No.1065379

新・恋姫無双 ~呉戦乱記~ 第7話

4BA-ZN6 kaiさん

続きを上げます。
相変わらずのボリュームですがよろしくお願いします

2021-06-28 18:20:04 投稿 / 全16ページ    総閲覧数:1363   閲覧ユーザー数:1235

会談も終わりを迎えいよいよ連合軍としての共同出兵が行われるようになった。敵本体は10万以上はいる敵本体であり巨大ではあるがこれからは連合で動く。その事実が両国の士気を大きく上げる。

 

その後俺たち北郷隊は第15歩兵隊という名前に変更され、その後の敵の補給線を叩くことを主な任務とされた。

 

「隊長!逃走してきた敵の部隊が来ます!!」

 

副官が叫ぶと俺は強く頷き、指示を出す。

 

「予定通りだ。敵を指定の場所に追いこめ。敵に悟られるなよ!」

 

「御意!おい予定通りだ!!敵をこちらの地域に誘い出せ!」

 

副官は角笛を吹くと第15歩兵隊は逃げる敵を追い込み、こちらの指定のポイントまで誘導する。

 

俺は工兵にやれ!と指示を出すと暫く敵が逃げる場所の罠が作動する。落とし穴だ。

 

「かかったぞ!!やれ!!」

 

俺は後続の敵部隊を追撃するべく弓で射る。敵は罠による混乱から立ち直れていない。それから一斉射が後方からくる。予定通りの劉備軍だ。

 

「黄忠将軍の部隊が予定通り加勢します!!」

 

副官がまくし立てると俺も強く頷き突撃の合図を出す。

 

「劉備軍の一斉射が終われば突撃!!北郷隊の恐ろしさ見せつけてやれ!!」

 

「御意!!いくぞお前ら!!」

 

副官が叫び突撃の笛を吹くと劉備軍の斉射が止み、俺たちの突撃が始まる。

 

「うぉおぉぉぉぉぉぉおおお!!!!」

 

地を這うような叫び声をあげ俺はそのまま混乱する戦場へと駆けていくのであった。

 

先ほどの戦いは圧勝であり敵の補給部隊を今日だけで3回は撃退できている。十分な成果だ。

 

戦闘が終了し降伏した捕虜を集め、陣営に帰投したあと副官はイラついた口調で俺に質問を投げかける。

 

「しかし・・・・・我々はこんなところで油を売っていてよろしいのでしょうか?」

 

副官が俺にそう愚痴るが俺も我慢しろと諌める。本隊から外され少し納得がいかないという表情であった。

 

「今はまだ序章だ。敵本隊との決戦の前に敵の戦意を削ぎ落としたいという意向があるのだろう」

 

「我々は厄介者扱いされたのでは?」

 

「いいや違うな。今俺たちの任務は補給線の根絶やしと我々の兵站の確保し物流を充実させること、そして兵士の損失を出来うる限り少なくするということだ」

 

「なるほど・・・・敵の補給ができなくなれば確かに戦闘継続は難しくなる・・・・それに我々がこの地域を制圧できればわが連合の兵站も十分に確保され持久戦にも持ち込める・・・・」

 

「そういうことだ。黄巾党は確かに大軍だが、それを支える兵站が未熟を極める。この地域を完全に支配しさえすれば、しばらくすれば食糧不足も深刻になり黄巾党に降伏勧告を出すことも可能になるだろう。ここで降伏すれば暖かい食事と寝床を与えてやるとな。敵の兵站が苦しくなれば心理的にも揺さぶりもかけられるし、やりよういくらでもある。無理に出血をしなくて済む戦いを模索するというのも必要というわけだ」

 

なるほどと副官が頷くとそれを聞いていたほかの兵士も唸る。どうやらこの前の孫権隊での働きが評価されていないという不満が少しあったのかもしれない。

 

「副官に言ったとおりだ。この作戦は一見地味ではあるがこの作戦がなくてはあの大軍に勝つのは難しいということだ。諸君、我々はあの連中に辛勝をしているようではダメだ。これからの動乱を生き残るのにあの程度の烏合の衆相手に苦戦はしてられないのだからな」

 

「「はっ!」」

 

「では引き続き警戒にあたれ。哨戒部隊は常に小隊を編成、単独行動はさせるな」

 

俺が兵士たちにハッパをかけてやり、副官に哨戒の指示を出すと兵士たちの目は輝きを復活させ持ち場へと向かっていった。誰もいなくなると同時に俺は一人溜息をつく。

 

「流石ですわね、北郷さん」

 

振り返ると妙齢の紫色の煌く長髪の美女が俺を見て微笑んでいる。

 

「黄忠将軍ですか・・・・・こちらの首尾は上場です。そちらは?」

 

「こちらも指定されている地域の制圧はできております。大方の部隊は壊滅できたようですわね」

 

ニコリと黄忠は笑うと俺も少し微笑む。彼女の柔和な人柄に自分もこの戦の疲れが癒されるのを感じる。

 

「ええ、そのようです。このままいけば予定より早く後方部隊に引き継げそうですね」

 

黄忠はニコリと笑い。そうですわねと肯定した。

 

この制圧は早ければ早い程よいのは連合の損耗を低くできるということを鑑みればまず第一に考えるべきことだったからだ。

 

「ええ・・・、ただ北郷さん大丈夫ですか?お顔が優れませんが。だいぶ疲れてらっしゃいますね・・・・」

 

「ええ少しね・・・・、予定より早くこの補給線確保を成功させるために私も兵にだいぶ無理をさせました。さらに兵の損耗はできる限り抑えなければならない・・・・そこに神経を使います」

 

俺としては副官に言ったとおり今の前哨戦での損耗を抑え、なおかつこの任務を早期に終わらせ敵本隊との決戦に備えるという必要もあったからだった。

 

もちろん冥琳たち参謀本部は早く終わらせろとは言ってはいないし、参謀本部が決めているXデーは今現在の我々の部隊進行速度より余裕を持たせてはいる。

 

しかし今後の展開を考えれば補給線の早期確保を行うに越したことはないし、もしものこともある。早く終わらせれるのならそれに越したことはないのだ。

 

「少し休んではいかがです?私の部隊を回させます」

 

「そうですか、感謝します。では・・・・・」

 

少し疲れが溜まっていたこともあり俺は彼女の厚意に甘えることにした。その後黄忠に簡単に部隊展開の説明をし引き継ぐと副官を呼ぶ。

 

「なんでしょうか?」

 

「黄忠将軍がここの哨戒任務を手伝っていただけるそうだ。副官、お前たちも疲れているだろう。部隊長に今のうちに少し休めと伝えろ」

 

「有難うございます。では・・・・」

 

部隊に休むように指示すると俺も隊長専用の天幕に入り少し寝ることにする。

 

「・・・・・・今日は疲れたな・・・・・」

 

呟くがそこに答えは帰ってこない。作戦としてはうまく稼働は出来ている。このままいけば敵の兵站を破壊することは容易であるはずだ。

 

だが戦いが進むにつれ死人も増える。今日も僅かではあるが死人を出してしまった。俺はそれを悔いるように顔を歪める。悔いても部下は蘇らない。だが・・・・。

 

「今日は・・・疲れたな・・・・」

 

もう一度そう言うと仮初の休息を取るべく意識を深く沈めるのであった。

 

 

その後前哨戦での制圧は難なく完了し後方部隊に引き継がせ、俺たちは西面方面軍の本隊と合流を果たす。

 

「北郷、入ります!!」

 

本隊合流後、少し大きめな天幕に入るとそこには劉備軍と呉軍の参謀が議論を交わしていた。そこの中心にいた冥琳は北郷に気づくと少し頼むと言って陸遜に頼み俺に近づく。

 

「北郷・・・・、お前の活躍は聞いている。よくやってくれた」

 

「はっ!有難うございます将軍!!」

 

俺が直立不動で答えると冥琳は少し笑い、ここじゃなんだ少し話そうかと天幕をあとにする。

 

それから暫く冥琳は違う天幕に連れて行くとそこに見知った人が。

 

「あら一刀~!!久しぶりね!!」

 

雪蓮が書簡の山をほっぽり出して俺に近づくと両手をつかみブンブンふるとギューとハグをしてくる。

 

「?!あ、ああ雪蓮も元気そうでなにより・・・・」

 

急な彼女の抱擁により彼女の柔らかい体の感触と芳香が体を包む。その柔らかな体の感触は俺の思考を麻痺させるのに十分な魅力があったがなんとか振り払い彼女の頭をポンポンねぎらうように叩いた。

 

「補給戦線の壊滅は聞いたわ。一刀よくやってくれたわね!!」

 

「あ、ああ、有難う雪蓮」

 

「雪蓮はお前がいなくてずっとイラついていたんだ。・・・お前が早く来て助かったよ」

 

冥琳は苦笑しながら俺を見る。なるほど彼女を充電をさせたかった、そういうことかと俺も苦笑をする。

 

「もう冥琳!私がそれじゃ唯我独尊のワガママ女みたいじゃないの!」

 

「お前はワガママだろうに。今更何を言う」

 

冥琳は頬を膨らませる雪蓮を余裕のある笑みでフフンと横目に突っ込む。まぁ確かに少しワガママかもしれないけれども・・・・。

 

「もう!冥琳たら!」

 

「まぁまぁ二人共それくらいにして・・・せっかく三人で揃ったんだ。俺の隊も到着後に休息を取らせているから、俺も雪蓮と冥琳とで食事でもと思ってね。忙しかったか?」

 

「そうだな・・・・、我々も今は逼迫するような状況ではない。たまにはハメを外してもいいだろう」

 

「そうね♪連戦、連勝!で士気も上がっていることだしここは宴でもあげましょうよ!」

 

「勝って兜の尾を締めろとはいうが少し兵士も疲労が来ている。物資も北郷たちのおかげで十分なほど潤沢であることだし、ここは敵の補給線壊滅を祝い、慰労を兼ねてということだな。よし雪蓮の提案に乗るとするか」

 

冥琳が珍しく雪蓮の提案に乗ると天幕から出て行った。

 

おそらく先ほどの天幕に戻り慰労会をやろうと言いに行ったのだろう。

 

「・・・・ほんとうに久しぶりね・・・・元気にしてた?」

 

二人きりになると雪蓮は俺の頬を手をスッ頬におくと優しくなでる。俺はそれが少し心地よく身を任せる。

 

「うん・・・・・、雪蓮は・・・・?」

 

「私はこのとおりピンピンしてるわよ~、ここが私の生きる場所なんだから」

 

水得た魚とは彼女のためにあるのかというくらい彼女はイキイキとし目が輝いていた。

 

「よかった。黄巾党本隊に関してはどうなったんだ?」

 

「う~んそれが本隊はどうやら別にいるようなのよねぇ~。まぁこれだけ巨大になれば最早どれが本隊かなんて意味もなさないとは思うけど・・・・。どうやらその本隊は曹操って奴が抑えてるらしいわ」

 

「曹操が?!」

 

「一刀、知ってるの?」

 

「あ、ああ」

 

曹孟徳といえば後世に語り継がれる英傑の一人であるからである。

 

最初は漢王朝の官僚であった父の地位を引き継ぐとそれからは持ち前の統率力で名を馳せ、従兄弟の袁紹を屈服させ領土を平定。天下統一まで後一歩というところまで来た人物である。

 

「貴方が知っているということは・・・未来でも有名ということ。曹操は要注意人物ということね?」

 

「そうだな・・・・雪蓮、曹操は目を離さないほうがいい」

 

雪蓮は俺の様子に気づくとフフンと少し得意げに推測をする。

 

「忠告ありがと。まぁ近いうちに会うことになると思うし、どれだけの人物かそこで見極めてやるわよ」

 

彼女が指すのは反董卓連合を指しているのだろうか?

