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戦国†恋姫 三人の天の御遣い    其ノ四

雷起さん

これは【真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第二章『三爸爸†無双』】の外伝になります。
戦国†恋姫の主人公新田剣丞は登場せず、聖刀、祉狼、昴の三人がその代わりを務めます。

*ヒロイン達におねショタ補正が入っているキャラがいますのでご注意下さい。

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2015-06-04 03:55:24 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:2081   閲覧ユーザー数:1754

戦国†恋姫  三人の天の御遣い

『聖刀・祉狼・昴の探検隊(戦国編)』

 其ノ四

 

 

尾張 清洲城 評定の間

 

 詩乃の救出から八日が経った。

 ゴットヴェイドー隊は詩乃を救出した後、墨俣に戻り、一泊してから清洲へと戻って来たのだが、墨俣で結菜は斎藤龍興に叔母としての手紙をしたため送っている。

 救出行に同行した結菜は、本当は龍興に会って諌めるつもりだった。

 詩乃が稲葉山城を出奔する前ならば、詩乃の稲葉山城乗っ取りの意味を説く事も出来たが、詩乃だけではなく斎藤飛騨守狸狐まで攫ってしまった後では直接面会するのは拙いと判断し、手段を手紙に変更したのだ。

 そして手紙の返事が来たのが昨日。

 内容は結菜の諫言を尽く否定する物で、龍興に考えを改めるつもりが無い事を確認する結果となった。

 

「これより我らは美濃攻略を更に進める!その準備として調略に力を注ぐぞ!」

 

『ははっ!』

 

 久遠の下知に家臣一同が頭を下げて従った。

 この調略を祉狼は大いに賛成し、ゴットヴェイドー隊で出来る限りの事をする気になっている。

 調略によって戦が有利になるのは当然だが、それは織田に寝返る数が増えれば美濃の数が減り、その結果戦の規模が縮小する。

 戦の規模が小さければ死傷者の数も減る。

 祉狼としては全て調略して話し合いで解決出来れば最高なのだが、流石にそれはないと解かっていた。

 

「久遠!俺達ゴットヴェイドー隊は何をすればいい?」

 

 祉狼はやる気に満ちた目で隣の久遠に迫ると、突然近付けられた顔に久遠が顔を赤くする。

 その動揺を誤魔化す為に久遠は声を大きくした。

 

「ゴ、ゴットヴェイドー隊は竹中に調略の為の書状を書かせ、ひよところを現地に向わせてくれ!」

「判った!…………ひよところだけか?」

「祉狼、お前もそうだが仮面と貂蝉、卑弥呼は目立ちすぎる。」

「そ、そうか?」

 

 生まれた時から貂蝉と卑弥呼と暮らし、仮面の戦士達を見て育った上に、父華佗譲りの感性が輪を掛けていたので、祉狼はまるで気付いていなかった。

 しかし、久遠が教えてくれたのならそうなのだと、素直に納得する。

 

「それじゃあ俺は何をすればいい?」

「祉狼は各隊の健康状態を見てくれ。後はいつも通り領内の民を見て、薬草を集めてくれれば良い♪」

「それでいいのか?俺は久遠の役に立ちたい。して欲しい事が有れば何でもするぞ!」

 

 祉狼にとっては有難い話だが、もっと具体的な形で久遠を助けたいという想いも有る。

 

「祉狼。尾張の兵が弱卒揃いと言われているのは知っているか?」

「ああ、何度か耳にした。」

「それは尾張の商が活発で、皆が利に聡いからだ。将と違い兵卒は武功を上げずとも食うに困らんだけの銭を稼ぐ術が有る。命あっての物種と言うわけだ♪」

「…………困ったな………俺は久遠の足を引っ張っているんじゃないのか?」

 

 祉狼は命を大事にしろと言い続けている。

 しかし、命を大事に生き延びようとする者と死を恐れず戦う者のどちらが強いかは祉狼も良く知っていた。

 叔母達や従姉妹達の戦い振りが後者の典型だ。春蘭や雪蓮、そして従姉の光琳や冰蓮など死を恐れないと言うより『死』が頭から抜け落ちてどこかに行ってしまうのまで居るのだから。

 

「まあ、そう結論を急ぐな。食うには困らんがより良い暮らしをしたいと思うのが人だ。その為には兵卒だって武功を上げるのが近道だと分かってもいる。そこで祉狼の存在が兵卒に力を与えるのだ。怪我をしても直してもらえる。生きて帰れる可能性が高いと思えば勇気を奮う事も出来よう。」

「ふむ……………成程、だから俺が多くの人に会って『医者が居て、薬も沢山用意してある』と知って貰う必要が有るのか♪」

「そう言う事だ♪」

 

 祉狼と久遠は微笑み、互いの顔を見つめ合う。

 

「ぅおほんっ!久遠さま、今はまだ評定の最中ですぞ。仲睦まじいのはよろしいが、少々背中が痒くなってきますな。」

 

「うわぁああっ!べ、別に我は評定を忘れている訳ではないぞ!

 

 壬月の注意に久遠は手をパタパタ降り顔を真っ赤にして否定する。

 その仕草の可愛らしさに皆から温かい笑いが起きた。

 

「わ、笑うなっ!もうよいっ!これにて評定は終わりだっ!各々、励めっ!」

 

『御意っ!』

 

 温かい空気に包まれながら評定は終えたが、これからは戦支度である。

 全員が気を引き締めて評定の間を後にした。

 

 

 

 

 久遠が美濃との決戦を告げてから三日後。

 ひよ子と転子は詩乃の書いた書状を携えて調略の為に旅立った。

 残った祉狼達、ゴットヴェイドー隊は二人を見送った後、その足で各隊の健康診断をする為に動き出す。

 そしてやって来たのは三若の調練場だ。

 広い空き地には和奏の黒母衣衆、犬子の赤母衣衆、雛の滝川衆が合同で槍の調練をしている声が響いている。

 

「黒母衣ぉーー!もっと声出せーーーっ!そんなんじゃ美濃の奴らがビビるどころか笑いだすぞっ!!」

「赤母衣ぉーー!黒母衣に負けてるよーーーっ!もっとお腹の底から声を出せーーーーっ!!」

「滝川衆はそこそこでいいよ~。動きを合わせるのに集中しよ~~~~!」

 

 和奏と犬子が張り合ってる中で、雛のやる気が無いんだか有るんだか判らない指示が飛ぶ。

 

「和奏!犬子!雛!やってるな♪」

 

「おう!祉狼か♪どうしたんだ?こんな所に来るなんて珍しいじゃんか。」

「犬子たちの勇姿を見に来てくれたのかな♪わん♪」

「和奏も犬子も何言ってんの……今日はゴットヴェイドー隊が健康診断しに来るって聞いてたから張り切ってたのに~。」

「え?……………あ、そうだったっ!!」

「張り切りすぎて忘れちゃってた………」

 

