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戦国†恋姫 三人の天の御遣い    其ノ三

雷起さん

これは【真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第二章『三爸爸†無双』】の外伝になります。
戦国†恋姫の主人公新田剣丞は登場せず、聖刀、祉狼、昴の三人がその代わりを務めます。

*ヒロイン達におねショタ補正が入っているキャラがいますのでご注意下さい。

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2015-05-24 04:12:17 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:2222   閲覧ユーザー数:1909

戦国†恋姫  三人の天の御遣い

『聖刀・祉狼・昴の探検隊(戦国編)』

 其ノ三

 

 

尾張 清洲城 評定の間

 

 墨俣築城から一夜明け、ゴットヴェイドー隊は清洲へと戻って来た。

 そこには報告の為に佐久間出羽介右衛門尉半羽信盛も同行している。

 

「殿。此度の墨俣築城、ものの見事に失敗致しました。」

 

 壬月や麦穂、更に三若なども見ている中で、半羽(なかわ)は頭を下げてきっぱりと言い切った。

 

「なにっ!?早馬では成功したと…」

 

「あれは城ではなく、婿殿祉狼さまが怪我人を収容する為に建てられた祉狼さまの物。儂も祉狼さまが居らっしゃら無ければ今頃は三途の川を渡っておりました。ですので手柄は全て祉狼さまに。」

 

 頭を下げる半羽の言葉に祉狼は驚いて反論する。

 

「何を言ってるんだ、半羽さん!あれは元々佐久間隊が準備していた物だろう!それに建設の指示を出したのは聖刀兄さんだし、実際に造ったのは貂蝉と卑弥呼だ!」

 

 これに対して今度は聖刀が困った様に口を挟んだ。

 

「僕は半羽さんの用意していた物を勝手に使ってしまったからねぇ。むしろ咎められるんじゃないのかな?」

 

「聖刀兄さんが咎められるなら、それは俺の責任だ!聖刀兄さんはゴットヴェイドー隊の一員なのだから、頭である俺が罰を受ける!」

 

「ですから祉狼さま!罰を受けるのは儂じゃ!祉狼さまは儂らを助けに来て下さったのですから褒美をお受けなさいませ!」

「俺は医者だ!傷付き倒れた者を治すのは当たり前!褒美を受け取る理由にはならない!」

「祉狼さまの隊が城を築かれたじゃろう!」

「あれを城ではないと言ったのは半羽さんだろう!」

 

 言い争う祉狼と半羽に評定の間に集まっている全員が苦笑していた。

 

「まったく、お互いに褒美はいらぬ、罰を寄越せとぬかしよって…………お前達は揃って変態か?」

 

 久遠は呆れて呟いた。

 そこに麦穂が笑いながら提案する。

 

「久遠さま。此度の墨俣の一件、半羽さまが資材を運び、祉狼さまが建設を手伝った。その最中に敵に襲われ、協力して撃破した。と、云う事で宜しいのでは♪」

 

「麦穂!それは真実を捻じ曲げすぎじゃぞっ!」

 

 半羽が祉狼との言い合いを中断して怒鳴った。

 

「半羽、もうよいではないか。これで納得せんと言うなら全て貴様の手柄と云う事にするぞ♪」

 

 久遠の奇妙な脅し文句に半羽は渋々頷いた。

 命を救ってくれた相手の手柄を横取りするなど半羽の持つ武士の誇りが許さない。

 しかし、このままではいつまで経っても平行線だと、遂に諦めた半羽だった。

 

「祉狼もよいな。大人しく己が初手柄といたせ♪」

 

「判った…………」

 

 明らかに納得していないが、そんな姿も久遠達には好ましい。

 

「さて、祉狼。初手柄の褒美は何がいい?我としては所領を与えたいのだが♪」

「だから褒美なんか……………そうだ。ひとり武士として仕官させてもらいたいんだが、それでもいいか?」

「ん?それはどの様な者だ?」

「蜂須賀小六転子正勝という名で、ひよの幼馴染だ。川並衆の棟梁で、今回の救助活動や墨俣の守備に川並衆を動かしてもらっている。」

「ふむ、ゴットヴェイドー隊で必要な人材という訳だな。よし、その願い聞き届けよう♪」

 

「ありがとう、久遠♪」

 

 さっきまでの不機嫌な顔から一転、幼さを残す笑顔を見せられて久遠も極上の笑顔を返した。

 

「うむ♪実に仲睦まじき若夫婦じゃ♪久遠さまは良き夫を手に入れられましたな♪」

 

 半羽のベタ褒めに壬月が意外そうな顔で話し掛けた。

 

「半羽殿がそこまでこの孺子を気に入るとは意外ですな。」

「孺子とは何じゃ、壬月。祉狼さまと呼ばんか!」

「そこまでですか………」

「祉狼さまには命を救われた身じゃ。一度失った命なら祉狼さまの為に捧げても惜しくはないの♪」

 

「せっかく助けた命だ。そう簡単に手放さないでくれよ♪」

 

 久遠は半羽が祉狼を認めている事をとても嬉しく思っていた。

 半羽は織田家のお家騒動の頃から久遠に味方した最古参の家臣であり、久遠の教育係でもあったので頭が上がらない事もある。

 その半羽が認めたのであれば、祉狼とゴットヴェイドー隊は織田家で絶対の居場所を得たのと同じなのだ。

 

 

 

 

 評定が終わり、久遠は祉狼とゴットヴェイドー隊に話し掛けた。

 

「祉狼、後でゴットヴェイドー隊と共に我の屋敷に来い。蜂須賀に会っておきたいし、何より結菜が心配していたからな。」

「判った。町で用事をすませたら直ぐに行くよ。」

 

 祉狼達が評定の間を出て行くのを見送ってから、半羽は再び久遠に語り掛けた。

 

「久遠さまは誠に良い夫殿を拾われましたな♪」

「フフ♪そうであろう♪」

 

 久遠は得意気に笑うが、半羽は真面目な顔になる。

 

「ここからは乳母の半羽として言わせていただく。一刻も早くお世継ぎをお産み下さいませ。」

 

「      」

 

 久遠が笑顔のまま凍りついた。

 

「祉狼さま程の男は今後、笛や太鼓で探すのは勿論、加持祈祷をしても、もう二度と天から降りてくる事は有り得んじゃろう。いや、逆に祉狼さまが天に帰られる事だとて有り得るのじゃ。」

 

「し、祉狼は我に力を貸すと約束をした!祉狼は約束を破る奴ではないわっ!」

 

 怒鳴る久遠に対し、麦穂が冷静に意見を述べる。

 

「久遠さま。祉狼さまのされた約束は天下布武への助力。それに昴さんは足利将軍と会う事が『帰る手掛かり』と言っていました。天下布武が成った時は間違いなく足利将軍と出会った後でしょう。」

 

「では………我が天下布武を成した時が祉狼との別れの時というのか……………」

 

 絶望に顔を青ざめる久遠に、半羽が力強く声を掛ける。

 

「だからお世継ぎなのですぞ!久遠さま!あの祉狼さまが幼い我が子を置き去りにするとは儂には思えんのじゃ。」

 

 半羽の言葉に久遠以外の全員が成程と頷いた。

 

「いやいやいやいや!ちょっと待てっ!今日明日天下布武が成る訳ではあるまい!」

 

「それはそうですな。しかし、やや子も産まれるまで十月十日掛かるのですから早いに越した事は有りませんぞ。」

「先程半羽は幼子と言うたではないか!早く産んでは子が自立するぞ!」

「久遠さま。子供は何人でも産めますぞ………いや、よく考えたら慌ててお世継ぎを求めずとも良いかも知れませんな。」

 

「そ、そうか!?そうであろう♪」

 

「男を喜ばせる手練手管で久遠さまが虜にしてしまえばよいのじゃ♪」

 

