No.906042

SAO~帰還者の回想録~ 第6想 友との軌跡 後編

本郷 刃さん

和人と友の軌跡
彼の資質はさらに周囲に引き寄せる

2017-05-17 20:05:41 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:4461   閲覧ユーザー数:4189

 

 

 

 

 

 

 

 

SAO~帰還者の回想録~ 第6想 友との軌跡 後編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和人Side

 

過去の俺が小学三年生に進級し、景一が転入してきてから古流武術『神霆流』の門下生となり、俺と志郎と共に同門となった。

そこからさらに時間が経過して夏には景一も加えて奈良で稽古と修行、お盆になる前に自宅に帰るまでは昨年と同じだった。

小学生になって三度目の夏休みが明けた新学期、ここからあの二人が加入するんだったな。

 

 

 

登下校には個人で行う時の他に友人や地域の同じ生徒と共に行う集団登下校がある。

学校ごとで決まりに違いはあるものの基本的に登下校そのものは自由だが、

当時や近年では事件が多発することもあり集団登下校を義務付けている学校もあれば、自主的に集団登下校を行う人達も居る。

何が言いたいのかと問われれば、今まさに集団下校の最中の光景を見ている……誰に説明しているんだろうか…?

 

「偶に学校が集団登下校をさせたりするけどさ、これならもう義務化させた方がいいと思うんだけど」

「そうなったら俺達、朝の練習できないぞ」

「そうだよな。下校もみんなとだから帰り着くのが遅くなるし、面倒だし」

 

おいお前ら(俺ら)、小学生なんだからもっと小学生らしくと思ったが、結局は自分なので意味がないと悟る。

まぁこの定期的な集団登下校も当時の俺達に関わりが無いわけじゃない。

この時の二年程前のことだが、埼玉県内で強盗殺人事件が発生した。

二十代後半の夫婦が殺害されることになった事件であり、

犯人はその時に逮捕されているがこんなご時世ということもあって安全面を考慮しているということだ。

まぁ本当はそれなりに深い関わりなんだが、それについてはすぐに解ることになる。

 

と、まぁそういう事情があって集団下校を始まった時、俺達に走り寄ってくる小柄な子が一人、さらに遅れてもう一人もやってきた。

 

「お兄ちゃん、待って!」

「和人さん、志郎さん、景一さん! こんにちはっす!」

「スグと刻か。転ぶなよ~」

 

学校の教師や保護者会の人達が一緒に移動するが、当然ながら同じ方角で同じ家である刻と直葉も寄ってきた。

刻が志郎と景一を知っているのは彼もまた小学二年生になったこの年の夏に剣道を始めたからである、

とは言っても俺達年長組が教えていただけなのだが。

そこへ刻と直葉に続く様にもう一人が近くへ来た。

 

「月乃君、桐ヶ谷さん、どうしたの?」

 

やってきたのは少年だが、その瞳に当時の俺達三人は一瞬だがギョッとしている。

あぁ、この時の(・・・)の眼は確かに酷いものだった。

 

「神城君、ごめんっす。スグのお兄さんと友達が居たっすから。あ、和人さん達、クラスメイトっす」

「どうも、神城烈弥です…」

「ん、スグの兄の桐ヶ谷和人だ」

「そのクラスメイトの国本景一」

「和人と景一より一個上でキミより二個上の十六夜志郎だ、よろしくな」

 

刻と直葉と同じ年齢でクラスメイトである当時の烈弥だ。

自己紹介を確りと返すも彼ら(俺達)の反応は一瞬だが戸惑いがあったのは仕方がない。

当時の俺達にはなんと表現したり、なんと言ったらいいのか解らないという感じである。

 

その理由というのも、この時の烈弥の瞳にある。

現在の烈弥の瞳は信念を宿したと言えば大袈裟に聞こえるかもしれないが、少なくとも確かな強い意思を宿した瞳をしている。

一方、この当時の彼の瞳なのだが、例え方は色々だが正直に言おう。死んだ魚のような眼、濁り腐りきったような眼、

意思が少なく惰性が多分にある眼、目前のことを見ているようで見ていない眼、表現は以上であるがそんな感じだ。

 

