No.88948

明月を愛でながら 「人生」 に想いを馳せる

望月 霞さん

短編第7弾です^^
魔法を使う者の頂点の称号を持つ “ヘズル ・ マスター” の青年が、自由奔放な性格から問題を起こして追いだされるお話です。
今回も楽しんでいただければ幸いです^^

2009-08-09 19:08:49 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:614   閲覧ユーザー数:585

 「あ~ぁ、これからどうすっかなー」

 と、おれは呟く。 ……言っておくが、別に頭がイカレているわけでもなければ、独り言が好きだという意味でもないぞ。 おれは今、路頭に迷っているのだ。

 ことの発端を言えば、おれが仕事をクビになったところからなんだがな。 しかも、数時間に、だ。 もちろん、おれにも原因があるが、悪い意味でのそれじゃない。 むしろおれには、能力の高さから周囲から嫉妬と反感を買うぐらいの力がある。 結果や客観的から見ても、誰がどう言おうとそう判断できる。

 ああ、ちなみにおれの仕事というのは、いわゆるお役所だ。 それは、魔法省と呼ばれる、魔法の発展や開発 ・ 警護など、とりあえず魔法の関わることを総括している。 そこでおれは、全体の取締役をしてたんだ。 歳若いわりには、ケッコーお偉いさんなんだぞ。

 そんで、事実上追放されたおれは今、勤め先の建物の前で散策している途中だ。ま、先にも言ったが、どうしようか迷っているからだ。

 ……だが、本当のところはそうでもなかったりする。  本来、おれは自分の実力を試すためにここの試験を受け、そしてランクがわかったところでそのまま旅に出るつもりだったんだ。 確かそれは、もう4年ぐらい前だったと思う。 しかし、前職のジジィに見初められたのか何だか知らないが、えらく気に入られて今の職に就かざるを得なくなった。  何度も嫌だと言ったおれの意見も聞かないで無理矢理に、だ。

 そんでもって、今の今まで仕方なくやってきたが、やっぱし若気の至りなんだろーなぁ。 ずっと溜め込んできたものが爆発炎上、前任のところに殴り込みに行き、気持ちを伝えた。 そしたらよ、案の定の結果になったわけよ。 もうやってられっかって、 “いい加減にしろ、さもないとテメェが行った悪事を全部ばらしてやる!” って脅したんだな、わははっ。

 そしたら今度は力づくで言うことを聞かせようとしやがった。 こうなったら実力行使、そちらさんの考えに乗り、おれもそのままの行動をしたのさ。 んま、魔法で最高ランクである “ヘズル ・ マスター” のこのおれ様に、魔法で敵うわきゃねぇ。 ついでに言うと、剣だってそこそこ使えるんだぜ。 下手な2流以下の輩より、マシなぐらいだろうよ。

 そんな感じで相手を圧倒した後は、やることをやったんだな。 直接的に表現すると、脅し、ってやつを。 んま、我が身可愛いさと魔法省の名誉のために “お前を世界の平和に貢献するために旅に出たと伝えよう。  しかし、もうこの場に2度と現れるなっ!!” だって。 アレだ、自分の意に従わない奴はいらない、都合のよい展開をしないなら出て行け、って感じだろう。 まったく呆れたジジィとその取り巻きだったよ。

 

 

 

 それがあったのが数時間前の話だ。 今は、書類を製作している途中のはず。 さすがに立場が立場だから、時間がかかるんだと。 だから、ちょうどよい具合に散歩しているんだ。 しかも、今日は晴天の星空だ、風もいい感じに冷えて気持ちがいい。 そんな天気だから、きれいなお月さままで見える。  満月ではないが、下限のときを動いているそれは、美しくよく見える。 旅立ちの前夜には相応しいだろう。

 ――で、さっき戦った役人共と同じぐらいしつこい魔獣をぶっ倒しながら考えをまとめている。 何なんだよコイツらは。 おれが有能な精霊使いだって知らねぇのか、このタコ。 いいか、よぉぉっく顔を拝みきってから気ぃ失えよな。 ここで、しかもこんな夜中に魔獣の死体があったとなっちゃぁ後々面倒だから生かしてんだし。 傷癒えたらとっととずらかれよ、いいな。

 ……はあっ。 まったく物騒な世界になったモンだ。 これは何かの前触れだろうな、きっと。 んま、おれには関係ないか。

 ああ、自分で言ってなんだが、確かに昔、おれがまだ小さいころはこんなに魔獣がうろついていることはなかったと思う。 今は時間が時間だからともかくとしても、真っ昼間から今倒したレスカ ・ ムーン (けっこう強い) や魔蝶、挙句の果てには妖魔まで出てくる始末だ。 ちなみに、妖魔ってのは人型をした魔獣のことをいう。 人間並みの知恵と強い魔力を秘めている。 おれたち人間にしてみれば “天敵” って表現をしてもいいかもしれない。 まぁ、人によるだろーけどよ。

 だが、そういう自分だって実はそうだった。 何が、と言うと、おれも半分は妖魔の血を引いているってことさ。 顔は知らないが、父親がそれで、母親が人間だと聞いた。 もちろん、それ相応なりの仕打ちも受けてきている。 ……あんときゃぁ、相当恨んでた記憶がある気がするしな。