「やる事が変わらんではないか!いや!むしろそっちの方が出来んわっ!!」

 

 久遠が真っ赤になって反論し、麦穂、和奏、犬子、雛も恥ずかしさに頬を染めていた。

 まあ、雛はニヤニヤもしていたが。

 その中で壬月は冷静に半羽へ問い掛ける。

 

「半羽殿、男を喜ばせるとはどう言う意味だ?」

 

「壬月!貴様が一番判っておらんのかっ!揃いも揃って未通女(おぼこ)ばかりとは、清洲の城は尼寺かっ!?」

 

 全員揃って目を逸らすので、半羽が大きな溜息を吐く。

 

「宜しいか、久遠さま。祉狼さまは間違いなく女を知らぬ。年上の久遠さまが手解きをして女をお教えすれば、もう手綱を握ったも同然じゃ。」

 

「そ、そういうものなのか?……………」

 

「儂が旦那にした事ですぞ。保障いたしましょう♪」

 

 半羽の夫は三年前に他界しており、生前は愛妻家として有名だった。

 

「久遠さまひとりで迫れぬなら結菜さまと一緒になされませ♪」

 

「ゆ、結菜と一緒にっ!?」

 

「丁度先程、屋敷に呼ばれたのじゃから、今夜は祉狼さまをお泊めすれば宜しかろう♪聖刀殿も気を利かせてくれるでしょうから、一気に決めてしまいなされ♪」

 

「い、いや、しかし、我も結菜も男の事を………その、何も知らぬし………」

 

 赤い顔でモジモジしながらも少しその気になり始めている久遠だった。。

 

「それでは今から直ぐに久遠さまの屋敷に参りましょう♪祉狼さまがいらっしゃるまでに久遠さまと結菜さまに儂の手練手管を伝授して差し上げましょうぞ♪」

 

 

 

 

 久遠の屋敷に赴いた半羽は結菜も交え、一室を使って特別授業を行った。

 教材は台所に置いてあった野菜。

 その野菜はゴットヴェイドー隊を労う料理を作る為に結菜が用意した物なのだが、偶々(たまたま)半羽の目に留まったので急遽教材へとクラスチェンジしたのである。

 

「な、半羽………ほ、本当にこの様な事をするのか?……………」

「当然じゃ。こんなものは初歩の初歩ですぞ!」

「わ、私もしなくちゃいけないの?……………」

「結菜さまも祉狼さまの妻という自覚が有るなら頑張りなさいませ♪」

 

 久遠と結菜の恥じらう姿が新鮮に映った半羽はつい悪ノリして楽しんでいた。

 

「久遠。結菜。呼んでも返事がないから勝手に入ったぞ。」

「「ひやぁあああああああああああああああああああああああああああっ!!」」

 

 突然現れた祉狼に久遠と結菜は飛び上がって驚いた。

 

「あれ?半羽さんも来ていたのか……………三人とも、その手に持ってるのは………」

 

 三人はそれぞれ一本ずつ胡瓜(きゅうり)を握っていた。

 

「こ、これは塩揉みをしていたのよっ!」

 

 結菜が咄嗟に誤魔化したが、台所でもない場所で、しかも塩壷も無いのにこの言い訳はかなり苦しい。

 しかし、

 

「胡瓜か。二人とも赤い顔をしてるし、熱があるのか?」

 

「「は?」」

 

「確かに胡瓜には解熱効果が有るが、塩を加えると効果が薄れるぞ。食べるならそのままの方が良いな。」

 

「「そ、そのまま……………」」

 

 久遠と結菜は一本丸ごとの胡瓜を手に持ったままマジマジと見つめ、先程までしていた半羽の授業を思い出し、更に顔が赤くなった。

 

「診たところ病魔の影は無いんだが…………まさかっ!これは俺が診れない日の本の病魔かっ!?」

 

 祉狼が焦りだした所で後ろから聖刀が助け舟を出した。

 

「祉狼、これは病気じゃないよ♪半羽さん、久遠ちゃんと結菜ちゃんは塩揉みに熱中して力が入りすぎたんだよね♪」

「はっはっはっはっ♪聖刀どのの言われる通りじゃ♪」

 

 半羽は一頻(ひとしき)り笑った後、持っていた胡瓜をガブリと齧って豪快に食べてしまった。

 

「さて、儂はそろそろ墨俣に戻る。祉狼さま、久遠さまと結菜さまの事は頼みましたぞ♪」

「おう♪久遠も結菜も、この俺が怪我や病気から守ってみせる!」

 

 祉狼の力強い返事を心から好ましく思い、笑いながら部屋を後にする。

 

「久遠、転子を玄関で待たせているが、ここに連れて来ればいいか?」

「あ、ああ、そうであったな!この部屋に通してくれ♪」

 

 祉狼が胡瓜の事を再び言い出さない内に話題を変えようと久遠は大きく頷いた。

 

 

 

 

「蜂須賀小六正勝、通称転子と申します!」

 

 転子は正座をして両手を畳に揃え、緊張した声で名乗る。

 

「うむ、此度の墨俣での働き、半羽からも聞いておる。祉狼からも進言が有った。お前の仕官認めよう♪」

 

 久遠は優しい目をして転子に告げた。

 

「ははっ!ありがたき幸せにございますっ!」

 

 深々と頭を下げる転子に、久遠は更に言葉を掛ける。

 

「ころの所属はゴットヴェイドー隊とする。ひよと共に祉狼を支えてやってくれ♪」

「は、はいっ♪この命に代えましてもっ!」

「ああ、それから我の事は久遠と呼べ。良いな♪」

 

 転子は恐れ多いと言おうとしたが、久遠の目を見て、それが久遠の望む事と理解すると素直に頭を下げた。

 

「畏まりました、久遠さま。今後、お引き回しの程、宜しくお願い致します!」

 

「うむ♪」

 

 久遠が頷くと、次は結菜だ。

 

「それじゃあ、私の事も通称の結菜で呼んでちょうだいね、ころ♪」

 

「は、はい♪結菜さま♪」

 

「さてと、挨拶を終わらせた所でころにお願いがあるのだけど♪」

「はい!私に出来る事でしたら何なりと!」

 

「今から料理を手伝ってちょうだい♪」

 

「………………………は?」

 

「ひよから聞いてるわよ♪料理が得意だって♪」

「ひ、ひよぉおおおおおおおおっ!!」

 

 転子は泣きそうな顔で幼なじみに振り返って睨んだ。

 

「ええぇ~?ころちゃんのご飯、美味しいのに……」

 

 褒めたのに恨まれ、理不尽だとひよ子は情けない声で言い訳をする。

 そこに聖刀が楽しそうに割り込んだ。

 

「結菜ちゃん、僕も手伝っていいかな?日の本の料理を覚えたいし、僕もご馳走したくて材料と調味料を街で仕入れて来たんだ♪」

 

「仮面の料理か♪先日のちまきは絶品だったからな♪」

「うん♪あれは本当に美味しかったわ♪祉狼の為にもお国の料理を教えてもらわなきゃ♪」

 

 久遠と結菜は聖刀の作ったちまきを(いた)く気に入っていた。

 それ以来、祉狼がどんな物を食べていたのか気になり、今日もその事を聞き出すつもりでいたので、聖刀の申し出は願ったり叶ったりなのだ。

 

「わ、私も勉強させて頂きます!」

 

 転子はまだ聖刀の料理を食べた事はないが、ひよ子から話しは聞いていたので非常に興味は有った。

 

「聖刀さまが台所に立たれるのなら、私達は邪魔をしない様にここで出来上がるのを待たせていただきます。」

「え?昴ちゃん、お手伝いしないの?」

 

 ひよ子が驚いて問い掛ける。

 

