No.828191

真 恋姫無双 もう一人の大剣 12話

チェンジさん

チェンジです。

2016-02-02 15:00:21 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2730   閲覧ユーザー数:2426

 

薄目を開けると、太陽が出迎える。

 

「う・・・・朝か・・」

 

眩しい太陽の光を避けるため、もう一度瞼を閉じる。

 

立ち上がろうと地面に手をつく。

 

「あ、いたたた」

 

尻に痛みが走る。

 

「外で野宿なんて久々だ。戦時中の兵たちの苦労がわかるな。体が痛くてしょうがない」

 

能力的に優れている将とはいえ、陣営の中で自分たちだけまともな寝台が用意されるのはなんともいい気分ではなかった記憶がある。

 

「しかし、懐かしい夢だ。あの騒がしい娘が今やあんなにも優秀になっちゃって」

 

右方から馬の声。

 

「おはようさん。そうだな。飯にするか」

 

近くに都合よく湖があったので、その水を利用し調理した。

 

顔を洗って完全に眠気を排除する。

 

食事を終え、出発の準備を整える。

 

馬に乗ろうとした時、馬の目についている目ヤニに目が止まった。

 

「あー・・・・・朝にしてやる約束だったな」

 

裸足になり、裾をまくる。

 

足を湖につけるために馬を導くが、直前で馬が嫌がる。

 

「ほら、こいよ。気持ちいいぞ」

 

まだ馬は嫌がる。

 

いつまでも嫌がる馬を見て、炎はイラつき始めた。

 

「おいこら。来いっての」

 

手綱を前に引っ張り、無理やり連れて行こうとする。

 

すると馬が右の前足で炎を蹴りだした。

 

炎はそれを片手で受け止める。

 

「いった・・・何?お前、喧嘩売ってんのか?」

 

大人げない。

 

馬は炎の殺気に恐れて、抵抗を緩める。

 

「そう。それでいいんだよ」

 

大人しく馬は湖に入った。

 

入ってからは大人しくなり、炎の手入れはやりやすくなった。

 

蹄の軽い汚れは水が洗い流してくれる。

 

馬に片足ずつ上げてもらい、強い汚れは濡らした布で擦って落とす。

 

蹄の間に挟まっている物を指や、小刀の先で取り除く。

 

四つの足の手入れが終わり、次は体。

 

この湖はそこまでの深さがないので本格的な水浴びができない。

 

そこで、さっき調理に使用した鍋で水を掬い体にかけてやる。

 

翠や蒲公英のブラシを使って毛並みを整えていく。

 

その後は尻尾。

 

尻尾にからまったゴミをブラシや手で取り除く。

 

「尻尾の毛と毛の間には意外とゴミがあるから、毛を数束に分けて手入れをしてくれ。」

 

翠の言いつけ通り毛を数束に分けて毛の根元までのゴミを取り除く。

 

出発する前に翠と蒲公英に厳しく指導され、その作業を繰り返していたので、手間取ることなく終わった。

 

最後に目だ。

 

水で綺麗に洗った布を、目についた汚れや目ヤニを丁寧に取り除いていく。

 

「ふう、終わった」

 

頑張った自分を褒めてあげたい。

 

内心で自分を褒めてあげる。

 

馬も上機嫌だ。

 

炎が湖から出ようとすると、馬もそれに続こうとする。

 

「あー、まだ遊んどけ。俺は疲れた。少し休む」

 

馬は炎の意図を察したのか湖に戻り、ゆっくり歩き始めた。

 

炎は胡坐をかき、馬の様子を見る。

 

「はあ、俺ももう年かね。たかが馬の手入れをしただけで。馬・・・そうだ馬。俺、秋蘭から預かってずっとこの馬と一緒に旅したけど、こいつのこと馬としか呼んだことしかねえ」

 

炎の中に衝撃が走った。

 

「いい機会だ。今の間に名前を考えよう」

 

様々な名前を考え、それを口にしていく。

 

なかなか納得のいく名前が浮かばない。

 

そうこうしている内に、瞼が重くなってきた。

 

名前を考えることはやめ、馬の動きを目で追っていた時、ある光景を見てつい声を上げた。

 

「げっ!!」

 

その姿は人間。

 

髪は茶髪。

 

決して大きいとは言えない二つのふくらみ。

 

視線を下に落とすとシミひとつ無い綺麗な肌色の桃。

 

すらりと伸びた脚。

 

炎の声に気付いたのか、一度炎の方へ顔を向ける。

 

すると今度は手探りで何かを探し始めた。

 

見つけたであろうそれを顔につけて、もう一度炎の方へ顔を向ける。

 

「・・・・っ」

 

この湖は決して広くは無い。

 

遠く無いその者が息を吸った瞬間、視線を逸らしていた炎は自分の不幸を呪った。

 

「きゃーー!!!」

 

 

「どうだ?」

 

「駄目ね。全く聞く耳をお持ちになってくれないわ」

 

「そうか」

 

桂花は、戦時に取り入れる制度の撤廃を申し出た。

 

華琳も断固として譲らない。

 

「あーもう!普段は聡明な方なのに、曹螢が絡んだ途端人が変わったようよ!」

 

「炎が去ったことが魏にここまでの影響を及ぼすんだ。改めて炎の偉大さが感じられる」

 

「筆頭の華琳様は暴走、春蘭は牢獄、秋蘭はまだ見た目まともそうだけど、魏の生命線が揃って使い物にならないんだから」

 

「すまんな」

 

「悪気が無いなら別にいいわよ。私はただ華琳様の為を思ってやってるだけ」

 

