼に声をかける。

 

「・・・・ええ・・・・・勝ったわ・・・・」

 

「北郷、お前が呂布を抑えてくれたおかげだ・・・・」

 

冥琳は厳しい顔を崩さないがその声色は優しく北郷を優しく包み込むかのようであった。

 

その後天幕に北郷隊の兵がズラズラと入ってくる。

 

彼らも北郷の重傷が大きなショックであり、何もできなかった自分を戒めるかのような厳しい表情を皆が浮かべていた。

 

「・・・・・・・・・そうか・・・・・よかった・・・・・」

 

「今は休め・・・・」

 

冥琳が北郷の頭を優しく撫でると彼は気持ちよさそうに顔を緩める。

 

「雪蓮・・・・・・すまない・・・・な」

 

「バカ・・・・・・心配したんだから・・・・!!」

 

そういうと雪蓮はガバッと北郷を抱きしめ、彼の服を涙で濡らす。

 

北郷は雪蓮に開放された手を彼女の頭にポンと乗っけると撫でてやる。

 

それと同時に雪蓮は赤子の様に泣き出した。

 

その姿は迷子になった子が母親を探すかのように大きな声で子どものようであった。

 

「雪蓮・・・・・」

 

冥琳は雪蓮とは長い付き合いではあるが、彼女は自分の母親が死んだ時でさえこのように取り乱しはしなかった。

 

泣くときも母の墓の前でのみで人前で弱みを見せたくないから、と自分が泣くという姿を彼女は絶対に他人に見せなかった。

 

ただ今回は違った。

 

雪蓮は母親だけでなく北郷までもが自分から去ってしまうのではないか、という強烈な喪失感と焦燥感が雪蓮の感情をより強く動かしていたのだと冥琳は悟る。

 

彼女が一体どれだけの絶望を感じ、そして耐えていたのか。

 

それを知っている冥琳は雪蓮の気持ちを慮るが、そんな彼女をただ黙って見守ることしかできなかった。

 

いやかける言葉がなかったのだ。

 

冥琳は彼女がこの涙で今まで貯めていた全てを吐き出して欲しい。それだけを思っていた。

 

「姉様?!一刀は・・・・・?姉様・・・・・?」

 

蓮華と思春が遅らせながら天幕に飛び込む。

 

蓮華は驚いた。

 

姉がこんな泣き声をあげて泣いているのは初めて見たからだった。

 

いつも笑みを絶やさず、母が死んだときも

 

『お姉さんがいるから大丈夫!』

 

と言って泣きじゃくる蓮華をあやしてくれていた自分の姉だったからだ。

 

常に気丈で誇りを持ち、まさに孫呉の理想ともいえる、そして自分に対する高い壁でもあった自分の姉。

 

その姉が人目もはばからず泣いていたのだ。

 

そんな彼女を見て蓮華も涙をため俯く。

 

自分は何もできない。

 

姉を励ますことも、そして自分が好きになった男すら守ることができなかった事に打ちのめされていた。

 

そんな蓮華を見て思春が肩をたたき首を振る。

 

「蓮華様・・・・蓮華様は気になさる必要はありません。武官はどの戦でも必ず自分の死を覚悟し、戦地に赴くのです。自分の死に後悔が無いよう、常に自分の出来うることをやる。北郷のあの顔・・・・・後悔がないのでしょう。彼も立派な戦士だということです」

 

思春は北郷の曇りのない笑顔を見ながらも蓮華を不器用ながらも励ます。

 

「思春・・・・ありがとう」

 

「蓮華様が感じた思いは決して無駄ではありません。今のその思いが蓮華様を成長させてくれる。私はそう信じています」

 

彼女の気遣いに絆され蓮華は深くうなずくと強い生ざしで北郷を見つめる。

 

その北郷の姿に蓮華も自分も彼のような戦士になりたいと強く憧れを灯すのであった。

 

 

その後は呂布と陳宮を捕え、尋問を行った。

 

彼女たちはポツリポツリと真実を語りだし、冥琳は驚きの顔を見せると同時にこの尋問に参加していた孔明、劉備も同様の反応をしていた。

 

董卓は王朝の改革を行ったが、その行為を良く思わない既得権益を享受する者たちに嵌められたということだ。

 

「まさか董卓が悪人に仕立て上げられていたとはな・・・・。孔明、この件どう思う?」

 

冥琳は少し驚きの顔で孔明に投げかける。

 