「このお屋敷のお台所だと私達も入ると邪魔にしかならないわよ。(特に師匠達が!)」

 

 最後の囁き部分にひよ子は大きく納得した。

 

「それじゃあ、あなた達はゆっくりしていてね。」

 

 そう言って結菜は聖刀と転子を連れて台所に向かった。

 

「ねえ、昴ちゃんはお料理の腕はどうなの?」

「私はまあまあかな。」

「昴ちゃん!お料理は漢女の基本だって教えたじゃないのぉお!」

「よもや、修行を怠っておるのではないだろうな!」

「師匠達、顔近い、顔近い。聖刀さま、眞琳さま、華琳さまのお料理と比べてって意味です!」

 

「ちょっと待て!今、聞き捨てならん所が有ったぞ!」

 

 久遠が驚いた顔で遮った。

 

「貂蝉と卑弥呼は料理が上手いのかっ!?」

 

「あぁあら♪わたしみたいな可憐な美女はお鍋を持ち上げる事もできない様に見えちゃったかしらぁ♪」

 

 貂蝉は風呂釜でお手玉を軽くこなす身体をくねらせた。

 

「久遠よ、そう言うお主はどうなのだ?」

「わ、我も煮炊きくらいは出来るが…………結菜の飯が美味いのでつい任せっきりにしている………」

 

 卑弥呼の問いに久遠が恥じ入って白状した。

 

「料理の腕なら俺も他人の事は言えないな♪効能重視で味が二の次だと三刃によく文句を言われたよ♪あ、昴はお菓子作りの方が得意だぞ。」

「得意だけど、甘味料の値段がねぇ……祉狼も砂糖が薬として売られてて驚いてたでしょ。」

 

「なにっ!昴の得意な菓子とは甘い菓子なのかっ!?では、これは作れるかっ!?」

 

 久遠が慌てて取り出したのは巾着に入った金平糖だった。

 

「金平糖ですか。材料さえ有れば難しい物ではないです。」

「誠かっ!?」

 

「なあ、何で日の本では砂糖がこんなに高いんだ?」

「日の本では砂糖黍(さとうきび)の栽培をしている国も無ければ、精糖技術も無い。全てを貿易で賄っているのが現状だ。」

 

 久遠はガックリと肩を落とす。

 しかし、

 

「砂糖黍の栽培方法と精糖方法は聖刀兄さんが知っている筈だぞ。」

「誠かっ!?」

 

 久遠は金平糖の時と同じ言葉を繰り返したが、そこには甘い物への欲求以外の響きが有った。

 何しろ砂糖の製造に成功すれば金山を得るのと同じだけの価値が有るのだ。

 

「よし!後で仮面と話しをしよう!我は何としても砂糖黍の種を南蛮商人から手に入れるぞ!」

 

 久遠の野望が、また新たな一歩を踏み出した。

 

「昴!砂糖の製造が成った暁には、金平糖を山ほど作ってくれ!」

 

「あの…………金平糖以外にも色々作れますから…………」

 

 

 

 

 久遠達が砂糖の話で盛り上がっている頃、台所でも料理の話で盛り上がっていた。

 

「豆腐?豆腐を料理に使うの?」

「僕達の所では普通に食べてたけど、ここではそうでも無いんだね。」

「お寺の精進料理ですからねぇ。お祝いの時くらいしか食べないですね。」

 

 話題は専ら食文化の違いについてだ。

 

「これから作る麻婆豆腐だって、食堂じゃ定番の物だよ♪」

「「まあぼう豆腐?」」

「辛い料理だけど、祉狼の好物のひとつでね♪」

「祉狼が好きな食べ物なの♪」

「これは是非とも覚えないといけませんね、結菜さま!」

「今回は辛口と甘口を作るから。結菜ちゃんもころちゃんも辛い料理って食べないでしょ?」

「辛子や山葵は薬味で使うけど………」

「生姜も使いますね。」

花椒(ファジャオ)辣椒(ラージャオ)(唐辛子の事)が味の主体になるんだけど、元になる出汁がしっかりしていないとただ辛いだけの料理になってしまう、結構奥の深い料理だよ♪」

「え!?これ唐辛子!?」

「あの………唐辛子って毒じゃないんですか?」

 

 この時代、唐辛子は食用では無く、観賞用か戦での目潰し毒薬の原料として知られていた。

 

「へえ♪辣椒を日の本では唐辛子って言うんだ。これは血行促進の薬になるんだけど、薬も摂りすぎれば毒になるっていう、解りやすい実例だね♪でも毒か♪母上は辛いのが苦手だから同じことを言いそうだ♪」

「曹孟徳が辛いの苦手なんて、何か可愛いわね♪」

「逆に辛いのが大好きな凪母さんという人が居てね♪……………考えてみたら、凪母さんの料理も充分兵器だな………」

「へ、兵器って………」

「何しろ凪母さんの料理は慣れない人が近付くと目が痛くなるんだよ♪」

「「それは食べ物じゃない!」です!」

 

 

 

 

 料理も出来上がり、和中折衷の食事に全員が舌鼓を打った。

 辛口の麻婆豆腐をひよ子がひと口食べて大騒ぎをする場面も有ったが、全員が楽しく食事をしたのだった。

 その食事も終わり、お開きとなった所で聖刀が祉狼にこう言った。

 

「祉狼。今夜は久遠ちゃんと結菜ちゃんと一緒に居てあげて。二人には心配を掛けてしまったからね。」

「二人はそんなに心配してくれたのか!?…………ありがとう、聖刀兄さん。俺は鈍感だから兄さんにはいつも助けられる………」

「お礼を言う相手は久遠ちゃんと結菜ちゃんだろ♪」

 

 こうして祉狼を残し、全員が久遠の屋敷を後にした。

 但し、貂蝉と卑弥呼が理由を付けて残ろうとしたので、聖刀は二人を引きずって連れ帰った。

 

「久遠。結菜。心配を掛けて、すまん!」

 

 日も暮れ、行灯で照らした室内で祉狼は胡座(あぐら)のまま頭を下げた。

 半羽が言った通り、聖刀が気を利かせてくれたが、久遠と結菜はいざ祉狼に面と向かうとどうしていいのか判らなくなってしまう。

 しかし、自分の方が祉狼よりも年上なのだからと、結菜は意を決して口を開いた。

 

「ええ、本当に心配したわ。でも、それはあなたが人を助けたいという想いからの行動でしょう?だったら私は止められないわ♪」

 

 結菜の言葉に久遠も頷き、口を開く。

 

「うむ、我も心配はしたが、それ以上に半羽の命を救ってくれた事に感謝している。我と結菜は祉狼の妻だ。常に夫の心配をしていると心に留めておいてくれ♪」

 

 久遠と結菜は共に手を伸ばして、祉狼の手に重ねた。

 

「判った。俺はまだまだ未熟者だ。久遠、結菜、俺は夫としてどうしたらいいのかまるで解っていない。これからは遠慮せずにどんどん言ってくれ♪」

 

 夫として。

 この言葉に久遠と結菜の頭に半羽の授業が蘇った。

 

「そ、そうだな………(おい、結菜!どうする!?)」

「え、ええ♪…………(どうするって……折角聖刀が機会をくれたのだし……)」

 

「ああ、そうだ♪俺にも夫として出来る事を思い出したぞ♪」

 

 祉狼は突然立ち上がって二人に近付いた。

 

「し、祉狼!?な、何を思い出したのだ!?」

「そ、そんな、いきなりだなんて………」

 

「二人にマッサージをする♪」

 

「ま、まっさあじ?」

「そ、それは一体………」

「指圧や按摩の事だ♪今日は料理で疲れただろうから結菜を先にやるぞ♪」

 

 祉狼は結菜の背後に回って肩を指圧し始めた。

 