 

彼女は情勢の理解も早いというのにも俺も思わず舌を巻くが少し彼女を茶化してやる。

 

「ただ劉備みたいに一本取られることがないといいがな」

 

「あれは・・・・あれは事故みたいなもんよ!私をイラつかせたのは劉備の言動もあるけど・・・・」

 

雪蓮はチラリと俺を覗き見て俺の視線に気づくと、また拗ねたようにそっぽを向いてしまう。

今の台詞と視線でわからないほど鈍感ではない。

 

「ハハハ・・・・ヤキモチを焼いたということか・・・・。雪蓮・・・・俺は・・・・俺は果たして自惚れてもいいのかな・・・・?」

 

「一刀・・・・・私は‐‐‐‐‐」

 

彼女は俺に何かを言おうとして声を上げるがそのとき冥琳が笑顔で天幕を開ける。

 

「雪蓮、北郷!劉備の連中とは話をつけてきた。今日は羽を伸ばそうじゃないか!」

 

「え・・・・そ、そうね。よーし今日は鬱憤を晴らしてパーっといきましょう!」

 

酒瓶を持ってきて珍しく嬉しそうに酒を見せる冥琳に雪蓮は少し呆気にとられてしまうが、少しヤケクソ気味に冥琳から酒を奪いラッパ飲みをする。

 

(雪蓮は・・・・・雪蓮が何を言おうとしていたのか・・・・ここは俺が男を見せるべき。ということだろうな)

 

俺は内なる自分に対し見えない決意をするのであった。

 

 

それから連合軍での慰労会が始まり、各軍が入り混じり皆、宴を楽しんでいるようだった。

 

陸遜ほか文官は諸葛亮と笑顔で談笑をしているし、黄忠将軍をどさくさ紛れに口説こうとしている俺の隊の副官。それを面白しそうに見ている祭と趙雲と俺の部下たち。関羽は甘寧と武術の話であれこれと真面目に議論を交わし、張飛と明命と馬超とで大食い競争が行われギブアップで倒れ込む明命と馬超。そして勝者の笑みを浮かべる張飛。

 

俺は西涼での次期当主と名高い馬超たちと暫し酒を飲み交わしていた。というのもこの連合結成の時系列を考えると馬超はまだ劉備とは合流をしていたなかったからだ。

 

それが気になったというのもあり、それについて質問を投げかける。

 

「あ~それは私の母さんが言ってきたんだよ。劉備とは縁を作っといたほうがいいってさ。私と蒲公英は今回は客将ってわけだ」

 

馬超は気さくな態度でそう教えてくれた。

 

馬超の父・・・ではなく母の馬騰は先手を打って劉備との連合に勝機を見出したということか。

 

「なるほど・・・・、この同盟を結んで戦力を増強させることで西涼と異民族との対立に役に立つということですか?」

 

「う~んたしかにそうかもしれないんだけど・・・・。母さんの考えてることは私には良く分からないんだ」

 

「いえいえ、こちらこそ酒の場で話す内容ではなかったですね。申し訳ないです。まぁ可愛い娘に旅をさせよということでしょうか・・・」

 

バツが悪い顔で謝るが、俺は西涼がこれからどういう運命をたどるのかが分かっている以上は馬騰の考えていることが朧げにではあるが理解は出来た。

 

馬騰は曹操の侵略を予感しているのか?

 

ゆえに劉備に愛娘の馬超と親戚関係である馬岱を差し出しコネクションをということなのだろうか?

 

とにかく西涼の動向はこれから目を離さないほうがよさそうだ。

 

 

「か、カワイイ・・・・」

 

馬超は急に顔を真っ赤にして挙動不審な動きと言葉に出来ない言葉を俺に言った。

 

「?馬超殿、なにかありましたか?幾分顔が赤いですが・・・酒の飲みすぎでしょうか?」

 

「う、うるさい!お前が変なこというからだろぉ!」

 

顔を真っ赤にして俺にそう捲し立てるが俺は彼女に何かいらぬことを言ってしまったかなと罪悪感に駆られ謝ろうとするがどこからか出てきた馬岱が俺の後ろで笑い声を交えて馬超をからかう。

 

「お姉様、可愛いって言われるとスグ慌てるんだからウブだよね~」

 

なるほど可愛いというフレーズを言われるのが慣れていないということか。

 

まぁサバサバしており、男勝りな度胸と卓越した技量ゆえか今まで女性扱いされていなかったという事か。

 

馬超は顔を真っ赤にしながらも馬岱にうるさい!と反論し馬岱を追い掛け回す。その姿に俺はどんな時でも感情をストレートに出す馬超の姿に微笑ましいと思い笑顔で馬超を見る。

 

「ほら~北郷のお兄ちゃんも笑ってるよぉ?」

 

馬岱は標的をこちらに向けたいようで企み顔でこちらを見ながら馬超を煽る。

 

「馬岱殿・・・・」

 

「北郷、お前もか~!!!」

 

馬岱の企みに踊らされ俺も馬超が睨みつけこちらに向かってくる。ヤバイ!という危機感のもと彼女から逃れようと早足で逃げおおせるのであった。

 

それからなんとか逃げおおせ、懸命に口説いている副官をよそに黄忠に会釈をする。

 

黄忠は少し困ってはいるようだが、男性が美辞麗句を言われるのは気分がいいのか少し嬉しそうではあった。

 

「お疲れさん、どうだ楽しくやっているか?」

 

俺が副官の後ろからそう言うとビクッと彼の背中が跳ね、バツが悪い顔でこちらを向く。

 

「た、隊長ですか・・・・。は、はい・・・・そりゃもう」

 

「ハメを外すのは結構だが無礼講なのはいただけないなぁ。酒の力を借りずに素面でそういうのは言うもんだ。俺と一緒に戦場を駆け巡ってきたものがそれではな、違うか副官殿?」

 

俺をシタリ顔で彼を見ると彼も苦笑する。

 

「隊長・・・勘弁してください・・・・」

 

「さぁ向こうでお前の武勇伝を聞きたいという連中が待ってる。そちらに行ってやれ」

 

向こうでニヤニヤしながらこちらを見ている北郷隊の連中がチラホラと。

 

副官はことの顛末を部下に見られ顔を真っ青にしていたが直ぐに元に戻り、失礼しました!と逃げていった。

 

「すみません、うちの隊の者がご無礼をおかけしました」

 

「いえいえ、私は気にしておりません。殿方はあれくらい元気でないと・・・ですわ」

 

「それは彼のことをまんざらではないということですか?」

 

「北郷さんは意地悪な言い方をするのね。・・・・その件に関しては私は口にはしませんわ」

 

笑いながら俺の追求をサラッと交わすが、彼女の言葉と態度からしてもまんざらではないのはわかった。あとで奴に教えといてやろうと心で呟く。

 

「しかし・・・黄忠殿、劉備様との馴れ初めはどのようなもので?」

 

「あら、貴方も口説きに来るのかと思ったのに少し残念ね」

 

とお茶目な視線でジョークをいう彼女に少し戸惑うが、彼女はまぁいいでしょうと馴れ初めを話し始めた。

 

「北郷さんとは一緒に戦って、悪い人間ではないというのはわかってはいますからね。いいでしょう、お話しますわ。私はかつては夫の死後、地位を引き継ぎ楽成城の太守を勤めていたのですが・・・・。袁紹軍が態勢が整う前に攻めてきて数の暴力になすすべなく・・・・。それからは娘と戦火を逃れ放浪の旅をしていたのですが、桃香様にそこで・・・」

 

「ご主人がおられましたとは・・・・、無粋なことを聞いてしまいましたね。申し訳ありませんでした」

 

「気になさらないでください・・・・。主人との死別はもう・・・・・もう・・・・気持ちの整理がついたと思いますので・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

気持ちの整理がついたという彼女ではあったがその瞳は涙で震え、声も少し弱々しかった。

 

俺も彼女にかける言葉がなくただ彼女を見ることしかできないことに申し訳のなさがこみ上げる。

 

単純に史実では合流はもう少し先である黄忠がいま合流されていることに興味があってのこの質問であったのだが、他人の人生にずかずかと入り込んでしまったという事に気づく。

 

「すみませんでした。私もずけずけとこのようなことを・・・・」

 

「いいですよ。ただ楽成城には私以外にも二人同じ志を持つ者がいましたが・・・・。その二人は袁紹軍の足止めをすると言って・・・・」

 

「そうでしたか・・・・そのお二人がたはきっと生きている。そう願いたいものですね」

 

「ええ、遠い噂での話ですがあの二人は今は袁紹に囚われているのだとか・・・・。しかし私だけでは・・・・」

 

「しかし生きているというのなら希望はあります。この群雄割拠の時代、昨日の敵が今日の友と形勢が逆転することもあります。どうか・・・・」

 

「有難うございます。そうですね・・・・生きていると信じて私はできることをする。そして娘が笑顔で平和に暮らせるように・・・・」

 

黄忠はそう言って酒を飲むと決意を新たに胸に刻み、強い眼差しで前を見る。

 

その姿に自愛深い強き母親の面影と弱きものを助ける女神の神々しさを俺には見るのであった。

 

 

黄忠と別れたあとは雪蓮を見つけたので話しかけようとするが驚愕で目を少し開く。

 

雪蓮と劉備が酒を交わしていたのだ。

 

最初は劉備も当初のこともあり申し訳はあったのか腰は低かったが今では笑顔で雪蓮と酒を交わしていた。

 

二人の姿を見てあの摩擦がなくなり、関係が良化していることに俺自身も喜んだ。

 