 三人のやり取りが祉狼には妹の三刃と従妹達を思い出させ、自然と顔が綻ぶ。

 

「ははは♪元気が有るのは良い事だ♪それじゃあ、調練の邪魔にならない様に五人ずつ俺の所に来るようにしてくれ。」

「わかった。おい!黒母衣一番組!こっちに来い!」

 

 和奏の指示で五人の屈強な武士が隊を離れてやって来る。

 母衣を纏う精鋭だけあって中々に精悍な面構えの青年達だ。

 そんな男達も従える母衣衆筆頭の和奏と犬子の武力は本当に高い。

 しかし壬月と麦穂、そして半羽がその遥か上に居るので、今のところ少々霞んで見えるだけなのだ。

 

「あらあら♪結構いい感じの男の子たちねぇ~~ん♪おネエさんが優しく健康診断してあげちゃうわよぉ~ん♥」

「うむ、中々に良いオノコたちだわい♪私が隅々まで調べてやろうではないか♪」

 

 黒母衣一番組の顔から血の気が引き、冷や汗を流して震え出す。

 

「詩乃は手筈通り、診断した人の名前と診断結果を記してくれ。」

「…………(コクッ)」

 

 祉狼の後ろで隠れる様に佇んでいた詩乃が頷き、台帳を広げ筆を手にした。

 

「よし、始めるから順番に…」

 

 祉狼が言い終わる前に黒母衣一番組の五人が祉狼の前に殺到した。

 

 詩乃はこの場に連れて来たが、狸狐と聖刀は来ていない。

 織田家中でも『斎藤飛騨守は信用できぬ』と言う声が大半を占め、今回の様な軍事に関する場には来ない方が良いと判断した為だ。

 聖刀と狸狐は現在山に入って薬草を集めている…………筈である。

 そしてもうひとりの天の御遣いである昴はというと。

 

「和奏ちゃん♪犬子ちゃん♪雛ちゃん♪指揮してる姿も可愛いかったわよ♪」

 

「うわあっ!出たな、昴っ!」

「和奏ってばビビってる~♪」

「和奏ちんはヘタレだね~♪」

 

「ビ、ビビってなんかないぞっ!ちょっと驚いただけだ!」

 

 それをビビってると言うと思うのだが、黒母衣衆の前なので武士の情けで突っ込むのは勘弁してやる犬子と雛だった。

 

「そう警戒しないで♪調練の様子を見たいだけだから♪」

「え?お前、祉狼の手伝いをしなくていいのかよ?」

「するわよ。幼女の時は♪」

 

 どこまでもブレない昴だった。

 

「母衣衆も滝川衆も男女比は半々なんだね。」

「実力主義だからな。母衣衆は強けりゃ男か女かなんて関係ないし。」

「それは滝川衆だって同じだよ~。」

「流石、久遠さまが期待する三若の隊だね♪気合が入ってる♪」

「そ、そうか♪えへへ、まあボクが鍛えてるんだからな♪美濃のやつらなんかこの三隊で蹴散らしてやるぜ♪」

「(わ~、和奏ってばちょろ~い♪)」

「(まあ、そこが和奏のいい所だよね~。ご飯も奢らせやすいし♪)」

 

 犬子の食費の半分は和奏が出している様なものなのだった。

 

「特にあの二人、筋が良いんじゃない?」

 

 昴が指差したのは田楽狭間で今川義元の頸を取った、元馬廻り組組長毛利新介と服部小平太だ。

 毛利新介は通称を桃子といい、黒髪ロングポニテでお姫様カットの女の子。

 服部小平太は通称小百合。亜麻色の長髪を三つ編みにし、両サイドが跳ねた髪型の女の子だ。

 二人共昴のどストライクである。

 

「あいつらは田楽狭間で大将首を取って黒母衣に出世したんだ。おおい!桃子!小百合!こっちに来い!」

 

 呼ばれた二人は列から抜けて和奏の下へ走って来る。

 

「「はい!なんでしょう、和奏さまっ!」」

「お前たちに昴を紹介しておこうと思ってな♪筋がいいって、昴が褒めてくれたぞ♪」

 

 和奏は黒母衣衆を自慢したくて呼んだのだが、桃子と小百合は昴を見て目を輝かせていた。

 

「「あ、ありがとうございますっ!わたしたち田楽狭間で降臨されるところを近くで見てましたっ!!」」

 

 声を揃えて見上げてくる桃子と小百合は、昴にしてみればネギを背負って近寄ってくる鴨そのもの。

 アリジゴクが獲物を捕らえる様に一瞬で二人を抱き締めた。

 

「ねえ!和奏ちゃんっ!この二人もらっていいっ!?いいわよねっ!よし決まりっ!!」

 

「良い訳ないだろっ!!」

 

「あら、和奏ちゃんったらヤキモチ?もう可愛いんだから♪」

 

「そんな訳あるかっ!!」

 

「あれ~?和奏は久遠さまのお屋敷であんな事までされちゃったのに、責任取ってもらわないのかな~♪」

「誤解される様な事言うなっ!」

「耳に息吹きかけられて、身体を触られたのに~?雛だったらもう他の人のお嫁に行けないな~♪」

「そうなの、雛ちゃん?だったら犬子も昴さまに責任取ってもらおうっ♪お尻とかおっぱいとかしっぽとか触られちゃったし♪」

 

 犬子は赤くなった頬を隠す様に両手で押さえ、しっぽを振ってモジモジしていた。

 

「犬子いいな~………雛もあの時触ってもらえば良かったかも~………」

「ちょ、おい、雛!?お前こいつの事好きなのかよ!?」

「うん♪好きだよ~♪祉狼くんって何か面倒臭そうだし、聖刀さんはあの飛騨守の姿見たら怖くなっちゃったしねぇ…………何より昴ちゃんは一緒にいて楽しいし♪」

 

 昴は予想外の展開に驚いていた。

 和奏の反応が昴には慣れ親しんだ物で、雛と犬子の様なこんなに美味しい展開は今まで経験した事が無い。

 

「あの………わたしも貰っていただけるなら…………」

「桃子、ずるいぞ!わ、わたしも昴さまの妻にしてください!」

 

「いいわよっ!!みんなまとめてお嫁さんにしてあげるっ♪」

 

 経験した事が無くとも迷わず即答する昴だった。

 

「なに即答してんだよ、昴!桃子も小百合もこいつはこんな格好してるけど、男なんだぞ!!」

「「はい、知ってますけど?」」

「和奏ちん何言ってるの?結婚相手が男とか女とか関係ないよね?お家の為にいつかはお婿さんを探さなきゃいけないけど、昴ちゃんならその点好都合~♪」

 

「ちょ、ちょっと待って、雛……何だかボク頭が混乱してきた………」

 

 ここで読者の方にも混乱されている方がいらっしゃるかも知れないので解説しておこう。

 この外史では久遠と結菜の様に家同士を結び付ける為に女性同士の婚姻も普通に行われているのだ。

 いや、もしかしたら原作でも登場してないだけで、男性同士の婚姻も有り得るのかも知れない。

 

