No.64801

流琉と兄様 アフター・ストーリー 後編

komanariさん

流琉と兄様 アフターの後編です。

今までのものより、少し長くなってしまいました。

皆さんのご期待に添えるか結末か心配です。

続きを表示

2009-03-23 03:17:20 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:11183   閲覧ユーザー数:8886

そこにはあの空と同じ、白い太陽が輝いていました。

 

 

 

 

 

 

 

流琉と兄様 アフター・ストーリー 後編

 

 

 

 

 

 

私は貂蝉さんから、兄様を取り戻す方法を聞いたあと、しばらく何も言うことができませんでした。

 

兄様に会うためには季衣たちと別れないといけない。

季衣たちと一緒にいるためには兄様に会いに行くことができない

 

「何も、今すぐにどうするか決めてとは言わないわぁん。だから、じぃ~っくり考えてぇん♪」

 

 

自分はこれからどうすればいいのか。

その答えをすぐに見つけることができなかった私は、ひと先ず洛陽へと向かいました。

 

華琳様に、兄様に会う方法を説明するために、貂蝉さんもついてきてくれました。

 

洛陽へと向かう旅路の中、私はわずかに期待していました。

もしかしたら、稟さんと風さんが大切な人たちと別れなくても兄様に会う方法を見つけてくれているかもしれない。

 

他の国では見つけられなかったけど、三国の中で最も蔵書量が多い洛陽のお城の書庫になら。

他の国では見つけられなかったけど、三国の中で最も多いと言われている賢人と呼ばれる人たちの中になら。

貂蝉さんでも知らない方法を知っているかもしれない。

 

貂蝉さんは、この世界では兄様に会うことはできないと言っていたけど、

そんなことはないと心のどこかで必死に願っていました。

 

 

 

 

「流琉!お帰り!!」

 

私たちが洛陽につくと、城門にいた季衣がすぐに私に駆け寄って抱きついてきました。

 

「季衣!?どうしてこんな所にいるの!!?」

 

「今日はお休みだったから、流琉のこと待ってたんだよ。」

季衣は、笑顔で私にそう言いました。

 

「待ってたって、私が今日洛陽につくかなんて分からないじゃない!なんで「季衣は流琉と別れてからというもの、休みの度にこうして一日中城門で流琉を待っていたのだ。」・・・!っ。秋蘭様!?」

 

私が声のした方を見ると、そこには秋蘭様がいらっしゃいました。

 

(私と別れてからずっと!?嘘・・・そんなに長い間・・・)

 

「えへへ。流琉がいつ帰ってくるかわかんなかったから、帰って来たらすぐ会えるようにって思ってさ。」

 

季衣はそう笑いながら言いました。

 

「・・・ふふっ。自分が行くのは恥ずかしいから、季衣に食べ物を持って言ってやってくれと姉者から言われて来たのだが、今はそれどころではないな。」

 

秋蘭様は少し微笑むと

「流琉。まずは季衣に言うことがあるのではないか?」

と言いました。

 

いつ戻ってくるか分からない私をずっと待ってくれていた。

そんな季衣のやさしさに私は胸が熱くなりました。

 

「・・・ただいま!季衣!!」

 

私は、季衣の笑顔に少しでも答えられるように、そう答えました。

 

「うん。お帰り!流琉!」

 

それから、私は秋蘭様の方を向いて

「秋蘭様。ただ今戻りました!」

 

「あぁ。お帰り。流琉。」

秋蘭様はやさしげにそう答えました。

 

「ねぇ季衣。その後ろにいる熊みたいなのはどうしたの?もしかしてこれから料理してくれるの?」

 

季衣は後ろにいた貂蝉さんを見てそう言いました。

 

「まぁ!失礼しちゃうわねぇん!こんな絶世の美女をつかまえて、熊みたいだなんてぇ!私悲しくて泣いちゃうわぁん。」

 

「すごい!!僕しゃべる熊なんて初めて見たよ!」

 

「だ~か~ら~、私は熊じゃなくて、世の女の子がうらやむ絶世の「ねぇ流琉!この熊どうしたの?どこで見つけたの!?」・・ふんぬうぅぅぅ!!!」

 