雪蓮と劉備はこれからは敵ではない、同じ目標を持つ盟友でもあるのだから。

 

一人で静かに酒を飲み皆の宴を観察する。

 

今この風景は俺が目指すべき理想郷であったと思う。

 

主義主張は違えども、違う国家に属する皆が同じ場所で笑顔にバカをやって酒を飲み、そして明日を語り幸せを享受する。

 

俺はこの景色を見つめ表情がほだされ、戦のささくれだった気持ちが解れていくのを感じた。

 

「どうだ?任務終わりの酒は?格別であろう?」

 

冥琳が微笑みながら俺の隣に座ると杯を俺に向け乾杯と言って酒を飲む。

 

「冥琳・・・・そうだな・・・・・今飲む酒はどんな酒にも勝る美酒だと思うよ」

 

「そうか・・・・・・。私もそう思うよ」

 

冥琳は笑うと空になった俺の杯に酒を注ぐ。

 

冥琳も少し酔っているのか顔が少し赤いがそれが妙に艶を引き出し更なる美貌を際立たせていた。

 

「・・・・・・・劉備との連合は捨てたものではなかったな、冥琳」

 

俺がそう呟くと冥琳は静かにコクリと頷く。

 

「ああ、私も・・・・そう思うよ。北郷、ありがとう・・・・・・」

 

冥琳は小さな声で礼を言うと酒をぐいっと煽る。俺は彼女が何に対して礼を言ったのか意味をつかみかねた。

 

「俺は君に礼を言われるようなことは・・・・」

 

「・・・・お前がこの前劉備に言ったことだ。この光景を見ればお前の言っていることが理解できる。そうだな・・・・人間は誰しもが幸福と自由を追求できなければならない。そういった社会を作らなければならないのだとこの光景を見て、いま強く思っている。それをお前が教えてくれたのだ。フフフ・・・私はお前を軍師に、弟子にできないことを心底悔しがっている。そういうことさ」

 

冥琳は目をつぶり静かに語った。

 

俺は劉備に語った幸福を追求する権利という言葉を思い出した。

 

『この時代は狂ってる。皆が誰しもが幸福を追求する権利があるのにそれが全くと言っていいほど保証がなされていない‐‐‐‐‐』

 

彼女は北郷の言葉の意味を・・・・この光景から見て何か感じるものがあったのだろう。

 

「私は・・・・お前にこの前聞いた政治制度、権力抑止の機能を作り上げたいと思う。・・・・我々が今はこのまま世を平定できたとしても、その後の人間に権力が集まればいつかは漢王朝の二の舞だろう。私は私なりに後の人間のためにもつまらない政争、戦で血を流さない幸福で自由な生活ができればいいと考えている・・・・・」

 

「議会民主制を取り入れるというのか?しかしそれでは孫家は・・・・」

 

冥琳は眼鏡を外すとため息をつく。その姿は疲れているといって弱音を吐いた雪蓮とだぶる。

 

「北郷、孫家は・・・・雪蓮はもう開放してやるべきだと思う・・・・。・・・・貴方が言うように雪蓮一人にいつまでもおんぶに抱っこではいけないわ。孫堅様には悪いが・・・・孫家の呪縛はここで断ち切る必要があるのかもしれない。孫家というだけで何十万人の民草の運命を抱えなければならないというのは私はおかしいと思うようになってきたのよ・・・・。孫家である雪蓮も蓮華様も小蓮様もひとりの人間である以上幸せを享受する権利があるはずなのだから・・・・」

 

俺はかつて街をめぐっている際に冥琳に行った言葉を思い出した。

 

(彼女を天下人にしてみせる。そして彼女を解放する)

 

解放すると言ったのは俺も薄々ではあるが雪蓮や蓮華といった孫家が重い十字架背負っているというのは余りにもおかしいと思ってはいたからだ。

 

孫呉の呪縛から彼女を解放し、一人の人間としてこの地を共に生きたい。そう願ったからでた言葉であった。

 

重い十字架、それは若い彼女たちに我々国民の全てがかかっているという重みだ。

 

それが王の重みだといえば、この大陸にいる以上はそうなのかもしれない。

 

だが孫家の人間の人生そのものを犠牲にすること前提で成り立つ平和など間違っている。

 

彼女たちもひとりの人間である以上自由に、幸福に、人生を生きていく権利があるのだから・・・。

 

冥琳はそこのメスを入れたいということだろう。

 

だが冥琳が考える「それ」は中華大陸の長い歴史にある専制君主制度に対する大きな挑発でもあった。

 

王の廃止による人民政府による連邦国家の樹立だ。

 

これが一体孫家や呉にどういった影響を与えるのか?それは分からない。

 

だが冥琳はかつて言った。

 

(我々は自分の信念で責任をもって行動をするのみだ。既定路線の未来なんてものはないんだ)

 

彼女はそう言った。

 

そうであるのなら俺は彼女の決断を尊重したいし、彼女の信念をもって責任ある行動したその先を見届けたい。

 

少なくとも俺はそう思っていた。

 

 

「最初は孫呉の、私たちの故郷を取り戻すというのが我々の目標であったわ。しかしお前と会い、連合を組むようになって、会談でお前戦う理由を聞いたときにお前の考えが少し理解できた。彼女を解放するといったのはお前だったな北郷?私もその一人に加えさせてはくれないか?」

 

「・・・・・・・・・・冥琳、君は・・・・・」

 

私はやるぞ!と小さく呟くと冥琳は強い決意を俺に吐露すると強い眼差しを前に向ける。

 

その視線の先には笑顔で劉備と話す雪蓮であった。

 

「俺はどのようになっても君たちについていくだけだよ。冥琳、君の考えていること、目指す目標は途方もないことかもしれない。しかし君の考えは間違っていないと俺は思うし、冥琳が目指す世界を俺は見たい。君がそう言った決断、結論をしたことを俺は・・・誇りに思っているよ」

 

「ありがとう・・・・。感謝する、北郷」

 

「うん。さて湿っぽい話はこれでオシマイだ。冥琳今日は楽しもう!」

 

「そうだな・・・・。うん、今日は楽しもう。北郷・・・・・私は・・・・いやなんでもない」

 

俺がそう言って彼女の肩をポンと叩くと笑って杯を掲げる。

 

彼女も何かを言おうと口を開くがのそれを飲み込み少し哀愁を帯びた笑顔を浮かべる。

 

俺は寂しい笑いを浮かべる冥琳に思わず胸が高鳴るがそれを無視するように俺も酒を飲み込んでいった。

 

俺はその後西面方面軍へと統合され、黄巾党討伐部隊の一躍を担うことになる。

 

俺の他には前線に友軍として思春、明命という布陣であるが劉備軍の趙雲と馬超・さらに関羽を前線に出し豪華なメンバーがそろっている。

 

さら連合は参謀本部に統合議長に冥琳がつきその下に諸葛亮や龐統、陸遜、呂蒙などこれまた豪華な布陣である。

 

勢力としては大きくはないが明らかに将の質が凄まじいの一言に尽きた。

 

連合軍としての技量も試されるこの戦いとはいえこれだけ豪華だと敵も気の毒だろうと少し思う。

 

第1陣攻撃隊は劉備軍の馬超・馬岱が務める。そのあと時間差で趙雲・関羽・張飛・俺・思春・明命と徹底的に正面から攻撃をするようだ。

 

突撃攻撃が行われる前に夜襲も常時行われ、相手は木材の建造物を要塞としていたことから黄忠・祭の弓兵部隊の火矢で徹底的に火炙りにし敵を休ませない。

 

まさに24時間集中砲火である。

 

敵は補給が一切できない。またできていないことからも物量で一気に押し切るという戦法だ。

 

さらには突撃前に降伏勧告の手紙を随時送り続け、精神的に揺さぶることも忘れない。現在では敵の離反者も増え続け連合に投降する人間も増え続けている。

 

「さぁあたしが一番乗りだ!お前ら私に続け!」

 

「蒲公英一番乗り~!!」

 

と馬超と馬岱が声を張り上げると騎兵隊はそうに同応するように前進する。

 

その後敵は第1次攻撃での報告を聞く。

 

黄巾党の損耗が酷いようだ。馬超の騎兵による機動部隊の攻撃がかなり効いている。

 

「趙子雲、参る!!!行くぞ者共!!馬超・馬岱隊に遅れを取るな!!!」

 

両脇に配置している黄忠の部隊の援護斉射により敵は追撃が出来ない。そんな中趙雲の第2次攻撃が始まる。馬超たちの後ろから槍兵がメインの趙雲が戦場を駆け巡る。

 

この1・2次攻撃での報告では敵の損耗率はおよそ5割。このあと関羽の第3次攻撃と張飛の4次攻撃だ。

 

「ここまでくればもはや暴力、鉄の台風というわけだな。敵の心中は察しあまりあるということか」

 

隣にいた副官が思わずうなる。

 

「はい、これでは我々が出るまでに陥落する可能性がありそうですね」

 

「違いない。孫策様や孫権様が出るまでもなさそうだ。だがもしものこともある。気を緩めるな。敵の奇襲に警戒させ周囲は索敵を予定通り実施。周泰隊長の下連携を取れ。情報は逐一知らせるように」

 

俺が副官に頷くと突撃部隊の横槍をつけないよう索敵部隊を500人ほど抜粋し明命の部隊と協力し展開させていた。これで横腹を突かれることはない。

 

そのころ参謀では冥琳が報告を聞きながら指示を飛ばす。

 

「敵の左翼は第3次攻撃隊の関羽、同時に4次攻撃で張飛を行かせ、抑えさせろ!!・・・・正面の突破具合はどうか!!」

 

冥琳が声を上げると諸葛亮が興奮した面持ちで声をあげる。

 

「馬超・趙雲の両部隊で充分押せていますがここは北郷隊と思春隊を投入し一気に押し切るべきかと!」

 

諸葛亮が声を上げると陸遜が損耗率をあげる。

 

「現在我が軍の損耗率は1割にも満たしていないとのことです~。現在負傷兵は撤退をさせ治療をさせています~」

 

「負傷兵の不足分は予備兵力により補充しています!予備兵力もあと5千といるのでこの損耗率を維持できれば充分だと思わます」

 

呂蒙が声を上げ報告すると冥琳は頷く。この戦いは勝ったなという大きな確信だ。

 

冥琳は蓮華様や雪蓮が出るまでもないなと少し安堵の息を出す。雪蓮はブーブー文句を言いそうだが。

 

「是非もないな孔明、第5・6次攻撃隊を出し正面から突破する。この戦い今日中にケリを付けるぞ!!」

 