「和奏ちゃん………」

 

 昴は真剣な顔で和奏の背に合わせ、腰を落とした。

 

「こ、昴………」

 

「私は和奏ちゃんの事、大好きだよ♪」

 

「す、少し考えさせてくれっ!」

 

 和奏は昴に背を向けてしまう。

 本当はこの場から走って逃げたかったが、黒母衣衆筆頭として調練を放っては行けないという責任感からだ。

 昴もそれを察してこれ以上は和奏に声を掛けない事にする。

 そんな昴の背中を雛が突っついた。

 

「(昴ちゃん♪後は雛達にお任せだよ~♪)」

 

 

 

 

 調練を終えた三若は汗を流す為に清洲城の沐浴場に来ていた。

 雛は昴の話の続きをする為に桃子と小百合も付き合わせている。

 湯船に張ってあるのは水だが、夏の昼なのでむしろ涼しく心地よい。

 和奏は腰掛けて桶で掬った水を頭から被った。

 

「ふうぅーーーーっ!」

 

 頭が冷えた所でもう一度昴の事を考える。

 しかし、直ぐに初めて試合った時の触られた感触を思い出し、身体と顔が火照ってくる。

 

「っーーーーーーーー!!」

 

 和奏は火照りを鎮めようと何度も水を被り続けた。

 

「和奏~、ひとりでそんなに水を使わないでよ~」

「和奏が井戸から水汲んできてよ!」

「わ、和奏さま!わたし手伝いますから………」

「わ、わたしも…………」

 

 湯船の周りには雛、犬子、桃子、小百合が和奏と同じ様に全裸で腰掛けていた。

 

「なあ、なんでお前らは昴の嫁になるなんて言い出したんだ?」

 

 頭が冷えたからか、素直な疑問を口に出せた。

 それには小百合が真っ先に答える。

 

「田楽狭間の時………わたしは必死に戦いましたけど、帰ってきてから急に怖くなったんです………わたしは和奏さまほど強くないし、次の美濃攻めで命を落とすかも知れません。やり残したって後悔を抱いたまま死にたくないです!」

「わたしもです!女の悦びを知らずに死にたくない!そしてできるなら昴さまみたいに美しい人に抱かれたいです!」

 

 桃子の直接的な物言いに和奏の顔が再び火照って来た。

 

「母衣衆は精鋭ですからより危険な所で戦います。それは武士の誉れですから嬉しく思います。そして母衣衆の先輩たちから教わりました。先輩たちもみんな連添いがいるからわたしたちも早く想いを遂げておけと…」

「ちょっと待てっ!」

「はい?」

「黒母衣の連中がみんな!?」

「はい、黒母衣だけでは無く、赤母衣も………母衣衆同士で恋仲の方達も多勢いますが…」

 

「あ~、和奏ちんも遂に知ってしまったね~♪母衣衆の中で処女なのはここに居る四人だけなのでした~」

 

「そ、そう言う滝川衆はどうなんだよっ!」

「いや~、滝川衆は雛に遠慮してまだの子が居るみたいなんだよね~。その子達の為にも雛は昴ちゃんのお嫁さんになろうと思ったのでした~」

「ひ、雛はそれでいいのか!?」

「いや~♪これは建前で~、本当はこれを言い訳にして昴ちゃんに迫ろうと狙ってたんだよね~♪」

「……………………………」

「犬子は純粋に昴さま好きだし♪」

「犬子はいいよね~。凶悪な武器を持ってるんだもん。本当に雛と同い年?」

「きゃん!雛ちゃん揉んじゃらめぇ~~~!」

 

 雛が犬子の年不相応なおっぱいを両手で揉みだした。

 因みにこの五人のおっぱいの大きさは

 小百合<雛<和奏<<桃子<<(超えられない壁)<<犬子

 である。

 

「和奏は昴ちゃんのこと嫌い?」

 

 雛は真剣な顔で和奏に問い掛けた。

 犬子の胸を揉みながら。

 

「ボ、ボクも…………好き…………かも…………」

 

 蚊の鳴くよう声だが沐浴場なので声は響き、しっかりと他の四人に伝わった。

 

「と、いうわけで~♪」

 

 雛は犬子のおっぱいから手を離した瞬間に姿を消した。

 滝川家お家流蒼燕瞬歩で戸口に移動し一気に開く。

 

「あ…………」

 

 そこには覗き見をしていた昴が居た。

 

「うわあぁああああっ!こ、昴っ!!」

「しまった!欲望に負けて動けなかったわっ!!」

 

 つまり雛の姿が消えた瞬間にバレたと気付いたのだが、意思に反して目と身体が四人の裸を見続ける事を選んだのだ。

 

「気配を消しても犬子の鼻はごまかせないよ、昴さま♪」

 

 犬子は仁王立ちでふんぞり返る。

 雛におっぱいを揉まれている時に、昴に判らない合図を送っていたのだ。

 曝け出された犬子の裸に昴の動きが完全に止まり、その隙に雛が昴を縛り上げる。

 

「あのぅ………これから私はどうなるのでしょう?」

 

 雛の捕縛術は完璧で、力を入れられない形に縛られ身動きを完全に封じられた。

 

「そうだね~♪貂蝉ちゃんと卑弥呼ちゃんにこのまま渡しちゃうってどうかな~♪」

 

「それだけはやめてっ!」

 

 昴は本気で怯えた。

 

「冗談冗談♪これから既成事実を作って~、昴ちゃんを雛たちのモノにしちゃいま~す♪」

 

「え?」

 

「犬子、昴ちゃん運ぶの手伝って~」

「ほいきた♪」

 

「雛!犬子!前くらい隠せっ!」

 

 和奏、桃子、小百合は座ったまま腕で前を隠し昴に背中を向けていた。

 

「もう既成事実は始まっているのだ~♪こうやって裸を見せて雛から離れられない様にしちゃうもんね~♪」

「そ、そういう事なら………」

「わ、わたしも………」

 

 沐浴場の床に仰向けで寝かされた昴に桃子と小百合も手を離して近寄って行く。

 

「お、お前ら~~~!」

 

 和奏は自分の肩越しに昴を確認すると、スカートを押し上げる何かが在るのを見てしまった。

 

「むふふ~♪それでは早速裾を上げて~………」

 

 昴は夢ならば覚めるなと強く想った。

 長年昴が焦がれてきたシチュエーションが今正に始まろうとしている。

 

 

 

 そして二時間後。

 終わった時には沐浴場に精液と愛液が飛び散り大変な事になっていた。

このまま逃げる訳にもいかず、六人はフラフラになった腰で掃除をしたのだった。

 

 

 

 その日の夜、昴は吉祥の水晶玉で一文を送った。

 

【楽園を手に入れました。  昴】

 

 

 

 

「昴、今日も楽しそうだな♪」

「うふふ〜♪わかるぅ?わかっちゃう?んふふふふ〜〜〜♪」

 