「な、何で突然指圧なのっ!?んくぅ!」

 

「父さんと母さんは夜中によくしていたぞ?一刀伯父さんに訊いたら夫婦の間ではするものだと教えてくれた♪」

 

 それは夫婦の営みを誤魔化す為の言い訳だと、久遠と結菜にも直ぐに解った。

 しかし、それを否定する勇気が二人には出せない。

 

「やっぱり凝っているな。よし、本格的にやるぞ♪(うつぶ)せになってもらった方がいいんだが、布団は………」

「隣にもう敷いてあるが………」

 

「く、くおーーーーーーん!」

 

 祉狼は結菜の手を引いて(ふすま)を明け、隣室の布団へとグイグイ引張っていった。

 

「初めは痛いと思うが、直ぐに気持ちよくなるぞ♪」

「ちょ、ちょっとその台詞!んぁああああああっ!!」

 

 再び肩のツボを押されて結菜は声を上げた。

 念を押すが祉狼がしているのはマッサージである。

 力の抜けた結菜を俯せに寝かせ、祉狼は肩、そして背中を揉んでいく。

 

「い、痛い、祉狼!…もっと、優しくっんんっ!…あうっ…ああっ!………ああぁん…」

 

 久遠は結菜の反応に生唾を飲み込んで見つめる事しか出来なかった。

 

「あっ、あっ、ああぁっ!い、いや、そこは…あうぅん!……ひ、ひう、ああっ……あうっ………ああっ、ああああぁぁああああああああっ!!」

 

 背中から腰、お尻、太もも、ふくらはぎ、足首、足の裏、上腕、二の腕、掌、脇腹とマッサージを終えた時には、結菜は声を出す事も出来ず、潤んだ瞳で荒い呼吸をするので精一杯の状態になっていた。

 

「さて、待たせたな、久遠♪」

 

 達成感に満ちた爽やかな笑顔で祉狼が振り返る。

 

「い、いや………わ、我は………」

 

 小さくイヤイヤをして尻込みする久遠に構わず、祉狼は手を握り布団の上へと導いた。

 

 

 

 翌朝、疲労が完全に抜け体は非常に軽いのに、何とも言えない敗北感に支配されて久遠と結菜は目を覚ました。

 

「ま、拙いわ………癖になっちゃいそう………」

「う、うむ…………按摩でこれでは、半羽に教わった事を試したらどうなるか………」

 

 

 

 

 墨俣築城から三日後。

 ゴットヴェイドー隊に長屋が与えられ、そして祉狼には知行地も与えられた

 祉狼達は清洲城から、ひよ子と転子、その他ゴットヴェイドー隊の隊士数名も長屋に引っ越して来て大賑わいとなった。

 長屋には出来たばかりのゴットヴェイドー隊の赤十字旗が何本も立てられ、現代人が見れば病院と勘違いしてもおかしくない状態になっていた。

 

「引越しも終わったし、お祝いに全員で食事に行こう♪」

 

 隊士全員を合わせても二十人に届かない小部隊である。

 こうして隊の結束を図るには良い機会だ。

 ひよ子の案内でお勧めの定食屋『一発屋』へとやって来た。

 

「いらっしゃい♪おや、団体さんだねぇ♪」

 

 看板娘のきよが愛想良く持て成す。昼飯時を過ぎた時間で丁度他の客がはけたところだった。

 次々と席に案内をして、貂蝉と卑弥呼、仮面の聖刀を見ても表情を一切変えないという、見上げた接客魂である。

 

「きよちゃん♪こちらが私のお頭の華旉伯元さまだよ♪」

 

 一発屋の常連となっているひよ子がきよの前に祉狼を連れてきた。

 

「えっ!?ひよちゃんのお頭って事は……………こ、この様な粗末な店にお越し下さり本当に、い、いえ、まことに…」

「堅苦しい挨拶はしなくても大丈夫だ♪俺はただの医者だし、偉ぶるのも嫌いだ。気安く話してほしい♪あと、俺の通称は祉狼だ。」

 

 祉狼はこの通称という風習がすっかり気に入っていた。

 これだけで相手が(へりくだ)らなくなってくれるのだから実にありがたい。

 

「え、そう♪それじゃあよろしくね、四郎ちゃん♪」

「きよちゃん!いくら何でもお頭に祉狼ちゃんは…」

 

 ひよ子が嗜めようとしたが、祉狼が笑って制した。

 

「噂の薬師如来さまがこんなに可愛い男の子なんだもん♪いいよね、四郎ちゃん♪」

「別に構わないさ♪貂蝉と卑弥呼もそう呼ぶし、姉さん達も結構そう呼ぶのが多いからな♪」

 

 きよは祉狼の真名を四郎だと勘違いしていた。

 

「お頭って妹さまだけじゃなかったでしたっけ?」

「正確には従姉妹だ。聖刀兄さんの姉妹だけど、一緒に暮らしてたから実の姉みたいなものさ♪」

 

「姉弟って言えばお殿様と四郎ちゃんも姉弟みたいだよね♪三郎と四郎で♪」

「あれ?きよちゃん、お頭の通称は…」

 

 ひよ子が『祉狼』と書いて見せる。

 

「うわ、難しい字を書くんだね………どういう意味?」

 

 この質問には聖刀が答えた。

 

「『祉』は神の恵みという意味だよ。狼は獰猛だけど、家族と仲間をとても大切にする獣でね、つまり『神の力で仲間を護る戦士』という意味が込められているんだ♪」

「照れ臭いけど、この名に恥じない生き方をしたいと思っている。」

 

「大丈夫ですよ!お頭はいつも人の為に頑張ってます!ねえ、ころちゃん!」

「そうですよ、お頭♪そんな祉狼さまだからゴットヴェイドー隊はついて行くんです♪そうだよね、みんなっ!」

 

『おうっ!ゴットヴェイドーーーーーーーーーー!』

 

 

 隊士全員が右腕を突き上げて唱和した。

 隊士の中では挨拶や合言葉として定着している様である。

 

「ねえ、盛り上がってる所悪いんだけど…」

 

 昴がきよに声を掛けた。

 

「厨房からスゴい目で親父さんが睨んでるわよ……………」

 

「うわあ!ちゅ、注文は何にする♪」

 

 他に客が居ない事で、きよも気が緩んでいた様だ。

 きよは慌てて営業用スマイルを取り戻し、注文を聞いて回り始める。

 

 

 

 

 注文した定食が次々と出来上がり、祉狼達の前へ運ばれてくる。

 聖刀が注文したのは鰻の蒲焼きだった。

 蒲焼きと言ってもタレが開発されるのは百年以上未来の話なので、いわゆる『白焼き』である。

 聖刀は父、一刀の頼みで蒲焼きのタレの再現に成功していたが、この時代の白焼きがどんな物か興味があって注文したのだった。

 

「へえ♪これは凄いな♪塩加減といい、焼き加減といい、絶妙だよ♪」

「聖刀さまがそこまで褒めるなんて珍し………………何ウナギなんか食べてるんですか!」

 

 昴はひよ子と転子と話に夢中になっていて、聖刀が何を注文したか聞いていなかった。

 

「そんな物食べても奥様方全員が遥か外史の向こうなんですよ!…………師匠達!謀りましたね!」

「あ、あぁ〜ら、何のことかしらぁ?わたしは夏の尾張と言えばウナギが有名って言っただけよぉ〜」

「わ、私も久しぶりに肝吸いを食したいと言っただけだが?」

 

 すっとぼける貂蝉と卑弥呼を無視して、聖刀は昴に笑って見せた。

 

「鰻を食べたくらいでどうこうならないよ♪そんなに簡単に効能が現れるなら母上達の薬膳はあそこまで進化しないよ♪」

 

 聖刀はそのまま立ち上がって厨房へと歩いて行く。

 