「はい、呂布さんの云うことに嘘はないとは思います。彼女の性格上そんな器用なことができるとは思えませんし・・・」

 

「そこのお前も呂布の云うことは間違いないと思うか?」

 

周瑜は呂布の隣にいた小さい少女、陳宮も冥琳に促され同意する。

 

「うぅ・・・・その通りなのです・・・・。董卓様は・・・・宮廷の連中に嵌められたのです・・・・」

 

「状況は理解できた。だが我々も反董卓連合で参加している以上はお前たちをタダで見逃すということもできんのだ。どうしたものか・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

呂布は冥琳をじっと見つめる。

 

そのつぶらな瞳がまるでお願いをしている子犬のような輝きを発しているからか冥琳は根負けをする。

 

「・・・・・・分かった呂布よ。貴様の主、なんとかしよう」

 

「え?!」

 

孔明が驚きの声を上げるが、劉備はニコリと笑った。

 

「呂布ちゃんのお願いを断れなかったんですよね?流石周瑜さん」

 

「・・・・・私も人の子ということだよ、劉備殿。ただ呂布よ、お前の身柄は我々が引き取る。その武、孫呉の役に立ってもらうぞ。お前の主も保護するのだから文句はあるまい?」

 

困った顔で呂布を見ると劉備に苦笑する冥琳。

 

劉備もそんな周瑜の性格を知ってか優しい笑みを浮かべていた。

 

「・・・・・ん。・・・・・ありがとう」

 

「恋殿が行くところに私もついて行くだけなのです。よろしくなのです」

 

陳宮と呂布は頭を下げた。

 

「雪蓮は今は席を外しているが、もう戦は終結した。これからの戦後処理は我々の仕事だ。明命、思春!!」

 

「「はっ!!」」

 

どこからともなく二人が姿を現す。急にいきなり現れたので孔明も劉備も驚きの顔をしている。

 

「我々は董卓の保護を行う。宮廷に潜入後、董卓の身柄を確保後こちらまで引き連れてこい。董卓は投身自殺を図ったと芝居を打て。そうすれば袁紹たちも諦めはつくだろう」

 

「「御意」」

 

二人は姿を再度消すと冥琳は呂布と陳宮を見る。

 

「お前たちを信頼できる者なのか、私たちも見極めてやるのです」

 

「口が過ぎるな陳宮よ、我が隠密部隊をナメてもらっては困る。洛陽も現在は混乱を極めている。やりようはいくらでもあるさ」

 

陳宮の強い眼差しを冥琳は軽く受け流し心外だなと睨みつける。

 

「音々音、悪口はよくない」

 

「ぐ・・・・恋殿~」

 

横から陳宮の頭にチョップを加えると痛そうに頭を抑える陳宮。

 

「とまぁ・・・・勝手に話を進めてしまったが・・・・これでいいのか?劉備殿?」

 

「うん、呂布さんたちを抑えてもらったんだもん。こちらも感謝してもしきれないよ」

 

「桃香様の言うとおりですね。我々だけでは呂布さんと華雄隊の撃墜は困難でした。反論を言う余地はありません」

 

「感謝する。ではまずは洛陽の復興だな・・・・」

 

「はい、今現在は仮設の天幕を設け、そこで炊き出しと疫病などの治療も行っています」

 

「流石だな、孔明。我々も雪蓮を筆頭に復興に尽力しているところだ」

 

「なるほど~、だから雪蓮さんはここにいなかったんだね」

 

劉備が頷くと冥琳も頷き返す。

 

「そうだ、いまの洛陽は最早花の都ではない。だがしかし権威はまだ残ってはいるのは事実。その権威を利用し、雪蓮が徳のある人物だと思わせるために一役やってもらっているわけだ」

 

「でも困ってる人を放ってはおけなかったんだよね」

 

「ご名答、劉備殿の言うとおりだ。いまの洛陽の凋落ぶりは私や雪蓮も看過はできない。洛陽の治安が回復するまでは駐留を続けるつもりだ」

 

眼鏡をクイッと上げなおすと冥琳は強い口調でそう言った。

 

 

「周瑜さんの思うことは我々も同じです。夜警隊の臨時創設と警邏隊の増設を行う予定だよ」

 

「はい、桃香様の仰るように私たちも当面は治安回復に尽力をするつもりです。周瑜さん、ここは連合で復興に尽力に力をお貸しできればと」

 

「もちろんだ、孔明。その件に関しては私もお前に頼もうとしていたところだ。我々だけでは人手が足りんからな。ご厚意に甘えるとしようか」

 