 昴が和奏達と結ばれてから五日が経っている。

 その五日間も昴はこんな調子で浮かれていた。

 聖刀は昴に何が有ったのか直ぐに察して温かく見守っている。

 祉狼はまるで判っていなかったが、昴がこんなに喜んでいる姿を見るのは初めてだったので、素直に喜んでいた。

 

「あの………祉狼さま、これは薬草で間違いないでしょうか?」

「ああ、大丈夫だ、詩乃。朱里おばさんも薬学は修めていたから『今孔明』を名乗るなら詩乃も薬草を覚えないとな♪」

 

 ゴットヴェイドー隊は今、薬草を集めに清洲から北東の山に来ている。

「自ら名乗っている訳ではありません。……ありませんが、祉狼さまの所縁(ゆかり)のある方と思うと、今はこの渾名に恥じない人間になりたいと思います。」

 

 静かな物言いの詩乃だが、祉狼にはその意気込みが感じ取れ、応援しようと心密かに決意するのだった。

 そうやって祉狼達が薬草を集めている間に、昴はひとり山菜を採っていた。

 

「犬子ちゃんはたくさん食べるからなあ♪これでご飯作ったら喜んでくれるかなぁ♪」

 

 もう、どっちがお嫁さんか判らない呟きを漏らしている。

 

「ねえ、狸狐♪帰ったら一緒にお料理しましょう♪」

 

 ひとりでせっせと薬草を集めている狸狐に声を掛けた。

 しかし、狸狐は振り返る事無く、小さな声で呟く。

 

「………わ、私は料理が下手だから………」

 

 聖刀以外にはまだ心を開いていない狸狐はそう言い訳して逃げるつもりだった。

 

「それは利用しないとダメよ!」

 

「は?」

 

 昴に真剣な顔で手を握られて狸狐は戸惑う。

 

「聖刀さまは料理が得意でしょ!教えて下さいと言えば手取り足取り教えてくれるわよ♪」

「え?……………いいのか?」

「………………何が?」

「昴もご主人様の従者だろ?私が出しゃばると良い気がしないんじゃないのか?」

 

 狸狐は聖刀の事をご主人様と呼ぶ様になっていた。

 これは桃香たち蜀の者が一刀を呼ぶのと少し意味合いが違う。

 狸狐の場合はM奴隷のそれだった。

 

「狸狐!聖刀さまの事は任せるわ!私も真実の愛を知ってあなたの気持ちが判ったの!応援するから頑張って!」

 

 昴は狸狐の肩を掴み、真剣な顔で語った。

 

「私を…………応援………」

「ええ♪私は聖刀さまの幼馴染みだけど、恋愛感情はすりゴマのかけら一粒だって無いから安心して♪むしろ狸狐が聖刀さまと一緒に居られる様に何でも教えてあげるから、頑張るのよっ!」

 

 狸狐は生まれて初めて真の友を得た喜びに目頭が熱くなる。

 

「今の最大の障害は私の師匠達の…………そう言えば師匠達はどこに行ったのかしら?」

 

 昴が顔を上げて辺りを見回した時、貂蝉と卑弥呼の雄叫び(?)が聞こえてきた。

 

「うっふぅうううううううううん!!」

「ぬっふぅうううううううううん!!」

 

 その直後、昴、狸狐、祉狼、聖刀の前に貂蝉と卑弥呼が木々の中から飛んで来た。

 更に二つの影が貂蝉と卑弥呼を追って現れる。

 

「ヒャッハアアアアアアアアアア♪こんな強ぇえ鬼ははじめてだぜっ♪」

「おらおらおらおらぁあああああああああっ!もっと楽しませて見せろやぁああああああ♪」

 

 それは織田家の武将、森三左衛門尉桐琴可成(もりさんざえもんのじょうとうこよしなり)森勝蔵小夜叉長可(もりかつぞうこやしゃながよし)の母娘だった。

 森の母娘は祉狼達が現れてから今まで一度も登城していないので、これが初顔合わせとなる。

 

「どうしてみんなこんな美女とっつかまえてお兄さんなんていうのかしらっ!!」

「貂蝉よ!これは我らが本当の美と云う物を教えてやらねばなるまい!」

 

 森母娘と漢女二人の怪獣大決戦の幕が切って落とされた。

 

「ちょっと待ったぁああああっ!!」

 

 と、思ったら四人の間に昴が割り込んだ。

 桐琴と小夜叉がその程度で止まる筈も無く、蜻蛉止まらずと人間無骨が容赦無く昴に襲い掛かる。

 昴は二丁の筆架叉(ひっかさ)を両手で構え、右で桐琴の『蜻蛉止まらず』を、左で小夜叉の『人間無骨』を受け止めた。

 

「ぁあっ?んだてめぇはっ!鬼といっしょにぶっ殺すぞっ!」

「ほう、ワシの槍を片手で止めるか♪面白れえっ!鬼より先にぶっ殺してやんよっ!」

「母!こいつ殺すのはこのオレだっ!」

「なんだとクソガキ!ワシの獲物を横取りしようなんざ十年早ぇえんだよっ!」

「んだとコラァ!先にテメェからぶっ殺すぞっ!」

「面白い、()れるもんなら()ってみせろやあ!クソガキィ!!」

 

 あっと言う間に母娘喧嘩になってしまった。

 これには祉狼も聖刀も唖然とさせられた。

 

「何なんだ、この人達は?」

「誰かは知らないけど、母親の方は雪蓮母さんと同じ匂いがするね♪声は思春母さんに似てるけど♪」

 

「祉狼さま。聖刀さま。あの二人は織田家の家臣、森可成殿と娘の森長可殿です。」

「竹中!何を落ち着いているっ!ご主人様と祉狼さまを早くご避難差し上げなければ!」

「狸狐、詩乃ちゃんの事は通称で呼ぶ様に言ったよね。」

「も、申し訳ございません……………お、お叱りは後で受けますので、今は早くこの場をお離れ下さい!」

「そんなに慌ててどうしたんだ?」

「久遠ちゃんの家臣なら言って聞かせれば大丈夫じゃない?」

「その前に鬼が現れますっ!」

 

「「鬼………」」

 

 祉狼と聖刀は以前に久遠から説明された『鬼』の事を思い出していた。

 

「祉狼さま、聖刀さま、彼女の言う『鬼』は、巷を騒がせている『鬼』ではありません。織田家には鬼が四匹棲んでいると美濃では言われています。ひとりは『鬼柴田』,もうひとりは『鬼五郎左』、そしてあそこにいらっしゃる『鬼三左』。そしてもうひとりが…」

 

 

「桐琴さんっ!小夜叉っ!一体何をやっているんですかっ!」

 

 

 その一喝の凜とした声に動きを止められたのは桐琴と小夜叉だけでは無く、祉狼と聖刀もであり、詩乃と狸狐に至っては息をするのを忘れる程だった。

 しかし、祉狼と聖刀はこの声を知っていた。

 それは貂蝉と卑弥呼、そして昴もである。

 