「すいません。今いただいた鰻とても美味しかったです♪そこで親父さんなら僕の食べた事の有る味付けを再現出来るのではと思い、お願いしたいんですけど♪」

 

 こうして、未来の江戸で発明される筈の醤油ダレが、尾張で開発が始まってしまった。

 そんな事が起こっている一発屋の別の卓では、きよとひよ子、転子、祉狼が世間話をしていた。

 

「最近、また井之口から商人が清洲に逃げて来てるよ。」

 

 きよは困ったもんだと言うように眉を寄せている。

 

「そうなの!?龍興さまが美濃の国主になってからしばらくはそんな話もよく聞いたけど、最近は落ち着いてたよね?」

「ひよぉ、原因なんて墨俣の一件に決まってるじゃない………きっとまた飛騨守あたりが八つ当たりをしてるんだよ………」

「あぁ、あの飛騨守さんかぁ…………評判悪いよねぇ、あの人…………」

「何言ってるの!ひよも墨俣で狙われたじゃない!」

「ふぇ?…………それってもしかして、半羽さまに矢を射った!?」

「あの時の旗印とあの背格好、間違いないよ!」

 

「あいつは飛騨守というのかっ!」

 

 祉狼が墨俣で見せた怒りの形相で立ち上がった。

 

「「お、お頭!落ち着いて!」」

 

 ひよ子と転子の二人に(なだ)められて祉狼は椅子に座り直した。

 

「すまん、つい頭に血が上ってしまった…………それで、その飛騨守というのはそんなに評判が悪いのか?ころ。」

「え、ええ…虎の威を借る狐を地で行く人だと、もっぱらの評判です。」

「捕まえて根性を叩き直してやりたいな…………今から行こう!」

 

「「だ・め・で・すっ!!」」

 

 立ち上がりかけた祉狼をひよ子と転子の二人が左右から肩を押さえて座らせた。

 

 

 

 

 長屋に引っ越してから七日後、ゴットヴェイドー隊は美濃領内の井之口に居た。

 祉狼は久遠と結菜にきちんと許可を貰い、目立った行動はしないと約束もしている。

 井之口に来たのは斎藤飛騨の根性を叩き直す為…………ではなく、現実と云う物を自分の目で見る為だ。

 一刀たちの治世で育った祉狼は、自分の考え方が甘いものだと何となくは自覚していた。

 美濃の現状を見れば自分の中の何かが変わって、久遠ともっと気持ちを通じられる様になるのではと考えたのだ。

 

「なんか思った程荒れてない……と言うか、静かですね?」

 

 ひよ子の感想通り井之口の町の中は武士が横暴な事をしている様子は見当たらなかった。

 尤も人の往来その物が少なかったが。

 

「これなら聖刀さまと師匠達を待たせなくて大丈夫ね。私、ちょっと戻って呼んでくるわ。」

 

 聖刀、貂蝉、卑弥呼の三人は目立ち過ぎるので、井之口の手前で夜になるのを待ってから宿に入る予定だった。

 その宿も結菜を慕う者がやっているので拠点とする事に問題が無い。

 昴と別れてから祉狼、ひよ子、転子の三人はその宿へ向かう途中で茶屋に立ち寄り、店主の男に話し掛けた。

 

「親父さん、町の様子が妙に静かだけど、何か有ったのか?」

「ああ、今朝お城からお触れがあってね。竹中様と西美濃三人衆がお城を乗っ取っちまったんだとさ。」

 

「「「…………………は?」」」

 

 これには流石の祉狼も虚を突かれた。

 

「城を落とした!?しかし、戦が有った様には見えないが………」

「そりゃそうさ。落としたんじゃなくて、乗っ取ったって言ったろ。龍興様が留守にした隙を突いてだが、たった十六人で乗っ取っちまったらしい。」

「ちょっと待って下さい!乗っ取った竹中様って、竹中半兵衛さんですか!?」

 

 転子が割って入って質問した。

 

「お嬢ちゃん、よく知ってるね♪お城じゃ変人扱いされてるが、俺ら町人の事を考えてもくださる良い方だよ。ありゃあ変人だらけの中にまともな人が紛れちまってるから、あんな扱いをされちまうんだろうねぇ。」

「私達、尾張を通って来たんですけど、向こうじゃ『今孔明』なんて呼ばれてましたよ。」

「そりゃすごい♪だけど、仕えてた相手が『今玄徳』じゃないからねえ。むしろ『今袁術』とでも言った方がいいような人………おっと、今言った事は内緒にしてくれよ♪」

 

 三人は話しを切り上げて宿へと向かい、到着した直ぐ後に昴、聖刀、貂蝉、卑弥呼も宿にやって来た。

 

「稲葉山城が占拠されているって!?」

 

 話しを聞いた聖刀も驚いて聞き返した。

 転子が聞いた話しを今度は詳しく説明すると、聖刀は顎に手を当てて考え始め、昴は転子に血の気の引いた顔で問い掛ける。

 

「ねぇ、ころちゃん…………その竹中さんの渾名…………『今孔明』ってホント?」

「うん、ひよも聞いた事あるよね?」

「久遠さまや壬月さまが言ってたの覚えてるよ。」

「その人………『ホモォ』とか言って走り回ったりしないよね?」

「「は?」」

「じゃ、じゃあ、『はわわ』とか言うのかな?」

「さ、さぁ………」

「実際に会った訳じゃないし………」

 

 昴は朱里と雛里が苦手だった。

 それは昴をネタに薄いヤオイ本を何十冊と出版された為である。

 新刊が出る度に届けられるのは、朱里と雛里の洗脳計画だと昴は確信していた。

 

「力ではなく、策で城を落とすか…………会ってみたいし、出来れば仲間になって欲しいな♪」

 

 祉狼の呟きに聖刀の目が光る。

 

「祉狼、これは緊急事態だ。明日情報を集められるだけ集めたら直ぐに清洲へ戻ろう。」

「判った。聖刀兄さんの言う通りにするよ。」

「それじゃあ、僕と貂蝉と卑弥呼が稲葉山の裏から登って城内の様子を確認して来る。祉狼達は町での聞き込みを。」

「だとすると、落ち合うのは、今日聖刀兄さん達が待機した場所の方がいいね。そのまま清洲に出発しよう。」

 

 こうなると祉狼と聖刀はツーカーの仲である。

 こんなやり取りをするのが、朱里と雛里の妄想が暴走する原因だ。

 それはさて置き、全員翌日に備えてこの日は早めに寝床へ着いた。

 そして翌日。

 聖刀達は夜が明ける前に宿を出て稲葉山城の裏手へと向かい、祉狼達は朝食後に井之口の町へと繰り出した。

 

 

 

 

「さてと、出来れば半兵衛ちゃんの為人(ひととなり)の確認がしたいんだけど………」

 

 聖刀は稲葉山城を見上げる斜面の下で呟いた。

 もう侵入する事は決定事項で有るらしい。

 

「ふふ、この外史の策士半兵衛か。興味が有るわい♪」

「そうねぇ~、本当に朱里ちゃんみたいな子だったら話しが合うと思うん・だ・け・ど♪」

 

 この三人してみれば崖も城壁も無いのと同じだ。

 

「「とうっ!」」

 

 貂蝉と卑弥呼は普通に垂直跳びで城壁にたどり着き、聖刀も三ヶ所足場にしただけで二人に追いつく。

 

「ええと、旗は全部で四種類か。あの本丸近くに有るのが九枚笹かな?」

「うむ、間違いない。あれが九枚笹の紋である。あちらが上り藤で、こちらが地抜き巴、そちらが折敷三文字だ。」

「やっぱりここの旗ってむこうの牙門旗のみたいな派手さがないわねぇ~」

「戦のやり方が違うのだ、仕方あるまい。」

「僕らは僕らのやり方でやらせて貰おう♪こうして潜入すると思春母さんと明命母さんの訓練を思い出すね♪」

「思春ちゃんと明命ちゃんの訓練の方が緊張感があるわねぇ。」

「うむ、これなら隅々まで見取り図が作れるな。」

 

