No.89601

未来の灯り

望月 霞さん

短編第8弾です^^
受験生である類木 美加 (るいき みか)は、周囲の勢いについていけず諦めかけていた。
そこに彼女が大好きだった人物が現れて……。
今回も楽しんでいただけたら幸いです^^

2009-08-13 11:43:23 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:470   閲覧ユーザー数:445

 受験シーズン真っ盛りの今の時期。 月日に直せば、ちょうどクリスマス1カ月前のときだ。 大学を目指す学生ならば、今の季節が最も苦しい時間だろう。そんな私、類木 美加 (るいき みか) もそのひとりだったりする。 だが、今はもうそんなことどうでもよい。 私は失敗に終わったのだから……。

 私は、高校3年の普通科に通っている、別に何てことのない学生だ。 ちなみに、高校のレベルも自慢げに語れるほど高くはない。 その辺にいる、本当にごく普通な女子高校生なのだ。

 でも、こんな自分でも夢を持っている。  いや、持っていた、と表現したほうがよい。

 実を言うと、私は心理カウンセラーになりたかったのだ。 高校受験は程ほどに済ませてしまったのだけど、 中学のころからなりたい職業が決まっていたので、その後の進路は安易に決まった。 入学当初から、心理カウンセラーのことをネットで調べたり担任の先生に聞いたりして、今まで準備を進めることも簡単だった。

 しかし、今年の春ごろまでは順調だったのだが、周りが勢いづいてきたらしく、私はここまできて息切れを起こしてしまう。 学校の成績は何とか落とさずにすんだのだが、月に1回受けるようにしている模擬試験が、 回数を重ねるごとに悪くなっていったのだ。

 私の志望する大学は、国立のK大。 名前だけあって、入学には狭き門をくぐらなければならないのは承知の上だったのに……。

 どうして肝心なところでつまずいてしまったのだろう。 あんなにがんばってきたことが、すべて水の泡になるなんて思わなかった。 一体、何がいけなかったのだろうか?

 「はぁ……。 いいやもう、終わったことなんだし……」

 吐く息が、今の私の心情を表している。 見た目はきれいかもしれないが、現実と同じで冷たいものだった。 ―― そう。 ご察しのとおり、受験勉強がはかどらないのだ。 だってそうだろう、教科は多いあげくにセンター試験まである。 しかも、自分はどんどん後手になってきているのだ。先生にも、ランクを落としたらどうだ、とまで言われる始末。

 担任が悪いわけじゃあないんだけど、かなりヘコんだ。 そんな教師も、学年担当なので虫をかんでしまっていたけれど……。

 

 

 このようなグチャグチャの状態にお母さんが気を使ってくれたのが、とても救いに思える。 自己嫌悪に陥りやすい私に、よく目を回してくれるのだ。

 私はその気持ちをコートのポケットに入れ、気分転換に外へと出た。 内の中にこもっているより考えがまとまって、 先のことが見えるかもしれない、と思ったからだ。

 ……んまあ、季節と同様、懐も寒いので、その辺を散歩するしかできないけどね。

 街中は、もうそろそろ年末行事に向けての準備も始まっている。 今は木々に施されているイルミネーションと、 駅前に立っている大きなクリスマスツリーが視界を奪うだろうか。 もちろん、それらを彩る人たち視野に入るが、二重に悲しくなるのでパスする。 どーせ彼氏なんかいませんよ、ふんだ。

 何だかんだで歩いていると、目の前に先ほど述べたクリスマスツリーが現れた。

 少し転びかけたが、無意識に立ち止まったらしい。  自分の相手に、これほどの身長を求めていない高さを誇る木である。

 

 

 ―― ああ、何てキレイな灯りなんだろう。 無数の光がキラキラしてて ――

 

 

 感慨深く眺めているところに、違った光が入ってきた。 ……いや、光ではない。 季節はずれの雪だった。 何ともまあ珍しいことだ、この辺の地域では雪が降ること自体そうなのだが。

 周囲にはいらだちながらも家路を急ぎ、ある人はコンビニへと駆け込む。 その口々には、振るならイブかクリスマス当日に振れっ!! という、頭に角をはやした言葉が。

 まあ、同意しないわけでもないけど。 それより、この雪で誰かすっ転んでくれないかな、と思った私は、どうなんだろうか。

 しかし、手の中に降りてくる雪を見ながら、2色のイルミネーションに囲まれた木は、さらに光り輝いているかのように映っていた。 個人的には、ベッタベタな恋愛ドラマより感激するぐらい、温かい気持ちになる ――― ……。

 

 

 「―― か。 美加。 こら、美加!」

 「えっ!?」

 と、突然呼ばれる自身の名前。 近くに友達でもいたのだろうか? いや違う、絶対に違う。 この声は、この声だけは、聞き違えるはずがない……!