「はい!呉軍の北郷隊と甘寧隊を正面に配置させ敵の正面をつき一気に崩壊させます!」

 

諸葛亮もこの戦いはもう勝利を手中に収めたと確信をしたのか。満足気な顔で頷く。

 

「・・・・・どうやら今日でケリを付ける気だな。参謀から俺たちも出るようにと言われている。第15歩兵隊出陣するぞ!!」

 

俺が叫ぶと皆が雄叫びをあげ同調する。気合十分ということか。

 

「前は開けている。そのまま突撃!!甘寧たちと連携!!波長を合わせろ!!」

 

俺はそう言うと思春の部隊と動きを同調させ、馬超・趙雲が攻撃する正面を援護する。

 

「これは北郷殿、有り難い!!」

 

趙雲がそう言うと近くにいた馬超も同調する。

 

「北郷来たのか!!これで私たち勢揃いってことだな!!」

 

と馬超が嬉しそうにいうと馬岱もそれに同調し笑顔を浮かべる。

 

「北郷の兄ちゃんが来てくれたら百人力だよ~」

 

「ああ、ここは我々が抑えます。馬超殿、馬岱殿と趙雲殿の3隊はこのまま敵本陣へ!!」

 

「言われなくてもっ!!」

 

馬超がそう言いながら敵を弾き飛ばし一気に前進を開始した。

 

「オラオラどけどけ~!!馬超様のお通りだ~!!!私を止めれるものはいるか~」

 

馬超はそう言いながら凄まじいスピードで敵を吹っ飛ばしながら突進する。

 

「ここにいるぞ~!!あははは~」

 

と笑いながら馬超について行く馬岱。

 

まだあどけなさが残るが技量は確かなようであの馬超相手に遅れは取ることがない。

 

「北郷殿、私も先に行かせてもらいますぞ!」

 

「ああ、俺もすぐに行きます。趙雲殿もご武運を!」

 

趙雲も礼を言ったあと突破を試み、その後は思春が俺の背中にぴたりと付く。

 

「北郷、貴様に私の背中預けるぞ・・・!」

 

「ああ、思春。このまま・・・・ここで暴れるぞ!」

 

「フン、言われるまでもない・・・・・。いざ!!」

 

それから二人でのコンビネーションで敵を一人二人と葬り去る。

 

二人の動き・剣術は無駄がなくまるで舞踏会で男女の社交ダンスを優雅に踊っているかのようだ。

 

「ひぃ?!なんなんだこいつら?!」

 

敵に怯えが走り、動きが鈍くなるがその怯えが命取りであった。

 

思春と俺の後ろには黄巾党の一員であった『モノ」が数多く転がっている。

 

それに逃げようとしても黄忠隊の斉射により逃げることもかなわない。

 

俺は血しぶきを浴び体がいつものように血に染まる。それが相手に強烈な威圧感を与えたようだ。

 

「し、死神だ・・・・た、助けて・・・・・」

 

黄巾党たちは武器を捨て次々と投降していく。正面の敵は大方片付いた。あとは両翼の支援だと思春とは別れ別々に行動をする。

 

「北郷、私たちは右翼に挟撃に出る。貴様は左翼にいけ!」

 

「是非もないな、思春。甘寧隊は右翼に挟撃に行くぞ!我々は左翼の関羽隊を支援・挟撃!!」

 

俺は笛を吹くとその笛を聞いた隊の連中は一気に左翼へとなだれ込む。

 

その後両翼を北郷と甘寧隊で挟撃された黄巾党は完全に瓦解。本陣に突入した馬超・趙雲の隊が魁となり一気になだれ込み制圧をした。これにて黄巾党10万人との戦いは圧勝で幕を閉じた。

 

「なによ~私の出ることなく終わっちゃってさぁ~」

 

「まぁまぁ雪蓮さんいいじゃないですか勝ったんだし!」

 

「劉備殿の言うとおりです姉様。ただこの大軍相手の圧勝は流石にほかの諸侯も放ってはおけないでしょう」

 

出撃は今か今かと待っていた雪蓮の文句が飛び交うがそれを劉備は苦笑いをしてフォローを入れると妹の蓮華も彼女に同調する。

 

「そうねぇ、桃香としても名が売れてこれで諸侯の仲間入り。私も孫呉独立の足取りが確かに見えてきたと思うわ。この連合も機能してるようだし」

 

「もちろんです・・・・。というか姉様、いつの間に劉備殿と真名を・・・・」

 

蓮華が驚きながらも言うと雪蓮はニシシと笑って蓮華を見る。

 

「この前の宴会で仲良くなっちゃってねぇ。今じゃ良き友人よ」

 

「うん!雪蓮さんってホント気さくでいい人だってビックリしちゃいました」

 

「はぁ・・・・・姉様って・・・・・」

 

会談では姉の殺意の対象であった劉備と雪蓮が雨降れば地固まる、とはいえ姉の切り替えの速さには舌を巻く思いであった蓮華であった。

 

俺は連合軍での黄巾党大軍の圧勝劇に達成感を抱く。

 

これでこの地域が平和に暮らせる、そしてこの連合が冥琳の夢を叶える矛になるかもしれないと実感をし、その事実が北郷の心を明るく照らしてくれたのだった。

 

その後北郷の活躍は大陸を飛び交うこととなり、近接戦闘での圧倒的な技量で敵の血しぶきで自身を染めながらなぎ倒すその姿から、

 

「荊州の赤鬼」

 

と呼ばれ恐れられ、それが諸侯たちの耳に入ることになるのであった。

 

 

雪蓮はその後袁術に呼び出された。

 

どうせくだらない事であろうなという諦め半分呆れ半分の心境で袁術の待つ王座の間へとつく。

 

「うむうむ孫策よ、ワザワザ呼び立ててすまぬの」

 

「あら袁術ちゃん久しぶりね。元気そうでなにより」

 

雪蓮は作り笑いで袁術に挨拶を交わす。

 

「黄巾党の件ご苦労であった孫策よ!妾が褒めてつかわすぞ」

 

「孫策さんのおかげで朝廷での黄巾党での討伐の実績が評価されたんですよう」

 

「全てはこの妾の卓越した眼(まなこ)があったがゆえよ。ホッホッホッホ」

 

とりまきである張勲が嬉しそうに袁術とイエ~イ手を合わせ笑い合う。

 

雪蓮はこの連中はつくづく馬鹿でお気楽で楽しそうだなと毒づくがそれを表に出すことなく淡々と応える。

 

「そ、よかったわね。それでワザワザ私に自慢話を聞かせたくてここに呼んだワケ?こっちは戦後処理で忙しいんだけど」

 

無機質に二人に対し対応をするがこの様子では雪蓮たちの連合がバレているということは内容だと悟り内心ほくそ笑む。

 

「まぁまぁ怒らないでくださいよぉ、孫策さん。今回呼んだのは袁術様から新たな任務なんですから」

 

いちいちとしゃくに触る猫なで声で張勲は雪蓮に呼びかける。

 

「任務・・・・、なにかしら?」

 

「うむ、よくぞ聞いてくれた!今回麗羽姉様から通達が来ての、どうやら帝を操る董卓という諸悪の根源を消し去るため諸侯に呼びかけがかかっておるのじゃが・・・・」

 

「今回の袁紹さんの呼びかけに孫策さんに参加をお願いしようかなあと思いまして~」

 

「あらそう、で出陣はいつ?私たちも黄巾党のあとだから時間はおいて欲しいんだけど?」

 

「出兵の通達さえ事前に出していただけたら私たちとしては何もいうことはありません~。私たちも後から出陣はしますのでそちらの動きに合わせようと思っていますぅ」

 

張勲はヘラヘラと能天気な笑顔で雪蓮に出陣内容を説明する。

 

結局は孫策を利用して反董卓連合で名を挙げ、洛陽一番乗りをしたいという魂胆が透けて見えた。

 

(ふん、こちらに利用されているとも知らずに・・・・・相変わらず馬鹿な連中ね・・・・・)

 

心の中でそう呟くと笑顔で張勲の提案に乗ることにした。

 

「そう、なら私たちも準備が出来次第通達をするわ。それじゃよろしく~」

 

手をヒラヒラーと振りながら王座の間を出ると袁術は張勲に対て、してやったり!という顔を向ける。

 

「最近は孫策も逆らわなくなったようじゃ。妾も優秀な部下をもてて鼻が高いのぉ~七乃」

 

「はい~。美羽様の卓越な統治に手も足も出なくなったんじゃないですかぁ?よ!華麗なる統治者、血も涙もない独裁者!!」

 

「ホホホ~いや~照れるのぉ~。洛陽一番乗りの前祝い、ハチミツ水じゃ!七乃~!」

 

「はいはい~」

 

笑顔で袁術を褒めちぎる張勲であったが、この二人は雪蓮が腹で考えていることなど全くと言っていいほど考慮してはいなかったのだ。

 

それが後に大きな墓穴を掘るということなど彼女たちが思うはずもなかった。

 

「おかえり。その様子じゃまた無理難題言われたってところね」

 

雪蓮が城に帰るとすぐさま冥琳が迎え入れてくれた。その表情はいささか不満を表していた。

 

「ただいま。反董卓連合に参加しろってさ。まぁ私としても願ったり叶ったりよ、連合の関係深化が図れるしね。連合がバレてる様子もなかったしホント馬鹿よね」

 

「ああ、あの馬鹿どもは自分たちこそが類まれなる統治者であると信じ疑っていない。まったくその自信はどこから来るものか・・・・」

 

「何も考えてない空っぽだから馬鹿で自信家なのよ、冥琳」

 

「それもそうね・・・・。雪蓮、劉備には協定に従い通達は入れる。その後の動きは別行動とするか?」

 

「う~ん別に一緒でもいいんじゃない?遠征中に偶然一緒になった~とか言っておけばいいんだから」

 

「わかった。では早馬をだそう。出兵は早くても6ヶ月後だな。いまは態勢を整えなければならん」

 

「まぁあの戦のあとだからね時期は急がなくても全然大丈夫よ。兵も疲弊してるし、負傷兵も当然いるここは急ぐべきではないわ。『すぐ』に行かないとは連中にも言ってあるし、連中がしびれを切らしたら行くとしましょう」

 

「了解した」

 

 

その後軍備の増強が図られてはいくが、それと同時に違う動きも冥琳は始めていた。

 

文官たちを中心に学者・知識人を招集し法の統治と地方分権国家の創設を目標に諮問機関を開き広く意見を聞くという。

 

冥琳はどうやら本気で民主・文民主義での統治を考えているようであった。

 