「………ふぅ………あれが四人目の鬼………『鬼兵庫』各務兵庫助元正(かがみひょうごのすけもとまさ)殿です………」

 

 息を吹き返して詩乃が説明すると、祉狼が驚いた顔で木々を抜けて現れた女性を見た。

 その女性、各務元正は詩乃や結菜よりもお姫様然とした上品さを感じさせる雰囲気をもっている。

 祉狼達ゴットヴェイドー隊は各務とは評定で何度も顔を合わせ言葉も交わしていて初対面ではない。

 しかし、今の話は初耳だ。

 

「こ、これは祉狼さまっ!聖刀さまにゴットヴェイドー隊の皆様もっ!お、お恥ずかしい処をお見せしました………」

「いや………………………各務さんが『鬼兵庫』?」

「あ、あら♪祉狼さまったらイヤですわ♪オホホホホ♪」

 

 口元を袖で隠して笑う仕草も実に様になる美人である。

 

「なんだぁ、各務。その儒子共は知り合いかあっ?」

「この方は久遠さまのご夫君となられた華旉伯元祉狼さまですっ!だから一度登城してくださいと言っていたでしょう!?」

「ああ、半羽が年甲斐もなくはしゃいでおったアレか。婿殿婿殿とテメェの方が嫁になったみたいに浮かれおって!」

「それはいいですから桐琴さんは挨拶をしてください!」

「あ?おお、良く聞け儒子共!ワシが森家棟梁、森三左可成よ!桐琴と呼べ!」

 

 とても主君の夫に対する態度では無いが、祉狼は(へりくだ)られるよりも好感を持った。

 

「俺は華旉伯元。通称は祉狼だ。好きに呼んでくれ、桐琴さん。」

「ほう、中々良い面構えの儒子じゃのう。宜しくしてやろう。」

 

「だ・か・らーーーっ!祉狼さまと呼んで下さいっ!」

 

「なんじゃ、儒子が好きに呼べと言っただろうが。そんなに拘るとはこの儒子に惚れたか?」

「な、何を言ってるんですかーーーーーーっ!」

 

 各務は真っ赤になって腕を振り回した。

 

「ワシが認めたら名前を呼んでやるぞ、儒子♪」

「判った。いつか名前を呼ばせてみせるよ♪」

「ぶわっはっはっはっ♪いい度胸だ!しかし、各務には気を付けろよ。油断しておると股間の一物を咥え込まれるぞ♪」

 

「人を淫乱みたいに言わないでくださいっ!!

 

「各務ぃ、挨拶の最中に騒ぐな♪」

 

 桐琴が各務とのやり取りを楽しんでいるのが良く解り、聖刀は笑って自己紹介をする。

 

「初めまして。僕は北郷聖刀。祉狼の従兄です。」

「ほう……………宜しくしてやろうではないか、聖刀。」

 

 桐琴は祉狼の時とは違い、最初から名前を呼んだ。

 ひと目で聖刀を認めたという事だ。

 

「わたしは貂蝉よ〜」

「私は卑弥呼である。」

「なるほど貴様らが。各務が言っておった通りだな♪」

「桐琴さんはさっき、二人を鬼だと言ってなかったか?」

「鬼だとぬかしていたのはクソガキじゃ。ワシは面白いから黙っておったがな。がっはっはっはっ♪」

 

「気が付いてたのなら戦わないでくださいっ!」

 

「阿呆ぅ!強い奴がいたら死合ってみたくなるだろうがっ!」

 

 祉狼も聖刀も桐琴と同じ事を言う人達をよく知っていた。

 祉狼は何故桐琴に好感を持ったのか納得がいった。

 

「そういやさっきワシの槍を止めた儒子、あいつも面白い♪」

「儒子って、桐琴さんは昴が男だと判ったのか!?」

「ああっ!?ワシの目が節穴だと思っておるのかっ!?」

「すまん、侮っていた。久遠も壬月さんも気付かなかったから、そういう物なのかと思っていた。」

「ほほう、素直な奴は嫌いではないぞ♪で、あの儒子は昴と言うのか。あそこまでクソガキを翻弄するとは大した奴だ♪」

 

 桐琴が振り向いた先では昴と小夜叉がまだ戦っていた。

 

「カワイイーー♪そのサラシ姿がたまんな〜い♪」

「か、かわいいとかぬかすんじゃねえっ!ぶっ殺すっ!ぜってーぶっ殺すっ!」

 

 小夜叉の連続攻撃を全て捌きながら、昴は笑顔を絶やさず話し掛けていた。

 しかも攻撃している筈の小夜叉の方がジリジリと下がり始めている。

 

「このクソがっ!森の小夜叉をナメんじゃねえっ!!」

「お名前小夜叉ちゃんって言うのね♪私は昴よ♪末永く宜しくね♪」

「なにが末永くだっ!すぐにあの世に送ってやんぞ!ゴルァアアッ!!」

 

 小夜叉に可愛いと言うと照れて動揺するので、昴は萌えて萌えて歯止めが利かなくなっていた。

 小夜叉は自分が昴に無限の力を与えているとは夢にも思っておらず、服が乱れるのも構わず攻撃し続ける。

 昴の嬉々とした表情を見て狸狐はジト目で呟く。

 

「………さっき言ってた『真実の愛』は何処に行った………」

 

 その様子を子供のじゃれ合いとカラカラ笑って、桐琴は祉狼達に向き直る。

 

「まあ、向こうは勝手に遊ばせとけや。では挨拶も終わったし、死合うとするか♪」

 

「死合いませんっ!!」

 

「んだとぉ、各務ぃ、目の前に強い奴が居るのに死合いをせんとか有り得んだろうがっ!」

 

「無いのは桐琴さんの常識です!鬼退治の途中なんですから、鬼を殺して我慢してくださいっ!」

 

 各務の言葉にゴットヴェイドー隊の全員が反応した。

 

「桐琴さん!俺達を鬼退治に連れて行ってくれ!」

「だめじゃ。」

 

 桐琴に即答されたが、それで諦める祉狼ではない。

 

「何故だっ!?」

「ワシのぶっ殺すっ分が減るだろうがっ!」

 

 各務はホトホト呆れ果てて桐琴に意見する。

 

「桐琴さん。そこは嘘でも殿に心配させないためと言ってください……………」

「じゃあ、殿に心配させないためだ。」

「久遠と結菜には後で俺が謝る!鬼に手出しもしない!」

「よしわかった!ついて来いっ!」

 

 

 

 

 祉狼達ゴットヴェイドー隊は森衆と合流して鬼退治に向かう。

 片や救助隊、片や最凶の殺人集団、これほど両極端な組み合わせも無いだろう。

 

「詩乃は鬼を見た事有るか?」

 

 鬱蒼とした木々が生い茂る山道を歩きながら祉狼は問い掛けた。

 