「ああ、それだけでもありがたい」

 

基本的に華琳は何も変わってはいない。

 

仕事もこなし、食事もとる。

 

桂花や、牢獄に閉じ込められていた春蘭でさえ閨に誘われる。

 

勿論、桂花や春蘭はそれを喜んで引き受けるのだが。

 

しかし、炎が少しでも絡んでくると人が変わる。

 

政務を捨て、軍務を優先するようになり、信じられない制度を取り入れようとする。

 

恐らくは、近くに迫っている戦のためかもしれない。

 

戦ならば他の陣営にいる炎も参加するはず。

 

その炎に今の華琳を早く伝えられるのは戦の時。

 

だからこそ、華琳は軍務に積極的に取り組むようになる。

 

炎が華琳のことを見直してもらうために。

 

閨も華琳から誘われることもなくなった。

 

「桂花様、秋蘭様どうされたのですか?」

 

「なんや辛気臭そうな顔してますな」

 

「真桜ちゃんの言う通りなの。二人共元気無いの」

 

凪、真桜、沙和は心配そうに二人に声をかける。

 

「本当、あんた達は元気ね」

 

「そりゃうちらは元気が取り柄みたいなもんですから」

 

「だよねー」

 

「そうなのか?」

 

「あんた達、あの地下道を見てよくそんな元気でいられるわね」

 

この陣営に入った時点でいずれ知られる事実。

 

変に隠すよりは、見せたほうがいいと思って後から入る者にはあらかじめ見せている。

 

と言っても見せるのは一部の将のみだが。

 

「あー、あれは流石にビックリしましたわ」

 

「うんうん。もう、春蘭様死んでる!って思ったの」

 

「今は自分の部屋で眠っているのですよね?」

 

「ああ、かなり疲労が溜まっていたのだろう。大人しく寝てくれたよ」

 

「拷問道具にも驚いたな。もう色々あったで。春蘭様の体の傷もあれでできたもんか」

 

「・・・・・」

 

凪が秋蘭の暗くなった顔を見逃さなかった。

 

「真桜!」

 

「あ、せや。すいません、秋蘭様」

 

「構わんさ。事実だ」

 

「あ・・・さっき沙和も真桜ちゃんと似たようなこと言ったの。秋蘭様、ごめんなさいなの」

 

「すみません、秋蘭様」

 

「気にするなと言っているだろう。私はこれを背負って生きていくのだ。そのことを責められて、気分を害しはしない」

 

「その時にも出てきましたけど、曹螢様とはどういった間柄だったのですか?」

 

「ふむ。改めて聞かれると説明しにくいものだな」

 

「いえ、何か不都合がおありならば構いません」

 

「いや、それは問題ないのだが・・・結論から言うと、炎と我らは他人だ」

 

「他人ですか?しかし、姓に曹が」

 

「炎は捨て子なのだよ。曹騰様が連れてきた。姓は曹騰様がその場で適当につけたらしいが」

 

「なんや、随分と軽く決めはるんやな」

 

「そういう方なのだ」

 

「噂ではかなりの武をお持ちだとか」

 

「ああ、炎は強いぞ。今の姉者でも勝てるかどうか。昔は鍛錬でよく泣かされたものだ」

 

「秋蘭様と春蘭様が泣く姿なんて想像できないの。うう、そんな人が上官になってたかもしれないなんて恐ろしいの」

 

「小さい頃の話だ。泣きもするさ。大丈夫だ、沙和。炎はとても優しい奴だよ」

 

「なら安心なの。・・・あのー、秋蘭様?沙和はこんなこと聞いていいのか分からないんだけど・・・」

 

「遠慮することはない。なんでも聞くといい」

 

「分かったなの。じゃあ・・・秋蘭様は曹螢様が好きだと思うの!そこのところを教えて欲しいの!」

 

「・・・・・・」

 

固まる空気。

 

「さ、沙和!お前何てことを聞いてるんだ!」

 

「えー、だって気になるの。凪ちゃんだってそうでしょ?」

 

「ぐっ。」

 

「すまん、凪。うちもそこは気になってしゃあない」

 

「私も興味あるわね〜。そこのとこどうなの?秋蘭?」

 

桂花がニヤけながら秋蘭に詰め寄る。

 

「ああ、私は幼少の頃から炎を愛してる」

 

恥じらいもせず、少し微笑んでそう言い放つ。

 

再び固まる空気。

 

言葉にした秋蘭ではなく、桂花や凪、真桜、沙和の全員の頬が赤らんだ。

 

誤魔化しのためか、途端に話を逸らし始めた。

 

「そ、そそ、そういえば、季衣と流流はどうしたの?」

 

「き、季衣ちゃんは春蘭様のお見舞いなの。えーと、えと、流流ちゃんはわからないの」

 

「ああああほう、今は料理を作ってんやろう」

 

「あ、そうだったの」

 

「ほほ、ほんととに、あんた達を見てると深く考えてる私がバカみたいじゃないの」

 

桂花は立ち上がり、不自然な背伸びをする。

 

「んー、ふう・・・体を動かしてスッキリしたいわね」

 

「ふふ。ならば、いいものがある。凪、沙和、真桜お前達も付き合ってくれ」

 

「別にええですけど」

 

「はい、構いません」

 

「一体何なのするのか楽しみなの」

 

「感謝する。昔、炎に教わった遊びでな」

 

四人が秋蘭の言葉に集中する。

 

「かくれんぼだ」

 

その後五人で行ったかくれんぼで、秋蘭一人に四人はコテンパンにされたという。

 

「ふふふふふ」

 

 

 
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