No.608084

真・恋姫無双 ~新外史伝第111話~

今回は少し煮詰まって投稿が遅くなりました。しかし自分の文才の無さを痛感するな…。

でも第2話の総閲覧数が1万を超えたことについて喜んでいるのと共にこの場を借りて、読者の皆さんにお礼申し上げます。

引き続きこの作品の応援よろしくお願いします。

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2013-08-12 21:31:29 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:4453   閲覧ユーザー数:3725

~晋~

 

一刀たちが荊州への遠征が決まった頃、晋でも動きがあった。

 

「しばらく故郷に帰って静養したいと…」

 

陽炎(司馬懿)に謁見している葵(鐘会)が先の戦いで眼を負傷したため、しばらくの間故郷である豫州・穎

 

川に帰り静養することを申し出ていたのであった。

 

「それで貴女、故郷に帰ってどうするつもりなの?」

 

そう言いながら陽炎は葵の目をじっと見つめる。葵は陽炎に見つめられると何か心底が見られている様な気分

 

になっていた。

 

(「もしかして、自分の企みが発覚したのはないか…。いや、露見はしていないはず…」)

 

内心では自分の計画が露見したのではないかと一瞬、頭を過ったが、それを億尾にも出さず

 

「これからは片目の生活となります。剣を振る事や書を書くにも慣れるまで時間が掛かりそうなので、しばら

 

くは普通の生活をしながら、徐々に勘を取り戻していこうかと思っております。そして治った暁には再び陽炎

 

様にお目にかかりたいと思っています」

 

「そう…分かったわ。貴女が離れるのは寂しいけど、帰ってくるのを待っているわよ」

 

「では失礼します」

 

葵は頭を下げ部屋から出て行った。

 

これをずっと見ていた蒋済(白雪)は

 

「おい、あれはどう見ても葵の奴、何か企んでいるぞ」

 

自信家でもある鐘会が、先に説明したような隠居同然な生活を送るとは信じる事ができないと白雪は感じてい

 

たが、これには陽炎も当然気付いていた。

 

「それは分かっているわ。でもあの子何をするつもりかしら…」

 

「分からん…取り敢えず、梅香(郭淮)に監視させるか?」

 

「それは難しいね。葵も元々草の者、梅香を監視させると変に気付かれる可能性があるわ」

 

「取り敢えず葵も何か計画するにしても、すぐ動くとは思われない。監視するならしばらく時間経ってからで

 

もいいわ」

 

「そうか…お前がそう言うなら」

 

陽炎がしばらく様子みることを決断したのだが、これが後になって裏目になるとはこの時予想もしていなかっ

 

た。

~長安~

 

「こらっ――――!貴様ら弛んでいるぞ――――!そんな事でご主人様の身が守れるのか!!」

 

練兵場で指揮官の怒鳴り声が響き渡る。

 

それを横目で見ていた紫苑の部隊の副官でも初雪(馬忠)と初霜(張翼)は

 

「……あの訓練厳しくない?」

 

「元気印のお前が、あの訓練を見てそこまで言うか…でもそれは同感だな。拙者もあの訓練を進んで受けたい

 

とは思わないな」

 

二人は親衛隊の激しい訓練を見て呆れかえっていた。

 

そして訓練の様子を見に来た一刀と紫苑は

 

「また激しい訓練をやっているな…」

 

「それにしてもこの間、見た時よりも兵の数も少なくなっていますわ」

 

「すいません…。姉上が親衛隊隊長に任命されてから、訓練で張り切ってしまい怪我人や離脱者が相次いで出

 

てしまって…」

 

一刀と紫苑の声を聞いて、この部隊の副官である愛香(関平)は申し訳なさそうに謝っていた。

 

今回親衛隊の隊長に登用した何と愛紗であった。当初は凪たちを親衛隊隊長にする話が出たのだが、一刀がや

 

や難色を示した。

 

「それも悪くないけど、この三人は小部隊の指揮や運用に長けているから、誰か別の人物がいいと思うが」

 

「そうですね…そうなると他の人となると…」

 

「なかなか出てきませんね…」

 

紫苑や朱里も難しい表情をしながら人選に悩む。すると璃々が

 

「それじゃ、愛紗お姉ちゃんだったらいいんじゃないの?」

 

「わ、私ですか!?」

 

璃々の言葉に明らかに動揺する愛紗。

 

「ふむ…。それは悪くないかもしれぬな」

 

「どういうことだよ、星」

 

星の頷きに腑に落ちない翠が疑問の声を出す。そんな翠に星は何か意味有り気な笑みを浮かべて

 

「何、考えれば直ぐに分かることだ。愛紗がいれば主が不用意に女性関係で『間違い』を起させぬだろうし、

 

もし暗殺者が居た場合でも遅れを取らぬだろう」

 

「そうだな。そう言われると納得できるよ」

 

翠も星の答えを聞いて苦笑いしながら納得する。

 

「でも愛紗を親衛隊に使うって何か勿体なくない?一軍を率いる力量は蒲公英よりあると思うけど…」

 