「いえ………鬼が現れる様になって一年近くなりますが、私はまだ鬼の実物を見た事が有りません。」

「鬼が現れる様になって一年?それまで日の本には鬼が居なかったのか?」

「はい。鬼とはお伽噺に出て来る物で、この噂が囁かれ始めた頃は何を馬鹿なと皆が思っていました。しかし被害が増え、山狩りを行う事になり、漸く武士の多くが鬼を目にして実在する怪物と認識されました。それでも私が目にしてないのは、鬼は死ぬと塵になってしまい死体が残らないからです。」

 

 詩乃の話を聞いた祉狼達は渋面で唸った。

 

「死体が塵になるという所で、もうまともでは無いな。聖刀兄さん、これは炙叉叔母さんの領分じゃないか?」

「そうだね………妖術か呪術か………とにかく鬼は生態系の中にいる存在ではないだろう。」

 

 祉狼達は一刀や二刃から吸血鬼の話も聞いた事が有ったので、それに近い存在ではと推測をした。

 

「おい、いたぞ。見るなら早く見ろ。オレは早く殺りたくてウズウズしてんだからよ。」

 

 物騒な物言いはともかく、小夜叉の示した先の木々の合間に動く影が居た。

 二足歩行をしているので、基本的な肉体構造は人間に近いと言えるが、その見た目は猿の方が遥かに人間に近い。

 長く鋭い牙と、手が爪と一体化して、まるで蟷螂の様な腕。

 全身がゴツゴツとした筋肉に覆われ膂力はかなり有る事が解る。

 

「…………あれが…………鬼………」

 

 詩乃と狸狐も実際に目の当たりにするのは初めてなので、その姿に怖気が走った。

 

「聖刀兄さん………気付いたか?」

「ああ…………あの氣…………とても人に近い………だけど人では絶対に有り得ないドス黒い氣………」

 

 祉狼と聖刀は先程の推測が概ね間違いではないと確信する。

 貂蝉と卑弥呼は眉間にシワを寄せ、黙して語らない。

 昴はというと、小夜叉を背後から抱いて頭を撫でていた。

 

「小夜叉ちゃん、あんなのを何匹も殺したの?すご~い♪」

「何匹じゃねえ!もう百匹は殺してんぞ!オレをナメんなよ!」

 

「ようし、もういいだろ。おい、孺子。ここからはワシらの狩り場だ。邪魔するとぶっ殺すぞ。」

 

 桐琴が蜻蛉止まらずを担いで一歩前に出る。

 

「判った。桐琴さん、武運を。」

「は!こんなもん只の憂さ晴らしよ!だが、ありがとよ♪」

 

 桐琴はニカッと笑ってから前を向く。

 

「おう!クソ野郎共!鬼共を(みなごろし)にすんぞっ!!」

『ひゃっはああああああああああああああああああああ!!』

 

 森衆の奇声に鬼が気付き、こちらへ向かって襲い掛かって来る。

 その動きは鈍重そうな体格とは裏腹に俊敏で、あっと言う間に間合いが詰まる。

 鬼と人修羅の戦いが始まったのを、桐琴に言われた通り見守るゴットヴェイドー隊に各務がやって来た。

 

「祉狼さま。桐琴さんの態度の悪さ、この各務元正、心よりお詫び申し上げます。」

「俺は気にしてないよ。むしろサバサバして気持ちいいくらいだ♪」

「そう言って頂けると安心します♪」

 

 各務は上品な仕草で頭を垂れた。

 

「そう言えば、俺は各務さんの通称を聞いてないな。教えてもらってもいいだろうか?」

「あら、わたくしとした事が。わたくしの通称は雹子(ひょうこ)と申します♪」

「雹子さんだな♪これからはそう呼ばせてもらう♪」

「はい♪」

「所で、雹子さん、ひとつ訊きたいんだが、森衆はいつもこうやって鬼退治をしているのか?」

「はい。初めの頃は桐琴さんと小夜叉が狩りと称して行っておりましたが、久遠さまから正式に鬼退治の下知を頂き、日々勤しんでおります。」

「それじゃあ鬼の被害報告が無いのは森衆のお陰なんだな♪ありがとう、雹子さん♪」

 

 定番となってきた祉狼の『お姉さま殺しの笑顔』に当てられて、雹子の顔が赤くなる。

 

「い、いえっ!我ら森衆は戦う事しか出来ないクズ……いえ、半端者ばかりでございますから、せめて民を守るお役に立たねばお天道様の下を歩けませんので♪」

「そこまで謙遜しなくてもいいだろう。それだけ鬼の相手をしているなら後で鬼の事を教えてくれないか?」

「後で………そうですね、では身支度を整えて今夜にでも♪」

「え?いや、帰り道で構わないんだが………」

 

「あ、あら、オホホホ♪わたくしったら早とちりを♪」

 

 この時、詩乃は桐琴の言った事があながち冗談では無いと確信した。

 そして、その桐琴は小夜叉と共に鬼を殺す事に集中している。

 

「「おらおらおらおらぁあああああっ!死ね死ね死ね死ね死ねぇえええええっ♪」」

 

 いや、鬼を殺す事を楽しんでいた。

 母娘の攻撃範囲の外に昴の姿が有り、槍を持って走り回っている。

 鬼は昴を見付けると森衆と戦っている最中でも追い掛けて来た。

 昴は鬼を引き連れて桐琴と小夜叉の前に戻ると、槍を使って棒高跳びの要領で二人を飛び越える。

 

「小夜叉ちゃん!桐琴さん!集めて来たわよっ!」

「でかしたっ♪」

「気が利いてんじゃねえか、テメェ♪」

 

 後はもう母娘の一方的な殺戮劇で、鬼がぐっちょんぐっちょんにされていく。

 

「雹子さん、鬼は何故昴を追い掛けるんだろう?」

「それはきっと昴さんが美しい女子(おなご)の姿だからでしょう。鬼は人を喰らうだけではなく、人里で女子を攫っては孕ませ、鬼子を産ませるのです。」

 

 雹子の話に詩乃と狸狐は青ざめ、祉狼と聖刀は怒りの表情を顕にした。

 

「んまっ!こわいわぁ~!わたしも捕まったら、あ~んな事やこ~んな事をされちゃうのね。」

「うむ。私も気を付けねばなるまいな………」

 

 むむむと唸る貂蝉と卑弥呼に色々と突っ込みたい雹子だったが、取り敢えず引きつった笑顔を浮かべるだけに止めた。

 

 

 

 

 鬼退治を終え、ゴットヴェイドー隊は清洲へと戻って来た。

 森衆は根城へと戻って行ったが、雹子は久遠への報告の為にゴットヴェイドー隊と同行し、その道すがら鬼の事を詳しく語った。

 清洲城で雹子の報告を聞いた久遠は、祉狼が鬼退治に同行したと知り、一瞬だが心配する顔を見せる。

 その一瞬を見逃さなかった聖刀は、久遠の為にも策を講じる事にした。

 

 

 

「久遠。結菜。また心配を掛けた。」

 