法の支配も国家が国民を規制するという概念を放棄し、国家の暴走ができないようあらかじめ拘束力の強い法を人民が作り・暴走を食い止めるにはどうするのかという方針で諮問機関を作っていたことからもその姿勢は揺るぎないものだということが伺えた。

 

学者側も思い切った選抜をした。

 

漢王朝の御用学者である通称古典派の学者たちも、もちろん招集はしたがあえて王朝と反対意見を持つ学者を多く集め意見を聞きたいという考えもあり、多様性を持った意見を聞きたいようであった。

 

これを粋に感じたのか、少数派の学者・賢人たちも陽の光を浴びれる喜びからか熱が入った。

 

冥琳はこの諮問機関でまとめた意見書を再度検討し、建業をはじめとした庶民との対話や連合の諸葛亮などとも再度この意見書をぶつけた。彼女は議論を活発化させたいという狙いがあるようだった。

 

この連邦・地方分権国家樹立の考えは後に周瑜派と呼ばれ孫呉でこの思想が広く広がることになる。

 

国内の庶民の議論は国民の政治参加には国民の議論も大いに重要であると冥琳は考えたからだ。

 

劉備も諸葛亮も冥琳が考える権力抑制の原理には強い関心を示したようで、連合内でも連合の法の支配による抑制を検討するなど政治的な結びつきがより一層と強くなった。

 

劉備と孫策の連合はもはや軍事同盟で説明できるような同盟関係で説明できるようなものではなくなり、二国間の広域的な国家連合・連邦国家としての第一歩を踏み出したのである。

 

ただ王の権力の制限という聖域に踏み込む周瑜派の考えに雪蓮も胸中複雑であり、最初は反対意見を出すが冥琳が説得をするという構図が出来上がった。

 

「孫家のこれまでの働きをなかったものにし国家を運営することには孫堅の娘として、王として私は許されることではない」

 

と雪蓮は反対意見を出すが冥琳もこれに負けじと反対意見を出し、議論が白熱することになる。

 

ただ雪蓮としてもこの議論自体は悪いことではないという事は承知しているようであくまで孫家の人間としての立ち位置から意見を言っているようである。

 

あくまで穏健に、そこに弾圧するという選択肢を取るつもりはないようだ。

 

「孫家の功績をなかったものにするつもりはない。ただ今はお前や蓮華様が十分な統治をしていてもその後の人間が欲に溺れずその権力を適正に行使できるのかが問題なのだ。漢王朝や先代の王朝国家もそれができていたとは思えない」

 

と政務報告会で冥琳が議論を行うが出席していた蓮華は冥琳に対しキツイ口調で糾弾する。

 

「私は冥琳の意見には断固反対よ!これでは私たちが行ったこと全てが無に帰してしまう。それでは散っていった孫呉の兵に申し訳が立たないではないか!」

 

と雪蓮の妹である蓮華はこの冥琳の動きには強い反対を表明し、周瑜派を弾圧するべきだという強硬な姿勢も見せる。

 

周瑜派と強硬な反対派の先鋒となった孫権派と中立派の孫策派とで意見が分かれたがそれも最初だけであった。

 

蓮華は彼女特有のその器の大きさからか、討論会に参加をし意見を聴き、自身の思想を議論・主張をし理解を深めた。

 

さらに勉強会に積極的に出席をしたりなど周瑜派の考えに触れるにしたがい、最初彼女が考えていた孫家に対する権力奪取を目的とする孫家打倒の危険思想ではないということが分かりその強硬な姿勢は次第に軟化していった。

 

保守的な思想であった孫権派は議論発展を強く望むという孫権の意見を受け、弾圧はせず平和的な議論で終始するようになっていった。

 

中立派の雪蓮も冥琳の考えが大いに理解できるゆえに城内で改革派をよく思っていない人間を少し慮ることもあったようで反対したようだ。

 

蓮華も姉のそういった政治的な姿勢には理解を示し、また冥琳の覚悟も察してか孫家の名誉の保証を条件に賛成へと転じた。

 

袁術に今は軟禁されている末っ子の孫尚香としてもまだ幼い立場ではあるが自ら冥琳が赴き意見を聴取し理解を得られた。

 

行政府も孫家のゴーサインで孫家の王家解体はしない形での法治国家を目指し模索をし始めていくことになった。

 

孫呉のそういった動きとは別に袁紹からも反董卓連合参加の手紙が来る。どうやらしびれを切らしての手紙のようであった。

 

 

それを受け雪蓮たちは建業を発ち、反董卓連合に参加するべく進軍を開始するのであるが、その前に俺は冥琳から呼び出しを受けた。

 

「え?昇進ですか・・・・?」

 

「そうだ。これからはお前は軍令部に入ってもらう。すなわち孫策の直轄の親衛隊というわけだよ」

 

俺は冥琳から呼び出されると辞令をスッと出され昇進を告げられた。

 

「俺がですか?」

 

「これ以上の適任者はいないという判断だ。今の北郷隊を親衛隊として運用するように。北郷、雪蓮の手綱お前に任せるぞ」

 

「・・・・・分かりました」

 

それからは雪蓮の直轄部隊ということで軍が編成がなされ、北郷隊はその中心を担う形となった。

 

「一刀!昇進おめでとう!」

 

雪蓮が俺の執務室に入ると笑顔でそう言い、はいお酒!と差し出してくる。

 

「うん、どうやら俺は君の部下になるらしい・・・・。北郷隊の連中も幾分緊張している。身が引き締まる思いだよ・・・」

 

執務中に酒を持ってくる彼女にはもう何も言わず黙って酒を飲むと緊張した面持ちで彼女に話す。

 

「大丈夫よ、上司は責任を取るためにいるもの。私が後ろにいるのだから好きにやりなさい♪しっかしすごい速さで昇進したわね~」

 

「そう言われると気が楽になる。ありがとう雪蓮。ただ俺もこの速さでの昇進は驚きだよ。まさかここまでなんて・・・・」

 

「あなたの働きが評価されてのことよ、少しは素直に受け止めなさいな。ただこれからは反董卓連合での出兵。孫呉の独立の歩みがいよいよ始まるのね」

 

ギラギラとした目で野心を語る彼女に俺は少し微笑むと酒をぐいっと飲む。

 

「しかし言ってみるものね~」

 

「え?」

 

「一刀をそば置きたいから~って冥琳に駄々こねちゃった」

 

「・・・・・はぁ・・・・雪蓮、君は・・・・。ただ有難う、俺は今までどおり君と戦える事を嬉しく思う」

 

「うん、一刀。これからもよろしくね」

 

駄々をこねて濫用はどうかとは思いため息はついたが、悪い気はしない。まぁ惚れた弱みというわけだ。

 

決意を秘めた雪蓮とがっちり握手をする。その力強さに孫呉の血脈を俺は確かに感じ取ったのであった。

 

それから俺たちは反董卓連合に参加し巳水関が見えるところに居を構える反董卓連合に合流し全員が揃ったということで、その後総大将の袁紹の作戦の通達が行われた。

 

「みなさ~ん、袁家の軍であるのなら華麗に雄々しく、そして高らかに突撃!これにつきますわ~」

 

オーホッホッホッホ~とお嬢様特有の笑い声を高らかに上げるとそれに乗じてドリルのような金髪の巻き髪がユサユサ揺れる。

 

「あれが・・・袁紹?」

 

史実では名門であり優れた統治者でもあった袁紹がまさかこんな高飛車なお嬢様だというギャップに俺は苦しむ。

 

「・・・・・そうだ・・・・・、これが袁紹だ。周りを見回してみろ、皆がお前と同じ顔をしているよ」

 

ため息をついて冥琳は頭をかかえる。周りを見回してもヒクついた笑顔を浮かべる人間しかおらず、同調しているのは袁紹と袁術の連中だけであった。

 

それから中身のない連合の話を延々と聞かされ、祭と雪蓮がなぜ俺に行かせたのかを今更ながら痛感する。

 

「まぁ中身がないというのなら、我々は独自に行動ができるということ。劉備が袁紹の圧力をもらい先鋒に立たされたが我々もそれを支援するぞ」

 

冥琳が帰ったあと直ぐ様軍議を開き、劉備軍を支援すべしと主張する。

 

「桃香はあおりをくらったというわけね、同情するわ。まずは情報を整理しましょう。穏、敵の勢力は」

 

桃香への同情からか少し苦笑いを浮かべた雪蓮ではあったが陸遜に指示を出す。

 

「はい~敵は巳水関で籠城を構えており、数は8~9万とかなりの数ですぅ」

 

陸遜が笑顔でそう言うと今度は呂蒙が補足の説明を加える。

 

「さらに巳水関は左右に巨大な渓谷が挟まれており左右の攻撃は困難を極めます。黄巾党討伐の際で行ったような両翼からの潜入と挟撃は厳しいと思われます」

 

「まさに難攻不落の巨大要塞・・・・。さらに敵の数も圧倒的とは・・・・・」

 

祭が唸るように言うと冥琳は俺に質問を投げかける。

 

「北郷、お前はどう思う?」

 

「呂蒙さんの言うとおり今度は挟撃はできません。もちろん正攻法で攻城戦を仕掛ける手もありますが、今回は巳水関だけではなく連戦である今後のことを考え、損害が大きくなる大きな消耗は避けなければなりません。そうである以上敵を前に引きずり出すしかないだろうと思われます。敵将は誰か・・・・」

 

「確か敵陣営は華雄と張遼だと聞いておる。武に関しては侮れんな」

 

祭は俺にそう言うと雪蓮が急に口を開く。

 

「華雄・・・・・・私の母様に負けたあの華雄?」

 

「そうじゃ・・・・、あの時は華雄の部下が暴走をし、孫堅様はそれに乗じ攻め込んでの勝利ではあったが・・・・」

 

祭は事のいきさつを説明するがそれに対し冥琳も頷く。

 

「ただ華雄も孫堅様の敗戦を繰り返すほど無能ではあるまい。ただ華雄はその古傷を刺激してやる。という手はある」

 

「孫堅様の娘である雪蓮様が華雄を挑発するというというのはどうでしょうか~」

 

陸遜が提案をする。

 

華雄は武に優れた人間である以上自分の沽券にも関わる武の否定を行えば必ずしっぽを出してくる。

 

そう考えてのことだった。

 

「穏の意見に賛成ね。私が前に出てやつを挑発する。なかなか面白そうじゃないの・・・」

 

「本来はお前を危険にさらす事から却下したいところだが、北郷がいる。罵詈雑言浴びせるなり好きにするがいいさ」

 

冥琳は不敵に笑う雪蓮をみてウンザリした顔を見せるが、彼女は俺を見てみんなに気づかれないような僅かな笑みを見せた。

 

俺も彼女にわかるよう僅かに頷く。

 