それから洛陽の復興が行われた。炊き出しと臨時警邏隊の常駐により治安は回復しつつあった。

 

連合での復興活動を大半の諸侯は嘲笑うが、この復興活動により孫策と劉備の株を大きく上げることになるとは知らず・・・。

 

そして復興活動から暫く、明命と思春に選抜された隠密部隊が董卓と側近の賈駆を保護に成功した。

 

それと同時に董卓の遺体と遺書が発見されたとの嘘の情報が洛陽を流れ出した。

 

董卓は顔を皆に知れ渡っていないことも幸し、さらに董卓が自殺を図るだけの動機も揃っていること、さらに筆跡も董卓と同じであるという宮中の役人の証言からも反董卓連合は自殺を信じた。

 

これにて反董卓連合の目標は果たし、一件落着となり解散となった。

 

雪蓮は街を警邏している最中に井戸で光るモノがあったので気になり、手にとってみる。

 

「これは・・・・・直ぐに周瑜と劉備を私の天幕に呼ぶように!!」

 

手短に近くにいる警邏隊にそう言うと雪蓮は不敵な笑みを浮かべる。

 

天は我々に味方をしている。そう思わずにはいられなかったからだ。

 

それから天幕で二人が来てから拾ったモノを見せる。

 

「これは・・・・・」

 

「判子?」

 

「ただの判子ではないわ」

 

雪蓮がそう言うと冥琳は若干興奮した面持ちで判子を見つめる。

 

「ああ・・・・・これは大物だぞ、雪蓮」

 

「え?どういうこと?」

 

劉備が的を得ていないので冥琳は説明をする。

 

「この判子は伝国の玉璽と呼ばれる、周の皇帝が作らせたという王位を象徴する印だ」

 

「え?!これが・・・・あの・・・・」

 

「そうよ、まぁ元はどっかに無くしたから秦の始皇帝が作らせたってやつだけどね。ただこれは本物だわ・・・・」

 

雪蓮が差し出すと、二人は食い入るように見つめた。

 

「書物によれば玉璽の一部は欠けており、金で補修がされているとあったが・・・・」

 

「金で補修がされてるね・・・。雪蓮さん、これをどこで?」

 

「古井戸で偶然ね。きっと王族が逃げ出す際にどさくさ紛れに落っことしたんじゃないかしら?」

 

「それで・・・・この玉璽は誰が持つ?」

 

冥琳が切り出すと劉備はゴクリと唾液を飲み込む。

 

この玉璽を保持できれば天子として権威を保持でき、正当な王位継承者を語ることができる。

 

それは劉家の末裔と言われる劉備からしてみれば喉から手が出るほど欲しいものであった。

 

「私は桃香に持って欲しいと思ってるわ」

 

雪蓮がそう言うと冥琳は一瞬ギョッとした目で彼女を見る。

 

「どうしてですか?!私は・・・・・」

 

劉備はまさか自分にと思っていなかったのだろう。目を見開いて驚く。

 

「う~ん、私たちって連合じゃない?軍事同盟ではないのは周知の事実なはず」

 

「・・・・・・・・・」

 

「それなら香が持っている方が正当性が主張ができるしね」

 

冥琳は雪蓮をジッと睨みつけながらも反論はせず耳を傾ける。

 

 

雪蓮はそのまま説明を続けた。

 

「私たちが持っても所詮偽物だと言われるのがオチだしね。そうである以上は王族の末裔でもある桃香が持つことで私たちが天子を支える盟友として認められ、連合の存在を正当化できるわ」

 

「劉備殿が天子と名乗り立場が逆転すれば、この連合を破棄する可能性もあるのだぞ?」

 

冥琳が強い口調で言うと雪蓮は頷いた。

 

「冥琳の言うことも最もだわ。だけどそうねぇ・・・この経緯を桃香自ら、全て話してもらうわ。玉璽を取り返した孫呉が劉家に捧げたとね。そうすれば民にも孫家は盟友であると信じてもらえる」

 

「世論を味方にした孫家に裏切るような不義理を劉備殿がすれば、天子の正当性が危ぶまれると・・・・?」

 

「そういうこと。だから桃香にはこの玉璽を渡す条件として私たち連合の正当性を主張してもらう」

 

「もちろんです!これで・・・・・これで・・・・・」

 

桃香は震える手で玉璽を受け取る。たかが判子とは言えど劉備には今この判子がとてつもなく重く感じる。

 