蒲公英の意見は当然であったが、一刀は璃々の案を聞いて悪くないと思っていた。というのは現状、蜀軍は将

 

がある程度揃っており、愛紗自身も猛将で勿論一軍を率いる事ができる、だが一刀はこの外史の愛紗について

 

は有能な指揮官の下で兵を率いた方がより能力が発揮できるのではないかと考え、そして愛紗の名誉や過去の

 

外史等の縁を考えると他の将に付けるよりは自分の手元に置いた方が良いと思っていた。

 

一方、愛紗自身も既に親衛隊隊長に就く意志を固めていた。というのは、愛紗は桃香が旗揚げした当初から前

 

線で戦ってきたが、反董卓連合戦や荊州における呉との戦い、そして漢呉決戦などにおいて結果を上げること

 

ができなかった。その為、現状では自分の指揮能力の限界というのを感じていた。

 

そして一刀が愛紗に尋ねる。

 

「愛紗、君にとって前線に出られない事は不本意だと思う。だが俺は敢えて君に親衛隊を託したい。やってく

 

れないか?」

 

一刀は愛紗にそう告げると愛紗はじっと一刀の目を見ながら

 

「畏まりました。私はご主人様に命を救われた身、例えどんな事もあろうとご主人様の命を護ってみせます」

 

と清々しい顔で言い切り、こうして愛紗の親衛隊隊長が決まったのであった。

 

そして隊長に就任して兵士たちに対して発した言葉は

 

「お前たちの任務はご主人様を護ることだ。その為にお前たちに必要な事は、なにがあろうとご主人様を護り

 

そして生き残ること、だからお前たちを徹底的に鍛える」

 

と根が真面目な愛紗は一刀を護衛するために選抜された兵士を猛烈に鍛え始めた。

 

そして同じく親衛隊副隊長に就任した鈴々や愛香(関平)、周倉らも付いて行くのがやっとという訓練であっ

 

たので、さっき愛香が言ったように兵士たちの離脱が相次いだが、しかし残った兵は屈強の兵となっていた。

そしてその晩、一刀と紫苑、璃々、愛紗、鈴々たちの他の将に加え、それに侍女となっていた桃香と雛里も加

 

わり簡単な慰労会が行われていた。

 

「お姉ちゃん、おかわりなのだ―――!」

 

「おっ、悪い!私もおかわりだ」

 

「鈴々ちゃんに翠ちゃん、二人ともよく食べるね~。はい、どうぞ」

 

「お姉ちゃん、ありがとうなのだ!」

 

「ありがとうよ」

 

訓練でお腹空いていた鈴々や食いしん坊の翠はご飯を桃香から受け取ると喜んで食べ始める。

 

「まったく…あの二人は…」

 

それを横目で見ながら愛紗は、鈴々と翠の食べっぷりに呆れていた。

 

すると雛里が

 

「ご主人様、少しお話よろしいでしょうか?」

 

「いいよ。それで話というのは?」

 

「はい。今度の荊州遠征なのですが、桃香様と私も連れて行って欲しいのです」

 

荊州遠征の人員は既に決まっていて、一刀に璃々、蒲公英、それに愛紗たち親衛隊に加え、桔梗と夕霧(法

 

正)が参加することになり、桔梗や夕霧は

 

「あの戯けが…一発ぶん殴ってやらんと気がすまんわ」

 

「そうね、あの馬鹿を私も殴らないと収まらないわ」

 

それぞれ焔耶に対して文句を言いながら既に再会の事を考え、制裁を予告していた。

 

そして紫苑や翠や星たちは長安で留守、桃香や雛里も連れて行く予定は無く、夏侯淵の世話で長安に待機させ

 

るつもりであった。

 

雛里の話を聞いて一刀は

 

「もしかして魏延さんの事を気にして?」

 

「はい…。当時命令違反したとは言え、結果的に魏延さんだけ蜀に降れずに一人取り残された形になってしま

 

ったので…」

 

「でもそれは桃香や雛里の責任じゃないだろう?心配しなくてもちゃんと連れて来て上げるから」

 

「でも、私たちこうして生きている事を早く焔耶ちゃんに知らせて、そして温かく迎えて上げたいの。ご主人

 

様、お願いだから同行を許して」

 

桃香は一刀に魏延の真名を言っている事にも気付かず、必死な表情をして同行を懇願する。

 

「ご主人様、二人がこうまで仰っているのですから、連れて行ったらどうでしょうか?」

 

紫苑が取り成すと一刀も二人を連れて行こうと考えるが

 

「でも…そうなると夏侯淵さんの世話をどうするか…」

 

桃香や雛里を同行させてしまうと現在二人が行っている夏侯淵の世話を誰にするか悩むが、すると桃香が

 

「実は夏侯淵さんの事だけど、今日華佗さんから今日夏侯淵さんの怪我が治ったの。それで夏侯淵さんがご主

 

人様にお礼を言いたいと」

 

すると雛里が夏侯淵を連れて一刀のところに来る。

 