 久遠の屋敷の一室で、祉狼は正座をして二人に頭を下げている。

 久遠と結菜は祉狼の前に座り、聖刀からの手紙を手にしていた。

 その手紙にはこう書かれている。

 

『祉狼には鬼退治に同行した事を許してもらえるまで戻って来てはいけないと言い聞かせてあります。

今なら祉狼は何でも素直に言う事を聞くでしょう。

 

追記

雹子さんも祉狼に熱い視線を送っていたので焦った方がいいよ。』

 

 久遠と結菜は目を見合わせた。

 

「(…………雹子もなのか………)」

「(普段は大人しいけど、雹子も森一家ですものね………麦穂みたいに我慢は出来ないでしょう………)」

「(なにっ!?麦穂もなのかっ!?)」

「(やだ、気付いて無かったの?まあ、久遠はそういうの鈍いからしょうがないか………)」

「(どうせ我はうつけだ………)」

「(拗ねないの。それよりも久遠。今日は先日の雪辱を果たすわよ!)」

「(まるで合戦みたいだな………)」

「(みたいではなくてこれは合戦よ!前回は初めから弱気になっていたから負けたのよ。)」

「(デアルカ!成程、納得がいった!)」

「(私に考えが有るから合わせて頂戴。)」

「(うむ、心得た!)」

 

 久遠と結菜は頷き合って祉狼を見た。

 

「それでは、祉狼。私たちを心配させた罰よ!お風呂に入りなさい!」

 

 祉狼は顔を上げて首を捻った。

 

「罰なのに風呂に入るのか?」

 

 祉狼にとっては風呂とは湯治を意味するので罰とまるで結びつかない。

 

「口答えしないの!いいと言うまで上がっては駄目よ!」

「わ、判った…………では風呂に入ってくる………」

 

 結菜の剣幕に押されて祉狼は風呂場へと向かった。

 脱衣所で服を脱ぎ、桶で湯をかけて汚れを落としてから湯船に浸かった祉狼は、ここへ来る前に聖刀から言われた事を思い出していた。

 

『祉狼は二人の言う事をよく聞いて、言う通りにするんだよ。決して自分から二人の為に何かをしてあげようとはしない事。』

 

 聖刀は祉狼から先日の話しを聞いて、自分のミスを悟っていた。

 祉狼は自分の子供の頃と同じ勘違いをしていると気付き、自分の反省点を踏まえて祉狼に言ったのだった。

 

「聖刀兄さんも姉さん達に怒られていたけど、翌日には許してもらっていたからな。きっとあの言葉は聖刀兄さんの極意に違いない。なんとしても会得しなくては!」

 

 固く心を決めた時、脱衣所に結菜と久遠の気配が入って来たのが判った。

 風呂から上がれと言われるのかと思ったが、二人の言葉を待つのだと自分に言い聞かせる。

 脱衣所から衣擦れの音が聞こえ、服を脱いでいるのだと気付いた直後に風呂場の戸が開いた。

 

 一糸纏わぬ久遠と結菜の身体が、窓から注ぐ月明かりを浴びて輝いて見えた。

 

「綺麗だ…………」

 

 祉狼は感じたままを呟いていた。

 祉狼自身、呟いた事に気付いていない。

 

「ほ、本当か!?う、嘘だったら承知せんぞ!!」

 

 久遠が顔を真っ赤にして怒鳴る。

 久遠の照れ隠しなのだが、恥ずかしくても手で身体を隠そうとはしない。

 いや、決意を鈍らせない為に手を背後で組んで隠さない様にしていた。

 

「え?…………何がだ?俺は何か言ったのか?」

 

 祉狼が本気で戸惑っているので無意識に呟いたのだと気付き、久遠と結菜は嬉しさが込み上げて来る。

 

「気にしなくていいのよ、祉狼♪私達も入るわね♪」

 

 風呂に入る為には足を上げて湯船の縁を跨がねばならず、結菜は少し躊躇ったが意を決して足を上げた。

 祉狼が目を離さず見ている。

 見ているが、その顔に動揺がまるで無い。

 そこで結菜の女の勘が鋭く働いた。

 

「祉狼…………あなた、女の裸に見慣れているでしょう。」

「ん?ああ、生まれた時から叔母さん達と従姉妹達と風呂に入っていたからな。」

 

 それを聞いた久遠はムッとした顔になり、見せ付ける様に足を上げて湯船に入る。

 祉狼の目は賞賛の色を湛えているが、どうも体全体を見ていると久遠も気が付いた。

 

「おい、祉狼。お前は先程、我と結菜の裸を見て綺麗だと呟いたのだ。それが偽らざる本心だと我にも判った。しかし、どうにも違和感が拭えん。お前は我と結菜の裸の何を見ているのか申してみよ!」

 

「骨格と筋肉と脂肪の付き具合、肌の張りと傷の有無、疾病疾患の兆候の有無といった所だが…………」

 

 久遠と結菜は祉狼がとことん医者なのだと思い知って小さく嘆息した。

 しかし、気を取り直して二人は湯船の中で祉狼を左右から挟む様に座り、身体を密着させる。

 

「祉狼、貴様の何が問題かやっと判った。」

「……………やはり俺には問題が有るのか…………」

 

 項垂れて弱気な姿を見せられるとどうしようもなく保護欲が湧いてくる。

 

「祉狼は医者だからどうすれば子が出来るか知っているな。説明してみろ。」

「うん?陰茎を女性の膣に入れ、子種となる精液を注ぎ込み、女性の子宮で卵子と結び付き胎児となり、十月十日で生まれてくる。」

 

 久遠と結菜に卵子の知識は無いが、今問題とするのはそこでは無い。

 

「貴様は性の知識は有るが、色事の知識はどうだ?」

 

「いろごと?」

 

 この返事が全てを語っていた。

 これは祉狼の持って生まれた性格も有るが、華琳達が二刃に気を遣ってその手の話題から遠ざけたからである。

 一刀(歩く性書)が三人も居るので、やるからには徹底しなければと息込んだ結果やりすぎてしまったのだった。

 

「いい?祉狼?今日はあなたに色事の意味を教えてあげる。これがあなたへの罰で、私達が許してあげるまで続けるわよ♪」

 

 結菜は湯の中で祉狼の股間に手を伸ばした。

 

 

 

 一時間後。

 祉狼は結菜の柔らかく大きなおっぱいに顔を埋めて倒れ込んでいた。

 

「祉狼………?」

 

 結菜が心配して顔を覗き込むと、祉狼は静かな寝息を立てている。

 久遠も結菜に寄り添って祉狼の顔を覗き込んだ。

 

「ふふ♪可愛い顔をしておるくせに、こんな豪槍を持ちよって♪」

 

 眠る祉狼の頬を久遠と結菜は笑って突っついた。

 

 

 

 