 三人は城壁の中へとその身を踊らせた。

 

 一方、祉狼、昴、ひよ子、転子は市の店に入って昨日の茶屋と同じ様に質問をした。

 そして返って来た答えも昨日と変わらない物だった。

 同じ事を四軒繰り返した所で四人はこれ以上の聞き込みは無意味だと悟る。

 

「竹中さんはこれからどうするつもりなんでしょう?」

「どういう意味だ、ひよ?」

「いくら稲葉山城を占拠しても、国主の斎藤龍興様と美濃衆は無傷ですよね?竹中さんに援軍が来なければ、いくら堅牢な稲葉山城でも守り切れませんよ。」

 

 ひよ子の意見に転子も頷く。

 

「そうだよねぇ………美濃を切り取って独立するのか、それとも稲葉山城を手土産にして隣国に下るか、それとも下克上で国主を名乗り美濃そのものも乗っ取るつもりなのか……何れにしても隣国との交渉は必要でしょうね。」

「いや、竹中さんが城を占拠した目的はそのどれでも無いと思う。」

「ちょっと、祉狼。他にどんな目的で城を占拠したって言うの?」

「竹中さんは龍興にお灸を据えたのさ♪」

 

「何故そう思うのです?」

 

 祉狼の背後から突然声を掛けた少女が居た。

 それは切り揃えた前髪で目元を隠した、竹中半兵衛詩乃重治本人だ。

 

「………こんにちは。」

 

 詩乃は名を告げず挨拶だけをする。

 

「こんにちは♪」

 

 祉狼は明るい声と笑顔で挨拶を返す。

 それに合わせ、昴、ひよ子、転子も挨拶をした。

 

「「「こ、こんにちは………」」」

 

「何故そう思うか。それは俺も同じ気持ちだからさ♪」

 

「……………………は?」

 

 前髪に隠した目を大きく開いて詩乃は驚いた。

 

「俺が聞いた話では龍興も飛騨も悪い事をしている。悪い事をした者には叱り、お仕置きをして、それが悪い事だと教えてやらないといけないだろ。」

「そう言えばお頭、飛騨さんの根性を叩き直すって前にもがっ!」

「ひ、ひよ!」

 

 転子が慌ててひよ子の口を塞いだ。

 

「悪い事をしたらお仕置き………それでは子供の躾と同じではないですか?」

「躾に子供も大人も関係ない!悪い事は叱り、良い事は褒める!」

「しかし、愚者はそれが躾だと気付かないかも知れませんよ?」

「躾とは愛情だ。解るまで悪い事をしたら何度でも繰り返す!」

「愛情………ですか。」

 

 詩乃は祉狼の熱い瞳に魅せられ、自分の心も熱くなるのを感じた。

 

「そうだ、まだ名乗ってなかったな。俺は…」

「いえ、貴方様の事はよく存じております。私は詩乃と申します。」

「詩乃か♪良い響きの名前だ♪俺の事は祉狼と呼んでくれ♪」

「し、祉狼………さま………」

「詩乃、竹中さんに会ったら伝えて欲しい事が有る。」

「で、伝言ですか?」

 

「竹中さんには俺と同じ気持ち、俺と同じ魂を感じる。そんな人と俺は共に過ごしたい!俺は竹中さんを必ず俺のモノにする!」

 

 詩乃は真っ赤になって狼狽えた。

 

「な、何故そこまで………」

「理屈では無く俺の魂がそう叫ぶからだ!龍興と飛騨が改心してもしなくても、俺は竹中さんを迎えに来る!例えそれが人攫いの様になってもな♪」

 

 詩乃は驚きと恥ずかしさから言葉を紡ぐ事が出来なくなってしまった。

 

「それじゃあ、伝言。頼んだよ♪」

「…………………………………………(コクッ)」

 

 詩乃が頷くのを確認した祉狼は昴、ひよ子、転子に振り返る。

 

「さあ、行こうか♪」

 

 四人が井之口を去っていくのを見送りながら、詩乃は心の中で呟いた。

 

(あれが………天人華旉祉狼伯元………さま………ですか。なんて熱い人物……それにあんなに激しく求められたのは、生まれて初めてです…………胸が昂まる………)

 

 そして、詩乃の視界から消えた祉狼は昴からガミガミと説教をされていた。

 

「祉狼!あんたはやっぱり聖刀さまの従弟で陛下の甥だわっ!あんな場所で口説くなんて!」

「こ、昴ちゃん、お頭は竹中さんに伝言を頼んでたんだよ?ま、まあ、聞いててドキドキしたけど………」

「ひよちゃん!気が付いてないの!?あの詩乃って()、竹中さん本人よ!」

「へあっ!?」

「あ、やっぱり。私もそうだろうなって思ってたんだよね。」

「あーーーっ!こ、ころちゃん、ずるい!」

 

「詩乃はゴットヴェイドー隊に是非欲しい人材だ。さっきはああ言ったが、飛騨はあの程度で改心しないだろう。早く清洲に戻り久遠に伝えて、直ぐにまた井之口に来なければ………」

 

「祉狼…………あんた本当に自覚無いのね………」

「?…………何の話だ?」

 

 昴、ひよ子、転子は大きな溜息を吐いた。

 

 その直ぐ後に聖刀、貂蝉、卑弥呼と合流し、お互いの情報を交換した。

 聖刀も急いで清洲に戻るべきだと判断する。

 

「本気で走るからころは俺の背中におぶさってくれ!昴はひよを頼む!」

「了解♪」

 

「「ええ!?」」

 

 ひよ子と転子の意見は聞かず、戸惑っている二人を背負って五人は走り出した。

 そのスピードは先頭を走る貂蝉と卑弥呼のお陰でスリップストリームが出来る程で、井ノ口から清洲まで一時間で到着したのだった。

 

 

 

 

「うむ、その件は今朝、美濃に潜入させている草から早馬が来た。」

 

 評定の間で久遠が祉狼とゴットヴェイドー隊を迎え、早速協議を行っている。

 ひよ子と転子は白目を剥いて、口から魂がはみ出しているのが見えそうな状態で床に寝かされていた。

 

「稲葉山城が占拠され、それを行ったのが十六人だけだったとしか判らなかったのでな。この情報は有難い♪ゴットヴェイドー隊がまた一つ手柄を上げたな♪」

 

 久遠は祉狼が無事だった事をもっと喜びたいのだが、家臣の前なのでグッと我慢している。

 

「それで久遠!俺達はまた井之口に戻って竹中半兵衛を助ける手筈を整えたい!」

「まあ、待て、祉狼。相手の名が判ったのでひとつ試したい事が有る。その結果が出るまで待ってくれ。」

「何をするんだ?」

「稲葉山城に城を売れと手紙を出す。」

 

 祉狼は久遠を信じて待つ事に頷いた。

 そして、翌日の昼には詩乃から『自分はまだ、美濃斎藤家の家臣であるので、城は売れない』と返事が来た。

 その翌日に、今度は西美濃三人衆から手紙が来て『城を売るから高値で買え』と言ってきた。

 

「祉狼!時は成った!竹中は龍興に稲葉山城を返すぞ!ゴットヴェイドー隊は井之口にて竹中を攫う準備をせよ♪」

 

 久遠は自分で言っていて、まるで山賊の様な命令だと笑ってしまった。

 

「せめて救出と言ってくれ♪」

 

 祉狼も可笑しくなり、笑いながら返事をした。

 