「一刀殿、漸く怪我が治り、その間色々とご迷惑をお掛けした」

 

「怪我が治って良かった。それでこれからどうする?」

 

夏侯淵がお礼を言うと一刀が今後の事について尋ねる。すると夏侯淵はやや困惑した表情で

 

「実はその事なのだが…勝手言い分で申し訳ないが、もうしばらくこのまま世話になることができないだろう

 

か」

 

一刀が確認の為に敢えて聞く。

 

「こっちは残ってくれたら嬉しいけど…、でも魏に帰らなくていいの?」

 

「魏か…」

 

夏侯淵は言葉を一旦切り

 

「記憶がある私であれば一目散で魏に帰るだろうが、残念ながら今の私にはその記憶がまったく無い。それで

 

も魏に帰れば、皆は私を温かく迎えてくれると思うが…今の私はそれが怖い」

 

「怖い?」

 

「ああ恥ずかしい話だが、以前桃香殿が言われた様にまだ新しい自分というのを見出すことが出来ずにいる。

 

それでこの状態で魏に帰れば、皆は私が記憶を無くしていても以前の様に接してくれると思うが、それでこの

 

まま記憶が戻らなかった場合の事を考えると不安で怖いのだ」

 

それは仕方がない事であろう。このまま夏侯淵が記憶喪失のまま帰国しても周りは知らない者で、ひょっとす

 

れば華琳や春蘭の顔を見れば記憶を思い出すかもしれないが、このまま記憶が戻らない可能性が高いだろう。

 

そうなるとそのまま記憶が無い主君の為に戦うことができるのかと色んな不安が過ってしまう。

 

そして一刀が知り得る限りでは、華琳や春蘭は夏侯淵の事を大切にしているので、記憶を失っていても見捨て

 

る様な真似はしないが、ただ夏侯淵の心情も分かっていた。

 

状況等は全く違うが一刀が最初に来た外史で、不安で仕方が無かったということに。だからそんな不安になっ

 

ている夏侯淵に一刀は優しい表情をしながら夏侯淵の不安を取り除くようにこう告げる。

「今すぐ俺の事を信頼することは難しいとは思うけど、俺は君の記憶を取り戻すまでどんなことがあっても君

 

を護ってみせる。だから安心してこの身を俺に預けて欲しい」

 

一刀の言葉には打算とか利益を考えている様な感じではなく心底から出た言葉であった。それを横で聞いてい

 

た紫苑と璃々は

 

「あらご主人様、まるで夏侯淵さんを口説いているみたいですわよ」

 

「ご主人様……また増やすの?」

 

紫苑は微笑を浮かべながら、そして璃々は態と寂しそうな表情をするが、流石にこれには

 

「待て待て、紫苑!今の言葉でどう口説いているように聞こえるんだ!?それに璃々、芸をするな、芸を!」

 

思わず突っ込みを入れてしまう。それを見ていた夏侯淵が

 

「ハハハハハ!北郷殿や紫苑殿たちを見ていると私の悩みを忘れさせてくれる」

 

夏侯淵がこちらに来てから初めて心の底から笑った。そして表情を変えて

 

「先程、雛里殿から桃香殿らを荊州に行くを望んでいる話を聞かせて貰ったが、それを何とか叶えて貰いだろ

 

うか。そしてできれば私も護衛として参加させて欲しい」

 

「夏侯淵さんが良ければ、異存はないけど…でもどうして?」

 

「しばらくお世話になると言っても無為徒食でいるのは流石に心苦しいし、一刀殿は勿論それに今まで世話に

 

なった桃香殿の恩にも多少なりとも報いたいのだ」

 

「……分かった。桃香と雛里、夏侯淵さんの参加を認めるよ」

 

律儀な夏侯淵からそう言われると一刀も断る理由も無かったので、こうして三人の荊州遠征参加が決まった。

 

「それで夏侯淵さん、遠征に参加することには異存はないのだけど、唯一つ条件があるんだけど…」

 

「何だ、その条件は?」

 

「この遠征の間、名前を変えて欲しいんだ」

 

「名を?」

 

「別に正体を隠して欲しいとは言わないが、ただ夏侯淵さんの名が魏の将として通り過ぎているんだ。夏侯淵

 

さんの存在が魏に知れると恐らく返還話が出てくる可能性が高くなる。夏侯淵さんが今の状況での帰還を望ん

 

でいない以上、余計な問題を避けておきたいんだ」

 

一刀の説明を聞くと夏侯淵は納得して、少し考えると

 

「確かにその通りだ。それではこの遠征の間、私の事を夏侯覇と名乗ることにしよう」

 

一刀や紫苑、璃々はその名前を聞いて驚いた。というのは正史では夏侯淵の息子である夏侯覇は魏内部での政

 

争に敗れ、その後身の危険を察し蜀に亡命したからである。しかし夏侯淵自身は、自分が付けた名前が気にい

 

ったのか、一刀たちの内心の驚きには気付いていなかった。

 

そして一週間後には遠征の準備を終え、一刀たちは荊州に向け出発したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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