 すると、やはりそうだった。 振り返った先に脳が浮かべた映像は、私の大好きな人だったのだ。

 「どうしたんだい、美加。 そんな悲しそうな顔をして」

 「お、お父さん……? ど、どうしてここに……?」

 「うん? ははは、何を言ってるんだ。 昔話をしただろう? 雪の妖精を見せてあげるって。 どうだい、このライトアップは」

 真面目で優しくて、そして昔私の読んだ童話の話にも熱心に耳を傾けてくれたお父さん。 はるか前に、できもしないことを約束してくれたお父さん……。

 もう見ることのできないはずの父が、何故ここにいるのだろうか? 彼は、私が8歳のときに目の前から消えてしまったのに……。

 そんな私の心を読んだのか、お父さんは落ち込んだ表情を伴って近づいてくる。

 「……ごめんね。 俺の勝手で苦労をかけて。 辛かっただろう」

 「お、おとうさん……」

 「もうあれから10年たつのか。 大きくなったね」

 と言いながら、昔のごとく子ども扱いするお父さん。 さすがに18で頭をなでられるのはアレだったので、んもう! と発しながら怒ってしまった。

 だが父は、何がおかしかったのか笑い出してしまう。

 「あはははは! そうだそうだ、もう18歳か。それじゃあセクハラになっちゃうか」

 「セクハラもいいトコよっ」

 「ごめんごめん。 つい、ね」

 と、過去と変わらない、穏やかな口調。 声も顔も髪の毛も、朝仕事に出るときのスーツ姿も、何もかもが変わっていない、昔ながらの父。

 だが、その瞳だけはどこか違うところを見つめているかのように感じた。

 「―― 今、お前は人生の岐路にたっているね。 このクリスマスツリーを見てごらん」

 と、父が指を指す方向には、先ほどまで見入っていたイベントのモニュメント。 ……どうしてか、つい数分前まであった木ではなく、それ自身が光を放っているかのように映る。

 「お前は、どうして心理カウンセラーになろうとしたんだい? そんな簡単にあきらめられるものなのかい?」

 「えっ……」

 「俺も4年制大学を受験したことあるからわかる。 誰だって志望校に入りたいんだ。 だから、周りの勢いもすごい」

 「…………」

 「しょせん模擬は模擬。 そのときが悪くても、本番ではどうなるかなんてわからないだろう。 ここでがんばれば、来年頭に大化けする人だっている」

 「…………」

 「このクリスマスツリーのように、飾るだけの人生なんて歩んでほしくないよ。 俺のように、後悔だけしか遺せなかったことになってほしくない」

 と、彼は、大量のセリフを言い終わった後にため息をつく。 この間、私は何も話せなかった。 というのも、そのきっかけを作った父に対する、複雑な想いがあったからだ。

 私は静かに、怒りを指先に預ける。

 「―― って。 すべての始まりを作った俺が、偉そうに説けるクチじゃないけど」

 「お、おとうさん……」

 苦笑しながらも、私を見る父。 でも、私と視線を合わせたとき、彼はとてもうれしそうに微笑んだ。

 しかし、同時に父の体が透き通っていき ―― 。

 “……俺のように苦しんでいた人々を、救ってあげてくれ。 お父さんとお母さんは、いつまでもお前の味方だよ……”

 「お父さん!? お父さん待ってよ! いかないでっ!!」

 追いつこうと追いかけても、父は立ったまま後退しいく。 その速度は徐々に速くなっていき、しまいには光の中で米粒ぐらいの大きさになってしまう。

 

 

 それすら見えなくなったとき、ずっと見守っているからね、という言葉が聞こえた気がした。

 

 

 

  べしゃっ!!

 と、右腕を前に突き出しそのまま走ろうとしたのだろうか。 私は、微妙に凍りかかっていそうな道端で、思いっきり転んでしまった。

 う、うわ恥ずかしい……。 ひざをすりむいた痛みより、周囲からの乾いた音のほうがイタい……っ。

 そんな中、ふと気がつくと、いつも歩いている駅前の歩道だった。 あの無数の灯りで輝いていたクリスマスツリーはどこに行ったのか、目の前にあるそれは、ただ無機質な電流を放っているにすぎなかった。

 私は酔っ払いの顔になりながらも立ち上がる。 ―― もしかして、夢でも見ていたのだろうか。 こんな、寒い中で……。

 考えてみれば、父が出てくるはずがないのだ。 10年前、過労と上司からの嫌がらせを受け、うつ病になってしまった父。 今ほどパワハラが騒がれていなかったと思うけど、それが原因で自殺してしまった父が。 きっと辛かっただろう、苦しかっただろう父が……。

 そうだ、そんな私たち家族もそうだった。 子供心だけど、当時の会社の人たちが、どんなに謝っても許す気にはなれなかった。 あのとき、お母さんはどう思いながら対応していたのだろう。 ……そして、今は……。

 

 思わず私は走り出した。 実際そんなことはしないけど、何人かひいちゃうぐらいの気持ちで。

 待っててね、お母さん! 将来、安心できる老後を提供するから!!

 

 

 それから私 ―― 類木 美加は、残りの課題と赤本などの追い込みに精を出していた。

 

 

 夢をこの手につかみ、実現させるために。


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