「策殿が前に出るのは儂も思うところはある。じゃが相手は難攻不落の要塞相手では正攻法では通用はしまいて。穏の策に乗ったぞ」

 

祭も面白いという顔で冥琳に賛成を告げる。

 

それを見て陸遜軍師一行は苦笑いを浮かべるが冥琳ハァ・・・とため息を出す。

 

「私も穏様の策には賛成です。武官というのは常に自分の技量に誇りを持ち、それが自分であらんとする心理があります。ゆえにそこにつけ込む余地はあると思います。劉備軍を待機させておき、雪蓮様が前にでて単独出てきたと思わせれば雪蓮様のよる独断行動だと思わせられ相手も挑発に耳を傾けるかもしれません」

 

呂蒙も賛成の意見を唱えると冥琳は分かったと言うと腰を上げた。

 

 

「では劉備軍に通達だ。亞莎、袁術に劉備の支援に向かうと伝えろ。無断での行動は奴も不審がるだろうからな」

 

「御意」

 

呂蒙は力強く敬礼をすると天幕を出ていく。

 

「穏は兵を選抜し建業の民たちに官報を出せ。連戦連勝、孫呉の復活近し。とな」

 

「分かりましたぁ~」

 

陸遜は笑顔で頷くとそそくさと天幕に出て行ったが・・・ガタンという音と共にイターイという声を聞く。

 

秀才である陸遜ではあるがどこかぬけているらしく、ドジっ子であるのはよく知られている。

 

そのドジっ娘具合が兵たちに有名で彼女のドジを見守る会なんて意味のわからない組織が裏であるのは公然の秘密である。

 

「北郷、雪蓮を頼んだわよ。祭殿は私と軍の編成を」

 

「おうとも、これから腕がなるの!」

 

嬉しそうに天幕に出る祭を追う形で冥琳はそう短く言うと天幕を出て行ってしまった。

 

それを見て雪蓮はキョトンとした顔で俺を見る。

 

「冥琳って少し変わったわね」

 

「そうかな?」

 

「そうよ、だって前はもっとネチネチしてたもん」

 

あんまりな言い分だがそれを聞いたら冥琳は君に何十倍の仕事の案件を持ってくるだろうにと思う。

 

「冥琳は変わらないさ。今もこれからもずっとね」

 

「ふ~ん一刀ってば冥琳のこと詳しいじゃないの?」

 

「そうだな・・・・、共に同じ道を歩む盟友・・・だからかな?」

 

「そう・・・」

 

「詳しくは聞かないんだな?」

 

「冥琳は意外と他人に心を許す性格じゃないのは貴女も知っているでしょ?彼女が貴方を信頼したというのは冥琳の友人としても・・・・嬉しいことだもの」

 

「そうか・・・・もし君から冥琳を取っても怒らないでくれよ」

 

「ばか・・・冗談きついわ」

 

「ごめんごめん。冥琳も俺からしたらかけがいのない友人のは確かだけど、・・・君とは違うからね。意地悪を言ったことは謝るよ」

 

「・・・・・・・・・・・ばか」

 

雪蓮は小さくそう言うとプイッと顔をそっぽにむく。

 

顔は見えないが、相変わらず耳は真っ赤だ。ただそれを指摘すると彼女は拗ねてしまうので言うのはやめておこう。

 

ただ冥琳は確かに少し変わったようには思える。

 

以前は張り詰めていた緊張感が前面に出てはいたが、今は穏やかに流れる川のように整然とそして冷静になった。

 

俺が軍令部に行き来するようになり、雪蓮と行動をするようになってから余裕が出てきたということか。

 

確かに豪傑な雪蓮を常にコントロールしながらも2手、3手先を考え部下たちに指示を送る冥琳の姿を見ている俺からしたらそれはかなりの心労であるのは想像は出来た。

 

江東の大都督と謳われる英雄でも冥琳は生身の人間でもあり疲れもするだろう。

彼女の負担の軽減になれているのかもと思えるとそれは嬉しいことでもあった。

 

その後はつつがなく自体が進み、劉備軍も今回の支援は感謝の意を送ってきた。

 

相手が10万近い数では孔明たちの英知でも打開は厳しいであろうからだ。

 

雪蓮は先陣に立つと南海覇王を片手にフフンと得意げに巳水関を見る。

これから始まる戦に心を躍らせている。そう俺には見えた。

 

「雪蓮、敵が出てくるまでは俺たちは動けない。うまくやってくれよ」

 

「ええ、久々に前に出るんだもの。好きにやらせてもらうわ」

 

雪蓮そう言うと馬に跨り凄まじいスピードで巳水関に向かっていった。

 

 

「聞け華雄よ!今貴様の前に立っている我こそが貴様が敗れた孫堅の娘、孫策であるぞ!!貴様が再び我らの前に立ちはだかること有難し!なぜなら我が母に敗れた無能な貴様の頭を取ることなど稲を刈るかの如く容易いことだからだ!!」

 

巳水関はただ静かに彼女の前に立ちはだかったままであるが動揺が走っていることは雪蓮には分かった。

 

「どうした華雄!!!反論はないのか!!!それとも私に首を取られることが、貴様の無能さが世に知れ渡るのがそんなに怖いのか!!!はっ!!残念だな、せっかく貴様の無能という汚名を返上させてやろうとこの私がわざわざ出向いてやったというのに!我が母、孫堅のことがよほど怖かったと見る!!そのまま無能という汚名をかぶり負け犬らしく立てこもっているがいい!!ではさらばだ!!負け犬華雄殿!!」

 

雪蓮は捲し立てると巳水関にある華雄の我們旗がブワーとざわめく、もはや張遼で抑えるのは無理ということか。

 

雪蓮は策に乗ったとニヤリと笑うと再度声を張り上げる。

 

「私は逃げも隠れもしない!!悔しければ私のところまで降りてくるが良い!!」

 

と再度挑発するし指定の位置まで雪蓮は一度下がる。それを追うようにもう我慢できないという雰囲気で敵がウワァーと出てくる。

 

突撃を繰り返す華雄軍に対し呉軍は落とし穴で敵を陥れる。

 

敵は罠に掛かり混乱すると同時に弓の矢が降り注ぎ自分たちは策にはまったのだと今更ながら痛感する。

 

「工兵にはそのまま防御壁を展開させ、敵の動きを止めるように伝えろ!!華雄軍の動きを封じるんだ!!」

 

工兵が第1次、第2時とバリケードを事前に築いていたので敵は前に進めない。前線が詰まると同時に落とし穴が作動し敵を遅い凄まじい数の敵が穴に落ちていく。

 

「よし!このまま粉末投入!」

 

俺の合図とともに小麦の粉末を一気に落とし穴にばらまく、粉末だらけになった華雄軍は敵の思わぬ攻撃に困惑をする。

 

「北郷隊長、粉末投入完了です!!」

 

「火矢を使え!総員一時退却!」

 

総員退却の笛を吹くとバリケードから一斉に呉兵が安全地帯に下がっていく。

弓兵が遠距離から火矢が次々と落とし穴に入ると強烈な火柱と爆炎が次々と上がっていく。

体に付着した小麦粉と空気に浮遊する微粒子の粉末が火と反応を起こし爆炎を起こしたのだ。

 

敵の叫び声と阿鼻叫喚が戦場を支配した。

 

粉塵爆破により敵の前線の兵士が吹き飛ばされ崩壊し、火矢のあとは大量の弓が降り注ぎ敵は混乱を極める。

 

「弓が尽きたものから順次突撃!!敵は慄いているぞ!槍兵と機動隊を前面に押し出して前線を押し上げるんだ!!このまま押しきれ!!」

 

俺は兵士に激を飛ばすと兵士たちは順次吶喊していく。

 

俺はその後雪蓮を探すが見つからない。この混戦具合だ。なかなか見つけるのは困難を極める。

 

「北郷隊長の言うとおりだ!!援軍が後にくる!!今の爆破で前線は崩れた!北郷隊で前線を押し上げるぞ!!我ら親衛隊が一番乗りだ!!」

 

副官が俺に続いて兵士に激を飛ばすと同時に突撃を開始。俺も敵をすれ違いざまに斬る、投げ飛ばす、そして斬る。

 

ある者は首をはね飛ばされ、ある者は攻撃を躱されたと同時に腕を捩じ上げられ骨を砕かれる。そしてある者は玩具のようにフワリと投げ飛ばされ剣が突き刺さる。

 

「け・・・・荊州の赤鬼だ・・・・。赤鬼が来たぞ~!!」

 

「退却・・・・退却だ!!」

 

敵は血で染まる俺の姿を見て恐れおののき、撤退していった。

荊州の赤鬼と異名が知れ渡っている事から敵も退却を始めるも、援軍の追撃を喰らう。

 

華雄はそのまま損害を増やし撤退・敗走をしていった。

 

「劉備軍も張遼軍を撤退に追い込んでいます。ここは援軍に任せましょう!北郷隊長・・・やりましたね!!」

 

「ああ、だが孫策様の安否がまだわからないままだ。各自捜索にあたれ、救護兵を待機させろ!」

 

捜索の指示を出し俺も雪蓮を探す。彼女の最後の強気な笑顔がよぎると同時に背中に悪寒が走る。

 

「雪蓮がやられるとは・・・・・そんなことはないはずだが・・・・」

 

しかしこれだけ広大な戦場で混乱を極めている一人の人間を探し出すのは厳しい。

 

ただ雪蓮を頼むと託された自分ではあるが今こうして雪蓮を見失ってしまっている自分を強く戒めた。

 

そして北郷の焦りが次第に大きくなっていくが・・・・。

 

「あっ!一刀だ!お~いこっちこっち!!」

 

雪蓮の声が聞こえ振り向くとそこに雪蓮がいた。俺は彼女の安否が分かり安堵して胸をなでおろす。

 

「孫策様・・・・・ご無事ですか?!申し訳ありませんでした孫策様を見失い護衛ができませんでした・・・・」

 

「私はこのとおりピンピンしてるわよ。でも華雄のやつを逃しちゃったわ。あ~あ残念ねぇ」

 

彼女が持つ南海覇王は血に染まりその雫がポタポタと地面を赤く滴らせていることからも幾多の敵を葬ったのだろう。彼女も興奮しているようで異様な雰囲気をだす。

 

「・・・・・・・・無事で何よりです・・・・」

 

「心配してくれた?」

 

「・・・・・心配したさ・・・・・。もう会えないのかと思った・・・・・」

 

俺はそう絞り出すように言うと雪蓮は頭をポリポリかき、ごめんねと優しい笑顔で俺を見る。

 

「いいんだ、無事でなによりだしね。さぁ雪蓮一度こちらも一度撤退しよう。巳水関は開通した。作戦は成功だ」

 