「桃香、私は貴女と共に戦っていく。だけど貴女が欲に溺れたとき・・・・その時は私は貴女との連合は解消させてもらう。それでいいわね?」

 

「はい、ありがとうございます。雪蓮さん・・・・・」

 

涙をこらえ頭を下げる桃香を見て雪蓮は頭を優しく撫でてやる。

 

「貴女には貴女にしかできないことがある。それは時には重いと、辛いと感じることがあるかもしれない。だけどこれからは私たちがいる事を忘れないでね」

 

「はい・・・・・・はい・・・・・!」

 

雪蓮に絆され涙をポロポロ流す劉備を冥琳はジッと見ていたが深い溜息をつく。

 

「そうだな・・・・少し詰めが甘いが雪蓮にしては悪くない。我が主もそう宣うのであるなら私もなにも言うまい。劉備、私の真名を受け取って欲しい」

 

「ありがとうございます!!私も真名をあなたに預けます」

 

「・・・桃香、我々だけでどれだけこの乱世を変えられるかは分からない。だが私はお前と組めることに私も後悔はない。共に戦おう」

 

そう言って桃香と冥琳は再度握手を交わす。

 

その後桃香は強い決意を抱き、天幕から去っていくのを見守る二人。

 

「・・・・・これでいいのね。雪蓮」

 

「ええ。私は桃香に賭けてみることにする。それに、もし私に何かあっても蓮華を彼女たちが助けてくれるしね・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・雪蓮は変わったな。以前のお前なら玉璽を桃香に捧げる事はしなかっただろうに」

 

「え?そう?冥琳も変わったよ?」

 

「そうか・・・・?」

 

「うん、以前の冥琳なら私を殺してでも止めるでしょうしね」

 

「そうだな・・・・。前の私なら、このまたとない機会を逃がさないと考えるだろうからな」

 

落ち着いた表情で腕を組む冥琳。その表情からは雪蓮は何も読むことができない。

 

「一刀と会ってからかしらねぇ?」

 

「否定はしない。私もお前も彼から多いに影響を受けている。そういうことだろうな」

 

「そうかもね。あぁ~あ~、一刀まだ治らないのかしら?」

 

「そう思うのなら、見舞いにでも行ってやれ。北郷は意識を取り戻したそうだぞ?」

 

「え?!そんなの初耳よ?!」

 

「お前に聞かれなかったからな」

 

「ひっど~い!」

 

「ハハハ、でも順調に回復はしてきてはいるようだ。それと・・・・・・」

 

からかわれ怒る雪蓮に冥琳は笑うが、急にジロと睨みつける冥琳に雪蓮は思わず気圧され後ずさりする。

 

「な、なによ?」

 

「いいかげん北郷の気持ちも汲み取ってやれ。北郷はお前を受け止められない程、器の小さい男ではない」

 

「・・・・・うん」

 

「北郷の様子がおかしかったのはお前も良くわかっていたはずだ。あいつは不安なんだよ。声に出さなければ分からないこと、手にできないこともある。私の言う意味がわかるな?」

 

「はぁ・・・・戦や政治の修羅場を掻い潜ってきてきたけど・・・今回の修羅場はちとキツいわねぇ」

 

「なにが修羅場だ、バカ者。お互い言いたいことも言えず、悶々としているだけではないか。修羅場ですらないな」

 

「ぐぅ・・・・言い返せる言葉が思いつかないわ」

 

そう肩を落とすと雪蓮は天幕から去っていった。

 

「行ってこい。骨は拾ってやるさ雪蓮」

 

眼鏡を外し雪蓮の背中にそう呟く冥琳。その表情は付き物が取れたかのように晴れやかであった。

 

「だが私も雪蓮のことは言えない・・・・か」

 

自虐的にそう呟き、視線を僅かに落とすのであった。

 

 

その後雪蓮は治療を行っている天幕に着くと救護兵長である階級章を制服に掲げた人物を見つけ声をかけた。

 

「これは孫策様、どのような御用でしょうか?」

 

「お疲れ様、私の親衛隊である北郷の容態が気になってね。調子はどう?」

 

「はい、2~3日前に容態が回復傾向に向かっており意識は回復しています。現在は北郷隊長は士官でありますので専用の天幕で療養をしております」

 

「そう・・・・。安心したわ。できれば北郷がいる場所を教えて欲しいのだけど」

 

「はい・・・」

 