「お~い、和人達。遅れてるぞ、早くこっちこい」

「はい、公輝さん(・・・・)! みんな行こう」

 

とにかく、この時の神城烈弥という少年は生きているが生気が限りなく薄い人間だった。

当時の俺達もそんな烈弥に戸惑ったが、特に気にしないで刻と直葉と彼を連れだって集団下校を続けていった。

 

 

 

帰宅後、志郎と景一が自分の家から桐ヶ谷家に到着し、三人それぞれ宿題を終わらせてから、準備運動を済ませて修行を始めた。

 

「それに、しても、凄い眼の、子だったな!」

「俺、正直、ビビった!」

「なにか、あった、みたいだな!」

 

時刻が遅いわけではないがこの時の集団下校の目的が安全にあるので桐ヶ谷家の敷地内、

大き目の庭を端から端までランニングしている当時の彼ら(俺達)を俺自身は縁側に座って見ている。

普通の子供達も何かを感じ取ったことはあるだろうが、

同じ年代とはいえ当時の俺達が烈弥の瞳から色々と感じ取ることが出来たのは師匠と神霆流の修行の影響だろう。

 

「ま、何かあったら刻とかスグが先生とかに相談するだろ」

「いまの俺達になんか出来るわけでもないしな」

「そうなるよな~」

 

短い休憩の合間に話していたが素振りまで終わらせると道場の中へ入っていき、俺もその後へ続く。

事実、子供の自分達に出来ることなんて限られていて、下手に首を突っ込むのは良くないことだと師匠に言われていたな。

それでも、関わることになるし、結果的に功を成すことになる。

 

道場の入り口が開いて、刻がやってきた。

 

「あの和人さん達、いまいいっすか?」

「お、どうした刻? って、その前に入れよ」

「お邪魔しまっす! 実は話があって…」

 

小学生の俺が刻を中へ入るように促す。稽古も途中に刻から話を聞くことを決める。

 

「話っていうのも、実は神城君のことなんっすけど……彼、剣道がやりたいみたいっす。

 しかも、スポーツとしてじゃない方で、強くなりたいとか力がほしいとか…」

「う、う~ん。スポーツとしてじゃないし、理由が理由だから多分どこも教えてくれないんじゃないか?」

「みたいっす。剣道以外の空手とか柔道とかも理由があれで駄目ってことで、

 それにお祖父ちゃんとお祖母ちゃんにも止められてるらしいっす。

 その、神城君の家、訳有りってことっす…」

「それで俺達か俺の家に話が来たか。でもその理由なら祖父ちゃんは勿論、俺達だって教えられないよ。特に俺達は師匠の眼もあるからな」

 

剣道を始めとした武道を教えている道場や場所、その責任者が拒否するなど本来は相応の理由がなければないことである。

保護者が祖父母であり、その祖父母が止めている時点で教える側も受けることは出来ないし、

その時の烈弥を見て武道を教える人達が何かを感じ決めたのなら妥当な判断だろう。

 

「その、師匠(せんせい)さんにっていうのは、無理っすよね?」

「師匠こそ無理だろうけど、でも会うだけ会ってみた方がいいかもしれない。

 あれで師匠は人の考えは無視しない人だし。それにいっその事、師匠に思いっきり言ってもらった方がもしもの時は諦めも付くかも」

〈やめろ、俺! これ以上師匠の胃にダメージを与えてやるな!〉

 

思わずツッコミを入れてしまうほどに師匠頼みだったと思う。

本当にすみません師匠、特に今回はかなり重要です。

 

一先ずこの日は刻を家に帰し、夜に当時の俺が師匠に電話をして、後日師匠がこっちに来る用事がある時に面会が決まった。

 

 

 