「ええ、そうね。後は高みの見物といきましょうか。あぁ~あでも消化不良ねぇ・・・・張りあいがない連中ばっかでこれじゃあねぇ・・・。孫呉の兵たちよ!!この戦い我々の勝利だ!!!巳水関一番乗りを果たした貴殿たちの働きに私も大いに満足している!この戦いの勝利、我が母孫堅も大いに満足しているであろう!我らが一番乗り!胸を張って関を通ろうではないか!!!」

 

「「ぉぉぉぉおおおおおおおおお」」

 

彼女は終戦と勝利を兵士に呼びかけ兵士の働きに感謝の意を述べる。

 

兵士たちも王からの激励と先陣をきって共に戦った彼女の勇姿に兵士は喜びの雄叫びを上げるとともに士気が多いに上がった。

 

その後孫策は撤退の指示を出すべく再度声を張り上げるのであった。

 

 

劉備軍も張遼を撤退させることに成功し、巳水関を突破することに成功した。

 

今現在、俺たちは後方に待機という形で次の攻略戦は下がることになっている。

 

というのも一番乗りを果たした劉備・孫策が連合に参加した諸侯たちには華々しく写ったようで、総大将の袁紹が快く思わなかったようだ。

 

そこで袁術が進言をし、袁紹と曹操とで次の関の攻略戦を行うことになった。

 

袁紹のプライドが高く、自分にスポットライトが当たらないことに腹ただしく感じていることを承知しての袁術の進言であった。

 

袁術は袁紹を操り、自分は高みの見物を決め込むつもりだ。

 

冥琳も雪蓮も袁術がなんの損害もなくこのまま洛陽に入ることを良しとは考えてはいなかった。

 

孫呉の独立を考えたとき袁術の巨大な戦力を削ぎたいという狙いがあったからだ。

 

「このままでは面白くはないな・・・・」

 

冥琳が難しい顔で呟くと雪蓮も頷く。

 

「そうね、袁術は高みの見物を決め込むんじゃ私たちのやられ損ということ。今後のことを考えたら宜しくはないわよね~」

 

「セコイことを考える時だけは頭が回る。まったく小賢しい餓鬼だよ」

 

冥琳は苦虫を噛み潰したような顔で袁術をなじる。

確かに今までのことを考えたら悪知恵だけはうまく働くようではあったが・・・。

 

「ただ次の虎牢関は撤退した華雄と張遼、さらに飛将軍と言われる呂布もいる。突破は困難を極めそうじゃな」

 

祭が眉間にしわを寄せて言うと軍師たちも頭を悩ませた。

神速の張遼・そして圧倒的な武力を誇る飛将軍こと呂布、さらに軍師に賈駆もいるとなると今度は一枚岩ではない。

 

「穏お前はどう考える?」

 

冥琳が陸遜に聞く。

 

「そうですね~、敵が表舞台に出てこないのなら表舞台に上げてしまえばいいと思います~」

 

「というと?」

 

「はい~というのも何もしない。これにつきます~」

 

「それではこちらもやられ損ではないか」

 

祭がそう声を上げるが穏は笑顔を崩さず説明を続ける。

 

「祭様の言うことは正しいですね~。ただ我々反董卓連合は一筋縄ではいかない諸侯の思惑が渦巻く魑魅魍魎と化しています~。それを利用するということです~」

 

「つまりは皆が苦戦をしているのに手も貸さず、高みの見物を決め込む袁術を批判し、表舞台に引きずりだすと・・・そういうこと?」

 

雪蓮が補足をすると陸遜はそうなのです~と頷いた。

 

「確かにその一手は使えるな。連合で袁術を快く思っていない者は少なくはない。曹操も袁紹の存在は目の上のたんこぶだからな。袁紹の疲弊ができるという利益享受があると考えると我々とは利害が一致している。奴にもこの話乗ってもらうことにしよう」

 

「そうねぇ・・・・なら曹操とは私が話をつけてくるわ」

 

「だめよ。曹操がどんな者かが判別できない以上お前を行かせることはできない」

 

冥琳は雪蓮に難色を示す。

 

「大丈夫よ!一刀も同行させるし、それに孫呉の長である私が出向かなきゃ向こうも話に乗っては来ないでしょう?」

 

「そうだが・・・・・・・・・・・・・」

 

「冥琳、心配しなくても大丈夫さ。雪蓮も俺も・・・・迂闊な事はしない。連合内での狼藉は曹操もやるほど馬鹿ではないはずさ」

 

「冥琳よ、ここは策殿と北郷に任せてみるのも一考よ。北郷が策殿と同様に後れを取らないのはお主はよく知っておるはずじゃ」

 

「ふむ・・・・・・荊州の赤鬼も来れば・・・・ということか。・・・・では北郷、雪蓮を戦の疲れもあり申し訳ないが任せたぞ。穏、亞莎、軍をこのまま警戒態勢で待機させろ。もしものことがあれば曹操を攻撃できるようにな」

 

「はいなのです~」

 

「はい!」

 

冥琳は祭の説得に応じ、指示を出すと天幕を出ていく。

 

「ふむ、やはりあやつ変わったの」

 

祭がそう呟くと俺も雪蓮がそう言っていたのを思い出し、聞いてみる。

 

「祭さんもそう言うのかい?」

 

「ん?まぁの、あやつは他人をどこかで信じきっていない一面があったからな。それを他人に完全に任せるとは・・・・」

 

祭が少し驚きをしながらも去っていく冥琳を見ている。

 

「しかし冥琳が言っていた荊州の・・・・ってなに?」

 

「お主のことよ。お主の体が真っ赤に染まることからそう名付けられたんだと。・・・なんじゃお前この連合でも有名だというに」

 

今更何を言っているという感じで呆れ顔で説明する。

 

この連合で合流後自分の浴びる視線が奇妙であったのはそういうことだったのかと知った。

 

「知らなかった・・・・」

 

「江東の小覇王と赤鬼か、確かに役不足はないだろうて。北郷よ、曹操がどのような人物かしっかり見極めてくるのじゃ」

 

 

それから直ぐに曹操のいる陣へ雪蓮と二人で赴く。彼女がいるであろう天幕の前には二人の女性がふさがるように立っている。

 

「貴様!見かけぬ奴だな。華琳様に何のようだ!」

 

長い黒髪をオールバックにまとめる端正な女性がすごい剣幕で声をあげる。

 

「私は孫呉の王である孫策である。曹孟徳の家臣ごときがこの私を検問とはいい身分だな」

 

雪蓮はドスが効いた低い声で女を睨みつける。

 

「なんだと・・・・?!」

 

女もいきなりの殺気に尋常ではないと察知したのか剣を抜き立ちふさがるが俺も彼女を守るべく剣に手をかけ臨戦態勢に入る。

 

「どけ下郎、貴様のような愚図と話に来たのではない。私は曹孟徳に話をしに来たのだ。家臣である貴様はさっさと主に取り次げばいいだけのこと」

 

「貴様・・・・言わせておけば・・・・」

 

雪蓮はドスが効いた低い声で女を睨みつけるが女性も怒りからかジリッと前に出てくる。

 

余計な口出し無用だと雪蓮は南海覇王をチラつかせ二人に殺気を立たせる。

 

「姉上、こやつは呉の孫策だ。通すのがどおりであるだろう」

 

「秋蘭・・・・」

 

青髪の片目が隠れた独特な髪型をした女性が黒髪の女性を抑える。

 

「ふん・・・・」

 

雪蓮はさっさとしろとでも言いたげに不満げに息を鳴らす。

 

完全に二人の女性を見下した目線で見つめる。ナメられないようにということだろう。

 

 

天幕に入ると一人のゴスロリみたいな服装を来た小さな金髪女性と猫耳のフードをかぶったこれまた女性が一人。

 

「貴方が孫策ね。二人の無礼は私を守らんとする故の言動。どうか許してほしいものね」

 

「躾がなってないようね。とんだ茶番劇をどうもありがとう」

 

辛辣な皮肉を雪蓮は曹操に浴びせる。

 

曹操は顔色一つ変えず受け流す。となりの女性は猫みたいにフーフー威嚇していたが。

 

「そうね、あとでお仕置きが必要ね」

 

雪蓮は僅かに目を細める。

 

どうやら挑発を受け流した事を感心しているんだろう。

 

こっちのペースに持っていこうと雪蓮は芝居をうったが効果はなかったということだ。

 

「で・・・・江東の小覇王と呼ばれる貴女がどんな用かしら?」

 

「・・・・この連合での細工に付き合ってもらいたいというでこちらに来た・・・。という事かしら」

 

「・・・・それはどういうことかしら?」

 

「袁紹を舞台で踊らしているその奏者を表舞台に上げたい。と言ったら分かるかしら?」

 

「・・・・・・・なるほどね」

 

曹操は納得の表情をし考えるが隣の女が曹操に声をあげる。

 

「いけません華琳様、孫策は私たちを利用するつもりです。私たちに利点がないのにどうして聞き入れることができましょうか?」

 

「貴様・・・・王同士の話に口を挟むか。不敬な!その態度死に値するぞ」

 

猫耳の女を雪蓮は虎の目で睨みつける。俺も猫耳女に向け殺気を投げかける。

 

「桂花黙っていなさい」

 

「しかし・・・・・・・」

 

猫耳女はシュンとして後ろに下がる。その表情は俺と雪蓮に殺気を向けられたからか幾分青ざめている。

 

「確かにこの連合で美味しいところを持っていこうとする人間がいるのは確か。貴女の言うこと一理あるわね。いいでしょう、貴女に協力しましょう」

 

「ふん・・・・随分と物分りがいいものだな曹操よ」

 

雪蓮が言うと曹操は恐ろしい笑みをこちらに向ける。その笑みは今まで見たこともない歪んだ、壊れた笑みであった。

 

「私は今後私の覇道に貴女が立ちふさがると考えている。そうであるのなら万全な状態で貴女を叩きのめす。逆らう気力もわかないほどに。そうである以上貴女には万全の状態になってもらわないと私も困るのよ・・・」

 

「・・・・・なんだと?」

 

雪蓮が思わずそう問いただす。その顔は動揺の色が浮かんで見えた。

 

「それはそうとして・・・面白いモノを連れてきているのね。孫策」

 

曹操が歪んだ笑みで俺を見つめる。

 

俺もこの女性に対する禍々しいオーラに思わず気圧されてしまう。これが覇王と言われる曹孟徳ということか。

 

「ええ、私の背中を預けられる人物よ」

 

そうキッパリと雪蓮は答える。

 