「出発前に結菜へ挨拶をしてから行け。同じ心配をさせるのでも納得させるのが夫の努めだぞ♪」

「判った。結菜に挨拶をしたら井之口に向かうよ♪」

 

 祉狼は一度長屋に戻り、井之口への出発を伝えてから結菜の下へ向かった。

 

「結菜!また井之口に行ってくる!」

「ええ、準備は出来てるわ♪」

「…………………結菜、その格好は?」

 

 結菜は旅装束に身を固めて祉狼を待ち受けていた。

 

「だから私も行くのよ。龍興は私の姪よ。赤ん坊の頃に会ったきりだけど、身内の恥を受け止めて、出来るなら改心させたい………悪い事をしたら叱るものなのでしょう?ひよところから聞いたわよ♪」

 

 それを持ち出されては祉狼に止める事は出来なかった。

 

「久遠はこの事を…」

「ちゃんと話してあるわよ♪教えて無かったけど、私もお家流が使えるから自分の身くらいは守れるわ。」

「判った。でも、出来れば使わずに済ませられる様にする!」

「ありがとう、祉狼♪」

 

 今回は結菜も居るので美濃との国境(くにざかい)になる墨俣まで馬を使った。

 墨俣の半羽に馬を預けていた時、井之口の草から詩乃が龍興に稲葉山城を返還したと連絡が入った。

 

「祉狼、隊を二つに分けよう。僕、貂蝉、卑弥呼、昴は先に井之口に走る。先に行って情報を集めておくよ。」

 

 そう言って聖刀は三人を連れて風の様に走り去った。

 残った祉狼は馬で井之口まで行く事を決断する。

 祉狼が結菜を後ろに乗せ、転子もひよ子を後ろに乗せて長良川に沿って上流へと向かい井之口に入る。

 祉狼達が宿に到着した時には、既に聖刀達が情報を集め終わり待っていた。

 

「竹中さんは稲葉山城を逃げ出している。僕たちが来る少し前に追手も出て行ったそうだ。竹中さんの逃げた先は在所の菩提城って言われたけど、その場所が判らない。」

 

 これに転子が答えた。

 

「菩提城は井之口から西に在ります!ただ、道が二本有るので竹中さんがどっちの道を使ったのか………」

「ならまた二手に別れよう!」

「昴、信号弾を出して。竹中さんを見つけたらこれで合図を!」

 

 昴は例の麻袋から信号弾を人数分取り出した。真桜謹製の信号弾は強力な煙幕弾にもなる優れ物だ。

 八人は井之口を通り抜け西に向かって突き進む。

 途中、聖刀達四人は南から回り込む道に別れ、二頭の馬に乗った祉狼達四人はそのまま西へ続く街道を駆けた。

 

「お頭!手綱捌きが見事ですね!」

「錦馬超直伝だからな!無様な事をしたら拳骨が飛んできたよ♪」

 

 今は子供の頃の懐かしい思い出に浸っている場合ではない。

 一秒でも早く詩乃に追い付く事を考え、馬を走らせた。

 背中から腕を回して抱き付く結菜の胸の感触は、先日の転子より大きいのだが、祉狼にとってはただそれだけの感想しかない。

 それが結菜には不満だったが、それはこの救出劇が終わってからゆっくり言えばいいと、祉狼を抱く腕に力を込めた。

 

 その時、南の方角から信号弾の炸裂音が聞こえた。

 

「行くぞ!ころ!」

「はい!お頭っ!」

 

 二頭の馬は木々に囲まれた南へ向かう細い道へと進路を変えた。

 

 

 

 

 森の中を抜ける様に作られた、街道程整備はされていない道で、詩乃は飛騨に追い込まれていた。

 

「はははははっ!逃げ惑うしかできないとは、正に痩せ武士!」

 

「はぁ、はぁ、はぁ………」

 

 飛騨は足軽達に詩乃を斬り付けさせ、自分は高みの見物でニヤニヤと哂っていた。

 

「武士として当然である武の心得を一顧だにせず、くさくさと書見などしておるから、その様な醜態を晒すことになるのだ、竹中重治!」

「はぁ、はぁ……刀を振り回すだけが武士の心得だと……はぁ、はぁ、思っている馬鹿者に言われたくは、はぁ、はぁ……ありません!」

 

 息も絶え絶えの詩乃を足軽達は弱者をいたぶる下卑た顔で追い立てる。

 

「ここが切所………!」

 

 詩乃は覚悟を決めて刀を抜いた。

 

「はははっ!抜いたな!これで貴様は上意討ちに逆らう反逆者だ!」

「くっ………」

 

「早くせんと立ち腹を斬るぞ!私はそやつが泣き叫ぶ所が見たいのだからな!」

 

 目を血走らせた足軽達が詩乃に襲い掛かる。

 詩乃が最早これまでと刀を振り上げたその時!

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

 雄叫びと共に激しい衝撃波が足軽達を襲い吹き飛ばした!

 

「遅くなってすまん!詩乃っ!」

「…………あ、あなたは…………まさか本当に………」

 

 力の抜けた詩乃を祉狼はしっかりと抱きとめて飛騨を睨む。

 

「な、何者だ、貴様はっ!我らを美濃国主、斎藤龍興様の臣と知っての狼藉かっ!」

 

「そんなものは関係ないっ!権力を笠に着て好き放題を行い!あまつさえ主を諌めようと己が名誉も捨てて行動した少女を、刃で追い立て辱めようなどと………お前達こそこの日の本に蔓延る最低最悪の病魔なり!」

 

「な、なんだと………」

 

五斗米道(ゴットヴェイドー)の教えを受けて、この華旉が貴様らを治療してやる!覚悟しろ!」

 

「わ、訳の判らない奴め!お前達!構わんから二人共斬り殺せ!」

 

 祉狼と詩乃に再び足軽達が殺到しようとした所で貂蝉と卑弥呼が降ってきた。

 

「ふっふっふっ♪実に良い見栄であったぞ、祉狼ちゃん♪愛しのダーリンと初めて出会った時を思い出したわ♪」

「ええ♪漢女道とは愛に殉ずる事と見つけたり♪祉狼ちゃん、助太刀するわよん!」

 

「ありがとう!卑弥呼!貂蝉!医は仁術なり!世界の全てにあまねく平安をもたらす為、俺は戦う!でぇええええええいっ!」

 

 祉狼が一番の手前に居た足軽に攻撃した!

 

「ぎゃああっ!」

 

「俺は医者だ!殺しはしない!治療するのはその根に巣食う病魔なり!」

 

「が………がは………っ!膝が……膝が動かねえ!」

 

「お前の膝のツボを突いた!厠で用を足す時にも座れない恐怖!半月ばかり味わうがいいっ!」

 

 祉狼は知らないが、それは父が黄巾党と戦った時に使ったのと同じ技だ!

 千三百年と外史を越えて、五斗米道(ゴットヴェイドー)が悪を討つ!

