No.827818

真 恋姫無双 もう一人の大剣 11話

チェンジさん

チェンジです。
戦での部隊の動かし方が全くわからん。

2016-01-31 12:39:33 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1983   閲覧ユーザー数:1831

「今日はこの辺りで野宿か」

 

西涼から益州へ南下中。

 

西涼では一泊したとはいえ十分な休息を得られなかった。

 

移動中は座ってればいいが、全く疲れがないかと言われれば嘘になる。

 

しかし、馬の身になってみれば軽いもの。

 

疲労の溜まっている馬のペースに合わせて、移動しているといつの間にか日が暮れていた。

 

「疲れるんだからしょうがないな」

 

急いでいるのは確かだが、それで馬がつぶれては元も子もない。

 

自分の足は馬だけなのだから。

 

「さっさと寝てしまおう」

 

馬の顔を撫でて、安心感を与える。

 

流石にずっと一緒にいるだけあってかなり懐いている。

 

頬擦りまでしてきて、炎も上機嫌。

 

「あ、翠に毛の手入れをしろって言われてたな」

 

不満な表情をしながら、翠の言ったことを思い出す。

 

「めんどくさいな」

 

手に持った手入れをするブラシを見ながらそう言う。

 

「蒲公英も俺の馬を見て可哀想とか言ってたな」

 

流石に馬のこととなると二人の方が上。

 

言う事を聞いておいたほうがいいのだろうか?

 

そんな考えが頭の中で渦巻いて、結果。

 

「眠いから・・・起きてからやろう」

 

大きな石等寝苦しい要因になるものを極力排除し、スペースを確保する。

 

馬を先に寝かせる。

 

周囲の警戒をもう一度強め、安全を確認した後、座ったまま目をつむる。

 

ゆっくりと深い眠りに落ちる。

 

この日炎は夢を見た。

 

小さく、まだ力のなかった少女。

 

その少女を守る日常。

 

そんな夢。

 

 

苦しい。

 

というより腹が痛い。

 

何回も何回も腹を殴られている感じ。

 

この痛みの原因を知りたい。

 

だが、目を開けて今も襲い続けている睡魔と戦うのも辛い。

 

その二つが頭の中の天秤で上下に揺れているとき、腹の痛みが急激に強まる。

 

実際はそれどころではないのだが、炎はみぞおちに何かが落とされたと考える。

 

「かっっは!」

 

一時的な呼吸困難に陥り、完全に目が覚める。

 

先程までの腹への連続で襲う痛みとは違い、みぞおちは一度だけの痛みだった。

 

痛みが引き、落ち着いてから少しずつ目を開けると。

 

「あ!お兄様が起きた!」

 

炎の腹の上のみぞおち辺りにまたがり、満面の笑みを浮かべる幼少期の華琳がいた。

 

巻かれず、全て流している金色の髪は窓から差し込む陽の光によってさらに輝いているように見える。

 

その髪と穢れのない笑みを見て炎は目の前の少女につい見とれてしまう。

 

「華琳、何度言ったら分かる。人の上に乗って起こしては駄目だろう」

 

「そんなこと初めて言われたわよ」

 

「うっそだあ」

 

「嘘じゃないもの」

 

「もう一回俺の顔を見て言ってみろ。ほら」

 

「いいよ。いーー」

 

目をつむり、並びのいい歯を見せ、炎に顔を近づける。

 

「・・・・・ほう。確かに、嘘じゃない」

 

「でしょ?チュ・・」

 

炎の頬にキス。

 

「・・・・・は?」

 

「あはは!お兄様に口づけしちゃった!」

 

華琳は顔を赤く染めながらも、笑いながら寝台から離れ、逃げるように部屋から出ていく。

 

「あ、おいこら!・・・・ああ、あのお転婆娘」

 

「朝から見せつけてくれるな」

 

扉の方から声が聞こえる。

 

「あ、曹騰様。おはようございます。・・・あ、失礼しました。このような格好で」

 

「気にするな。そんなことでお前の評価を下げるようなことはせん。そんな浅い仲ではなかろう」

 

「お気遣い痛み入ります」

 

「あの娘のあんな笑顔を見れるのはお前だけだ」

 

「そんなことは・・・」

 

「あるさ。もう儂よりもお前の方が華琳の傍にいる時間は長い。必然だよ。だが、儂も嫌われているわけではないぞ。さっきも廊下ですれ違う時にな『お爺様!私、に口づけしちゃった!』と言っていたよ。儂はもう、心臓が飛び出そうになった」

 

「も、申し訳ありません。華琳には私から言っておきますから」

 

「何を言ってるんだ。お前なら華琳を任せられる。どうだ?華琳が大きくなったら、一緒にならんか?」

 

「曹騰様!冗談でもそのようなことは言ってはいけません!」

 

「冗談ではない。いたってまじめな話だ」

 

「私は華琳の年は少なくとも五年は離れているんですよ?華琳が美しい淑女になったとき、私は汚いオヤジです」

 

「そ、そこまで自分のことを酷く言うか。・・・ふむ、愛に年の差など関係ないと思うがな」

 

「私もそのことには同意見ですが、それとこれとは話が別です。第一、華琳のためを思うのならば曹騰様が相手を選んではいけません。華琳自身が心から信頼できるものしなければ」

 

「むー、一理ある。だが華琳はお前のこと信頼してると思うがな」

 

「もう流されませんよ。私はもう着替えますから、早く出て行ってください」

 

「冷たいの」

 

「早く」

 

最後にいじけた顔で、部屋の扉を閉める。

 

曹騰が扉を閉めたことを確認して、部屋着を脱ぎ始める。

 

着替えが終わり、大剣を背中に背負う。

 

「よし。準備完了」

 

部屋を出る。

 

「ごはっ!」

 