「そう残念ね。貴女、私好みだから手篭めにしようと思っていたのに。なんなら今夜、一緒に閨でどうかしら?」

 

「な?!」

 

俺はギョッと曹操を見る。雪蓮は目を見開いたあと大声で笑い出す。

 

「アーハッハッハ面白いこと言うのね・・・・。アンタみたいなチンチクリンな『餓鬼』な体したお嬢様に私が手篭めになるわけないじゃない。私は胸の大きい『大人』の女性が好きなのよ。そういうマセた発言は私みたいな大人な体になってから言いなさいな、お嬢さん?」

 

曹操から信じられない発言があったが雪蓮はフフンと余裕の笑みを浮かべ受け流すと、ホーレホーレと豊満な胸を揺らす。

 

「なんですって・・・?」

 

曹操は少し動揺の色を浮かべ、少し眉間にしわを寄せた。余裕の表情が崩れ彼女の怒りの表情を見た気がした。

 

(雪蓮に言われると確かに傷つくのかも・・・・)

 

確かに呉は冥琳や祭や陸遜や雪蓮と成熟した豊満な美女ばかりであったが、その言い方は少しあんまりだと俺も思い内心苦笑する。

 

というか雪蓮、女性イケるのか・・・・。

 

男性である自分が対象外だと言われたような気がしてこっちもヘコむ。

 

「話はついたわね。じゃよろしく~お嬢様」

 

雪蓮は笑いながら去っていくが曹操は顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけていた。

 

 

魏の陣営から戻り天幕で事のいきさつを説明すると冥琳はため息をつくが祭は大声で笑い倒していた。

 

「チンチクリンか!確かに儂らと比べるとちょっと色々足りないところがあるからのう!!ハッハっハっハッハ」

 

祭も大きな乳房を揺らしながら大声で笑う。ここまで笑われたら曹操も少し可哀想な気もするが・・・・。

 

「でしょ~?あんな餓鬼相手じゃあたしを満足させるなんて100年早いっての。ねぇ?!冥琳」

 

「はぁ・・・・・もう何も言わないわ。ただ曹操も抜け目のないやつだ。私たちと戦いたいからあえて協力するとは・・・」

 

「うん、あの笑顔は恐ろしい。彼女は本気で俺たちを叩き潰したいからだろう、強い者のみが生き残る曹操が目指す覇道は・・・俺にはそう見えた」

 

「それだけ我々を評価しているということだろう。ただ曹操の覇道主義か・・・・我々とは相容れないということか」

 

俺がそう言うと冥琳は顎に手を当て唸る。

 

彼女の目指す世界。

 

それは強い奴を叩き潰し、強い人間が統治をする。

 

競争による弱肉強食の厳しい淘汰に選ばれたエリートによる世界。

 

それが曹操のいう覇道ということだ。

 

この考えは国民国家を目標とする呉とは正反対をいく思想であった。

 

そして曹操自身もその淘汰の世界を喜んで享受し、そしてその世界にいることに快楽を感じているようにさえ思えた。

 

俺は彼女の歪んだ笑みを思い出しそう思わざるを得なかったのだ。

 

「曹操は今後は警戒をしていったほうがいいかもしれん。こちらの提案に乗ったのも敵対する袁紹を弱体化できるという狙いもあるだろうからな。ここは奴に貸しを作るのはマズイだろう。雪蓮、曹操には洛陽の一番乗りの名誉は譲る必要があるな」

 

「う~ん、まぁいいんじゃない?穏たちで工作して袁術の支配下で私たちの評判が上がってくると考えたら、それだけでこの連合での目標は達したと考えてもいいわ。洛陽の一番乗りの名誉なんてどうでもいいことよ。くれてやりなさいな」

 

あっさりと雪蓮は引き下がるが俺もその考えには賛成ではあった。

 

この戦いで諸侯にインパクトは残せた。

孫呉の存在感を大陸中に示せたことを考えたら十分ということなのだろう。

 

二兎追うものは一兎も得ずということか。深入りは危険だという判断だろう。

 

「よし、ではそのようにいく。曹操に、そして劉備にも通達を出すとしよう」

 

その後曹操は袁紹と連合を表面上は組むが前面に出ることはせず膠着状態を演出させた。

 

連合での膠着状態が続くに比例して袁紹がシビレを切らし、袁術に噛み付くシーンも増えていく。

 

「美羽さん・・・?総大将の私がこれだけ体をはって前面に出ていますのに、貴女は見ているだけですのね!」

 

「な・・・・?!なにを言われるのじゃ、麗羽姉様に功績を譲りたいという従姉妹の気遣いゆえに妾は・・・」

 

連合内での軍議でついに袁術に袁紹が非難する。

袁術もマズイ!という表情を作り反論をするが、各諸侯はざわつき袁術の高みの見物をヨシとしない空気が生まれる。

 

「ぐぬぬぬ・・・劉備さんはもう一度いけないのですか?!」

 

「私もこの前の戦いで大分やられちゃったからなぁ・・・・。兵の補充はもう少し待って欲しいですね」

 

劉備は事前に説明をしていたのでこちらに合わせ適当に理由を上げて断る。

 

また劉備に応じて曹操が横槍を入れる。

 

「この虎牢関攻略戦で麗羽と私とで犠牲を出しながらこの攻略戦を行っているのに袁術殿は高みの見物を決め込むのはねぇ・・・・どう思われるか?周瑜殿」

 

曹操はニヤリと笑って周瑜に問いかける。

 

連合内では曹操の意見に耳を傾け賛同する動きが大半を占めていた。曹操は諸侯の目を袁術に向けさせ外堀を埋めたのだ。

 

「曹操殿の言うことも一理あるな。我々孫呉も袁術殿に忠誠を誓い、主のためにと巳水関を決死の思いで攻め込み多大の犠牲を出し陥落させたのだ。主人を思い奉公をした家臣に対し、今度は我が主の御恩に我々も期待をしたいのだがな?」

 

周瑜は落ち着いた態度であくまで袁術のために我々は戦ったのだというアメを与えながらも、袁術の煽てに乗せられ易い性格を利用しさらに内堀を崩していく。

 

袁術は周瑜に主人と言われ気をよくしたのか得意気に笑顔を浮かべると、しょーがないのぉ!と乗り気になっていく。

 

「そうじゃったのか~うんうん、家臣の働きに対し主人が報いてやるのも王の勤めよ。妾が前に出ようかの!」

 

ニョホホホホと笑いながら、気前よく魁を承諾する。側近の張勲は流石美羽様~と笑顔で拍手をパチパチと叩いていた。

 

みんなに聞こえない声でまったく・・・と小さく呟きながらも冥琳は満面の笑顔で袁術を見つめている。

 

「この状況を打開できるのは三公を輩出した袁家の力が必要であるのは自明の理。どうか力をお貸し願いたい所存です」

 

冥琳は笑顔でそう言うとさらに袁術と袁紹をヨイショする。それに応じて劉備も同調をする!

 

「そうですよね!私も周瑜さんと同意見です!名門と言われる袁家の方々の獅子奮迅の活躍をこの目で見たいです!!」

 

「う~んそう言われましては仕方ないですわねぇ・・・・」

 

劉備にもヨイショされ袁紹も建前で仕方ないと言いながらも嬉しさを隠しきれないのかウキウキした様子である。

 

袁紹の側近たちは袁紹に後ろでまずいですよ!と進言をするが黙りなさい!!と一蹴している。

 

(ここまで騙されるなんてむしろ哀れとしか言えないな・・・。というかこの人たちって根は純粋なのかもしれないな)

 

その結果袁術・袁紹の連合で虎狼関を突破することになった。

 

ここまであっさり決まってしまうと何とあっけないことか。

 

 

軍議解散後に曹操が冥琳を呼び止めた。

 

「周瑜だったかしらね?貴女もなかなかの道化であったわ」

 

「曹操殿か、お褒めの言葉感謝する。こちらの思惑に乗ってくれるのなら道化も喜んでやる所存ですゆえ」

 

ため息をつきながら曹操にそう言う。

 

「なるほどね、ますます貴女たちに興味がわいたわ」

 

「それはどうも・・・と言いたいが、閨に誘うのはゴメン被りたいところだな」

 

「あら、それは残念ね」

 

「フッ・・・・なんせそちらは既に間に合っていますゆえ・・・呉は豊満な女性が多いからな。お子様で果たして私を満足させられるのか・・・・」

 

眼鏡をクイッとかけ直すと見下げる形で冥琳は曹操にそう言った。

 

貴女なんか興味ないわよとでも言いたげな見下げたその目は嫌悪感のある冷めた視線であった。

 

「!!」

 

冥琳がそう言うと曹操はピシッと凍る。まさに地雷をあえて踏みにいった。ということだ。

 

(オイオイ・・・・・)

 

冥琳はフンと鼻で笑うと失礼と言って去っていった。

 

「冥琳、少し失礼じゃないのか?」

 

「自分がああやって誘えば全ての女がなびくと思っている。そういう女は私は嫌いなのだよ。どうせ魏でもああやって女をあさっているのだろう、まったく困ったお方だということさ」

 

「そうは言ってもだな・・・・」

 

「大陸に覇を唱えたいというのは建前で奴の本音は大陸中の女を独り占めしたいとか案外下衆な願いかもしれんぞ」

 

「おいおい、それはさすがにないだろうに・・・・」

 

曹操が同性愛者だというのも驚くが冥琳も雪蓮もソッチもオッケーなのか。と少し驚く。

 

まぁこの時代は同性愛自体はまだ寛容であるはずだが・・・・、自分の片想いする女性や信頼を置く女性がレズビアンかもしれないという事実に俺は少し打ちのめされていた。

 

(雪蓮と冥琳はまさか・・・・・いや、考えるのをやめよう。言葉のあやかもしれない)

 

『私も雪蓮は好きよ。友人として、苦楽を共にする戦友としても、そして・・・』

 

そうは思いたいがいつか冥琳が雪蓮への思いを吐露したときのことを思い出した。

 

あの寂しさと切なさが混じった表情は・・・・・。そして二人に取り巻くあの独特の雰囲気・・・・・。

 

「ん?どうした?顔色が優れないが?」

 

「い、いやなんでもないんだ」

 

「そうか・・・・、お前にはまた無理をさせてしまっているな。すまないな」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「北郷・・・・・?」

 

俺は彼女の気遣いに何も言えないまま黙ってしまった。

 

いま口を開けば・・・きっと情けないことを言ってしまうからだ。

 

俺も男の意地というものがある。

 

彼女に情けない姿を見せたくはない。俺は口をグッと噛み締め前をひたすら向く。

 

そしてそのまま沈黙を貫き呉の天幕まで向かうのであった。

 


 
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