兵長は雪蓮に天幕へと案内させるとそこには暇そうに寝具に横たわる北郷の姿があった。

 

「そ、孫策様・・・・!」

 

慌てて北郷は敬礼をするが、雪蓮は兵長をチラリと一瞥する。

 

兵長は彼女の考えていることを悟ったのか頭を静かに下げ、では私はこれでと言い去っていった。

 

「元気そうね、一刀」

 

「は、はい・・・・」

 

「もう!今は敬語はいいのよ。ただ・・・・もう体はいいの?」

 

「うん、もう暫くしたら体を慣らしていって、この洛陽を撤退するくらいには馬にも乗れると思う・・・・」

 

「ん・・・・・。ごめんね、見舞いに来たっていうのに手ぶらで」

 

「いやいいんだ。雪蓮が来てくれただけで俺は嬉しいから・・・」

 

それからしばらくの沈黙が支配する。

 

「情勢はこちらに傾きつつあるようだな。病室でも噂になっているよ」

 

「うん、そうね。桃香にはこれから頑張ってもらう必要があるけれど・・・・、私たちの陣営も強化されたしね。今回の収穫を考えたら出来過ぎなくらいね」

 

「そうか・・・・。そういえば呂布はどうなったんだ?」

 

「投降したわ。そのあと董卓と側近の賈駆の身柄もこちらで保護した。優秀な人材であるのなら役に立ってもらうつもりよ」

 

「呂布と賈驅と董卓もか・・・・。すごいなそれは。すまないな、俺は呂布相手に・・・何もできなかった」

 

「そんなこと・・・・」

 

「いや、あの時俺は・・・・功を急いでいたと思う。あの時は部隊でもっと連携を取るべきだった。さっき副官が来てさ、怒られたよ。もっと自分を大事にしてくれってね」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「俺は馬鹿だとつくづく思ったよ。君が曹操に言ったあの台詞が呂布に打ちのめされる瞬間まで離れなかったんだから・・・」

 

「そんなの言葉のあやじゃ・・・・」

 

「君に言ってもそう言うだろう。だけど・・・・俺は君と冥琳のあの・・・・・あの雰囲気を見ていたら・・・・」

 

それを言ったっきり北郷はうつむき口を塞いでしまう。

 

 

 

「ごめん、雪蓮。今は気持ちの整理がつかないんだ・・・。この遠征が終わったらまた話し合おう」

 

「いや」

 

「・・・・え?」

 

「いや、って言ったののよ。この・・・わからず屋!!」

 

そう言ったと同時に強烈な平手打ちを北郷に食らわせる。

 

「っつ・・・・雪蓮なにを?!」

 

北郷の口から血がツーっと流れるのを彼は拭いながら、驚きと困惑の表情で彼女を見る。

 

「わからず屋ってそう言ったのよ!貴方はいつもそう。いつもそうやって一人で考えて、思い込んで・・・抱え込んで・・・。私が・・・私がどう思っているかなんて分からずに・・・・。だからわからず屋って、そう言ったのよ!!」

 

「?!」

 

「私が・・・・あんたが倒れたとき、どんな思いでいたかも・・・・。冥琳も、蓮華もみんなが貴方をどれだけ心配したかも分からないで・・・・!!」

 

「雪蓮・・・・・・」

 

「嫌い、嫌い・・・・・!あんたなんか大嫌い!!もう顔も見たくもない!!」

 

そう言うと雪蓮は席を立ち、天幕から出て行こうとするが北郷は彼女の腕を強く掴んだ。

 

「放しなさい・・・!この朴念仁!!唐変木!!」

 

「いやだ・・・・!雪蓮だって!!」

 

北郷は彼女をグイっと引っ張る。その力に彼女は抗うことができず寝具に押し込まれる形になる。

 

「きゃっ・・・・」

 

「雪蓮だって・・・俺がどんな思いでいるかも知らずに・・・・」

 

「一刀・・・・!」

 

そう言うと同時に北郷は雪蓮の唇を奪った。

 

「ん?!ん~!!」

 

最初雪蓮はバタバタと暴れていたがそれも次第に弱まると北郷は口を離す。

 

口から離れた際に熱い吐息が雪蓮の口から漏れ、銀の架け橋が二人の口に紡がれる。

 

雪蓮は顔は高揚しており頬が赤く染まり、目が潤み涙がこぼれ落ちそうになっている。

 

「ハァハァハァ・・・バカみたい・・・・この・・・・バカ・・・・最低よ・・・!」

 