「ひぃっ!!」

 

あまりにもひどい扱いを受けて貂蝉さんは少し怒ったようでした。

 

(私も最初、貂蝉さんのことを熊だと思ってたことは、言わないでおこう)

私は胸の奥でそう思いました。

 

「あのね季衣。この人は熊じゃなくて人間の貂蝉さんだよ。兄様に会う方法を教えてくれたの。」

 

「ホント!?じゃあ兄ちゃんにまた会えるんだ!よかったね!流琉!!」

 

私は季衣の目を見ることができませんでした。

貂蝉さんは確かに、兄様に会う方法を教えてくれたけど、その方法では季衣とお別れをしなければならない。

今までずっと私を支えてくれていた季衣。

今まで私が兄様と会うことをずっと応援してくれていた季衣。

 

そんな季衣と、会う方法が見つかったからと言ってすぐに別れることはできません。

そんなことをしたくありませんでした。

 

「う、うん・・・。ねぇ季衣。稟さんと風さんがどこにいるか知らない?」

 

(そんなことにならなくていい方法が見つかっていてほしい。)

そんな淡い期待がかなうことを願っていました。

 

「う~ん。ボクわかんないよ。秋蘭様、知ってますか?」

 

「この時間なら城華琳様と一緒に会議に出ているだろう。その貂蝉が知っているという方法も華琳様に報告しなければならないのだろう?とりあえず、城に向かおう。ただその前に・・・。」

 

秋蘭様は貂蝉さんを見ました。

「貴殿には、何か体を覆う布をかぶって城に入ってもらおう。」

 

「・・?なんでそんなことする必要があるのぉん??私のあまりにも美しい肉体をさらしたままでお城に入ったら、お城で働いている男の子たちのいろんな部分がのっぴきならなくなって、お仕事できなくなるからかしらぁ?」

 

「華琳様が貴殿を直接見たら、気絶してしまう恐れがあるのでな。」

そう言うと、秋蘭様はまず布を売っているお店に向かいました。

 

 

 

貂蝉さんを覆うような大きな布が見つからなかったので、仕方なく麻袋を広げた物を服屋さんで縫い合わせてもらいました。

 

「そんなもの被ったら、私の磁器のように美しい肌が・・・・」

と言って貂蝉さんは嫌がりましたが、何とか説得してそれを身に纏ってもらいました。

 

 

お城についた私たちは、華琳様、稟さん、風さんたちが出席している会議が行われている玉座の間へと向かいました。

 

まずは秋蘭様だけ玉座の間に入り、華琳様たちに、私が帰ってきたことを報告しました。

「会議中失礼します。華琳様、流琉が戻ってまいりました。」

 

「そう。ちょうどこの会議の議題もあらかた片付いたところだから、ここに通しなさい。」

 

「はっ。流琉入って良いぞ。」

秋蘭様がそう言い終わってから、私たちは玉座の間に入りました。

 

「華琳様。ただ今戻りました。」

華琳様に拝礼をしながら、私は言いました。

 

「お帰りなさい。流琉。それで首尾はどうだったのかしら?」

 

華琳様の言葉に少しびくっとした私は、

「・・・はい。何とか見つけることができました。」

と答えました。

 

「そう。それはよかったわ。ならその方法を聞かせてもらえるかしら?」

華琳様は、少しうれしそうにそう言いました。

 

「はい。ですがその前に確認したいことがあります。」

私は稟さん、風さんがいらっしゃるのを確認して言いました。

 

「何かしら?」

 

「稟さん、風さん。調べていただいていた、兄様と会う方法は見つかりましたか?」

 

(お願い!見つかっていて!!)