師匠が東京に訪れる日がやってきて、奈良へ帰る前に烈弥の家へ向かった。

既に烈弥と彼の保護者である祖父母、様子が気になる唯一の友人の刻と神霆流である当時の俺と志郎と景一が揃っている。

けれど、話がプライベートの部分があるのでその所だけ当時の俺達は席を外し、庭で待っていた。

 

「烈弥君大丈夫っすかね?」

「警察ドラマの取り調べじゃないって…」

「そうそう、話聞いてるだけ……って言っても、結構訳ありそうだったもんな…」

「ま、師匠が決めることだし、待つしかないよ」

 

初対面の時井八雲という人物に刻はちょっとしたズレのある心配をしているが、人柄を知る当時の俺達は確りと待っている。

しばらく待っていると烈弥のお祖父さんが顔を出し、話が終わったことを告げて俺達に入るように促し、それに続いていった。

畳の上で正座してそれを確認すると師匠が話し始める。

 

「和人、志郎、景一、それに月乃君。一先ずですが神城君は私の預かりになることが決まりました。

 これからの彼の姿勢や意思次第で打ち切る可能性はありますけどね」

「「「分かりました」」」「は、はいっす!」

 

この時、どんな話し合いがされたのかは後に烈弥から聞いているが詳細までは知らないし、彼が話さない以上は聞こうとは思わない。

話してくれるのならばその時を待つだけだ。

 

「資質は十二分に高いです。腕を上げれば貴方達にも匹敵できるでしょうし」

「じゃあ、一応今日から同門なんですね。よろしくな」

「はい、よろしくお願いします」

 

俺が声を掛けると集団下校の時よりもハッキリとした声で返してきた。

その瞳もまだ暗く濁りもあるが、奥には紛れもない意思を宿しているのが今なら解る。

 

こうして烈弥が神霆流に加入した。

 

 

 

翌日、平日の放課後である俺の家の道場に俺を含めたいつもの三人に加えて、烈弥の姿もある。

最初は俺達の時と同じで体作りからなので無理は出来ないが、昨日の時点で師匠が体作りの重要さを厳しく言い聞かせていた。

 

「今日から烈弥も一緒だな。改めてよろしく!」

「はい、和人さん!」

 

元々確りした子である、瞳のことは抜きにしても礼儀などのことを教えられたからかそれを守って元気良く応えているな。

名前で呼び合うことも仲を深めることに決めたからだ。

とはいえ、この当時の俺達はまだ烈弥の両親の事件については知らず、事情があることだけ知っている。

それについて知るのもまだ後の話だな。

 

「なぁ、和人。烈弥が今日から一緒なのは知ってたけどさ………なんで刻も!?」

「それはボクも神霆流の門下生になったからっす!」

「何時!?」

「昨日景一さんと志郎さんが帰ってからっす!」

「ん、刻の言う通りだよ。なんか師匠が言うには刻も烈弥と同じくらいの資質だって。師匠が二人の体作りは任せたってさ」

 

志郎と景一の驚きを含めた疑問に刻が応え、当時の俺が師匠の言っていたことを伝えた。

 

昨日のVRの光景を思い出す。

烈弥の自宅から師匠が志郎と景一をそれぞれ家に送り届け、刻のことも送ろうとした時に刻が自分も神霆流をやりたいと言いだしていた。

 

「ボク、烈弥君の友達だけど、何も知らないっす。でも、これから知ったり、一緒に見ることは出来るっす。

 烈弥君だけじゃなくて、和人さんも志郎さんも景一さんの見てるものも見てみたいっす!

 スグとだって、一緒に強くなってみたいっす!」

 

家の剣道場で師匠の威圧にも怯まずそう言い切った。

 

その時のことを思い出すとやはりカッコイイと思うしかない。

 

「そういうわけだからさ、今日からは刻も同門だぜ」

「和人さん、ボク恥ずかしいっす///!?」

〈うん、頑張って宣言したとはいえ恥ずかしいよな。すまん、刻〉

 

俺どうしようもないな、うん。

 

まぁ色々とあったがこれにより、烈弥と刻の年下組が神霆流に加入した。残すはあと一人。

 

 

 

 