 祉狼が久遠と結菜と結ばれてから十日後、ひよ子と転子が調略から帰って来た。

 その報告を評定の間で聞いた久遠は集まっている面々を見回す。

 壬月、麦穂、そして墨俣にいる半羽の名代として、長女の佐久間信栄(のぶひで)

 桐琴の名代、雹子。

 和奏、犬子、雛の三若。

 ゴットヴェイドー隊の聖刀、昴、ひよ子、転子。

 

 そして、隣に座る祉狼。

 

「近々出陣となるであろう!皆、いつ陣貝(かい)が聞こえても良い様、心掛けよ!」

 

『御意っ!!』

 

 評定はこれにて終了したが、誰も立ち去ろうとはしない。

 全員の目が久遠と祉狼の繋がれた手に注目していた。

 

「どうした?皆何か話が有るのか?」

 

 代表して壬月が発言する。

 

「いえ………その……殿と祉狼の仲が以前よりも更に睦まじくなっておられると思いまして…………」

「べ、別に我と祉狼は夫婦なのだから問題なかろう!もう評定も終わっておるのだ!」

「評定の最中も時々手を握っておいででした様に記憶しておりますが?」

「我は覚えておらんぞ。勝手に背中でも腹でも痒くなっておれ!」

 

 聖刀は堪えきれずクスクス笑いだした。

 

「まあまあ、壬月さん♪ここは素直に祝福して、早くお世継ぎが出来る事を願いましょう♪」

「か、仮面!貴様はどっちの味方だっ!お前が気を利かしてくれたから我は祉狼と…」

 

 久遠は口が滑ったと慌てて両手で口を塞いだ。

 しかし、時すでに遅しで、何が有ったのか全員が察した。

 

「勿論、織田家の味方だよ♪」

 

 聖刀は飄々と言ってのける。

 

「ああ!もうよいっ!ついでだから申し渡す!もし祉狼の愛妾になりたいと申す者が居るなら、必ず結菜の許可を取れ!我に言える事は以上だっ!」

 

「え!?鬼蝶さまにですかっ!?」

 

 聞き返したのは雹子だった。

 

「ん?なんだ、流石の鬼兵庫も『鬼蝶』は苦手か♪」

 

 久遠がニヤリと笑う横で、祉狼は首を傾げていた。

 

「祉狼、織田家には四匹の鬼以外に隠れた鬼が居るんだってさ♪『帰蝶』ではなく鬼の蝶と書いて『鬼蝶』だそうだよ♪」

 

 『帰蝶』だと思っていた祉狼は、聖刀の説明で久遠と雹子の会話の意味が判った。

 そして反論を口にする。

 

「結菜はとても優しいぞ。どの辺りが鬼なんだ。」

 

 この言葉に、結菜が祉狼をどれだけ甘やかし、溺愛しているかをこの場の者達は理解した。

 

「お頭が結菜さまに飼いならされていくぅ………」

「お頭が大人の階段登っちゃったよぅ………」

 

 転子とひよ子が涙を流し、手を取り合って下座から祉狼を見つめていた。

 

「ひよもころも結菜さまにお願いして愛妾にしてもらえばいいじゃん♪」

 

 和奏が笑って言うと、久遠が思い出したと昴を呼んだ。

 

「おい、昴。聞き及んでいるぞ。結菜が貴様も奥向きの管理をしろと言っていた。何なら結菜がしてくれるそうだ♪」

「そ、そうですねぇ…………あはは♪」

 

 昴は照れて頭を掻き、和奏は真っ赤になって俯き、犬子と雛はニコニコと昴を見つめた。

 

「ちょっと待って下さい!昴さん!うちの小夜叉の事はどうなさるおつもりですかっ!」

 

 雹子が昴を睨むと、三若が蟀谷(こめかみ)に血管を浮かべ眉根を吊り上げた。

 

「昴………お・ま・え!」

「昴さま、ど・う・い・う・事ですかぁ~」

「昴ちゃん………きっちり説明してくれるよね~」

 

「え、え~~~と…………………てへ♪」

 

「「「『てへ♪』っじゃなあああああああああいっ!!」

 

 三若は昴の襟首を掴むとそのまま引きずって評定の間を出て行く。

 

「あっ!ま、待ちなさいっ!話しは終わってませんよっ!!」

 

 そして、雹子もその後を追って走り去った。

 

「おい、仮面。本当は昴もお前の従弟なのではないか?」

「僕は昴のお父さんをよく知ってるけど、基本的な性格はそっくりだよ♪」

「デアルカ。」

 

 会話に区切りが着いたと見て、半羽の娘の信栄が久遠の下にやって来る。

 歳は祉狼と同じくらいで、面立ちが半羽によく似ている。

 胸も半羽の娘だけあって、既に結菜と同じ大きさに育っていた。

 

「久遠さま、この度はおめでとうございます。母、信盛も知らせを聞けば大層喜ぶ事でしょう♪」

「うむ♪半羽には我が感謝していると伝えてくれ♪」

「はっ♪ありがたきお言葉、必ず伝えます♪」

 

 少し離れた所では壬月が麦穂に話し掛けていた。

 

「麦穂、おぬしも結菜さまの所に行った方が良いのではないか♪」

「し、知りませんっ!」

 

 顔を赤くしている段階で、この否定はまるで無意味だった。

 

 

 

 

房都 本城

 

 インテリが倉庫で倒れている。

 潰れた蛙みたいな格好で俯せになり、頭には大きなたん瘤が出来ていた。

 その手には管輅の銅鏡(厚さ15cm)が握られている。

 

「「「…………あのメールを見た時にこうなるだろうと思ったよ。」」」

 

 一刀たち三人はひと目見て、インテリが息子の昴から送られた文を読み自分も向こうの外史に行こうとしたのだと解った。

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

やはり稲葉山城攻略まで行けませんでした。

ですが『昴を掘り下げる』『服部小平太と毛利新介を出す』『森家』は出来たので今回はご勘弁を。

 

前回の聖刀に続き、昴と祉狼もヤッちゃいましたw

 

(R-18版はpixivに投稿しました)

http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5384362

 

祉狼の「判った」は久遠の「デアルカ」みたいに、もう口癖だと思ってくださいw

 

新キャラ

毛利新介:真名は髪型を見て『モモキュンソード(アニメ版)』を思い出したのでついw

服部小平太:真名は『小』が入った昭和的普通の名前を基準に決めました。

各務元正:原作では名前がやたらと出るのに立ち絵のない不幸な人w真名は『兵庫介』と音が似る事を考えて決めました。

桐琴さん:この人を祉狼と聖刀のどっちとくっつけるか悩んでます。

小夜叉:昴の餌食その六w 妹の蘭丸と坊丸も出そうと目論んでます。

佐久間信栄(のぶひで):親子丼候補w 真名はまだ決めていません。妹に信実(のぶざね)がいます。この子は昴の餌食候補w

 

 

次回こそ稲葉山城攻略です。出来れば堺に行ってエーリカ登場まで書きたいんですが、どうなる事でしょう(・ω・`)

 

 

 


 
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