私は強く願いました。

でも・・・

 

「誠に申し上げにくいのですが、そのような方法を見つけることはできませんでした。」

 

その願いはかないませんでした。

 

「風も稟ちゃんも、一生懸命探したのですが、見つけることが出来なかったのですよ~。」

 

「・・・そうですか。一生懸命に探していただいて、ありがとうございました。」

私の目の前が少し暗くなりました。

 

「力になれなくて、申し訳ありません。」

「ごめんなさいなのです~。」

 

稟さん、風さんはそう謝ってくださいました。

 

「まぁ、稟たちは見つけることができなかったけど、流琉は見つけることができたのでしょう?そんなに落ち込むことはないのではなくて?」

 

「流琉。何か訳があるのか?」

秋蘭様が心配そうに聞いてくださいました。

 

「いえ。それは・・・」

私は答えに詰まってしまいました。

すると・・・

 

「その話は、私がするわぁん。」

貂蝉さんがそう言いました。

 

「!?流琉。その麻布を被ったでかぶつは何者なの??」

華琳様は不審そうにそうおっしゃいました。

 

「この人は、貂蝉さんといって、私に兄様に会う方法を教えてくださった方です。」

 

「その貂蝉とやらは、人に顔を見せもしないで話をするつもりなの?」

華琳様の言葉には少し怒気が含まれていました。

 

「華琳様、これには訳が・・・「そうよねぇん。顔も見せないで話すなんて失礼よねぇ。」っ!!待て貂蝉!!」

秋蘭様が訳を説明しようとしたとき、貂蝉さんは自分を覆っていた麻布をとってしまいました。

 

「っひ!!!」

 

華琳様は貂蝉さんを見るなり、気絶してしまいました。

 

「だから待てと言ったのに・・・」

秋蘭様は頭を抱えていました。

 

「あらぁん。曹操ちゃんたら私のあまりの美しさに心奪われちゃったのねぇん」

貂蝉さんは少しうれしそうにクネクネしていました。

 

「はぁ。流琉。その方法の説明には貂蝉が必要なのか?」

秋蘭様は私にそうお聞きになりました。

 

「・・・はい。私だけではうまく説明できません。」

貂蝉さんの言った『正史』・『外史』の話は私をよく理解できていません。

 

「そうか。なら仕方がない。季衣、華琳様をご自室にお連れしてくれ。稟と風は兵にいって倉庫から大きめのついたてを持ってきてもらってくれ。」

秋蘭様はそう皆さんに指示を出しました。

 

 

秋蘭様は運ばれて来たついたてを使って、使われていない部屋に仕切りを作り、向かい側から見えないようにして、そこに貂蝉さんを座らせて、意識が戻った華琳様をその部屋にお連れしました。

 

「先ほどは、説明が間に合わず申し訳ありませんでした。」

秋蘭様はそう言って華琳様に頭を下げました。

 

「貂蝉は華琳様には少し刺激が強すぎると思いましたので、あのように麻布をかぶせておりました。」

 

「え、えぇ。私の方もそちらの意図をくみ取れなくてごめんなさい。」

 

「うふ。夏侯淵ちゃんたら刺激が強すぎるだなんで、私照れちゃうわぁ。」

貂蝉さんはついたて越しに体をクネクネさせていました。

 

「・・・おほん。それでは貂蝉に説明させますが、華琳様、よろしいですか?」

一度咳払いをすると、秋蘭様は華琳様にそう尋ねました。

 

「えぇ、お願い。」

 

「それでは貂蝉。説明を頼む。くれぐれもこちらには来ぬようにな。」

 

「どぅふ。わかったわぁん」

貂蝉さんはそう言うと、私にしてくれたのと同じ説明を始めました。

 

 

 

 

「・・・ということは、流琉がその一刀がいる『外史』に行くためには、この世界に戻ることをあきらめなければいけない。ということね。」

説明を聞き終えた華琳様はそう言いました。

 

「にわかには信じられん話だな。われわれが住んでいるこの世界が、その『外史』というものなどとは・・・しかし、それよりも流琉が戻ってこれないということが問題か・・・」

秋蘭様がそう言いながら考えていると、

 

ガタッ!!