烈弥と刻が神霆流に加入したことで当時の俺達は五人組としての行動が多くなった。

朝は早く学校に登校してそこで体作りと体力アップに筋トレを行い、放課後は宿題をみんなでやってから修行。

とはいえ、ずっと修行詰めというわけじゃなく、普通に遊ぶこともあればゲームをしたり、何処かへ出かけたりもしていた。

趣味や特技に没頭していることもあったな(笑)

 

仕事で関東に来る師匠による稽古・指導を受け、冬休みと春休みの短めの長期休みにも加わった二人の計五人で奈良にて修行となった。

これも今後、幾度となく増えていくことを思うと少しだけ苦笑する、なにせ大変だからな。

だが、烈弥の雰囲気が明るく変わったのは間違いなく良いことである。

 

さて、小学校に入学してからだが集団登下校がある日、俺達を良く見ていてくれたのは最後の加入者である最年長の未縞公輝だ。

春休みが明け、その彼の加入の時期が迫っていた。

 

 

 

四月、当時の俺と景一は三年生から四年生に、志郎は四年生から五年生に、烈弥と刻と直葉は三年生に進級した。

進級後の新学期の集団下校、その時に公輝と話すことがあった。

 

「なぁ、和人。お前が小学校に入学してからずっと見てきたけどさ、剣道以外になんかやってるのか?」

「どうして、公輝さん?」

「普通に剣道してるなら家でやってても人数がもうちょっと多いって考えてさ。

 だけど和人達は少人数だし、いつもあのメンバーだし、普通に剣道やってる人にあんまり見られたくないんじゃないかなって思ったんだ。

 じゃあ剣道以外のこともやってるんだろうなってさ」

〈鋭いな……いや、公輝の場合は俺達や周りをよく見ているから、観察と考察を重ねた結果だな〉

 

元から面倒見が良くて俺達のことも偶に気にかけてくれていたからな。

俺が一年生の時に剣道のことで悩んでいた時も、景一が転校してきた時も、烈弥の様子も、全部気にして声を掛けてくれていた。

それが変化したんだから気になるのも仕方がないということだ。

 

「うへぇ~、公輝さん凄いな。まぁ、ちょっと武術ってやつを」

「武術? 拳法とか格闘技とかそういうの?」

「そういうのとは違うけどね。ま、俺達も色々と考えてさ、教えてくれる師匠も資質があるからって」

 

この時、公輝が思った武術というのはテレビとかで見るような物だろうが、実際にはそういうのとは違うからなぁ。

 

「う~ん、そうか……でも武術、武術か…」

「もしかして、興味ある?」

「……うん、結構興味あるな。元々なにかやってみようとは思ってたんだけどさ、コレっていうのがなくてよ。

 合わないからなのか、飽きやすいからなのかは分かんないけど、他のは続かなくて。

 良かったら和人達の練習風景見てみるだけでもいいか?」

「それくらいなら全然良いよ。みんなと師匠にも伝えとく」

 

いや、だからさ、師匠の胃にダメージを与えてしまうなよ、俺。

本当のところはそう思う人ことは分かっている。

むしろ楽しむ傾向にある、俺も似たようなものだが…。

 

「じゃあ何時行けばいい?俺は何時でもいいけど…」

「今度の日曜で。その時に師匠も来るから」

「おう、分かった」

 

というわけで公輝の神霆流見学が決定し、そのあとの流れも決まったといえる…。

 

 

 

週末の日曜日、神霆流の修行の為に師匠が、見学の為に公輝が俺の家の道場に訪れた。

 

「和人、貴方はまた資質を秘めた子を連れてきて…」

「す、すいません?」

〈師匠、捨てられた犬や猫を拾ってきた子供を見るような感覚で言わないでください〉

 

師匠に言い方に思わずツッコミを入れてしまっても仕方がないと思う。

確かに半年感覚で立て続けにこうなったら師匠がそう言いたくなるのも無理はないが、

親しい友人に頼まれたのだからそこは眼を瞑ってほしいものだ。

 