 ついでに言うと、妖魔が個人個人によって見た目が違うのは人間と同じで、背中に羽が生えていたり、角が生えていたり。 あるいは尻尾だってある奴もいる。 おれは確か、羽と角があったかな。 まあ、成長に従って変わるときもあっから、今はわからねぇけど。 今は姿を隠す魔法、フォーグ ・ ミラーというものを使えるから、見た目は完全の人間に見えているはずだ。 特殊な魔法道具で見破られないようにするための結界も、マジック ・ ロックという、魔力や魔法を封じ込める道具も持っているしな。

 

 ―― おっと。 話がズレちまった。 ええっと、ああ、そうそう! 今のおれは人生の岐路に立ってるんだったな ―― 。

 

 以前からするはずだった行動、つまり、この先の動行は “旅に出る” で決まりだ。 後は、引き続きおれの肩書きであるヘズル ・ マスターの仕事も同時にやればいいだろう。

 しかし、だ。 ただ単に世の中を渡り歩くだけなんて、つまらないったらありゃしねぇ。おあいにく、おれは向上心が豊かでね。 どうせなら何らかの “目的” を持ちたいのさ。 それが課題となっているから、しつこいようだがその辺をブラついている。 敵をぶっ飛ばしてるのは、ただのストレス解消だ。

 

 

 …… 無情なまでに冷たく感じる季節の風。 この先にあるものは、何なのだろうか ……?

 

 

 コツン。 たまたま転がっていた小石に、足がぶつかる。

 

 

 ―――― 風? 小石?

 

 

 何かを思い立ち、しきりに体を動かし終わったときには、右手にネックレスが握られていた。 無意識に行動したせいで少し記憶が飛んでしまったが、どうやら首に身に付けていたそれを取り出したらしい。 手の中をよく見ると、宝石らしきものがあった。

 これは、店にあるものではなく、エルフが手塩をかけて掘り出したとも、何らかの樹脂を固めたとも、はたまたエルフの生き血で固めたものと言われている。  どー考えても一番最後はねぇだろうが、下手なその辺のものより頑丈だし、鋭く削れば刃物の代わりだってできるだろう代物だ。 入手経路は不明。 物心がついたとき、気がついたら持っていたという……。

 ―― おっ。 そうかそうか。 こりゃあいいキッカケになりそうだ。

 実はこの宝石、名前こそはわからないが、エルフだけが住む緑豊かな楽園に行くことができる “カギ” になっているようなのだ。 本当のところはどうだか知らないが、この魔法省に眠る古文書を調べていたときに見かけた文献にそう記されている。

 もちろん、これと似たような資料も一緒に、だ。

 ふっふっふっ。 いいモン見っけちまったなぁ! どうせ腐りきった人間界にいるよりも、空気と絶対に美人のネーチャンがいるだろうきれいな世界に住みたい。 せっかく旅に出るんだ、こういう楽しみもアリだろう? あっちの酒、何となく美味そうだしな。

 「シクルス様ー! シクルス様ーっ!! どこにいらっしゃるのですかーっ!?」

 んあ? 何だよ、人がよい余韻に浸っているときに……。

 ああ、遠声から、どうやら秘書のブルーゼンのようだ。 いや~、あいつには感謝感激だ。 何せ、これからおれの代行をしてもらえんだからな。

 思ったよりも歩いてきていた距離を急いで戻る。 数分後には、おれの名前を呼んだ秘書殿が鬼の形相で現れた。

 「一体どちらにいかれていたのですか!? 人に対応を任せたままっ」

 「あ~、そうだった気もするなぁ。 悪い悪い、これからのことを考えてたんだよ」

 「本当ですかねぇ? はぁ……、もういいです。 あなたに何を言ってもどーせ無駄ですから」

 おいおい、ブルーゼン。 いくら何でも邪険にしすぎじゃないか? そのように思ったおれのことなどさておき、彼は10数枚の紙切れを渡す。 その中身は思った通りのものだが……。

 「おいブーちゃん。 この文書はどういうことだ? おれとお前のクローンを作れってことなのか?」

 「誰がブーちゃんですか! まあ、平たく言えばそういうことですよ。 既に、上院から許可は出ているそうです」

 「はぁーん? いいのかねぇ、そんなことして。 それより、何でお前もなんだ? てっきり代行だとばかり思ってたぞ」

 本心を言い放つと、彼は腰にあった帯剣を外し、スッ、っとおれの前に見せた。それは、普段身に着けているものではなく、旅人が使うようなもの。 つまり ―― 。

 「秘密を知る私のことは、あちらにとって邪魔でしょう? ついでに私の辞表も出してきたんです」

 「――― ……」

 「詳しいことは 『道端』 で話しますよ。 彼らを誤魔化すために、しばらく同行させてもらいますから」

 にっこりと笑いながら言いやがったよ、こいつ。 まあ、確かにブルーゼン自身も、魔法省のことはあまりよく思っていないしな。 しっかしよくもまあ、上司をダシにしやがるよ。 まったく。

 

 

 ―― 気がつけば、もう夜明けだった。 そしておれたちは、ひと眠りいた後、最後の仕事をするためにジジィ共の指示に従う。

 

 

 カンカン照りの太陽の元、そのままの道を照らし出した行路は、まさにおれたちの始まりであった。 


 
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