 

「ご、ごめん流琉。ボク・・・バカだから難しい話はよくわかんないや。・・・だ、だからちょっと外歩いてくるね・・・」

立ち上がった季衣は、涙をこらえているようでした。

 

「季衣、待って!」

私が止めよとするのも聞かずに、季衣は部屋から出て行ってしまいました。

あとを追おうとした私を秋蘭様が、止めました。

 

「流琉。今は一人にしてやれ、季衣も混乱しているのだ」

秋蘭様の言葉からは、少し、悔しさのようなものが感じ取れました。

 

「とにかく。どうするかを決めるのは、流琉、あなたよ。よく考えて結論を出しなさい」

華琳様はそう言うと、椅子から立ち上がりました。少し怒っているようでした。

 

「秋蘭。流琉が結論を出すまで、貂蝉が泊まれる場所を手配しなさい。出来れば、私の目が届かない所に。」

華琳様はそう言いました。

 

「御意」

秋蘭様がお頭を下げると、華琳様は部屋から出ていきました。

 

「さて、貂蝉。お前は私と一緒に城下に来てもらおうか。宿を探す。流琉は部屋に行って休むと良い。長旅で疲れただろ。今日は風呂も沸かすからゆっくりと疲れを癒すといい。」

そう言うと秋蘭様は貂蝉さんを連れて部屋から出ていきました。

 

部屋には私だけが残りました。

 

今まで私を支えてくれた人たちと別れなければいけない。

それしか、兄様に会う方法がない。

兄様には逢いたい。ずっと一緒にいたい。

でも、季衣たちと別れることなんて私にはできない。

 

(兄様・・・私はどうすれば・・・)

 

私はその日、一人で眠ることができなくて、秋蘭様の布団で一緒に眠らせてもらいました。

 

 

それからしばらくの間、季衣は私と口をきいてくれませんでした。

親衛隊長のお仕事に戻ったあとも、季衣は私を避けているようでした。

 

私も、季衣にどう接していいのか分からなくなってしまい、どうしようもないまま日は経っていきました。

 

そんなある日、お休みだった私の部屋に季衣が訪ねてきました。

 

「流琉。おなか空いたから、何か作ってほしいんだけど・・・」

言いにくそうに季衣はそう言いました。

 

「・・・わかった。厨房に行きましょ。」

私を避けているように思えた季衣のお願いに、私は素直にそう答えました。

 

厨房に着き、そこにあったもので炒飯を作り始めると、季衣が話しかけてきました。

「ねぇ。流琉。」

 

「何?」

 

「・・・あのさ。流琉はどうするつもりなの?」

料理をしていた手が止まりました。

 

「兄ちゃんの所に行くつもり?」

 

「・・・」

答えられませんでした。

どれだけ考えても、私は決断できませんでした。

 

「ボクはさぁ、バカだから難しいことはよくわかんないんだ。でも、流琉が兄ちゃんのこと大好きだってことは、知ってるし、流琉はやさしいからすっごく迷ってるのもわかってる。」

 

季衣は、少し考えてからつづけました。

「それでね。ボク考えてたんだ。流琉がどうするんだろうってことじゃなくて、ボクは流琉にどうしてほしいんだろうって。流琉の顔見ちゃうと、なんか頭の中ぐちゃぐちゃになっちゃってたから、あんまり流琉に会わないようにもしてた。」

 

ごめんねと季衣は頭を下げたようでした。

 

それから、一呼吸置いて言いました。

「ずっと考えてて、ボクわかったんだ。」

 

私は季衣の方を振り向くことができなくて、季衣に背を向けたまま、言葉を待ちました。

 

「ボクは流琉に幸せになってほしかったんだ。兄ちゃんがいなくなってから、ずっと悲しそうだった流琉が幸せになるんだったら、ボクは流琉に会いに行ってほしいんだ。兄ちゃんのところに。」

 

私は、目に溜まった涙があふれるのを必死にこらえました。

 

「そりゃボクも、寂しいよ。流琉と・・・あ、会えなく・・・なるなんて。・・・でも」

季衣の声が止まると、後ろから嗚咽が聞こえました。

 

「でも、それでもボクは、流琉に幸せになってほしいんだ!・・・だって、流琉は・・・流琉は・・・」

季衣の声には、泣き声が混じっていました。

 

「ボクの・・・親友だもん!!」

 

もう、涙をこらえることができませんでした。

 

「・・・ありがとう。・・・季衣。」

 

(季衣は私のためにずっと悩んで、悩んで、それで私の背中を押すことを決めてくれた。)

 

「・・・・ありがとう。」

 

私のために悩んでくれて、親友と呼んでくれて、私の背中を押してくれて、

 