「まぁいいでしょう。貴方達は始めておきなさい」

「「「「「はい!」」」」」

 

当時の俺達はその言葉に従い修行を始める。

 

その様子を見ている公輝は驚きやら感心したという感じで師匠と話しをしている。

内容が聞きとれないということはこの時のことはやはり聞けていなかったということだろう。

ただ、二人の表情や雰囲気、俺自身が持つ読唇術から大体の内容は察せた。

 

なるほど、公輝の性格と『覇気』の資質が合わさった彼らしい理由だな。

これに関しても俺の胸の内に留めつつ、現実に戻ったら公輝に追及するとしよう(笑)

 

 

 

「資質も理由も含めて私が納得するものでした。

 そういうわけで未縞公輝君の神霆流への門下入りを承諾しました。以後、彼と共に励むように」

「見知った顔だけども、よろしくお願いします!」

「「「「「よろしく(お願いします)!」」」」」

 

師匠の宣言で公輝の正式な神霆流への加入が決まった。

この日は師匠が公輝に付きっきりで古流武術や礼儀などを含めた話をし、当時の俺達は自己鍛練や師匠の話に耳を傾けることで済ませていた。

この加入に伴い公輝は自分が最後に加入していることもあって、自分のことは名前の呼び捨てで構わないと言い、

俺と志郎と景一はそれに応じ、烈弥と刻は今まで通り“さん”付けで呼ぶことを決めた。

 

後は一人だけであり、この年のこの後の夏休みこそ(・・・)が足を一歩踏み出す時だ。

 

 

 

 

春に公輝が神霆流門下生となり、夏休みがやってきた。

 

恒例の『夏休み上半期奈良修行』が開催となり、当時の俺達一同は毎度の如く新幹線で京都駅へ向かい、

そこから奈良県へ入り駅で師匠と合流を果たした。

まずは師匠の自宅へ、公輝と時井一家が対面を果たしたあとは総出で奈良県山中にある別荘兼稽古場へと向かった(本編『奈良修行編』を参照)。

 

到着後、各々の荷物を部屋に置き、休憩を挿んでからの稽古・修行となっている。

 

「九葉は今回どうするんだ? 俺達にずっと付くのか?」

「そのことだけど、和人さん達と話ししても大丈夫?」

「俺はいいぞ。みんなも……良さそうだな」

 

小学二年生の九葉に今回の修行をどうするのか訊ねた当時の俺に対し、彼は相談したいような雰囲気だ。

 

彼は俺と出会った当初と比べると本当に人見知りしなくなり、人当りも良くなって明るくなったとも言えるだろう。

師匠曰く、俺達との交流のお陰だと言ってくれていた。

 

その九葉との相談ということで小学生七人は部屋に入ると話を始めた。

 

「ホントは聞かない方がいいかもしれないけど、みんなはどうして神霆流をやろうと思ったの?」

 

九葉は悩んでいるような節を見せている。

神霆流の師範である八雲さんの息子ということもあって、

色々と悩むことが多かったと現在の彼が言っていたからそういうことなのかもしれない。

 

どう答えようかと六人とも考えているが一番新人である公輝が最初に口を開いた。

 

「俺はまだ始めたばっかりだし、他のみんなよりも多分軽いって思うかもしれないけど、

 いまの内に力を付けておけば守りたいモノを守れるかなって思ってさ」

「そうっすねぇ、ボクはみんなを見ていたいからっすね。

 みんなが見てるモノをボクも見て、それを守りたいなら一緒に守ってみたいなって感じっす」

「僕は詳しく言えないけど、これ以上失くし(亡くし)たくないから…。今度は守れるようになりたいって思って…」

 

公輝に続いて刻も烈弥も話せる範囲で明かしている。

 

「大切な人を守りたいから、だな。家族も好きな人も、一緒に守り合えるようになりたい」

「俺は放っておけなかったからだ。一人だけが強くなるよりも、仲間同士で一緒に強い方がいいだろ?」

 

景一と志郎もいま話せる思いを口にする。

 