体の左側面に激痛が走り、右方向へ体が飛ぶ。

 

何かが体にぶつかったのだろうか。

 

その衝撃で体が飛ばされたなら納得がいく。

 

実際、左下腹部にはまだ何かが触れている感触。

 

「か、華琳の次はお前か・・・・春蘭・・・」

 

言う事の聞かない少女達が息つく暇もなく、襲ってくる。

 

そのことに呆れつつ、少し怒りも現れ始めた。

 

「炎兄!おはよ!」

 

下腹部にしがみついている春蘭を引きはがそうとする。

 

「はなれろ!」

 

「いーやー!いーやー!」

 

少し力を込めても離れないので、諦めて春蘭にしがみつくことを許した。

 

「(だが、なんだか負けた気がして悔しいな。よし)」

 

炎は立ち上がり、身長の低い春蘭は床から足が離れる。

 

落ちないようにとさらに力を込める。

 

「(おちないな。だったら)」

 

今度は屈伸やジャンプを使い、上下運動をする。

 

まだ春蘭は落ちない。

 

それどころかしがみつく力が増す。

 

「(こいつ。これでもか)」

 

前後左右の腰の動きもつけ、春蘭を振り払おうとする。

 

それでも春蘭は離れようとせず、それどころかますます力が強くなっている。

 

次第に・・・

 

「痛い痛い!春蘭マジ痛い!放してくれー!」

 

「やだ!」

 

「おおーー!!」

 

若干涙目になっている炎の前方には小さな人影があった。

 

速度自体は遅いものの、本人は一生懸命走り、こちらへ向かっている。

 

「姉者、やめないか。兄上が困っているだろう」

 

「しゅ、秋蘭。・・・・はーい」

 

「た、助かった」

 

今までの二人と違い、知性に溢れた秋蘭。

 

炎には秋蘭はお転婆な二人と比べて数段先の大人の階段を上っているような印象がある。

 

「秋蘭!華琳様は?」

 

「おそらく先に行ったのだろう。急げば追いつくさ」

 

「本当か?華琳様ー!」

 

目にもとまらぬ速さで駆けて行った。

 

秋蘭は炎にゆっくり近づく。

 

「兄上、大丈夫ですか」

 

「ああ。ありがとう秋蘭」

 

「礼を言われるほどのことはしてはいません」

 

「相変わらずいい子だね。お前は」

 

「ありがとうございます。姉があんな調子ですから」

 

「なるほど。まあ、あんまりいい子でいなきゃって思いすぎて溜め込むなよ」

 

「はい。では時々、兄上に甘えさせていただきます」

 

「おう。どんどん甘えろ」

 

会話を進めながら、華琳、春蘭が向かった玉座の間へ足を向ける。

 

その会話の途中、炎はある違和感を感じた。

 

その違和感を確かめるため、一度歩みを止め、秋蘭と向き合う。

 

「・・・・・秋蘭、どっか痛いのか?」

 

「いいえ、どこも問題はありません」

 

「秋蘭、嘘はよくない。痛いときは痛いと言え」

 

「・・・・・・どこも痛くない」

 

「はあ」

 

ため息を一つ。

 

「(顔には痛みの表情が。どうしてかはわからんが、傷を隠したがってる。部位はある程度予測はつくんだが・・・)」

 

秋蘭の体を見てみると右足が震えていた。

 

注意してみると、体が少し斜めに傾いてる。

 

左足に重心を傾けているからだ。

 

炎は視線を秋蘭の目に向けながら、秋蘭の右足を軽く叩いてみる。

 

「いっ!・・・」

 

「まだ嘘を言うか?」

 

秋蘭は少し涙目だ。

 

炎は内心罪悪感を感じるが、顔にはださない。

 

「どこ・・も・・・・痛くないもん」

 

「・・・・・・はあ」

 

炎は秋蘭を抱きかかえる。

 

秋蘭は突然のことに驚く。

 

「歩くのも疲れただろう。抱っこして行こう」

 

「う、うん」

 

秋蘭を抱いた状態のまま歩く。

 

しばらく二人は何も言わない状態が続く。

 

「華琳様を探しに姉者と一緒にいたんですが、兄上を見つけた途端急に走り出したんです」

 

「・・・・・・」

 

「私も追いつこうとしたのですが、姉者には追い付けず。兄上に辿り着く前に一度転んでしまって・・・」

 

「足を挫いたってわけか」

 

「すみません。嘘をついて」

 

「ああ、そうだな。嘘はいけない。ただ、春蘭のことを思っての嘘だろ?俺が春蘭を叱ると思ったか?」

 

「・・・・はい」

 

「正直でよろしい。勿論怒る」

 

「兄上」

 

「当り前だ、春蘭が原因で秋蘭は怪我をしたんだからな」

 

「私が転ばないよう気を付ければよかったのです」

 

「春蘭が走り出さず、お前と歩調を合わしていれば、この怪我もない。自分の欲望で他人が傷つくなんて馬鹿げた話だ」

 

「兄上・・・」

 

「それとな秋蘭、俺にそんな畏まるな。前はそんな話し方じゃなかったな。話しにくいだろうに」

 

「兄上、子ども扱いはやめてください。私はいつまでも子供ではありませんよ」

 

「そうかそうか。秋蘭も立派な女性だもんな。悪い」

 

「分かっていればいいのですが・・・」

 

話に区切りがつき、また無言が続く。

 

秋蘭の頭が縦に揺れ始めた。

 

眠たいことを察した炎は秋蘭の体を手で自分の体にもたれさせる。

 

秋蘭は一瞬だけ驚いたが、炎の体が心地よかったのですぐに眠りに落ちる。

 

炎は秋蘭の背中を優しく撫でながら、玉座の間へ歩いて行った。

 


 
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