私は涙で手元が見えなくなっていました。

 

「うぅ・・・。流琉ぅ・・・・。」

季衣が後ろから抱きついてきました。

 

「流琉ぅ・・・。」

背中が暖かい季衣の涙でぬれていきました。

 

私たちはしばらく、そのまま泣いていました。

 

 

どれくらい時間がたったのか、さっきあたためたお湯が、すっかり冷めてしまっていました。

 

「へへ。泣いたら余計におなかすいちゃったよ。」

 

「・・・待ってて、すぐに作ってあげるから。」

私は、頬に残っていた涙をぬぐって、そう答えました。

 

「わかった。待ってる。早くしてね。」

季衣は笑顔で言いました。

 

あの時、季衣たちと成都で別れて時、心に決めたことをしよう。

 

やさしさを、いっぱいくれた季衣に、

背中を押してくれた季衣に、

 

精一杯のありがとうの気持ちをこめて、私は炒飯を作りました。

 

「えへへ。やっぱり、流琉の作った炒飯はおいしいや。今日のは特においしいけどね」

季衣は少し恥ずかしそうに笑いました。

 

「まだまだあるからいっぱい食べていいわよ。」

泣いていたせいで、鼻が詰まって、味がよく分からなかったけど、私が今まで作った中で、一番おいしい炒飯でした。

 

「うん!!」

季衣はそう言うと、お皿に盛られた炒飯をかけ込みました。

 

 

 

次の日、私は華琳様の部屋に行き、兄様の所に行く決心がついたことをつたえました。

 

「そう。わかったわ」

華琳様はそう言うと、政務に戻られました。

 

 

私が兄様の所に行くことを決心してから数日後、華琳様の発案で、送別会を開いていただけることになりました。

 

送別会の料理は、私が作って、魏の皆さんに食べていただきました。

送別会では、皆さんから声をかけていただきました。

 

桂花様からは、「男のどこがいいんだか、けどまぁ、幸せになりなさい」と

凪さんからは、「隊長とお幸せに」と

沙和さんからは、「隊長をメロメロにして、幸せになってなの~」と

真桜さんからは、「流琉がいなくなるんは、寂しいけど、隊長と幸せにな」と

霞様からは、「一刀をしっかりつかまえてきい」と

稟さんからは、「一刀殿と末長くお幸せに」と

風さんからは、「お兄さんと幸せに~なのです」と

 

私は皆さんに、お礼を言い。お世話になりました。と挨拶をしました。

 

 

送別会から2日後、私は泰山へと向かいました。

華琳様、春蘭様、秋蘭様、季衣、貂蝉さんも一緒についてきてくれました。

 

華琳様はこのために、何日も前からお仕事を頑張って、重要な案件はすべて処理してきたとのことでした。

 

 

何日かして、泰山についた私たちは、貂蝉さんの案内で、銅鏡があるという神殿までやってきました。

 

神殿の中には、祭壇があり、そこに貂蝉さんが言っていた古びた銅鏡がありました。

 

「典韋ちゃん。あれが、他の外史に行くための鍵よぉん。」

 

貂蝉さんはその銅鏡をさして言いました。

「あの鏡を壊して、ご主人さまのことを思い描けば、ご主人さまの外史に行けるかもしれないわぁ。もちろん確証はないけどね。」

 

「流琉・・・。」

季衣が私に声をかけてきました。

 

「これ。あげる。」

 

季衣の手には季衣がいつも髪を縛っている青い髪留めが握られていました。

 

季衣を見ると、いつも二つに縛られているうちの片方の髪が下ろされていました。

 

私は、季衣の髪留めを受け取ると、自分の髪留めを外して、季衣に差し出しました。

 

「私がそれをもらったら、季衣は洛陽までそのままで帰らなくちゃいけないじゃない。」

私がそう言うと。

 

「そっか。忘れてた。えへへ。」

と季衣は笑いながら、私の髪留めを受け取りました。

 

「華琳様、春蘭様、秋蘭様・・・」

私は華琳様たちの方を向いて言いました。

 

「これまで、本当にありがとうございました。」

自分の出来る限り、頭を下げて私は言いました。

 