「俺もみんなと同じかな、守りたいから。誰かを無理に傷つけたくない、自分の力を抑えられるくらいにはならなきゃって、そう考えたんだ」

 

そう当時の俺も語った。

 

六人の話を九葉は静かに、確りと聞いていた。

 

「オレはお父さんが強いし、オレが強くなれなかったらって、何度も思った。でも、無理にお父さんみたいにならなくてもいいのかなぁ…」

「九葉は九葉らしくでいいじゃんか。俺は俺が頑張れるくらいに強くなるだけだし」

 

というか、早々に師匠のようになるのは無理だろう。

当時の俺達は師匠と離れていたからこそ幼いながらにそれが解ったようだが、九葉は近過ぎたのかもしれない。

神霆流を学ぶなら、師匠ほどに強くならないといけないと……無理ゲーだ、え? 俺が言うなって…?

 

「っていうか師匠だぜ? 俺達が剣道の防具着て全員でやっても無理だったし…」

「「「「「うん、無理」」」」」

 

いまなら全員でマジで掛かれば一矢報いることは出来るぞ……勝てる気はしないが…(泣)

 

「そ、そうなんだ……そっか、オレらしく…。うん、話し聞かせてくれてありがと! 俺も修行、頑張るよ!」

 

九葉は吹っ切れた様子を見せた。間違いなく色々とコンプレックスだったのだろう。

でも、俺達の話を聞いて考えをまとめることが出来たんだな。

 

九葉との話も終わり、休憩時間を過ごすことになった。

 

 

 

休憩後、稽古と修行が始まる時、九葉が居住まいを正して師匠の前に立った。

 

「お父さん! 今日からオレにもみんなと同じ神霆流の稽古を付けてください!」

「九葉、貴方は………いえ、分かりました。息子とはいえ、手は抜きませんからね」

「はい!」

 

九葉の強い意思を秘めた瞳と言葉を受け、師匠はその表情を嬉しそうなものに変えた。

当時の俺達は気付いていないが、いまの俺だから気付けたことがあった。

九葉を見ている師匠の目尻に僅かだが光るものがあり、それをさっと拭った。師匠、本当に嬉しかったんだな…。

あ、その様子に葵さんも気付いて微笑んでいる。でも、葵さんの目尻にも光るものがある。

 

「では皆さん。怪我をせず、体も壊さないように注意をしつつ、頑張っていきましょう!」

「「「「「「「はい! よろしくお願いします!」」」」」」」

 

そして、夏休みの稽古と修行が始まった。

これで時井八雲師範の神霆流門下生の全員が出揃ったわけだ。

 

 

 

色々とあって、未だに俺も知らないことはあるが、これが仲間達との出会いの話ってことか。

現在に至るまで、彼らは俺に大切な絆を与えてくれたし、俺もその一部を与えた側だ。

そんな彼らに会いたい、元の世界に戻る大きな理由を再認識させてくれたな。

 

 

 

だが、この一年後のことなんだな……俺が俺という存在を考えさせられるのは…。

 

和人Side Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

さらに投稿が遅れてしまい申し訳ないです。まぁ言い訳はしないです、完成が遅れたのは事実ですし。

 

さて、今回で烈弥と刻、公輝と九葉が完全に神霆流へと足を踏み入れたことになりました。

ここで神霆流加入当時の彼らの理由を当てはめたテーマ(二字)を書きましょうか。

和人は“自身(抑止)”、志郎は“友情”、景一は“愛情”、烈弥は“復讐(正義)”、刻は“友愛”、公輝は“守護”です。

なお、和人と烈弥のは表面上の理由で()内が本音という感じ。

今回の話で詳しい話しが明らかになっていないキャラは今後、そのキャラの回想で明らかにしますのでフラグですね。

 

次回は一度現実世界に戻り、閑話に入る予定です。

視点は明日奈か第三者視点、内容は和人が『オーシャン・タートル』に運ばれる様やその後の話にしたい。

 

とりあえず今回も完成できてよかったです・・・。

 

 

 

 


 
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