北郷が雪蓮の手を離すと同時に彼女は起き上がるとそう言い、天幕から出て行ってしまった。

 

彼はなんてことをしてしまったんだという恐ろしさに駆られる。自分がいかに最低な行為をしたのかを思い知らされる。

 

そしてそのまま俯くと誰にも聞こえない声で泣く。

 

自分のかけがえのない大切なものを自らの軽率な行為で壊してしまった。

 

くだらない嫉妬と虚栄心で彼女の優しさを踏みにじってしまったのだ。

 

あんなに心配してくれたのに・・・・。

 

あんなに俺を信じてくれていたのに・・・・。

 

(ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・・)

 

心の中でそう何度も念じながら溢れ出る涙を止めることができなかった。

 

その後洛陽の復興活動は順調に進み、劉備と孫策の天子による連合の発表が行われた。

 

これを機に劉備の蜀と孫策の呉にヒト、モノ、そして金が集まることになるだろう。

 

洛陽の人間も劉備と孫策の元で暮らしたいという人間が増え、帰還について行くという人間もいるようであった。

 

全てが順調。そう思われた。ただ一つ、北郷の失踪を除いて・・・・。

 

 

呉へ帰還後、軍の人事局宛に北郷が直接提出したようであった。

 

彼が消息を絶ったのに気づいたのは失踪してから2週間過ぎたときであった。

 

祭が下から上がってきた書類をチェックしている時に彼の除隊届を目にしたのであった。

 

祭は冥琳の執務室に着くと直ぐ様、除隊届を見せる。冥琳は驚きの顔を見せるが直ぐ様怒りの形相で除隊届の内容を一読する。

 

「一身上の都合により除隊・・・・だとさ。祭殿、どう思われるか?」

 

冥琳はそう呟くと広げた除隊届を持つ手が怒りで震える。

 

「儂らに出さず、わざわざ末端の人事局に提出するとは・・・・」

 

「祭殿の言うとおり、確信犯でしょうな。全く・・・・」

 

冥琳が除隊届を手に持ったまま怒りを含んだ声でそう呟く。

 

「で?どうするよ?あのうつけ者は除隊か?」

 

「・・・・・・・・直接本人から話が聞きたい。それまでは私がこの除隊届は握りつぶしておきましょう」

 

「よいのか?正式な手続きをお主が握りつぶして、法による正式な手続きをお主の恣意的な思考で無視するのじゃぞ?」

 

「北郷はそれを承知で提出したのですよ。法の支配を遵守する周瑜派筆頭のこの私を相手に、です。まったくずる賢い男だよ。だがこの除隊届は私の判が押されなければ、受理は認められません。法でそう決められていますゆえ」

 

「それはそうじゃが・・・・・」

 

「とにかく北郷を・・・あいつを探し出す。必ず・・・・必ず・・・・見つけ出してやる・・・・・」

 

グシャっと除隊届を握り締めると怒りの形相で強く言い放つのであった。

 

「・・・それで・・・策殿には話したのか?」

 

「彼女の親衛隊の頭が除隊となれば隠し通すことは不可能です。彼女も存じていましたよ、全てね」

 

「・・・・・なにか言っていたか?」

 

「いいえ・・・・・特に何も・・・・。だが強がっているのは間違いないでしょうね。・・・骨は拾ってやるとはいったがこんな結末になるとは・・・」

 

溜息を深く吐くとやつれた表情で冥琳は顔を下げる。

 

「全く・・・・策殿も親に似て、頑固者よのぉ。さてと・・・・」

 

「どこへ?」

 

「冥琳よ、北郷の件は儂に任せてくれんか?今、お前や策殿があやつと話しても互いを罵り合い、終わるのが関の山よ。ここは年寄りの話術に賭けてはどうかの?」

 

「・・・・・そうですね。祭殿・・・・いえ祭さん、北郷のことよろしくお願いしますね」

 

「ふふふ・・・久しぶりじゃな。お前にそう呼ばれるのは・・・・。任されよ。この老将黄蓋、必ずやお前の期待に応えようぞ」

 

祭はそう言うと冥琳の執務室から出て行った。

 

祭が去って暫くすると冥琳はもう一度溜息を深くつく。

 

「はぁ・・・・・北郷の阿呆が!!」

 

イライラが収まらず感情の整理がつかない彼女は怒りに身を任せ、手に持っていた除隊届を壁に強く叩きつけた。


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