「ええ。一刀にあったら、次に私の部下を悲しませたら、ただじゃおかないわよって伝えておいて。」

華琳様はそう笑顔で言いました。

 

「うむ。季衣のことは任せておけ、この私がしっかり面倒をみるからな!」

春蘭様はそう胸を叩いて言いました。

 

「元気でな、流琉。北郷と幸せに。」

秋蘭様はそう微笑みながら言いました。

 

「はい。行ってきます!」

私は、華琳様たちにもう一度頭を下げました。

 

私が季衣の方へ向き直ると

「流琉・・・。元気でね。」

と季衣が、言いました。

 

神殿の窓からは、空に白く輝く太陽が少し見えました。

 

私は、季衣が私の背中を押してくれた日に、背中で感じた季衣の温もりを、腕に抱きました。

 

「うん。季衣も元気でね。変なもの食べちゃだめだよ。」

 

兄様が消えてしまった日に、私を包み込んでくれた温もり、

兄様を取り戻す方法を見つけるために、私に勇気をくれた温もり、

帰って来た私を笑顔で迎えてくれた温もり、

泣きながら私の背中を押してくれた温もり、

 

みんな季衣がくれた温もりでした。

 

私は、季衣からもらった温もりを少しでも返せるように、季衣を力いっぱい抱きしめました。

 

「それじゃあね。」

 

「うん。じゃあね。流琉。」

 

季衣はそう言うと、華琳様たちの所へ戻っていきました。

 

「それじゃあ、典韋ちゃん。準備はいいぃ?」

 

「はい。」

 

「それじゃあ、行くわよ。・・・・そぉれぇ!」

貂蝉さんは、祭壇の上から銅鏡を投げました。

 

私は、飛んでくる銅鏡に狙いを定めて、伝磁葉々を放しました。

 

銅鏡が壊れるのと同時に、私の周りを白い光が包みました。

 

(・・・兄様!!)

 

私は、心の中で兄様を呼びました。

 

私に向けてくれた、暖かな笑顔を思い浮かべて、

私を包んでくれた、やさしい温もりを思い浮かべて、

 

薄れていく意識の中で、私は愛しい人の名前を呼びました。

 

 

(一刀様っ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外史を超えた思いは、確かに届きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう!兄様!!早くしないと、及川さんの結婚式に間に合いませんよ!」

 

「ごめん流琉。昨日頑張りすぎた!!」

 

「っ!!!。もう!知りません!!」

 

 

 

 

私が、兄様のいる世界に来てから数年が経ちました。

 

あのあと、私が目を覚ますと、涙で顔をぐしゃぐしゃにした兄様に抱きしめられていました。

 

兄様の話によると、兄様が大学から帰る途中、急にあたりが明るくなり、気がつくと私が倒れていたということでした。

 

「流琉!ごねんな。もう・・・もう絶対に離さないから・・・」

私が目を覚ましたことに気がついた兄様は、そう言って、私に口づけをしてくれました。

 

久しぶりに聞いた兄様の声、

久しぶりに感じた兄様の温もり、

久しぶりに嗅いだ兄様のにおい、

 

それらは、私に兄様を取り戻すことができたことを教えてくれました。

 

「兄様。愛しています。これまでも、これからも。」

 

私は兄様の胸に顔をうずめました。

 

 

 

 

 

「よし。準備できた。行こうか流琉!」

 

「はい。」

 

 

兄様が大学を卒業してから、私たちは結婚しました。

 

私は、この世界に途中から来たから、この世界でいう戸籍というものは、ないはずでしたが、私が倒れていた場所に、なぜか私の住民票が落ちていました。

その紙の裏には、

「これぐらいしかできないけど、サービスよぉん♪あと、戸籍もちゃんとあるからねぇん。ちょっと妬いちゃうけど、お幸せに。  貂蝉」

と書かれていました。

 

 

 

兄様は車を運転しながら、チラッと私の方を見て、

「そう言えば、名前どうするか決めた?」

と聞きました。

 

私は、少し大きくなってきたおなかをさすって、答えました。

「はい。ちょっと迷ったけど、決めました。」

 

「なんていう名前?」

 

「季衣・・・。北郷季衣です!」

 

「・・・!!。・・・うん。いい名前だね。」

 

「はい!!」

 

私は、長くなった髪を後ろで縛っている青い髪留めを触りました。

 

(季衣。私は元気よ。あなたはどう?)