 

「カッコイイわぁ、祉狼ちゃん♥わたしも溢れる愛で戦うわぁ~!うっふっふぅぅぅん!」

 

「おげぇええええっ!きもいいいいいいいっ!」

 

「そんなにキモチイイの?それじゃあもう一回してあげるわよぉん♥」

 

「だからひと文字多いぎゅあげべぐげべご………………………」

 

 悪人の気持ちも千三百年と外史を飛び越えた様である。

 

「がははははは♪絶好調だな、貂蝉!ならば儂もモリモリ滾ろうではないか!むっふぅぅぅぅぅぅううううん!」

 

「ふんげえぇえええっ!」

 

 祉狼の闘い振りに詩乃、結菜、ひよ子、転子は目を奪われた。

 そして貂蝉と卑弥呼の闘い振りからは目を逸らした。

 

「な、ななな、なんなんだ…………あ、あのばけものどもは…………に、にげ、にげなければ………」

 

 飛騨は貂蝉と卑弥呼が降ってきた時に、足軽達を見捨ててひとりで逃げ出していた。

 

「ぎゃっ!」

 

 足がもつれて道端に転び、その拍子に腰が抜けて立てなくなる。

 それでも地面を這いずって、何とか藪の影に身を隠した。

 

「何処に行くのかな?」

 

 藪に隠れた飛騨に声を掛けたのは聖刀だった。

 

「ひ!ひぃいっ!」

 

 怯える飛騨に聖刀は身を屈めて近付く。

 

「君やった事は流石の僕も許せない。お仕置きをしないと気が済まないね。」

 

 飛騨は歯の根が合わず、ガチガチと歯を鳴らし、身動きが出来なくなっていた。

 

「眞琳姉さん、禁を破るけど許してね♪」

 

 聖刀は仮面を外し、飛騨の目を覗き込む。

 仮面の下から現れた聖刀の素顔を見た瞬間に飛騨は目が離せなくなった。

 それまでの怯えから一転、飛騨の頬に朱が差し、目もトロリと夢を見る様になる。

 気が付けば飛騨は聖刀に伸し掛られていた。

 

「な、なにを………や、やめ、やめて………ひっ、あっ!ああっ!………い、いやぁ、あ、あ、ああああぁぁぁあああああっ!!」

 

 

 

 

「飛騨は!斎藤飛騨守は何処に行った!?」

 

 敵を全員倒し、介抱し終えた所で居るのは足軽達だけで飛騨の姿が無い事に、祉狼は遅まきながら気が付いた。

 

「あ、あの人は聖刀さまが…………追いかけて…こ、懲らしめたわよ!」

 

 昴は冷や汗を流してそう説明する。

 この中で昴だけが、聖刀が飛騨にナニをしたのか気付いていた。

 昴としてもこの事が聖刀の奥さん達に知られれば、帰った時にどんな罰を与えられるか分かったものではないので、どうしたらいいか頭を悩ませている。

 

「そうか♪聖刀兄さんなら大丈夫だろう♪」

 

 実情を知らない祉狼は、朗らかに笑う。

 

「さて、詩乃。これでやっと落ち着いて話しが出来るな♪」

 

 祉狼は結菜達と一緒にいる詩乃に振り向いた。

 詩乃も結菜に肩を優しく押されて祉狼に向けて一歩を踏み出す。

 

「本当にひとりも殺さないのですね………」

 

 倒れている足軽達は全員気絶しているが、全員がキモイとかバケモノとか言ってうなされていた。

 彼らは今後一生この悪夢を見続ける事だろう。それを考えると死よりも恐ろしい拷問ではないだろうか。

 

「それが俺の選んだ道だからな。久遠は立場上殺せと命令もすれば、時には死んでこいと言わないといけないだろう。だけど俺がいれば命を救え、助けてこいと命令が出来る。少しでも久遠の心の負担を軽くしてあげたい。」

 

 この言葉に傍らで見ていた結菜は胸が熱くなった。

 

「祉狼さまは万人を救うおつもりですか?」

 

「それは無理だ。俺の手の届く範囲は限られている。どんなに救いたくても手遅れの人もいる。救う術が有るのに目の前で見殺しにしなければならない時も有る。あんな思いは出来るだけしたくは無い。だから俺は救けられる時には全力で救ける。」

「私も………手が届いたから救けた………」

「そうだ。そして俺は井之口でこう言ったよな。『竹中さんには俺と同じ気持ち、俺と同じ魂を感じる。そんな人と俺は共に過ごしたい』と。俺は詩乃が居れば手の届く範囲が大きくなると確信している。」

「はい、覚えています。それに祉狼さまはこうも仰って下さいました。『俺は竹中さんを必ず俺のモノにする!』と♪」

「ああ、言った!」

「では、この竹中半兵衛詩乃重治。この身、この魂の全て、今から祉狼さまのモノです♪」

「これから頼りにするぞ、詩乃♪」

「はい♪」

 

 このやり取りを見て結菜、ひよ子、転子、昴がまた溜息を吐いた。

 

「やっぱり北郷の血には女誑しの力が常時発動するお家流が有るんだと思います………」

「そうね………私も出会ったその瞬間にやられたし…………これは本気で奥向きの事を考えた方が良さそうね。ひよところもその気が有るなら言ってちょうだい。ちゃんと責任を取らせるから♪」

「「は、はい!?」」

「これは冗談ではなく本気よ。久遠も納得してる事だからね♪」

 

 ひよ子と転子は赤くなって祉狼を見た。

 その目は熱をおび、恋する少女そのものだ。

 

「聖刀ちゃんに続いて祉狼ちゃんまでなのぉ~?」

「ぐぬぬぬ、お、漢女道とは耐え忍ぶもの…………ぐすん。」

 

 これで一件落着と思った所に聖刀が藪の中から出て来た。

 

「ごめんごめん♪任せきりにしてしまったね♪」

 

 聖刀に振り向いた昴以外の全員が驚いた。

 何しろ、聖刀の腕には飛騨が抱きついて甘えていたのだから。

 

「斎藤飛騨!これは一体………」

 

 詩乃が飛騨を睨むが、飛騨は既に詩乃の事など眼中に無く、聖刀の腕に胸を押し付け続けていた。

 聖刀はまるで何も無かったかの様に笑って詩乃へ声を掛ける。

 

「初めまして、半兵衛ちゃん♪僕は祉狼の従兄で北郷聖刀。よろしくね♪」

「祉狼さまの従兄………では、あなたも田楽狭間に現れた天人衆のひとりなのですね……」

「うん、そうだよ♪あ、この子はもう大丈夫。君の知ってる斎藤飛騨はもう居ない。この子の真名は狸狐。さあ、自分で挨拶して。」

 

 狸狐は聖刀から片時も離れたくないという顔をしたが、聖刀が「メッ」と怒ると聖刀の腕を離してしおらしく挨拶をする。

 

「わたしは狸狐。姓も名も過去も全て捨てた、ただの狸狐です。北郷聖刀さまに全てを捧げる愛の下僕に生まれ変わりました。」

 

 詩乃、ひよ子、転子、結菜は正に狐に摘まれた様にポカンと口を開けて微動だにしない。

 

「これが聖刀さまの仮面を外した時に起こる『良くない事』です………」

 

 昴は言いながら頭を抱えた。

 

「流石、聖刀兄さんだ!この短時間でここまで改心させるなんて!」

 

 純真すぎる祉狼は正しく状況を把握していない。

 これはもう改心では無く『改造』と言っていいだろう。

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

今回は『大人になった聖刀』を掘り下げるのをサブテーマにしました。

聖刀の場合は北郷家お家流に華琳の能力が上乗せされているので、仮面を外すとガード不能技ですw

飛騨とナニをしていたか気になる方は、PixivのR-18版(http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5340560 )をご覧下さい。

 

斎藤飛騨守ですが、立ち絵が有るのに攻略キャラじゃ無かったというのが悔しかったので、こんなコトになりましたw

それから、斎藤飛騨守を調べていたら、『竹中半兵衛に小便をかけて侮辱した(創作と思われる)』というのを見つけました。

戦国†恋姫が最初からR-18だったら飛騨はきっとオシッコキャラになっていたんでしょうねぇ。

真名は『虎の威を借る狐だけど、見た目は狸だな』と思ったので狸狐にしましたw

 

斎藤龍興は今のところ出すつもりは無いですが、

「うはははー♪妾は美濃国主なのじゃ♪」

とか言ってそうですw

 

 

次回は稲葉山城攻略まで行きたいと思っていますが、『昴を掘り下げる』『服部小平太と毛利新介を出す』『森家』を盛り込みたいので、そこまで行けないかも知れません。

 

 

 


 
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