 

 

私は、車の窓越しに空を見上げました。

 

 

 

 

 

私がいた世界よりも狭くて、小さい空だけど、そこにはあの空で見たのと同じ、白い太陽が輝いていました。

 

 

 

 

 

 

完。

 

 

 

 

 

あとがき。

 

どうも、komanariです。

 

「流琉と兄様」が完結しました。

 

一応、僕なりのハッピーエンドにしてみたのですが、皆様はどうお思いになったでしょうか?

 

 

えっと、はじめは一刀の外史に行った流琉が、

その外史にも登場した貂蝉の助けを借りて、戻ってくるっていう終りにしようかとも思ったのですが、書いてるうちに、今回のような終わり方に代わってしまいました。

 

今後、何かやってほしい話、又はキャラなどありましたら、リクエストしていただけると嬉しいです。

 

 

初めて「流琉と兄様」を投稿してから、かなり突貫工事でアフターを作ってまいりましたが、ご覧になってくださっている皆様に楽しんでいただければ、幸いです。

 

毎回、コメント・支援して下っている方々。

本当にありがとうございます。皆様のおかげでなんとか1つの物語を書きあげることができました。

 

 

最後に、本当は本編に乗せたかった一幕を乗せて、今回は終わろうと思います。

 

 

 

 

~蛇足~

 

 

 

秋「行ったのか。」

 

貂「えぇ。そのようねぇん・・・」

 

 

季「うぇ~ん。春蘭様~。流琉が、流琉が行っちゃったよ~」

 

春「泣くな季衣!流琉は死んでしまったわけではないのだぞ!!」

 

季「それはそうですけど~」

 

 

秋「ところで、貂蝉。少し気になったことがあるのだが・・・」

 

貂「何かしらぁ?」

 

秋「この前の、『外史』の説明の時、物語には突端と終端があると言っていたが、今われわれがいる世界の終端はいつ迎えるのだ?」

 

華「この世界が一刀と流琉を中心にしていると考えるのなら、今じゃないかしら。」

 

貂「それがねぇ。この物語の終端は、もうとっくの昔に迎えているのよぉ。」

 

華「ひ、ひぃ!・・・で、では、なぜ私たちはまだこうして残っているというの?」

 

貂「本来この物語は、典韋ちゃんがご主人さまとお別れした時点で終端を迎えていたのぉ。」

 

秋「では、なぜそうならなかったのだ?」

 

貂「それはねぇ。この外史に思いを馳せた『正史』の人々が終わらせなかったからよぉん。」

 

春「??どういうことだ??」

 

貂「つまりぃ、『正史』の人たちが、典韋ちゃんが悲しむ、このお話を見て、何とか典韋ちゃんを幸せにしてあげたいって思ったのぉ。そして、その想念が集まった結果、この外史は終端を迎えることなく、存続したのぉん。」

 

春「・・・まだよくわからんのだが・・・」

 

貂「もっと簡単にいえば、典韋ちゃんが人気者だったから、この終端を迎えなかったのよぉん♪」

 

春「おぉ、そういうことか。」

 

季「秋蘭様~、つまりどうことことなんですか??」

 

秋「流琉はいろんなものに好かれているから、終わらなかったということだ。」

 

季「なるほど~。わかりました。流琉がいい子だから、終わらなかったんですね。」

 

秋「ふふ。まぁそういうことだ。」

 

春「おい!季衣!!なぜ私に聞かないで秋蘭に聞くのだ!?」

 

季「え?春蘭様に聞いた方がよかったんですか?」

 

華「いえ。秋蘭に聞いて正解よ。季衣。」

 

春「か、華琳様~」

 

貂「まぁ、なにはともあれぇ、今は典韋ちゃんの幸せを祈りましょ」

 

秋「そうだな。そうしよう・・・・」

 

季「流琉~。兄ちゃんと、幸せにね~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
123
7

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択